突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第6話 峠の怪 後編

セローラ
 「遅い奴には、ドラマは追えない」

幸太郎
 「あ〜う〜?」

セローラ
 「ケッ! テメェ、グッドラックだったな!」

夜も更けてきた中、奥さま達も寝静まり、私もそろそろ寝床に就こうという時間、突然私はネタが舞い降りてくる。
幸太郎坊ちゃんはまだ眠たくないようだけど、夜更しは良くないですからね。

セローラ
 「良い子は早くSleep……そう……、それがこの家のRule……、ごま塩程度に覚えていて下さいね」

雲外鏡
 『……今日のお主なんか変じゃのう』

セローラ
 「妖怪はPASSさ」



***



ドルルルル……!

真莉愛
 「……」

私は峠を走り終えると、コンビニが見えてきた。
車をアイドリングさせて、コンビニの駐車場に駐車させると、コンビニの前にいた少女を見た。
凄まじいスピードで駆け抜けた幼いPKMの少女は、地元のライダー達と談笑していた。

ライダー
 「へぇ! レジエレキちゃん! レースをしているんだ!」

レジエレキ
 「うん! この場所って走り屋って言うのがいるんでしょ!?」

ライダーB
 「まぁ、その性で事故が多いんだけどな」

真莉愛
 (レジエレキって言うんだ……)

私は外に出るタイミングを伺いながら、もう少し情報を探った。
レジエレキって言うポケモンの情報は無い。
未知のポケモンって言うのは……危険といえば危険ね。
でも、私はサングラス越しから、屈託のない笑顔を浮かべ、楽しそうにライダー達と談笑する少女を見た。
未知であることは危険かもしれない、でも彼女が危険とは限らない。
特に私個人としては、彼女が今回の事件の犯人とはどうしても思えなかった。

レジエレキ
 「ねぇ!? この場所で一番速いのって!?」

ライダーC
 「そりゃカイザーが……いや、待てよ?」

ライダーA
 「カイザー以上なんていたか?」

真莉愛
 「カイザー(皇帝)ね」

私は走り屋には興味が無いし、むしろ法定速度を越える輩を捕まえる立場なんだけど、その名前には流石に苦笑してしまう。
もうカイザーとか呼ばれてる時点でかなり痛いし、本当にそういう奴存在するのね。
マンガやアニメの世界だけかと思ったけど、冷静に考えるとPKMって存在自体数年前までなら、荒唐無稽なマンガの存在だったのよね。

ライダーC
 「最近、すげぇ速い婆さんがいるって噂あったろう?」

ライダーB
 「ああ! 何人もドライバーが事故ったていう!」

真莉愛
 (っ!? それって!?)

レジエレキ
 「速いの!?」

ライダーC
 「誰もその走りを見た奴はいない……いや、生きてないが正解なんだが、少なくとも車やバイクのスピードじゃないって言われてるな」

真莉愛
 「その話、もう少し詳しく聞かせてくれない?」

私は車から出ると、屯する彼らのもとに向かった。
ライダー達は、黒スーツにサングラスの私に不信感を抱いた様子だが、一方でレジエレキは顔を明るくした。

レジエレキ
 「あ! 結構速かったねーちゃん!」

真莉愛
 「御影真莉愛よ、物凄く速いお嬢さん♪」

速い、と呼ばれると少女は満面の笑みを浮かべた。
見た目は幼いが、中身も幼いって感じね。
ただ速度に異常な拘りがあるって感じだろうか?

真莉愛
 「ねぇ? ライダーさんたち? そのおばあちゃんについて教えてくれない?」

私はなるべく優しく微笑んだ。



***



都市伝説がある。
どこにでもありふれた地方によってマイナーチェンジが繰り返された摩訶不思議な存在。

真莉愛
 「ターボお婆ちゃんの都市伝説……」

それは俄には信じ難い物だった。
ライダー達が伝える都市伝説、近代妖怪とも呼ばれるターボ婆ちゃんはまことしやかに伝えられ、そして峠の死神として扱われたのだ。

愛紗
 「あり得るんですか? オカルトですよ?」

情報を聞き終えると、ライダー達はバイクに跨って走り去って行った。
私は愛紗の言葉に「う〜ん」と頭を抱える。
都市伝説は実在するか?
あまりにも荒唐無稽なその存在は20年は前の存在だ。
しかも目撃情報は口伝のみで、むしろ自然現象を誤認したケースが考えられる。
3年前ならPKMも荒唐無稽だったってのにね?

レジエレキ
 「ターボおばあちゃんかぁ〜!」

一方レジエレキは大きな目をキラキラさせた。

真莉愛
 「ねぇ? レジエレキちゃんはどうしてそんなに速さに憧れるの?」

レジエレキ
 「うにゅ? そんなの決まってるじゃん! 速いって格好いい!」

愛紗
 「な、なるほど……?」

レジエレキ
 「アタチは一番速い! それを証明するのだー!」

そう高らかと宣言すると、レジエレキは高笑いした。
私はレジエレキちゃんを見て思案する。

真莉愛
 (本当に妖怪だか都市伝説だか、知らないけど存在する?)

ターボおばあちゃんは物凄いスピードで走る伝説を各地に残している。
だが、真の意味でそれ見たものはいない。
しかし、現実にここで4人が死んでいる。
PKMだろうが妖怪だろうが裁かなければならないなら、やるしかない……か。

真莉愛
 「ねぇ、レジエレキちゃん? 私と手を組まない?」

レジエレキ
 「うにゅ?」



***



私はレジエレキちゃんを後部座席に乗せると、峠を登っていた。
事故が起きた時、それは3件とも下りの時、ならば意図的にターボ婆ちゃんに遭遇するためにはスタート位置まで戻らないといけない。

レジエレキ
 「ハグハグハグ!」

私はバックミラーから菓子パンにがっつくレジエレキちゃんを見て、レジエレキちゃんに言う。

真莉愛
 「場は私が用意してあげる」

レジエレキ
 「ハグ……ん、そのターボおばあちゃんってのが現れたらアタチが自由にしていいのね!?」

私は頷く。
車に走りで挑むのはイカれている。
だがターボ婆ちゃんは実際その足で走るのだ。
一歩間違えれば車と衝突する、そうなれば体重1トンに迫る物体が時速80キロだかで襲ってくる。
人間ならひとたまりもない。
そんなクレイジーランナーに挑むには、こちらもクレイジーなランナーを用意するしかない。

レジエレキ
 「それにしてもこれ美味しいねー!」

愛紗
 「コンビニのパンにこんなに喜ぶなんて……」

よっぽどお腹が空いていたんだろう。
少食の愛紗からすればビックリする程、レジエレキちゃんはパンの包を次々と破り、その胃に収めていった。

レジエレキ
「フシシ♪ 食べられるって幸せだねー♪」

真莉愛
 (やっぱり幼いわね)

喜怒哀楽が激しくて、行動はすごく子供っぽい。
こんなの子が今まで放置されていた事は驚きだ。
それともこの世界に召喚されてまだ間もないのか。
しかしいずれにしろ、都市伝説に挑むには彼女の力を借りるしかない。

真莉愛
 (妖怪を捕まえられる? 法律の元裁ける? 色んな疑問は潰えない……それでも私はやるしかない……!)

やがて、私はスタートラインに戻ると、上りから下りに車線変更して、しばしアイドリングさせた。
自分の中に去来する恐怖と不安。
そしてレジエレキちゃんを想う。

真莉愛
 「愛紗、レジエレキちゃん……行くわよ!」

私は思いっきりアクセルを踏み込む。
空転するタイヤ、しかしアスファルトを一度掴むと、一気に加速する。

レジエレキ
 「ワッフー♪」

私は法定速度を完全に無視した危険なスピードで、峠を攻める!
私の些細なミスが私だけではなく、愛紗とレジエレキちゃんを危険に晒す、それが堪らなく怖い。
手には冷や汗が湿り、ハンドルを握る力を強める。

やがて、愛紗が何かに気がついた。

愛紗
 「なにか……なにかが来ます!!」

私はサイドミラーを見た。
車じゃない、物凄いスピードで人の形をしたなにかが来た!

レジエレキ
 「出番キター!!」

レジエレキちゃんは後部座席のドアを開くと、外に躍り出る!

バチバチバチィ!

レジエレキちゃんはスパークを全身から放つと、周囲が少しだけ明るくなった。
その際映ったのは、着物を着た老婆の姿だった。

レジエレキちゃんは一時的に地面に着地するまで、その場に滞空するため、距離が離れる。
それと引き換えに老婆は一気に距離を縮めてきた。

真莉愛
 「愛紗、万が一はお願いね?」

愛紗
 「マスター、あなたのダークライを信じてください」

愛紗は厳粛にそう言うと、私は微笑んだ。
臆病で寂しがりで、弱気な少女が、ダークライを信じてくれと言ったのだ。

真莉愛
 「信じるわ! 世界で一番大切な娘だもの!」

ギャギャギャ!

厳しいヘアピンカーブをドリフトさせながら曲がる!
その間にもターボおばあちゃんが距離を詰めてくる!
やがて、直線に入るとターボおばあちゃんが並走する距離まで来た!

真莉愛
 「そこのおばあちゃん! 氏名と目的を教えなさい!」

ターボおばあちゃん
 「にぱぁ……妾、ただ速さの伝説……故に速さという概念」

愛紗
 「概念……?」

私はドライビングに必死になりながら言葉を拾った。
マジモンの妖怪じみた相手の声は、時速120キロで走っているにも関わらずクリアに聞こえる。

老婆がやがて車を抜こうとした刹那。

レジエレキ
 「バビューン!! 勝負だー! ターボおばあちゃん!!」

ターボおばあちゃん
 「ぬ!?」

一条の光を纏ったそれは凄まじい電光を放ちながら一気に私達に追いついてきた。
レジエレキちゃんは目当ての相手を見つけ、ニンマリと笑う。

真莉愛
 「速さの概念だっけ? ならあの娘に勝てる? すっごく速いわよ!?」

ターボおばあちゃん
 「ぬう! 負けぬ! でなければ都市伝説は成り立たぬ!」

ビュン!!

凄まじい突風が車体を揺らす。
レジエレキちゃんが凄まじいスピードで車を追い抜いたのだ。
私は安全を図りながら横を見た。
既に老婆の姿はない。

真莉愛
 (都市伝説なんて、信じるも信じないも私次第、か)

私は、速すぎる二人を後ろから追いかけると苦笑した。



***



レジエレキ
 「イケイケゴーゴー!」

ターボおばあちゃん
 「ぬう!」

全てを置いてけぼりにするかのような超速のランナー達が風を切る。
深夜の峠道、その下りで二人の爆速ランナーは鎬を削っていた。

ターボおばあちゃん
 「速い……だが、なぜ妾は誕生した? それはスピードに対する畏敬! 故に妾は、あらゆる速度を超越する!」

ターボおばあちゃんは地方によって亜種が多い。
そしてその都市伝説は時速40キロとも、マッハとも伝えられる。
だが、真の意味でターボおばあちゃんを表すならば、あらゆるものよりも速い、が正解だろう。
事実レーシングカーをも越える速度で走るレジエレキより僅かにターボおばあちゃんの方が速いのだ!
しかしレジエレキちゃんは微笑む。
嬉しくて仕方がない、自分と正面からレース出来る相手が現れたのだ!

レジエレキ
 「ギア入れて行くよー!」

レジエレキが加速した!
だが老婆も怪しい笑みを崩さない。
速さの概念は、僅かに相手よりも速く動く事象そのものだ。
レジエレキの高速移動はそれこそ音速に迫るものだった。
しかし何故か抜けない、レジエレキは苦しさを滲ませる。

レジエレキ
 (くっ!? 抜けない……! なんで? アタチが遅い? いや、そんなこと、……ない!)

レジエレキは更に高速移動を使い、加速する。
やがて、レジエレキは全ての音が置き去りにした。
しかし極度に集中し、アドレナリンを放出するレジエレキはその現象に気が付かない。

だが、レジエレキはターボおばあちゃんを抜いたのだ!

ターボおばあちゃん
 「なに!? 妾は速さの概念! 必ず何よりも速い! そうでなければ!?」

レジエレキ
 「アタチが一番だぁぁぁ!!」

ターボおばあちゃんは食い下がるが、距離が徐々に離れていく。
ターボおばあちゃんは逡巡した、固有結界により、必ずターボおばあちゃんは相手より速くなるという性質がある。
これがあるから地方での速度ブレが激しいのだ。
自転車相手ならそんなに速度はいらないが、新幹線が相手なら音速に迫る必要がある。
そんな具合だ。
しかし、レジエレキは高速移動を使い、加速し続ける。
やがて、彼女は速度の概念を越えたのだ。
そう……レジエレキはただ速度というベクトルの一点特化で、都市伝説の元となった固有結界を突き破ったのだ!

ターボおばあちゃん
 「そ、んな……妾が遅ければ、その、存在……は」

固有結界が崩壊する。
それと同時にターボおばあちゃんは存在を保てなくなった。
レジエレキは歪む光景を知覚できない。
ただ、自らのスピードを証明して悦に入った。

やがて、ターボおばあちゃんは結界ごと消滅し、レジエレキは峠を下りきる。
しかし、彼女は止まらなかった。



***



真莉愛
 「終わった……のね?」

愛紗
 「レジエレキちゃんはどこに?」

真莉愛
 「さぁ? だけど今彼女はスピードの向こう側に行ったんでしょうね」

私達は遅れて峠を下りきったが、レジエレキちゃんはその場にはいなかった。
そのまま都市部に走り抜けていったのだろう。
速さの都市伝説を追い抜いた彼女は、新たな都市伝説を生み出そうとしているのか。

しかし、レジエレキの前には新たな世界が広がるだろう。

走れ! レジエレキ! 我が前に敵は無い!



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第6話 峠の怪 完



次回予告!


セローラ
 「OWATTE SHIMATTA」


 「エンド?」

セローラ
 「てか、今回セローラちゃん全く出番ないんですけど?」


 「ワガママね、私はもっと無いのに」

セローラ
 「大体今回何やりたかったのか、不明瞭だし、スピード勝負やりたかったのか、ワイルスピード的なのか、それとも戦う人間発電所なのか」


 「セローラ、次回は?」

セローラ
 「あ、次回セローラちゃん、病院に行く!」


 「そう……やっぱり、セローラ頭が……」

セローラ
 「精神病院じゃないですよ!?」



KaZuKiNa ( 2021/04/21(水) 18:44 )