突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第10話 オカルト 前編

セローラ
 「はぁ……ただいま帰りました」

私は幸太郎坊ちゃんを抱えると、疲れきった顔で帰った。
既に夜は遅く、玄関を潜ると、直ぐにドタバタと足音を立てて絵梨花奥様がやってきた。

絵梨花
 「もう遅いわよ!? いくらなんでも遊びすぎ!」

セローラ
 「あ、あはは〜、気をつけま〜す……」

私は疲れ切っており、苦笑いしか浮かべられなかった。
とりあえず、ちゃんと誤魔化す事は成功したみたいですね。
絵梨花奥様は私がずっと茜ちゃん達と一緒だと思いこんでいる。
それでいい、奥様は何も知らない方がいいから。

絵梨花
 「あら……足元?」

絵梨花奥様はふと、私の足元を見た。
そこには白兎がいたからだ。
体長30センチ位の白兎は、鼻を鳴らしながら玄関を潜ってしまう。

絵梨花
 「きゃ!?」

セローラ
 「あー、まぁちょっとした事情で預かる事になりまして〜、ラビと言います」

ラビ
 「〜♪」

この白兎、まぁラビという名前から分かるように、あの神様なんだけど。
ぶっちゃけてお目付け役というか、ツクヨミ様との連絡役としてこの家に住み着く事になったのだ。
とりあえず疲れた……もうなんでもいい……。

セローラ
 「私もう寝ます……」

絵梨花
 「え? 晩ごはんはいいの?」

セローラ
 「いいです……もう、眠い」

私はそう言うと、寝室に入り、そのままベッドに倒れ込んだ。



突ポ娘外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第10話 オカルト



セローラ
 「……」

朝の陽射しが部屋に入る。
私はぼぅっとして目を覚ました。
すると見えたのは青髪美少女の顔だった。
頭にうさ耳が生えており、セローラちゃん目線でもかなりの美人だ。

ラビ
 「うふ、おーきた♪」

セローラ
 「今何時でしょうか?」

私はまだ寝ぼけた目で、状況を把握しようとした。
とりあえず重い、なんでラビ跨ってるの?

ラビ
 「んーと、8時」

セローラ
 「……寝過ごしたぁ!?」

私は飛び起きた。
ラビを跳ね飛ばし、着の身着のまま寝室を出る。

セローラ
 「た、大変申し訳御座いません!」

私はリビングに居た家主の前に行くと、会口一番謝罪を述べた。

絵梨花
 「あら? セローラちゃん、おはよう」

しかし、事もあろうに絵梨花奥様はお洗濯の用意をしながら、のほほんと笑顔でそう言ってしまった。
あれ? あんまり怒ってない?
セローラちゃん、昨日からちょっと印象悪かったと思うんですけど?

セローラ
 「あのー? 聞くの怖いんですけど、怒ってないんですか?」

絵梨花
 「怒ってって……あのね? セローラちゃん」

絵梨花奥様は真剣な面持ちをすると、私の振り返った。
絵梨花奥様の真剣な表情、随分久しぶりかも。

絵梨花
 「私ね、セローラちゃんと過ごして2年、セローラちゃんをずっと見てきたわ、セローラちゃん、本当は頑張り屋で、しっかりさんな姿も一杯見てきた」

セローラ
 「あの、それは単なるポイント稼ぎと言いますか、セローラちゃん本来はもっとサボりたいと思っている訳で……」

私は気不味くなり、奥様に本音を暴露してしまうが、奥様はクスリと笑った。

絵梨花
 「知ってる、でも……それを話してくれたのも私を信頼してくれているからよね? そして幸太郎にはそれ以上にセローラちゃんは真摯でいてくれた」

私は恥ずかしくなる。
本来なら批難してほしくて、謝りに来たのにそういう雰囲気ではない。
セローラちゃん、こういう予想外は少し苦手だった。

絵梨花
 「だから、私セローラちゃんが昨日なにかあったんだ、ていうのはなんとなく分かるわ」

セローラ
 「う!? それは……」

絵梨花奥様は私の手を優しくとると。

絵梨花
 「理由は説明出来ない? それでもいい……私はいつも幸太郎と一緒にいてくれるセローラちゃんには一杯感謝したいから」

幸太郎
 「セロー、あそー♪」

セローラ
 「あ、幸太郎坊ちゃん?」

幸太郎坊ちゃんは立ち上がると、フラフラしながら、口足らずで私に駆け寄ってくる。
私に抱きつくと、幸太郎坊ちゃんは無邪気な笑顔を浮かべた。
私はそんな幸太郎坊ちゃんを優しく抱きしめる。
すっかり、身体に馴染んでしまった動きだ。

セローラ
 (そう、か……もう2年なんだ)

私は毎日毎日慌ただしく、忙しい日々を少しセローラちゃんらしくないなと、思いながら過ごしていた。
馬鹿ばっかりやっていた時期も、幸太郎坊ちゃんが産まれてからはそうもいかず、気がつけばそれが常態化していた。
セローラちゃんらしくなかったものが、セローラちゃんらしくなってしまったのだ。
こういうのを板に就くと言うんでしたっけ?

私は自分が、もう百代セローラとして、それだけ変わったんだと、初めて自覚させられた。

絵梨花
 「ま、要するに、一日位なら大目に見るわよ♪」

絵梨花奥様はそう言うと、洗濯物を折り畳む作業を開始した。

セローラ
 「あ、あの! 奥様、それは私がやりますので!」

絵梨花
 「いいのいいの! もう少し休んでなさい?」

……本来なら、私はこれをラッキーだと思うのが自然の筈だった。
きっと2年前なら仕事しなくていいと小躍りした事だろう。
だが、逆に今はどう? 凄く不安だ。
仕事してないと逆に落ち着かない。

絵梨花
 「ああ、そうそう! 昨日常葉さんからお菓子頂いたの、良かったらお礼持って行ってくれない?」

お菓子?
ああ、そう言えば昨日ツルペタヘタレが、持参していた気がする。
そんなこと言っていられる事態じゃなかっただけに、すっかり蚊帳の外だったが、この様子なら美味しく頂かれたようだ。

セローラ
 「……畏まりました」

私は素直に頷いた。
ゆっくり立ち上がると、絵梨花奥様は笑顔で机の上を指差した。

絵梨花
 「それと、朝ごはん、食べて行きなさい、昨日から何も食べてないでしょう?」

ぐうう………。

その時私のお腹は盛大に鳴った。
そう言えば、確かにまともになにか食べたい記憶がない。
いや、ショボい地縛霊なら食べましたけどね!?
私は気恥ずかしくなり、顔を赤く染めると、小さく頷いた。

セローラ
 「はい、頂かせていただきます」



***



時刻9時、私は絵梨花奥様に託された返礼品を持つと、常葉家を目指した。
昨日から色々ありすぎたが、そろそろセローラちゃん本来のテンションを取り戻したい所。

セローラ
 「フゥーハッハッハ! そう! このセローラちゃんこそが! 正に世界を支配するランプラーだと言うことを教えてやる!」

ラビ
 「わぁ、すごーい」

……て、何マンションの通路で変なポーズ取っているんでしょうね?
これルザミーネさんとかに知られるなら別に構わないけど、知らない人に見られたら相当恥ずかしくない?
しかし、本当に面倒なのは、案外目の前にいる神様だ。

セローラ
 「何故付いてくるのですか?」

ラビ
 「何故って? それが私のお役目ですもの」

と、言っているがラビは楽しそうだ。
随分昔に人前から姿を消して久しいらしいけど、案外本来のラビはこの姿で、人懐っこいのかも知れないわね。
ただ、役目、か。

セローラ
 「はぁ……憂鬱」

ラビ
 「そういう時はー! テンション爆上げで行こうぜウェーイ!」

セローラ
 「ウェーイ!」

て、私そんなチャラチャラしたキャラじゃないし!?
寧ろ私チャラ男スレイヤー名乗ってる身なんですけど!?

ラビも、とてもそういうキャラには見えず、この神様が単純にそういうノリなのか、疑問に残る。

セローラ
 「……兎に角、あんまり悪目立ちしても、いい事ありません、ラビさんも自重しましょう」

ラビ
 「私の事、めちゃくちゃにしたいって言っていた人のセリフとは思えないわ……」

うぐ!? そりゃ戦っている時はこんなに苦労しているんだから、ラビの胸を揉んでストレス解消位考えたけど。
私は冷静にラビを見る。
うん、やっぱりねぇ?

セローラ
 「巨乳度が足りない! やっぱり茜ちゃんこそ至高!」

ちょっと意外だったか、ラビは性的な目を向けられなかった事が意外だったか、キョトンとした。

ラビ
 「そういえば朝も跨っていたのに、普通にスルーされたわね」

そう言えばそうだ。
あれがご主人様とかならば、勃起物だろうが、流石にセローラちゃんは付いてないし、アレで興奮する要素がない。
百合プレイするのは吝かではないが、流石にガチ百合じゃないし、茜ちゃんと楽しく乳繰り合うので充分なのだ。

ラビ
 「うーん、貴方ってやっぱり分からないわねぇ?」

セローラ
 「ふ! 止めておきなさい! 深淵を覗く者は、深淵に覗かれるのですから!」

私は厨二的ポーズを取ると、そう言った。
そうセローラちゃんを垣間見る者は、セローラちゃんもまた垣間見るのです!

ラビ
 「主義カオス、属性ダークって感じね」

ラビーにはそう評される。
私はやや不満顔すると、首を振った。
このままじゃ駄目だ。
とりあえずまずは茜ちゃんに会おう。

セローラ
 「あーかーねーちゃーん!」

私は常葉家の前に辿り着くと、扉を叩いた。
ラビはインターフォンを見て、呆れたように言う。

ラビ
 「大声出さなくても、インターフォンあるのに」

セローラ
 「居留守される可能性があるじゃないですか!? こっちの方が確実です!」

ラビ
 「まるで借金の取り立てね……」

ドタドタドタ、部屋の中から足音が近づいてきた。
ラビはその気配を感じると、その場から消え去った。
オカルトはあくまでオカルトとして、姿は見せないという事か。

保美香
 「相変わらず煩いですわね……ほら、お入りなさい」

いつものように、扉を開くと現れたのは保美香さんだ。
私は軽く会釈すると、玄関を潜る。
ラビは気配は感じないが、おそらくついてきているのだろう。

セローラ
 「保美香さん、これ昨日のお礼です」

保美香
 「昨日? ああ、お菓子の方ですか?」

私は小包を保美香さんに渡す。
用意したのは奥様だが、そんな変な物ではないだろう。

保美香
 「あら? ゼリーの詰め合わせ? こんな良い物を?」

セローラ
 「お気になさらず、多分特価品ですし」

紙で包まれた中身を確認すると、デパートなんかで扱うお中元用だった。
もうお盆は過ぎましたし、ちょっと時期外れですね。

保美香
 「……なるほど、手作りクッキーでしたのに、これがお返しとは気が引けますが、ありがたく頂戴致しますわ」

保美香さんはそういう時は、それをキッチンに運んでいく。
私はリビングに向かうと、茜ちゃんは命ちゃんと戯れていた。


 「あ〜、あ〜♪」

元気溌剌な赤ちゃんの命ちゃん。
まだ天使みたいな存在だが、着実に大きくなっているわね。

とりあえず私は茜ちゃんを見つけると、すかさず飛びかかる!

セローラ
 「ヒャッハー! ハハー!」


 「邪気が来たか!?」

相変わらずニュータイプみたいな反応する茜ちゃん、私はいつものように茜ちゃんの背中側から、あのたわわなおっぱいに手を差し出す。
しかし、茜ちゃんは足を組んでいる状態だったにも関わらず、裏拳が私の顔を捉えた!

ドゴォ!

セローラ
 「あ、あがが……!?」

私は顔面を抑えて悶絶する。
それを剣を磨きながら見ていた美柑さんは。

美柑
 「相変わらず学習しない人ですね……」

保美香
 「学習したらそれはセローラでしょうか? おかしいと思いません?」

伊吹
 「あはは〜、皆のセローラの評価低〜い」

本当それですよね。
まぁ、揉むことさえ出来ず迎撃されたのは予想外ですが、このリスクが怖くて、茜ちゃんのおっぱいを襲えるか!

セローラ
 「こ、このセローラに後退はない! 後退する時は死ぬ時だ!」

私はそういう時は、掟破りの再行動を仕掛ける。
茜ちゃんは対応出来ず、そのたわわなおっぱいを嫌らしく歪めた。


 「ん、だめ! んんっ!?」

セローラ
 「ほれほれ〜! おっぱいが軋むぞ〜? 私はおっぱいが軋む音を聞くのが大好きなんですよ〜?」


 「う〜?」

命ちゃんが首を傾げた。
ごめんなさいね! いきなり貴方のお母さんが喘ぎ声上げたり、おっぱい歪んだら意味不明ですよね!?

保美香
 「ええーい! 情操教育に悪い!」

しかし、あまり長く楽しめるわけもなく、保美香さんが私の頭を思いっきり叩いた!

セローラ
 「むぎゅ!?」

思ったより馬鹿力で、身長が10センチは縮んだじゃないかっていうダメージを受けた。
怒り補正もあるだろうけど、何気に保美香さんも妙に強いですよね?
これでオカルトが見えたら、美柑さんより遥かに役立つのに。
え? そうなったら美柑さんに価値がない? だからアレはツルペタヘタレなのだ!

美柑
 「なんかまた馬鹿にされた気がする……」

美柑さんは私の腕を引っ張ると、茜ちゃんを引き剥がす。
茜ちゃんは、やや色っぽい喘ぎ声を聞かせてくたが、命ちゃんを抱きかかえると、後ずさった。

セローラ
 「ぐ、ぐぬぬ……ifの世界線なら、無条件で揉ませてくれたのに〜」

伊吹
 「なんの〜、話し〜?」

私は2度も強打を受けた頭を矯正した。
全く、セローラちゃんじゃなければスプラッターですよ。
なんとなくラビの呆れる声が幻聴するが、私は無視する。


 「最近日和ってたのにセローラ……」

セローラ
 「日和ってたって……」

私は苦笑してしまう。
まぁ確かに日和ったんでしょうね。
昔の私はもっと顧みなかった筈だ。
きっと、もっとリスキーで、何も護る物がなかったから、刹那的だったろう。
だけど今は護る物がある、絵梨花奥様と幸太郎坊ちゃんだ。
護る物が出来た以上、もう昔のような無茶は出来ない。
だが、それが同時に私自身を抑圧しているのも事実だ。

今は無理にでもストレスを解消しようとしましたが、一応は目標達成ですかね?

セローラ
 「痛た……まだ痛い」

保美香
 「因果応報ですわよ? これに懲りて、もうセクハラはお止しなさい」

セローラ
 「だが断る!」

美柑
 「駄目だ、コイツ……早くなんとかしないと!」

私は即刻反抗の意思を示す。
このセローラちゃんは反骨心と共に育ったのです!
今更頭ごなしの命令など聞けるものか!


 「むう……ちょっと母乳出たかも」

セローラ
 「ファ!? まじで!? 飲ませて! しゃぶらせて!?」

伊吹
 「それ以上は〜良くない〜」

私は思わずもう一度茜ちゃんに飛び掛かろうとするが、伊吹さんに羽交い締めにされた。
茜ちゃんは顔を赤くして、胸をムギュと締めた。

保美香
 「あらあら、拭いてきなさいな」


 「ミルクは命とご主人様用だから、駄目」

美柑
 「茜さんも、主殿とのプレイ内容を暴露しないで下さい……」

美柑さんはそう言うと頭を抱えた。
純情な上、羞恥心が激しくて、抵抗性がないから、美柑さんの方が顔を真っ赤にしてますね。

セローラ
 「因みにそれは授乳手コキ? それとも茂さん、仕事の疲れでバブみを感じてオギャるの?」


 「ん、それ以上は秘密♪」

茜ちゃんは口元に人差し指を当てると、命ちゃんと共に自室に戻った。
茜ちゃん、ミルクはどうやって処理するのかな?
うぅ、気になるけど霊体化して覗いたら、間違いなく死ぬわね、私が!

保美香
 「はぁ、それよりもセローラ、貴方面倒な事に巻き込まれたのでしょう?」

保美香はため息交じりにそう言うと、セローラちゃんも顔を暗くした。

セローラ
 「そうですねー、今、この街ではオカルト被害が溢れています」

私はそう言うと、テレビを見た。
テレビでは丁度、ニュース映像が流れている。
発狂マニアックが、街で凶行5人が怪我と報道している。

ラビ
 『オカルトの仕業ね……』

ラビはうっすらと気配をその場に残した。
しかしその声は、憐れみにも、怒りにも似た感情が宿っていた。

保美香
 「正直信じられませんが、こうも偶然は重なりませんわよね?」

伊吹
 「ま、ここにいる皆大体被害にあったからねぇ〜」

そう個々はまるで繋がっているようには思えなかった。
単純にオカルト被害は、それぞれ個別の犯行のような意識であり、しかしその数は着実に増えていた。
私はツクヨミ様の言葉を思い出した。

セローラ
 「オカルトが世界の調和を崩す……か」

世界にとってPKMは突然過ぎるエイリアンだった。
不可視であり、異能の象徴であったオカルト達は、PKMの存在により、その立場を脅かされたのだ。
なにせずっと昔ならともかく、今や神も妖怪も悪魔も、そに存在を信じる者はいないだろう。
かつて夜の象徴であり、無知なる人間が空想から生み出したオカルト達と、異能の象徴であるが、確実にそこに存在する私達PKMは、似ていたのだ。

オカルトにとって、これは不公平だったのかもしれない。
オカルトにとって、かつてのように、誰もがその存在に畏敬を持ち、畏れられる存在に戻りたいのだろう。

だが、だからといって人食いの化け物を、放置など出来る訳がない。
存在するからこそ、そこに生きる意味がある。
このままではオカルトはただの悪役になってしまう、ツクヨミ様はそれを危惧されたのでしょう。

美柑
 「とりあえず場当たり的に探してちゃ、原因なんてとても見つかりませんよ?」

伊吹
 「そうだね〜、でもきっと〜、大丈夫だよ〜?」


セローラ
 「嫌に自信がありますね?」

伊吹さんはほんわか笑顔だった。
このおっとり顔の裏で聡明で、誰よりもパワフルな人だ。

伊吹
 「だって、私達は追っているのでしょう〜? 大切なのは〜『真実に向かおうとする意思』〜、なんじゃないかな〜? 向かおうという意思があれば〜、犯人がいくら姿を隠そうとも〜、いつかは辿り着くでしょう〜? 違う〜?」

セローラ
 「……は!? 伊吹さんが凄く真面目な事を言ったかと思ったけど、これネタだ!?」

伊吹
 「テヘ♪」

伊吹さんは自分の頭を小突くと、舌を出して戯けた。
伊吹さんネタ率低いから油断しましたよ!?
ていうか、堂々と○ョ○ョネタ突っ込むんですね!?

美柑
 「……でも、そうだね。僕達が諦めなければいつかは大元に辿り着けますよね?」


 「皆、ご主人様に傘届けないといけなくなった」

保美香
 「あら? 天気急変かしら?」

茜ちゃんは一度着替え直したのか、部屋から出てくるとそう言った。
薄手の夏服に着替えた茜ちゃんは、スマホを確認する。


 「ご主人様から連絡きたの」

保美香
 「珍しいですわね、だんな様」

セローラ
 「あんまりスマホ弄る茜ちゃん見たことないですけど、そんなにご主人様とやり取り少ないの?」


 「うん、ご主人様、お仕事のときは連絡しないし……、連絡も普段は○INEで共有してるし」

おや、茂さんも淡白な人ですね。
茜ちゃんなら、四六時中茂さんに甘えたいでしょうに。


 「というわけ、お母さんは傘を届けに行きます」

茜ちゃんはそう言うと胸を張った。
こういう無意識で出るような所作は、やっぱり大人のレディというよりは、子供っぽいですね。
まぁ私は色っぽい茜ちゃんよりも、頑張って背伸びしている茜ちゃん方が萌えるのですが。

セローラ
 「一人じゃ退屈でしょう? 私も付き添いますよ」


 「もう、私子供じゃない……」

保美香
 「とはいえど、どうも茜は信頼が置けない所がありますからね」

美柑
 「それじゃ、僕も付き添いますよ。僕がいればセローラの暴走も多少は抑えられるでしょうし」

美柑さんがそう提案すると、保美香さんは「ふむ」と吟味した。
だけど、茜ちゃんは自信満々に言う。


 「大丈夫、セローラがなにかしたら、即晒し首にするから」

セローラ
 「ヒエ!? 怖い!? 茜ちゃんだと嘘に思えないから、本当に怖い!」

美柑
 「じゃ、僕は介錯役ですね♪」

美柑さんは笑うと剣と盾を背負い、そう言った。
こっちは逆に、完全に本気では言ってませんね。
私はちょっとだけムッとする。
このセローラちゃん、介錯なんて求めませんから!
泥を啜ってでも生き延びてやるんですから!

保美香
 「まぁ、程々に」


 「ん♪ それじゃあ行ってくる」

結局、茜ちゃんも保美香さんも私が付いていくのは異存ないみたいですね。
「いってらっしゃ〜い♪」と手を振る伊吹さんを後に、私達は家を出た。

セローラ
 「うーん、空曇ってきましたねー」

美柑
 「ひょっとしたら、届け中に降るかもね」

私は炎タイプだから、雨は大っ嫌いだ。
美柑さんもあまり快くはないのでしょうけど、私よりはマシですよね。


 「大丈夫、ご主人様の為だもの♪」

茜ちゃんはそう言うと、尻尾を上機嫌に振りながら歩き出した。
私達は傘を持って、その後ろを追った。

ラビ
 『ねぇ、セローラ、どうしてあの子がそんなに良いの?』

セローラ
 (ん? 茜ちゃんがですか?)

ラビの声が聞こえた。
姿は見えないが、念話のようなものだろうか、声は頭に響く。

セローラ
 (そりゃもう! 茜ちゃんは愛らしくてエッチでおとなしいんですよ♪ しかも超が付くほどの美少女! 更にロリ巨乳! こんなにも私にどストライクなのは茜ちゃんだけです!)

私はやや捲し立てるように、口早に茜ちゃんの魅力を説明した。
正直茜ちゃんの事を語らせたら、1時間以上喋れる気がするけど、流石にラビにそこまで熱くは語らない。

ラビ
 『ふーん、なら私があの子みたいな姿で、しかも従順で、抵抗しないなら、どっちが良い?』

セローラ
 (なぬ!? それはそれで……いや、しかし……それは茜ちゃんではなく……うぐぐ!?)

ラビは幻術のスペシャリストだ。
伊達に神様ではないか、その容姿も自由自在。
基本的にはなんらかの兎的な何かに化けるみたいだけど、それは茜ちゃんでも例外ではないのかもしれない。
ラビなら、確かにしゃぶらせてくれそうな気がするけど、それは何か違う気がしてならない。
だって、本物じゃないんでしょ?
感覚すら騙すラビの幻術は、そういう使い方をするならポジティブに捉えられるけど。

ラビ
 『クスクス♪ セローラって面白いわね♪』

結局からかわれた。
ぐむむ、遊ばれましたか……ちょっと惜しかったですね。


 「セローラ、駅の利用の仕方分かる?」

セローラ
 「茜ちゃん今馬鹿にしました? セローラちゃんだって分かりますよ!」


 「セローラ、活動範囲狭いから……」

ぐぬぬ、確かに私は交通手段って殆ど利用しないですけど。
前に海に行った時も、茂さんについでに切符を買って貰いましたし。


 「まぁいいや、券売機はあっちね」

私達は券売機の元に向かうと、茜ちゃんはご主人様が働く街の駅を探し、その料金分の券を買う。

美柑
 「3枚一緒に買えば、問題無かったのでは?」


 「あ」

茜ちゃんも忘れてたみたいね。
まぁ、改めてそれぞれの切符を購入すると、私達は茂さんの働く街に向かうのだった。



***



カタカタカタ。

キーボードの音がオフィス内に響く。
常葉茂はいつもの様に、オフィスワークに勤しんでいた。


 「……」

俺は社長室を見た。
普段なら気にする相手じゃないが、何か妙に気になったのだ。
その原因は今社長が応対している客だ。

道理
 「どうした常葉?」


 「いや、大したことじゃないが、あの客がな?」

俺の隣で仕事する大城は「ああ」と手を止めると、あの奇妙な客を思い出す。

道理
 「全身黒尽くめで趣味の悪そうな奴だったな」

それは葬儀屋でも連想したのか、まぁ分からないでもない。
だが、それ以上の意味で、俺は気掛かりだったのだ。


 (分からねぇ……なんか、嫌な予感がずっとするんだよな)



黙々と仕事を熟す茂の頭上、もしかしたら本能的に感じとったのだろうか、そこには不可視のオカルトが存在していた。
少女と大人の中間のような、悪魔のような姿をしたオカルトは舌なめずりするように、茂を見捉えた。
茂は悪寒を感じて身震いする。
それを見て、背中に大きな甲殻を背負った女性が心配そうに声をかけた。

栞那
 「寒そうですが、大丈夫ですか?」

ラプラス娘の七島栞那は心配そうに茂を見た。
茂は風邪を疑うが、特に体調に変化はなかった。

人間、オカルト、そしてPKM。
この星に住まう3つの知的生命体、それはどう相容れるのか?



霊視家政婦セローラちゃん! 第10話後編に続く!


KaZuKiNa ( 2021/07/19(月) 18:02 )