突ポ娘短編作品集


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霊視家政婦セローラちゃん!
第1話 幽鬼の壺

夢を見ている。
それは少し未来の夢だろうか?
真っ白な空間に10歳位になる幼い少年がいた。

少年
 「ねぇ! とーちゃん! オレはニンゲンなの!?」



***



セローラ
 「あったりまえでしょーが!!」

私はベッドから飛び起きた。
て、あれ?
私はゆっくりと周囲を見渡す。
自分の部屋だ、まだ日も昇っておらず、随分早い事がわかる。

セローラ
 「夢……ですか?」

私は壁を見た、そして迷わず壁抜けをする。
そして壁から顔だけ出すと。

絵梨花
 「すぅ、すぅ」

幸太郎
 「……んきゅ」

隣の部屋では私の雇用主の百代絵梨花とその子供の幸太郎がいた。
幸太郎はまだ1歳の赤ちゃんで、突然泣き出しては手のつけられないやんちゃ者だ。
真夜中でも容赦なく泣き出す様は、まさに育児ヒステリーを起こすには充分な程強烈だったが、時が過ぎるほどそれも鳴りを潜めてきた。
私は微笑を浮かべると幸太郎を見た。
こうやって寝ている姿はやっぱり可愛いですね。

セローラ
 「幸太郎坊っちゃんも、大きくなったらああいう少年に成長するんでしょうかね?」

私は夢の中で見た少年を思い出す。
あの可愛らしい少年……ん?
いや、よくよく思い出したら全然可愛くないわ、むしろムカつく。

セローラ
 (てか、誰がとーちゃんよ!? おねえさんの間違えでしょ!?)

間違えても、幸太郎坊っちゃんはああはならないと願いたい。
流石に両親健在だし、幸太郎坊っちゃんも自分をポケモンだとは思わないでしょう。

セローラ
 「はぁ、毎日8時間睡眠はセローラちゃんの特権なのに」

私は自分の部屋に戻るとそう呟いた。
赤ちゃんに振り回された結果、気がつけば生活リズムはどんどん崩され、いつしか茜ちゃんと遊ぶ余裕さえなくなった。
どんどん変わっていく自分にうんざりしながら、私は立ち上がった。

セローラ
 「二度寝する程、疲れがある訳でもありませんね」

私は自分の体調チェックをすると、動き出した。
足音は立てず、霊体のまま居間を進み、外に出る。

ゆっくりと街に朝日が昇り始めていた。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

霊視家政婦セローラちゃん

第1話 幽鬼の壺



私の名は百代(はくたい)セローラ、ランプラーというポケモンが擬人化した自称永遠の16歳だ。
この世界では擬人化したポケモンたち、通称PKMと呼ばれる人達がいる。
私もこの世界ではそんなPKMの一人なのだ。

セローラ
 「んん〜! 朝日が気持ちいいですねー! まぁゴーストタイプが言う台詞じゃありませんが!」

私はそう言うと、マンションの前でカンラカンラと笑った。
ゴーストタイプって陰気なポケモンが多いけど、このセローラちゃんは生粋の陽キャ! ていうか赤ちゃん相手にしてたら夜は寝たくもなりますよ!!

セローラ
 「おや、もう一人の陽キャゴースト発見」

私は道の端を見ると、汗をかきながら走り込みを行う少年のようなツルペタ女の子を発見する。
美柑(みかん)、現在同じマンションに住むギルガルドのPKMだ。
相変わらず朝の日課は欠かせないのか早朝ランニングを行う美柑さん、よく続けられますよねー。
セローラちゃんだったら3日で飽きるね! 間違いなく!

セローラ
 「ツルペター!」

美柑
 「誰がツルペタですか!? げ!? セローラ!?」

私は美柑をツルペタと言った覚えはない。
ただツルペタと叫んだだけだというのに、美柑は面白い位過剰反応を見せてくれた。
美柑は私を発見すると、これまたいつも通り嫌な顔をしてくれますね。
セローラちゃん寛大なので気にしませんが、いい加減美柑さんゴーストタイプに対する偏見を正して欲しいものです。

セローラ
 「相変わらず性が出ますねー」

美柑
 「う……日課ですから、ね」

美柑は私に話しかけられると気まずそうにした。
その顔はチラチラと私の顔を覗き、何か言いたげだ。
ここでイラチな娘なら、文句でも言うのだろうが、生憎私はそこまで美柑さんに興味がないのだ。

セローラ
 「はぁ、やっぱり貧乳じゃモチベ上がりませんね」

美柑
 「ちょっ!? なんでディスられないといけないの!? 僕君になにかした!?」

セローラ
 「いえいえ〜茜ちゃん相手にしてないから、最近ストレスが溜まってるんですよー」

私はげんなりするとそう言った。
ああ、無抵抗な巨乳少女のおっぱい揉みたい、ついでならしゃぶりたい。

美柑
 「よ、邪な気配を感じる……!」

セローラ
 「む、欲望に忠実なだけです! 大体美柑さんだって思うところはないのですか!?」

私は美柑の魂を見る。
ゴーストタイプの魂は大体濁っている物だが、美柑さんの魂はびっくりするくらい綺麗な物だった。
逆にここまで自分に嘘を付かないのに品行方正な人って珍しいですね。

美柑
 「はぁ……もう行きます」

美柑は疲れたような、呆れたような顔をするとその場でジャンプした。
物理法則を無視した動き、ゴーストタイプ特有の挙動で、彼女は4階に着地した。

セローラ
 「さて、奥様が起きる前にお仕事開始しましょうかー」

私は背伸びをすると、身体を反転させる。
相変わらず私の生活圏は狭く、このマンション一帯。
息抜きも家の前と、少しストレスが溜まる職場ですね。



***



セローラ
 「ふんふんふーん♪」

私は鼻歌を歌いながら、お昼ごはんを用意していた。
すっかりルーチンワークみたいになってしまっているが、私は雇用主の絵梨花さんとその腕に抱かれた幸太郎坊っちゃんを見た。

幸太郎
 「あ〜♪ セロー♪ セロー♪」

セローラ
 「はいはい♪ セローラちゃんはここに居ますよー♪」

幸太郎坊っちゃんはまだ片言だ。
それでもハイハイをこなし、少しだが立つ事もある。
赤ちゃんの成長は本当にびっくりですね、とはいえまだ離乳食はちょっと早いのかな?
今は上機嫌で絵梨花さんの腕の中で揺れていた。

絵梨花
 「ふふ、幸太郎、本当にセローラちゃんが大好きね」

セローラ
 「まぁ、これで髪引っ張ったりしなければ最高なんですけど」

私はランプラーだから、髪の毛が逆立ってしまい、幸太郎はよく私の髪を引っ張る。
一応ランプラーは髪の毛から炎を出せるため注意してほしいんですけど、赤ちゃんは本当に怖い物知らずで困ります。

幸太郎
 「あ〜♪」

セローラ
 「さ、お昼ごはんにしましょうか」

私はそう言うと、フライパンを振るう。
ソースの臭いが食欲をそそる焼きそばが完成した。
私はソース焼きそばを大皿に盛ると、食卓に運んだ。

絵梨花
 「セローラちゃん、本当にお料理上手ね♪」

セローラ
 「ええ、雇用されてますからねーそりゃこれ位習得しますよ」

はっきり言って上手と言われても、それは必要に迫られただけの事。
専門のシェフに比べれば私など程度が知れる、それにこの世界の料理は殆ど絵梨花さんから教わったものだ。
なにせセローラちゃん、元いた世界だと、絶対厨房なんていれてもらえなかったからね!
向こうのレパートリーより、こっちの世界のレパートリーの方が多いとか!

セローラ
 (ふ……如何に向こうで自堕落していたか、笑っちゃいますね)

ああ、コンルメイド長、元気にしてるかなー?
やっぱり、私が居なくなって清々している?
出来るなら、ナツメイト様や、ニアっちともう一度会いたいなー。
メイド長、やっぱり私見たら今でもトレイ投げてくるのかなー?
あれ、なんでか回避できないのよね。
しかも純銀性のせいか、なぜか霊体にも通じるし、コンルメイド長、実はヴァンパイアハンターか何かだったんじゃないだろうか。

セローラ
 「なんて、ありえないか」

絵梨花
 「? 何か言った?」

セローラ
 「何でもありませんよー、それじゃお昼ごはんにしましょうね」

私達はそう言うとお昼ごはんを食べ始める。
幸太郎は物欲しそうに手をのばすが、1歳にも満たない坊っちゃんにはまだ早い。

セローラ
 「こーら、駄目ですよ? 赤ちゃんではまだ消化出来ませんから!」

絵梨花
 「ふふ、と言っても分からないわよね」

ぐぬぬ、絵梨花様はそうやって微笑んでおられるが、私は気が気じゃない。
赤ちゃんの誤飲で大惨事なんて洒落にならないんだから!
特に坊っちゃんは今が活発な時期! それこそ手がつけられない暴れん坊なんだから!

幸太郎
 「う〜!」

幸太郎はムッとした。
そろそろ喜怒哀楽がハッキリしてきた性か、駄目って言われてるのが分かるのかな?

絵梨花
 「もう、怒らないで? ご飯にする?」

幸太郎
 「あ〜! あ〜!」

幸太郎は小さな手を振った。
まだ片言は喋れても、はっきり言葉に出来ないんですよねー。
エスパータイプのポケモンなら読心出来るんだろうけど。

絵梨花
 「あ、そうそう……セローラちゃん、この後お留守番お願いできる?」

セローラ
 「構いませんよ、雇用主の希望にはなるべく応えるようにしてますので〜」

このセローラちゃん、大真面目に働く事は大っ嫌いだが、雇用主の機嫌を損なわないのが信条だ。
ナンバー1よりナンバー2、そうやって小賢しく生きるのがセローラちゃんの処世術!
断じてM県S市の某連続殺人鬼の生き方は求めていないけど。

セローラ
 「ママ友とカフェ巡りですかー?」

絵梨花
 「そうだと良いんだけどね」

絵梨花奥様はそう言うと苦笑した。
どうやら楽しい事ではないようだ。

絵梨花
 「私、そろそろ働きたいなって」

セローラ
 「まぁ、その為のベビーシッターですからね」

セローラちゃん、元々はベビーシッター目的で雇われたのだ。
それは保護責任者との契約時にちゃんと確認した事だ。
本来なら私は今も愛する私だけのご主人様常葉茂(ときわしげる)のファミリーに迎えられた筈なのだ!
あ、因みにご主人様は上階404号室に住んでいる家主である。
ご主人様は何がすごいって、家族構成がすごい。
嫁の茜ちゃん、さっき遭遇した美柑さん、家政婦の保美香さん、他にも伊吹さん、凪さん、華凛様、そして養子の里奈ちゃん。
なんと家主意外皆ポケモン娘というハーレムっぷり!
しかも皆女の子でかなりハイレベルな美女っぷり!
全くセローラちゃんじゃなければ、畏れ多くてあの中に入っていけないよ。

セローラ
 「生活苦しいんですか?」

絵梨花
 「少し、ね? 幸太郎の事も考えると貯蓄は多いほうが良いし」

セローラ
 「やれやれ、旦那の稼ぎが悪い性で妻までその手を汚さなければならないなど……!」

私はそう言うと、あんまりな現実に拳をぷるぷる握りしめるのだった。
奥様はそんな私を見て困り顔で言う。

絵梨花
 「べ、別にそういう訳じゃないわよ? ただ、私が働きたいってだけで」

セローラ
 「冗談です」

絵梨花
 (時々冗談に聞こえないんだよね……)

その後は時折冗談も交えながら楽しく食事をするのだった。



***




 「幸太郎君、可愛い」

セローラ
 「んふふ〜♪ そうでしょう♪ そうでしょう♪」

午後、絵梨花奥様が出かけると、私は常葉家にやってきた。
今日も相変わらず茜ちゃん美しく、そして母の眼差して幸太郎坊っちゃんと遊んでくれる。
幸太郎坊っちゃんも満更でもない様子で茜ちゃんと戯れた。
ただ幸太郎坊っちゃんは茜ちゃんの特徴的な尻尾を獲物を見つめるように虎視眈々と狙っているように思える。
茜ちゃんはイーブイのPKMで、身長は私より少し小さい150センチ程、おっとり巨乳で、特に今は妊婦さんとしてマタニティドレスに身を包んでいた。

セローラ
 「んふふ〜、人妻になった茜ちゃんも良い♪ ああ〜、あのおっぱいしゃぶりたい、新鮮な新妻ミルク浴びたい♪」

保美香
 「なに変態特殊性癖晒しているのかしら! 全く子供の前でまでそんな調子じゃないでしょうね?」

ポカン!

あ痛っ! 私の頭を強めに小突いたのはこの家の家政婦保美香(ほみか)さんだった。
保美香さんはウツロイドという珍しいPKM、家政婦しているのがおかしい位の美人で、スタイルも良く西洋モデルのようだった。
だが室内でもクラゲのような帽子を被り、髪に擬態した触手は時折蠢いている。

セローラ
 「痛いですね」

保美香
 「はぁ……子供の情操教育に悪影響が出ないか心配ですわ」

保美香さんはそう言うと深刻な溜め息を吐いた。
私ってそこまで信用無い?

セローラ
 「大丈夫ですよ! これでも分は弁えているので!」


 「ん、そこはセローラ、信じられるわ」

おや、茜ちゃんも頷いてくれた。
フフン! これがセローラちゃんの信用なのです!
私だって、少し真面目にやればしっかり幸太郎坊っちゃんを育てられます!


 「ま、すぐに調子に乗る事と、絶妙に不真面目なのが心配だけど」

保美香
 「はぁァァァ……!」

セローラ
 「ちょ、そんな深い溜め息つきます!?」

私、どんだけ保美香さんに信用されていないのだ!

伊吹
 「まぁまぁ〜、お茶でも飲んで〜、落ち着いて〜、ね?」

相変わらずゆっくりした口調で喋るのは、ヌメルゴンのPKMの伊吹(いぶき)さんだ。
伊吹さんはなんと言ってもその胸が凄まじい!
私の何倍も大きな巨乳を揺らし、それでいて身長がすごく高い。
何げに腰回りも凄くて、結構安産型よね。
普段からほんわか笑顔で、逆に伊吹さんって怒った顔とか見たことがないわね。
意外と間抜けそうで、実は聡明だったりするから侮れない。
私をあんまり毛嫌いしないから、私としては付き合いやすい相手だけど。

セローラ
 「頂きます」

伊吹
 「はい〜、茜ちゃんも〜」


 「ん、ありがとう」

私達はお茶をいただく。
うん、美味しい、いい茶葉使ってるなぁ〜。

保美香
 「それでセローラ、家ではちゃんと幸太郎を世話してますの?」

セローラ
 「モチのロン! 当然ですよ! ていうか何で疑われなきゃならないの!?」

保美香
 「もし、辛かったら頼っていいんですわよ?」

うう、私だけでも大丈夫なのに、なんでこんなに信用されてないの?
まぁ力貸してくれる分には遠慮なく頼りますけど!

セローラ
 「ていうか、茜ちゃん? 茜ちゃんも赤ちゃん産まれたら、大変なんてもんじゃないですよ?」

伊吹
 「そうだね〜、どんな可愛い子だって〜、最初はモンスター、だもんね〜」

ポケットモンスターの子供だけにモンスター、上手いこと言うわね!
しかしそれを聞いても茜は自信満々だ。


 「大丈夫っ、ちゃんと育てる」

保美香
 「心配いりませんわ、わたくしがいますもの!」

保美香さんも自信満々ね。
おのれ……あの夜も眠れないストレスフルな生活を一度もした事がない癖になにをほざくか。
とはいえ、それは口にしない。

セローラ
 「ところで、茜ちゃんの子供はどっちなんですか?」

どっち、とは性別や種族のことだ。
PKMの子供は人間として産まれるか、PKMとして産まれるか分からない。
茜ちゃんの大きなお腹はもうそろそろ分かる頃じゃないかな?


 「ん、女の子」

保美香
 「種族はまだ分かりませんわ」

セローラ
 「女の子かぁ」

だったら、茜ちゃんみたいな美人さんになるかもねぇ。
ああ、でもご主人様の子供でもあるなら、目つきが悪くなるかも?
無力なロリ巨乳なってくれたら嬉しいなぁ。


 「セローラ、今邪な事考えた?」

セローラ
 「んな!? な、なにを仰っているのでしょうか!? 意味が分りませんねー?」

私はそう言うと視線を逸し口笛を吹いた。

保美香
 「あからさま過ぎますわよ!? 隠す気ないですわね、この雑菌は!?」

セローラ
 「ざ、雑菌って……あら?」

私はふと視線を逸した時、見慣れない物を見た。

セローラ
 「あの、壺はなんですか?」

私は部屋の片隅に置かれた壺を指差した。
その壺は素焼きの壺で、所々ひび割れていた。
骨董品に見えるが、どうしてこの家にあるんだろう?


 「ご主人様、引き取ったの」

保美香
 「仕事の付き合いで押し付けられたとも言えますが」

セローラ
 「曰く付きなんですか?」

私は壺について追求した。
一見するとただ古臭い壺、その表面に墨で何か描かれていたが、セローラちゃん古文に明るくないので読めない。
大きさは30センチ程、無駄に場所とるわね。

保美香
 「前の所持者の話では、夜に話し声が聞こえるとか」

セローラ
 「ふーん、オカルト……」

美柑
 「お、おおおお、オカルトなんてある訳がない!? そうでしょ!? そうですよね!?」

そこへ、私の言葉を遮るようにガタガタ震えた美柑が現れた。
そんな美柑の姿を見て、保美香さんは辟易した。

保美香
 「美柑、所詮ただの骨董品ですわよ? そんなに怯えなくても」

美柑
 「お、おお、おび、怯えてなんていませんから!? こわ、怖くなんかありませんよ!? た、ただお水が欲しいから部屋から出てきただけで!?」

伊吹
 「虚どりすぎ〜」

保美香
 「全く……里奈だって、そこまで怯えませんわよ?」

里奈っていうのはアグノムのPKMで茜ちゃんの義理の娘。
小学生で、今は学校に行っている。
私的にはちょっと胸が物足りないのよね、割と無抵抗だからそこはポイント高いんだけど。
ていうか、小学生が平然としているのにこの怯えようは異常でしょう?

セローラ
 「……」


 「セローラ、どうしたの?」

セローラ
 「あの壺、憑いてますね、何かが」

美柑
 「いいいいいやあああああああ!? な、なに!? 何が憑いてるの!? きええええええやああああああ!?」

幸太郎
 「っ!? うえええん!! ええええん!」

保美香
 「汚い絶叫をするなぁ! 子供が泣くでしょうがこの痴れ者!!」

美柑の本当に汚い絶叫声に驚いた幸太郎は大泣き、私は慌てて茜ちゃんから幸太郎坊っちゃんを受け取ると、全力であやした。

セローラ
 「幸太郎坊っちゃん、セローラちゃんですよー♪ もう大丈夫ですからねー?」

幸太郎
 「あう? セロー♪ セロー♪」

幸太郎坊っちゃんは私に抱きかかえられると、嬉しそうに笑顔を浮かべた。


 「コウタ君、本当にセローラが大好きね」

幸太郎
 「あーい♪ キャキャ♪」

保美香
 「全く……セローラも不必要に美柑を煽らない!」

美柑
 「ガクガクガクガク……」

美柑は保美香に取り押さえられると、その場で蹲り青い顔でガタガタ震えた。
とりあえず幸太郎坊っちゃんの情操教育には悪いですね。

セローラ
 「サーセン! 以後気をつけます♪」

私はウィンクしてそう謝ると、もう一度壺を見た。
見たこともない字が描かれた奇妙な壺。
私はそこから漏れ出る何か、それを視る。



***



セローラ
 「それじゃ、今日はありがとうございました」

夕方、私は絵梨花奥様の帰りのメールを頂き、家に帰る事にする。
疲れたのか幸太郎坊っちゃんは私の背中で寝息を立てていた。


 「ん、気にしなくていい」

保美香
 「そうですわよ、PKMは助け合い、かしら」

こんな私を迎え入れてくれる茜ちゃんと保美香さんには感無量だ。
でもあんまり美人さんに囲まれてると幸太郎坊っちゃんの美的センスが歪まないか心配ね。
大人になった時あんまり高望みする子にはなってほしくないもの。

セローラ
 「……結局美柑さんは?」

保美香
 「あの子、結局部屋に引き篭もっていますわ……臆病も大概にしてほしいものです」

セローラ
 「……そう、ですね」


 「なにか気になる?」

気になるといえば気になった。
美柑さんの異常な怯えよう、それが何を意味するのか?
もし、私と同じ『視界』を持つならば、何が視えたのか?

セローラ
 「ううん♪ なんでもないよ♪ それよりあの壺早々に捨てた方が良いと思いますよ? それかお祓いしてもらうとか」

保美香
 「セローラ? 貴方までオカルト信じますの?」


 「一応、ご主人様と相談する」

セローラ
 「……それでは、ごきげんよう」

保美香
 「ごきげんよう」


 「ばいばい」

私はそう言うと、玄関を出て1階を目指す。
1階に降り、百代家の家の前まで辿り着いた私は、もう一度上を見上げた。
視界を霊体を見る視界に変え、常葉家にある魂を覗き見る。

セローラ
 「はぁ」

私はもう一度溜め息を吐いた。
今も部屋でガタガタ震える魂が視えた。
美柑、彼女があのざまでは……。



***




美柑
 (あううううう……な、なんで? なんで誰も気付かないんだよぉ……いる、いたら駄目な存在がリビングに……!)




 「……」

ピキ、美柑がただ怯えている中、壺にヒビが入った。
家人の誰も気付かない。
いや、一人気づいているが、それはあまりに情けない姿を晒している。


 『……ふ、ククク』

壺から僅かに溢れる黒い瘴気、しかしそれは茜にも、保美香にも見えない。
唯一見えるものは無能のでくの坊。
壺から聞こえる笑い声、その妖気は除々増していた。



***



夜……真夜中、誰もが眠りにつく丑三つ時。
美柑はベッドに包まりながら、震えていた。

美柑
 (あうあうあう……)

怖い、恐ろしい。
帰ってきた家主の常葉茂に美柑は全力で壺を捨てるように進言した。
しかし茂は然るべき場所に引き取ってもらう予定になっていると言い、受け入れてくれなかった。
ならば、外に出してくれと言っても、壺の状態は良くないため、外気には晒せないと。
美柑は壺から視えた物をなるべく視ないふりをした。
幸い壺から聞こえる声は、今の所直接的な害は与えていない。
だが、猛烈に嫌な予感がする。
美柑は眠ることもできず、ただ怯えていた。

セローラ
 「よっと」

美柑
 「へ?」

突然、セローラが美柑の真上に出現した。
霊体を利用して、美柑の魂を捕まえると、そのまま天井まで引き上げる!



***



美柑
 「ぴいいいいいやあああああああああ!?」

セローラ
 「ご近所迷惑ですよ?」

私は有無言わさず美柑を拉致する。
屋上へと引っ張り出すと、美柑は汚い絶叫を上げ、パニクった。

美柑
 「せ、せせ、セローラ!? これはなんの冗談だい!? 僕に何をする気だ!?」

セローラ
 「何をする? それはこっちの台詞ですよ、貴方こそ何してるんです?」

美柑
 「な、なにって……!」

美柑はまだ震えていた。
とりあえず話が出来るように壺から遠ざけたのにこのざま、本当に強いのに役立たずですね。

セローラ
 「あの壺、凄まじい怨念を感じました、まともじゃないですよ?」

美柑
 「!?!?!? せ、セローラ!? き、君も気づいて!?」

美柑は顔を青ざめさせた。
やっぱり美柑も視えていたのね。
私達はゴーストポケモン、最も不思議でオカルトな種族たち。
だが、私達とは別にこの世界には怪異が存在する。
そして私は、それが分かったからこそ、美柑を引っ張り出した。
私は美柑に顔を近づけると。

セローラ
 「貴方があの家族を護らないでどうするんですか!?」

私はずっと壺が気になっていた。
一度気にしてからずっと壺と美柑を視ていた。
しかし美柑はずっと部屋から動かず、一方で壺から漏れ出るどす黒い物は段々と大きくなっていた。

美柑
 「で、でも……!」

セローラ
 「私は他人にいちいち構ってられる程、善人でもないんですが、茜ちゃんに危害が加わるなら、黙ってもいられません」

美柑
 「な、何をする気だい!?」

セローラ
 「壺が視える? あの今にも崩壊しそうな壺の気配」

美柑
 「ひ、ひいいい!? やめてぇぇぇ!?」

美柑はなおもそれを視て怯える。
私はため息しか吐けなかった。

セローラ
 「臆病者! もういいです! 貴方の家の問題なのに、貴方がその有様じゃご主人様や茜ちゃんが可哀想!」

私はそう言うと、霊体化して常葉家のリビングに飛び込んだ。

セローラ
 「さぁて、運が悪いと思ってくださいね?」

私はリビングに、着地すると壺を視た。
壺から溢れるどす黒い妖気?
私達ポケモンとはやはり違う、人に害なす気配。


 『くく、クハハハ!』

壺は笑った。
否、笑っているのは壺の中に封じられし者。


 『我500年を持って、復活せん! 異界の者よ、それを邪魔するか!?』

セローラ
 「ええ、邪魔しますよ、特に私の大切な物に害を与えるなら!」

壺にひびが入る。
元々ひび割れだらけだった壺は、すでに妖魔を封じ込めて500年、封印は限界だった。
私は迷わず炎を練る。

ピキキ!

壺に最も大きな亀裂が入った!
その中から怨念を携えた妖魔が飛び出してくる!

セローラ
 「煉獄!」

私は地獄の業火とも呼べる炎を迷わず妖魔に放った。
しかし妖魔の表面をなぞる煉獄は上手くそれにダメージを与えられない!
妖魔は随分昔の山伏みたいな格好をした鬼の面を被った妖魔、幽鬼とでも呼ぶべき存在だった。

幽鬼
 「異界の者、我が贄となれ!」

セローラ
 「っ!?」

幽鬼は闇を広げた。
すると、部屋の中が闇に飲み込まれる。
私は身構えた、だが直接的な影響はない。
しかし、幽鬼は別だった。

幽鬼
 「ククク、500年、諸行無常比ぶれば、かくも愉快なものよのう」

セローラ
 「現代語で喋りなさい、セローラちゃん古文はチンプンカンプンなんだから!」

幽鬼は闇の中ではその体長5メートル強にまで大きくさせた。
私は霊視してその周囲を伺うが、霊視してもなにも捉えられない。

セローラ
 (どういうこと? さっきまでご主人様達の魂が視えていたのに)

幽鬼
 「ククク……助けなど来ぬ、ここは我が腹の中、元より普通の者に鬼は見えぬ」

セローラ
 「結界……」

そう、これは結界みたい。
鬼の放つ術とでも言えばいいのだろうか?
セローラちゃんとこの幽鬼、性質は近い……でも決定的に異なるのは。

セローラ
 「全く、どうすればそんなどす黒い魂になるんですか?」

私はおぞましい色をした幽鬼の魂を視た。
この鬼は人を食らっている、それも結構な数。
その成仏も出来ない怨念が「たすけて、たすけて」と泣いているようだ。

セローラ
 「反吐が出ますね!」

幽鬼
 「ククク、異界の者、そなたも同じであろう? 魂を喰らい我らは強くなる! 弱者は糧となる定め!」

セローラ
 「……同じ、ですね」

私は笑ってしまう。
確かに同じだ、ランプラーも喰った魂の分だけ強くなれる。
シャンデラともなれば、その火力は人程度なら簡単に焼き尽くせるだろう。

セローラ
 「はぁ!」

私は煉獄を放った。

幽鬼
 「くく! 炎獄の者か!」

幽鬼は煉獄を物ともせず、歩みよってきた。
く……煉獄が効かない!?



***



美柑
 「う、あ、あ、あ……」

僕は屋上で震えるしかなかった。
セローラの魂が消えた。
そして壺から溢れた薄汚れた邪気が大きな塊になる。
セローラは……死んだ?

美柑
 「ぼ、ぼぼ、僕……!」

僕はセローラの言葉を思い出した。

(セローラ
 「貴方があの家族を護らないでどうするんですか!?」)

美柑
 「ぼ、僕がこんな有様なのに、き、危険なの承知でせ、セローラは行っちゃった……」

僕は震えていた。
あの邪気が今は動かないけど、このあとどうなるか分からない。
もし、主殿に手を出すならば?

美柑
 「ああ、あああ、ああああああああああ!!?」

僕は半狂乱だった。
涙と鼻水を撒き散らしながら、自分の半身、剣のギルと盾のガルドを呼び寄せる。
そして霊体のまま、僕は闇の球体に斬りかかった!



***



セローラ
 「く、う!?」

幽鬼は私の首を掴むと持ち上げた。
邪気が私に絡みつく。
幽鬼は愉悦の表情であざ笑った。

幽鬼
 「クカカ! 異界の者! まずは貴様から喰ろうてやる!」

セローラ
 「だ、誰がですか……セローラちゃん、美味しくないんですから!」

私はそう言うが、万事休すだった。
幽鬼の強固な体の正体、それは怨念の膜だ。
これを剥ぎ取らない事には煉獄が通じない。
しかし、私に使える技は他は鬼火くらい、ちょっと火力不足!

セローラ
 (しくじったかなぁ〜? やっぱり見て見ぬ振りするべきだった〜)

私は今更後悔した。
だけど、もう遅い。
幽鬼はちょっとずつ、私に食指を伸ばしている。
だが、幽鬼は不意に頭上を見上げた。

幽鬼
 「なに? 一体何が!?」

美柑
 「ぴぃぃぎょえええええええ!?」

汚い絶叫が結界内に響いた。
美柑は霊体のまま、結界を外からこじ開け、中に入ってくる。

幽鬼
 「な!? 我が腹の中を破るだと!? 此奴も異界の者か!?」

美柑
 「こ、こここ、怖くない、怖くない」

幽鬼
 「?」

美柑
 「お前なんて怖くねぇぇぞおおおお!?」

セローラ
 「へい! 美柑! こいつを殺したいんだろ!? 武器なんか捨てて素手でかかってこい!!」

美柑
 「いいいやあああああああああ!!!」

美柑は涙と鼻水を撒き散らすと、半狂乱のまま、幽鬼に突撃した。
幽鬼は戸惑いながら、私を離すと美柑を迎え撃つ。

幽鬼
 「面妖な! 返り討ちにしてやる!」

セローラ
 (化け物に面妖って言われる美柑って……!)

思わず吹き出しそうなってしまう。
だけど幽鬼は見誤ったわね、ヘタレで役立たずだけど、美柑の強さは私の比じゃない。
美柑は半狂乱になりながら、幽鬼を斬りつけた!
すると幽鬼は呻く!

幽鬼
 「ぬううう!? こやつ退魔の力があるのか!?」

セローラ
 「ばーか、ギルガルドにそんな高尚な力ある訳がないでしょう!」

ギルガルドの魂を支配する能力、それを悪用すれば一国すら支配できると言われている。
魂の防御では、ギルガルドの攻撃は防げない!

幽鬼
 「ちいい!?」

幽鬼は飛び上がった。
美柑さんを危険だと判断したのだ。
結界を破る力、そして幽鬼の鎧を斬り裂いた力。
いずれも幽鬼を上回った!

だが、幽鬼の周囲を漂う鬼火に気が付かなかった。
私が放った鬼火が、幽鬼の霊体を焼く。

幽鬼
 「ぬおおお!?」

セローラ
 「逃がす、訳が!」

私は飛び上がった。
幽鬼の腹に入った切れ目、私はそこに手を突き刺す!

セローラ
 「500年だかなんだか知らないけど! 永遠の16歳舐めんなー!!」

私は身体の全熱量を手に注ぎ込む。
私の瞳は青く燃え上がり、全力の煉獄が幽鬼の中に放たれる!

幽鬼
 「しま!? おおおおお!?」

内側から魂を滅却する炎に晒された幽鬼は醜い悲鳴を上げた。
その身体は灰になり舞う、そして私はある物を捕らえた。

セローラ
 「そうです、私は貴方と同じ、魂を炉に注ぎ喰らう者……ただし、お前みてーな悪党限定ですけどね!?」

それは幽鬼の魂。
私は掌の中で幽鬼の魂を焼き尽くした。
幽鬼の魂が消滅すると、結界は崩壊し、元のリビングに戻ってくる。
そして幽鬼が食らっていた成仏出来なかった魂達は天へと昇っていった。
今、目の前にあるのは空っぽになった古臭い壺だけだった。

セローラ
 「はぁ……疲れたぁ」

セローラちゃん、魂を焼くのは得意だけど、ああいう直接火が届かない相手は苦手だわ。
それとやっぱり美柑さんって強いですね、あれでオカルト恐怖症さえなければ、幽鬼如き物の数じゃありませんでしたのに。

ドタドタドタ!

セローラ
 「おっと、それじゃ私はここでドロン!」

部屋の奥から足音が聞こえてきた。
私は住民に気付かれないように、すぐさまそこから消える。



***



保美香
 「もう! 奇声ばかり放って、美柑は……! 美柑?」

美柑
 「あ……あはは」

わたくしは美柑の奇声を聞きつけると、叱りにリビングに向かうとそこにはその場にへたり込む美柑がいた。
しかしリビングに全く近づこうともしなかった美柑が今は平気みたいだった。
わたくしは訝しんで美柑に近づく。

保美香
 「み、美柑? 大丈夫ですの?」

美柑
 「あ、あははは……こ、腰が抜けて、た、立てません」

美柑はまるで怨霊付きから祓われたように笑顔だった。
わたくしは肩をすくませると、美柑の肩を持つ。
この臆病者、こんな夜中になにやってるんだか?



***



セローラ
 「いたた……ちょっと無理した」

私は魂に傷を付けられ、ちょっと顔を歪めながら自分の部屋に戻る。
さぁて、明日も早いんだからすぐに眠らないと、そう思うが……。

セローラ
 「ん〜」

私は壁抜けてして、隣の部屋を覗き込む。
そこにはぐっすり眠る絵梨花奥様と幸太郎坊っちゃんがいた。

セローラ
 (セローラちゃん、お二人のため、頑張りますからね♪)



突ポ娘セローラ外伝

霊視家政婦セローラちゃん!

第1話 幽鬼の壺 完!



次回予告!


 「セローラ、貴方には失望した、なぜいつも変態行為ばかり働くの?」

セローラ
 (そ、そんなこと私に言われたって)


 「そんなこと? そんな事と言ったのか?」

セローラ
 (まずい!? 心が読めるのか!?)


 「まずいだと? 何がまずい? 言ってみろ」

セローラ
 「じ、次回! セローラちゃん、小学校に行く!」


KaZuKiNa ( 2021/01/20(水) 20:14 )