突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
最終話 霊視家政婦

突ポ娘外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

最終話 霊視家政婦



セローラ
 「……この世界についてですって?」

全身を黒尽くめで覆ったビジネススーツの男。
その目は冷たく純粋だった。
ただの人間なのに、その気配は恐ろしい程オカルトに近い雰囲気だった。

男性
 「そう、この世界についてだ、君の率直な意見が聞きたい」

セローラ
 「そうですね……私にとってこの世界は細やかな幸せですよ」

男性
 「ほう?」

私は未だ名前も分からないこの男性を睨みつけた。

セローラ
 「私は正義とか、人道とかって、別にどうでもいいんですよねー、重要なのは自分、自分の納得こそが全て、この意味分かります?」

男性
 「分からなくはない、僕にとっても、重要なのはきっとそれなんだろう」

男性は帽子を手に取ると、哀しい顔をした。
その視線はラビに注がれる。

男性
 「八上姫、君は……あくまでオカルトでありながら、オカルトの自由を否定する?」

ラビ
 「ラビよ、その旧い名前は出来れば使わないで! 私はオカルトの在り方を否定はしない、でもそれは今の世を混乱させるわ!」

オカルト、良いオカルトに悪いオカルト。
冷静に考えれば、とっても不思議だ。
まるでそれはしっかり線引するラインがオカルトにはあるのか?
PKMにそんな線引はない。
私は善でも悪でもないつもりだ。
自分の為になるなら善にもなるし、悪にもなるだけ。
そう、悪いPKMが生まれついての悪じゃない。
オカルトだって同じだ、ラビは悪いことをした。
でもラビは悪いオカルトとは思えない。

セローラ
 「……私はセローラです、そろそろ名前を教えてくれません」

男性
 「寺田討心(てらだとうしん)、つまらない名前だろ? 寺田は寺生まれから、昔っから目に見えないモノを封ずるって家系さ」

セローラ
 「差し詰め寺生まれのTさんですか?」

私はそう突っ込むと、男性は皮肉めいて笑った。

寺田
 「そうだよ、僕は昔から見えないモノが見える体質だった……だからずっと疑問だった、どうして僕はオカルトが見えるのだろう? どうしてオカルトは封じなければならないんだろうって?」

それは正に私と同じ心境ですね。
美柑さんはきっと正義や義憤で戦っている。
でも私は違う、義理を少々、打算が大部分。
ただ、自分の周りで騒ぎ立て、家族や大切な人に迷惑をかける変な奴らをどうにかしたい、それだけだった。

セローラ
 「だからって……だからって何故オカルトに手を貸すのですか?」

寺田
 「……僕はある友と誓った、必ずこの世界を昔のような神が敬われ、妖怪を畏れられる世界にするって」

ラビ
 「友? ですって?」

セローラ
 「……っ」

私はずっと気になってた。
あの男性の周り、私には見えないが、なんかやばい気配が漂っていた。
あの悪魔少女なんかよりやばい。
私が彼に飛びかかった時、見えない力に弾かれた。
寺田はあくまで人間だ、しかしその友とは?


 『討心、もういいだろう?』

ラビ
 「っ!? この気配!?」

セローラ
 「くっ!?」

突然、声が響いた。
その瞬間、ゾッとするように気配がその場に渦巻き、そして世界が極彩色に彩られた。

セローラ
 「この気配獏雪老!? いえ……ツクヨミ様!?」

それは神の気配だった。
世界は一瞬で、地獄のような世界に変わり、周囲には人々の気配もビルの街並みも消えてしまった。
そう、まるであの獏雪老のいた世界、黄泉平坂に近い。

寺田
 「紹介しよう……我が友ヒルコ、君たちに分かりやすく言えばヒノカグヅチ、の方がいいかな?」

ヒルコ
 「よい討心、我の説明は」

ラビ
 「ヒルコ……火の神にしてイザナミノカミ最後の子……」

ヒルコ
 「……そなた我を知っているのか?」

ヒルコと呼ばれた神は、全身が燃え盛る火柱だった。
火柱が人型を形作り、それが意思を持って蠢く。
ラビはその神気に充てられ、後ろに蹌踉めいた。

ラビ
 「貴方よりずっと後の神様だけどね、口伝で聞いた程度ではあるけど、知っているわ」

寺田
 「彼女はオオクニヌシと繋がりがある」

ラビ
 「ホホホ、出雲は良い所よ♪」

ラビは頑張って戯けているが、無理しているのが丸わかりだった。
まぁ無理もないか、私だって目の前にいる火柱がヤバいのは丸わかりなのだから。

ラビ
 「けど、ヒルコは死んだ筈、父イザナギによって……」

ヒルコ
 「しかり、故に我肉を持たず……図らずして母を冥府の神にしてしまった罪はこの身に刻む」

寺田
 「だが、その神産み伝説があって、我々はいるのだ」

寺田がそう言うとヒルコは頷いた。
とりあえず格が違うってのが嫌って程わかる。
コイツが元凶……、無茶苦茶な相手ね!

セローラ
 「ヒルコさん、貴方は何故、この世界を混乱させるんです!?」

ヒルコ
 「? そなた異界の者か? 奇妙な音がする……」

セローラ
 (やばい!? 感性がまるで違う!? ツクヨミ様とは別ベクトルで超次の存在だ!?)


 「カグヅチ……あまり彼女を苛めないでもらいたい」

ラビ
 「御館様!?」

突然、異なる神気が側に現れた。
私は驚愕する。
異次元の美しさを誇る和装貴族が私の肩を抱いていたのだ。

セローラ
 「ピヤァー!? ツクヨミ様ー!?」

ツクヨミ様は相変わらず中性的で美しい顔立ちを三日月の充てがわれた豪奢なセンスで隠すと、冷たい視線をヒルコに送る。

ヒルコ
 「ツクヨミ……その異界の少女の奇妙な音の正体は貴様か」

ツクヨミ
 「この子は私のお気に入りでな、無闇に傷ついて欲しくないだけよ」

私はツクヨミ様とヒルコを交互に見た。
どうやら因縁浅はからない相手のようだけど。

ツクヨミ
 「カグヅチ、愚かな真似はよせ」

ヒルコ
 「愚か? 神が畏敬を持つ事は愚かか!?」

ヒルコの炎が燃え上がった!
ツクヨミ様は私を庇うと、リン、と鈴が鳴った。
直後、私はツクヨミ様ごと、瞬間移動してヒルコの炎から難を逃れる。

寺田
 「ツクヨミノカミ、現状維持では世界は何も変わらない……変えようとする意思が必要だ」

ツクヨミ
 「人の子よ、それは私の求めではない……人知れず語られるそんなオカルトで充分だ」

セローラ
 「ツクヨミ様って謙虚なんですねー、憧れちゃうなー」

ラビ
 「こらセローラ! 何ボケているの!?」

私は顔を赤くしながら、ツクヨミ様から身体を離し、パンパンとスカートの裾を叩いて姿勢を正した。
正直シリアスはセローラちゃんが持ちません!
後ツクヨミ様はナチュラルにセローラには効くのです!

ツクヨミ
 「フフ、相変わらず愛いらしいの」

セローラ
 「はわわ! 恥ずかしすぎてつい!?」

ヒルコ
 「ふん、月経を司るその力は厄介だな」

一方でヒルコは少し恨めしそうだ。
ツクヨミ様の力?
月経って……たしか月の暦?

ツクヨミ
 「母イザナミを焼いた忌むべき炎、くらえばただでは済まん」

確かにヒルコの放った炎は異常な火力だった。
だがそれ以上の意味がヒルコにはある?

ラビ
 「セローラ、ヒルコを止めれば、寺田は無力よ!」

セローラ
 「でしょうが、あれが楽な相手ですか?」

ツクヨミ
 「気を付けよ、カグヅチは概念を焼くぞ、時間も空間さえもやつの前にはただ灰と同じだ」

セローラ
 「うげ、ポケモン的に言えば型破りの特性みたいな?」

ラビ
 「加えて守る身代わり無効ってとこね!」

ラビがメタい発言で情報を補足する。
あー、これ所謂禁止伝説みたいな物じゃないですかやだー。
セローラちゃん貰い火だけど、食らったら絶対ヤバイやつ。
多分一瞬で灰になるんでしょうねー。

ヒルコ
 「止める? それは我とて同じ、汝らを焼き滅ぼし、現世を火の地獄へと変えよう! さすれば人の子らは我らを思い出す! 再びオカルトは畏敬を持って迎えられよう!」

寺田
 「そうだ。やろう、僕たちがオカルトのあるべき新世界を想像するんだ」

ヒルコの願い、それに寺田は賛同する。
コイツらやっぱり頭おかしいわ。
そのためなら、どんな犠牲が出ても構わないって言うのだから。
私はなるべくなら事なかれ主義だ。
でも、その地獄に茜ちゃんや幸太郎坊ちゃんが含まれているのがいただけない。

セローラ
 「へい! さっきから聞いてりゃやりたい放題! そんな事よりもっと楽しい事したくないですか!?」

ラビ
 「セローラ? 貴方いきなり何を?」

セローラ
 「私は楽しい事大好き♪ どう〜? 私と楽しい事しない〜?」

私はあえて誘惑するように、痴女っぽく振る舞いヒルコさんに近づく。
ヒルコさんは訝しんでいた。

ヒルコ
 「……楽しい事?」

セローラ
 「うふふ〜、ヒルコさんだって楽しい事見つければ、新世界の創造とか、どうでも良くなりますよー?」

ヒルコ
 「……そうか、だがまず汝が信じられん! 灰へと還れ!」

セローラ
 「ギャース!? 諸行無常!?」

リン!

ヒルコさんは私を信用しなかった。
容赦なく炎が目の前に広がると、鈴の音が鳴り私はツクヨミ様の下へと難を逃れる。
うぅ、服の一部が炭化してる……。

ツクヨミ
 「今のはなんぞ? そなた奇天烈な行動は程々に」

やんごとなきお方のツクヨミ様は、私の誘惑が理解できないご様子。
くそー、神様だって絆せば簡単に対応出来ると思ったのに。

セローラ
 「あの神様絶対愛情に飢えてるって思ったもん! ちょっと優しくされたらコロって落ちちゃうタイプ!」

ラビ
 「陽キャギャルに優しくされたら、簡単に恋しちゃう陰キャ男子か!?」

セローラ
 「いえいえ!? アレはママに甘えたいタイプ! バブみがいるんですよ!?」

ツクヨミ
 「お主ら何を言っているのかさっぱりわからんぞ?」

所詮我々16歳同盟に、見た目は麗しくても精神は老人のツクヨミ様ではついていけないらしい。
ジェネレーションギャップ1000年位ありそうだけどね!?

ヒルコ
 「……ナウいギャル、か」

セローラ
 「微妙にこっちも古い!? ていうか平成か!?」

思わずノッてくれたのかヒルコさん、平成初期のような言動をしてくれる。
思いっきり死語なんだけど、神様的にはそんなに昔でもない?

セローラ
 「ねぇーこんな怖い話し知ってます? 老害どもって20年前が、ピコピコ鳴ってるファミコン世代なんですよー? 現実はゲームキューブだってのにねぇ?」

ラビ
 「キャーこわ〜い!」

ツクヨミ
 「馬鹿な……20年前はまだポンの時代では!?」

ヒルコ
 「いや、SG1000の筈!?」

ツクヨミ様、ポンはもう半世紀前です!
後、ヒルコさん! 貴様○EGA信者か!?

寺田
 「ヒルコ、そうそう終わらせよう、このままでは君が精神汚染されてしまう」

セローラ
 「セローラちゃん別に精神汚染狙ってませんよ!?」

ラビ
 「セローラいる所に、まともな精神じゃいられない……きっとセローラ菌の仕業か!?」

セローラ
 「私菌類!? キノコの仲間!?」

ヒルコ
 「汚物は消毒する!」

ヒルコさんの身体が燃え上がる。
炎が放射状に放たれた!
私はラビと一緒に飛び上がる。

セローラ
 「危な!?」

ラビ
 「アチチ!?」

ヒルコさんの炎はまるで生きているかのように、飛び上がった私達を追ってくる。

セローラ
 「煉獄!」

私は炎に向かって煉獄を放った。
普通なら相殺できる、セローラちゃん火力だけは一線級ですから!
しかし、私の放った炎はヒルコさんの炎に侵食されるように飲み込まれた。

セローラ
 「ち!? これが概念を焼くって意味ですか!?」

この極彩色空間が朱に染まると、燐が飛び交った。
煉獄が灰に変わる。
物質でもないのに、あらゆる概念を灰に変えるってこういう事ですか。

セローラ
 「こっちはどう!?」

私は鬼火を放った。
鬼火は無防備なヒルコさんを襲う。
しかし、ヒルコさんはその炎の腕で振り払うと、鬼火は消滅した。

セローラ
 「……やっぱり火傷しませんか」

炎タイプのポケモンには鬼火は通用しない。
ヒルコはその火柱が人型を成した外観通り、火傷なんて概念はないようだ。
逆に向こうの炎は何でもかんでも燃やしてしまう。
炎タイプの私でも火傷しそうですね。

セローラ
 「ラビ! どうするんです!? 流石にセローラちゃんでも相性悪いですよ!?」

ツクヨミ
 「私が時間を稼ごう」

リン!

再び鈴が鳴った。
私達はヒルコさんの後ろに瞬間移動している。
ツクヨミ様は、ヒルコさんと対峙した。

ヒルコ
 「ち! その時間、焼き切る!」

ツクヨミ
 「カグヅチ、君の炎は月には届かんよ」

ヒルコの炎はまるで蛇のように這いずりながら、ツクヨミ様を襲う。
しかしツクヨミ様は何度も瞬間移動し、難を逃れる。
その様はまるで舞を踊るかのようだ。

セローラ
 「すごい!?」

ラビ
 「けど、まずいわ! ツクヨミ様は空間を取れてない!」

セローラ
 「空間?」

ラビ
 「神は領域を支配するの! 前一瞬でツクヨミ様の前に召喚されたでしょう!?」

私はあの古い日本の庭園のような場所に召喚された事を思い出す。
あの時、いきなり空に月が浮かんでいたり、気がついたら元の場所に戻ったりしたけど、あれが神の領域?

ラビ
 「ヒルコが空間を握っている限り、ツクヨミ様が有利にはならない!」

セローラ
 「神の戦いは空間の削り合いですか……!」

それはそれで壮絶で意味不明ですね!
兎に角ヒルコさんがツクヨミ様に気を持っていかれている内に妨害でもなんでもしてみますか!

セローラ
 「どっらぁぁ! 後ろがお留守ですよー!?」

ヒルコ
 「!?」

ヒルコさんが後ろを振り返る。
私は煉獄をヒルコさんに放った!
だが、ヒルコさんは謎の力で炎を弾く。
くそ!? 炎以外にエスパー的な力まであるんですか!?

寺田
 「……少し、静かにしたまえ……禁!」

寺田さんは虚空に印を刻むと、私の身体が硬直してしまう。
金縛りだった、ただの人間とはいえ、こんな力があったんですか……!?

ヒルコ
 「後顧の憂いは断つ!」

ヒルコさんは動けない私に炎を放った。
炎は私を包むと、全てを焼き尽くしてしまう。
それは炎の身体も、ゴーストの霊体もお構いなしだ。
そこには一瞬で炭化した『私』がいた。

セローラ
 「……取った!」

ヒルコさんは顔に?を浮かべると、自分の胸元を見た。
その時、寺田さんもヒルコさんも、俄には信じられなかっただろう。

ヒルコ
 「な!? 何故異界の子が!?」

ラビ
 「私の事、忘れて貰っちゃ困るわよね!?」

そう、ラビだ。
ここまでの漫才も、布石も全て演じてきた。
ラビの操る幻術は神さえも騙して見せたのだ。



***



ラビ
 「いい? ヒルコは別名火之迦具土、その名の通りの炎神よ、炎を焼く炎の使い手」

それは少し前、安全圏でツクヨミ様が囮になりながら、ラビが幻術をばら撒き、最後のブリーフィングを行っていた。
ヒルコさんは炎の最高位の神だという。
その力はポケモンで言えばホウオウやレシラムに類する力と推測できる。
当然正攻法じゃセローラちゃんには勝ち目がない。

ラビ
 「神様はね? 不死ではないの、絶対の存在でもない……過去何度も人の手によって神殺しはされてきた……でも、それは簡単な事じゃないわ」

セローラ
 「常々不思議なんですが、あんな災害そのものみたいな存在がどうして、歴史の表に出ないのでしょうか?」

ラビ
 「神はね? 施しも制裁もしないの、ただ信仰によってその存在を成り立たせる……少し残酷だけどね、神って所詮は偶像なのよ」

セローラ
 「偶像ですか、あのヒルコさんって、やっぱり拗らせてますね」

ラビ
 「……ヒルコは一度滅されている……故に肉を持たない……だけど、魂は存在するわ」

私は静かに霊視した。
ヒルコさんの炎の身体には魂は見えない。
でも、もっと精度上げて、見えないものを見ようとすると、その先に純粋な光りを見た。

セローラ
 (ヒルコさん、あんなに美しい魂をしている……純粋なんだ)

私はそれを見ると悲しくなった。
ランプラーは純粋な魂を嫌う。
悪どく汚れた魂を燃料にして生きる種族だ。
だから、苦しくなった。
ヒルコさんは、ただ寺田さんのためにその力で世界を壊そうとしているんだ。

ラビ
 「セローラ、こんな酷な事をお願いするのは忍びないけれど、お願い! ヒルコを止めて!」

セローラ
 「……クス、ラビ、終わったらおっぱい揉ませてもらいますからね♪」

私は微笑を浮かべた。
ラビはキョトンとした後、恥ずかしそうに胸を隠した。
私はそっと静かに、でも大胆にヒルコさんに近づいた。
ヒルコさんが後ろの虚空を焼く、幻影の私が丸焦げになった。
でも、その瞬間私は意を決して、ヒルコさんの胸に手を差し込んだ。

ヒルコ
 「な……が!?」

ヒルコさんが悶絶する。
ヒルコさんの身体は炎というより、高次元のエネルギー体と呼べる物だった。
故に触れる時は熱くなかった、ただゆっくり私の腕がヒルコさんの中へと入り込んだ。
私の指がヒルコさんの魂に触れている、その苦しみは神といえど耐えられない。
火柱そのもののヒルコさんは言ってみれば超強大な霊魂だ。
そう……それはランプラーの、私のご馳走、霊魂なのだ。

セローラ
 「ヒルコさん、貴方に恨みはありません……でも私だって大切な物とかあるんですよ」

ヒルコ
 「大切な、もの……?」

セローラ
 「……ごめんなさい、煉獄!」

私は両手に煉獄の炎を集めた。
ヒルコさんの魂が燃え溶けて、燃料に変わっていく。
私の中にヒルコさんが流れてくるのがわかる。

ヒルコ
 (そうか、異界の子……そなたが守りたいもの、それは未来、か)

セローラ
 「っ!?」

ヒルコさんの声が魂に響いた。
プライバシーを覗かれ、私は自分を抱きしめる。
眼の前の火柱は魂を失うと、あっさり霧散した。

寺田
 「な!? 嘘だろう? ヒルコ? 貴様ー!?」

寺田討心という男は、ここまで実に虚無的だった。
でも今は激情に顔を歪め、私に襲いかかってきた。
私は寺田さんに押し倒される。

寺田
 「よくも! よくもヒルコを!?」

セローラ
 「ッ! 甘えるんじゃないですよ!?」

私は寺田さんを蹴り飛ばす!
私はヒルコさんの魂を吸収して、ヒルコさんの記憶を見てしまった。
本来ならありえない、イレギュラーな現象だった。
だが、その苛立ちから放たれた炎は、私の炎じゃなかった。
炎は生きているように全てを焼き、けれど寺田さんだけは焼かなかった。

寺田
 「こ、これはヒルコの炎!?」

セローラ
 「はぁ、はぁ……! 寺田さん、貴方本当はオカルトとかどうでもいいんですね、本当はヒルコさんの世界を創りたかっただけ」

寺田
 「!? き、君は何を……?」

寺田さんは核心を突かれると、後ろに後ずさった。
私は皮肉めいて笑った。
ヒルコさんが教えてくれたんだ、ヒルコさんは寺田さんのために力を奮っていた。
そうすることで友の為になると思ったからだ。
以下にして寺田討心と、ヒルコが出会ったのか、私には分からなかったが、ヒルコさんの想いが痛い程、私に伝わってしまった。
だけど、それは矛盾だった。
寺田さんはオカルトを手懐け、オカルトをばら撒いていた。
オカルトがかつてのように畏怖の対象になれば、神であるヒルコさんも再び信仰される。
けれど、それは悪役を生み出す事だった。
だから私と出会ってしまった。

ヒルコ
 (セローラ、我は過ち犯した……そなたの大切なモノを危険に晒す所だった)

セローラ
 「ふん……寺田さん、もし友達の事を思うなら、そっとしてあげなさい」

私はヒルコの声を無視した。
ヒルコの純粋過ぎる魂は中々消化出来ない。
ていうか、私の方が腹を下しそうで怖い位だ。
それでもその内、私の中にヒルコさんは完全に融けるだろう。

寺田
 「ヒルコを忘れろ? ふざけるな! 貴様がヒルコをやったんじゃないか!」

セローラ
 「ふん!」

私は思いっきり寺田さんにヘッドバットをかました。
この独善的な物言い、非常に嫌いですね!

セローラ
 「甘ったれんな!? アンタがそんなくだらないエゴのために、どれだけ罪のない人々を傷つけたと思っているんですか!? ヒルコさんがそれにどれだけ心を苦しめたと!?」

寺田
 「う、あ……ヒルコが? ああああ!?」

寺田さんは力なくその場に蹲ると、絶望した顔でそのまま地面に崩れ去った。
そのまま、ヒルコが張った結界は脆くも崩れ去っていった。



***



ポツポツ……ザアアアアア。

美柑
 「アチャー、雨が降って来ましたよ?」

あの後、寺田討心は全てを失い、生きる気力を失った。
とはいえ、寺田討心がやろうとしたヒルコの為の新世界創造は失敗に終わり、彼はもう立ち上がれなかった。
警察もオカルト事件を立件することなんて不可能だろう。
寺田討心は罪には問えない。
でも、ヒルコを失った罰は相応に効くだろう。

セローラ
 「はぁ……疲れた」

私はクタクタになりながら、傘を開いた。


 「家に帰るまでは安心しちゃだめよ?」

茜さんは気がついたらビルの外にいたらしい。
特にオカルト関係には気がついていないのか、平常運転だ。
美柑さんも取り越し苦労というか、無駄に被害を受けた感じですね。
はぁ、あのパッツンボディを早く犯したい。
もう私も全てを投げ捨ててしまおうかしら?

ラビ
 『ステイ、ステイよセローラ?』

セローラ
 「……ち」

ラビは私の隣りにいた。
ツクヨミ様はいつの間にか居なくなっていた。
ラビはこの後、事後処理に当たるらしい。

ラビ
 『セローラ、今回は本当にありがとうね?』

セローラ
 (ただ、降りかかる火の粉を払っただけですよ)

私はそう言うと、少しだけ火の粉を側面に飛ばした。
すると、車が水面を走り、水飛沫を飛ばしてくる。
しかし火の粉は水飛沫に当たると、炭化して地面に落ちた。

ラビ
 『それ、どうなってんの?』

セローラ
 (私が聞きたいです)

私はヒルコさんを食べた事で、ヒルコさんの炎の特性を得てしまった。
神様からしても異端の出来事らしいが、まぁ一時の事で、その内この特性は消滅するだろう。
ヒルコさんの声もあれからもう聞こえない。
いや、食べた燃料が意思を持つとか神様マジパないって思うけど。
因みにヒルコさん、正式名称はヒノカグヅチだけど、アレ分霊っていうらしい。
本物の本体は今も冥府にあって、カグヅチを祀る神社に分霊が複数あるらしい。
つまり、あんだけ無茶苦茶な存在でも、所詮はヒルコさんの身代わりなのだ。

セローラ
 「はぁ、一週間位休みたい」


 「セローラ、本当に変ね」

美柑
 「セローラが変なのはいつもの事では?」

セローラ
 「ちょ、二人して酷い!?」

とはいえ……こうして街に蔓延っていた一連のオカルト事件は幕を閉じた。
もうこれ以上オカルトとかいう訳の分からない奴らに平穏を脅かされる事も無いでしょう。
セローラちゃんは正義の味方ではないのです。
ただ霊の視える家政婦に過ぎないのですから。



突ポ娘外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

最終話 霊視家政婦 完!


KaZuKiNa ( 2021/08/01(日) 18:47 )