突ポ娘短編作品集


小説トップ
霊視家政婦セローラちゃん!
第3話 鏡の世界 前編

スーツ姿の男性
 「それじゃ、これを」

ここは蘭(あららぎ)古物商店。
私の名前は雷花(らいか)、ここの主人蘭灯夜(とうや)をマスターとするボルトロスのPKM。
今日は珍しく客が入っており、仕立ての良いスーツ姿の男性がやってきていた。
私はいつものようにふわふわと浮かびながら手を顎に乗せて店の外を見た。

ザァァァァァ。

雨だ、雷雨の象徴である私に相応しいどんよりとした雨模様。
でも今日は気が散っちゃう、なんだか憂鬱な気分だ。
それというのも……。

ランドロス娘
 「ダーリン♪ これ、奥に仕舞っておけば良いんだな?」

マスターである灯夜をダーリン呼ばわりする、ゴツい褐色ゴリラ女、ランドロスの豊花(ゆたか)が今日もマスタとイチャイチャしているのだ。
マスターと豊花は婚約関係にあり、事実豊花の薬指には指輪が嵌められていた。
私はマスターを心の底から愛している。
でもマスターの寵愛を受けられるのは一人だけ、こんな日は本当に憂鬱だ。

スーツ姿の男性
 「それでは、わたくしはこれで」

気がつけば、マスターとスーツ姿の男との商談が終わったみたい。
スーツ姿の男は真っ黒な鍔付きの帽子を深めに被ると傘を差して店を出て行った。
私はマスターに近寄ると、レジカウンターに置かれた物を見た。

雷花
 「マスター、それなぁに?」

カウンターに置かれたのは丁寧に布に包まれた円形の物だった。

灯夜
 「銅鏡って言ってね……とても古い物なんだよ」

時代掛かった古い黒縁眼鏡といつでも引っ掛ける甚平柄の和服に身を包んだ優男の灯夜はそう言うと布を剥がした。
出てきたのは、綺麗な銅鏡という鏡だった。

雷花
 「へぇ……よく写ってる」

銅板を綺麗に鏡面加工されたそれは、くすみも無く綺麗に私の顔を写していた。
縁は錆びた青銅だろうか、古めかしい謎の紋様が彫られていた。

灯夜
 「銅鏡の起源は古代中国にまで遡ってね? 日本だと弥生時代に沢山作られたんだよ? あの卑弥呼の持っていた鏡も銅鏡だね」

灯夜は古物、即ち骨董品屋の主人だ。
まだ若いにも関わらず古物の造詣は深い。

雷花
 「で、高いの?」

私は直ぐにお値段を聞くとマスターは苦笑した。

灯夜
 「残念ながら、これはそんな価値はないんだよ……物次第では国宝にもなるけど、これはレプリカだろう、残念ながら価値はつかないよ」

雷花
 「ふーん」

私は物の価値はよく分からない。
偽物、レプリカと言っても、その価値を分からない者からすれば、これは実用的な鏡として認識する。
手鏡にするには少し使いづらいかもだけど。

雷花
 「ねぇ、マスター! これ、部屋に飾っても良い?」

灯夜
 「おや、気に入ったのかい? 良いよ、雷花が使うといい」

雷花
 「やったぁ♪」

私は許可を貰うと、銅鏡を抱きかかえた。
私はなんとなくこれを気に入った、実用的な鏡としては少しあれだけど、置き鏡として見れば、風情もあるだろう。



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第3話 鏡の世界



セローラ
 「うー」

私、セローラ、普通のランプラーの女の子!
……なんて冗談は速攻で止めて、私は今常葉家に遊びに来ていた。
だが、常葉家には肝心の茜ちゃんがいないし、外はずっと雨でイライラしていた。

伊吹
 「アーメアーメ♪ フーレフーレ♪」

こんな最悪の天気にも関わらずベランダの前で伊吹さんは楽しそうに歌っていた。
私はげんなりすると、伊吹さんに話しかける。

セローラ
 「雨の何が良いんですか? お洗濯も中干ししないといけないし、気分も最悪ですよ」

伊吹
 「うぐぅ〜、セローラまでそんなこと言うの〜?」

美柑
 「僕も雨は嫌いですね……走り込み出来ないし、色々錆びるし」

一方で部屋の端で剣を磨くツルペタヘタレの美柑も、雨にげんなりしているようだ。
今、家にいるのはこの二人だけ。
茜ちゃんと保美香さんは仲良く買い物に行っていた。
必然的に私はこの二人を相手にしなければならず、さらに憂鬱になっているのだ。

セローラ
 「はぁ〜」

伊吹
 「こ〜ら〜! ため息は〜、幸せも〜、逃げちゃうんだよ〜?」

セローラ
 「幸せねぇ? 茜ちゃんいない時点で鬱い、当然ご主人さまもいないし」

平日は社畜のように働くご主人さまこと茂さん、この作品ではとことん出番ないわね。
私、なんだかんだ苦手じゃないけど伊吹さんって絡みづらいのよね。
なんだかんだ、ランプラーだから、一切邪気の無い聖母のような伊吹さんは近寄りがたい。
これでも陽キャのセローラで通しているけど、属性はダークだからね。

伊吹
 「う〜、じゃあ〜セローラ、一緒に出掛ける〜?」

セローラ
 「え? なんで伊吹さんと?」

私はまさかの提案に少し戸惑った。
正直私と伊吹さんってそれ程接点ないと思うんですけど。

伊吹
 「私〜、セローラとも〜、仲良くなりたいな〜、なんて」

セローラ
 (うぅ〜、やっぱりなんか空回りするんですよねぇ)

美柑
 「伊吹さん、やめといた方が良いですよ、セローラは何考えているか、本当に分からない奴ですから!」

セローラ
 「おのれ! 確かにこのセローラちゃん、打算と欲望で動くが、それでも茜ちゃんとご主人さまは絶対に裏切らないという自負があるっ!」

あ、あと絵梨花奥様と幸太郎坊っちゃんもね!
それを聞くと伊吹さんはほんわか笑顔でパチパチと拍手した。

伊吹
 「うんうん♪ セローラちゃん、本当は〜、優しい子〜、だもんね〜♪」

……伊吹さんにとって、私ってどう映ってるの?
そりゃまぁ、私自身外道には身を染めてはいないと思ってるし、外道に墜ちる気もないけれど、明らかに伊吹さんの中の私ってキャラ違うと思うのよね。
美柑も流石に剣を磨く手を止め、苦笑していた。

美柑
 「アハハハ、セローラが……うん、まぁなんだかんだで優しいよね? アハハハ」

セローラ
 (ツルペタ、笑いすぎです!)

私は美柑の笑顔に思わず拳をぷるぷるさせてしまう。
もし巨乳なら腹いせに揉みまくってやるのに!

伊吹
 「で〜、一緒に行こう〜?」

その話まだ終わってなかったの!?
伊吹さんはどうにも私を外に連れ出したいらしい。
私的に雨の日にわざわざ外に出るとか超イヤなんですけど?

セローラ
 「あーもう! それならそれで私もメリットが欲しいです! とりあえずおっぱいしゃぶらせてください!」

私は立ち上がると、伊吹さんにそう啖呵をきった。
どうです!? こんな破廉恥な要求されたらいくら聖女の伊吹さんでも!?

伊吹
 「はいど〜ぞ〜♪」

伊吹さんはそう言うと、迷わず服を持ち上げた。
するとぷるんと揺れるたわわなマシュマロ爆乳が目の前に曝け出される。
思わず私は吹き出し、美柑さんは頭を抱えた。

セローラ
 「伊吹さん!? 冗談を真に受けないでください! あとおっぱい綺麗ですね! 羨ましいですよ! ええ!」

美柑
 「伊吹さん……羞恥心の存在しない人ですからね……あと、破廉恥ですから、隠してください」

伊吹
 「え〜? 茜ちゃんみたいに〜揉んだり〜しゃぶりたい〜だけでしょ〜? 別にいいのに〜」

セローラ
 「私茜ちゃんのおっぱいしゃぶった事ないですよ!? そりゃ勿論しゃぶり尽して、新妻ミルクグビグビ飲みたいですけど!?」

美柑
 「ええーい! いい加減自重してください二人共!? 僕一人じゃ二人はツッコミきれませんよ!?」

美柑も猥談混ざりの空気にいい加減怒ってツッコミだす。
うん、セローラちゃんこんなにツッコミしたの初めてかもしれない!
私以上のボケがこの世界に存在した事が意外よ!

伊吹
 「う〜、しゃぶって貰わないと〜、一緒にお散歩してくれないんでしょ〜?」

セローラ
 「もういいです……セローラちゃんの負けです、ですから服を降ろしてください」

私はがっくり項垂れると、そう諦めた。
一応この作品、全年齢で通したいんですから、伊吹さん勘弁してください。
よく天然桃色爆乳お姉さんなんて属性てんこ盛り役満みたい人、本編で殆ど弄られずご主人さま平常心でいられたね!?
今どきちょい微エロ系でも、伊吹さん程あざとく美味しいキャラ、そこまでいませんよ。
少年誌なら、絶対物議出す系ですもん。

伊吹
 「やったぁ〜、嬉しい〜な〜♪」

伊吹さんはそう言うと、その場でクルクルと回った。
こうなれば私も鬼じゃない、伊吹さんに付き合って雨の中お散歩するしかないだろう。

セローラ
 「ただし30分ですよ? 折角のおやすみ、茜ちゃんと遊べないの、嫌ですから!」

伊吹
 「うんうん〜♪ 分かってる〜分かってる〜♪」

伊吹さん、本当に分かっているのかな?
既にスキップする勢い、一応伊吹さんってのんびり屋だけど、頭は良いし、総じて聡明な人。
言ってみれば○ナン・ザ・グレートのような蛮人だけどIQ高い系だからなぁ。

セローラ
 「はぁ、何が哀しくて雨に濡れなきゃならないのか」

美柑
 「ご愁傷さまです」

美柑はそう言うと合掌した。
それ、ゴーストタイプのポケモンにするのはどうなんですか?
美柑さんだと天然で成仏してくださいって思ってそうでイラッとくる。
水等倍の分際で水抜群の辛さを知らないのね……!

伊吹
 「ほ〜ら〜! 30分でしょ〜!? 急がなきゃ〜!」

伊吹さんは手をブンブン振ると、私を急かした。
やれやれね……まぁ約束ですから、ささっと出掛けて終わらせよう。
私はスカートを叩くと、伊吹さんと共に玄関に向かった。

伊吹
 「うふふ〜♪」

伊吹さんは水玉模様の可愛らしい傘を持つと上機嫌に笑った。

セローラ
 「私、どれ使えば良いでしょうか?」

伊吹
 「うーん、美柑ー! 傘使っていいー!?」

美柑
 「構いませんよー!」

伊吹さんはある黒い傘を手に持つと、私に渡してきた。
なるほど、これが美柑さんなのですね。

伊吹
 「それじゃー、いってきまーす♪」

私達は傘を持つと、外に出た。
外に出ると、雨は相変わらず煩く降っていた。
はぁ……げんなりするわね。

伊吹
 「フンフンフーン♪」

セローラ
 「本当に楽しそうですね……」

傘を差して外を歩く。
これだけでは、どうしても衣服が濡るのを避けられない。
私はただでさえ炎タイプなのに、嫌な思いしながら歩くが、伊吹さんは本当に楽しそうだ。
ていうか、伊吹さんは逆に無頓着過ぎるっていうか、濡るのもお構いなし。
伊吹さんもやっぱり感覚のズレた人なんですね。

伊吹
 「楽しい〜なぁ〜♪ 楽しい〜なぁ〜♪」

セローラ
 「うん?」

伊吹
 「おばけの学校はぁ〜♪」

セローラ
 「違った!? 昔の妖怪物のオープニング!?」

それ、今も続いている超ご長寿作のオープニング曲じゃないですか!?
作品としては合ってるけど、伊吹さんが唐突に歌うのは読めなかった。

伊吹
 「あはは〜、やっぱり〜ヌメルゴンだからね〜、テンション上がるのかもー♪」

セローラ
 「逆にテンション低い伊吹さんって一体……」

私は思わず、ダウナーなテンション低い伊吹さんを妄想してみる。



***



ダウナーな伊吹
 「うぅ〜、お姉さん、本当に、駄目駄目ね〜、ごめんなさい〜」

ダウナーな伊吹
 「茂君ごめんね〜お姉さん本当に駄目駄目で〜、が、頑張りたいと思っているんだけど、やっぱりお姉さんじゃ……」



***



セローラ
 (やばい!? 想像以上に破壊力高かった!?)

今の伊吹さんとの真逆をイメージすると、凄まじく無気力で駄目駄目な人になってしまう。
何やっても謝ってばかり、ずっと下から目線な姿。
本当は実力あるのに自己評価が低くて、いつも涙目で震えてる……。

セローラ
 (やばい! こんなのセローラちゃん男だったら、朝チュン案件まっしぐらですよ!? 改めて伊吹さんってすっげーですね!? 何やらせてもエロ案件になる伊吹さんすっげー!)

伊吹
 「うふふ〜♪ あら〜? あっ」

伊吹さんが何か見つけ、手を振った。
私は伊吹さんの目線の先を追うと、白髪のちっちゃなツルペタ少女がいた。
周囲にでんでん太鼓のような物が巻き付いており、その少女の周囲には風が逆巻いていた。

伊吹
 「おーい♪ 嵐花(らんか)ちゃーん♪」

嵐花、そう呼ばれたPKMは腕組みをしつつ少し浮遊したまま軸だけ回転させこちらを振り向く。

嵐花
 「伊吹か……」

セローラ
 「知り合いですか?」

伊吹
 「友達〜♪」

嵐花
 「お前は?」

伊吹さんの友達だという嵐花という少女は私を睨みつけるように見た。
やや、高圧的な態度、図に乗っていますね。

セローラ
 「百代セローラと申します、ランプラーのPKMですわ」

私はとりあえず頭を垂れる。
セローラちゃん、生意気な子供も嫌いじゃないけど、ここはとりあえず敵意を取り払う方向で行こう。

嵐花
 「蘭嵐花、トルネロスのPKMだ」

伊吹
 「嵐花ちゃんはこの近くの古物商に住んでいるPKMなんだぁ〜♪」

古物商、ねぇ?
私は顔を顰めるが、これは無理もない所。
どうしてもあの幽鬼が封じられた壺が思い出されるのだ。
古い物にはそれだけ霊が宿りやすい。
付喪神とも言ったかしら?
最近2連発でオカルト案件体験してますんで、3度目は流石にねぇ?

セローラ
 (それにしてもトルネロス? 初めて聞くポケモンですね?)

少女は目つきが悪く、可愛げがない。
小学生くらいかな、と思わせる姿だが、種族が分からないと、子供扱いしていいか分かりませんね。

セローラ
 (茜ちゃんだと、あの中学生みたいな姿でも大人だもんねぇ、て……セローラちゃんも対して変わらないけど)

コンルさんなんて、マニューラって種族だけど身長160センチは一族としてはかなり高身長って言ってたっけ。
まぁメイド長の場合、あの太ましさが……てこれ言ったら次元の壁越えてトレイが飛んでくる気がするから止めとこう!

伊吹
 「嵐花ちゃんも散歩〜?」

嵐花
 「そんな所だ、雨だからな」

セローラ
 (雨だから? コイツも雨好き〜?)

嵐花という少女はそう言うと少しだけ微笑んだ。
伊吹さんも大概奇特な人だけど、嵐花って子も変わっているわね。
雨が降ったら出てくるってカエルじゃないんだから。

セローラ
 「それにしても……傘もささず外に出るなんて……て、濡れてない?」

嵐花
 「私は嵐の化身だからな、傘などたちどころに折れてしまう」

嵐花は風を操っているのか、嵐花を雨が濡らすことはなかった。
ただ、その分異常な気流が嵐花の周囲に渦巻き、近づけば吹き飛ばされそうだ。

伊吹
 「でも〜、前にも言ったけど〜、その力は危険だから〜、抑えた方が良いよ〜?」

嵐花
 「し、仕方ないだろう……天気が悪化するとテンション上がるんだ!」

セローラ
 「最悪な事言ってますね」

悪天候好きとか、ロクな奴じゃないと思うわ。
実際このトルネロス娘、相当クレイジーなやつじゃないだろうか?

セローラ
 (分からん、しかしどこに伊吹さんとこの嵐花に仲良くなる点がある?)

私なら少なくともこんな貧乳チビ少女、全く興味がない。
伊吹さんは優しい、ていうか優しすぎるから、その性かしらね?

伊吹
 「ほら、傘貸してあげるから〜?」

伊吹さんはそう言うとお姉さんのような優しさで、嵐花に傘を差し出す。

セローラ
 「え、でもそれ、伊吹さんが濡れちゃいますよ?」

伊吹
 「あはは〜、後で保美香に怒られるだろうけど〜、嵐花ちゃんにも〜、少しだけで良いから〜、人間社会に〜歩み寄って欲しいんだ〜♪」

嵐花
 「……また、それか」

嵐花は風を弱まらせると、傘を受け取った。
伊吹さんはニコヤカに笑うと雨がドッと降り注ぐ。

伊吹
 「わぁ♪」

セローラ
 「て、感嘆の声上げてる場合じゃないでしょ!? 土砂降りですよ!?」

突然のゲリラ豪雨じみた雨、嵐花は伊吹の腕を取る。

嵐花
 「ウチに来い! 風邪を引かれても困る!」

伊吹
 「まぁこのご時世だとねぇ〜?」

セローラ
 「風邪引いてまんねん……は、もう古いか」

私は一応伊吹さんの連れ添いなので、仕方なく走る二人を追いかけた。
やや、都市部を離れると古民家の立ち並ぶ古い区画に向かった。
やがて目の前に蘭古物商店と書かれた大きな看板が目に入った。
私達は迷わず、その中に飛び込んだ。

ガラララ……!

灯夜
 「おや、お帰り嵐花……あ」

伊吹
 「ふい〜、びしょ濡れ〜」

セローラ
 「全く、最悪ですよ〜……はぁ」

私は店の中に飛び込むと、そこは品物が所狭しと並べられていた。
骨董屋とは違うのか、古い物がなんでも並ぶお店、その奥に眼鏡の優男店主がいた。

嵐花
 「マスター、拭く物、後できれば着替えも!」

豊花
 「なんだなんだ? びしょ濡れじゃないか、ちょっと待ってろ!」

店の奥、住居スペースから現れたのはガチムチマッチョな褐色のお姉さんだった。
巨乳だが、嵐花と同じように厳つく、似た種族かしら?
そんなマッチョなPKMは直ぐに奥へと向かった。

灯夜
 「お久しぶりです、伊吹さん」

伊吹
 「えへへ〜、お邪魔しまーす♪」

セローラ
 「ふーん、結構イケメンね」

嵐花
 「当然だ! なんたって、私のマスター! なんだからな!」

何故か勝ち誇り、鼻高々とする嵐花。
ちょっとこの子ムカつくわね。

伊吹
 「あれ〜? 雷花ちゃんは〜? いつもなら〜、私のマスターでしょう〜って突っかかるのに〜?」

嵐花
 「あれ? そういえば雷花がいない?」

灯夜
 「雷花なら部屋だよ」

セローラ
 「あの、雷花さんとは?」

いい加減セローラちゃん、内容についていけません。
私はあくまで伊吹さんの付き添いなので、とやかく言うつもりはありませんが、このままでは疎外感がやばい。
いくらゴーストタイプって言っても忘れられたら、その時が最期なんですからね!

灯夜
 「あ、申し遅れました、この店の店主も務めます、三人のPKMの保護責任者をやらせて頂いている蘭灯夜と申します」

この超イケメン、物凄く物腰柔らかね!
セローラちゃんでもちょっと恋しちゃうレベルかも。

セローラ
 (顔はトップレベル、優しげで、物静か、そして礼節が伴う……)

私は瞬時に内蔵された乙女センサーが、この灯夜店主の査定を行う。

セローラ
 「80点! おしい! でも絶対激戦区!」

伊吹
 「一体何が〜?」

伊吹さんが首を傾げるが、勿論説明する気はない。
顔も性格も良いとか、最強かよ!
ただ身長が低い、さっき出てきたマッチョより小さいのは、マイナス点ね。
しかし、それ以外は世の婚活女の大抵の条件を満たしているだろう。
それだけに狙うのはライバルが多すぎて無理と判断する!
やはり、ご主人さま程の逸材はおらぬのか……!

豊花
 「ほら! タオル、そっちの客人も!」

気がつけば奥からタオルを持って、さっきのゴリラスタイルなマッチョ女がタオルを持って戻ってきた。
私達はタオルを受け取ると、身体を拭く。

伊吹
 「わぁ〜、びしょ濡れ〜」

豊花
 「着替えな……私の着れるか?」

伊吹さんはびしょ濡れで、服が張り付いており、もう言葉では言えない程、アレな状態だった。
着衣エロまで熟す伊吹さん、改めてレベルが違う……!

豊花
 「とりあえず中へ、後お風呂沸かすから、入るといい!」

伊吹
 「わぁ〜♪ ありがとう〜ございま〜す♪」

伊吹さんはそう言うと、マッチョ女についていった。
私はとりあえず自己紹介でもして、待つことにする。

セローラ
 「申し遅れました。私百代セローラと申します」

私はこの店主さんには最も恭しく恭順の態度を示すように頭を下げた。
個人的にこの人には媚びた方が得ね!

灯夜
 「百代さんですか」

セローラ
 「気軽にセローラと呼んでいただければ幸いです」

灯夜
 「では、セローラさんと呼ばせていただきますね」

灯夜さんはそう言うとニコヤカに微笑んだ。

セローラ
 (うぅ……! 眩しい! なにこのイケメン!? 弱点はどこ!?)

さっきから何やらせても高得点を出す灯夜さん、思わず乙女なセローラちゃんが引き出されそうで怖い!
ああ、処女はご主人さまに捧げるって決めてるんだからね!?

嵐花
 「それにしても、雷花の奴、部屋に籠もるって……一体どうしたんだ?」

セローラ
 「私はその雷花さんという方を知りませんが? どういう方なのです?」

嵐花
 「そりゃーもう、兎に角高慢チキ! お高くとまって、いつもフワフワ飛んで上から目線! そしていっつもいーっつも! 私を子供扱いする! 性格の最低ーな奴!」

セローラ
 「そ、そう……?」

嵐花は雷花を語る時、凄まじい怒気を込めていた。
嫌いって感情が剥き出しで、兎に角早口で捲したてる。
でも……。

セローラ
 (憎しみの感情はない、か)

嵐花は雷花を嫌っているが、それは憎しみではないようだ。
ただ、多分に嫉妬の感情が混ざっており、心の奥に憧れがあるのだろう。

嵐花
 「でも、アイツもこういう天気が好きな筈だけどなぁ?」

嵐花はそう言うと外を見た。
相変わらず大雨、私はげんなりする。
これが好きって、雷花って子も相当の物好きね?

灯夜
 「嵐花、セローラさんにお飲み物出してあげなさい」

嵐花
 「あっ! はーい!」

灯夜さんはなるべく優しい声で、嵐花に命令すると嵐花は直ぐに勝手知ったる奥へと飛んでいった。
命令された時、あの子すっごく嬉しそうな顔したわね。
メイドやってる身分としては、絶対に共感できないわ。

灯夜
 「セローラさんは骨董品には興味は?」

セローラ
 「えっ?」

そんなもの興味ある訳がない!
とは言うものの、これはセールストークのようなもの。
古物商を営む人間なら常套句!
とはいえ素直に興味無しと言ってしまうのは、好感度を下げてしまう!
このセローラ、世渡り上手な事で今日までやってきたのだ!

セローラ
 「ふ、古い物でも良いものは良いと思いますよ?」

ぶ、無難な解答よね!?
本音で言えば、新しい物の方が良い。
古い物は信用ならん物も多いから。

セローラ
 「た、例えば〜、これとか!」

私はそう言うと大きな鏡を持ち上げた。
直径60センチはあるかという大きな円鏡、それは曇りもなく私の顔を写していた。

セローラ
 「鏡って今も昔も用途が変わりませんよねー? あはは〜」

私は兎に角好感度を下げまいと只管無難な言葉を選んだ。
だが、私は予想外の方角からその『声』を聞くのだった。


 『ホッホッホ〜、お主中々見る目があるのぉ〜!』

セローラ
 「……はい?」

それは手元から聞こえた声だった。


霊視家政婦セローラちゃん! 第3話後編に続く!


KaZuKiNa ( 2021/02/07(日) 17:30 )