突ポ娘短編作品集


小説トップ
短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #9

ナツメイト
 「仲間……ふふ、アハハ♪ 仲間ね♪ 私も仲間がいるわね?」

ナツメイトは段々と近づく華凛達に喜んだ。
ナツメイトずっと眠ったように動かないトウガを見る。
すると、トウガが不自然に立ち上がると、静かに動き出した。
だがその顔に意志は感じられない。
ナツメイトの操り人形なのだ。


 「トウガさん!?」

トウガ
 「……」

ナツメイト
 「ふふ、行ってらっしゃい♪」

茜は必死にトウガの名前を叫んだ。
しかし、トウガは無表情に雪原へと歩んでいく。
その足先は真っ直ぐ華凛達の下へと向かった。



***



ナギー
 「なにか見えたぞ!?」

ナギーがそう言ったのは昼の事だった。
茜という小さなイーブイ娘を見つける事は容易ではない。
だが、茜ではないものの、なにか重騎士が接近していたのだ。

華凛
 「あれはまさか!?」

私はよく目を凝らした。
見覚えのあるシルエットだった。


 「知っているのか、カリン!?」

華凛
 「見間違えでなければシュバルゴのトウガだ……世界でも五指に入る実力者だぞ」

ニア
 「なんでそんな人が?」

保美香
 「しかも様子がおかしい、前の村と同じではなくて?」


 「だったら最悪だな!」

トウガ、その重騎士は重たい外骨格を全身に背負い、堅牢な装甲に包まれている。
生半可な攻撃はまるで通じず、更に強靱な肉体から放たれる一撃は鉄板さえ貫く。
そんなある種化け物のような男が、私達を捕捉すると突っ込んできた!

保美香
 「ち! 牽制になれば!」

保美香はパワージェムを生成するとトウガに放った。
しかしパワージェムはトウガの厚い装甲に弾かれ、トウガはがむしゃらに接近してくる。

華凛
 「ち! 加減出来る相手じゃないか!」

私はすぐさま斬りかかった。

華凛
 「辻斬り、一の式、瞬剣!」

キィン!

私の神速の居合はトウガを捉えた。
しかし、トウガはランスで弾く。

華凛
 「なに!?」

偶然か? しかしトウガの表情は虚ろだ。
本来トウガの反射神経では、私の動きは捉えられない筈。
いや、なにか違う……。

トウガ
 「!」

トウガは素早く、ランスを構えた。
ダブルニードル、トウガの得意技が私を襲う。
私は脇腹を掠めながら、なんとか回避した。

美柑
 「こんのぉ!!」

美柑は渾身のアイアンヘッドをトウガの頭に打ち込む!
しかし、痛がったのはむしろ美柑だ。

美柑
 「硬った〜!?」

ナギー
 「さがれ! 巻き込むぞ!? 熱風!」

私達はその場から飛び退くと、ナギーの熱風がその場を焼き払った。
効果抜群の技に流石のトウガもぐらついた。
私はせめてもと、トウガの首筋を狙い、拳で殴打する。
それでトウガは動きを止め、前のめりに倒れた。


 「……倒したのか?」

華凛
 「ああ」

……それにしても、やっぱり間違いない。
確信した、私は以前より弱い?
かつて皇帝だった頃の私はもっと強かった筈だ。
少なくともトウガに止められる程甘くはなかった筈。
何故だ? あの時と変わらず修練は積んでいたのに、なぜ弱体化している?


 「ふふ、負けちゃった♪」

突然、どこからか声が聞こえた。
しかしそれは私が顔色を変えるには充分だった。


 「その声!? ナツメ!?」

ナツメイト
 「うふふ、あははは♪ 茂様♪ 愛しの茂様♪」

突然、闇が眼の前に広がると、その中からナツメイトが飛び出した。
ナツメイトは笑顔でダーリンの周りを踊る。
その姿は漆黒のウエディングドレスに身を包み、ナツメイトだが、ナツメイトとは違う何か恐ろしい気配を感じた。


 「な、ナツメ!? お前どうしてここに!? それにその格好!?」

ナツメイト
 「む〜、うふふ、えい♪」

突然、ナツメイトは顔を膨らませたかと、思うと一転して、笑顔でダーリンに抱きついた。

美柑
 「な、なんか子供っぽいというか……こんな方でしたっけ?」

ニア
 「絶対違う……偽物?」

華凛
 「ナツメイト、なのか?」

ナツメイトはダーリンから離れると、今度は私の前に来た。
その顔、やはりナツメイトだが、何かが違う。
どうなっているんだ?

ナツメイト
 「カリン、私貴方を愛しているわ」

華凛
 「いきなり何を……」

突然愛の宣言、まぁ家族愛のようなものだが。
しかしそれを茶化す者はいない、このナツメイト相手じゃ無理もないが。

ナツメイト
 「だからね? 死んで♪」

華凛
 「な!?」

その瞬間だった、ナツメイトはエストックを抜くと、真横に振るう。
エストックから闇が放たれると、次元を切り裂くように空間を歪ませた。
私はなんとか、屈んで間一髪それを回避する。
直ぐに私達は警戒態勢に入った。

華凛
 「死ねだと? 気が狂ったか!?」

ナツメイト
 「違うわ、ただ貴方が憎いの、貴方さえいなければ私は神話の乙女でいられたわ」

ナツメイトは冷酷な目で華凛を見下ろしそう言った。
直後、ナツメイトの後ろに闇が広がる。
すると、今度は闇に拘束されたイーブイ娘が現れた。
それに誰よりも反応したのはダーリンだった。


 「茜ー!?」


 「ご主人様ー!」

保美香
 「な!? これはどういうことですの!?」

ナツメイト
 「人質♪ 華凛、私と戦いなさい……貴方を殺して私が愛されるの♪」

華凛
 「正気なのか……?」

私は驚愕した。
私を本気で殺すとしていること、そして私と戦うために茜を人質にしただと?

華凛
 「私を怒らせるのは大概にしろ……!」

私は憤怒と共にプレッシャーを放つ。
しかしナツメイトは狂ったように笑っていた。
私は冷や汗を流す。
私は明確に弱体化している、一方でナツメイトは狂っている程強化されている。
あの時……カトリーヌ様を殺そうとしたのを止めた時のことが嫌でも思い出された。

華凛
 (私がパワー負けした……サーナイトであるナツメイトに、そんな化け物に勝てるのか?)

いや、駄目だ……負ける気でいるな、勝つ気でいろ。
カゲツならそうする、アイツはいつだって我を通してきた。
私もそうするだけだ。

ナツメイト
 「クスクスクス、皆は観戦♪ 待っててね茂様♪」

ナツメイトはそう言うと、ダーリンにウインクした。
ダーリン達は苦い顔をしながら、黙ってそれを見た。


 「くそ!? なんでお前達が戦わないといけないんだ!?」

ナツメイト
 「何故って? だって私達は神話の乙女、生き残った方だけが神話の乙女になれる!」

美柑
 「全く意味が分かりません!」

ナギー
 「神話の乙女を決める為に殺し合う? そんなの馬鹿げているぞ……」

華凛
 (……馬鹿げている、か)

そうだ、馬鹿げている。
でも理解できない訳じゃない。
なぜなら、過去の私はコイツと同じように、神話の乙女を抹殺しようとした。
思えばアレは間違いなく嫉妬だった。
ダーリンの事が大好きで、だからこその八つ当たりだったんだ。

華凛
 (人質、神話の乙女同士の殺し合い……! 何もかもがあの時のリフレインじゃないか!?)

私は居合の態勢で構えた。
眼の前にいるナツメイトは、過去の私だ。
神話の乙女という幻想に踊らされ、神話の乙女を憎んだ私。
なら、今私が感じている恐怖こそが、あの時私に立ち向かったナギーの気持ちなのか。

華凛
 (なら負けられん!)

私は全神経を集中した。
地力では間違いなく負けている。
しかもナツメイトは間違いなく、本気で殺しに来る。
一瞬でも油断すれば死あるのみ。

ナツメイト
 「はぁ!」

ナツメイトはスピードスターを放った。
闇を纏ったドス黒いスピードスターは全方位から私に襲いかかる。

華凛
 「てぇい!」

私は冷静に斬撃の連打で、それを相殺した。
一発でも被弾したらどうなるか分からん、この私がここまで慎重ならねばならんとはな!?

ナツメイト
 「あはは!」

ナツメイトは狂笑した、真っ直ぐ接近戦を仕掛けてくる。
私は射程ギリギリを見切ると、必殺の一撃を放った。

華凛
 「辻斬り、一の式、瞬剣!」

ブォン!

私の一撃は空気を斬り裂いた。
だが、ナツメイトは目の前にいない。
当たる直前にテレポートした!?

ナツメイト
 「その程度!? アッハッハ!」

後ろだった。
私は背中をエストックの柄で殴打される。
私は痛みに堪えながら、地面に転がった。

華凛
 「ぐう!? 辻斬り、二の式船斬り!」

私は辻斬りのエネルギーをナツメイトに飛ばす。
しかし、ナツメイトはそれを回避すると、ムーンフォースを放った!

華凛
 「うああああ!?」

私は剣を盾にするも、強力なフェアリーのエネルギーに大ダメージを受けてしまう。


 「カリンー!」

華凛
 「ぐ、う……!」

私は太刀を杖にしてでも立ち上がった。
ダーリンの声はよく響く、それがなんとか私を繋いでくれた。

美柑
 「駄目だ!? あの華凛さんでさえ、ここまで一方的だなんて!?」

ナギー
 「く!? それでいいのか華凛!? お前はそんなものじゃないだろう!?」

華凛
 「ち……言ってくれる」

私はニヤリと笑った。
死んでも辛い顔は見せるな、カゲツがそうであったように。
だがこれは中々しんどいな。
改めてナツメイトとの実力差を思い知る。

ナツメイト
 「なんで? なんで諦めないの!? なんでまだ戦うの!?」

華凛
 「何故? 決まってるだろ、最後に勝つのは良い女の条件だからな♪」

私はそう言っておどけてみせた。
緩んだ着物の帯を締め直すと、もう一度構える。
ナツメイトは頬を膨らませると、トドメを刺しにきた!

華凛
 (ち……視界が歪む……凪の奴、こんな状態で戦っていたのか?)

ナツメイトの刺突、それは鋭く回避しづらい。
だが、私はゆらりと動いて、それを回避した。

華凛
 (ダーリン! 私に力を貸してくれ!)

私は指輪が熱くなるのを感じる。
熱だ、そして私は幻視した。
隣に立つダーリン、私は純白のドレスだった。
世界は荒廃しきっており、私達はボロボロの教会から、ゆっくり歩み出る。
空を覆う闇から、一筋の光が溢れた。
光は私を祝福してくれる!

華凛
 (希望だ……私は神話の乙女を呪いにはしない!)

その瞬間、私の身体に変化が起きた。
突然莫大なエナジーに包まれ、私の身体が変化する。

ナツメイト
 「これって!?」


 「メガシンカ!?」

私は背中から白い翼のような物が生え、髪が急激に伸びて片目が覆われてしまう。
ち……この髪、邪魔だな。
私は思わず苦笑した、メガシンカ……まさか私が出来るとは、な。

華凛
 「ダーリン、私を信じてくれたのか?」


 「華凛! 当たり前だろ!? お前のこと誰よりも信じてる!」

その瞬間、私とダーリンが繋がった。
まるで赤い糸で結ばれるように、私はダーリンの鼓動を感じ取る。
私は居合の構えでゆっくりと腰を落とす。

ナツメイト
 「なんで!? なんで華凛ばっかり!? どうして私じゃ駄目なの!?」

ナツメイトは半狂乱だった。
無茶苦茶な軌道でエストックを振るうが、私は「はぁ」と息を吐くと、一瞬で間合いを離す!

ナツメイト
 「え!?」

ニア
 「速い!?」

華凛
 「はぁ……ふ!」

私は徐々に慣らすように、その場を瞬間移動するように飛び回った。
ナツメイトを幻惑し、的を絞らせない。
ナツメイトはサイコキネシスを放つと、その周囲の地形を隆起させる。
だが、私はフルスロットルに入ると、ナツメイトを正面に捉えた。

華凛
 「覚悟を決めろ……! 辻斬り、終の式、百花繚乱!」

私は電光石火の速度で突っ込む。
9の斬撃がナツメイトに襲いかかる!

ナツメイト
 「うわああああ!」

ナツメイトはそれを凄まじい速さで弾いた。
だが、私は最後の一撃にこの思いの全てを込める!

華凛
 「ナツメイト、これが私の『恩返し』だー!」

私は最後の突きを放つ。
光がナツメイトを包み込んだ。
ナツメイトは恩返しを受けて、後ろに吹っ飛ぶ。
直後、茜を拘束していた闇が消え去った。
茜は地面に倒れ込むと、直ぐに顔を上げた。


 「ご主人様!?」


 「茜!? 良かった!」

二人は感動の再会に抱き合った。
私はちょっと嫉妬しながら納刀する。
そしてナツメイトを見た。

華凛
 「私の勝ち、だな?

ナツメイト
 「……ひぐ、えぐ!」

ナツメイトは大の字に倒れながら泣いていた。
一先ず殺す気はなかったとはいえ無事のようだな。

ナツメイト
 「なんで!? なんで勝てないの!? どれだけ呪えばいいの!? どうして愛は平等じゃないの!?」

華凛
 「ピーピー喚くな! ダーリンがそんな矮小なものか!」


 「……ナツメ、俺はお前がどうしてそんな風になったか、分からねえ…けど俺はお前が好きだ! もう一度戻ってくれよナツメー!!」

そうだ、ダーリンだって差別はしない。
私はダーリンが好きで、ダーリンも私が好き。
私は絶頂だ、天に昇る程幸せで、そしてこれはナツメイトだって受けていいんだ。

ナツメイト
 「……もう全部遅いの、茂様私大好き♪ でも……呪いの姫は……完成したの♪ アッハッハ!」

その瞬間、ナツメイトは立ち上がった。
私はナツメイトを見て、驚愕する。
ナツメイトの顔が醜く崩れ去り、瞳孔はぽっかりと黒い穴が開き、真っ黒い血の涙を流していた。

華凛
 「これが、呪いの姫!?」

呪いの姫
 「神話の乙女なんかもういらない! 茂様以外いらない! 皆呪われろ! 滅び去れ!」

ナギー
 「ぐう!?」

ニア
 「あ、あ!?」

突然凪とニアが苦しみだす。
いや、だけじゃない保美香たちまでだ。
無事なのは私とダーリンだけ?
空は闇に染まり、大地まで闇に侵食される。
本気で世界を滅ぼす気か!?

華凛
 「くそ!? やめろナツメイト!?」

呪いの姫
 「憎い! 悔しい! 愛して欲しいだけなのに!」


 「やめろー! ナツメイトー!?」

私は震える手で大刀に手を掛けた。
それは正解なのか?
私はこの手を汚す事が正しいのか?

華凛
 「っ! 辻斬り、一の式、瞬剣!」


 「やめ!?」

ダーリンの静止の声が聞こえた。
だけどもう遅い、私は一瞬でナツメイトの後ろで背中を向けていた。
私はナツメイトだったものを斬り裂いた。
全てが闇に染まる中、私は呪いの姫を斬り伏せる。

ナツメイト
 「あり、がとう……」

華凛
 「ありがとう、だと? お前は馬鹿か!?」

呪いの姫、その中に僅かにまだナツメイトは残っていた。
自らの死を奴はありがとうと言ったのか。
こんなクソッタレが、こんな馬鹿げた事があっていいのか!?

華凛
 「呪いの姫、お前は何者だー!?」

『私は貴方、貴方は私』

その瞬間、再び私は過去へと誘ったあの女の声を再び聞いた。

星火
 「ちょっとー!? 華凛ちゃんもしも〜し!?」

華凛
 「は!? こ、ここは?」

突然私は見知ったメイド服の女を見た。
星火、ズガドーンのPKMだ。
気がつけば私はメイド服に着替えており、メイド喫茶ポケにゃんにいた。

星火
 「もう! 仕事中ぼうっとしちゃ駄目だよ!?」

オタク
 「か、華凛殿、もしかして疲れているのでは?」

私は反対を見た。
太ったオタク、そうだ思い出した。
彼と他愛のない雑談をしていたのだ。

華凛
 (夢? 全て夢?)

それは白昼夢だった。
そうとしか考えられない、私は頭を抱えた。

星火
 「ちょっと? 本当に華凛ちゃん大丈夫? マスター!」

キッチンで仕事をするスキンヘッドの巨漢金剛寺晃は私を見た。


 「華凛ちゃん、ちょっとこっち来て」

華凛
 「はい……」

私は大人しく晃店長の下に向かう。
晃店長は私を直視すると、やや厳し目の顔で言った。


 「顔色が悪いわ……奥で休んでなさい、それでも駄目なら早退していいから」

華凛
 「……分かりました」

顔に出るほどか。
そんな酷い顔ではとても接客など出来ないな。
メイド喫茶は笑顔が大切だ、今の私には余裕の笑みはとても出来そうにない。
私は大人しくバックヤードに行くのだった。


 「む? どうした華凛? 顔色が悪いぞ?」

バックヤードに行くと、メイド服のまま休憩中の凪がいた。

華凛
 「凪……か」


 「ど、どうした? 本当に様子が変だぞ?」

華凛
 「お前は神話の乙女か?」


 「は?」

華凛
 「すまん、忘れろ」

私はそう言うと横になった。
やっぱりアレは夢だ、悪い夢だ。
私がナツメイトを殺す、あんな悪夢を白昼夢で見るとはな。
兎に角気分が悪い。
しばらくは動きたくなかった。


 「神話の乙女、私は何故神話の乙女なんだろうな……」

何故? 確かに何故だろう。
私も神話の乙女だが、何故選ばれたのか。
それだけじゃない、神話の乙女とはなんなんだ?
あんな悍ましい存在だというのか?

華凛
 「呪いの姫……」


 「それは?」

華凛
 「神話の乙女と呪いの姫……一体なんなんだ?」

その時、ゾクリとした。
全身から冷や汗が流れ、私は何かの気配を感じる。

『クスクス、目覚めましょう♪』

華凛
 「だ、まれ……!?」


 「どうした華凛!? なんだこれは!?」

私は凪の驚きの意味が分からなかった。
でも私は自分の身に起きる変化に目を見開く。
私の身体が闇に包まれ、メイド服が黒いウェデングドレスに置換されていく。
この姿、まるでナツメイト!?

華凛
 (駄目だ駄目だ駄目だ!? 私を自由に出来ると思うな!?)

私は必死に抗った。
しかし私の中に闇は存在する。
そして闇は私に囁くのだ。

『欲しいでしょうダーリン♪』

その言葉で限界だった。

華凛
 「うあああああ!?」

私は凪を見捉える。
だが、必死に抗った。
私の手から闇が放たれた。

ズガァァァン!!

闇は店舗兼民家を吹き飛ばす。
凪は!? 凪はどうなった!?


 「けほ! けほ!? 一体何が!? お前がやったのか華凛!?」

華凛
 「あ、あ……ふ、ふふ♪」

私は粉塵の中から現れた凪を見ると口角を歪めた。
私は嬉しかった、嬉しくて嬉しくて、殺したい程嬉しくて笑う。

華凛
 「アッハッハ! 神話の乙女! 死ねぇ!」

私は狂気的な笑みを浮かべると、凪に襲いかかる。
私は爪を伸ばすと、空間ごと凪を切り裂く!
しかし、凪は咄嗟に翼を広げ、空に飛び上がった。
私は闇を溢れさせ、家屋を更に破壊する。


 「華凛ちゃん凪ちゃん大丈夫!? これは!?」


 「不味い!? 今は駄目だ晃店長ー!?」

凪が叫んだ。
その必死な表情は私を愉悦に染めあげる。
ああ、こんな事で嬉しくなるはずが無いのに、私は徐々に真っ黒に心まで染め上げてしまう。

華凛
 「うふふ、アッハッハ!」

私は全方位に闇を爆発させた。
凪は自分の身も顧みずに、晃店長を庇うと、吹き飛ばされた。

ズガァァァン!!


 「うわああ!?」

私の周囲は木っ端微塵になった。
当たりに転がる客やPKM達。
ああ、やってしまった。
でも仕方がない……みんな私の邪魔をするんだから。


 「う、ぐ……!?」

捲れ上がったアスファルトの上にボロボロの凪は歯を食いしばり立ち上がった。
その目は憎しみを讃えていた。
そう、その顔……それが大好きで、大嫌いなんだ!


 「お前!? 自分が何をしているのか、分かっているのか!?」

華凛
 「アハハ……私幸せになりたい♪ ダーリン、ダーリンダーリン♪」

私は全身を掻きむしった。
ただ欲しいのはダーリンだ。
ダーリンだけが欲しい、他は何も要らない。
他は皆邪魔なんだ。


 「……く、狂ったのか?」

狂った? 違う……私は正常だ。
凪は私からダーリンを奪った。
だから凪は殺さなければならない。
ダーリンを奪う者は誰一人許さない。
私にはダーリンしかないのだから。

華凛
 「神話の乙女はもういらない!」

私は手に闇を纏わせた。
それを極限まで伸ばすと、私の闇は数百メートルも広がる。
凪は顔を青くした、だが絶望した顔じゃなかった。
私は凪に振り下ろす!


 「く!? 暴風!」

凪は暴風を纏う。
すると、風のようなスピードで飛び上がった。
私は凪を追尾し、闇の刃を振るう!

ズガァン!!

私の刃は触れる物を全て、薙ぎ払った。
凪は苦い顔をした、だが捉えられない。


 「エアスラッシュ!」

凪は風の剣を生成すると、それを私に放った。
私は身体を切り裂かれると、後ろに吹っ飛んだ。


 「はぁ、はぁ! 華凛もう止めろ! 今更お前と戦いたくなんない!」

凪はゆっくり、降下してきた。
私はそっと起き上がると、ダメージを闇で修復する。


 「な!? ど、どうなっている!?」

華凛
 「強い……さすが神話の乙女、でも呪いの姫は貴方を上回る!」

私は直ぐに凪に飛びかかる!
凪は暴風を膜にして、無数の真空波が私の身体をズタズタに引き裂く。


 「もう止めろ!? 何故だ!?」

私は血塗れで笑った。
肉体的痛みはない、でも心がズキズキする。
凪の泣きそうな顔が、私を高揚させた。

華凛
 「うふふ……届く、今度こそ届かせる、この子なら、この子なら貴方に勝ち、ダーリンと添い遂げられる♪」


 「お前……何者だ!?」

華凛
 「私は華凛……呪いの姫」

私は闇に刃を手に生成し、それを凪に払った!


 「くう!?」

凪は飛び退く。
大丈夫だ、確かに凪は強い。
でも私の力は通用している。
私はもっと力を引き出す、ダーリンを得られる位!



突ポ娘if #9 完

#10に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:16 )