突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第5話 修羅の剣 前編


 「……いいなぁ」

凪は店の前のショーケースの前である物を覗いていた。
それは刀剣、いわゆる日本刀だ。
日本刀は綺麗に飾られており、その美しい刀身は光を反射する。
人を斬るための合理性、そして美術工芸品としての美しさ。
いずれも凪の心を掴んで離さない業物の一品だった。
だが、凪は視線を下に向けると溜息を零した。


 「はぁ……でも高い」

そう、日本刀は高い。
まして年代物の業物なら、そう気軽に買える値段ではないのだ。


 「剣がお好き、なのですか?」


 「え?」

凪は横に振り返った。
そこには真っ黒なスーツを来た中年の男性が立っていた。
その姿はまるでカラス、全身が黒に染めて、鍔付きの帽子まで黒い。
人間だったが、余程黒が好きなのか、40代位かと思われる男性はショーケースの中の日本刀に視線を注ぐ。


 「えと……ええ! 実は刀剣を集める趣味がありまして」

凪はこの世界に来る前多くの収集物があった。
今では家にあるそれらコレクション品は少ない。
だが、こちらでの生活も安定してきており、そろそろ趣味を再開しようかと考えたのだ。
兼ねてより凪は日本刀に注目していた。


 「この形、刃文、柄や鍔の装飾……見事だ!」

男性
 「はは、本当にお好きなんですね」


 「ああ、何よりも美しい……その技術は包丁のような物にも現れているが、非常に優れている……!」

美術品としても成り立つ日本の刀。
その時代ごとにその意味、特色は異なるがいずれにしても刀剣コレクターの凪には生唾物なのだ。
しかしやはり現実として高い。
業物は勿論、それより格下ものでも少ない稼ぎだと、手が届く物ではない。
まして凪が求めているのは正に名刀なのだ。

男性
 「……あの、もし宜しければ取り引きしませんか?」


 「え? 取り引き……?」

男性
 「私古美術商を営んでおり、刀剣類に関してもそれなりに揃えがあります」

古美術商、その言葉に凪は少しだけ心を惹かれた。
まだ相手の素性も分からないのに、凪は首を立てに振ろうとしていた。


 「し、しかし……会っていきなりとは」

男性
 「ええ、勿論です。しかし私貴方を気に入りました、良ければ見てみませんか?」


 「ご、ゴクリ……!」

凪は唾を飲んだ。
見てみたい、触ってみたい……その欲求は止められなかった。



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第5話 修羅の剣




 「フワ〜……♪」

セローラ
 「今日の凪さんどうしたんです?」

今日も今日とて私は、常葉家にお邪魔していた。
今日は里奈ちゃんが紅茶を用意してくれたので、久しぶりにプチお茶会を常葉家の皆さんとしていたのだが、一人だけ部屋の奥で反りの入った剣を持って目をキラキラさせる凪さんがいた。

保美香
 「なんでも破格のお値段で売ってもらったそうですわ」

セローラ
 「刀剣なんて、なんの役に立つんです? それならサバイバルナイフの方が実用的だと思いますけど?」

美柑
 「わかってないなぁセローラは!」

里奈ちゃんが用意してくれたクッキーを頂いているツルペタヘタレの美柑さんが指を振った。
なんだか今日の美柑さんムカつくわね。

美柑
 「刀剣はね? 魂なんだよ、価値は自分で決めるんだからさ!」


 「それ、美柑がギルガルドだからじゃない? 私なら同じお金があるならゲーム機買いたい」

保美香
 「茜は茜で夢がありませんわね〜」

美柑さんの言い分もなんかアレだけど、茜ちゃんも茜ちゃんだよねぇ。
まぁゲーム大好き、アニメ大好きな茜ちゃんらしいけど。

セローラ
 「因みに保美香さんなら何に使います?」

保美香
 「……冷蔵庫を買い替えたいし、掃除機もいっそ高級型に、後は空調を最新型に……」

美柑
 「茜さんより現実的!?」

セローラ
 「夢も希望もありませんね〜」

保美香さんの欲しい物は割とどこにでもいる主婦みたいだった。
もう生活に直結している時点で、遊びにお金を使う欲望が全く無いんだから凄いなぁ。


 「里奈ならどうしたい?」

里奈
 「え? 私ですか?」

今日はエプロンを着て奉仕する側の里奈ちゃんは紅茶の入ったティーポッドを片手にうーんと考えた。

里奈
 「皆と一緒に遊園地に、行きたいです」

保美香
 「遊園地、確かに1日フリーパスを買うにしても、人数考えると費用が掛かりますねぇ」

美柑
 「でも、里奈ちゃんが一番まとも解答に聞こえますね」

セローラ
 「そりゃ皆欲しい物が自分の欲望に忠実、それに対して里奈ちゃんは家族が中心! 心構えが違いますよ!」

私がそう言うと一部が「う!」と気まずい顔をした。
まぁセローラちゃん的には欲望に忠実なのはプラスなんですけどねぇ?
かくいうセローラちゃんも同じ金があったら間違いなく自分のために使いますし。

美柑
 「因みにセローラはどうする?」

セローラ
 「そりゃ全額茜ちゃん貢いで、身体を買いますよ!」

保美香
 「聞く意味ありませんでしたわねぇ、この俗物は」

セローラ
 「因みにいくら貢いだら身体を売ってくれますか!?」


 「売らないから、私はご主人さま専用」

セローラ
 「えー!? いいじゃんおっぱい揉むだけでもさ〜!?」

私はそう言うと茜ちゃんのおっぱい揉みしだく。
うーん、このマシュマロおっぱい、やっぱりたまりませんなぁ。
特に母乳が貯まって張ったおっぱいはもう溢れそうでたまらない!


 「汚い手で触るな」

しかし、至福も数秒、茜ちゃんは冷酷な顔で私の手首をコキャっと捻るのだった。

セローラ
 「ギャース!? 腕がー!? 私の腕がー!?」

私は手首を抑えると床をのたまう。
久々だけど、やっぱり痛い!
茜ちゃん何気に容赦ないね!?

保美香
 「この雑菌、本当に変わりませんねぇ」

里奈
 「も、もう少し加減してあげても?」


 「だめ、お仕置きの厳しさをちゃんと学習させないと」

保美香
 「パブロフの犬の実験ですか」

美柑
 「セローラに条件反射は身に付きますかねー?」

セローラ
 「な、なんか色々言われるけど……、このセローラちゃん、退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! このセローラちゃんに後退はないのだー!」

私はそう言うと、再び立ち上がり茜ちゃんに飛びかかった!
ぶっちゃけ痛いからってこの欲望止められますか!


 「ほぉぉあたぁ!」

しかし普通に茜ちゃんに迎撃されてしまう。
茜ちゃんのグーパンは私の腹部に突き刺さった。

セローラ
 「ごふ! 茜ちゃん、私に有情の拳を……?」


 「……」

セローラ
 「でも、あれ? 普通に痛いですけど? 茜ちゃん……貴方?」


 「……」

茜ちゃんは無言だった。
まるで本家のヒロインとは思えないほど、怖い顔でその顔は何も語ってくれない。
あ……これ普通に非情の拳だ。

保美香
 「因みに内容物吐きやがったら、殺しますよ?」

セローラ
 「ヒイイ!? 無言の茜ちゃんも怖いけど、有限実行しそうな保美香さんも怖い!?」

里奈
 「……嫌なら大人しくお茶会を……あれ?」

里奈ちゃんは本当に優しい、私の背中をさすってくれ、私を席に戻した。
だけどその途中部屋の隅に目をやる。


 「〜♪」

それは凪さんだった。
本当に子供のような顔をして刀を眺めてますねぇ。

保美香
 「あらあら、これだけ大騒ぎですのに、全く意に返しませんかしら?」


 「すごい集中力だね」

そう、凪さん全くこっちを振り向きもしない。
それほど自費で購入したという刀に夢中なのだ。
ちょっと異常だなぁ、って思うには充分なほど。

セローラ
 「……気のせいよね」

私はダージリンを飲むと、悪い予感が外れだと思っておく。
ここ最近オカルト事件が頻発してますから、これもオカルトかと思ってしまうが、それなら美柑さんがすぐに気付くはず。
美柑さんのオカルト嫌いは特別ですから、何よりも分かりやすい。

美柑
 「あー、クッキー美味しい♪」

そうやってお茶よりお菓子な、お子ちゃまの様子はオカルト気配なんて全く無い。
念の為霊視に切り替えて凪さんの刀を見ても、妖気の類は見えなかった。

セローラ
 「ま、個人の趣味はそれぞれですからね、夢中になれることがあるのは良いことですよ」


 「そう、だと良いけど」

茜ちゃんはちょっと不安そうだった。
まぁ茜ちゃんにとって凪さんも家族だもんねぇ。
趣味にハマりすぎて身を崩すちゃ人だっているし、やっぱりそういう心配なのかな?

セローラ
 「あんまり趣味に没入し過ぎるなら、注意すればいいんです。凪さんは分別の付く大人ですからその必要はないと思いますけど」

保美香
 「その通りね、むしろ茜が課金のし過ぎで生活費圧迫する方が恐ろしいですわ」


 「うぅ、だからゲーム出来ないスマホなんだ」

茜ちゃん、スマホゲームに興味あるんだ。
流石に主人の茂さんも機能が制限されたスマホしか渡していないみたい。
まぁゲーマーの茜ちゃんが満足できるゲームなんてそんなにないと思うけど。

保美香
 「その点里奈は立派ですわね」

里奈
 「で、でも学校の友達と話題になったりするんだよね」

セローラ
 「おやおや流石天下のJC! 流行りを知らなければ陰湿な苛めですか?」

里奈
 「そ、そんな事はないけど……」

まぁ里奈ちゃん学校のアイドルですし、その程度では苛められるとは思っていませんけどね。
でも付き合いって大切ですからねぇ。
小学生といえど、派閥に従わない者は制裁対象などそこら中で聞く。
里奈ちゃんは年齢より大人びているけど、大変よねぇ。


 「ご主人さまも付き合いあるんだよね?」

保美香
 「まぁ大人の方が楽でしょうが」



***




 「へっぷし!?」

終業時刻も間もなくの時間、俺はオフィスでくしゃみをした。
俺の横で仕事をする七島栞那は心配そうな顔をした。

栞那
 「風邪ですか?」

ラプラス娘の栞那さん、俺の初めての直接教育係となった部下だ。
もう仕事にも慣れ、オフィスワークで俺の隣で仕事をするようになった。


 「あー、いや? 空調かな?」

栞那
 「気をつけて下さいね? 今は感染症に敏感ですから」


 「うーん、こっちはパンデミックじゃないんだが……まぁ気をつけます」



***



美柑
 「それにしても本当に嬉しそうですねー?」

セローラは晩御飯の用意が必要な時間になると足早に帰っていった。
仕事から帰った主殿も含めて晩御飯が始まったが、凪さんは本当に嬉しそうだった。


 「ああ♪ ずっと眺めていられる♪」

華凛
 「……ふん、よく飽きないものだ」

皆もこの上機嫌な凪さんには呆れ返っていた。
普段多芸で喜怒哀楽の激しい華凛さんでさえも、思うところあるのか引いていた。

華凛
 「刀……か」

美柑
 「刀といえば、華凛さんの大業物、あれ不思議と日本刀にそっくりでしたよね?」

かつて、皇帝であった頃から華凛が肌身離さず用いていたのが、野太刀とも言われる、華凛の身体からは大き過ぎる刀だった。
だが華凛は異常とも言える身体能力で刀に振り回されることも無く、華麗に、そして優雅とさえ言える太刀筋を振る舞う。
そんな華凛だからこそ、思うところがあるのだろう。

華凛
 「……今の時代人斬りの力なぞいらん」


 「何を言う!? いつ何時万が一はあるか分からないんだぞ!?」

華凛
 「……はぁ」

華凛は溜息を吐くと、お茶を飲んで席を立った。

華凛
 「今日はもう寝る」

そう言うと、華凛さんは部屋へと戻っていった。

美柑
 「華凛さん疲れてる?」


 「そう、みたいね……」

華凛は地元の少劇団に就職し、今は演劇の道に行っていた。
元々色んな事にチャレンジする娘だったが、メイド喫茶ポケにゃんを卒業し、今年は最後のコスプレを行う手はずなのだ。
華凛を知るファンからはたった2年で引退することに惜しむ声もある。
しかし華凛は一番最初に自分の道を見つけた。
それは家族も応援する道だった。

伊吹
 「華凛ちゃん〜、頑張ってるからねぇ〜」

保美香
 「伊吹も学校、大変でしょうに」

伊吹
 「うん〜、看護を学ぶのって大変だけど〜、やり甲斐あるよ〜♪」

伊吹が目指しているのは看護師という訳ではないが、伊吹は色々な資格を取り、できる幅を増やしていた。
将来的には介護職か保育士、それらに道を定めているが、伊吹はマイペースに進むだけだ。


 「命が生まれたら、私もなにかしてみようかな」

美柑
 「遂にeスポーツ参戦ですか!? 世界にプロゲーマー茜の名前が!?」


 「あれは趣味、趣味をお金にするつもりはない」

今や一大産業となったeスポーツ。
プロゲーマー達が鎬を削り賞金を勝ち取る過酷な世界。
だが、茜さん程のゲーマーなら、頭角を現すのは容易いだろう。
しかしそれをお金に変えたい思わない茜さんには独特の感性がある。


 「命の事もあるし、出来れば家で出来る事がいいんだけど」


 「ん、好きにやればいいんじゃないか?」

主殿は静かに食事していたかと思えば、いきなり茜さんのやりたい事に口を出す。

保美香
 「旦那さまよりご許可が頂けたのです、何事もチャレンジですわ♪」


 「ん」

茜さんは頷く。
そのお腹はもうそろそろ産まれても良い頃だ。
出産は自宅でする予定だが、茜さんの事を考慮すると病院に入る事も考えられる。
病院だとやっぱり帝王切開かな?
いくらPKMが人間より頑丈だからって、茜さんの小さな身体では負担大きいですからね。

美柑
 (それにしても……)

ボクは凪さんを見る。
凪さんこんなに話が盛り上がっているのに、ずっとほんわか笑顔で会話が耳に入っていないみたいだった。
なんだか様子がおかしい気がするけど、嫌な臭いはしない。
でも、なにかピリリと来るんだよね……不思議な感覚だ。



***



美柑の判断、それはある意味で正しかった。
それは戦士の嗅覚か、修羅の触発か。
ただ美柑にも、セローラにもそれが意味するところまでは掴めなかった。




 「……ここは?」

凪は夢の中にいた。
しかし夢の中は真っ暗闇、どこを振り返ろうと闇は永遠と続いていた。


 「なんだここは? 私は一体?」

ふと、何かが闇の中から迫る音がした。
凪は身構える、すると闇の中から現れたのはスパイクアーマーに身を包んだ老齢の男だった。
しかし鍛造した鋼のような肌、古傷だらけだが鍛えに鍛え抜かれた身体、忘れるはずもない。


 「貴様ハリー将軍!?」

ハリー
 「かかっ! 久しいな娘子よ!? 腕は衰えておらんか?」

元帝国の将軍ハリー、しかしかつて凪に破れ、エーリアス元で仲間として戦った男は凪を見つけると嬉しそうに微笑んだ。
しかしその目はギラつき不敵だ。
凪は身構える。


 「ど、どうしてハリー将軍がここに?」

ハリー
 「かー! 生温いやつよ! 我ら修羅、我ら鬼! そこに戦場あれば、理由などいらぬであろう!?」

ハリーはそう言うとボクシングスタイルで構えた。
凪は身を以てこの男の 実力を知っている。
ハリーに殺気が宿ると、凪は剣を構えた。
剣? 凪は手元の感覚に違和感を覚えると手元を見た。


 「こ、これは?」

それは私が使い馴染む粗雑乱造されたブロードソードではなかった。
いわゆる日本刀、反りの入った人斬りの刃。
その感覚は違和感があった、重いのだ。
凪が普段使う剣に比べ、その刀は重い、それが最初違和感となって現れた。

ハリー
 「シェア!!」

ハリーはいきなり右ストレート!
射程距離ぎりぎりからの豪腕唸る一撃は凪はなんとか頭を動かし回避する。


 「くっ!?」

凪は距離を離す、ハリー将軍の驚異はそのラッシュ力だ。
その実力は帝国七神将に勝るとも劣らない。
凪は最大警戒で、それに当たった。

ハリー
 「どうした!? 動きがなまっちょろいぞ!?」

ハリーのラッシュ、拳の連打が徐々に凪を押し込んでいく。
凪は苦戦に顔を歪めた。


 (ち……ブランクがあるな、ハリー将軍の言うとおりだ)

剣を握らない生活が続き、久方振りの戦い、凪の身体は衰えている。
だが凪は口角を上げた。


 「はぁっ!」

凪はハリーのラッシュを掻い潜り、刀を切り上げた!

ハリー
 「ぬう!?」

ハリーは顔面を裂かれ、呻く。
凪は笑っていた。


 「楽しいな……本当に久しぶりだ、剣士の本分」

ハリー
 「くはは! そうであろう! お主も同じ! 所詮平和な時には生きられぬ修羅よ!」

修羅、戦う阿修羅。
凪は強敵と打ち合う、このピリピリとした緊張感の中に喜びを見出した。
強いやつと戦うと、悩みなんて全て消し飛んだ。
そうなると凪は強い、だが同時に無我夢中だとも言えた。
ここが何処だか、なんなのかもどうでも良くなり、ただ修羅の如く、ハリーとの決闘を楽しみたい。


 「ハハハ! エアスラッシュ!」

凪は剣先に風を集めると、それをハリー将軍に投げつけた。
すると風はハリー将軍の鎧を一発で縦に切り裂いた。

ハリー
 「ごふ!? た、楽しかったぞ娘よ……」

ハリーは血を吐くと、前のめりに倒れた。
そしてその姿は闇に消える。


 「はぁ、はぁ……あれ?」

私は何をやっていた?
ふと、凪はそんな疑問を覚えた。
しかし身体に残る高揚感、汗ばんだ手。
なにかが充実している。


 「私は何を……っ!? 殺気!?」

凪は殺気を感じると後ろを振り返った。
その瞬間鞭のようにしなりながら伸びる蛇腹剣が凪の顔面を襲った。


 「くう!?」

蛇腹剣は凪の頬を切った。
その奇妙な剣を持った少年はゆっくりと凪のもとに現れる。
少年は全身を黒ずくめの特殊なボディスーツに包み、顔面は髑髏の面で隠していた。


 「お前は……イミアか?」

それは帝国軍特殊部隊に所属するゴーストのイミアだ。
いつも義兄弟のクリストと一緒に行動し、クリストの作戦を支えるため、前衛を常に熟し続けてきた少年だ。

イミア
 「そうだ、兄さんのために死ね」


 「くっ!? まだ茂さんを狙っているのか!?」

イミアは卓越した技術で、蛇腹剣を操る。
それは縦横無尽に凪へと襲いかかった!


 「くあ!?」

凪は翼を貫かれると呻いた。
まだ身体が重い、あの頃ならかわせた筈だ。
凪は息を荒くしながら、ただ冷徹にその仕事を熟すイミアを見た。
イミアの表情は分からない、だけど凪は笑った。


 「お前もやはり修羅だな……ははは!」

イミア
 「世迷い言を……!」

イミアは距離を離し、一方的な攻撃を加える。
その距離は剣なら確かに射程外だ。


 「熱風!」

凪は熱風を放った。
熱波は風となって繊細な挙動を示す蛇腹剣を乱した!

イミア
 「っ!?」


 「その隙、捉えた!!」

凪は一瞬で踏み込んだ。
一合振れば、一人倒せば全盛期の力を取り戻すように。

ザッシュウ!

鮮血が舞った。
凪は思いっきりイミアの身体に刃を入れると、気持ちいい位に刀はイミアを切り裂いたのだ。
イミアは言葉もなく、身体を切り裂かれると絶命して倒れた。
イミアはそのまま闇に消える。


 「はぁ、はぁ……あれ? なにこれ?」

凪は異常な高揚感に包まれながら、その手を見た。
それは真っ赤な血で染まっている。
それも新鮮で温かい血だ。
懐かしい、かつて戦争の世ならば凪が斬った数は百を超えるだろう。
英雄とさえ讃えられた凪の雄壮華麗な剣技とは異なるが、確かに凪には快感が残っていた。


 「人斬りの鬼に堕ちたか……」


 「なに!? どういう意味だ!?」

今度はまた逆だった。
次に現れたのは灰色の翼を携えた巨漢。
ムクホークのジョーだった。


 「帝国七神将!?」

それはかつて空のジョーとして恐れられた世界最強の傭兵だった。
凪はかつてジョーに完膚なきまでに打ちのめされ、現実を知った。
この男には言いたい事は一杯ある、しかし今はそれよりも。


 「私と戦え! ジョー!」

凪は刀を両手で握った。
最初は違和感のあったそれが、次第に馴染んできた。
そして気がつけば手足のように扱える。
快感を、刀は凪に教えてくれた。
強敵と打ち合う喜び、戦いの中でこそ見いだされる自分。
凪は酔いしれていた。

ジョー
 「……いいだろう。貴様は邪魔だ、路傍の石だ」

ジョーは鉄の爪を構えた。
右手に装備された鉄の爪、その威力も然ることながら、真に恐れるべきはその卓越した体術。
しかし奇襲こそがジョーの強さ、それを失えば幾分差は縮まる。


 「はぁああ!」

凪は果敢に斬りかかった。



霊視家政婦セローラちゃん! 第5話後編に続く!


KaZuKiNa ( 2021/03/06(土) 12:59 )