突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第3話 鏡の世界 後編

後半だよ!(セローラちゃん! B面アイキャッチ♪)


セローラ
 「な、なに!? なになになに!?」

声が聞こえた、それもはっきりと。
私は周囲を伺う、だけど店内には店主の灯夜さんしかいない。
まさかとは思う、でもまさかだ。
鏡が喋ったぁ!?


 『ホッホッホ、少し落ち着け。ワシの名は雲外鏡(うんがいきょう)……いわゆる妖怪じゃよ』

セローラ
 「よ、妖怪〜?」

私は鏡を覗き込んだ。
すると、鏡の中に顔が映る。
妖怪雲外鏡の顔だ、その顔は老人とも少年とも得難いもので、この妖怪の特殊さを感じる。

雲外鏡
 『ワシを手に取る者は久しい、が……よもや異界の者に手に取られるとはの』

セローラ
 「それで……火炙りがお好みですか? それともこの場で叩き割りましょうか?」

雲外鏡
 『ちょ!? なんでそうなる!? ワシ、こう見えても大人しい妖怪じゃよ!? この店に迷惑をかけたこともないし!』

セローラ
 「嘘くせー、超嘘くせー」

私は疑心を持って雲外鏡を見た。
見たところ無抵抗な様子だが、基本的に私はこういう魑魅魍魎を信じる気はない。
雲外鏡の魂、それは灰色の魂だが、しかしあやかしが存在する時点で嫌な予感しかしないのだ!

灯夜
 「どうしました? セローラさん?」

セローラ
 「あ、いや! なんでもないでーす♪ あはは〜!」

雲外鏡に気を取られすぎた私は、灯夜さんに不思議がられてしまった。
私は愛想笑いを浮かべて、とりあえず誤魔化す。

雲外鏡
 『ホッホッホ、何じゃあの男を好いておるのか?』

私は指先から鬼火を出すと鏡の近づける。
そして警告した。

セローラ
 「だまりなさい、セローラちゃんは心に決めた人がいるのです!」

雲外鏡
 『ヒイイ!? 目が怖い!?』

手も足もない鏡の妖怪を滅するのは造作もないが、私はため息吐くと、鏡を元の場所に戻した。

セローラ
 「……で? なんでセローラちゃんの前で、姿を現したんですか?」

雲外鏡
 『だって〜、寂しかったんじゃも〜ん』

寂しかったって……子供か!
幽鬼に神に妖怪、なんだか妙な程、オカルトな連中に出会いますね。
雲外鏡は付喪神のような物だろうか?
確かに悪意はないけど……。

セローラ
 「生憎ですが、セローラちゃん暇じゃないんです」

雲外鏡
 『え〜? 本当か〜? 暇じゃろう?』

セローラ
 「なんで妖怪にそう断言されなくちゃならないんですか!?」

雲外鏡
 『異界の娘よ……ワシはこれでも長生きしておる、鏡である故、人の側にもあった』

むむ〜、妖怪の癖に人生語る気ですね?
ていうか、妖怪も長生きすると昔語りしたがるのですかね!?
ていうか、セローラちゃんお祖父ちゃんっ子でもないですから、こんなの需要ないですよ!?

セローラ
 「あー、伊吹さんまだかなー?」

私はもうこの妖怪は無視することにした。
寂しいとか抜かす妖怪、付き合っていられません。

伊吹
 「キャー!?」

セローラ
 「え? え? なんですか? まさか痴漢!?」

突然表に響く伊吹さんの悲鳴。
私は驚きながらも、伊吹さんのラッキーエッチを想像してしまう。
……て、でも伊吹さんって確か羞恥心が機能してないって美柑さんも言っていたわね。
実際女同士とはいえ、私を前にしても平然とパイモロして、しゃぶれと言う人だし、お風呂場で覗かれた程度で動じるとは思えない。
むしろ「一緒に入る〜?」なんてのほほんとした笑顔で言うに決まっている!

セローラ
 (どうするセローラちゃん! これは事件性を感じますぞ! だが私が様子を見に行く理由がある? はっきり言ってこれ以上事件に遭うのはうんざり!)

灯夜
 「一体何が? ちょっと様子を見てきます」

灯夜さんが立ち上がると、私はピコーンと頭に閃いた。
イケメンが事件に巻き込まれる? それはセローラちゃん的にいただけない!
個人的には灯夜さんは仲良くなって問題ない相手だ!
つまり、ここは媚でも恩でも売る時!

セローラ
 「待ってください! なにがあるか分かりません! 私も行きます!」

私はそう言うと灯夜さんより先に店の奥へと向かった。

セローラ
 「伊吹さんは……」

店の奥は古い日本住宅だった。
多分明治とか大正位じゃないだろうか、無駄に広くお風呂場を探すのも一苦労だ。

灯夜
 「こっちです」

灯夜さんは素早く案内すると、一応リフォームされた風呂場にやってきた。
灯夜さんは入り口で待つと、私は浴室に入る。

セローラ
 「いない?」

浴室はもぬけの殻だった。
ただ、お風呂に湯が張ってあり、ただ湯気が立ち込めていた。
私は訝しみながら、浴室から戻り周囲を伺った。

セローラ
 「濡れてない?」

私は床に置かれた水分を吸収するカーペットに触れる。
だが、カーペットが水分を吸った様子がない。
これってつまり?

セローラ
 「伊吹さん、ここには来ていない?」

そういう結論になった。

灯夜
 「おかしいですよ、湯は張られているのに入っていないなんて」

いや、確かにそうだ。
でもなにかがおかしい。

セローラ
 「そうだ、そもそも一緒にいた豊花さんは? お茶汲みに行った嵐花さんは?」

灯夜
 「そういえば……おーい! 誰かいないのかー!?」

灯夜さんが声を張り上げる。
だが、家の中は不気味なほど静かだった。

雲外鏡
 『ホッホッホ、お困りのようじゃな?』

セローラ
 「う、雲外鏡!?」

私は突然あの構ってちゃん妖怪の声を聞いた。
私は声の方向を向くと、それは着替え部屋に立てかけられた普通の四角い鏡だった。
その安っぽい鏡の中に雲外鏡の顔が浮かぶ。

セローラ
 「貴方、どうしてそこに?」

雲外鏡
『ホッホ、ワシは鏡であれば自由自在に行き来出来る。ホレホレ、何か困った事があるなら、この生き字引に聞くが良い』

セローラ
 「お前を消す方法」

雲外鏡
 『ワシ、○XCELのイルカ扱い!? てかネタが古い!』

ち、知っているのか……伊達に生き字引名乗ってないわね。
てか、今は○ortanaよね、コイツのOS古そうね。

雲外鏡
 『ふーんだ! ワシはまだ当分思い出になる気はないもんねー!』

セローラ
 「あーもう鬱陶しい、じゃあ伊吹さんは何処ですか? そんな事も分からんのか、この戯けが!」

雲外鏡
 『・・・・すごい男だ。とまぁ冗談はここまでじゃ、ふむ伊吹という異界の娘はどうやら鏡の中のようじゃな』

セローラ
 「は? 鏡の中に世界なんてありませんよ、メルヘンじゃあるまいし」

雲外鏡
 『それ、ワシの存在否定してる! あと5部になって出てきたじゃん!?』

○ン・イン・ザ・ミラーね、先生結局鏡の中に世界あったじゃん。
まぁあの先生大人は嘘つきではない、間違いをするだけなんて言っちゃう先生だしね。

セローラ
 「はぁぁぁ」

私は深い溜息を吐いた。
どうしてここ最近こんなにオカルト関係に縁があるのでしょう?
こっちとしては早く茜ちゃんと遊びたいのに、それを我慢して伊吹さんの散歩に付き合ったら、ウンザリする程雨降るし……もう嫌だ。

セローラ
 「おい、妖怪! どうすれば伊吹さんを鏡の中から出せるの!?」

雲外鏡
 『……簡単じゃ、お主も鏡の中に入り、そこで伊吹嬢を率いて、出口まで走るのじゃ、ただそれだけじゃ』

セローラ
 「……なるほど」

灯夜
 「セローラさん? 鏡と何を話して?」

灯夜さんは雲外鏡が見えないみたい。
どうやら妖怪って見える人と見えない人がいるみたいね。
まぁこういう不思議な奴だからオカルトって言われるんだろうけど。

セローラ
 「少し鏡の世界まで♪」

私はウィンクと同時に舌を出して、可愛くポーズを取る。
そして直ぐに鏡に向き直った。

雲外鏡
 『さぁ、ワシがその道を拓いてやろう! 飛び込めい!』

セローラ
 「全く……人の気も知らず!」

私はそう愚痴ると、鏡の中に飛び込んだ。



***



鏡の中、正真正銘メルヘンであり、オカルトな世界。
世界は真っ白で、無数の形も様々な鏡が浮いた世界に私は漂っていた。

雲外鏡
 「一つ忠告がある……」

セローラ
 「え?」

気がつくと、赤茶けた白髪の老人が私の隣にいた。
これが雲外鏡、鏡の中の妖怪の正体?

雲外鏡
 「伊吹嬢を鏡の中にさらったのは、ちと厄介な妖怪じゃ」

セローラ
 「貴方のお仲間ですか?」

雲外鏡
 「少し違う……同じ鏡の中に住む妖怪でも、奴は鏡の中に独自の空間を作り出して、人を喰らう」

……やっぱり、そういうオチが付くんですか。
それにしても、ポケモンまで襲うなんて節操がないわね。
しかし雲外鏡は深刻そうにこの事態を話す。

雲外鏡
 「元はあの家に運び込まれた鏡の中に住んでいたのじゃろう、獲物を見つけてたまたま飛びついた……そんな所じゃろうな」

セローラ
 「妖怪って見境なしなんですか?」

雲外鏡
 「全てがそうではない……奴は理を知らぬ様子、このままでは遅かれ滅ぼされる定めじゃ……しかし油断はするな、奴から伊吹嬢を救うには、やつの結界の中に入らなければならない!」

セローラ
 「ふん! 覚悟は出来てますよ……速攻で伊吹さんひっ捕まえて、全力ダッシュで逃走ですから!」

私は切った張ったする気はない。
あんなもの、騎士とか戦士がするもので、メイドの私の本分じゃない。
それなのに、オカルトは私の目の前で騒ぎばかり起こす。
本当にムカつく……!
私は怒りにメラメラと体温を上げるとやがて目の前に多角形の白い立方体が見えた。

雲外鏡
 「あれが奴の結界じゃ」

セローラ
 「覚悟は出来てる? 私は出来てる」

私はそう呟くと、一気に結界に向かって加速した。
そのまま私は結界に打つかると、すり抜ける!

雲外鏡
 「気をつけよ! 外界では有象無象の雑魚でも、結界内では3倍の強さになると思え!」

魔○空間かなにか!? なんて突っ込む暇もなく私は結界を突破すると真っ白な中に様々なものが浮かび、漂流した異様な空間に突入する。

セローラ
 「なに……これ?」

私はちょうど目の前を横に通過しようとした写真を手に取った。
それは、えらく古い白黒の写真だった。
写った被写体は親子だろうか? 古めかしい和服に身を包んでいる。
私は写真を裏返した、すると白地の裏側には大正二年とある。

セローラ
 「ずいぶん古いわね……これは何かのおもちゃ?」

次に手に取ったのは妙に綺麗な状態のロボットの玩具だった。
下半身はキャタピラで、蛇腹のアームを持ったブリキのおもちゃ。

セローラ
 「かっこ悪い、もっと格好いいおもちゃじゃないと売れないんじゃないかしら?」

もしかして茜ちゃんの好きな機動戦士なんとかっていう作品のおもちゃかな?
素材も安っぽいし、頭が黄色くて胴体が赤色、キャタピラ部分は白く3と刻印されてる。
とりあえず興味がないので、私はそれを放り捨てると空間の中を真っ直ぐ進んだ。

セローラ
 「無重力って少し慣れないですね」

空間の中は重力がない。
だが、進めと思えばその方向に進む。
妙だが、独特の法則が空間内に働いているらしい。

セローラ
 「それにしてもなんでもありますね……」

私は周囲を伺うと、本当に色々な物が目に入った。
雑誌、何かの骨、わお……車まであった。

セローラ
 「おいおい藤原豆腐店って書いてあるぜ……なんて冗談はよして」

この分なら、もっと変な物も見つかるんじゃないだろうか。
茜ちゃん落ちてないかな〜?
なんて、探すのは伊吹さんですよね。
私は意識を切り替え、伊吹さんを探す。
すると見つけた、3時の方向、巨大な妖怪っぽいのを発見!

セローラ
 「飛び込む!」

私は炎を吹き上がらせると、一気に加速した。
最初は遠かった妖怪は直ぐに迫り、その巨体に改めて驚く。
体長4メートルの赤い肌をした鬼のような化け物だった。

セローラ
 「前より大口径だ! 受け取りなさい!」

私は通りすがら手に取った道路標識を強く握り込む!
そして、妖怪の顔面に!

妖怪
 「ゲヘヘ……オデと良いことしよう〜?」

セローラ
 「チェストー!!」

妖怪
 「ぶべっ!?」

私は道路標識で思いっきり妖怪の頭部をぶっ叩いた!
赤い妖怪は頭を陥没させると悶絶する。
妖怪の足元には。

伊吹
 「せ、セローラちゃん!?」

嵐花
 「え!?」

雷花
 「誰あの子?」

豊花
 「救援か!?」

セローラ
 「何かいっぱいいるー!?」

ガビーン! そんな効果音が自分の中で流れると、私は伊吹さんの前に着陸(?)した。
ちょ……これは想定外、なんで伊吹さん以外もいるの!?

セローラ
 「ああもう! セローラちゃん頑張る! 皆さん! 逃げますよ! こんな腐れ妖怪に付き合う必要ありませんから!」

私は伊吹さんの手を掴むと、そう言って直ぐに駆け出した。
他三人はそれに従い撤退を開始する。

妖怪
 「ぎぎぎ……逃さなぁぁい!!」

妖怪は形を変えると細長いロープのようになった。
それは高速で飛翔すると伊吹さんの身体に絡みつく。

伊吹
 「きゃ……!?」

セローラ
 「しまっ!? 伊吹さん!」

伊吹さんは一瞬で身体を妖怪に締め付けられると、妖怪は宙に高々と浮かんだ。
そして伊吹さんの顔の前で、ロープ状の体から顔を生えさせる。

妖怪
 「ゲヘヘ〜、お、おまえワデの好み〜、一緒に遊ぼうよ〜?」

伊吹
 「ううぅ〜!?」

妖怪が伊吹さんの身体を締め付けると、伊吹さんは苦しそうに呻いた。

セローラ
 「ええい! 変態か貴様ー!?」

私は右手に煉獄を溜め込む。
そしてそれを妖怪に向かって放とうとした……だけど!

伊吹
 「だ、だめ……! だめ、だよセローラ……ちゃん」

セローラ
 「っ!? どういう事ですか?」

伊吹さんは何故か私を止めた。
伊吹さんは相変わらず笑顔を絶やさず、その意図を話し出す。

伊吹
 「だって〜、遊びたい〜、だけ、だもんね〜?」

雷花
 「遊びたいだけって!?」

馬鹿げている、この人は本当に優しさの塊か何かなのか?
まるで聖女のように微笑むと、その顔を妖怪に向けた。

妖怪
 「う〜?」

妖怪は伊吹の意図が分からなかった。
こんな腐れ妖怪にさえ慈しみを見せる伊吹さんを理解出来ないのか、妖怪は不思議そうな顔のまま、伊吹さんを締め上げる。

嵐花
 「そんな理由でぇ……納得できるかー!!」

それにたまらず飛び出したのは嵐花さんだった。
嵐花さんは風を纏うと、そのまま妖怪の身体を掴み引きちぎる!

セローラ
 「うわ!? 結構馬鹿力!?」

豊花
 「はは、嵐花の馬鹿力など、まだまだだけどね!」

雷花
 「アンタの馬鹿力は規格外なのよ……自覚しなさい筋肉女!」

豊花
 「筋肉は全てを解決するからな! 見よこの上腕二頭筋!」

なぜか後ろで漫才地味た事を始める二人。
これ見よがしに、褐色筋肉女は上腕二頭筋をアピール(フロントダブルバイセップスポーズ?)。
こいつら、現状に危機感ないの?

兎に角、妖怪は散り散りに引きちぎられると、嵐花さんは伊吹さんを受け止める。
かなり体格差があるため、無理があるが見た目に反してパワーあるわね。

嵐花
 「大丈夫か伊吹?」

伊吹
 「あはは〜、うん〜、ちょっと苦しかったねぇ〜」

セローラ
 「伊吹さん、苦しいのに我慢するのは良くないですよ?」

伊吹
 「でも〜、相手のこと〜、よく分からないのに傷つけるなんて〜」

妖怪
 「ぐ、グギギ……ゆ、許さないぞ〜! お前ら〜!」

妖怪は直ぐに散り散りにされた身体を融合させると、元の巨大な人の形に戻った。
デタラメな能力ね、弱点ってないの?
妖怪は嵐花の行為に怒っているのか、顔は憤怒の表情であった。

セローラ
 「良いですか? 相手は人食い妖怪です、貴方を食べようとしたんですよ〜?」

伊吹
 「でも〜……」

伊吹さんの煮え切らない態度、段々と苛立ってきた。
そりゃ伊吹さんの志は立派だと思いますよ!?
そしてそれを貫き通すだけの意志力もある!
でも、相手は伊吹さんの理解を超える化け物!
そんな常識を越えた奴が、伊吹さんに執着しているんです!

セローラ
 「伊吹さんは黙って食べれてもいいんですか!?」

伊吹
 「っ!? うぅ〜……私は〜、それでも〜、あの子を救いたい〜!」

セローラ
 「あの妖怪が実際に人を食ってもそう言えるんですか!?」

雷花
 「あ、これ判断が遅いってやる奴だ〜」

豊花
 「アニメの話か?」

伊吹
 「私が大人しくさせる……それで良いよね?」

後ろ二人が例によって、茶化す中、伊吹さんは始めて笑顔を消した。
あの微笑みの女神が顔を真剣にさせ、妖怪に向き直る。
その圧……ポケモンなら分かる。
伊吹さんはまるで不動の山のように妖怪の前に聳えたのだ。

妖怪
 「グググ? おまえ……美味そう、食べたい〜!」

妖怪は逃げない伊吹さんの食指を伸ばした!
その腕が異様な動きで伊吹さんに迫ると伊吹さんを掴む!

妖怪
 「とっだ〜!」

だが、妖怪は腕を持ち上げる……しかしそこ伊吹さんはいなかった。

妖怪
 「あで? なんで〜?」

伊吹
 「ふふ♪ 遊んであげる〜!」

そこからが、伊吹さんの驚異だった。
伊吹さんは水のように溶けると、妖怪の腕をすり抜け、そのまま妖怪の腕を掴むと、大きく地面を踏みしめた!

伊吹
 「どっせい!」

そのまま伊吹さんは妖怪を投げる!
一本背負いのように妖怪を引っこ抜くと、体格差もかくや、妖怪の天地が逆さまになった!
そして妖怪はそのまま背中から落ちる!

妖怪
 「ぐえ〜!? なんで〜!? オデ投げられた〜!?」

妖怪は驚愕する、勿論私も驚いた。
普段ほんわか天然お姉さんが本気で『遊ぶ』と言ったのだ。

伊吹
 「いっくよ〜♪ ドッカーン!」

妖怪
 「ぐぎゃ〜!?」

伊吹さんは今度は思いっきり妖怪の土手っ腹をぶん殴る。
妖怪はその威力に悶絶する。
改めて凄いパワーだ、伊吹さんが普通のポケモンじゃないと分かる。

伊吹
 「さぁ〜! お遊びは〜! ここまで〜さ〜!」

伊吹さんは今度は妖怪の足を掴むとブンブンと振り回した!

豊花
 「いいぞ〜! 1! 2! 3!」

雷花
 「ジャイアントスイングとか……」

伊吹さんは4メートルもある妖怪をプロレスで圧倒している。
まさか伊吹さんがこんなに強いとは……。

伊吹
 「せぇ〜の〜!」

伊吹さんはそのまま真上に投げた!

伊吹
 「ちょっと痛いよ〜? 我慢してね!」

伊吹さんはそのまま、落ちてきた妖怪に蹴りを放つ!

ドォン!

セローラ
 「うわ……!」

伊吹さんの太い足から放たれた強力な蹴り。
それは嫌な音と、その衝撃波が周囲に散った。
これ普通の人だったら3回は死んでるんじゃない?

妖怪
 「ぐ、ぐへぇぇぇ」

妖怪はそのままぐったりと倒れた。

伊吹
 「うふふ〜♪ 楽しかった〜?」

妖怪
 「も、もういやぁ〜、オデ怖いぃぃぃ!?」

妖怪は涙目になると、鳥にような姿に化けると一目散に逃げた。

伊吹
 「おーい! 私なら〜! いつでも遊んであげるから〜! もう悪さしちゃ駄目だよ〜!?」

伊吹さんは大きな声で叫んだ。
だが、妖怪の姿が見えなくなると伊吹さんはくるりと回転して、こちらを向いた。

伊吹
 「さっ、帰ろうか〜?」

そう言ってにこやかに歩き出した。
私達は呆然とその姿を見送る。

雷花
 「嘘みたい、ね……あいつ私の雷でも仕留められなかったわよ?」

嵐花
 「異常に再生力が高くて、私の馬鹿力でも駄目だった」

豊花
 「むぅ……見た目では分からんものだな、本気でバトルしたら私も勝てるだろうか……?」

セローラ
 「……は!? あまりに圧倒的な結果に気を失っていたわ!? ていうか今回私出番なし!?」

伊吹
 「何してるの〜! は〜や〜く〜い〜こ〜!」

伊吹さんは随分先に進むと、そう叫んで手を振った。

セローラ
 「て!? 伊吹さんそもそも出口分かってるんですか!?」

伊吹
「あ! 忘れてた〜! アッハッハ〜!」

伊吹さんはそう言うと大笑いした。
なんていうか、やっぱり凄いようで抜けてるわよね。
とりあえず絶対怒らせてはいけない相手だと分かった。



***



セローラ
 「う……ここは?」

結界を抜けると、私達は知らない部屋に出た。
そこは女の子っぽい部屋だった。
外は雨が降っており、鏡の世界から出たのが分かった。

雷花
 「あら? ここ私の部屋だわ」

セローラ
 「そもそも、なんで皆さん鏡の中に取り込まれたんですか?」

伊吹
 「私達、雷花ちゃんの部屋に行ったら雷花ちゃん居なかったんだよね〜」

嵐花
 「で、部屋に入ったら突然鏡が光って吸い込まれたんだよな」

豊花
 「なるほど、私も同じだ……雷花の様子を見に来たら同じように」

雷花
 「そういえば……その銅鏡、なんでか分からないけど気に入ったのよねぇ?」

それは部屋に置かれた30センチくらいの丸い銅鏡だった。
私は霊視の視界でそれを見る。
鏡からは妖気とでもいうべき禍々しい気が溢れていた。

セローラ
 「ふん!」

私は煉獄を銅鏡に放つ。
銅鏡の鏡面だけを熱すると私は、それを蹴り割る。
すると鏡面部分は粉々になり妖気は消滅した。

セローラ
 「全く、人騒がせな鏡でしたね」

嵐花
 「そういえば、この不気味な鏡はどこで手に入れたんだ?」

雷花
 「うーん、知らないお客が来てね、それで灯夜が買ったの、んで安物だって事で私が貰ったのよ」

セローラ
 「……」

気になりますね。
この店は骨董品等の買付もしているようだけど、こんな怪しい鏡を持っていたのは何者かしら?

セローラ
 (あの妖怪、かなり頭は悪いみたい……それに空間の中に浮かんでいたいろんな物、かなり見境のない妖怪だったんじゃないかしら?)

それを持っていて無事なんて、ちょっと不思議ね。

伊吹
 「はぁ〜、ちょっと疲れた〜」

嵐花
 「ちょっとしか疲れていないんだな……」

豊花
 「アハハ! 本当にパワフルだな! さて、ダーリンの顔でも見に行くか」

セローラ
 「あ、そうだ。ミッションコンプリートな事説明しに行かないと!」

私達は部屋を出る。
灯夜さんは今も浴室前で待っており、私達の無事に涙して喜んだ。
今回は伊吹さんのパワフルっぷりに相手が哀れだったわね。
結局結界の中では3倍は強いってなんだったのかしら?
伊吹さんはその3倍より単純に強かったって事?
それ考えたら濫りに傷つけないその姿こそが、自分を抑える戒律なのかも。



***



セローラ
 「ただいま帰りました〜」

結局30分の予定は2時間遅れで帰宅した。
結局茜ちゃんと今日は出会えずじまい。
私は落胆しながらおうちに帰る。

幸太郎
 「セロー♪」

絵梨花
 「あらお帰り♪ お休みは楽しめた?」

セローラ
 「それが散々ですよ〜、雨で濡れるし、茜ちゃんとは遊べないし、伊吹さんには散々振り回されるし」

私はヘトヘトで家に上がると、幸太郎坊ちゃんはハイハイで私に歩み寄ってきた。
私は優しく抱き抱えると、幸太郎坊ちゃんは「キャキャ♪」と笑う。
まぁ、幸太郎坊ちゃんの健やかな笑顔が見れたので今日の事は帳消しにしましょうか。

セローラ
 「それじゃ、晩ごはんの用意をしますか」

絵梨花
 「あら、今日はお休みの日なんだから休んでていいのよ?」

セローラ
 「いえ、私がそうしたいだけですから〜」

お休みは嬉しいが、同時に落ち着かないのも事実だ。
私は適度にサボるからそれが良いのであって、休み自体はあんまり求めない。
特に今日はストレスの貯まる日だった。
家事でもして発散したい。

幸太郎
 「うー? セロー! セロー!」

セローラ
 「痛た!? 髪引っ張らないで!?」

幸太郎坊ちゃんは私の髪の毛を引っ張ると、ある一点を指差した。
それは鏡だった、大きな鏡。
気がついたらリビングに立てかけられていた。

セローラ
 「え? あのその鏡は?」

絵梨花
 「ああ、頂いたのよ、蘭さんって人に」

セローラ
 「はぁ!? それじゃまさか!?」

雲外鏡
 『そのまさかじゃよ〜♪ ホッホッホ!』

それは雲外鏡の宿る鏡だった。
なぜ蘭古物商店にあった鏡が家にあるのよ!?
しかもあの妖怪までセットじゃない!?

絵梨花さんは気づいていないの平然としているが、問題は幸太郎だ。

幸太郎
 「キャッキャ! アーイ!」

雲外鏡
 『ホッホ、子供はいつ見てもかわいいのぅ〜!』

セローラ
 (こ、幸太郎坊ちゃん、雲外鏡が見えてる?)

幸太郎坊ちゃんは鏡に笑顔で何度も手を振った。
それ珍しい鏡の中の自分にかもしれないが、しかし雲外鏡を認識しているようにも見える。
私は雲外鏡に近づくと、ドスの利いた声でこう言った。

セローラ
 「もし、坊ちゃんに手を出してみろ……お前の魂燃やし尽くしてやる……」

雲外鏡
 『ヒィィ!? お主怖いのぅ!? 心配せんでもワシは良い妖怪じゃ! 人に手出しはせん!』

絵梨花
 「セローラちゃん? 怖い顔してどうしたの?」

絵梨花さんは雲外鏡が見えないから、不安そうにした。
私は瞬時にいつもの笑顔を見せる。

セローラ
 「なーんでもないですよー? さーて、晩ごはん何しましょうかねー?」

私はそう言ってスキップしながら台所に向かう。

雲外鏡
 『全く……お主ワシにもよく分からんメンタルしとるのぅ』

ダイニングキッチンに行くと、カウンターに置かれた小さな置き鏡に雲外鏡が映る。
私は絵梨花奥様には気付かれないように舌打ちした。

セローラ
 「一体どういう手法で、ここに来たのですか?」

雲外鏡
 『ふふ、そろそろ蘭の家も飽きたのでな、引っ越ししただけよ♪』

引っ越した、て……軽く言ってるけど、つまりこいつは何か意識操作系の術でも使えるの?
何をしたか知らないが、兎に角私のもとに押しかけてきたって訳か。

セローラ
 「はぁ、なんでオカルトがこんなに一杯あるんですかね?」

雲外鏡、私に助言をくれて助けてくれた妖怪。
妖怪と言っても様々、あの赤鬼みたいな妖怪もいれば、雲外鏡みたいなやつもいる。
だけど妖怪はオカルトだ、存在するけど見えてはいけない存在。
この街に蔓延るオカルト達は、どうしてここ最近出てきた?
私はそれを考えながら、炊飯の用意をするのだった。



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第3話 鏡の世界 完



次回予告!

セローラ
 「考えてみたら今回私散々じゃないですか」

雲外鏡
 「ホッホッホ、まぁ長く生きていればそんな事もあろう」

セローラ
 「言ってくれますね……セローラちゃんまだそんな長生きしてませんから!」

雲外鏡
 「ほお? しかしお主の年齢は〜」

セローラ
 「16歳よ」

雲外鏡
 「え? いや、しかし……」

セローラ
 「16歳よ! お分かり?」

雲外鏡
 「アッハイ……それで次回はなんじゃ?」

セローラ
 「セローラちゃん、海に行く!」


KaZuKiNa ( 2021/02/09(火) 19:41 )