突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第6話 峠の怪 前編

ブルゥゥゥン………!

それは深夜の峠道。
周囲には民家もなく、山肌を背負って黄色いスポーツカーが走り抜けた。
それは明らかに法定速度を超えるものだった。
ゆうに時速100kmは越えており、もし対向車線から車が現れたらどうするつもりだろう?

だがそのスポーツカーのドライバーはそのような予想はしなかった。
今日もご機嫌なBGMを車内に大音量で流して、ハンドルを軽快に切る。

ギャリリリリ!

ドライバー
 「ヒュウ! 今日もご機嫌だねー! うん?」

ドリフトするように急カーブを進むスポーツカー、不意にドライバーは前方に何かを発見した。

お婆さん
 「……」

それは古めかしい和服に身を包んだ老婆だった。
老婆は何故か、対向車線に杖を突いて佇んでいる。
ドライバーは不審に思った。
最初は迷子かと思った。
しかし、ここは民家も殆どない山の中だ。
老婆が深夜に一人で歩く場所ではない。
ドライバーは結局、不気味に思いながら、徐行運転に切り替え老婆を追い越した。

しかし……不意にサイドミラーにそれは映った!

ドライバー
 「アイエ!?」

突然老婆がダッシュで車に迫ってきた!
ドライバーは驚きのあまり、アクセルを踏み込むと、エンジンは唸りを上げ、車は一気に加速した。
だが、老婆が引き離せない。
やがて、老婆は時速100kmを越える車に並走した。
ドライバーは恐怖を顔に貼り付け、横を見た。

お婆さん
 「にぱぁ……」

老婆は嬉しそうに妖しく笑った。
直後……。

ガッシャァァァン!



1時間後、落下防止用のガードレールを飛び越え、急な斜面の真下で炎上する黄色いスポーツカーが発見された。

サングラスをした女性
 「……ドライバーは即死、ですか?」

救急車と警察車両が事故現場に集まる中、紅いスポーツカーが不自然に停まっていた。
ドライバーは御影真莉愛、PKM対策班のエージェントである彼女がこの場所に現れた理由は?



突ポ娘シリーズ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第6話 峠の怪



真莉愛
 「PKM案件か……それともただの事故か?」

事故現場からあら方撤収する中、私は自分の車のドライバー席で、座席にもたれ掛かりながら今回の事件を捜査していた。

美しいPKM
 「ドライブレコーダーに何が映っているか、ですね」

後部座席でそう言ったのはダークライのPKM愛紗だった。
愛紗は私の相棒として、PKM案件の対処に携わっていた。

真莉愛
 「はぁ……3件目よ? 今月でこの峠道で3件も交通事故が起きてる!」

私は何故こんな場所にいるのか、改めて振り返った。



発端は1ヶ月前の事だ。
最初の事件は、車が高速でガードレールにぶつかり、ドライバーはフロントガラスを突き破り、重症……30分後には心肺停止した。
回収されたドライブレコーダーには何かが迫ってくるという、緊迫したドライバーの声が捉えられていた。
残念ながら映像は怪しい影を捉える事は出来なかったが、警察はこの事件にPKMが関わっているのではないか?
そう判断し、問題の捜査にPKM対策部の出動が求められたのだ。

真莉愛
 「2軒目は対向車と正面衝突……ぶつかったドライバーは両方とも即死、ドライブレコーダーにはやっぱり何かが迫ってくるという緊迫感のある声が録音されていた」

愛紗
 「PKMだとしたら……どんなポケモンなんでしょう?」

警察はこの事件をPKM案件と判断している。
確かにPKMはそれこそピンキリ、どんなトンデモ異能者がいるか分かった物じゃないからね。
個人的にはPKM案件とは思い難いんだけど、兎に角死んだドライバー達が何を見たか、しっかり確証をとらないとね。

真莉愛
 「今回は私と貴方しかいないけど、まぁ頑張りましょう」

私はそう言うと、エンジンに火を入れ、車を発進させる。
私には4人のパートナーがいる。
ダークライの愛紗、ゴウカザルのほむら、ミカルゲの白、アリアドスの杏。
だけど、ほむらは今警察学校に通っており、力を借りることは出来ず、杏も大学に通う中とても力なんて借りられない。
白に至っては海の向こう側でハーバード大学に通っている。
空間物理学で博士号を取った秀才は今や、日本に帰ってくるのも年数回という有様だ。

愛紗
 「久し振り、ですね」

真莉愛
 「ん?」

愛紗
 「最初の頃は、ずっと二人っきりだったから」

真莉愛
 「ああ」

愛紗の言っている意味が分かった。
私達の馴れ初めはまだ私が今の部署ではなく、検事局に所属していた頃。
私は年の瀬の頃、愛紗と遭遇したのだ。
その後、増え続けるPKMを守る為に私は愛紗と共に奔走した。
やがて、それは徐々にパートナーも増え、私達が二人っきりになる事はどんどん少なくなっていた。

真莉愛
 「ふふ、頼りにしているわよ♪ 私の大切なプリンセス♪」

愛紗
 「プ、プリンセス……」

私は微笑を浮かべるとバックミラーから照れて顔を真っ赤にした愛紗を見た。
一先ず私達は峠道を走って、不審な物を探す事を繰り返している。
夜に強い愛紗はいいが、昼夜逆転している私は流石に憂鬱だ。
なにせこれで、昼の業務もある訳でね?
そんな訳で深夜3時には帰るのだった。



***



真莉愛
 「オーハロー♪」

翌日、私は僅かな仮眠を取ると、昼の業務に映っていた。
先ずはパソコンから対応すべき案件をピックアップし、それを纏めると、昼の街に出るのだった。
今日は少し縁のある人物のご家庭に向かっていた。

真莉愛
 「とりあえず第一子ご出産おめでとうございます♪」

私がやってきたのは常葉家、目の前には常葉茂さんが座っていた。


 「すいません、茜はまだ病院で」

真莉愛
 「ううん、いいのよ……確かに本来は三者面談の予定だったけど」

今日は数件、ホストの方に面談を行う予定があった。
面談と言っても内容は、PKMと上手くやれているか、なにか思いも寄らない問題が起きてないか、そんな事を聞くのが目的だ。
まぁ本当の目的は、PKMがなにかホストに非道な事をさせられてないか監視するのが本当の目的だけど、常葉さんは◎の合格ね。

保美香
 「粗茶ですが」

真莉愛
 「ああ、ありがとうございます保美香さん」

私は束の間、熱いお茶を頂くと、ため息を吐いた。

真莉愛
 「お茶が美味しい……はぁ」

保美香
 「疲れてますの?」


 「仕事、忙しいんですか?」

真莉愛
 「まぁ、ね……今面倒な案件があってねぇ」

本当はうかつに内調のお話しちゃいけないんだけど、気心の知れる相手だからか、つい呟いてしまった。
PKMが起こす犯罪、それを裁くのも私の仕事だから、憂鬱なのだ。


 「なにか、相談の乗れる事があるなら……」

真莉愛
 「ストップ! そこまでよ? 一般人の方が関わる案件じゃないの!」

常葉さんは相変わらずヒーローしてるというか、私を心配して力を貸そうとしてくるが、それじゃ本末転倒なのだ。

真莉愛
 (タイムリーパーの常葉茂、一応気をつけないといけない相手だものね)

常葉さん自体はお釈迦様も呆れるお人好しっぷりだが、同時にそれだけ危険性のある人物でもある。
ここ最近平和だけど、気は抜けないのよねぇ。

真莉愛
 「……それじゃ特に問題もなさそうですし、お暇します」

私は直ぐにお茶を飲み終えると立ち上がった。
最後に一応常葉家のPKMを確認する。

真莉愛
 「常葉さん、お子さんが出来て大変だと思います、なにか問題があればいつでも相談してくださいね?」

常葉茜の子供、常葉命はこの世に生を受けたのは1週間前の事だった。
まだ全国でも例数の多くないPKMのハーフ、これから社会の法整備は進んでいく。
せめて第二世代のPKM達は何不自由のない世界にしたいものね。


 「茜も、そう言って貰えれば喜ぶと思います」

真莉愛
 「うん♪ 相思相愛っぷり、妬いちゃうわね!」

私は玄関まで見送ってもらうと、そのまま常葉家から出る。
さて、次は百代さんの家ね。

真莉愛
 「愛紗は……あら?」

私はマンションの通路から、下を覗くと愛紗はいた。
一応万が一を考えて連れてきたけど、この時間は休んでいるように言った筈なのに、愛紗は外に出ていた。
何やら誰かと会話しているようだけど?



***



セローラ
 「ジー……」

愛紗
 「あ、あの……なにか?」

私は見慣れないPKMをマンションの入口で見つけて近づいた。
確か一度顔を合わせた気がするんだけど、生憎名前が思い出せない。
てかまぁ、相手の詳細とかセローラちゃん的にはどうでもいいんだけど、気になるのはそのPKMのスタイルだ。

セローラ
 「うん、ウエストが細すぎるのが気になるけど、胸は立ってるし、ロケットおっぱいの巨乳ね、80点」

愛紗
 「ヒィ!?」

私はニヤリと笑うと指をワキワキと動かしながら、このPKMにゆっくりと迫る。
ここ最近の欲求不満なのだ、茜ちゃんは入院してて会う機会ないし、そろそろセローラちゃん暴走しちゃうかも♪
スタイルの良いPKMはいい具合に身を縮こませて、顔を青くしていた。
そういう顔は余計にセローラちゃんは興奮しちゃうんですよね〜♪

セローラ
 「貴方バストはいくら? 10秒あげるから教えて下さい」

愛紗
 「へ、変態……!」

セローラ
 「10……9……8……7、ヒャア、ガマンできねぇ0だ!」

私はもう我慢できず、そのPKMに飛びかかる!
目測では90はあると見た!
とりあえずひん剥いてお持ち帰りー♪

真莉愛
 「愛紗! ダークホール!」

愛紗
 「っ!」

突然頭上から女性の声が聞こえた。
それに応じて目の前のPKMは手を構える。
黒い球体は手から飛び出すと、私はそれを直撃してしまう。

セローラ
 「うぐ、急に眠気、が……!?」

どうやら催眠術の類の技らしく、私はあっさりその場で眠ってしまった。



***



真莉愛
 「貴方! それでも人間なのっ!?」

突然愛紗に襲いかかるセローラちゃんを無事鎮圧した後、私はホストの絵梨花さんとの面談も兼ねて、お説教を行った。
しかし軽く悪夢も見たはずなのにセローラちゃんは悪びれもせず。

セローラ
 「テヘペロ♪ サーセン!」

愛紗
 「全く反省してない……」

絵梨花
 「ご、ごめんなさい! ウチのセローラちゃんがご迷惑を!」

セローラ
 「いやぁ、夢の中に出てきた子は良かったなぁ〜♪ 踏んだり蹴ったりだったけど、あの程度揉めるなら悪夢も安いわよねぇ〜♪」

真莉愛
 「はぁ……、百代さん、とりあえずセローラちゃんの監督役はしっかりお願いします」

絵梨花
 「はい! はい! 本当にすみません!」

ホストの絵梨花さんは本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げた。
セローラちゃんがちょっと問題のある子なのは自覚していたけど、一番嫌なのはこういう問題を上司に伝えないといけない事なのよね。
上の役人も一度外に出したPKMをまた戻すのは面倒もあって嫌だろう。
しかし、最悪こっちも強硬な態度を示さないといけなくなる。

真莉愛
 「セローラちゃん? あまり悪びれもせず、あんなセクハラ紛いの事をしていたら、こっちも相応の手段に出なければならなくなるわ」

セローラ
 「え? それってやっぱり、身売りとかされて、地下労働施設とかで強制労働とかさせられちゃう!? ざわ、ざわ……!」

真莉愛
 「別に好き好んでそんなアングラな場所には連れて行かないわよ! ただ収容所に送還される可能性を忘れないで?」

セローラ
 「う……」

真莉愛
 「セローラちゃんが自由でいられるのは、ある意味で国の恩赦であると言う事、忘れないでね……」

これから加速度的にPKMが道を踏み外し、犯罪を侵す件数は増えるだろう。
海の向こう側アメリカではヴィランと呼ばれるPKMの犯罪者達が既に社会問題に発展しており、対抗してヒーロー認可制度を導入するか、検討している。
日本ではそこまでには至ってないが、法整備が整った先でどんな結果を生むか分からないのだ。
セローラちゃんは分別はついている方の筈だ。
適性検査でも知識教養社交性、いずれも高いレベルにあると報告されている。
少なくとも杏やほむらに比べれば、召喚された時点でこちらの文明に近い世界からやってきたのは大きいだろう。

真莉愛
 「それでは百代さん、なにかセローラちゃんの事で相談があればいつでも連絡してくださいね?」

私は立ち上がると、愛紗が続く。
セローラちゃん、欲望に忠実過ぎる事はネックだけど、根は良い子の筈だ。
きっと収容所に送還される事態にはならない筈。
セローラちゃんもわかっているのか、少し顔を暗くしていた。
少なくとも考えることが出来るなら、一先ず問題ないだろう。

セローラ
 「分かりました……ではやや邪道ですがやり方を変えます」

真莉愛
 「は?」

セローラ
 「いくら積んだらおっぱい揉ませてくれますか!?」

思わず全員がズッコケかけた。
この子……無理矢理が駄目なら、お金に切り替えてきた!?

愛紗
 「お、お金でセクハラなんて許しません!!」

愛紗にしては珍しく声を荒げると顔を真っ赤にしてそう言った。
普段物静かでお淑やかな愛紗が取り乱すなんて、セローラちゃんなんて恐ろしい子!

真莉愛
 「子供に悪影響だから、もう少し控えなさい……行くわよ愛紗」

愛紗
 「は、はい」

流石にこれ以上セローラちゃんの為に時間を使うわけにも行かないので、私は足早に出ていった。

真莉愛
 「はぁ」

私は外に出るとため息をついた。
日差しもあり、少し貧血のような症状も感じる。

愛紗
 「大丈夫ですかマスター?」

真莉愛
 「貴方こそ、日差しは苦手でしょ? まぁ、10分休んだら次に行きましょう」

私達はそう言うと車に向かった。
正直やっぱり少し無理してるかなぁ?

真莉愛
 「ふあ……!」

私は思わず欠伸してしまう。
仕事中には絶対に出来ないけど、身内しかいない時はついつい出てしまう。
やっぱり睡眠時間削ってるからよねぇ。



***



真莉愛
 「はい、お疲れ様」

夕暮れ、PKM管理局のお仕事は終了した。
最後に訪れたのは旅立ち荘というシェアハウスだった。
旅立ち荘は内閣府の認可した実験的な施設だ。
従来PKMはホストとなる日本人がいて初めて外に出られるが、このシェアハウスは認可されたPKMが責任者となれば、規定の人数のPKMまでならホストを介さず日本での自由が認められる。
私は館内のチェックを終えると、責任者に報告に行った。

クイタランの少女
 「お疲れさまでした」

真莉愛
 「うん♪ 燐ちゃんも様になってきたわね!」

旅立ち荘の責任者はこのクイタランと呼ばれるポケモンの女の子燐ちゃんだ。
普通なら高校にでも通ってそうな子で、最初は少し不安もあったけど旅立ち荘の運営も1年を越えて、立派な寮母さんになって何よりだ。

クチートの少女
 「オーホホホ! 世界の男はこの私に跪くのよ!」

マギアナの少女
 「くっ!? 一発も返せないなんて!?」

部屋の奥から、ハイテンションな声が聞こえた。
うん、なにやってんだか分からないけど、とりあえずPKM達の集団生活も問題なさそうね!


 「二人共ー! 今お客様いるから静かにー!」

真莉愛
 「ふふ♪ いいのよ、近隣に迷惑をかけないならね」

中に響く程度なら問題はない。
とはいえ、ちょっと壁が薄いのかしら?

真莉愛
 「愛紗、帰るわよ」

愛紗
 「イエス、マイマスター」

私は旅立ち荘を出ると、大きく伸びをした。
疲れた……とは、口が裂けても言えないのよねぇ。



***



普通の仕事が終わったら裏の仕事、中々ブラックで困る事だけど、引き受けた以上は仕方がない。
とはいえ、日が落ちたら直ぐに峠道事件の捜査をする訳じゃない。
先ずは栄養補給だ。

真莉愛
 「あー、ビール飲みたいぃ」

深夜のお仕事に向けて愛紗と一緒に訪れたのは私が行きつけとする大衆居酒屋だった。
私はノンアルコール飲料をジョッキで飲むと悲しくなった。
仕事終わり、アルコールで疲れ吹き飛ばすのが至福なのに、今回は仕事に車が必須だから飲めないと来た。
挙げ句、愛紗はアルコールが駄目だから友飲みも無理。
一瞬杏呼ぼうか脳裏を過ぎったが、大学の講義を受けて疲れているあの子を呼ぶのはやはり気が躊躇わられた。

くたびれた男性
 「よう、御影……例の事件追ってるんだってな?」

突然となりの座敷に座った初老の男性が声を掛けてきた。
ゆっくり振り返るとそれは捜査一課の現職刑事の梔子さんだった。
梔子さんは私が検事をしていた頃からの付き合いで、今は少し特殊な意味でも付き合いがある。

真莉愛
 「梔子さん、娘さんにはウチの杏がお世話になってます」

梔子
 「いや、杏子の方こそ、アンタのガキの話ばっかりだ、こっちも世話になってら」

梔子さんはそう言うとニヤリと笑った。
それにしても例の事件、捜査一課が担当してるの?

真莉愛
 「峠道の3件、殺人事件と警察は思ってるんですか?」

梔子
 「いや、今の所事故として扱ってる……だが、やっぱり気になるよなぁ?」

愛紗
 「ドライブレコーダー……」

ドライブレコーダーに録音された何かが追いかけてくるという声。
だが一方でその何かを立証する証拠はなにもない。
つまりだ、これはまるで幽霊でも探すかのような難しい案件なのだ。
もう一ヶ月も追ってるのに、未だに尻尾は掴めない。

梔子
 「PKMの仕業か?」

真莉愛
 「私個人としては認めたくないけど、ね」

出来るとしたらPKMとしか考えられない。
ゲンガーのようなPKMならば、実際可能なのかも知れない。
しかし決定的な証拠が得られない。

梔子
 「一ヶ月でガイシャが4人か、事故ってんなら異常ってもんだよな?」

真莉愛
 「この事件、一体真相はなんなのか?」

私はため息を吐くと、手元にあった焼き鳥を頬張った。
そしてノンアルコール飲料飲むと、突然携帯がけたたましく鳴り出した。

真莉愛
 「はい、御影です」

私は口元を吹くと、直ぐに電話に出た。
電話の相手は上司だった。
普段は霞が関で椅子に座るのが仕事の癖に、無駄に仕事熱心な上司なのだ。

上司
 『御影! 例の峠に妙な奴が現れた! 直ぐに向かってくれ!』

真莉愛
 「っ!? 了解!」

梔子
 「お、おい? 何があった?」

私はすぐに立ち上がると梔子さんにニヤリと笑った。

真莉愛
 「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか?」



***



峠に辿り着いたのは深夜手前だった。連絡をしてくれたのは地元の警察。
なんでも光り輝くとんでもない物が猛スピードで峠道を駆け抜けたと連絡があったのだ。

私は峠道の手前で、一旦車を停車させると大きく深呼吸した。

真莉愛
 「愛紗、万が一時は脱出するのよ?」

愛紗
 「大丈夫です、その万が一を取り除くのが私の役目ですから」

事件の被害者はいずれも猛スピードの果て事故死している。
これが故意に起こされた物なら、私は今から虎の尾を踏み込む事になるだろう。
怖い……でも!

真莉愛
 「っ!」

私はアクセルを踏む。
車は徐々に加速すると、やがて法定速度を越えた。
今回用意した車は特別仕様のガソリン車だ。
本来私が普段使うのはev車で、今回のは言ってみればレース用にチューニングされたようなスペシャル仕様。
時速ゆうに300kmは出せるわよ?

真莉愛
 「っ! 曲がれ!」

車は時速120kmに達した。
だがまだスピードは上がる。
私は急なヘアピンカーブに差し掛かるが、四輪駆動の車は人工知能のオートアシストも借りて、難なくヘアピンカーブを乗り越える。

愛紗
 「っ!? マスター! 後ろ!?」

愛紗が後ろを振り返った。
私はバックミラーを覗くと、バチバチと電気を放ちながら高速で走るPKMを目撃した。

真莉愛
 「あれは!?」

私はタコメーターを見る、時速140km、普通なら峠道で出すスピードじゃない。
しかしその全身からスパークを放つPKMは徐々に差を詰めて来たのだ。

真莉愛
 「ちぃ!?」

私はハンドルを捌きながら思案する。
あの子が事件の犯人?
徐々に迫る姿をバックミラー越しに覗くと、やがてその詳細が分かってきた。
それは少女だ、全身を電撃のスーツか何かで纏ったような姿、両手と両足には金属のリングのような物が見え、両手からバチバチと特に強く放電している。

真莉愛
 (トランジスタ? まるで走る発電所ね!?)

そう、まるで少女の四肢に取り付けれられたリング状の物は電気を制御するコイルに見えたのだ。
十中八九電気タイプのポケモンね!
だけど、未確認のタイプか!

謎のPKM
 「ハッハー! 遅い遅ーい! このレースアタチの勝ちだーっ!」

真莉愛
 「っ!?」

少女の声を拾った。
猛スピードで私の車を抜き去った電気タイプの少女はあっという間消え去った。
ただ、車道に光の軌跡を描きながら。

真莉愛
 「……レースって言った?」

私はスピードを落とすと、改めてあのPKMを思い出す。
その姿は小さく、愛紗よりも大分子供っぽかった。
10歳位? しかし凄まじいスピードだったわね。

真莉愛
 「愛紗、あの少女の種族分かる?」

愛紗
 「いえ、私の知らないポケモンだと思います……」

真莉愛
 「……兎に角、追いかけるしかないか」

私は安全運転に務めると、あの電撃少女を追いかけることにした。
電撃を纏い、超スピードで峠を攻める謎のPKM、彼女が事の真相なのか?
私は疑問に思いながら、しかし彼女こそがこの事件の中核を掴むのではないか、そんな期待も持ってしまう。



霊視家政婦セローラちゃん! 第6話後編に続く!


KaZuKiNa ( 2021/04/21(水) 18:44 )