突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第9話 月下の白兎 前編


 「クスクス、つまり私が行けばいいのね?」

そこは暗闇だった。
外は昼間の歓楽街なのに、その裏路地に足を踏み入れれば空には月が輝いていた。
それは誰がどう見ても怪異だ。
そんな暗闇の中に少女がいた。
少女の顔はよく分からない。
だが、白い和服のような物を着ていた。
少女は静かに笑っている様子だった。
一体何を話しているのだろうか?


 「百代セローラ、彼女に接触すればいいのね?」



霊視家政婦セローラちゃん!

第9話 月下の白兎



セローラ
 「ヘップシ!?」

絵梨花
 「あら? セローラちゃん風邪?」

私はいつも通り家で家事を熟していると、突然くしゃみが出た。

セローラ
 「んー、どうなんでしょう? 風邪じゃないと思いますけど」

私は自分の体の事は分かっているつもりだ。
熱はそもそも炎ポケモン、ウイルスなど滅却してみせよう。
喉が荒れているかと言えば、これも問題ない。
いつもの麗しいセローラちゃんボイスです!

絵梨花
 「それじゃ、風の噂かもね?」

セローラ
 「風の噂、ですか?」

それはセローラちゃん初耳です。
諺とかそういう類の物はセローラちゃんもまだまだ覚えきれません。
しかし、それを嬉しそうに補足したのは、小さな置き鏡に写った妖怪だった。

雲外鏡
 『ホッホ、風の噂は誰かがくしゃみをする時、くしゃみで感じる事じゃよ、まぁ実は風の便りが正解で、風の噂は誤用なのじゃがな』

なんて、自称500歳の妖怪雲外鏡はいつもの薀蓄を披露した。
正直なるべく無視の方向ですが、雲外鏡の知識には何度も助けられた。
少しだけ認めてもいいかなと思いますが、しかし相手は紛れもなく妖怪。
やっぱり心は許せません。

セローラ
 「噂、ねぇ……そんなの茜ちゃん、いやルザミーネさんかな?」

私の交友関係は狭い。
常葉家の皆さんの他には、上階に住む白人女性もルザミーネさん、後は蘭さんや奏さん位かな?
噂しているとしたら最低でもこの辺りじゃないだろうか?
噂にしてもらう位なら、招待でもしてくれればいいですのに。

絵梨花
 「よし……と」

私はキッチンから絵梨花さんを見る。
絵梨花さんの太ももに乗った幸太郎坊ちゃんはスヤスヤとお昼寝しており、その母親はノートパソコンを机に広げて、何か作業をしていた。

セローラ
 (セローラちゃん、パソコンというのはどうも苦手です)

異世界人の私にとってこの世界は未知で楽しい物も多いけど、苦手を覚えた物もある。
よくあんなややこしいキーボードを操れますねぇ。
茜ちゃんはパソコン使えるのかな?

セローラ
 「奥様、何か調べものですか?」

絵梨花
 「ん〜、フフ♪ 秘密♪」

なんて仰ると、絵梨花さんは可愛くウィンクした。
奥様25歳、その年齢を考えれば少し無理もある気が。

絵梨花
 「それよりセローラちゃん、それ終わったら遊びに行ってもいいわよ」

セローラ
 「畏まりました、それじゃそうしまーす」

私はキッチンで洗い物を終えると、手を熱して乾かす。
タオルのような余計な洗い物が増えないので、炎タイプはある意味経済的ですね。

雲外鏡
 『PKMとは便利な能力があるのぅ』

私は手を振ると、雲外鏡はそう言った。
雲外鏡は猪口才にもPKMというものを理解している。
千差万別だが、炎タイプならこういう事が出来るし、水タイプなら水が出せる。
草タイプはどこでも植物を生やすようなPKMもいるし、とんでもない物なら、それこそ時間すら操作してみせる。

セローラ
 「なぁーに、言ってるんですか、アンタ達も大概でしょ?」

妖怪、オカルトという奴らは、PKMもかくやなトンデモ集団だ。
雲外鏡からして、鏡の中に住み、鏡面があるならどこへでも移動し、そしてその位相空間に外から誘う。

絵梨花
 「? セローラちゃん、なにか言った?」

セローラ
 「あやや! ひ、独り言です! こっちは終わったんで茜ちゃんの所に遊びに行きまーす♪」

雲外鏡は普通の人には見えない。
当然絵梨花さんは普通の主婦だから、妖怪など理解出来る筈もない。
だからこそ、なるべく私は雲外鏡を無視しているのに、今日に限って妙に絡んでくるんだから!
私はなるべく笑顔で、陽気にスキップしながら家を出る。
玄関の扉を閉めると、ため息を吐いた。

セローラ
 「全くもう……危うく妖怪の存在がバレる所でした」

私はそう言って脱力すると、空を見上げる。
うん、今日もいい天気。



***




 「ふんふんふ〜ん♪」

茜ちゃんは鼻歌を歌いながら、尻尾をブンブン振っていた。
赤ちゃんの命ちゃんはまだ尻尾も耳も生えていない。
後数ヶ月もすれば生えてくるかもとの事だが、命ちゃんの顔は、ベランダで洗濯物を回収しながら揺れる母親の尻尾に注視していた。

セローラ
 (狙われてる……! 狩猟者の目だ……!)

命ちゃんはあれでもイーブイ娘、本能は肉食獣なのだ。
恐ろしい事に母親の尻尾を獲物として捉えている!


 「ん? どうしたのセローラ?」

茜ちゃんは洗濯物を回収すると、振り返った。
私はリビングで、茜ちゃんが一息つくのを待っていた。

セローラ
 「いや、その……合掌しときます」

私は気不味くなって目線を逸した。

美柑
 「なんだか不気味だな……今日のセローラ」

保美香
 「確かに今日のセローラ、テンション低いかしら?」

なんて、まだこれから起きるであろう惨劇をまるで理解していない二人はそう言った。
保美香さんも、髪(正確には触手)が長いから気をつけないと酷い目に合うというのに!

セローラ
 「全く、呆れる程この家は平和ですねえ」

私はそう言うと首を振った。
しかし、洗濯物を持って部屋に入る茜ちゃんは優しく微笑んで言った。


 「天下泰平、平和が一番よ」

セローラ
 「そりゃそうですけど……」

私はここまで一言も発さない命ちゃんを見た。
その目は変わらず茜ちゃんの尻尾をロックオンしている。


 「? 命?」


 「あ〜う〜」

命はまだ立ち上がれない。
あどけない顔でまるでマシュマロのような柔らかい肌、見た目は正に天使のように可愛い。
そう、この位の頃は幸太郎坊ちゃんも可愛かったです……。


 「うん? どうしたの? 後ろ?」

茜ちゃんは命ちゃんの前で屈み込む。
だが命ちゃんは茜ちゃんの背中に手を伸ばした。
茜ちゃんは不思議に思いながら、振り返った……そして、それがいけなかった!

セローラ
 「茜ちゃん、駄目……!?」


 「あうー!」

それは正に悪魔だった。


 「ッ!?!?!?」

茜ちゃんは命ちゃんに尻尾を掴まれると、全身の毛を逆立てて仰け反った!
私はアチャー、と頭を抱える。
命ちゃんは「キャキャ♪」と天使の顔で大喜びだ。
正に残酷な天使ね……。

保美香
 「み、命!? だ、駄目ですわ!? 早く離すかしら!?」

一方、対岸の火事とはならないのが保美香さんだ。
保美香さんは顔を真っ青にして、慌てて命ちゃんを引き剥がす。


 「あーうー!」

保美香
 「何があーうーかしら!?  お母さん困るでしょう!?」

正に暴君だ。
いや、赤ちゃんなんて皆暴君だが、命ちゃんは特に好奇心が強いみたい。

セローラ
 「それ見たことか……遅かれ早かれ、いずれ悲劇は繰り返されるんです」

美柑
 「経験あるんだ……」

私は頭を抱えて首を振ると、美柑さんは苦笑い。
茜ちゃんは暫く蹲ったまま悶絶するのだった。


 「あ、あうううう……」

伊吹
 「茜ちゃん、大丈夫〜?」

聡明で優しい伊吹さんは、茜ちゃんの横に座ると、優しく茜ちゃんの背中を擦った。


 「うぅ……尻尾は神経繋がってる、から……だ、め」

セローラ
 「茜ちゃん、再起不能リタイア、to be continued」

保美香
 「こら、終わらせないの! あ、命、暴れないで!?」

命ちゃんを抱きかかえる保美香さんもてんやわんやね。
ていうか、茜ちゃん以上に、保美香さん触手掴まれたらやばいでしょうに。

伊吹
 「保美香〜、命ちゃん、代わるよ〜」

そう言うと伊吹さんは保美香さんから命ちゃんを預かる。
何にでも興味を持ち、怖いもの知らずの命ちゃんは実に恐ろしい。
だが、伊吹さんのワールドクラスなおっぱいに包まれると、命ちゃんも大人しくなった。

セローラ
 「赤ちゃんは可愛いけど、物の道理を知りませんからねぇ」

伊吹
 「うふふ〜、ゆっくり学べば〜、良いんだよぉ〜♪」

なんて穏やかに命ちゃんをあやしながら言える伊吹さんは、大物ですよね。


 「うう……ん」

やがて、命ちゃんも眠たくなったのか、伊吹さんの胸でスヤスヤと眠り始めた。
出ましたね、赤ちゃんお馴染みの突発性睡眠症、ほんとやりたい放題して、直ぐ寝るんですから、赤ちゃんは奔放ですよ。
まぁ一日の大半を寝てる位ですしね。


 「うぅ、まだ尻尾痛い」

茜ちゃんは涙目になりながら、顔を上げた。
なんだかんだ茜ちゃんはチヤホヤされてきたから、こういう経験がないんだろう。
茜ちゃんは我儘なお嬢様という訳ではないけれど、世間知らずなお嬢様ではあるからね。
むしろ茂さんや周りから、これだけチヤホヤされて、こんなに素直な性格に育ったのは奇跡でしょう。

保美香
 「はぁ、茜、手伝いますから洗濯物片付けますわよ?」


 「……うん」

セローラ
 「ま、後1年辛抱ですよ、1年経てば大分楽になります」


 「セローラの所はそうなの?」

セローラ
 「ええ、まぁ幸太郎坊ちゃんも二足歩行するようになってきて、目を離せないのは事実ですが、夜泣きは減りましたしね」

幸太郎坊ちゃんが歩き始めたのは命ちゃんが産まれる少し前だったから、ちょっと遅い位だったろう。
だけど二足歩行出来るというのは、グッと行動範囲が広がるということ。
幸いにもまだ問題は起きていないが、ヒヤヒヤするのはいつもの事だ。
幸か不幸か、子供好きな雲外鏡がいるお陰で、何かあれば直ぐに連絡がくるし、問題はない。
妖怪に子守の世話をしてもらうって言うのは、それはそれで問題ですが。

伊吹
 「人間の自我が生まれるのって〜、3歳位なんだよね〜」

美柑
 「そうなんですか?」

伊吹
 「うん〜、だから赤ちゃんは善悪が判断出来ない〜、何が危険で〜、何が安全か分からない〜」

相変わらず何処でそんな知識を手に入れるのか、伊吹さんはそんな薀蓄を語ると、命ちゃんの頭を優しく撫でた。

セローラ
 「ベビーシッター、伊吹さん向きですね」

伊吹
 「えへへ〜? そうかな〜?」

伊吹さんはそう言うと照れた。
動きが少しトロいのが欠点だけど、伊吹さんは子供好きだし、何より聡明で注意深いから、子守を任せるなら安心だ。
何より変な弱点がないのがいい。
茜ちゃんや保美香さんは致命的弱点がありますからね。

セローラ
 「それに引き換え、ツルペタヘタレは何も出来ませんねぇ」

美柑
 「んが!? つ、ツルペタヘタレって……、ぼ、僕だって命ちゃんを護るっていう仕事があるんだから!」

セローラ
 「一体誰から護るんですか……」

美柑さんの不器用さは今に始まった事ではない。
戦いになれば勇猛で頼れる人だけど、はっきり言ってこの平和な日本でその能力は無駄過ぎる。
女性ホルモン少なすぎて、母性なんて伊吹さんや茜ちゃんからすれば、雲泥の差だ。

セローラ
 「いっそ性転換して、お兄ちゃんになった方が成功するのでは!?」

美柑
 「な、なに考えてるんだセローラ!?」

保美香
 「こら、二人ともお口チャック、かしら?」

伊吹
 「命ちゃん、起きるよ〜?」

私達は慌てて口を塞いだ。
いけない、私はともかく、美柑さんは意外と声も大きいし、赤ちゃんには耳障りだろう。

保美香
 「それと美柑、そんなに悲観的にならなくても、貴方の存在は命に示せますわ」

美柑
 「え?」


 「美柑は、ネガティブだからいつも悪い方向に考えるけど、それが悪い事じゃない」

美柑さんは陰キャの中でも、ネガティブさが目に付くタイプだ。
同じ陰キャの茜ちゃんと比べると、茜ちゃんは多少人見知りという程度だが、美柑さんははっきり言ってそれ以下。
厳密に言えば、茜ちゃんは対人恐怖症な所が少しあるだけで、本質は陰キャじゃない、むしろ実際は明るい。
一方で美柑さんは、ガツガツ毒舌吐いて、一見物怖じしないみたいだけど、その割に友達を作るのが極端に下手で、そういう意味ではコミュ障なのだ。

伊吹
 「ふふ♪ お姉さんもそう思いまーす♪」

一方生粋の陽キャの伊吹さんはリアル友達100人作っちゃうタイプよね。
頭の良い陽キャとか、最強かっ、て感じだけど、良い人過ぎて自分より友達優先しちゃうのが欠点ね。

保美香
 「そう、ヘタレだろうが、ツルペタだろうが命は気にしません、ただその背中を見て育つだけ」

そんな保美香さんは、陽キャでも陰キャでもない。
自分に厳しく、他人にも少し厳しく、だけど人当たりの良さは不思議と人を惹き付ける。
謎の人脈を築ける保美香さんは、むしろ陽キャの性質が近いわね。

美柑
 「……保美香さんにまでそう思われた」

セローラ
 「諦めなさい、現実は非情です」

美柑
 「セローラも、貧相な方の癖に」

セローラ
 「普通にはありますし? それにセローラちゃんはプリティなので♪」

私はそう言うとニコっとウィンクする。
うん、この笑顔の素敵さは罪よね。
セローラちゃんは何歳になっても可愛いのです!

美柑
 「ありえん……」

保美香
 「まぁ、セローラは見た目より人格に問題ありますからね」

ガッデム! 鼻で笑われた!
没個性の美柑さんに比べたら個性ある方がマシでしょう!
茜ちゃんや保美香さんには負けますが、私作者に優遇されている方なんですから!?

保美香
 「ふふ、さて……お茶にでもしますか」

気がつけば片付けもほぼほぼ終わっていた。
二人がかりなら流石に手際も良いし早いわね。
茜ちゃんなんだかんだハウスキーパーとしては、私より優秀だからなぁ。


 「ん、 命預かる」

伊吹
 「うふふ、はい♪」

背のちっちゃな茜ちゃんは、同じく小さな命ちゃんを受け取ると優しく抱きかかえた。
伊吹さんからしたら凄く小さいけど、茜ちゃんからしたら大きいわね。

セローラ
 「命ちゃんも日に日に大きくなってますね」


 「うん、もしかしたらすっごく大きくなるかもね」

夫の茂さんは結構身長があるから、あり得ないとも言えないわね。
そうなると、お母さんが子供みたいに見える日がいつか来るのか。

美柑
 「里奈ちゃんも背が伸びてますからね」

里奈さん、アグノムのPKMで、茜ちゃんの養女。
そう言えば、私って里奈さんの事まるで知らないかも。
年の瀬辺りで気がついたら永遠さんと一緒にここに居た。
あの二人出自が不明なのよね。
分かっているのは永遠さんが里奈さんの叔母に当たるという位。
絶賛小学5年生とかいう、生唾物のレアな姿だが、身長はグングン伸びていた。
ていうか、初めて会った頃なんて、茜ちゃんよりも小さかったし。
今じゃ茜ちゃんと同じくらい、このまま順調に成長するなら茜ちゃんどころか、私も抜かれるかも。
本当にあの子小5? て気もするけど、ちゃんと身分証明出来ているみたいだし、単に異常に成長率が良い、或いは早熟なんでしょうね。

セローラ
 「子供のPKMは早熟?」

私はそんな予想が頭を過ぎった。
命ちゃんに比べて、幸太郎坊ちゃんはゆっくり成長している気がした。
幸太郎坊ちゃんは男の子で、命ちゃんは女の子だから一概比べられないけど。

保美香
 「どうかしら? 確かに里奈の成長は著しいですが」


 (まぁ実際は2歳だしね……)

セローラ
 「あ、でも琴音ちゃんは小さかったし……?」

大城奏さんの一人娘は幸太郎坊ちゃんと同じ位の年齢だ。
命ちゃんと同じく、半分は人間の血を持つ第二世代PKMと呼ばれる。
純血の人間である幸太郎坊ちゃんに比べて、ハーフの琴音ちゃんはむしろ小さい。
早熟という考察が正しければ逆になるはずだけど、そうならないという事は、やっぱり単なる個体差なんだろうか。

保美香
 「はいはい、お話はそこまで、お茶にしましょ」

保美香さんはそう言うと、各員に紅茶を振る舞った。
今日の茶菓子はスコーンだった。

伊吹
 「今日は英国式かぁ」

セローラ
 「英国って、特にティータイム文化が発達してるんでしたっけ」

紅茶とスコーンは定番中の定番だった。
保美香さんは着席を促すと、恒例のお茶会は始まった。

保美香
 「スコーンはジャムをディップしてくださいませ」

セローラ
 「作法は気にした方がいいでしょうか?」

保美香
 「構いません、ここは日本です、好きにお楽しみなさい」

そう言われると私も安心だ。
今回はちょっと本格的だったし、少し冷や汗を流したが。
早速美柑さんや茜ちゃんは楽しみ始めた。

保美香
 「ほら、セローラも」

セローラ
 「では、いただきます」

私はそう言うと、紅茶を頂いた。
いい香り、そして喉越しもいい。
相変わらず保美香さんの腕前は見事ですね。

セローラ
 「良い茶葉ですか?」

保美香
 「フフフ♪ まさか、安物ですわよ」

保美香さんはそう言うと微笑んだ。
安物、ようは素材の性能を如何に引き出すか、という事かぁ。
改めてレベルが違うな〜。

美柑
 「ん、お菓子も美味しいですね」

スコーンそのものはプレーンで、仄かな塩味と、小麦の風味しかない。
だからこそ味に癖がなく、色んなディップソースが合うのだろう。
美柑さんはやっぱり花より団子ですね、紅茶よりお菓子の方が好みなのでしょう。
まぁ、茜ちゃんも同じでしょうが。
なんて、茜ちゃんを見ると、茜ちゃんはムッとした。


 「セローラ、今私馬鹿にした?」

セローラ
 「な、なんの事で? ていうか別に馬鹿にしては……」


 「私は淑女なの、そんなにがっつかないもん」

伊吹
 「あはは〜、淑女かぁ」

ある意味本物の淑女と言える伊吹さんはから笑いした。
茜ちゃんも遊び心が生まれたのかな。
昔の無感情さに比べると、今は少しだけ感情を表すようになった。
良い傾向だけど、少し暴走しがちかな?


 「うん、紅茶美味しい」

大食いの茜ちゃんとは思えない紅茶の楽しみ方だった。
普段の茜ちゃんなら、先にスコーンから行くはずだけど、大人ぶっちゃって。

セローラ
 「しかし、なんだかお茶会を私達で独占しているみたいで悪いですねー」

私はそう言うと、たっぷり苺ジャムを塗ったスコーンを口に運んだ。
優しい甘さは口内に広がり、思わず微笑んでしまう。

保美香
 「そうですわねぇ、とはいえ里奈は学校ですし、凪と華凛は仕事、だんな様は言わずもがな、ですらねぇ」


 「皆バラバラ、少しだけ寂しい」

美柑
 「うーん、人それぞれですからねぇ〜、僕たちは案外一緒ですけど」

日曜日なら里奈ちゃんが振る舞う事もしばしばあり、永遠さんや茂さんが参加する事もある。
とはいえ、皆遊んでいる訳じゃない。
伊吹さんだって今は通信制の学校に通っているみたいだし、色んな免許を取得しているし。
案外皆揃う事は珍しいのだろう。

セローラ
 「考えてみれば、この家も結構狭いですよね?」

冷静に考えれば、ここはかなり大所帯だ。
個室はなく、茜ちゃんは夫の茂さんと命ちゃん3人で過ごしている。
今はいいかもしれないけど、いずれ困るだろう。
私だったらプライバシーの守れない環境は少し敬遠しちゃうかも。

保美香
 「引っ越しも検討に入れる必要があるかしら?」

美柑
 「でも、やっと里奈ちゃんだって学校で友達出来たんですし、卒業までは我慢した方が良いですよ」

伊吹
 「そうだねぇ〜、茂君の都合も〜あるしねぇ〜」

それはそうだろう。
私としては茜ちゃんは数少ない一番楽しいお友達。
これが家近だから最高なんだけど、引っ越しされたら、気軽に遊びに行けない。
可能なら阻止したい。
なんて、私個人の我儘なんて通じる訳ないですよねぇ。

セローラ
 「ごちそうさま」

私は紅茶を飲み終えると、最初に席を立ち上がった。

保美香
 「あら? おかわりはいいんですの?」

セローラ
 「今日は良いです、そろそろお暇したいと思いますし」

普段ならもっと長く楽しむのだけど、今日はその気分じゃない。
茜ちゃんにセクハラするのも気分が乗らないし、命ちゃんを起こす訳にもいかない。
なんだかしんみりしてきましたし、陽キャのセローラちゃんには辛いので退散します。

セローラ
 「それではまた明日♪」

私は最後にウィンクすると、玄関に走った。

美柑
 「待って、セローラ! 何かあったの?」

しかし後ろから美柑さんが追いかけてきた。
私は頭を掻くと、振り返って笑った。

セローラ
 「なに、幸太郎坊ちゃんの顔が恋しくなったんですよ♪」

私はそう言うと玄関を開く。
玄関を出ると、優しく扉を開いた……直後。

セローラ
 「っ!? な、なに?」

視線だ、何か背筋がゾッとするような視線を感じた。
私は警戒しながら周囲を伺う。
妖怪? いずれにしてもオカルト地味た気配だった。

セローラ
 (冗談じゃないですよ……こんな昼下がりに)

オカルトの定番は深夜でしょうに。
なんて思うも、冷静に考えればオカルトには朝も夜も関係ないのかも。
それは偏見に近いかもしれない。
ヘルガーというポケモンを見れば、多くは夜のポケモンだと誤解する。
黒い体は闇や夜を連想するからだ。
しかし実際は昼行性であり、夜行性とは言えない。
パンプジンというゴーストポケモンも同様だ、暗いイメージを受けるゴーストタイプだが、実際には太陽光を強く浴びれる場所をパンプジンは好む。
全ては偏見であり、勝手な印象操作の過ぎない。

そして私はオカルトに勝手な偏見を持っていたのかもしれない。
オカルトの定番は深夜だという、勝手な偏見を。

セローラ
 「はぁ、直ぐ戻りましょう」

私は深いため息を吐くと脱力して、通路を渡り歩く。
階段をゆっくりと降ると、1階に百代の表札を見つける。
ゴーストステップを使えば、僅か数秒の距離、本当に近くて助かります。

セローラ
 「ただいま帰りましたー」

私は玄関を開くと、部屋に入った。
静かだ、テレビの音が聞こえる。
絵梨花奥様や幸太郎の声は聞こえない。
もしかして昼寝しているんでしょうか?

セローラ
 「テレビを付けっぱなしとは」

私は通路を抜けると、リビングに入る。
構造は同じマンションだけに、常葉家に似ているが少し構造が違う。
それ程差は無いんですが、少しだけリビングが遠い。

セローラ
 「絵梨花奥様ー?」

私は絵梨花奥様を探した。
しかし、その時血の気が引く思いをした。
絵梨花奥様はリビングで仰向けに倒れていたのだ。


 「クスクス♪」

私は震えながら目線を上げた。
倒れた絵梨花奥様の側に一人の少女が立っていた。
怪しく笑う和風の少女、青い髪がセミロングで肩に掛けられ、血のように紅い瞳が私を捉えた。

セローラ
 「あ、アンタは!?」

一見すれば私と同じ位の背丈の少女だ。
だが不審な点があった。
頭に生える白い耳はピンと立っていた。
そして、少女は私の大切な物を抱えていた。

少女
 「質問、後ろの正面はだあれ?」

セローラ
 「は?」

その瞬間だった、私は上下が逆さまになる。

セローラ
 「なっ!?」

ズダン!

私はリビングに頭から落ちた。
何をされた!?
どういう原理!?
だが、迷っている暇なんてなかった。
私は熱量を高めると、瞳が燃え上がった。
私は立ち上がりながら少女を睨んだ。

セローラ
 「奥様と、幸太郎坊ちゃん何をしたんですかー!?」

少女が大切そうに腕に抱えていたのは、幸太郎坊っちゃんだった。
幸太郎坊ちゃんは眠っているのか、動かなかった。
私はコイツが敵なんだと確信する。

セローラ
 「坊ちゃんは返して貰います!」



霊視家政婦セローラちゃん! 第9話後編に続く。


KaZuKiNa ( 2021/07/14(水) 12:11 )