突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
エピローグ

セローラ
 「うーん……?」

爽やかな朝、無性に眠くて仕方がない。
だけど私は自分に鞭を打つと、ゆっくり身体を起こした。

セローラ
 「ふ、あ……!」

私は欠伸をしながら部屋を出ると、リビングには大きな鏡が置かれている。

雲外鏡
 『起きたかセローラ』

セローラ
 「……おはようございます雲外鏡」

もはやその大鏡に住む妖怪は見慣れた相手になってしまった。
オカルト事件が無くなったと言っても、この世界からオカルトが消えた訳じゃない。

私はキッチンに向かうと、朝ごはんの準備を始める。

セローラ
 「あ、今日はゴミ出しの日だったわ」

私は仕方がないと、朝ごはんの準備を中断するとゴミを纏めて部屋を出る。



***



セローラ
 「ふぅ、寒くなって来ましたねー」

気が付くと季節は秋を迎えていた。
少し前まで夏だったと思ったら、暦が流れるのは速い。

美柑
 「えっほ、えっほ! あ、おはようございまーす!」

セローラ
 「ん? おーい! ツルペタヘタレー!」

美柑
 「誰がツルペタヘタレですかー!?」

今日も相変わらず、ツルペタヘタレこと美柑さんが早朝ランニングから帰ってきた。
今日も朝から元気なことで、快活に挨拶をしていたが、私のツルペタヘタレ発言に直ぐに本性を表した。

セローラ
 「やれやれ本性は相変わらずですねー」

美柑
 「うぐ……セローラ、僕はやっぱり君が苦手だよ」

美柑さんはそう言うと、私から距離を取った。
私は興味も示さずゴミ出しを終えると、背中を向ける。

セローラ
 「セローラちゃん、忙しいのです!」

美柑
 「あ……セローラ」

私は美柑さんを無視すると部屋に戻る。
急がないと、奥様達が起きてしまいます。



***



昼過ぎ、今日も平穏だ。
奥様は何やらノートパソコンの前で、なにか仕事をしているらしい。
どうやら、夏の手前から奥様がやっていたのは、新しい職を求めてのことだったようだ。

幸太郎
 「セローラ! セローラ!」

気がつけば幸太郎坊ちゃんも部屋の中を走り周り始めた。
私の名前も間違えないようになってきて、日々成長を実感してきた。

セローラ
 「はいはい、なんですかー?」

幸太郎
 「遊ぼ、セローラ!?」

セローラ
 「あの、まだお掃除の途中と言いましょうか? 遊んでいる暇は……」

しかし、この年頃の子供相手にこんな塩対応をすれば、どうなるか、それは嫌でも分かることだった。

幸太郎
 「びえええええん! やーだーーー!!? 遊んでー!!」

思いっきり癇癪を起こしてしまう。
それを見た奥様は苦笑を浮かべると。

絵梨花
 「少しだけ遊んできなさい、二人共」

奥様は口に手を当てると、そうおっしゃる。
私はこの生意気に育ちつつある幸太郎坊ちゃんを見て、溜息を放った。

セローラ
 「……了解、レスキューを求めます」



***



レスキュー、私は幸太郎坊っちゃんを抱きかかえると向かったのは常葉家だ。
昼下りの常葉家は相変わらず静かなものだった。
保美香さんがお茶を入れ、茜ちゃんが命ちゃんと戯れている。

セローラ
 「良いですか幸太郎坊っちゃん? 年下の女の子は大切にするのですよ?」


 「うー?」

命ちゃんは自分の事が言われていると分かっているのか、生えたばっかりの耳をピョコピョコ動かした。
尻尾もまだ色が薄いが生えてきている。
幸太郎坊っちゃんは命ちゃんを見ると。

幸太郎
 「うん! 命遊ぼ!」


 「えーうー」

保美香
 「あらあら、幸太郎君も、もうお兄ちゃんですか?」


 「男子三日会わざれば刮目して見よ?」

美柑
 「使う場所間違ってません?」

伊吹
 「うふふ〜♪ 茜ちゃんらしいけど〜」

なんていうか、この家庭の人達もいつも通りですねー。
私も家政婦しながら、坊っちゃんと付き合い、坊っちゃんもワガママ言い始めてちょっと苦労している。
自我が育っているんだなって感じつつ、もう少し苦労する日は続くのかな、と思った。

セローラ
 「良いですかー? 幸太郎坊っちゃん! 年下の女の子に優しくして幼馴染ポイントを上げるんですよー!?」

保美香
 「なんなんですか、その謎のポイントは?」


 「きっと、高校生になったとき、初期好感度がある程度上がっている状態に」

セローラ
 「ていうか、理想はときめき状態でスタートですけどね」

保美香
 「馬鹿げた未来予想など止してお茶に致しましょう」

保美香さんはそう言うとティーカップを並べ始めた。
私達は揃って着席すると、いつものようにお茶会を開始する。


 「あむ、今日はクッキーなんだ」

伊吹
 「これ、里奈ちゃんだね〜」

しっとり目の柔らかいクッキーは時々供される。
小学生の里奈ちゃんの得意料理がこのクッキーだそうだけど。

セローラ
 「そういえば、あれから里奈ちゃんの周りは大丈夫ですか?」


 「ん、最近不審者が出るって」

美柑
 「全く世も末ですよ!」

不審者か、美柑さんは憤慨しているが、そんなロリコンがあのアグノム娘の里奈ちゃんをどうにか出来るとは思えないけど。

伊吹
 「あ、そういえば〜、蘭さんから鏡貰ったんだよね〜」

私は鏡という言葉にピクリと眉を動かした。
しかし美柑さんは、何かを察して首を振る。

美柑
 「大丈夫、普通の鏡」

セローラ
 「どうも鏡には嫌な思い出しかないですからねー」

伊吹さん、鏡とか使うんだろうか。
言っちゃなんだが、伊吹さん化粧は勿論お洒落した所も見たことがないんだけど。
ヌメヌメお肌のお陰で、肌年齢若いのは羨ましいですけどね。


 「そういえば、奏さん退院したんだって」

奏、とは大城奏のことか。
彼女の娘、大城琴音は幸太郎坊っちゃんと同い年であり、もしかしたらお友達になるかもしれない相手だ。
でもそうか……悪魔と契約した事で幸せと引き換えに、自分の命を削った女性は、退院出来るだけ快復したのか。

セローラ
 (でもあの魔術師の話じゃ、奏さんは重い後遺症にずっと……)

私は首を振った。
奏さんはもしかしたら長くはないかも知れない。
でもそれを私が悔いても何も解決しない。
きっとあの顔の見えない魔術師は今も退魔を繰り返しているのだろう。
魔を魂に刻みつけながら、魔性を狩る存在……何故そんな刹那的な生き方ができるのでしょうね?

保美香
 「そうだ、そういえば燐さんからお菓子を頂いたかしら」

セローラ
 「旅立ち荘、あっちはあれから何も?」

保美香
 「ええ、特に問題は聞きませんわ」

セローラ
 「……そう、か」

私は天井を見上げた。
思えば私が最初にオカルトと出会ったのは、この部屋の屋根裏にあった呪いの人形だった。
あれはきっと寺田討心とは関係ないだろうけど、一体裏ではどれだけ関与していたのか。



***



里奈
 「……」

私は教室で空を見上げた。
今日も私は友達と楽しくやっていた。
今日は朝作ったクッキーを配ると皆喜んでくれた。

清水
 「常葉さん、お料理上手よねー!」

石田
 「うん、すぐにでもお菓子屋さんになれるんじゃない?」

里奈
 「私なんてまだまだだよ」

私はいつものようにこのムードメーカーの清水さんと、オカルトマニアでちょっと引っ込み思案の石田さんと一緒に笑いあった。

光輝
 「おーい! 常葉ー! サッカーやろうぜー!?」

里奈
 「え?」

清水
 「ダーメー! 常葉さんは私達と遊ぶんですー!」

里奈
 「え? え?」

教室の外からサッカーボールを抱えた新央君が呼んでいる。
一方で清水さんが私の手を取った。
こ、困った……私は相変わらずこの意思の対立に対して、均衡であらなければならない。
意思を司るポケモンだからこそ、平等に彼らを贔屓など出来ないのだ。

里奈
 「え、えと? 新央君もクッキーどう? その後サッカー付き合うから」

結局私はこの折衷案で妥協を試みるしかないのだった。



***



雷花
 「あー、暇ー」

私は今日も店番だ。
ふわふわ浮かびながら、相変わらず来客のない蘭古物商店に辟易する。

灯夜
 「仕方ないよ、骨董品なんてそんなものなのだから」

雷花
 「とはいえ、やっぱりお客が来ないことにはねー?」

私は空中で裏返ると、脚を組む。

風花
 「おい、雷花パンツ見えてるぞー?」

雷花
 「マスター以外みんな女じゃない、誰に見られて困るのよー?」

風花
 「客がいてもかー?」

私は目を見開いた。
急いで身嗜みを整えると、風花が連れてきた来客を見た。
私は直ぐに営業スマイルを思い出すと。

雷花
 「イラッシャイマセー♪」



***



講師
 「……であるから、ここは」


 「……」

私はアレから失った物を取り戻すように、大学の講義を受けていた。
上手い話には裏がある……あれは痛い目をあったものだ。
しかし刀剣類には浪漫がある。
ああ、またあんな素敵な剣に出会いたいなぁ。


 (い、いかんいかん!)

私は慌てて首を振ると、講師の話をノートに書き写していった。
私の今の頑張りが、私が教師になれるか決まるのだから、浮ついてなどいられない!



***



紺色のローブを纏った男
 「……」

俺は病院の屋上から、街を俯瞰した。
ある時を境に怪異の数が急激に下がって行っている。
恐らくあのメイドのような格好のポケモン娘がなにかしたのだろう。
俺にできる事はこの世界に蔓延る糞みたい奴らを滅するのみ。


 「討希さん、仕事は見つかった?」

討希、俺の名を呼ぶ唯一の女は音もなく後ろに立っていた。
絶世の美女とでも形容すればいいか、全身が白いその女は俺の妻だ。
若葉育美、家に居たはずだが?

育美
 「ふふ、今討希さんの考えている事を言い当てて見ましょうか?」

討希
 「……俺の仕事に関わるな、育美は悠気を頼む」

育美
 「私では役不足?」

俺は首を振る。
育美は悲しそうに目を細めた。

討希
 「お前を苦しめたくない」

育美
 「魔素汚染……貴方の側にいる限り、私は貴方の魔素に冒される、か」

妻はアルセウスとかいう神を名乗るポケモンだ。
正直神だとか、そんなものはどうでもいいが、愛した妻がポケモンだというのが問題だ。
俺の側にいる限り、俺の身体から漏れる魔素に触れ続ける事を意味する。
育美の身体は確実に魔素に蝕んでいた。
特に俺が魔術を使う時は一番危険だ。

育美
 「私は気にしませんよ、すぐにどうにかなる訳じゃありませんし」

討希
 「だが、不死ではなくなるぞ?」

育美
 「元より不死ではありません、殺せば死にます」

俺はそのブラックジョークに口を噤む。
育美はクスクスと上機嫌に笑った。

育美
 「ま、タバコを吸うよりマシでしょう?」

討希
 「……タバコは絶対にやめろ、人生を捨てたくないならな」

俺はタバコを否定はしないが、タバコを吸うやつは人生を半分捨てていると断じてやる。
タバコも旧くは魔術士が魔力を精錬する際に触媒として用いてきた。
とはいえ、これは単純に俺の持論だ。

討希
 「ここから西に10キロ程、魔術反応がある」

育美
 「魔術師ですか?」

討希
 「さぁな、だが……どの道狩るべき相手なら狩る、それだけだ」

俺はそう言うとビルから飛び出した。
その横に妻が、並び立つ。
妻はウインクすると先行した。

育美
 「晩ごはん用意してますからー! 今日はあなたの好きな肉じゃがですよー♪」

育美はそう言うと目の前から消え去った。
俺は呆然としながら苦笑する。
恐らく世界一強くて図太い女だろうな、育美は。



***



クチート
 「オーホッホッホ♪ 何をやらせても様になる! やはり私は天才かしら♪」

ロコン
 「むうー! まぐれ勝ちなのだー!」

私はついにゲームでロコンさんに勝利した!
ロコンさんは顔を真っ赤にしながら、反論するが私は勝利に酔いしれた。

クチート
 「メリーさんも、私の勝利讃えてくれますわよね!?」

私は修繕したメリーさんを抱きかかえた。
メリーさんはあれから一度も動く事はなかったけど、私はメリーさんの友達だった。

ロコン
 「もう一回勝負なのだー!」

クチート
 「オーホッホッホ! 何度だって同じことですのよ!?」


 「はいはーい、今日はお終い! ご飯だよー!」

おっと、燐さんがタイムアップを宣告した。
ロコンさんは悔しそうな顔をしていたが、これは勝ち逃げになってしまいましたねー。

クチート
 「メリーさん、一緒に行きましょ♪」

私はメリーさんと一緒にキッチンに向かった。
今日も旅立ち荘は平穏だった。



***



リン!

空に月が浮かぶ日本庭園、その縁側にやんごとなきお方は鎮座していた。

ツクヨミ
 「これでしばらくは世が乱れる事もないだろう……」

ラビ
 「はい、しかしこの世界は不安定です……PKMの出現はオカルトを強く刺激してしまいました」

ツクヨミ
 「その事なら、PKMの神がどうにかするであろう?」

私はやや、そっちに関しては信用できなかった。
PKMの神々は皆、地上に堕ちている。
力は本物だが、信用していいものか。

ツクヨミ
 「して、ラビ……そなたこれからどうする?」

ラビ
 「とりあえずセローラの所に行こうかと」

ツクヨミ
 「ふふ、随分気に入ったようだな」

ツクヨミ様は扇子で口元を隠すと雅に笑った。
神が人に何もしてあげる事はできない。
でも例外がある、それがPKMだ。
人の神である私達はPKMに対してはその制約が通用しない。
だから居心地が良いのかも♪

ラビ
 「ふふ、私セローラの御目付役ですから♪」



***



セローラ
 (……なんだか時が過ぎるのって速いですね)

私は夜、寝室でベットに包まるとこの変わらない日々を想った。
あれからオカルト騒ぎはない、ただあるのは奥様や幸太郎坊っちゃんと過ごす日々だけだ。
日々大きくなっていく幸太郎坊っちゃんは見ているだけでも大変だ。
でも、これにやりがいがあるから私は家政婦であり続けられる。

セローラ
 「……ふふ、おやすみなさい」



突ポ娘外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

エピローグ 完


KaZuKiNa ( 2021/08/01(日) 18:49 )