突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第8話 メリーさんの電話 前編

ここは旅立ち荘、ホストを持たないPKM達が居場所をシェアする。
旅立ち荘に入居さえすれば、その後は割と自由だ。
未だ自由と制約が絡み合う今日にとって、ここはある種PKMの楽園なのかもしれない。

クチート娘
 「あ、ちょっと卑怯ですわよ!?」

リビングでテレビの前に集まるPKM達。
今彼女達は皆で集まってテレビゲームを遊んでいた。
レースゲームのようで、1画面を4分割して、ややレトロなテクスチャのゲームだった。

マギアナ
 「あ、ハメ技は卑怯だぶー」

アバゴーラ
 「いつから俺達フォーメーション合体したんだ?」

ロコン
 「あはは! 1着は貰ったのだー!」

ゲームで首位を走るのは幼い六本の巻いた尻尾を持つ、小さな少女のロコンだ。
それを忌々しく思いながらも熱中し、没頭していたのはクチート。
クチートは身長こそロコンと変わらないが、等身そのものが低く、年齢はロコン程低くはない。
お嬢様とでも思わせるような服装は周りからは浮いていた。
アバゴーラは厳つい大男だ、あまり難しい事を考えるのは苦手で、ただ無骨な男。
マギアナは、この中では少し毛並みが異なる。
灰色姫と呼ばれるような格好は特殊で、他よりも浮世離れしていると言えた。

クチート
 「くぅ〜! 負けませんわよ〜!?」

ロコン
 「アッハッハ! クーも頑張れなのだー♪」

マギアナ
 「お先、失礼致します♪」

クチート
 「あ!?」

突然後ろからマギアナがクチートを抜いた。
ゴールは直前、もはや挽回する事も出来ずクチートは3着で終えるのだった。

ロコン
 「ナンバーワーン!」

クチート
 「はぅぅ……もう一本! もう一本ですわ!?」

クチートは項垂れると、もう一回勝負を求めた。
しかし、4着のアバゴーラが立ち上がる。

アバゴーラ
 「悪いな、俺はもうバイトだ」

マギアナ
 「あら、もうそんな時間ですか?」

無情だが、それぞれには事情もある。
アバゴーラが自分の部屋へと立ち去ると、代わりというように寮母のクイタランの燐が入ってきた。
クチートは燐を見ると直ぐに手招いた。

クチート
 「燐さん燐さん! 協力してくださいませ!」


「はいはい、それよりお昼ごはんよ、皆キッチンに来て!」

シェアハウスの旅立ち荘では食事もそれぞれのタイミングで行われる。
しかしキッチンは共用であり、ここでは当番制で食事を用意していた。
今日は燐がキッチン担当だった。

ロコン
 「わーい♪ ご飯なのだー♪」

クチート
 「……はぁ、ここまでですか」

クチートは落胆した。
既にロコンは食事に完全に意識が行っており、もう勝負にはならないだろう。
マギアナもゆっくりと立ち上がると、ゲーム機を片付ける。
仕方なくクチートはゆっくりと腰を上げると。

ブー! ブー!

クチート
 「あら? 何かしら?」

クチートの懐にはスマホが入っていた。
格安のスマホだが、振動してクチートに着信を連絡する。

クチート
 「ん? 通話かしら?」

それは初めての相手からだった。
クチートは不審に思いながら耳元にスマホを当てた。

クチート
 「もしもし室(むろ)ですが?」

スマホ
 『……』

スマホからは何も聞こえない。
クチートは眉を顰めた。
もしかして聞こえていないのか?
今度は更に大きな声を出す。

クチート
 「もしもーし! 聞こえてますのっ!?」

スマホ
 『今……ゴミ捨て場にいるの』

その時、スマホから少女の声が聞こえた。



突ポ娘シリーズ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第8話 メリーさんの電話



セローラ
 「あーかーねーちゃーん!」

今日も今日とて仕事を一通り終えて、お暇を頂くと私は幸太郎坊ちゃんと一緒に常葉家に訪れた。

保美香
 「はいはい、貴方毎日飽きませんわねぇ?」

ガチャリと玄関を開いたのは保美香さんでした。
私はなるべくにこやかに笑ってみせるが、保美香さんは明らかに呆れていた。

保美香
 「お入りなさい、ただし! あまり騒ぎませんこと!? 良いですわね!?」

セローラ
 「はーい」

私は許可を頂くと、靴を脱いで中へと入った。
私達はリビングに向かうと、茜ちゃんはソファーにいた。
しかし、茜ちゃんはソファーにもたれ掛かりながら、ぐっすり眠っていた。
その腕には赤ちゃんの命ちゃんがママに抱きついて眠っていた。


 「すぅ、すぅ」

セローラ
 「あはは、育児疲れでぐっすりですか」

保美香
 「これでも茜は甲斐甲斐しく命を世話していますわ、だから夜もありませんもの」

当然だろう、その苦しみは私も幸太郎坊ちゃんが産まれた時に散々味わった。
赤ちゃんには昼も夜もないのだ。
幸太郎は特に夜泣きがキツかったから、一時期私も性格が変わった気さえする。

セローラ
 「幸太郎坊ちゃん、命ちゃんは女の子なんですよ? だから優しくしましょうね?」

幸太郎
 「うう〜」

保美香
 「あらら、幸太郎もお眠のようですわね」

幸太郎は背負っていたから気づかなかったけど、気がついたらお昼寝モードに入っていた。
もう1歳なったお陰か、大分落ち着いてきたけど、まだまだ子供ですものね。

セローラ
 「保美香さんは平気そうですけど、夜は大丈夫なのですか?」

保美香
 「無論、だんな様を煩わせる訳にはいきません、命には悩まされますが、弱音は吐けませんわ」

そう言うと、保美香さんは欠伸をした。
ああ、やっぱり保美香さんも無理してるんだ。
保美香さんの性格からして、案外茜ちゃんより命ちゃんの世話頑張りそうだもんね。
それをおくびに出さず、日々の生活を熟すのだから、間違いなくプロフェッショナルだ。

セローラ
 「時々他人の子供が鬱陶しくなりません?」

保美香
 「……貴方に邪悪な物を感じますわ……、思う訳ないでしょう?」

そりゃ私、本質で言えば寧ろダークなポケモンですし?
まぁ保美香さんも後1ヶ月も命ちゃんの癇癪に付き合えば、憎悪の意味が分かるでしょう。

セローラ
 「絶対他人の娘世話する事に疑問を覚えますよ?」

保美香
 「邪推しますわね、だんな様の子供を嫌う訳ないでしょう?」

セローラ
 「保美香さん、隠し子とか作っても同じこと言えますかね?」

保美香
 「か、隠し子!?」

保美香さんは珍しく顔を真っ赤に上気させると、まるで生娘のように腰をくねらせた。
いや、どうせ保美香さんも処女だろうし、生娘に違いはないか。

セローラ
 「欲しいでしょ? ご主人さまの子供……」

私は保美香さんに静かに近寄ると、怪しく囁いた。
保美香さんは顔を真っ赤にしながらモジモジする。

保美香
 「そ、それは勿論……」

保美香さんだって、本音を言えば子供が欲しいのだ。
茜ちゃんが心底羨ましいだろう。
だけど、保美香さんの子供は公には出来ないでしょう。

美柑
 「ま、全く何を言っているんですか?」

おっと、私が保美香さんをダークサイドに誘っていると、後ろから美柑さんが現れた。
おのれ……ツルペタヘタレは破廉恥ネタが通じないですからね……。

美柑
 「全く隠し子なんて、隠し子、なんて……!」

セローラ
 (あるぇー!? 貴方も興味あるのですか!?)

美柑さんは如何にも興味がないって顔しているけど、そこには薄っすら頬を染める乙女な美柑さんがいた。

美柑
 (うぅ、そりゃ僕だって主殿の子供、欲しい……!)

セローラ
 「皆さん欲望が見えますね」


 「う、うん?」

おっと、茜ちゃんが目を覚ましました。
少し煩くなってしまったでしょうか?


 「ううん? セローラ?」

セローラ
 「おはよう御座います茜ちゃん」

茜ちゃんは目を擦ると、ゆっくりと上体を持ち上げた。
まだ自分がどういう状態かよくわかっていないみたいですね。
相当お疲れのようですから、ここはセローラちゃんも優しくして好感度を稼ぐ時!

セローラ
 「茜ちゃん、お疲れですか? 何かして欲しい事はないですか?」


 「お水……」

セローラ
 「はいはーい、ただいーー」

保美香
 「ほら、茜」

私がキッチンに振り返る間に、保美香さんは既に水の入ったコップを持ってきていた。

セローラ
 「なんと!?」

保美香
 「ふ、何を企んでいるか知りませんが、茜の事ならこのわたくし知り尽くしていますわ!」


 「……保美香、何か変?」

保美香
 「あら嫌ですわ、なんの事ですの?」

保美香さんは水を渡すとあからさまに頬を緩ませた。
流石に茜ちゃんも不審そうにジト目だが、その理由はねぇ?

美柑
 「保美香さんが媚を売っている……!」


 「媚?」

セローラ
 「隠し子が欲しいんですよ」

私はもう保美香さんの狙いを暴露する。

保美香
 「は、謀ったのですかセローラ!?」


 「隠し子……」

保美香さんはあからさまに慌てるが、茜ちゃんは動じずコップに口を付けて、水を飲む。
まぁどの道、ここで暴露しなくてもいずれバレると思いますが。
保美香さんもやっぱり俗物ですねぇ。


 「いいんじゃない?」

保美香
 「は?」

茜ちゃんの言葉に保美香さんはあっけらかんとした。
茜ちゃんは眠った命ちゃんを優しく撫でると、言葉を続ける。


 「保美香が欲しいって言うなら、私はそれを推してあげるだけ、後はご主人様次第だけど」

茜ちゃんのその言葉に保美香さんはおろか、私達まで呆然としてしまう。

セローラ
 「美柑さんも立候補するべきでは?」

美柑
 「は、破廉恥です……!」

私は美柑さんの肩を小突くと、美柑さんは顔を真っ赤にした。

美柑
 (は、恥ずかし過ぎる……!)


 「保美香?」

保美香
 「……は!?」

気を失っていたのか保美香さんは、素っ頓狂な声を上げると、その場でキョどる。
今更保美香さんのそういう初心な反応誰も求めてないんですから。

保美香
 「そ、そうですわ! そろそろお買い物に行きませんと!」

保美香さんはそう言うと、そそくさと手早く出かける用意をした。
財布を確認し、エコバッグを用意した保美香さんはそそくさと出て行く。

保美香
 「そ、それでは失礼しますわ〜♪」

バタン!

セローラ
 「ヘタレ2号ですか」

隠し子をオッケーどころか、推してくれるっていう茜ちゃんも大概だけど、まさかのオッケーに急に臆病になる保美香さんも保美香さんね。

セローラ
 「ちなみに私もご主人様としても良いんですか?」


 「セローラは駄目」

美柑
 「ていうか、主殿が許すと思っているんですか?」

セローラ
 「茜ちゃんに言われたら、諦めざるをえない!」

ていうか、分かってますけどね!?
そりゃご主人様になら、私も良いって思ってますけど、どうせ選ばれないですもん!


 「う〜」


 「あら、命?」

命ちゃんが目を覚ました。
命ちゃんはまだ目も開いていないからか、その小さな手をフラフラと振った。

美柑
 「どうしたんでしょう?」


 「う〜」

セローラ
 「おっぱいじゃないですか?」

私は命ちゃんの反応がお腹すいたではないかと推測する。
幸太郎坊ちゃんも唐突に求める事があったし、多分間違いない。


 「そうなの?」


 「う〜」

美柑
 「セローラ、自重してくださいよ?」

セローラ
 「まだ何もしてないのに!?」

茜ちゃんがおっぱいを出すと、命ちゃんはしゃぶりついた。
そりゃセローラちゃんムラムラする場面ですけど、流石に混ざる勇気はありませんよ!?


 「セローラ、一歩でも近づいたら、ボン! だから」

セローラ
 「ボンってなに!? 私はちにゃるの!?」

美柑
 「はいはい、大人しくしましょうね」

美柑さんは私の腕を掴むと、そのまま引っ張った。

セローラ
 「セローラちゃん、今回は自重してるんです! 本当です! 信じてください!」

美柑
 「嘘くせー、すっげー嘘くせー」

結局信用されることもなく、私は授乳中拘束されるのだった。



***



幸太郎
 「みこと〜」


 「う〜」


 「あら、もう幸太郎は命の事覚えたの?」

授乳の後、幸太郎も目を覚ました。
まだまだ可愛いい子供だけど幸太郎は命を優しく撫でてあげる。
もうお兄ちゃんの自覚があるのかしら?

セローラ
 「このまま幸太郎坊ちゃんもこれで年長者として自覚を得てくれれば良いのですが」

美柑
 「セローラももうちょっと大人になってくれれば」

セローラ
 「ふーんだ! 型に嵌った大人なんて願い下げです!」


 「知ってる……セローラ、媚びるし、打算的で俗物だけど、その性格だけは神が相手でも従わないわね」

美柑
 「冷静に考えて、茜さんのセローラの評価の世知辛さがやばい!」

茜ちゃんの微妙に口が悪い所もセローラちゃん的にはどうかと思いますけど、もうそこも含めて茜ちゃんですからね、愛しちゃう!


 「それにしても保美香遅いね?」

美柑
 「そういえば……」

セローラ
 「なんだか無性に嫌な予感がするのぅ……!」


 「奇遇じゃな、ワシもじゃ……じゃなくて、嫌な予感って?」

私は何も言わない。
美柑さんはなんとなく感じ取ったのか、私に寄ると耳打ちをする。

美柑
 「も、もしかしてオカルトですか?」

セローラ
 「さあ? 年がら年中出ても困りますが」

嫌な予感とは言うが、確証はない。
ただ最近頻出するオカルトには否が応でも敏感になってしまう。
気の所為ならそれに越したことはない。


 「二人共、どうしたの? あら?」

ふと、茜ちゃんがスマホを見た。
スマホに着信があったのだろう。


 「保美香からね? え、セローラ?」

セローラ
 「はい?」

なんで私の名前が?
茜ちゃんは保美香さんから送られてきたメッセージを確認すると、私に見せる。
その内容は私を催促するものだった。

保美香
 『至急セローラを呼んでください、場所は……』

セローラ
 「旅立ち荘?」

聞いたことのない場所だった。
それよりも何故私なのか?
だが、知らんぷりと言う訳にもいかないか……。

セローラ
 「無下にはできませんね……幸太郎坊ちゃん? 命ちゃんと仲良くするのですよ〜?」

幸太郎
 「セロ〜?」

セローラ
 「はーい、出来ますか?」

幸太郎
 「あ〜いっ!」

幸太郎坊ちゃんは笑顔で手を上げると、私は優しくワシワシと頭を撫でた。

セローラ
 「幸太郎坊ちゃんが癇癪起こしたら直ぐに連絡ください!」


 「ん、任せなさい」

幸太郎坊ちゃんはまだ1歳、不意に癇癪を起こすことも珍しくない。
今は非常に喜怒哀楽が活発で、本当に手が焼けるのだから。

セローラ
 「よし、それじゃ行きますよ美柑さん?」

美柑
 「えっ?」

私はむんずと美柑さんの腕を掴むと美柑さんは素っ頓狂な声を上げた。
私は無言で美柑さんに圧を掛けると、美柑さんは顔を徐々に青くした。

美柑
 「え? じょ、冗談ですよね?」

セローラ
 「茜ちゃん、美柑さん借りていきますよ?」


 「よしなに」

美柑
 「えっ!? 茜さん裏切……やだぁぁぁ!?」

私は美柑さんを引きずると、現地へと向かうのだった。



***



クチート
 「はぁぁ……」

旅立ち荘の入口ではクチートがげんなりとした溜息を零した。
その周囲には燐にマギアナ、ロコン、そして保美香の姿があった。

マギアナ
 「メリーさんですか?」

保美香
 「とりあえずオカルトに妙に詳しい子を呼びましたわ」


 「オカルトの専門家?」

買い物に出た保美香はばったり燐と出会った。
以前知り合う機会を得た保美香と燐は、クチートに怪しい通話が繰り返されていると事情を説明すると、保美香はセローラを呼んだのだ。

セローラ
 「えーと、ここで合ってる?」

セローラだ、セローラはスマホを片手に旅立ち荘にやってきた。
その手には美柑の首根っこを掴みながら。

セローラ
 「あ、保美香さん!」

セローラは保美香を発見すると、すかさず駆け寄った。
しかし保美香はセローラより寧ろ涙目の美柑を見る。

保美香
 「なんで美柑まで来ましたの?」

美柑
 「来たんじゃない! 強制連行されたんだ!?」

セローラ
 「いやいや駄々こねますから苦労しましたよ!」

美柑のオカルト嫌いは周知の事実だ。
保美香は思わず頭を抱えるが、セローラも意地悪するために呼んだのではない。

セローラ
 「それで? どうせオカルト絡み何でしょ?」

セローラは苛立つように、呼ばれた要件を聞いた。
保美香も悪いとは思っているが、保美香が知る限り最もオカルト系で頼りになるのはセローラしかなかった。

保美香
 「メリーさんって知ってます?」

セローラ
 「は? メリープ?」

美柑
 「それはメリーさんの羊では?」

マギアナ
 「ついでに言えば寧ろメリープはアンドロイドは電気羊は夢を見るのか、ではないでしょうか?」

ロコン
 「マギアナ博識なのだ〜」

マギアナ
 「原題Do Androids Dream of Electric Sheep?」

美柑
 「マギアナ……!」

美柑はマギアナの存在に驚いた。
マギアナはしばらく常葉家に滞在していた。
いつまでも置いていてもらうのは悪いと出て行ったが、案外近くにいる物だ。

マギアナ
 「お久しぶりです、美柑さん♪」

美柑
 「あ、うん……」

マギアナは相変わらず人懐っこい様子だった。
セローラは面倒そうに霊視に変えると、周囲を伺う。
すると、クチートから不審な物を感じ取った。

セローラ
 「霊障?」

クチートに突如かかったメリーさんの電話。
そのオカルトの正体は……。



霊視家政婦セローラちゃん! 第8話後編に続く!


KaZuKiNa ( 2021/06/08(火) 18:47 )