突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第5話 修羅の剣 後編

後編だよ!




 「うぅ?」

朝、いつものように目が覚めた。
凪は気怠げな身体をベッドから起こす。


 「……あれ? なんだろう? なんだか怠い」

凪は身体に妙な倦怠感を覚えていた。
学校へ通う身、あまり無茶はしたくないところだが。
凪はベッドの脇に視線を送ると、そこにはあの刀があった。
今は鞘に入れられているが、お気に入りの刀だ。


 「ふふふ、あれを見ていたら元気も湧いてきそう♪」

凪は、そう言うと、立ち上がり着替えを始めた。



***



セローラ
 「ふぅ、ゴミ出し完了!」

朝、今日はゴミの日だったので、さっさと私は済ませた。
丁度時刻は7時前、人の数も増えだしている。
その中に、いつも通りクソ真面目にルーチンワークを行うツルペタヘタレを確認する。

セローラ
 「いや、よく頑張れますね、ツルペタは」

美柑
 「今!? 誰か失礼なこと言った!?」

聞こえないように言ったつもりですが、聞こえていたんでしょうか?
地獄耳ってイメージないですけど、被害妄想に関しては妙に敏感ですよね。

美柑
 「て、あれ? セローラか」

セローラ
 「おはようございます。春夏秋冬よく早朝ランニング続けられますね」

別に気づかなくても良いものを、美柑さんは目ざとく私を発見した。
美柑さんって案外人を探すの得意ですよね。
友達少ないから、知った顔を見つけるのが早いだけかな?

美柑
 「おはようございます。そんなこと言ったらセローラだって家政婦のお仕事に休みないでしょ?」

セローラ
 「確かに……ですが何も日が昇る前に起きなくても」


 「フワァ〜、夜勤だとそれも普通よ?」

おや? 突然まだ本シリーズでは初お披露目のセレブっぽい金髪女性が欠伸をしながら帰ってきた。

セローラ
 「マダムルザミーネ、おはようございます」

ルザミーネ
 「誰がマダムよ!? Mrs! 結婚してないって言ってるでしょうが!? ていうかこのやり取り懐かしいわね!?」

セローラ
 「2年位前にもやりましたか?」

3階に住む白人女性ルザミーネ。
一時、マンション契約は解約していたみたいだが、気がついたら帰ってきた。
てっきり男でも見つけてきたかと思ったら、相変わらずの独身っぷり。
謎の多い女性ですね。

美柑
 「あ、あの……ボクはこれで」

美柑はそう言うと先に帰った。
私は手だけ振って、それを見送る。

ルザミーネ
 「はぁ、こっちは朝帰りなの……疲れてるんだから体力使わせないで」

ルザミーネさんはそう言うともう一度欠伸した。
ルザミーネさんは生活リズムがバラバラだ。
どういう仕事をしているのかさっぱり分かりませんが、1週間位のんびりしていたかと思ったら、また1週間位いなくなる時もあるし。

逆にこんな不定期で不安定な生き方出来る人もいるんですねー。

セローラ
 「結婚でもして落ち着けばいいのに」

ルザミーネ
 「はぁ、結婚ね……はぁ、まぁ考えとくわ」

あれ? ルザミーネさんはすごく落胆した溜息を零すとマンションに帰っていった。

セローラ
 (いつもなら噛み付いてくるのに、今日はスルーですか……まぁ別にいいですけど)

私はをそう言うと、そろそろ起きるであろう奥様達のため、家に戻るのだった。



***




 (うー? なんだか集中できない?)

それは違和感だった。
凪は大学へと通いながら、必要な技能の習得を目指す。
教育者になりたいという長年の夢、その足がかりを掴んだ凪は着々と進んでいる。
だが、普段は真面目すぎるほど真面目な凪が、今日は様子が変だった。
凪は落ち着かなかった。
それが何故か、凪は理解している。


 (もっと、もっと……刀を見たい!)

そう、意識ここにあらず、そう言えるほど凪は講義が耳に入ってこない。
やがて、彼女は遂に我慢できず立ち上がる。


 「すいません! 早退します!」

異変は、遅々として始まっていた。



***



保美香
 「はぁ」

昼下り保美香さんが溜息を吐いた。
凪さんが突然帰ってくると、部屋に籠もったのだ。

美柑
 「一体どうしたんでしょう?」

伊吹
 「なんだか浮ついていたねぇ〜?」

本来なら真面目な凪さんが学校をサボるとは考えられない。
しかし現実凪さんは早退してきた。
そして部屋に入ると部屋に鍵を掛けたのだ。

美柑
 「ボク、覗いてみましょうか?」

保美香
 「家族内とはいえ、プライバシーの侵害は控えるべきですが、やむを得ませんか、お願いしますわ」

保美香さんに許可を貰うと、ボクは身体を霊体化させ、扉をすり抜ける。
凪さんは華凛さんと相部屋であり、凪さんは外側にベッドがある。
ボクは凪さんを探すと、すぐに見つかった。


 「ウフ、ウフフ……」

美柑
 (うわぁ……これ、本気でやばいんじゃ?)

凪さんは鞘に入った刀を抱きかかえ、怪しく笑っていたのだ。
思わぬ不気味さにボクも引いてしまう。
ボクは一旦戻ると、皆に凪さんの様子を話した。

美柑
 「あれ、なんか変ですよ……刀持ってニヤニヤ笑ってて」

保美香
 「凪にしては、入れ込み過ぎ、ですわね」

セローラ
 「……なーんか悪い予感しますね?」

3人
 「うん?」



***



美柑
 「ぴぃえやぁ!? お、音もなく侵入して!?」

セローラ
 「音を立てたら奇襲出来ないじゃないですか、この戯けが!」

私は久しぶりに茜ちゃんに奇襲をかけるべく、霊体のまま侵入した。
しかし茜ちゃんの姿が見当たらないので、仕方なく眼の前で実体化したのだ。

セローラ
 「茜ちゃんは?」

保美香
 「病院ですわ、検査のためかしら」

セローラ
 「おお、ということは第一子ももうすぐ?」

伊吹
 「どうだろうねぇ〜? そのための検査だけど〜」

保美香
 「半分はお友達のお見舞いかしら」

セローラ
 「お友達?」

茜ちゃんはお友達いたの?
まぁいくらマニアの私でも茜ちゃんをストーキングはしていない。
そんな事するのはコンルメイド長位だろう。
セローラちゃん、殆ど家の周りから出ないから、考えてみたら友達なんて両手で数える程度しかいないわね。

セローラ
 「て、話を戻しましょう。凪さんの様子がおかしいとは?」

美柑
 「それが、刀に入れ込み過ぎなんですよ……」

刀というと、昨日も凪さんが持っていた骨董品のことか。
やっぱり悪い予感が当たったのかしら?
しかし私は頭を掻く。

セローラ
 「美柑さん、オカルトですか?」

美柑
 「え!? わ、分からない……そんな嫌なものは見えないけど」

美柑さんはオカルトなら噂程度でさえ怯えるヘタレっぷりだ。
でもゴーストポケモンにビビりはしないし、理解できる怪物なら平然としている。
やはり見解は一緒、オカルトの気配がしない、か。

保美香
 「セローラ、なにか心当たりあるの?」

伊吹
 「もしかして、またなにか悪さを?」

二人が心配する。
そういえば、伊吹さんは鏡の妖怪に、保美香さんは海の怪異に襲われたんだっけ。
伊吹さんはともかく、保美香さんは見えていなかった筈だが、それでもまたあのような事件があるのではないかと不安げだった。

セローラ
 「……今回は違うと思いますが、私では力不足かもしれませんね」

セローラちゃん、損得で言えば動く理由はない。
義理で言えばあるけれど、今回はサービスとしますか。

セローラ
 「お風呂場お借りしまーす♪」

私はそう言うと洗面台に向かった。
洗面台には鏡がある。

セローラ
 「おーい、雲外鏡!」

私は洗面台で、雲外鏡の名前を呼ぶ。
すると、鏡の中に老人のような青年のような、形の掴めない妖怪が姿を現した。

雲外鏡
 『ホッホッホ、お主がワシを呼ぶとは珍しいの』

セローラ
 「出来る事なら関わりたくもないですが、貴方の知見が必要になります」

雲外鏡
 『ふむ? 申してみよ』

セローラ
 「実は……」

私は雲外鏡に今起きている事態を説明した。
雲外鏡は内容を聞くと、顎髭を擦りながら考察する。

雲外鏡
 『もしかすると、戦鬼かもしれぬな』

セローラ
 「戦鬼、とは?」

雲外鏡
 『戦の時代に産まれた武具に憑く憑依霊の一種じゃ、優れた力を有するが、装備者を呪う』

セローラ
 「……つまり、凪さんの刀が呪われている?」

私は首を傾げた。
でもそれがおかしいんだ。

セローラ
 「刀自体には邪気はありませんよ?」

雲外鏡
 『……お主、鏡の妖怪を覚えておるか?』

セローラ
 「覚えてますよ」

私は少し嫌な顔をすると、あの変態妖怪を思い出した。
鏡の中という安全地帯に更に結界を張って獲物を捕食する狡賢い小物妖怪だった。
結局それも伊吹さんの規格外なパワーに圧倒されたんだけど。

雲外鏡
 『妖怪の中にはな、憑依するものがおる。じゃがどこに寄生するか……おそらくじゃが、ソレは夢に寄生しておる』

セローラ
 「は? 夢?」

私は目を点にした。
夢って、ゲンガーとかムンナが関係しているあの夢?
雲外鏡は「うむり」と頷くと説明をする。

雲外鏡
 『夢にな、その者が望む物を見せる、まずは第1段階としてそうやって自身に憑依者を依存させる』

セローラ
 「待ってください! 第1段階って?」

雲外鏡
 『コヤツはやがて憑依者を乗っ取る、一度乗っ取られれば、恐るべき妖怪と化すじゃろう』

ガタコン!

セローラ
 「っ!? なになに!?」

突然部屋の外から大きな声が聞こえた。
私は洗面所から出ると、なんだか慌ただしかった。

保美香
 「た、大変ですわ! 突然凪が出ていったんですの!?」

美柑
 「あの怪しい刀まで持ってですよ!?」

私は頭を抱えた。
なんてタイムリーな。

セローラ
 「雲外鏡、倒し方は?」

雲外鏡
 『簡単じゃ、刀を破壊せよ』

私は久しぶりに自分の中の温度を上げると、凪さんを追いかける事にする。



***



美柑
 「つまり、凪さんは刀に操られている?」

セローラ
 「厳密には、夢に寄生する存在に、だそうですが」

マンションを飛び出した私と美柑さんは霊体のまま、凪さんを追った。
私は雲外鏡の情報を美柑さんにも伝える。
美柑さんは盾と剣を装備し、いつでも万全の状態だった。

美柑
 「刀を破壊すれば良いなら、楽でいい……!」

美柑さんにとっても少し気楽でいられるのは、今回はまだ得体の知れる相手だからだろう。
だが、私はある事を説明しなかった。
今回は美柑さんが割と生命線になりうるから、出来ればポンコツ化は防ぎたい。

セローラ
 (凪さんの今の状態は? 急がないと……!)

美柑
 「見つけましたっ! 河川敷!」

美柑さんは凪さんの魂を見つけると、直ぐに方向転換した。
本当にオカルト耐性が欠片も無い以外は、私なんて足元にも及ばない位強いんですけどねぇ。

セローラ
 「急ぎますよ!」

美柑
 「うん!」

私達は凪さんを目視で確認すると、目の前に飛び降りた。
すると凪さんはゆっくりとこちらに振り向く。


 「強者、か?」

美柑
 「凪さん!? 無事ですか!?」

様子がおかしい。
凪さんは心なしか、目を赤く光らせ、殺気を溢れさせていた。


 「強者と闘いたい! その血、浴びせろぉっ!」

セローラ
 「美柑さんっ!」

私は咄嗟に美柑さんの腕を引いた。
凪さんはその場で刀を振るうと、一陣の風が美柑さんのいた場所を切り裂いた!

美柑
 「エアスラッシュ!?」

セローラ
 「ああもう! 問答無用じゃないですか!?」

美柑さんは「はぁ……!」と深呼吸すると剣を構えた。

美柑
 「セローラ、離れていて……危険だから」

美柑さんにバトルスイッチが入った。
私は少し後ろに下がると、凪さんも美柑さんを敵と認めたのか、異様な雰囲気を出して刀を構えた。

美柑
 (違う……凪さんの構えじゃない?)

美柑さんは慎重だ。
バトルに関してはイノシシみたいな所があるけど、本当はクレバーに戦局を見極めるリアリストだ。


 「くくく……きえええ!」

今度も凪さんが美柑さんに突撃する!
凪さんは振りかぶると、美柑さんに斬りかかった!

美柑
 「キングシールド!」

美柑さんはすぐさま、盾を構えた。
絶対防御の盾は刀の一撃を防ぐ。


 「な、に?」

美柑
 「はぁ!」

美柑さんは直ぐに剣を振り払った。
凪さんは咄嗟に後ろに引く。

美柑
 (力は吸い取った……、いける、この程度なら勝てる!)

セローラ
 (今の所、美柑さんが有利?)

私は戦闘のプロじゃないから、今の状況は完全には分からない。
だけど美柑さんは慎重に行動を選択しながら、有利に進めているように見えた。


 「ぐぐぐ? なんだこの力は?」

美柑
 「キングシールドの効果、忘れたんですか?」

キングシールドは接触攻撃に限るが、相手の攻撃を吸い取り下げる効果がある。
現実では強すぎてナーフされたが、この世界の美柑さんは旧作仕様だから強いわよ。


 「ち! おおお!」

凪さんは今度は暴風を放った。
美柑さんは再びシールドを構えると、暴風の中を突き進む!

美柑
 「はぁ!」

美柑さんは接近すると、思いっきり剣を刀に叩きつける!

キィン!


 「こ、コイツ!?」

凪さん、というより戦鬼は気がついたようね。
美柑さんは刀を叩き折りに行っている。
本体を優先して狙ってくる相手に凪さんは狼狽した。

美柑
 「どうしました凪さん!? そんな技じゃ! ボクには届かないよ!?」

美柑さんは直様、ラッシュを仕掛けた。
凪さんが後ろに退くより速く踏み込み、刀に剣を叩きつける!


 「や、やむを得まい!」

美柑
 「これでぇ!」

美柑さんは勝利を確信して、剣をコンパクトに、しかし力強く振るった!
しかし、ここに来て凪さんは予想外の行動に出た!

ザシュウ!

美柑
 「なっ!?」

美柑さんが驚愕した。
凪さんは踏み込むと、その体で剣を受けたのだ。
肩口から血が吹き出す。
だが、美柑さんの動きが止まった!


 「くく! もらったぁ!」

セローラ
 「美柑さん危ない!!」

私は叫んだ。
動揺を隠しきれない美柑さんは、動きが止まってしまった。
その隙きを凪さんは逃さない。

ザシュウ!

今度は美柑さんの血が飛び散った。
美柑さんはなんとか致命打は避けたが、及び腰で後ろに下がった。

美柑
 「ぼ、ボク……今」


 「くく? お前、この女が恋しいのか?」

一方凪さんは肩を赤く染めていたが、大胆不敵に笑った。
そして気がついた、美柑さんが凪さんを斬れない事を。


 「シャア!」

凪さんは怪我を感じさせない動きで、美柑さんに襲いかかる。
素早い三連撃、美柑さんは動揺から脱せず、盾も構えられず剣で受けきった。
だが、反撃できない。
戦鬼は凪さんの肉体を盾にしてきたのだ。
戦鬼にとって憑依者は魅力的だが、それよりも本体が大切なのだろう。
だから肉を切らせて骨を断つ方法に変えてきた。
しかしそれがまずかった。
美柑さんは凪さんを斬れない。

私は舌打ちした。

セローラ
 「こうなれば……私が!」

私は炎を溜め込む。
いざとなれば、人殺しの汚名を受けても、戦鬼を滅する。


 「よせ、ここは私に任せろ」

セローラ
 「え?」

それは予想外の人物だった。
私の肩を後ろから叩くと、ゆっくりと戦場へと歩んでいく。
爆乳を揺らし、白い着流しを纏った白銀の女性は、まるで舞うように凪さんのもとにへと向かった。

華凛
 「無様だな、美柑」

それは華凛様だった。
華凛様は重たい胸を持ち上げると、傷だらけの美柑さんをあざ笑う。

美柑
 「華凛さん? どうして?」

華凛
 「保美香から連絡を受けた、そして直行してきたという訳だ」

セローラ
 「そ、それはいいんですけど!? ま、丸腰で相手する気ですか!?」

華凛
 「丸腰? なんの事かな?」

その時、華凛様の元に鉄の鞘に収められた大太刀が真上から降ってきた。
華凛様はそれを受け取ると、ニヤリと怪しく微笑む。

永遠
 「これ、貸しだからねぇ?」

大太刀を持ってきたのは永遠さんだった。
永遠さんはワームホールのような穴から顔を出すと、そのままワームホールの中に消えていった。

華凛
 「流石時間の神様、よくサルベージしてくれた」

華凛様はそう言うと、鞘を腰に差し、居合の構えをした。

美柑
 「待って華凛さん!? 凪さんは!?」

華凛
 「辻斬り、一の式」


 「っ!?」

美柑
 「だめ――!?」

華凛
 「瞬剣!」

キィン!

次の瞬間、旋風が吹いた。
華凛様はいつの間にか抜刀して、凪さんを飛び越えていた。
凪さんは咄嗟に刀でそれを受け止めた。

華凛
 「ほう? ちゃんと受けたな?」

美柑
 「こ、殺す気ですかー!?」

美柑はいきなり秘剣を見せる華凛様に思いっきり突っ込んだ。
しかし逆に華凛様は冷徹に美柑さんを見下すと。

華凛
 「凪を信じれんのか? この阿呆が!」

美柑
 「んが!?」


 「ぐぐ……? こ、この、技……!」

凪さんは呻いた、ゆっくりと華凛様に振り返る。
凪さんは震える身体で刀を構えた。

華凛
 「ふ、仮にも私を倒した女だ……ぬけぬけと一刀両断される女ではない、そうだろう?」


 「ぐ、くぐ!? か、りん……! しょう、ぶ!!」

凪さんは目を充血させた。
闘気を溢れさせ、華凛様に飛びかかる。
だが、華凛様に悠然に、山のように構えた。

華凛
 「辻斬り、二の式、船斬り!」

今度は飛ぶ斬撃、華凛様はその場で居合を放つと、地面を切り裂きながら凪さんに襲いかかる!


 「っ!? おおお!」

凪さんは咄嗟にエアスラッシュを放った。
飛ぶ斬撃とエアスラッシュはぶつかり合うと、空気を振るわせる。

美柑
 「? 動きが、凪さんに、近づいている?」

セローラ
 「それ、どういう意味ですか?」

私は美柑さんの隣に来て闘いを見守ると美柑さんは語った。

美柑
 「凪さんの動きが洗練されてきている……まるで主導権を取り返しているみたいに」

戦鬼は凪さんを乗っ取り、自らの欲望のまま戦うはずだ。
だが、美柑さんはまるで凪さん自身が望んで戦っていると思った。

華凛
 「どうした!? その程度か! 神話の乙女!」

華凛様は笑う。
優雅に舞うように、その剛剣を振るう。
凪さんは傷を増やしつつ、しかし致命傷は避けた。
たった一撃でもいい、それを華凛様に叩き込むように。


 「うおおおお!」

凪さんは遂に暴風をその身に纏った!
凪さんの奥義、暴風白兵戦モード!
風が逆向き、凶悪な風が凪さんを覆う!

華凛
 「ふ! それでこそ私を打ち破ったもの、ならば……最高の礼を持って饗してやる!」

華凛様は納刀すると、異様な気を放った。
お互いが最大の奥義をぶつけようとしている。


 「くらえええ!!」

華凛
 「辻斬り、終の式、百花繚乱!」

華凛様は一度に8の斬撃と1の突きを放つ奥義百花繚乱を放った。
それに対して、凪さんは刃を高速で振るう。

キィン! キィン! キィン! キィン!

それらは全て相殺された。
だが、私達は見た。
刀が震え、その中に潜むものが悲鳴を上げている。

戦鬼
 『おおおお!? も、保たないぃぃ!? このままじゃ、俺はー!?』

ガッキィィン!

遂に……、刀はバラバラに粉砕した。
いかな名刀を持ってしても、この超達人同士の神業には耐えられなかった。
凪さんの中から邪気のような物が溢れるとそれは刀に注がれていく。


 「とったぞ!」

凪さんは正気に戻った……筈だが。
なぜか継続し、百花繚乱を打ち破り、華凛様に接近。
しかし華凛様は。

華凛
 「ボディがお留守だぞ!」

等と言い、速攻で大太刀を捨てると、凪さんにリバーブローを叩き込む!


 「ぐふ!? け、剣士が剣を捨てるなど……!?」

華凛
 「何を勘違いしている? 私はダーリンの物であって、剣士ではない」


 「お、お前まだ諦めてなかったのか!?」

美柑
 「事件解決……でしょうか?」

気がつけば、痴話喧嘩が始まった。
だが、私はそんな物に興味はない。
ただ、砕けた刃を拾うと。

セローラ
 「答えなさい化け物、お前は何者?」

戦鬼
 『お、おのれ……我がこうまで破壊されるとは……!』

私は砕けた刃を持つ手先に炎を宿す戦鬼を炙る。

戦鬼
 『ひえええ!? 熱いー!? と、溶けちまうー!?』

セローラ
 「答えなさい、お前は何者? どこから来たの?」

戦鬼
 『我は修羅! 鬼道の物! どこから来たか、定かで知らぬ! 本当だー!?』

セローラ
 「なぜ凪さんに憑依した?」

戦鬼
 『あの女は闘争を求めている! 我と女は求めが同じだからだ!』

闘争、ね。
確かに凪さんって戦うときイキイキしているよね。
そういう意味じゃ、確かに凪さんって修羅よね。
不必要には戦いたがらない美柑さんと違って、凪さんってバトルマニアなのかも。

戦鬼
 『お、お願い助けて! ほんの出来心だったんですー!』

セローラ
 「はぁ、神に祈りなさい」

私はそう言うと戦鬼の宿る欠片を川に投げ込んだ。

戦鬼
 『ひいい!? なんて事しやがるんだあのアマ!? こ、このままじゃ錆びちまう!? あ、蟹さんお願い拾って! 美味しい餌食べさせて上げるから! ああ! 行かないでー!? ひぃー!? 孤独だよー!?』

セローラ
 「再起不能リタイア、ってね」

私は問題を解決すると今もぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を見た。

警官
 「貴様らかー!? 河川敷で私闘とはけしからん!」


 「あ、やば!?」

華凛
 「ち、退散するぞ!」

美柑
 「あーもう! ごめんなさい主殿!」

セローラ
 「言われなくてもスタコラサッサだぜ!」

私闘と断じられ、警官に捕まる前に私達は蜘蛛の子を散らすようにその場から退散した。

警官
 「待てやコラー! 人間なめんなー!?」

警官が私ではなく、他を追いかけていくと私は立ち止まる。

セローラ
 「それにしても戦鬼……凪さんに憑依した理由は分かりました……ですが誰から買った?」

それは単純な疑問だった。
刀の売り手は何もなかったのか?
凪さんが単純に修羅としての側面があって相性が良かった。
それは事実だろう、華凛様と戦う凪さんは本当にイキイキとしていた。
でも、戦鬼自体は本当にどうしようもないクズであった。
小物のアイツが、これまで何も事件を起こしていない方が不思議である。

セローラ
 (考えてみれば、そう……鏡の妖怪もそうよ……売り手は何故無事なの?)

この街、思えば最初は呪いの人形だった。
茜ちゃんの家の天井裏で、ただ住民に視線を送るだけの憑依霊。
あそこから始まり、幽鬼の壺、狐狗狸さん、鏡の妖怪……オカルトがこんなに一杯この街にはある。

これは偶然?

セローラ
 「それとも……線が繋がるの?」



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第5話 修羅の剣 完



次回予告!

セローラ
 「今回も私ほとんど活躍してなーい!」

華凛
 「フフン! いい女は最後に活躍するのさ」

セローラ
 「華凛様、突然出てくるのご都合主義じゃありません?」

華凛
 「心配するな! この作品自体がご都合主義だ!」

セローラ
 「確かにー」

華凛
 「さて、それでは次回は?」

セローラ
 「次回! 頭文字M! 最速峠伝説!」



KaZuKiNa ( 2021/03/29(月) 17:39 )