突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第9話 月下の白兎 後編

セローラ
 「坊ちゃんは返して貰います!」

謎の和風少女は幸太郎坊ちゃんを抱きかかえ、余った手で口元に当てるとクスクスと笑っていた。
私は全身の熱量を上げるが、内心焦りまくっていた。

セローラ
 (ポケモン? うさ耳ならミミロル系? それともマリルリ? いや、違う……! そうなると、十中八九!?)

少女
 「うふふ、あんまり大きな声を上げると、この子起きちゃうわよ?」

セローラ
 「っ!? 何故坊っちゃんを狙うのですか?」

少女
 「ちょっと違う、正解は貴方♪」

少女の紅い目が輝いた。
私は背筋をゾクッとさせる。
少女が私の中に入ってきたように感じたのだ。

セローラ
 「あ、ぐ……!?」

私は胸が苦しくなり、呻いた。
この訳のわからない感覚……、さっき上下逆さまにした力と同じ!?

少女
 「クスクス、この子は人質♪ 詳しい話はそこの鏡の妖怪に聞きなさい♪」

私は雲外鏡の潜む鏡を見た。
雲外鏡は姿を見せない、何故?
雲外鏡がいながら、何故幸太郎坊ちゃんや絵梨花奥様が危険に晒されている!?

少女
 「それじゃ、御機嫌よう♪」

セローラ
 「ま、待ちな、さい!?」

和風少女は幸太郎坊ちゃんを抱きかかえたまま、ベランダに向かって突っ込んだ。
しかし、外を遮るガラス窓を無視して、和風少女は通過してしまった。
そのまま、和風少女は、あらゆる物質を無視して、消え去ってしまった。

セローラ
 「あ、あ……ぐ!?」

雲外鏡
 『セローラよ、ワシを怨むなら怨んでくれ……』

セローラ
 「ど、どういう意味、で!?」

私の中に残された何かが蠢く。
私は必死にそれを抑えながら、その場をのたうち回った。
雲外鏡は何を言っているのか?
ただ、雲外鏡は私を憐れむように言った。

雲外鏡
 『セローラ、お主は選ばれたのじゃ、それはお主がオカルトと言う物全ての命運が掛かっておる』

セローラ
 「はぁ……!? 訳、わからない、事を!?」

雲外鏡
 『兎も角話は後じゃ! 救援を呼ぶ!』

雲外鏡はそう言うと、気配を消してしまった。
恐らく鏡の世界を移動したのだ。
私は何がなんだか分からなかった。
ただ、私の平穏を崩す者がいる、それだけは分かった。



***



美柑
 「……それじゃ、午後のランニングに行こうかな?」

セローラが去った後、お茶会も終えると、僕は軽くストレッチを行った。
茜さんも、命ちゃんと一緒に部屋に戻ったし、僕もいつものように運動をする事にする。

保美香
 「ああ、美柑……ランニングに行く前に、これを絵梨花さんに届けてくれないかしら?」

キッチンで後片付けをする保美香さんはそう言うと、小包を取り出した。
小包からは甘い匂いがしており、お菓子のようだった。

保美香
 「余り物ですが、宜しく」

美柑
 「それ位ならお安いご用です!」

僕は小包を受け取ると、出口に向かった。
今日はセローラ、あんまり食べなかったし、その性で余ったんだろう。
純粋に保美香さんの好意もありそうだけど。


 『そこの霊を視る者よ……!』

美柑
 「っ!?!?!?」

僕は洗面台から聞こえる声に、顔を真っ青にした。
恐る恐る洗面台に顔を向けると、鏡に褐色肌の老人が映っている。

美柑
 「ぴえええ!?」

雲外鏡
 『落ち着け! ワシは別に危害は加えん!』

保美香
 「ちょっとー? どうかしましたのー?」

僕の悲鳴を聞いて、保美香さんが訝しげに顔を覗かせた。
僕はフルフルと首を振ると、保美香さん怪訝な顔をしてキッチンに戻る。

美柑
 「ぼ、僕に何の用、ですか……?」

それは僕の大嫌いなオカルトの妖気だった。
あまり危険な気配はしないけど、苦手な事は変わらない。

雲外鏡
 『セローラがピンチなのじゃ! 力を貸してくれ!』

美柑
 「えっ!?」

そのオカルトはセローラを知っていた。
僕は顔色を変えると、直ぐに飛び出した。
玄関の分厚い扉をゴーストステップですり抜けると、そのまま、1階に飛び降りる。
霊体のまま、着地すると、そのまま最短距離でセローラの下宿する部屋に飛び込んだ!

美柑
 「セローラ!?」

僕は百代家に霊体のまま飛び込むと、リビングで蹲るセローラを見つけた。

セローラ
 「あ、ぐ!? み、かん、さん!?」

僕は戦慄した。
セローラから紅い気が滾っていたのだ。
なんだかやばい、僕はすかさずシャドークローをセローラに纏わりつく紅い気に放った。

バシュウ!

奇妙な音がすると、セローラから紅い気は消え去った。
セローラは大粒の汗を流しながら、落ち着きを取り戻す。

セローラ
 「はぁ、はぁ、感謝しますよ……美柑さん」

美柑
 「セローラ、一体何があった? 今日はなんだか変だよ!?」

セローラ
 「……そうですね、全部洗い浚い話して貰いましょうか、雲外鏡!?」

セローラはリビングに置かれた立て鏡を強く睨みつけた。
鏡には妖気が集まり、老人の顔が浮かび上がった。



***



雲外鏡
 『そうじゃな……ワシが話せる事なら、全て話そう』

美柑
 「ヒッ!? せ、セローラ、どういう関係なの?」

セローラ
 「勝手に気に入られただけですよ……大変迷惑な事に!」

私は憎悪の目で雲外鏡を睨みつけた。
もし雲外鏡が裏切って幸太郎坊ちゃんを拐わせたなら、私は絶対にこの妖怪を許さない!
私が一番嫌った感情を、私は雲外鏡に向けると、雲外鏡は静かに話し出す。

雲外鏡
 『あの少女はこの国の言葉で言えば因幡の白兎とも言われとる……』

セローラ
 「っ! あのウサ耳美少女も妖怪なのですか?」

雲外鏡
 『否、むしろ神が近い……それも人間寄りのな』

セローラ
 「人間寄り!? それがなんで坊ちゃんに危害を加える!?」

私は怒りのまま叫んだ。
美柑は横で私と雲外鏡を見比べ、私を宥める。

美柑
 「ちょ、ちょっと落ち着こうセローラ?」

セローラ
 「……はぁ、申し訳御座いません、らくしありませんでした」

私は少し冷静になる。
生の感情をただ、悪意のままぶつける等私らしくない。
私は、ただ平穏を望んでいるだけなのだ。

セローラ
 「それで、因幡の兎とは?」

雲外鏡
 『本来なら大国主に仕える神、真の名を八上姫(やかみひめ)……しかし中世も終わる頃、あの方は人の世から姿を消した……』

セローラ
 「八上姫、ですか……あの謎の力は?」

雲外鏡
 『八上姫は、大国主に会う前、革の剥がれた白兎の姿で現れたと言う、それは大国主が因幡の地に向かうのに相応しいか試したという。事実その正体は美しき姫のような姿だったと伝えられる……その力はかなり強力な幻術じゃろう』

幻術……神さえ容易に騙すなら、かなり強力な力のようですね。
しかし、聞く限り相当の大物……それが何故幸太郎坊ちゃんを?

セローラ
 (いや、目的は私と言っていた……)

だが、何故です?
私はしがないランプラーの家政婦ですよ?
なんで私なんです?
人をオカルトの専門家かなにかと思っているんですか?

雲外鏡
 『兎の神話について、どの程度知っておる?』

セローラ
 「全く、ていうか異世界人に聞くのは無理がなくて?」

美柑
 「ぼ、僕も知りませんね〜」

雲外鏡は「ふむ」と小さく頷いた。

雲外鏡
 『狂い兎というオカルトがおる……西洋で活動していたようじゃ、兎のオカルトは大体似たような要素がある……十中八九八上姫の能力も同じじゃろう』

美柑
 「あの、紅い気ですか?」

セローラ
 「紅い気?」

美柑
 「なにか、形容できないけど……妖気じゃない、あれは?」

雲外鏡
 『神気を見たのじゃろう……それを祓えるお主も大概じゃがな』

なるほど、ギルガルドの特性はやはり神にも通じるということ。
美柑さんが特別なだけかも知れないが、やはりオカルトに対してかなり強力ですね。

セローラ
 「……で、ここからが肝心です。何故私を狙ったのです?」

雲外鏡
 『ワシはそれ以上は言えん……』

美柑
 「な、何故!?」

雲外鏡
 『……セローラよ、意味なくあの方は人に危害は加えん! どうかその意味を汲んでくれ!』

雲外鏡は鏡の中で土下座した。
私は拳をぷるぷるさせるが、その拳は振り上げなかった。
私はオカルトなんてやっぱり嫌いだ。
そっとしておいてくれるなら、私も気にしませんけど、勝手に平穏を乱してくれるなら、好きにはなれません。

セローラ
 「絵梨花奥様は……」

私は絵梨花奥様を見た。
良かった、息をしており、外傷も見られない。
念の為、霊視するが特に問題は見られなかった。
私は奥様を抱きかかえると、寝室に向かい、ベットに優しく寝かせる。

美柑
 「セローラ、その……どうする?」

セローラ
 「どうする、とは? どうするも何もないでしょう?」

私は絵梨花奥様に毛布を掛けると、自分の身なりを整えた。
そんな我が道を行く私を見て、美柑は大きな声を出した。

美柑
 「君は!? 幸太郎君を取り戻すつもりかい!? 一人で!?」

セローラ
 「私は……、正直、愛情とか友情とかって重要視しないんですよね、いつだって打算的で、利用できる物は利用する……それでも、人の魂を喰らうだけポケモンが……命の誕生に立ち会ったのです……」

私は自分が卑しい存在だと分かっている。
保美香さんにも軽蔑されることは日常茶飯事だし、何より自分の欲望を私は抑えられない。
だから、私はワガママなんだ。

セローラ
 「神がなんですか!? どうせ神もオカルトでしょうが!?」

私は自分のやる気を瞳の炎で表した。
美柑さんは私には無理だと思っているようだが、そんなの関係ない。
幸太郎坊ちゃんは私の生き甲斐なんだ、人質だっていうなら、乗ってやる!

雲外鏡
 『セローラ、最後に聞いておきたい、お主にとってオカルトは?』

セローラ
 「空気ですよ……必ずいるけど誰にも知覚できない、それだけの存在……」

雲外鏡は「そうか」と呟くと、鏡の中に沈み込んで行った。
私は迷わずあの和風少女の消えた先を見つめる。
私は迷わずゴーストステップで、ガラス窓をすり抜けた。

美柑
 「ま、待ってセローラ!? 一人じゃ無謀だ!?」

セローラ
 「だったら、ツルペタヘタレに何ができるんです!?」

美柑
 「っ!? ぼ、僕はヘタレだ……それは、否定できない……でも、これを無視できる程、僕は弱くないつもりだ!!」

美柑さんは私なんて目じゃない程強いのに、オカルト相手にはてんで役立たず。
それは美柑さんが一番分かっていて、そして恥じていた。

美柑
 「お願いだ……! 協力させてくれ!」

セローラ
 「………3分待ちます、支度してきなさい」

私はそう言うと、美柑さんは笑顔を見せた。
力強く頷くと、直ぐに部屋へと飛び上がった。



***



セローラ
 「出来れば晩御飯前には決着つけたい所ですが」

美柑
 「一応、保美香さんたちには事情を説明しましたので、時間は稼いでくれると思いますけど」

あれから私達は霊体化したまま、街を上空から俯瞰していた。
私と幸太郎坊ちゃんは常葉家にいて、晩御飯もご馳走になるとでっち上げたのだ。
どこまで時間を稼げるか、わからないが絵梨花奥様がお気を煩わせる必要はないのだ。

美柑
 「しかし、なんだかんだで、絵梨花さん達、愛しているんですね」

セローラ
 「当然でしょう? 一応家政婦なのですから」

私はそう言うと、美柑はフフと笑った。
私は少し気不味くなると、口を紡いだ。

セローラ
 「さて、あのウサ耳美少女、次あったら、胸もみくちゃにして、イかせるんだから!」

美柑
 「神様相手にも欲情するの!?」

このセローラちゃん、巨乳美少女なら、貴賤差別などしないし!
断言しよう! 可愛いは正義であり、そこに種族など関係ないのだ!

セローラ
 「逆に考えるのです! 仔猫は可愛いでしょう!? それは誰もが共感する筈!」

美柑
 「まぁ、確かに可愛いいけど……うーん?」

美柑さんは要領を得ていないようですね。
やはり、共感されませんか……美少女の破廉恥なおっぱいこそが、真理だというのに。

セローラ
 「む……これは?」

私はビル群に目を向けた。
怪しいオカルトの気配を発見したのだ。
私は迷わず、その怪しい気配に突っ込む。

美柑
 「あ、待って!」

セローラ
 「さっさとする!」

私は背中を追ってくる美柑さんに激を飛ばすと、路地裏に着地した。
路地裏は高層ビル群の隙間にあり、表通りには様々な人々が行き交っていた。
私は目の前にある怪異を見た。

地縛霊
 『オ、オオ、オ!』

怪異は地縛霊だった。
いくつかの魂が混ざっており、それは悍ましさがあった。
案の定美柑さんは悲鳴を上げる。

美柑
 「うげ!?」

セローラ
 「!」

私は迷わず、地縛霊を締め上げると、口から吸い込んだ。

セローラ
 「げぷ、そこそこ美味しい魂ですね」

地縛霊は丁度良く穢れており、それは醸成されたワインのような物だ。
聖人の魂は不味いし、悪党の魂は美味しい、地縛霊は極上と言った所か。

美柑
 「た、食べたの?」

セローラ
 「ランプラーですよ? 美味しく燃料にさせて頂きました! ごちそうさま!」

もう、地縛霊の魂は燃え尽きた。
だらだら昇天もせずに、地上にいるから悪いのだ!

美柑
 「ぼ、僕には理解できない……」

セローラ
 「ま、ゴーストポケモンと言っても様々ですし、はっきり言えば、コンビニのハンバーグ以下の味ですけどね」

美柑
 「その例え、分かるような分からないような……?」

ていうか、美柑さんコンビニのハンバーグ食べた事があるのでしょうか?
最近のコンビニの惣菜は侮れません……私あんな美味しいハンバーグ作れる気がしませんもん。
保美香さんにはシャラップと罵られそうですがね。

セローラ
 「ぬう……しかしあのウサ耳、どこに消えたんでしょう?」


 「クスクス♪」

美柑
 「笑い声?」

突然表参道から笑い声が聞こえた。
私達は振り返ると、そこにはあの和風美少女が立っていた!

セローラ
 「見ーつーけーた! ヒャッハー! おっぱい揉ませろー!?」

少女
 「ふふ、貴方ってとってもエッチなのね?」

少女は、その場所から浮いていた。
行き交う人並みは、その少女に気にも掛けず、少女もまた、私達以外を気にも留めていない!

美柑
 「駄目だ! その子の能力を忘れたのか!?」

セローラ
 「っ!?」

美柑さんの声が私を静止させた。
私は寸で、空中で静止する。

少女
 「もう遅い」

少女の目が紅く光った!

セローラ
 「やばい!? 幻術!?」

私は慌てて、目を塞ぐ。
だが、直ぐに目を開くと、周囲は一瞬で様変わりしていた。

セローラ
 「え? 夜……?」

そこは一瞬にして夜の町並みになっていた。
人の気配は消え失せ、そこには少女と美柑さんしかいない。

セローラ
 「……はぁ、既に術中にはまる、か」

少女
 「いやに落ち着いているわね?」

少女は私の目の前で、怪しく笑っている。
とりあえず、私は着地すると、セローラアイを始動させる!

セローラ
 「75点! そこそこひん剥いて楽しみたい!」

美柑
 「空気も読まずに何言っているんだー!?」

美柑さんは顔を真っ赤にすると、私の頭を思いっきり叩いてきた。
ぐぬ……馬鹿力なんだから、手加減してほしいものですね。

美柑
 「……貴方が因幡の兎、もしくは八上姫ですね?」

少女
 「昔の名ね……随分懐かしい事、でも今風に言えばぺこ……」

セローラ
 「はいストーップ!! それ以上はいけない!?」

この青髪ウサ耳美少女は寄りにも寄って、某放送者を名乗ろうとする。
流石にやばい! ここはセローラちゃんが止めてみせます!

少女
 「クスクス♪ 貴方って面白いわね♪ そうね……なら今風にラビとでも名乗りましょうか♪」

セローラ
 「まーた、安直な!」

八上姫改めてラビ、このちょっと感性のおかしな神様は何を考えているのだろう。

セローラ
 「幸太郎坊ちゃんを返してください!」

ラビ
 「まだだーめ♪ 返して欲しければ力を示してみなさい!」

ラビはそう言うと、ジャンプした。
まるで月面にいるかのように重力を無視したのだ。

ラビ
 「当たると怪我するよー!?」

ラビは掌にナイフを持った。
10本のナイフはめちゃくちゃな方角に投げられる。

セローラ
 「馬鹿め! 間合いが遠いわー!」

ラビ
 「本当にそうかしら?」

出鱈目に放たれたナイフは地面やビル、止まった車に当たると跳ね返る。
だが、跳ね返った瞬間数が倍に増えた!
しかも全然ナイフが減速しない!?

セローラ
 「な、なんとぉー!?」

美柑
 「ち! キングシールドで突っ込む!」

セローラ
 「よせ美柑ー! 我々は偵察が任務だー!?」

私は鬼火を周囲に展開すると、迫るナイフに注目した。
鬼火にナイフが当たると、私はすかさず煉獄でナイフを溶かす。
しかし、ナイフには当たっても鬼火に反応しない物があった。
私はそれは無視して、ラビを睨みつけた。
ラビは意外そうに、表情を歪ませた。

セローラ
 「やっぱり幻術交じり!」

ラビ
 「へぇ! そんな対策があるのね!」

私は鬼火を周囲に浮遊させながら、飛び上がる。
今度はこっちの反撃だ。

セローラ
 「珠のお肌を火傷させちゃうのは気が引けるけど!」

私は鬼火をラビに向かわせる。
ラビは空間を蹴ると、素早く跳ね回った。

セローラ
 「ち!? 速い!?」

私は舌打ちする。
鬼火は動く相手には命中し辛い。
肝心な所で外すのが鬼火ですからね。

セローラ
 (ち、こういう素早いタイプには、私じゃ捉えきれない!)

奇しくも煉獄も鬼火も命中率が安定しない技だ。
今までで一番相手し辛いですね!?

ラビ
 「はは、今度はえい!」

ラビは空中で反転すると、一気に空を蹴って私に突っ込んでくる!
蹴りだ、美少女のパンツが迫ると、私は顔面を踏みつけられた!

セローラ
 「見えた白! ぐふ!?」

私は鼻血を零しながら、墜落した。
ラビは裾を抑えると、少し顔を赤くしていた。

セローラ
 「お、おのれ……その顔セローラちゃん的には90点あげてもいい!」

美柑
 「戦いながらセクハラするんじゃない!?」

美柑さんは怪我人相手にも容赦なく、私の頭を叩いた。
おのれ、見せパンも持っていないツルペタの癖に!

セローラ
 「セローラちゃんが思うに、恥じらいが重要だと思うのです。性にオープンなビッチはなにか、違うと思うのですよ」

美柑
 「それ、相手に対して!? 真面目に勝つ気あるの!?」

ラビ
 「貴方、ツッコミの才能があるのね♪」

美柑
 「そんな才能要りませんけどね!?」

まぁ、こっちにはネタの神様なんて存在しないし、美柑さんの才能は宝の持ち腐れですな。
まぁ、そもそもこの作品まともにツッコミできるキャラが少ないのですが。

さて、そんな馬鹿な事言ってると、ラビさんは目の前に着地してくださる。
こちとら、あんまり素早さないから、空を自由に動かれたら、とても追いきれません。

セローラ
 「あれですか? 地上と空中、どっちがいい?」

ラビ
 「地上の方がそっちは良くて?」

セローラ
 「はっきり言えば!」

美柑
 「セローラ、一人じゃ勝てないよ……連携しないと!」

美柑はラビを警戒しながら、そう言った。
私も薄々それは分かっている。
私は遠距離型、美柑さんは近距離型、ちゃんとした連携が求められる!

セローラ
 「援護するから! 少しは活躍してください!」

私はラビに煉獄を放った!
しかし、ラビは軽やかにステップしながら、煉獄を回避する。
元より当たるとは思っていないが、その瞬間美柑さんは踏み込んだ!

美柑
 「はぁ!」

美柑さんは剣を抜くと、聖なる剣を放った。
ラビはそれをなんとか回避するが、美柑さんは甘くない。

美柑
 「この距離逃しません!」

ラビ
 「情熱的、嫌いじゃないわ!」

ラビは美柑さんを前に足を止めた!
美柑さんは一気に斬りかかる。
だが、ラビはそれよりも速く美柑さんの顎を蹴り上げた!

美柑
 「がは!?」

セローラ
 「嘘でしょ!? 何やってるんですかー!?」

ラビ
 「クスクス♪ この程度? なら本当にガッカリね」

ラビはそう言うと首を振った。
悔しいが本当に強い、美柑さんでさえ、接近戦で負けるなんて。

美柑
 「ふ、ふふ……! まだ、さ! 僕はまだやられてない!」

セローラ
 「!」

美柑さんは殊の外脆い。
ギルガルドはバトルスイッチする事で、能力を極端に変化させるポケモンだ。
それだけに、ブレードフォルムで攻撃を受けたのは致命的だった。
だが、美柑さんは動じない、寧ろ闘志を燃やしていた。
美柑さんの体から霊気が溢れる……ギルガルドの放つオーラ?

ラビ
 「これは!?」

ラビは美柑さんの様子に驚いた。
美柑さんは目をギラつかせ、ラビに襲いかかる。
ラビは、美柑さんを受け流すが、さっきのように反撃は出来なかった。

セローラ
 (押してる……いや!? まだ彼女の底は知れない!)

何より今の所幻術を使っていないのだ!
私は最悪を想定した。
そして、それは最悪のタイミングで襲ってくる!

美柑
 「はぁ!」

美柑さんのシャドークローはついにラビを捉えた!
……かのように見えたが、ラビの像が振れる!

美柑
 「しまっ!?」

セローラ
 「ちぃ! この馬鹿!」

私はすかさず美柑を庇った。
直後、何も見えない場所から、しなやかな蹴りが私を襲う!
私は歯を食いしばると、鬼火を展開した!

セローラ
 「ぐふ!?」

ラビ
 「ああ!?」

私は胃の内容物を吐き出しそうになるが、ラビも火傷に呻いた。
ラビは強い、私達よりも上手であり、そして老練だ。
自分の能力を本当に巧みに利用し、翻弄する。
だけど、私達はポケモンだ、その能力はオカルト相手に劣る筈がない!

セローラ
 「うあああああ!」

私は黒い奔流をラビにぶつけた!
それは祟り目だった、私が思い出した3つ目の技だった。

ラビ
 「きゃああああ!?」

ラビが悲鳴を上げた。
だけど、私は追撃できなかった。
そんな余裕もなく、肩で息をして、目の前に、蹲るラビに何もできない。

セローラ
 「はぁ、はぁ!」

ラビ
 「痛たぁ……」

美柑
 「ま、まだやりますか!?」

まだ余裕のある美柑さんは警戒しながら、そう言った。
ラビはクスリと笑うと、私を見る。

ラビ
 「ふふ、とりあえず合格……けど、一つ聞かせて?」

セローラ
 「なにを、ですか?」

ラビ
 「貴方にとって私は憎い存在? オカルトは許されない存在?」

その言葉に私は目を細めた。
この期に及んで何? ラビは何を期待しているの?
正直言えばオカルトは嫌いだ。
でも、戦っている内に分かった、ラビは悪いオカルトじゃない。

セローラ
 「手加減しましたよね?」

ラビ
 「え?」

セローラ
 「……好きも嫌いも、セローラちゃん、貴方を別に嫌いはしません。ポケモンだって良いやつ悪いやつ、説明難しいやつ、一杯いますから」

美柑
 「ポケッターリモンスターリ♪ ですか」

私は疲れた身体を、地面に降ろすと、ラビはクスリと笑った。
もうラビに敵意はない、いや初めから無かったのだ。
幻術を駆使してトリックスターを演じて、その実際、私達を試していただけだ。
そして彼女は合格と言った、つまりまだ目的がある訳ですね?

セローラ
 「一体何が目的なんですか? このセローラちゃんを試すような真似をして!」

ラビ
 「クスリ、そうね……話しましょう、でも……その前に」

ラビは手を広げた。
すると、光が溢れ幸太郎坊ちゃんがラビの手の中に。

セローラ
 「幸太郎坊ちゃん!?」

私は身体に鞭を打つと、幸太郎坊ちゃんの元に向かった。
ラビは優しく抱いており、私は受け取ると、坊ちゃんはすやすやと眠っていた。

セローラ
 「キィー!? 別の女の臭い!? 1才児を拐かそうとは魔性の女め!?」

ラビ
 「え? なに? なんで逆ギレされてるの?」

美柑
 「その子病気ですからお構いなく……」

セローラ
 「幸太郎坊ちゃんは必ずメイドフェチになる! いやしてみせる!」

ラビ
 「光源氏計画?」

私は坊ちゃんを取り返すと、ハイテンションで喜ぶ。
大凡二人には共感されなかったが、まぁ良い。
このセローラちゃん、所詮は孤高のランプラーなのだから……。

ラビ
 「さて、貴方が聞きたいこと、だったわね」


 『その話……私からしよう』

リーン!

突然鈴がなった。
音の瞬間、私は目を疑った。
空に三日月が輝き、私は白砂の上に座っていた。
私の目の前には、古い日本の貴族が着ていたような和服を纏った銀髪の麗人が、これまた古臭い日本の宮殿のような家の縁顔に座っていた。
麗人は豪奢な扇子で顔の半分を隠し、私を見捉えた。
私は心臓を掴まれた気がして、動けなかった。

ラビ
 「こ、これはツクヨミ様!」

セローラ
 「ツク、ヨミ?」

ラビは突然平伏する。
私は何がなんだか分からなかった。
ただ、格が違うというのが、魂で分からされた。

ツクヨミ
 「よい、面を上げよ……私はツクヨミ、月読尊という」

ツクヨミという麗人は中性的だった。
男性にも見えるし、女性にも見える。
だが間違いなく分かったのは、格が違うという事だ。

セローラ
 「っ、百代セローラ、です」

美柑
 「常葉美柑です」

私達はおとなしく頭を垂れた。
そうしなければならないと、本能的に感じたのだ。

セローラ
 (かなり旧い神? それにしてもここまでレベル違い!?)

私は里奈ちゃんを救出する時戦った貉を思い出す。
アレも悪神だったが、旧き神だった。
だがツクヨミは格が違う……ポケモンの神様と同レベル!?

ツクヨミ
 「ふ、緊張を解き給え、もう私は誰にも信仰されぬ神だ」

セローラ
 「……御冗談を? その気配忘れられたといえど、並大抵では」

ツクヨミ
 「……ふ、この者がオカルトの調和を護る者か」

セローラ
 「オカルトの調和……?」

ツクヨミさんは立ち上がる。
ゴテゴテした十二単だか、構造もよく分からん和服を纏った麗人は立ち上がると身長が高かった。
茂さんより上、華奢な感じだけど、弱そうには見えない。
ツクヨミさんはゆっくり歩くと、私の前まで降りてきて、私の手を取った。

ツクヨミ
 「愛らしいな、汝は」

セローラ
 「〜〜〜!?」

私は顔を真っ赤にして沸騰した。
な、なななな!? 何を言っておられるのだこの方は!?
わ、私が愛らしい!?

ツクヨミ
 「……今、この世界はPKMという異物で溢れかえっておる……」

セローラ
 「え!?」

美柑
 「それって、僕たち!?」

ツクヨミ
 「だが、それは問題にはならん……だが、永い時の中で忘れ去られた者達には、それは耐え難かった」

ツクヨミさんは、それを悔やむように言っていた。
月に照らされたツクヨミさんは惚れ惚れする程美しくて、男性でも女性でもセローラちゃん的には120点を出せる神様だ。
そんなツクヨミさんは、ただ私を視て、その問題を言った。

ツクヨミ
 「このままでは君たちが言うオカルトが、この世界の調和を崩す……我々オカルトは、本来視えてはならんのだ……」

セローラ
 「……それが、オカルト」

ツクヨミさんは私の手を離すと、改めてその場に正座した。
そして厳かに言った。

ツクヨミ
 「今、彼の地でオカルトを振りまく者がいる……我々は神故に人間に手出しは出来ん……だから頼む! オカルトの暴走を止めるため、力を貸してくれ!」



***



街の中をある男は歩いていた。
全身がカラスのように真っ黒な男だ。
手にはトランクケースが握られ、洒落た鍔付きの帽子を被っている。
彼の後ろでは騒ぎが起きていた。

一般人
 「あばばばばば!?」

それはオカルトに取り憑かれた哀れな男性だった。
しかしその真っ黒な男は意に返さない。
寧ろ悦に入っているようだった。

男性
 「もうすぐだ……もうすぐ、この世界は」

男性の傍ら、セクシーな女性は手を叩いて喜んでいた。
それは誰にも見えない、その背中の翼も、お尻の尻尾も。
ただ、そのカラスのような男は、オカルトの臭いを纏っていた。



突ポ娘外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第9話 月下の白兎 完



次回予告!

ラビ
 「はーい新キャララビちゃんだよー♪」

セローラ
 「推定年齢1300歳のお婆ちゃんですが」

ラビ
 「心はいつでも16歳!」

セローラ
 「同志よ!」

ラビ
 「そう! 私達はJK同盟!」

雲外鏡
 (ツッコミたいけど、後が怖い……)

ラビ
 「さて! 次回のセローラちゃんは!?」

セローラ
 「セローラちゃん! 親玉に会う!」


KaZuKiNa ( 2021/07/14(水) 12:13 )