突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第10話 オカルト 後編

セローラ
 「ふう、電車移動って疲れますねー」

私達は電車に乗り、ビジネス街へとやってきた。
いくつものビルがまるで摩天楼のように聳える世界は、人の数も膨大だ。
一時魂を見る視界に切り替えれば、夥しい数が密集している事が分かる。


 「ご主人様の仕事場はあっち」

茜ちゃんは、駅を出ると迷うことなく歩き出した。
私はその後を追うと。

セローラ
 「茜ちゃん、馴れてますね」


 「昔、来たことあるから」

美柑
 「あの時は無茶苦茶でしたねー、茜さん電車の使い方も分からないんだから、主殿の臭いを頼りに辿り着きましたからね」

美柑さんはそう言うと苦笑する。
恥ずかしい記憶なのか、茜ちゃんは少しだけ頬を赤くした。

セローラ
 「ええ? そんな犬じゃあるまいし……?」


 「覚えてない……」

美柑
 「あはは、あの時の茜さんはまだ、野性味ありましたからね?」

野性的な茜ちゃんって何それ!?
私の知る茜ちゃんは人見知りだけど、野性的ではなかった。
美柑さんは私より茜ちゃんとの付き合いも長い。
もし、私がそんな茜ちゃんの頃にこの世界に召喚されていたら、少し羨ましいなと思えた。

美柑
 「それにしても暗くなってきましたね?」

美柑さんは空を見上げると、空は暗雲が立ち込めていた。
一応私達は傘を携行していたが、雨は出来るなら回避したい物です。


 「見えた、あそこ」

茜ちゃんはあるテナントビルを指差すと振り返った。
さて、目的はもうすぐ達成ですね。

美柑
 「?」

ふと、隣を見ると美柑さんが首を傾げた。

セローラ
 「どうしたのですか?」

美柑
 「いや、何か妙な気配を感じたというか……」

セローラ
 「え?」


 「ふたりとも、早く」

茜ちゃんが、急かすと私達は直ぐに追いかけた。
ビルの前に辿り着くと、自動ドアを潜る。
そこで、茜ちゃんは足を止めた。

男性
 「おや、これは失礼」

それは全身を黒尽くめにした人間だった。

セローラ
 (なに? まるで葬儀屋ね……悪趣味にも見えるわ)

入り口でかち合ってしまった私達は、道を譲ると、黒尽くめの男性は入り口を出る。

男性
 「これはこれは、お美しいPKMの皆さん、御機嫌よう」

黒尽くめの男性は鍔付き帽子を取り、会釈するとにこやかに笑った。
その手にはトランクケースが持たれており、商談だったのだろうか?

だが、その瞬間、ラビが叫んだ!

ラビ
 「セローラ! そいつを逃しちゃ駄目!!」

突然、ラビがその場に出現する。
ラビを見た黒尽くめの男性は目を細めた。

男性
 「オカルト……?」

セローラ
 「ど、どういう事です!? か、彼は人間ですよ!?」


 「えと、これって?」

美柑
 「茜さん、急いで主殿の下に!」

状況を理解していない茜ちゃんはラビやオカルトの事をほとんど知らない。
美柑さんは茜ちゃんを護るように立ち塞がると、茜ちゃんをビルの中に誘導した。

男性
 「そうか……最近僕が配置したオカルトが消されていったのは、君たちの性か……」

男は怠惰な表情でそう言った。
しかし、それはどこか私達を見下していた。

ラビ
 「やっぱりアンタね! この街に大量のオカルトを放ってるのは!?」

セローラ
 「ちょ、ちょっと待ち!? ラビさんや!? なんでただのモータルが、オカルトを使役出来るんですか!? 中には人食い鬼なんてのも居たはずですよ!?」

私は極めて常識的にそれを疑った。
だが、ラビは至って真剣だった。
そして私の常識を簡単に崩すように、男性の後ろにあるオカルトが出現した。

悪魔少女
 「クスクス♪ お仕事お仕事♪」

男性
 「もう終わったのかい?」

まるで幼いサキュバスのようなオカルトはビルの中から出てきた。
そして黒尽くめの男性に甘えるように抱きついた。
黒尽くめの男性はそれを優しく笑って、頭を撫でた。

セローラ
 「仕事? まさか!?」

私は直ぐにビルの中を霊視する!
人の魂が集中するエリアに私は、茂さんと茜ちゃんの魂を確認した。

セローラ
 「美柑さん! 急いで茜ちゃんを追って!」

美柑
 「わ、分かった!」

美柑さんも同時に気付いたようだ。
直ぐに霊体化して、上に昇った。

私はまだ、意味不明だが一つだけ分かった事がある。

セローラ
 「あ、貴方……とても綺麗な魂をしています……まるで人間辞めたように!」

男性
 「PKM……何故、君たちは許されるんだ? オカルトは許されない……この世にあってはいけない、そんなの不公平じゃないか」

ラビ
 「だからって! ここまで積み重ねを無視して、オカルトの均衡を崩して、どうする気なの!?」

私は深呼吸すると、ラビを制する。
ラビは人間に手を出せない、神樣のルールだそうで、それはツクヨミ様も同様らしい。
神樣は見るだけで、施しも懲罰も与えられない。
だから、私が頼られた。

男性
 「もう少し仕事してもらえるかい?」

悪魔少女
 「うふふ、あのPKMを相手すればいいのね?」

悪魔少女は美柑さんを追って行った。
私は舌打ちする、ここで煉獄ぶっ放してもいいけど、流石に街中で暴れるのはやばい!

セローラ
 (くそう! オカルトは普通の人には見えないから、向こうはやりたい放題! 一方私達は技一つ使うのにも神経使うってのに!?)

私は美柑さんを信じるしか無かった。
私は私で、この黒尽くめの男性を捕まえる事に専念する。

セローラ
 「とりあえず! 一旦捕まえる!」

私は黒尽くめの男性に飛びかかった。
これでもPKMですから、ただの人間には負けませんから!

セローラ
 「ふんぎゃ!?」

しかし、私は何故か男性の目の前で見えない壁に遮られた。

男性
 「くく……一つ聞きたいPKM」

セローラ
 「な、なにを……?」

男性
 「君はこの世界をどう思う?」

セローラ
 「は?」



***



美柑
 「くそ!? こんなタイムリーなの、アリですか!?」

僕は茜さんを追いかけると、しかしそこは異次元だった。
圧倒的な妖気が立ち込め、パソコンが無数に置かれたワーキングフロアは、人の気配がなくなっていた。
それは、主殿も茜さんの気配もなくなっていた。

美柑
 「だーもう! 何処ですかー主殿ー!?」

悪魔少女
 「クスクス、PKMね?」

僕は妖気に警戒していると、目の前に悪魔のような少女が現れた。
僕は盾を構え、警戒する。
その人ならざる者の目は、僕を捉えていた。
怖い、僕の身体はガタガタ震えている。
でも、もう泣き言なんて言ってられない。

美柑
 「主殿をどこにやったー!?」

僕は悪魔少女叫んだ。
明らかにポケモンではない、オカルト……正体不明の存在だ。

悪魔少女
 「私は楽しい事が好きなの♪ PKM、楽しませてくれる!?」

悪魔少女は羽を広げると、空を踊った。
闇の玉が、悪魔少女の周囲に出現した。

美柑
 (悪!? ゴースト!? どっちにしろ、当たると不味い!)

僕はその闇の玉をポケモン風に捉える。
当たると不味い、そう考えた僕は盾を全面に押し出す。

悪魔少女
 「あはは! もっと! もっとよ! この世界は変わるわ!」

悪魔少女は狂気的に笑うと、闇の玉が軌跡を描きながら、僕に放たれた!

美柑
 「キングシールド!」

僕はそれらを盾で防ぐ。
闇の玉は、盾にぶつかると消滅する。
悪魔少女は怪訝な表情をした。

悪魔少女
 「?」

美柑
 「いまだ! はぁ!」

僕は抜刀すると、聖なる剣で斬りかかった!

ザシュウ!

僕の聖なる剣は鋼鉄も切り裂く。
その威力を持つ、剣が悪魔少女を切り裂いた!
しかし、悪魔少女からは血は噴き出さない、代わりに闇が噴き出した!

悪魔少女
 「おのれ!」

美柑
 「手応えあり!」

しかし、悪魔少女が手を振ると、その場が凍りついた!

美柑
 「くっ!?」

僕は咄嗟に飛び退いた。
地面から尖った氷柱が無数に飛び出し襲いかかってくる!

美柑
 「この!」

僕は蹴りで逆さ氷柱を蹴り砕く。
今まで出会ったオカルト達と比べると技が多彩だ。
でも、戦える……震えを押さえれば、勝てない相手ではない。

悪魔少女
 「このこのこの!」

悪魔少女はデタラメに闇を放った。
闇は氷結地獄と化したオフィスを易々と切り裂いていった。

美柑
 「皆を解放してください! そうすれば僕もこれ以上は危害を加えませんから!」

悪魔少女
 「悪魔を舐めるな!!」

悪魔少女は我武者羅だった。
落ち着きがなく、そして攻撃はデタラメ。
とはいえ、当たると僕でも危険だ。
僕はあまり素早くないから、基本防御は盾頼み。
キングシールドは僕の生命線だ。

美柑
 「ち!? 覚悟!」

僕はあくまで従わない悪魔少女に向かって駆けた。
盾を構え、悪魔少女のでたらめな攻撃を防ぎながら、距離を詰める。

美柑
 「アイアンヘッド!」

ガコン!

僕は悪魔勝負の頭を盾で殴打した。
悪魔少女はピンボールのように、地面に弾き飛ばされた。

悪魔少女
 「あぐ!? あがが……!」

美柑
 「もう、止めましょう、貴方は僕には勝てない」

悪魔少女は僕にはかなわない。
何度も打ち合い、僕は殆どダメージを受けていない。
逆に相手は痛々しい程、何度も傷を負っていた。
僕は戦争屋だ、理由があれば、相手を殺める事も厭わない。
戦争しか知らなかったから、この平和な世界は苦痛のようにも思えたけど、今はこの世界を愛している。

美柑
 「何故? 何故この世界を変えようとするのですか!? そうまで傷ついてでもそれは必要なんですか!?」

ツクヨミ様には僕も会見した。
あの人は恐ろしい程の気配を持っていたが、とても世界を憂いていた。
その気になれば、僕なんかより遥かに強い。
ラビさんのような強力な神にさえ敬われるツクヨミ様でさえ、この世界を護ろうとしているのだ。
僕には分からない、何故オカルトはこんなにも性急に変化を急ぐのか。
そんなにも僕達PKMは罪深かったのか?

悪魔少女
 「あぐぐ……変える……! あの人の為に世界を変えるの!」

悪魔少女は立ち上がると、異様な気配を増した。
それは悪魔少女に変化を与える。
肉を破り、赤い鱗の生えた腕を生やす。
悪魔少女は苦悶の表情を浮かべた。

美柑
 「な!? これって!?」

悪魔少女はものの数十秒で、人の殻を捨て去り、そこには二つ首のレッドドラゴンがいた。
体格も遥かに大きくなり、進化というにはあまりにも異形だ。

美柑
 「なにこれ!? ジヘッドもどき!?」

間違いなくドラゴンタイプだろう。
ジヘッドは悪タイプでもあるけど、このドラゴンは!?

美柑
 「て!? ポケモンじゃないんだから!」

自分にセルフツッコミを入れた。
怪獣と化したそれは、2つの頭で私を睨みつける。

ドラゴン
 「オオオオ!」

ドラゴンが咆哮を上げた!
それは空間を揺らし、僕も怯んでしまう。

美柑
 「くうう!? やるしか、なにのか!?」

僕は剣と盾を油断なく構えた。
このような異形に変化してでも、僕を倒そうとする意思には経緯を評そう。

美柑
 「だが、負けるわけにはいかない……! 主殿と茜さんを返してもらうまでは!」

ドラゴン
 「ゴオオオ!」

ドラゴンは口から激しい炎を吐いた!
僕は盾を構えながら、側転して炎から逃れる!
僕にとって炎は効果抜群、食らうわけにはいきませんからね!

ドラゴン
 「ググググ……!」

ドラゴンは周囲を燃やすと、怨嗟のような唸り声を上げて、僕を徐々に追い詰めた。
僕は周囲に警戒しながら、一定の距離でドラゴンと対峙する。

美柑
 (お互い必死なんだ……彼女は混沌としたオカルトの世界を作りたい……僕はただ主殿と茜さんを助けたいだけ

これだけなのに相容れない。
どうしてオカルトはをそんなに行き急ぐんだろう。
そんなに僕たちPKMが憎いのか、羨ましいのか。
オカルトは嫌われる、ツクヨミ様もオカルトは調和を乱すと言った。
しかし僕はオカルトを責める事なんて出来ない。
きっと一歩間違えれば、PKMが調和を乱す存在になる可能性だってあっただろう。
結局世界に毒物達が受け入れられたか、そうでないかの差だ。

美柑
 「もう一度言います、主殿と茜さんを返してください」

僕はあえてそう言った。
しかしドラゴンは怒り狂い炎を吐く。

美柑
 「く!? どうして分かってくれないんだ!?」

僕は覚悟を決めるとふみこんだ。
剣のギルを手に持ち、ドラゴンの顔面を聖なる剣で切り裂く!

ザシュウ!

ドラゴン
 「ガオオッ!?」

ドラゴンの皮膚から熱い血が噴き出す!
僕は灼熱の血を盾で防ぎながら、相手の目を見た。

美柑
 「まずい!?」

相手の目は死んでいない!
直後、僕は上からもう一つ首に全身を打ち付けられた!

美柑
 「うわあ!?」

地面をバウンドするように転がる僕は大ダメージを受けてしまった。
くそ!? ドラゴンの強靭さを見誤った。
一撃必殺出来ない限り、あの巨体に接近戦をするのは無謀だ。
僕は反省すると、立ち上がる。
ドラゴンは異様な目つきで僕を睨みつけ、息を吸い込んだ。

美柑
 「ブレスがくる!? やばい!」

僕は咄嗟に回避しようとした。
盾を構え、横に動き相手の隙きを誘う。
だが、ドラゴンが放ったブレスは炎ではなかった!

キィィン!!

美柑
 「な!?」

それは氷のブレスだった。
僕はキングシールドでブレスを防ぐが、灼熱から極低温のブレスは、僕を氷漬けにしてしまう。

美柑
 (そんな!? こんな、奥の手が!?)

僕は凍って動けない中、意志だけは保っていた。
ドラゴンは大きく身体を持ち上げると、その鋭利な爪を振りかざす。
不味い、このままでは僕が粉々になってしまう!?
僕は必死に抗うが、全く動くことができない。
ドラゴンには正に必殺のチャンス、その爪を……振り下ろした!

美柑
 (く!? 南無三!?)

僕は死を覚悟した。
しかしその直後、光がドラゴンの爪を受け止めた。

美柑
 (え?)


 「慈しき者よ、汝らに罪はなし、ただ……彼女は私の大切な者なの、ごめんなさい」

それは茜さん……なのか?
突然ドラゴンの前に割り込み、爪を受け止めた。
光は眩しくてその中は見えない。
でもその優しい声は間違いなく茜さんだった。

茜?
 「その名ジュデッカの牢獄、コキュートスの悪魔ネビイームよ、もう眠りなさい……」

ドラゴン
 「が…あ、ああ?」

ドラゴンの身体が光に包まれる。
やがてドラゴンは元の悪魔少女に戻ってしまった。

茜?
 「……光あれ」

悪魔少女
 「神、様……どうして……?」

悪魔少女は涙した。
まるで神々しき者を見るように。
しかし茜さんと思しき光はただ、無言で悪魔少女の頬に触れた。
すると悪魔少女は浄化されるように消え去った。
悪魔少女がいなくなると、オフィスを包んでいた不可思議な結界が消滅する。
光は今度は僕を振り返った。

茜?
 「本当は手を出すべきではないのだけど……後はよろしくね?」

そう言うと、光は消え去った。
オフィスには皆眠りこけるスーツ姿のサラリーマンたちだけがいた。


 「う、く? 茜? 茜!?」

美柑
 「あ、主殿!? ご無事ですか!?」

僕は氷状態から抜けると、直ぐにデスクに顔を埋めていた主殿に駆け寄った。


 「み、美柑……茜は?」

美柑
 「茜さん、主殿はなにか知らないんですか?」


 「……茜のやつ、突然やってきて、もう大丈夫だから、そう言っていなくなったんだ」

茜さん……悪魔少女から主殿を守っていたのか。
僕がやばくなって堪らず顔を出したって訳、か。

美柑
 (くそ!? 情けない!)

僕は自分の弱さを悔やんだ。
相手の奥の手を読めず、大きな隙きを晒し、運良く命を拾う事になるなんて。
これじゃセローラに面目が立たない。

美柑
 「て!? そうだ!? せローラは!?」

僕はセローラを思い出し、窓の外を見た。
すると窓の外は異様な景色が広がっていた。

美柑
 「え……?」

それは禍々しき気配だ。
空は極彩色に彩られ、この世とは思えないものだった。



突ポ娘外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第10話 オカルト 完



次回予告!


 「久し振りね」

セローラ
 「ガタガタブルブル」


 「セローラ顔を青くしてどうしたの?」

セローラ
 「茜ちゃん、あの悪魔少女になにしたの……?」


 「消えたよ……先行しすぎてね?」

セローラ
 「茜ちゃん、た、たまに雰囲気怖いよね……?」


 「ふふ、安心してセローラも愛おしき子らだから」

セローラ
 「ひぃ!? じ、次回セローラちゃん! ラスボスと戦う!」



KaZuKiNa ( 2021/07/19(月) 18:06 )