突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第2話 小学校の怪

ポーン!

ボール、サッカーボールが放物線を描いて打ち上がった。
私、セローラは高い金網のフェンスの外側から、内側のそれを見つめていた。

小学生
 「新央ー! そっち行ったぞー!」

新央と呼ばれる少年は、軽くジャンプすると胸でボールをトラベリングする。
そのまま、足元にサッカボールを落とすと、右足を大きく振り上げた。

新央
 「いっけー!」

少年のゴールキック!

ゴールキーパー
 「……止める!」

なんか、やけに濃い小学生も混じっているんだけど。
地元のサッカークラブにでも所属しているのだろうか、場違いな風格と体格を持つゴールキーパーの少年はゴールキックをワンハンドキャッチ!

小学生
 「流石SGGK! 奴に日本は狭い!」

新央
 「くっそー……」

ゴールキックを蹴った少年は悔しそうに手を振り下ろした。
客観的に見て、あのゴールキーパー完全に場違いだから悔しくしても性がないと思うけど。

里奈
 「どんまい、新央君」

そこに可愛らしい少女が新央少年を慰めた。
女の子がてら、男の子のサッカーに混じっている少女はある意味で普通じゃない。
その少女の髪は藍色で、その腰から生える2本の尻尾を持つ。
アグノムのPKM、常葉里奈だ。
何を隠そう、私の今回の目的は愛するご主人様の養子であるあの里奈ちゃんを監視する事なのだ!

ゴールキーパー
 「お前らー! 行くぞー!」

ゴールキーパーが指示を出すと、一斉に小学生たちは反対側に走り出した。
て、おいおいディフェンダーまで上がってどうするの!?
そんなツッコミがグラウンドに届く訳がないが、ゴールキーパーの少年はすごい脚力でボールを蹴った。
それは余裕でセンターを飛び越えていった。

里奈
 「っ!」

里奈ちゃんがジャンプする。
大きく山なりに飛ぶボールを里奈ちゃんは正確に捉えると、ヘディングした。

小学生
 「ああー! また常葉だー!?」

セローラ
 (少年たちよ、それでもその子は手加減しているのです)

里奈ちゃんは仮にも伝説のポケモンだ。
本来ならあの見た目でも、めちゃくちゃ強いのだ。
それでも里奈ちゃん頑張って力をセーブして、小学生並の力で日常生活を送っている。

新央
 「常葉ー! こっちだー! パス!」

里奈
 「えい!」

里奈ちゃんは可愛らしい掛け声を出すと、乱戦の中ボールを蹴り出した。
それは正確に新央少年の前に落ちると、新央少年は一気に相手フィールドに駆け上った。

新央
 「今度こそいけー!!」

がら空きの相手フィールド、中央を割り進撃すると、再びゴールキーパーと一対一で対峙する。
新央少年は再びゴールキック、それはゴールポストギリギリのコース!
ゴールキーパーは飛びかかるが、ボールは!

小学生
 「あーっと! コーナーに弾かれた! だが、ボールはまだ生きているっ!」

……さっきから気になったけど、小学生の中にもう一人濃ゆいのいるわね。
なにあの解説? 選手じゃなくて解説になりきっているの?

里奈
 「新央君!」

里奈ちゃんがコーナーに弾かれたボールを再び、新央少年に戻した!
ナイスアシスト里奈ちゃんですね! 新央少年はがら空きとなった反対側を狙い……今!

ピピー!

教師
 「ゲームセット! 時間切れだー!」

ホイッスルが響く。
新央少年はそれにピタリと止まった。

新央
 「あ……ちぇ! 後もうちょっとだったのになぁ〜!」

それはお昼休みの一幕、熱中する小学生達、そろそろお昼休みも終わりであり、小学校のグラウンドに教師が呼びに来た。

セローラ
 「ふぅ……」

私は短パン小僧や、小学生女子達を眺め、満足した。
その隣に立つ気配に気づかぬまま。


 「セローラ、貴方何しているの?」

美柑
 「もしもし、ポリスメン?」

セローラ
 「ぎゃー!? 茜ちゃーん!?」

二人の存在にも気付かぬほど、ロリショタ共にみとれていた私。
それを軽蔑した瞳で見つめる里奈ちゃんの母親茜ちゃんと、ツルペタヘタレの美柑さんだった。



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第2話 小学校の怪



セローラ
 「小五ロリ、これでは完全に変態だが、合体させると悟リとなる……つまりセローラちゃんはグラウンドで戯れる小学生を見て悟りを開いていたのであって……?」

あの後、常葉家のご自宅で私は事の次第を弁明した。
少しお暇も貰えたので、散歩に出かけたら、どこからか無抵抗でやれそうなロリの気配を感じ、そこに引き寄せられたのだ。
だが、私の弁明も効果はなく、ただ茜ちゃんの軽蔑した瞳が突き刺さった。


 「最低ね、そういう目で里奈を見てたの?」

セローラ
 「いや、里奈ちゃんはセローラちゃん的には60点と申しますか、胸が足りず……いや、やらせてくれそうな雰囲気は80点与えてもいいかなぁ〜?」

保美香
 「あなた、正に吐き気を催す邪悪ですわね……!」

美柑
 「やっぱり警察に通報するべきですよ!」

ギャース! なんでそこまで言われないといけないの!?
セローラちゃん見てただけだよ!? 物欲しそうな目で見るのも駄目なの!?


 「セローラ……貴方は長く生きすぎた」

セローラ
 「ああっ!? 茜ちゃんの軽蔑した眼差しも、それはそれでセローラちゃんにとってご褒美だけど! 今は空気読む時!」

美柑
 (相変わらず欲望隠す気ないなぁ〜)

保美香
 (なんでこれが、今の今まで茜と友達でいられたのかしら?)

美柑さんと保美香さんがため息を吐く。
それはもうすごーいため息を。


 「……結局セローラって、誰でも良いんだ」

セローラ
 「え? 茜ちゃん?」

突然茜ちゃんは悲しそうな顔をした。
私は戸惑い、キョトンとしてしまう。


 「見境なく自分の欲望さらけて、まるでお猿さんね……ううん、お猿さん以下、私なんてどうでもいいんだ」

セローラ
 「や、イヤーン! セローラちゃん茜ちゃん一筋ですー!」

私は涙を流しながら、迷わずセローラちゃんに飛びかかる。
そうか、茜ちゃんも求めてたんだ!
つまり合意という事でよろしいので!?

セローラ
 「とりあえずおっぱいしゃぶらせてーぶべ!?」

突然茜ちゃんの肘がセローラちゃんの顔面を叩く。

美柑
 「ちょ!? いきなり裡門頂肘!?」


 「やれやれ……セローラ、貴方、憐れすぎて、なにも言えない……!」

セローラ
 「あ、アヘアヘアヘ……い、今の嘘? 今度こそ本当よ? セローラちゃん反省したから」

私は顔面を抑えながら、茜ちゃんから後ずさった。
だけど、茜ちゃんはゆっくり首を振ると。


 「やれやれね……ツケの領収書は」

保美香
 「金じゃ払えねぇぜ! かしら!?」

美柑
 「もしかしてオラオラですかー!?」

セローラ
 「それネタ違う!? ひーん! 再起不能だよー!? 鼻も折れちゃったかも!? こんな無抵抗な女の子に手を出すの!?」


 「貴様は死ね」

セローラ
 「ちにゃ!?」



***



セローラが酷い目にあっている頃。

少女A
 「ねぇ、知ってる? この学校の七不思議!」

里奈
 「トイレの花子さんとか、そういうの?」

放課後、私は同級生の女の子と他愛のない談笑をしていた。
運動神経が良いから、男子に助っ人を頼られたりするけれど、私はやっぱり女子だから女の子との方が話しやすい。
そんな女子グループの話題に出てきたのは怪談だった。

里奈
 「怪談……オカルト、本当にあるのかな?」

少女B
 「常葉さんだってPKMでしょ? あるよ、きっと!」

少女C
 「ないない! ある訳無いって! もし存在するならどうして表に出てこないの? PKMだって表に出ているじゃない!」

最もな意見ね。
PKMがいるなら、オカルトだって存在するという派と、PKMがいても、表に出てこないなら存在しないという派。
私はどちらの意思も尊重する、そういうポケモンだから。
私アグノムは意思を司るポケモンであり、世界の意思の均衡を守護する者。
どちらの意思も正しく、私はその意思を聞き入れた。

少女A
 「ねぇ、常葉さんはどう思う?」

里奈
 「私は、いても不思議じゃないと思います、けれど」

少女C
 「けれど?」

里奈
 「その意思は、感じられないわ」

意思、それは言葉では当てはめづらい。
想いの力とも言える念のような物、私はそれを感じ取る事で読心する事が出来るけれど、完全な読心術は使えない。
こういうのが得意なのはエムリット姉さんね。
意思は不確かで、でもとても尊く、だからこそ護らなければならない。

里奈
 「ごめんなさい、夢の無いこと言っちゃって」

私はそう言うと、少しだけ微笑んで謝った。
所詮は子供の戯れだ、だがこの子供の時期は多感なもの。

少女B
 「ううん! そっかー! 常葉さんがそう言うのだったら、そうなのかもねー!」

少女A
 「でも、常葉さんも信じているんだ!」

里奈
 「そうなる……のかな?」

私は首を傾げる。
正直、オカルトに疎い私は、そもそも正確にオカルトを捉えられていない。
こういう事はユクシー姉さんに聞くのが一番なのでしょうけど。

少年A
 「おーい! 常葉ー! サッカーしようぜ!?」

里奈
 「あ……」

少年が数人サッカボールを抱えて、教室に入ってきた。
その中には、新央光輝君もいた。
私は立ち上がろうとすると。

少年A
 「ざんねーん! 男たちー! 常葉さんは今私達と遊んでいるんですー!」

少女C
 「そうそう! だから男子は出てけ!」

少年A
 「なんだとー!? 常葉ー! 外で身体動かそうぜ!? サッカー楽しいよな!?」

少女A
 「常葉さん、お話しましょう♪ 汗臭くなっちゃうわよ?」

里奈
 「え、えーと」

よ、弱った……私は意思を司るポケモンだ。
意思とは対立するもの、だが一方に肩入れする事が均衡を守護することにはならない。
女子に肩入れすることも、男子に肩入れすることも出来れば避けたかった。

光輝
 「やめろやめろ! 常葉困ってんじゃん!」

里奈
 「新央君……」

新央君が仲裁してくれると、ギャアギャア騒いでいた少年少女たちが黙った。

里奈
 「えと、私……どっちも選べません、どちらかを贔屓するわけには」

少女B
 「だ、だったらさ? コックリさんに聞いて、みない?」

少年B
 「コックリさん?」



***



狐狗狸(こっくり)さん。
それは机に広げられた用紙の上で行われる降霊術の一種である。
用紙は何でもいい、別に古臭い羊皮紙でも、コピー用紙でも。
兎に角用紙を用意し、そこに以下を描き示す。
はい、鳥居、いいえ。
その下にあ〜んまでの五十音を描く。

少女B
 「いい? 後はこの十円玉を使う」

用紙の上に置かれた十円玉、その上に代表者私と新央君、そして発案者の石田さんが人差し指を置く。

石田
 「常葉さん、新央君も」

光輝
 「お、おう」

里奈
 「うん」

私達は人差し指を十円玉に置くと、周囲を囲む少年少女たちが緊張していた。
所詮子供だまし、そう思う大人も多いかもしれないけれど、小学生にとってオカルトは摩訶不思議で、そして決して無視できないのだ。

石田
 「狐狗狸さん、狐狗狸さん、どうぞおいで下さい、おいでになられましたら『はい』へとお入り下さい」

鳥居に置かれた十円玉、私達はそれを複数の力で抑えつける。
狐狗狸さんの降霊術、もし本当に存在するならば、ここに四人目の指は存在する?

里奈
 (だめね……やっぱりなにも感じない)

私は十円玉から意思を感じようとした。
しかしそこに介在する四人目の意思は存在しない。

新央
 「う、動かない?」

少年A
 「し、失敗か?」

いや、その時だった。
十円玉が『はい』に動き出した。

里奈
 「え!?」

石田
 「常葉さん静かに! 狐狗狸さん、常葉さんがしたいことはなんですか?」

勝手に動き出す十円玉、それは新央君、あるいはもうひとりの少女石田さんが動かしている?

里奈
 (違う!? 別の力場がある!?)

私は念力を練りだした。
十円玉を拘束し、動かないようにする!
だが……!


 『無駄じゃ、無駄じゃ……もう遅いわ』

里奈
 (声!? どこから!?)

私は狐狗狸さんをする二人を見た。
二人は声に気づいていない!?
十円玉は念力で固定しているにも関わらず、動き出す。
そして十円玉が選んだのは。

石田
 「こ、ち、ら、に、こ、い?」

里奈
 「二人共! 離れて!」

私は咄嗟に石田さんと新央君を念力で吹き飛ばす!

光輝
 「うわ!? な、なんだ!?」

石田
 「常葉さん!?」

以前抑え込む十円玉、しかしそれは急速に鳥居に向かって走り出す!
そして十円玉が鳥居に飛び込むと!



チリン、チリン!

十円玉が勢い余り、机から飛び出した。
そして、その場に居たはずの常葉里奈の姿が消えた。



***



セローラ
 「痛た……全くちょーと、おふざけしただけなのになー?」

私は顔面を抑えながらお昼の事を思い出す。
今はお家でのんびりしている。
もうすぐ晩ごはんの用意もしませんとね。

セローラ
 「そういえば、そろそろ里奈ちゃんも帰ってくる頃ですかねー?」

幸太郎
 「セロー♪ セロー♪」

絵梨花
 「コウタも、いつか小学校に行くんだよー?」

幸太郎
 「えーうー?」

セローラ
 「相変わらず分かっているんだか、分かってないんだか」

絵梨花さんの腕に抱かれた幸太郎坊っちゃんは相変わらず、読めない。
幸太郎坊っちゃんも歯が揃ってきたし、そろそろおトイレのトレーニングですね。
幼児食にもチャレンジしていきませんと。

絵梨花
 「今日は私が晩御飯用意してもいいかしら?」

セローラ
 「そりゃ構いませんが……どうして?」

絵梨花
 「うふ、コウタの幼児食、私が用意したくって♪」

絵梨花奥様はそう言うと顎に手を当て微笑んだ。
全く変わってますね、折角ベビーシッターの私がいますのに、そんな面倒な用意自分からしようとするなんて。
まぁそれだけ愛情に溢れているのかもしれないけど。

セローラ
 「それじゃ、私はどうすればいいでしょう?」

絵梨花
 「ん……そうだ、マヨネーズ買って来てくれない? 今切らしちゃってて」

セローラ
 「なるほど、畏まりました」

私はそう言うと、絵梨花奥様に頭を垂れ、外出の用意をする。

幸太郎
 「セロー! セロー!」

セローラ
 「ごめんなさいねー坊っちゃん? 30分で帰ってきますので!」

幸太郎坊っちゃんは私がいないと時々癇癪を起こす困ったちゃんだ。
一応母親は絵梨花奥様と認識しているみたいなんだけど、私って坊っちゃんのお姉ちゃんと思われてるのかな?
なるべく一緒にいてあげようと思いますが、四六時中とはいきませんからね。

私は財布を確認すると、最後にもう一回奥様に頭を下げる。

セローラ
 「それでは超特急で行ってまいります♪」

私はそう言うと、霊体化して、ゴーストステップで家を出ていく。
茜色に染まる空、ウチのダンナが帰ってくる前に戻りませんとねー。

セローラ
 「うん?」

私はマンションを出ていくツルペタの姿を見た。
なんだか、焦った様子だった、背中にはお馴染みの剣がバックラーに納められ、背負っていた。
なんだか不穏な気配ですね、兎に角私は美柑さんを後ろから追いかける。

セローラ
 「ちょっとそこのお人! 血相変えてどうしたんです?」

美柑
 「げ!? せ、セローラ!?」

相変わらず失礼な人ですね。
会口一番げ!? などセローラちゃんじゃなければ、きっと八つ裂きにしている事だろう。

セローラ
 「ほら、困り事でしたら、同じゴーストポケモンの好、聞いてあげますわよ?」

美柑
 「うぅ……ん」

要領を得ませんわね。
美柑さんは走りながら、私の顔と地面を交互に見た。

セローラ
 「私も暇じゃないんです、言いたくないなら構いません」

私はそう言うと、先を行こうとした。
だが、美柑さんはそれは困ると手を伸ばした。

美柑
 「ま、待って! 力を貸してくれセローラ!」

セローラ
 「やっとその気になりましたか……しかし力を貸してとは?」

美柑さんは私の手を掴むと霊体のまま飛び上がった。
私達は10メートル程空を滞空すると、美柑さんは地元の小学校を指差した。

美柑
 「里奈ちゃんが、消えたんだ……魂ごと」

私は視界を霊視に変え、美柑の見ている方角を見た。
霊界とも呼べる魂のレイヤーは私に無数の魂を映させる。
だが、一つ異様な物が見えた。

セローラ
 「なにあれ? 鳥居? 言われなきゃ気づきませんよ、あれは」

それは物理的なレイヤーには存在しない、霊的な鳥居。
それが学校の校舎の中と重なっていた。

美柑
 「や、やっぱりセローラも見えているんだ」

セローラ
 「それで……力を貸せと言うのは?」

美柑
 「里奈ちゃんはあの鳥居の向こうにいるんだと思う! 助けるのを手伝ってほしい!」

私は目を細め、鳥居を霊視した。
鳥居からは禍々しい気が溢れ、刻一刻とそこから出んという邪気のような物を感じる。

セローラ
 「オッケー、◯ーグル、鳥居」

私はスマホに鳥居の事を聞くと、それは神域と俗界を遮る結界だという説明を受ける。
神域……私はもう一度鳥居を見た。
左目を物質界を見る目に切り替えれば、片方は校舎しか映らない。
しかし右目には明らかに高さ4メートルはある鳥居が聳えていた。

美柑
 「い、急いで助けにいかないと!」

セローラ
 「はい、話は聞きました。それでは私は用がございますので」

私は美柑さんに頭を下げると、その場から飛び去る。

美柑
 「え!? ちょ!? ほ、本当に聞くだけー!?」

セローラ
 「一つ忠告! 助ける気なら! この前の幽鬼とはおそらく性質の違う相手だと思いなさい!」

私は美柑にそう忠告すると、急いでスーパーマーケットに向かった。
臆病者の美柑にどの程度意味があるか分かりませんが、セローラちゃん、基本チキンなので分の悪い賭けはしないのです!

セローラ
 (曲がりなりにも神域の存在なら、神ってこと、そんな存在セローラちゃんが敵うわけないじゃないですか!)



***



美柑
 「ほ、本当に行っちゃった……」

僕はセローラに助力を請うと、彼女はそれをきっぱりと断り消えてしまう。

美柑
 「じょ、じょじょ、冗談でしょう? ぼ、僕一人で助けろと?」

以前幽鬼の封じられた壺の件、セローラはあの時力を貸してくれた。
僕がガクガク震えている中、セローラは僕に叱責してくれた。
悔しいが、僕はオカルトがてんで駄目だ。
オカルトな物を見ると身体が震えて満足に動けない。
その点セローラは違う、オカルトを恐れない。
僕が彼女が苦手な理由……それは彼女があまりにも僕の嫌いなオカルト地味ているからだ。

美柑
 「そ、それでも……! 里奈ちゃんがピンチなんだ!」

僕は兎に角学校に急いだ。
それにしてもどうしてだろう?
僕の大嫌いなオカルトが突然現れた。
一度なら偶然だが、二度目なら何を意味するんだろう?

美柑
 「と、兎に角里奈ちゃんを助け出す!」

僕はそう誓うと、自らを奮い立たせた。
そして学校の前にたどり着くと、少年少女たちが泣いていた。

美柑
 「君たち!」

光輝
 「あ、美柑お姉ちゃん! 常葉が消えたんだ! 助けてよ!」

美柑
 「じょ、状況を説明してもらえますか?」

石田
 「こ、狐狗狸さんをしたの……そうしたら常葉さんが……!」

少女A
 「えーん! 常葉さんどこに行ったのー?」

僕は兎に角訳もわからない状況に追いやられた少年少女たちを見た。
この子達はあの鳥居が見えないんだ。
おそらく狐狗狸さんという降霊術で、想定外の物を呼び寄せてしまったんだろう。
だが普通の者にあやかしは見えない。

美柑
 (それにしても……この邪気!?)

僕は目を細めた。
不意にセローラの忠告が脳裏に過る。

(セローラ
 「一つ忠告! 助ける気なら! この前の幽鬼とはおそらく性質の違う相手だと思いなさい!」)

性質が違う?
邪悪という意味なら同じだろう?
僕はセローラとオカルトの解釈が違う。
ゴーストポケモンなら平気だが、僕の理知らぬ存在には、僕は恐怖してしまう。

美柑
 「っ! 時間が惜しい! と、兎に角助けます!」

僕は飛び上がった。
そのまま霊体を活かし、壁を通過して鳥居の前に立った。

美柑
 「う……く」


 『ククク……また贄がやってきたか?』

美柑
 「に、贄だと!? 里奈ちゃんをどうした!?」


 『ククク……そなた異界の者、それも幽鬼の類か? ならば、関わるでない……ここは神域ぞ』

神域……鳥居から聞こえる中性的な声。
それは邪悪で、セローラとは全く違う化け物の臭いだった。

美柑
 「それでも……僕は護るんだぁあぁ!!」

僕は鳥居を潜る、剣のギルと盾のガルドを携えて!
邪悪な気配に圧されながら、鳥居を潜ると、そこは禍々しい世界だった。


 「六道輪廻(りくどうりんね)……黄泉平坂(よもつひらさか)へようこそ……異界の者」

美柑
 「うぷ……この臭い!?」

僕は思わず鼻を抑えた。
黄泉平坂? たしか地獄の概念だっけ?
僕は目の前の怪物を見た。
その怪物は巨大なムジナの怪物であった。
ムジナ、タヌキに似ているがこの怪物はそんな可愛さ等欠片もない。
体長は10メートルを超え、僕を見てギョロリ獣の目を不気味に震わせた。

ムジナ
 「我が名は獏雪老(ばくせつろう)……汝名は?」

美柑
 「み、美柑だ! ギルガルドの美柑!」

僕は兎に角腐臭のような不快な臭いに堪えながら、ムジナの怪物に名乗り口上を上げた。

美柑
 「と、兎に角里奈ちゃんを返して貰いますよ!?」

獏雪老
 「ククク……あの異界の娘か? あれはいい贄だった!」

だった?
こいつ、何言っている?
だがムジナの怪物はあざ笑う、僕の絶望顔とは対象的に。

獏雪老
 「ククク! あれが見えるか!? 異界の者よ!」

ムジナの怪物が首を振る。
すると、地獄のような風景の中で、その少女は見えた。

美柑
 「里奈ちゃん!?」

しかし、里奈ちゃんは何も応えない。
いや、里奈ちゃんの身体は石化していたのだ。

獏雪老
 「カカカ! 肉に用はない! だが上質な魂はご馳走でなぁ!」

怪物は高笑いした。
僕は恐怖と怒りがないまぜになっていく。

美柑
 「き、貴様ー!?」

僕はムジナの怪物に斬りかかった!

ザシュウ!

獏雪老
 「ククク! 貴様如きに我を倒せると!?」

ムジナの怪物は僕に斬られても平然とし、僕はムジナの怪物の振るう前足の薙ぎ払いに吹き飛ばされる!

美柑
 「くう!?」

僕の『せいなるつるぎ』が効いていない?
ムジナの怪物を見ると、傷口は見る見るうちに回復している。
それは霊気が怪物に集まっているのが理解できた。

獏雪老
 「カカカ! さぁ貴様も喰らうてやろうか!?」

美柑
 「う、く……そ!?」

僕は苦虫を噛み締めた。
悔しいがこの怪物強い、それになんだか相性が悪い。
幽鬼相手には『せいなるつるぎ』は効果抜群だったが、こっちは今ひとつという感じ。
あやかしにも、タイプに似た概念がある?

美柑
 (あんまり難しく考えた事ないけど、例えば『せいなるつるぎ』はゴーストタイプには無効だ、これが格闘タイプの技だから)

なら? 他の技なら効く?

獏雪老
 「しぇあ!!」

美柑
 「う、うおおおお!!」

ムジナの怪物が飛びかかってくる!
僕はそれに合わせて『アイアンヘッド』をムジナの怪物の頭蓋に叩き込む!

獏雪老
 「っ! カカカ!」

怪物は頭を振るった。
それだけで周囲を蹴散らし、僕は宙を舞う。

美柑
 「う、わああああ!?」

やっぱり通じない!?
一瞬ムジナの怪物は怯んだが、それだけだった。
僕は真っ赤な大地に倒れると、兎に角起き上がろうとする。
だが、影が僕の上に差し掛かった。
ムジナの怪物がトドメを差しにきている。

獏雪老
 「ククク……異界の者、なんとか弱き……ん?」

美柑
 「?」

ムジナの怪物が止まった?
僕は顔を上げるとそこには。

セローラ
 「マヨビィィィィィム!!」

そこにはムジナの怪物の目にマヨネーズの入ったボトルを噴射するセローラの姿があった。



***



獏雪老
 「ぐおおおお!? なんじゃこりゃー!?」

セローラ
 「◯ューピーマヨネーズを知らない!? こんな所に引きこもってないで、貴方もマヨラーになりなさい!!」

美柑
 「セ、セローラどうして!?」

私は超特急でスーパーマーケットに行くと、速攻でマヨネーズ(レジ袋無用)を購入すると、学校へ来た。
美柑さんの魂は既になく、鳥居の中に入ったと考えた。
そしてこう思ったのだ。

セローラ
 (ここで恩を売れば、茜ちゃんとの交渉が有利になる!!)

今絶賛、茜ちゃん絶許状態だから、なんとか仲直りしたい!
割と切実な私は、鳥居に突入した。
最初に見えたのは地獄のような光景。
大地は赤く、川にはマグマが流れている。
そこに無様に倒れる美柑と、でっかいムジナの怪物がいたのだ。
とりあえず音もなく接近してマヨビームは効果抜群のようね!?

セローラ
 「全く無茶しますね、相手の情報もまるで分からないのに」

美柑
 「だ、だって……えぐ! ぼ、僕がやらなきゃって……えぐ!?」

美柑さんは急に泣き出した。
わお、ヘタレとはいえマジ泣き?
何気にレアな美柑さんのマジ泣きを思わず私はスマホに収めたくなるが、空気を読んでやめておく。
私は改めてムジナの怪物と向き合った。

獏雪老
 「き、貴様何者じゃ!? こ、この黄色い物体はなんじゃ!?」

セローラ
 「だーかーらー! マヨネーズ! 日本では1925年生まれ!  そして私は〜! 地獄からの使者! セローラちゃん!」

獏雪老
 「じ、地獄からの使者!? 異界の獄史か!?」

盛大に勘違いしてますね。
私生まれはカノーア帝国領の片田舎、奉公人としてフウカゲツ城のメイドを経験し、その後ホウツフェイン城抱えとなり、現在は百代家で家政婦をする身。

セローラ
 「とりあえず美柑さん、立ち上がりなさい」

美柑
 「う、ううう……怖いよぉ」

セローラ
 「今更!? ただのでかいタヌキじゃないですか!?」

美柑
 「逆に言うけど10メートルある猫って怖くない!? しかも喋るし、殺意むんむんなんだよ!?」

ええい、このツルペタヘタレは。
私はあくまでただの家政婦、そもそもこんな化け物と戦う義理も無いというのに!

獏雪老
 「がァァ! 貴様ら纏めて燃えつきろぉぉ!!」

ムジナの怪物は大口を開けると炎を吐き出した!
私は全身にそれを浴びる。

獏雪老
 「カカカ! どうじゃ我が炎は!?」

セローラ
 「ペッ! 不味い炎ですねー!」

ムジナの怪物は無傷の私を見ると、驚愕の顔で後ろに後ずさった。
所詮マヨネーズも知らない過去に置いてきぼり食らった旧神かなにか。

セローラ
 「ププー! そんなちゃちな炎なんかポケモンには通じませーん♪」

美柑
 (ちょ、挑発している……! 貰い火の特性の癖に!?)

怪物はポケモンのポの字も知らない。
多分漠然と私を認識しているが、特性までは絶対理解していない。
その確信があったから、私は怪物を挑発した。

獏雪老
 「よ、良かろう! ならば今度こそ本気を!!」

ムジナの怪物は再び大口を開けた。
更に大きな火炎は巨大な球に変わり、口の中に蓄えられる。

セローラ
 「ここで揚げ玉ボンバー!」

獏雪老
 「ば!?」

私は容赦なく、マヨネーズを持った右腕を炎を蓄えるムジナの怪物の中に放り込んだ。
マヨネーズは加熱されると膨張して、爆発する!
それは油分だ、マヨネーズに含まれる油分が怪物の腔内を蹂躪した!

セローラ
 「こいつはオマケです! とっておきなさい!!」

私は怪物の口の中に煉獄を放った!
貰い火を発動させ、私の煉獄は赤から青へと変わり、青い煉獄がムジナの怪物の中を蹂躪した。


獏雪老
 「ぐが!?」

ムジナの怪物の身体が膨れ上がる!
そのまま、怪物は大爆発を巻き起こし、爆散した!

美柑
 「う、うわ!? フェイタリティ!?」

セローラ
 「アワレ! 怪物は爆発四散! ショギョムジョ!」

流石の怪物も身体の中で煉獄の炎強化バージョンが炸裂すれば、一溜まりもなかったわね!
というか、炎効いてくれてよかった! 効かないとセローラちゃん終わるからね!?

獏雪老
 「く、クク……なにを、勝った、気に……なって、おる」

美柑
 「ぴぃや!? キモい!? 目が喋った!?」

それはなんとか無事残った目玉だった。
怪物は文字通りバラバラになったにも関わらず、まだ生きている。
いや、生死という概念が通用しない相手なんだが。

獏雪老
 「神は……しな、ぬ……クク」

セローラ
 「そうですか、どうでもいいですね。それよりも里奈さんを返して貰いますよ?」

私はそう言うと、怪物の腹の中から飛び出す魂を見た。
それは里奈さんの中に入ると、石化した里奈さんが元に戻っていく。

里奈
 「う……え?」

美柑
 「り、里奈ちゃーん!?」

美柑さんは里奈ちゃんが目を覚ますと迷わず抱きついた。
いきなりの事に驚いた里奈ちゃんは、兎に角美柑さんを落ち着かせる。

里奈
 「だ、大丈夫、です?」

美柑
 「うぇえぇん! 怖いよぉー! ていうかここ何処!? 速く帰ろう!? もうやだー!」

獏雪老
 「くく、帰れるものか……ここは黄泉平坂、帰り道などないわ」

黄泉平坂ねぇ?
よくわからないけど、セローラちゃんの産まれる世界ってこういう場所なのかな?
赤い大地に腐った卵のような嫌な臭いの空気、本来ランプラーが産まれる世界ってどういう所かしら?

美柑
 「そ、そんな……」

セローラ
 「里奈さん、ここからあのロリショタ共の意思は知覚できますか?」

私は復帰後間もないが、アグノムとしての力を聞く。
里奈ちゃんは目を瞑ると、その意思の力を発現させる。

里奈
 「感じます……新央君も、石田さんもいる」

私はその言葉に確信した。
私は美柑さんと里奈さんの手を繋ぐと、鳥居の前に立った。
鳥居は入ることは出来ても出ることは叶わない。
だからこそ、怪物はあざ笑う。

獏雪老
 「ククク……無駄じゃ、ここから脱出できるなら、我とてそうする」

相変わらず一つ目状態の怪物は自虐的に笑った。
なるほど、逆説的に言えば、こいつが外に出る事は不可能。
ある意味でこれも封印ね。

セローラ
 「ふ、見せてあげるとしましょう! 人の可能性とやらを!」



***



もう暗くなった教室の中、3人の少年少女がいた。
新央光輝は少し前に現れたセローラという家政婦の言葉を思い出す。

(セローラ
 「30分後、もう一度同じ場所で狐狗狸さんをしてください、ちゃんと3人で」)

それに参加したのは石田少女と、立候補した清水という少女だった。
3人は十円玉に人差し指を乗せると、ゆっくりと息を吐いた。

石田
 「狐狗狸さん、狐狗狸さん、おいでください、おいでになられましたら『はい』にお入りください」

石田少女が最初と同じように降霊を行う。
セローラは助言として、状況再現を要求した。
だから光輝と石田、そして里奈の代わりとして、同じ女子の清水を加えたのだ。

光輝
 「じゅ、十円玉が……!」

十円玉は『はい』へと進む。
緊張の一瞬だ、石田は泣きそうになっていた。
それでもこれは自分が、招いた結果だった。
セローラから突きつけられた現実、少女がやったこんな些細な事が招いた現実。
それでもまだチャンスがあるなら、彼女は言葉を紡ぐ。

石田
 「お願い、常葉さんを返して……!」

10円玉がカタカタと震え、鳥居の前に向かった。
鳥居の前で助走をつけるように、後ろに引かれると、一気に鳥居に飛び込んだ。

光輝
 「うわぁ!?」

清水
 「きゃあ!?」

三人は悲鳴を上げた。
でも、三人にあの声が響いた。

里奈
 『そのまま、引っ張って!』

光輝
 「常葉!?」

石田
 「待ってて! 今助けるからっ!」

清水
 「引っ張れぇぇ!!」

三人は精一杯十円玉を引っ張った!
すると、十円玉に別の指が3つ乗っていた。
そのまま強引に引っ張ると、小さな赤色で描かれた鳥居から里奈達が飛び出してくる!

セローラ
 「しゃあ! 脱出成功!」

美柑
 「い、生きてる? ふえええ……」

里奈
 「皆……」

石田
 「常葉さん!」

清水
 「うええん!」

里奈は泣いて無事を喜ぶ女子の抱擁を受け入れた。
里奈にとってこの優しい意思の力は微笑ましい。
男子と女子の対立、でもそれを超えて里奈を助けたいという意思が、アグノムである里奈の力とリンクした。
旧神獏雪老さえも予想外の力、それこそが異界の神の力だった。

セローラ
 「さて……と、早く帰りませんと」

セローラはスカートの裾を手で払うと、立ち上がった。
へたり込んだ美柑はそんなセローラの背中を見て。

美柑
 「ま、待ってください!」

セローラ
 「なにか?」

ツルペタには用はない、そんな空気を感じながら美柑は頭を下げる。

美柑
 「あ、ありがとうございました!」

美柑一人では里奈は取り返せなかった。
いや、それどころかやられていた可能性さえある。
今回セローラが介入しなければどうなっていたか。

セローラ
 「運が良かっただけですよ、対策も分からないのに勝てたなんて、こんな偶然あんまり期待しない事です」

美柑
 「で、でも! セローラは助けに来てくれた!」

セローラ
 「じゃ恩を感じたなら、美柑さんが責任持ってこの少年少女たちをお家に送り届けてください」

美柑
 「ああ、うん! 責任持って!」



狐狗狸さん、その産まれは定かではない。
地方によってはエンジェルさんと言う呼び方があるように、そもそも特定の存在を対象とした降霊術ではない。
狐狗狸さん、エンジェルさん……我々はそれをそう呼ぶが、何を呼んでいるのか、その正体も知らないのだ。



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第2話 小学校の怪 完

続く……。




次回予告!


 「セローラ、お疲れ様」

セローラ
 「こ、今回の件でお昼の事はチャラにしてくれるよね!?」


 「それとこれは別の問題」

セローラ
 「チクショーメ! 助け損かー!?」


 「因みに石田ちゃん、本名石田恵(いしだめぐみ)、オカルトマニアの小学生、清水ちゃんは本名清水翔子(しみずしょうこ)、女子のリーダー格、流行に敏感で皆の纏め役、責任感が強い」

セローラ
 「男子はゴールキーパー君、別名SGGK盛本和夫(もりもりかずお)、6年生、ユース12選抜代表にもなった程らしいわ。只管解説してた小学生照学(しょうまなぶ)、サッカーの腕は並!」


 「それじゃ次回は?」

セローラ
 「次回セローラちゃん! 鏡の中へ!」


KaZuKiNa ( 2021/01/31(日) 10:16 )