突ポ娘短編作品集


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短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #10
 
最終章 神話の乙女と呪いの姫編




 「くそ……くそ!? あいつ達大丈夫なのか!?」

それは突然だった。
いつもように仕事に行き、茜に見送られ仕事を熟していると、突然闇が街を破壊した。
あまりにも馬鹿げているが、ビルよりも巨大な闇が、ビル群をスライスチーズみたいに切り裂き、避難指示が発令された。
スマホには、未曾有の大災害が発生したという。
だが、その場所が問題だった。
それは凪と華凛が働くメイド喫茶ポケにゃんのある地区だったのだ!


 (もうすぐ、もうすぐあいつ達の仕事場に!)

俺は電車もタクシーも止まり、仕方がなく自転車で全力で現場に向かった。
だが、問題の場所に辿り着いた俺は愕然とする。


 「嘘、だろ!?」

それはまるで震災にでもあったかのような惨状だった。
家屋はなぎ倒され、被害者が転がっている。
俺は直ぐに被害者の様子を確認した。


 「息をしてる? くそ……救助隊はまだかよ!?」

俺は被害者をなるべく安全な場所に寝転ばせると、今は凪達を優先する事にする。
俺は恐怖に怯えながら、災害の中心を目指した。
しかし中心で俺は、ある人物を見つけ安堵し、そしてある人物を見て驚愕した。


 「凪!? 華凛!? 一体何をしているんだ!?」

それは凪と華凛だった。
華凛は何故か漆黒のウエディングドレスに身を包みに、見覚えのある闇を纏って凪に斬りかかる。
凪はボロボロのメイド服姿で、必死に身を守っていた。
凪の放つ暴風が、周囲を吹き飛ばし、まるでそこは戦場だった。

華凛
 「ダーリン?」


 「茂さん!? 今は!?」

華凛が俺に振り返った。
すると、子供っぽく微笑むと、一気に走り出す!

華凛
 「ダーリン! ダーリンダーリン♪ 愛してる♪」

突然華凛は凄まじいスピードを見せると、俺に抱きついてきた。
華凛は猫なで声を上げると、顔をすりつける。
俺は戸惑った、華凛の様子がおかしい、でも華凛だ。
まるで子供になったように、無邪気だった。

華凛
 「ダーリン、私を愛してる?」


 「当たり前だろ、それよりお前これは一体?」


 「茂さん! その華凛は普通じゃない! 離れて!」

え? 俺は凪を見た。
凪は必死な顔だった。
明らかに殺し合いをしたかのようにボロボロで、それが普通じゃないのは分かる。
だが、奇妙なウエディングドレスの華凛は不機嫌そうに凪を見た。

華凛
 「どうして邪魔するの? 消えろ! 神話の乙女!」

華凛は突然俺に抱きつきながら、左手を凪に翳す。
すると、闇がビームのように放出され、凪を襲った!


 「ぐうう!?」

凪は飛び退くが、闇の爆風が凪を吹き飛ばす。
俺はゾッとした、今の技はなんだ!?
というか、なんで凪を攻撃する!?


 「止めろ華凛!?」

真莉愛
 「そこまでよ!?」

突然だった。
特殊部隊風の自衛隊が俺たちを取り囲む。
そしてその中心に御影真莉愛さんがいた。
御影さんは相変わらずの黒ずくめで、サングラス越しだが、明らかに俺たちを睨んでいた。
それと同様に特殊部隊は銃口を俺たちに向ける。


 「これは?」

真莉愛
 「これ以上抵抗は止めなさい! 街を破壊し、どうする気!?」

華凛
 「……気に入らない」


 「は?」

華凛は俺から離れると、周囲を伺った。
その冷徹な顔は見覚えがある。
まるで皇帝の時の華凛だった。
全てを憎み、それでも、もがき苦しんでいた姿だ。
だが、あの時華凛ではない、少なくとも今の瞬間は!

華凛
 「私とダーリンの邪魔をするなー!?」

突然、華凛はその身体から闇を放った!
それは速い! 銃の引き金を引くより速く、周囲の特殊部隊や御影さん達を吹き飛ばした!
それは本来なら、当然俺も吹き飛ばされていた筈だ。
だが、実際には何も感じない。
むしろ暖かい? 俺は闇に包まれていた。

華凛
 「ひっく! ひっく!」

華凛は俺の目の前にいた。
だがヒクヒクと泣き、まるで子供のようだった。


 「これも華凛、お前がやったのか?」

華凛
 「ダーリン、ダーリンは私の事好き?」


 「好き、だけど……今はそんな事言ってる場合じゃ……」

華凛の姿は闇に染まり、白い髪が嫌に目立つ。
普段の落ち着いて尊大な雰囲気は微塵もない。
まるで愛に飢えた子供だった。

華凛
 「私も好き! 大好き♪」


 「そ、外はどうなってる?」

屈託なく笑う華凛、それもやっぱり見たことの無い顔だった。
だが、ある意味でこれも華凛の顔だと思えた。
でもそれだけに恐ろしい……あの外の惨状、本当は災害なんかじゃなかった。
全備華凛がやったんだ。
御影さんや凪は無事なのか?


 「なぁ、一度帰ろう? 華凛?」

俺はなるべく優しい顔でそう言った。
華凛にどんな事情があったのか、正直分からないが、華凛は家族に違いない。
だが、華凛は顔を膨らませると、目に涙を浮かべ震えた。

華凛
 「どうして? なんで? 私が嫌いになったの?」


 「なっ!? 違う! ただ、皆の下に帰ろうってだけで……」

華凛
 「いや! なんで私意外の事を考えるの!? 私だけを愛してよ!? 私はダーリンの為なら、なんでもするのに! なんでダーリンは私だけを愛してくれないの!?」


 「っ!?」

華凛の言葉は俺の心に深く突き刺さった。
私だけを愛してほしい……そんな当たり前の感情をぶつけられた俺は何も言えなかった。


 (わかってる……華凛がどれだけ我慢していたのか……茜や保美香達がどれだけそんな当たり前の想いを殺しているのか)

俺は全身が震えていた。
選ばなければならないのか、華凛を選ぶか、華凛以外を選ぶか。

華凛
 「いや!? やだっ!? 私以外の事考えた!? やめて! ダーリン!?」

華凛は怯えたように、俺の肩を掴んだ。
だがその力はあまりにも弱い、その姿は正真正銘、癇癪を起こした子供なんだ。


 「ごめん華凛……それでも、俺は茜達を見捨てられない……」

華凛は自分だけを愛して欲しいという。
愛の欲望は止め処なく、それ故に罪なんだろう。
しかし、俺にはその罪を裁くことなんて出来ない。
華凛の愛は本物で、そして孤独なんだ。
俺はそんな華凛を見捨てられる訳がない、でもそれは皆一緒なんだ。


 「俺の事、最低って罵しってくれ、それでも俺は皆愛しているんだ!」

そうだ、それは華凛の思いには相容れない。
華凛はそれを認めないからだ。
それでも俺は華凛も茜も凪だって、皆好きで愛しているんだ!

華凛
 「……そう、そんなにダーリンには大切なんだ」

華凛は両目から涙を落とすと、顔を凍りつかせた。
俺は華凛にそんな顔をさせた事を悔いる。
全て俺の不手際だ、俺が華凛の不満に気付かなかった。

華凛
 「分かった……なら、皆殺さなくちゃ!」

華凛はそう言うと、身体から闇を噴出させた。


 「くっ!? 止めろ!? そんな事をしても、誰も救われはしない! お前だって追い詰めるんだぞ!?」

華凛
 「っ!? そんなの関係ない! 私はダーリンしかいらない! ダーリンを奪おうとするなら、私の敵だ!」

くそ!? 俺は華凛に近づけなかった。
華凛にとって俺は絶対で、同時に華凛は俺に絶対を求める。
何故だ……何故世界はこんなにも残酷なのだ?



***



真莉愛
 「つまり……その神話の乙女っていうのが問題なのね?」


 「……はい、信じて貰えるとは思いませんが」

華凛から闇が放たれた後、茂さんごと華凛は消え去った。
私は同罪と見做され、御影さんに拘束された。
私は無抵抗を示すと御影さんに連行された。
私が連行されたのは御影さん曰く、秘密基地だった。
実際は、やや辺鄙な場所に建てられた窓のないプレハブの建物だが、本人曰く都合が良いとのこと。

真莉愛
 「……信じるわ、だって凪ちゃんが嘘をつくとは思えないもの」

御影さんはそう言うと、少しだけ微笑んだ。
ふ、街一つ破壊して、恐怖に人々を陥れたというのに、信じるか。

真莉愛
 「ただ、神話の乙女、そして呪いの姫? よく分からないのよね……」

それに関しては私も同様だ。
お伽噺には神話の乙女の活躍が描かれ、伝説のポケモントレーナーの伴侶となる姿が描かれている。
だが、呪いの姫の伝承なんて聞いた事がない。

真莉愛
 「貴方のいた世界では、神話の乙女は普通なの?」


 「いえ……正体不明で、分かっている事は、悠久の時代に渡って、神話の乙女は出現していたという程度」

私は家にある、あの神話の乙女に由来する指輪を思い出す。
神話の乙女は実在するし、その歴史の痕跡は数多い。
しかし、そもそも神話の乙女とはなにか?
何故神話の乙女は、あの理不尽な力を得るのか?
太古の昔、ポケモンが文明と引き換えに技を捨て、歴史上最大の栄華を築いた。
しかしそれは結果として、ポケモンそのものを弱くもした。
神話の乙女は、太古の私達ポケモンの姿のようだ。
強力な技を繰り出し、幾千もの軍隊さえ吹き飛ばす力。
理不尽な時代に人々が苦しむとき、天は神話の乙女と、伝説のポケモントレーナーを降臨させる。


 (そもそも神話の乙女とは? 何故神話の乙女は二人いたのだ? 伝説のポケモントレーナーは一人しかいないのに)

私はそれをただ、神の気紛れだと思っていた。
むしろ華凛には同情さえもした。
何故私は神話の乙女足り得たのか?

真莉愛
 「華凛ちゃんは……なにか知っているのかしら?」


 「華凛……」

私は華凛の顔を思い出した。
それは初めて遭遇した時、皇帝として私を殺そうとした時。
私と茂さんを奪い合い、笑顔の華凛の顔。
でも、突然華凛は豹変した。


 (アイツ笑ってた……私を殺したいって)

去来するのはやはり皇帝の華凛だ。
あの時の華凛も笑っていた。
私を殺して、神話を終わらせる、と。


 (そうだ、あいつは元々神話の乙女を呪っていた、あれこそが呪いの姫の本質だったのでは?)

茂さんに認められ、子供のように泣きじゃくっていた華凛は、まるで毒気が抜けたように変わった。
しかし、冷静に考えれば、何故皇帝華凛はあんなに歪んでいたのだ?
ポケにゃんで働く華凛は、想像もつかない程凛々しくて、そして嫉妬する程美しかった。


 (やっぱり別人だ、皇帝カリンこそが呪いの姫だと言うことか?)

真莉愛
 「……兎に角早急に対策を講じないと」


 「華凛、説得は不可能なのか……」

御影さんは溜息を吐きながらも、ノートパソコンを使ってなにか作業をしていた。
私はまだ華凛を見捨てる事は出来なかった。
華凛の愛は純粋で、純粋過ぎて、世界には毒物になる。
愛を世界の歪みだと断じなければならないのは、私にも苦しい。
華凛が狂ってしまうのと同じように、私だって茂さんを愛しているのだ。
だが、自分の都合を押し付けて、茂さんを困らせるなんて私には無理だ。
華凛とて、良心があるなら、ああはしない筈。

実際狂ってしまう直前まで、華凛はいつもの通りだった。
だが、あの謎の闇を放った後から、華凛からゾッとするような恐怖を感じた。
あまりにも純粋過ぎる殺意は、華凛らしくなく、それ故に華凛は私を仕留め損ねた。
あんな真っ直ぐな殺気は、攻撃が読みやすい。
如何に規格外な力を発揮しようと、どうにか出来ない程じゃない。


 「っ!?」

ゾクリ、突然私は背筋が凍る気がした。
いや、奴だ! 華凛の気配がした!

真莉愛
 「ど、どうしたの? 凪ちゃん?」


 「伏せて!」

ズガァァン!!

その直後、プレハブの小屋が吹き飛ばされた。
私は衝撃を受け吹き飛ぶが、空中で態勢を整えた。
御影さんは!? 私はプレハブ跡を見ると、彼女はテーブルの下で身を屈めていた。
私は空から、あの女を見た。

華凛
 「神話の乙女……決着をつけよう」

華凛だ、狂気的に笑み、私に純粋な殺気と、愛故の憎しみをぶつけてくる。
黒いウェデングドレスはなんの現れか、ただそれはまるで神話の乙女の色違い。


 「くそ!? 今更神話を終わらせる事に何故拘る!」

華凛
 「違うっ! そんなのどうでもいい! ダーリンを奪う奴は皆敵だ!」

私は舌打ちした。
華凛は私に拘る最大の理由は結局はそれだ。
考えてみれば、あの最終決戦も同じだった。
結局は茂さんの奪い合いなんだ。

華凛
 「死ね!」

華凛は闇を放つと、刃を生成した。
見たこともない力、ただ心底あの気配は悍ましい。
呪いと言う名の力が質量を持ったみたいだ。

私は風を集めた。
私達の力が、激突する!


 「何故憎む!? それを茂さんが望むのか!?」

華凛
 「不愉快だ!」

華凛は闇の刃を振るう!
私はエアスラッシュでそれを弾く!
私は肉薄すると、華凛の顔を殴りぬいた!


 「私は茂さんの為なら、お前とだって戦ってやる! でも茂さんがそれを望むか!? 違うだろう!? もし望むなら、今の私達はない!? 違うか!?」

華凛
 「くう……!?」

華凛は起き上がると呻いた。
華凛自身分かっている筈だ!
茂さんはこんな不毛な戦いは望まない!
私は更に華凛に叫んだ!


 「それが良い女の条件か!? お前は良い女なのだろう!?」

華凛
 「あ、あ……! あああああ!?」

華凛は苦しみだす。
だが、突然獣のように飛び出すと、私を地面に組み付した!


 「くっ!?」

華凛
 「ああ……お前さえ、お前さえ……!?」

華凛は泣いていた。
黒い涙が止め処なく零れ落ちる。
すごい力で私を抑え込むが、トドメを刺す気配はない。

真莉愛
 「う、く!? か、華凛ちゃん! それ以上は駄目!?」

華凛
 「煩い!」

華凛は御影さんを見ようともせず、闇の波動を放つ。
御影さんは吹き飛ばされると、大の字に倒れた。

真莉愛
 「ああっ!?」


 「くっ!? 彼女は無関係だろう!?」

華凛
 「う、うう……! ダーリン……私、わたしぃ……!?」

突然、華凛は苦しみ、闇を暴れさせた。
華凛の身体から放出される闇はデタラメに動きを、周囲を破壊する。
私はその場から脱出すると、華凛はpから距離を取る。
だが、華凛は闇の中に手を突っ込むと、ある男性が闇の中から出てきた。


 「うお!? こ、ここは!?」


 「茂さん!?」

華凛
 「ダー、リン……、愛して、る……!」

突然だった、華凛は茂さんの腕を乱暴に掴むと、茂さんを私に投げつけてきた!
私は慌てて、茂さんを優しく抱きしめた。


 「ぐえ!? な、凪?」


 「茂さん、すまないが、それよりも華凛だ!? これはどういう事だ!?」

華凛
 「ああああああ!?」

しかし、その問いは無意味だった。
華凛は突然、その場から跳躍する。
軽く数百メートルはジャンプし、あっという間に消えていった。


 「行ってしまった……?」


 「華凛……どうして俺を解放してくれたんだ?」

謎だ、華凛の茂さんへの拘りは異常なレベルだった。
偏愛は極まっており、とても茂さんを渡すなんて思えない。
しかしあの時の華凛は苦しんだ表情だった。
まさかと思うが……まだ華凛だった部分は残っているのか?

真莉愛
 「あ、あの〜? ち、力貸してくれない?」


 「あっ!? 忘れてた!?」

御影さんは倒れたまま起き上がれない。
ポケモンならいざ知らず、御影さんではダメージが重いようだ。



***




 「華凛……どうして」

あれから、俺は闇の中で華凛と数分程度過ごしていたかと思っていたが、外では2時間も経っていた。
しかし、俺を解放したのは華凛だった。
俺には分からない、アレは華凛だ。
でも華凛じゃない……華凛以外の気配がした。


 「華凛じゃないのか……?」


 「茂さん、着いたぞ」

俺たちは重症の真莉愛さんを、後からやってきたダークライの愛紗さんに預けると、家へと帰ってきた。
御影さん、華凛や凪を護るため、かなり強引な方法を使ったみたいで、そのお陰で俺たちは無事帰ってこれた。
必ずこのお礼はしないとな。
とはいえ、まずは家族が先だ。
皆に華凛の事も相談しないといけないしな。


 「ただいま」

ガチャリ、いつもよりやや早い時間に俺たちは帰ってくると、すぐにドタバタと茜が走ってきた。


 「……ご主人様、良かった」

茜はそう言うと俺に抱きついてくる。
俺は頭を撫でて安心させると、リビングに向かった。

保美香
 「だんな様!? 良かった……ご無事でしたのね」

美柑
 「凪さん、大丈夫ですか?」


 「ああ、ちょっと着替えてくる」

伊吹
 「序に〜、お風呂沸かしてくるから〜、入ってね〜?」

皆いつも通りだ。
事件はきっと御影さんに教えられているだろう。
だから皆心配顔だが、それでもいつも通りなのには、俺は安堵する。


 「はぁ……すまん、俺も少し休ませてくれ」


 「ご主人様……華凛は……」


 「っ!」

俺は拳を強く握った。
どうして華凛だけ……、華凛だけおかしくなったんだ!?
俺は華凛を愛してる、でもそれは確かに不平等かもしれない。
俺は皆に一身の愛を受けているのに、俺は皆に平等の愛しか返せない。
それが苦しくて仕方がなかった。

セローラ
 「ふひひ♪ そんな事より、このセローラちゃんと良いことしましょ?」

突然だった、音もなく茜の後ろにランプラーの家政婦少女が現れた。
ランプラーのセローラは下卑た笑みを浮かべると、茜の胸をムギュッと握り込んだ。


 「きゃ!?」

保美香
 「現れたわね!? この雑菌が!?」

セローラ
 「ふはは! 茜ちゃんへの愛は滅びぬ! 何度でも蘇るさ!」

保美香は憤怒の顔を浮かべると、セローラに襲いかかる。
しかしセローラは猪口才にも逃げ回る。
俺は溜息を零すと、疲れた顔でセローラを呼び止めた。


 「ちょっと落ち着けセローラ……」

セローラ
 「あれ? ご主人様元気ないね? おっぱい飲む?」

保美香
 「いい加減にしなさい! 普通乳の癖に!?」

セローラ
 「ふはは! 悔しければご主人様の寵愛を引き出して見せるのですね!?」

セローラの奴、調子に乗ってるな。
だが、聴き逃がせない事を、こいつ言ったな?


 「寵愛……か、セローラ、お前も愛して欲しいのか?」

セローラは俺を見ると、不思議そうな顔をした。
ゆらゆらと揺らめく、ランプラーの瞳は時折、俺の本質を覗く。

セローラ
 「そりゃ愛して欲しいですよ、その為にポイント稼ぎだってするんですから!」

美柑
 「え? むしろマイナスでは?」

セローラ
 「そりゃないですよ!? 私これでもご主人様の前では大人しくしますよ!?」


 「ふ! だが俺はセローラを特別扱いはしないぜ?」

俺は自嘲気味に自分の限界を言った。
俺は愛の化身なんかじゃないんだ、等身大のサラリーマンに過ぎず、皆の愛は俺には重たいのだ。
だが、セローラはキョトンとした。

セローラ
 「何を当たり前な事を? 愛情なんて、人それぞれなんですから、初めっから平等じゃありません」


 「っ!? 平等じゃない?」

セローラ
 「だってそうでしょう? そりゃお前が好きだー! お前が欲しいー! なんて言って貰えたら即落ちしますけど、そんなの柄じゃないでしょ? 初めから不平等だからこそ、セローラちゃんは今の距離が好きなんです!」

茜曰くセローラは愛には純情だ。
おちゃらけていて、欲望に忠実で、意地汚く打算的で、傍若無人なこの少女は、だからこそ誰にも共感されない独特の愛情を持っている。
そしてそれは、俺には衝撃的で、そして今華凛が理解できた。


 「そう、か……だから華凛は許せなかったんだ、だけど理解している……」

セローラ
 「へ? そういえば華凛様いませんね?」

俺はもう一度あの華凛を思い出した。
俺を愛しすぎて狂ってしまった女。
だからこそ、自分だけを愛して欲しくて、全てを憎しんでしまう。
とても共感出来ず、理解できなかった。
でもやっと、理解できた。
華凛の憎しみは、自然な華凛の愛なんだ。
華凛はずっと自分を抑えてきた。
それこそ糾弾する者が現れば、首を差し出すとさえ。
でもずっと鬱屈は溜まっていた筈だ。
今華凛は失った青春を全力で取り返してる途中だったんだ。


 「俺は華凛を無意識に、分別の出来る良い子だと思っていた……でも、そんなの俺の勝手な華凛の偶像じゃないか……!」


 「ご主人様?」


 「セローラありがとう、お前のおかげでやっと分かった」

セローラ
 「え? セローラ、またなにかやってしまいました?」

セローラは自分がした事分かってないらしい。
まぁ意図せずネタ振っている可能性も否定できないが、俺は空気を読む事にしよう。


 「ああ、セローラのお陰だ!」

セローラ
 「あ、あやや〜! ちょ、ちょっと待って下さい!? きゅ、急に情熱的になるの、ギャップがあって良いですけど、せめて排卵日に!?」


 「おーし! そんなに欲しいなら教えてやろう! ○ッターの恐ろしさをな!?」

セローラ
 「光が逆流する! ギャアアアアアア!!」

俺は調子に乗るセローラにコブラツイストを仕掛ける。
畜生! やっぱりネタだったじゃねーか!?


 「水没王子?」


 「ちょっと違う! ていうか茜知ってるの!?」

セローラ
 「そ、そんな事より、こ、これ身体密着してエロ♪」

保美香
 「おいゴミ、ここでくたばるか、それとも今くたばるか、選べ」

セローラ
 「最終鬼畜、くたばれ一択じゃないですかー!?」

セローラは身体を霊体化させると、俺から離れた。
保美香は今まで見たこともないような冷酷な顔をしたな。
ちょっと俺でも怖かったわ。

保美香
 「はぁ……! 一番は他に譲りますが! 私の卵に精子ぶっかける2番は譲れないかしら!?」


 「ズッコー!?」

俺は思わずずっこけた。
こ、この変態……、こっちも空気読まないな?
俺は呆れ返るが、逆に安心した。
やっぱりこの家族だから俺は愛せたんだ。
例え、茜クラスの美少女でも、保美香クラスの美女でも、俺はどれだけ愛されても、他人なら絶対拒絶していた。
俺は恋が大ッ嫌いだった。
恋ってのは全く共感出来ず、そんな不確定な感情で、自制を失うなんて馬鹿げていると思った。
だから愛って奴を、俺はある意味打算的に見ていたのかも。
恋ってのは理屈じゃない、理屈で説明できないから拒絶したんだ。

でも愛だってそうなんだ、理屈じゃない。
だから他人の愛ははっきり拒絶する。
愛にドライだから、華凛を傷つけた。
皆の愛に甘えていたんだ。


 「ご主人様、大丈夫?」

茜はずっこけた俺を心配そうに起き上がらせた。
その献身的な姿は感動的でさえある。
だが、どうして献身的なのだ?
俺はその理由を茜に聞いた。


 「なぁ茜、茜はどうして俺に献身的に尽くしてくれるんだ?」


 「? それが愛情表現だから……私、臆病で、力もない……だから、これ位しか愛情表現出来ない、から」

茜はそう言うと暗い顔をした。
そうか、茜にとって俺を支えるのが愛なのか。


 「でも、俺はその見返りを返せない……」


 「ううん、一杯貰ってます、ご主様は不器用なだけ」

伊吹
 「そうそう〜♪ 皆違って皆良い〜♪ 愛情なんて〜人それぞれ〜♪」

凪を風呂に入れたのか、伊吹は戻ってくると、楽しそうに即興で歌った。
伊吹は愛情表現は特に大胆な方だ。
スキンシップが激しくて、こっちが戸惑う程だからな。
一方で美柑は控えめだし、保美香の場合は変態らしく方向性が歪んでいる。

そう、愛は一つじゃない。
愛はそれぞれにある。
華凛は、今盲目的で、それが見えていないんだ。


 (華凛……いや、呪いの姫、か? 俺はやっぱりお前を愛してる! この想い絶対届けてみせる!)



突ポ娘if #10

#11に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:16 )