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突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #8

第四章 呪いの姫編


フランの招待状を受け、ナツメイトは遂に2年ぶりに祖国へと凱旋を果たした。
それはまるでパレードだ。
王城へ続く城下街をナツメイトは馬車の上で、手を振った。
国民達はナツメイトの帰還を喜んだ。
フランとナツメイトの激突、それは誰もが予感したが……彼らはそのどちらが勝利しても受け入れるだろう。

ナツメイト
 「懐かしいわね……」

ナツメイトは2年前を思い出していた。
初陣から帰還した時も、同じように国民はナツメイトのために集まってくれた。
あの時と同じだ、だが事情が違う。
ナツメイトは王城を見た。
そしてそこに確固たる意志を持つ女王の念を感じ取った。

ナツメイト
 (全てを終わらせる……そして茂様や華凛に最後を伝えなきゃ)

茂は家族を探すため旅をするだろう。
その行方を知る華凛も勿論同行する筈だ。
ナツメイトはそうはいかないだろう。
どんな結果であれ、ナツメイトは義務を果たさなければならない。
それは騒乱を終わらせるという神話の乙女の責務。



***



王城へと入場した私達を最初に出迎えてくれたのはヤミカラスの老人だった。

ツキ
 「姫様ー!?」

ナツメイト
 「ツキ!? 老けたわね……」

ツキ
 「おおお、姫様こそご立派になって……」

ツキはナツメイトを見ると、両目から涙を零した。
きっとナツメイトの事を思わなかった日はないだろう。
それほどツキはナツメイトを愛していたのだから。

ツキ
 「ぐす! 華凛殿、ナギー殿もお久しぶりです!」

華凛
 「ふ、そうだな」

ナギー
 「我々は姫様の護衛です」

ナツメイト
 「フラン姉様は?」

フラン
 「ここよ……」

フランはホウツフェイン城エントランスホールの大階段の上にいた。
相変わらず貧相な身体で、シンボルカラーの黄色いドレスを纏った姿は2年前からあまり変わっていない。
私は胸を持ち上げると微笑した。

華凛
 「相変わらず貧相な胸だな」

ナギー
 「こ、こら! 華凛殿!? 失礼だぞ!?」

フラン
 「親衛隊の身でありながら裏切り者のお前も大概だがな?」

ツキ
 「へ、陛下!? 今はそれは置いておいて!?」

フランは鼻を鳴らすと、身を翻した。

フラン
 「ついてきなさい」

ナツメイト
 「……」

華凛
 「ナツメイト、行くぞ?」

ナツメイトは小さく頷いた。
私達はフランを追って、二階へと向かう。



***



ホウツフェイン城2階会議室。
フランはナツメイトの対面席に座ると、厳かに言った。

フラン
 「これはあくまで、ホウツフェイン人の同士討ちを防ぐため」

華凛
 「同感だな、火事場泥棒されては困るからな」

フラン
 「フン! だけどね? 私はアンタを認めた覚えはない!」

フランはそう言うとナツメイトを睨みつけた。
しかしナツメイトも昔のままではない。
もう、この姉にビクビクするような妹ではないのだ。

ナツメイト
 「そっくりそのままお返しするわ、父殺しのお姉様」

フラン
 「っ……!?」

ツキ
 「陛下、あの時の医者の遺書に残されていました……ホウエン17世の本当の死因は毒殺である、と」

ツキはどうやら、ゲラートと共にあの後事件の真相を追っていたらしい。
医者は間者によって暗殺されていたが、医者はひっそりと遺書を残していた。
そこには克明に、事件背景が語られていた。
当時のコックにも当たり、当時の証言を得た。
そしてナツメイトは読心を行い、真相を突き止めた。

ナツメイト
 「遺書まで捏造する徹底ぶりはさすがでしたけど、見誤りましたね?」

フラン
 「ふ、ククク……アッハッハ! そうね! 本当にそう! 貴方はいつもいつも目障りだった! 貴方さえいなければ、戦争なんて起きなかったのに!」

ナツメイト
 「その通りね……でももう終わり、王位を捨てなさい、そうすれば私はそれ以上追求しない」

それはナツメイトにしてはかなり強気の降伏勧告だった。
受けれればそれで終戦だが、受け入れなければ実力行使、重鎮たるツキやナギーも緊迫の一瞬だった。

フラン
 「冗談はよしなさい!」

ナツメイト
 「……やっぱり、お姉様はそれを選ぶのね?」

フラン
 「私はアンタより優秀! ここで決着をつける!」

その時、フランの目が光った。
フランの念動力が放出される。

ナギー
 「なに!? フラン様が技を使えるだと!?」

フラン
 「不思議がることはないでしょ!? 妹にできて私に出来ない訳がない!」

フランはそう言うとテレポートする。
ナツメイトだけを巻き込んで!

華凛
 「ち!? 何処だ!?」

ツキ
 「ああっ! フラン陛下なぜ馬鹿な真似を!?」



***



ナツメイト
 「ここは屋上?」

フラン
 「フフ、決闘よ! ナツメイト!」

そこはホウツフェイン城の屋上だった。
フランは二人っきりのこの舞台を選び、剣を構える。
ナツメイトも剣を抜くと、二人は対峙した。

フラン
 「はぁ!」

キィン!

先に仕掛けたのはフランだ。
フランは素早い身のこなしでナツメイトを攻め立て、その攻防はまるでフェンシングのようだ。
一撃突き刺した者が勝つ、フランはナツメイトを追い込むように攻め立てた。
だが、ナツメイトは暗い顔だった。
まるで動じない、まるで虚しい戦いだというように攻撃を受け流す。

ナツメイト
 「確かに姉様は強い、でも……それじゃ私には届かない」

ナツメイトはそう言うと、フランの剣を弾き飛ばした。
フランは驚愕する、同じサーナイトなのに圧倒的な力の差だった。
だが、フランは歯を食いしばると、サイコキネシスを放出した。
宙を舞う剣は、サイコキネシスにより空中で静止すると、その場で駒のよう回る。

フラン
 「いけ!」

フランが号令を上げると、剣は独りでにナツメイトに襲い掛かった。
かなりのバトルセンスだ、ナツメイトにはない柔軟な発想力もある。
ナツメイトは変幻自在の剣の猛攻を受け、防戦一方だった。
だが、やはりナツメイトの表情を変えるには至らない。
それをフランは苦虫を噛む思いで睨みつけた。

フラン
 「アンタまるで化け物よ? 私なんかよりずっとおぞましい何か!?」

ナツメイト
 「っ!」

初めてナツメイトが表情を変えた。
そう、ナツメイト自身がそれを自覚している。
自分は魔王何じゃないか、神話の乙女の力をいたずらに振るう自分が如何に化け物で、魔王じみたものか理解している。
それを否定しようとも、流されたこれまでの血はそれを許さないのだ。

ナツメイト
 「はぁ!」

ナツメイトは遂に念動力を放出しだした。
それはフランの力を簡単に飲み込み、フランの剣を粉々に砕く。

フラン
 「なっ!?」

ナツメイト
 「終わりです!」

ナツメイトはフランの首筋に剣を当てた。
しかしそれ以上は踏み込まない。
ナツメイトは当初フランを殺す気だった。
だが、カトリーヌを殺そうとした時、自分の過ちに気がついた。
大好きだった姉たちを殺し、戦乱に終止符を打つことが神話の乙女の義務だと思ったが、それは違う。
どんな形であれ、過ちは正さねばならないが、その方法は一つではない筈だ。
ナツメイトは自分に打ち勝ち、この結果を選んだ。

フラン
 「アンタ……やっぱり馬鹿ね……なに? 情に絆されたの?」

ナツメイト
 「私はもう殺さない……! だけどその怨念は断つ!」

フランは苦笑した。
完敗だ、この誰よりも優れた妹にフランはどれだけ努力しても敵わなかった。
フランの嫉妬は過ちを犯させた。
それでも、ナツメイトはフランに血を求めなかったのだ。

フラン
 「私の負け……だけどね……私、アンタみたいに強くないのよ、ずっと自分を鼓舞し続けて、なんとか良い女王になろうと必死に足掻いて……本当に馬鹿よね私、こんなの全部自業自得……」

ナツメイト
 「そう思うなら、終わりにしましょう」

フラン
 「ええ、そうね……ふふ」

フランは笑った。
ナツメイトは一瞬理解出来なかった。
フランの覚悟の重さ、そして負けると分っていても、あがき続けた姉の意思。
フランは後ろに傾いた。
ナツメイトは驚愕する、ここは屋上なのだ、フランは初めから背水の陣を築いていた!

ナツメイト
 「フラン姉様!?」

ナツメイトは慌てて手を差し伸ばした。
屋上から落ちるフランの手をギリギリ掴む。

フラン
 「ふん……! この悪の女帝に情け?」

ナツメイト
 「馬鹿言わないで! 死んで何になるの!?」

フラン
 「だから言ったでしょ? 私はアンタみたいに強くないのよ……」

フランはナツメイトの手を引き剥がした。
この女は恥じたまま生きることを望みはしなかった。
初めから負ければ死ぬ気だったのだ。

フラン
 (ごめんなさい、お父様、カトリーヌお姉様)

ナツメイト
 「フラン姉様ー!?」

フランが落下する。
ナツメイトは叫んだ。
フランに去来したのは家族の顔だった。
利用できるものは全て利用して、成り上がった。
フランの人生は一度だって安堵した事はない。
ただ疲れる人生だった。
ただ、気掛かりはあの馬鹿な妹の事だ。
ちゃんと国を護れるのか、それだけは不安の種だった。

フラン
 (ああ、これで楽になれる……)

しかし、そのフランの思いは簡単に踏みにじられた。
突如、その首根っこが誰かに掴まれたのだ。

華凛
 「ふん、外が煩いと思いきや」

フラン
 「……アンタ本当に空気読まないわね……」

華凛だった。
窓から手を伸ばし、凄まじい腎力と反射神経で落下するフランの首根っこを掴んだのだ。

華凛
 「私は悲劇より喜劇が好みでな? 勝手に死のうとするな?」

フランはもう完全にお手上げだった。



***



フランは女王の座を退いた。
その日、新しく女王となった者の名はナツメイト。
あの亡きホウエン17世最後の子だった。
ナツメイトは戴冠式を行い、その王冠を被ると、国民の前で終戦を宣言した。
国民は皆それを喜んだ。
恐らく問題は山積みだろう。
周辺国との問題も山積みであり、当分ホウツフェインに安寧はないだろうが、一先ず戦争は終わった。
それをやや遠目に聞いていたのは常葉茂だった。


 「これで万事解決、か」

美柑
 「後は家族を迎えに行くだけですね」

伊吹
 「うふふ〜♪ 美柑、カトリーヌさんの事はいいの〜?」

美柑
 「う、確かにカトリーヌ様はまだ大変な時期、ですがそれよりも主殿の方が問題ですから!」

美柑これほど認め心酔するのだから、よほどカトリーヌは清廉潔白な人なのだろう。
だから茂は苦笑する、俺なんかにどうしてこんなに尽くしてくれるのか。


 「さて、とりあえず華凛待ちだな」

残りの家族の行方を知っているのは華凛だ。
茂は家族を連れると雑踏に紛れ、出発の準備をするのだ。



***



華凛
 「……よし」

翌日、私は旅の準備を終えていた。
昔懐かしいナツメイトと同棲していた相部屋で起きた私は大刀に荷物を纏めた袋を吊り下げて部屋を出る。
急がないとダーリンが待ちくたびれるからな。

ナツメイト
 「華凛……行くのね?」

華凛
 「む、女王陛下、ご機嫌麗しゅう」

私は部屋の前で立っていたナツメイトを見ると、直ぐに敬服する。
ナツメイトはクスリと笑った。

ナツメイト
 「私と貴方の仲なのに、堅苦しいわね」

華凛
 「陛下こそ、早く慣れなさい……もう気安いお方ではないのだから」

ナツメイト
 「うん、それよりも行くのね?」

華凛
 「ああ、私にとってダーリンは全てだ、それにダーリンの家族を探す手伝いをする約束がある」

ナツメイトはそれを聞くと少し顔を暗くした。
しかし、直ぐに首を振って微笑む。

ナツメイト
 「行ってらっしゃい、応援するわ……茂様と仲良くね?」

華凛
 「……ああ、行ってきます」

私はそう言うと、王宮を出た。
仲良くか……本当は自分のほうが仲良くしたい癖に。

華凛
 (だが、これでいいのかもしれん)

ナツメイトはどん底の頃よりは大分明るくなった。
だが、未だにナツメイトがなぜ憎悪を抱くようになったのか原因が分からないのだ。
ナツメイトは結局ダーリンとは距離を置いていた。
そして諦めたのだ。
ただ神話の乙女の義務に従い、ここまで戦い抜いた。
その終わりがこれでは華がないが、私はこれ以上口出し出来ん。
ただ、ナツメイトが今後不幸に巻き込まれない事を祈るだけだ。

フラン
 「ちょい待ち」

華凛
 「おや、やんごとなき馬鹿者」

王宮を出ると出待ちしていたのは公式では死んだ扱いになってるフランだった。
フランの存在は実際、現政権にとっては厄介な物で、かといって死なれてもナツメイトにとっては困る存在だ。
よって死んだ事にされ、今や王族でもなんでもない女になった。

フラン
 「ち……! 思い起こせば、私の全て、アンタに邪魔されてきたわね」

華凛
 「私は疫病神だからな」

私はそう言うと胸を持ち上げる。
ああ、巨乳は肩が凝る。

フラン
 「ふん! 見せつけやがって……一応餞別をやるわ」

そう言うとフランは指輪を取り出した。

華凛
 「それは!?」

私は驚いた。
虹色の石が埋め込まれた指輪。
それは謎のメガストーンであり、そして神話の乙女を選ぶと言われる一品だった。

フラン
 「やっぱり知ってるのね? アンタ何者?」

華凛
 「……ただの旅の武芸者ですよ」

フランはそれを投げつけると、私は受け取った。
そしてフランはこれ以上用はないと言う風に振り返った。
私はこれを何故フランが持っていたのか、そして同じ神話の乙女でも私なのか聞く。

華凛
 「なぜナツメイトじゃなく私なのだ?」

フラン
 「……さあね? アンタのほうがふさわしい……なんかそんな気がした、それだけ」

そう言うとフランは去って行った。
私はまじまじと指輪を見ると、そっと薬指に嵌めた。

華凛
 「ふふ♪ ピッタリ♪」

私はなんだか嬉しくなって、ステップを踏みながら城下街に走った。
やがて街の城門前で私を待つ一団を捉える。

ニア
 「にー、やっときた」

ナギー
 「これで揃ったな」


 「ああ、保美香、茜……待っててくれよ!」



***



全てが終わった。
戦争は集結し、一様の平和が訪れ、ナツメイトと華凛は袂を別つ。
ナツメイトは忙しい日々を過ごしながら、茂や華凛の事を思い浮かべ、一方華凛達はフリズ雪山で、山賊の族長に伸し上がっていた保美香と合流を果たす。
残すは茜だけ、華凛は踏みなれた故郷へと帰り、しかしなんの不安もなかった。
だが……神話の乙女の伝承はまだ終結していなかったのだ……。



ツキ
 「陛下、カトリーヌ様からお手紙ですぞ」

ナツメイト
 「まぁ、お姉様から?」

ナツメイトは寝室で休んでいるとツキが手紙を持ってきた。
ナツメイトはそれを受け取ると、手紙の内容を確認する。

ツキ
 「手紙にはなんと?」

ナツメイト
 「トウジョウ共和国で、初めて選挙をするんですって、お姉様は周りに推されて立候補させられたみたい♪」

トウジョウ王国は解体され、共和国になった。
カトリーヌは決して権力など望んでいなかったが、その慈母のような愛とカリスマは、トウジョウの民に聖母のように扱われていた。
その内容は、そんな様子に困ったカトリーヌの心情が綴られ、最後にはナツメイトの心配事で締めくくられていたのだ。

ナツメイト
 「ふふ、カトリーヌお姉様らしい♪」

ツキ
 「ふふ、そうですか♪ 当選の暁にはぜひこちらからお会いしたいものですな」

ツキはそう言うと、もうカトリーヌが勝った気でいるようだ。
まあナツメイトも姉なら大丈夫だろうと思っているから、心配などしないのだが。

ナツメイト
 「お返事書かないとね」

ツキ
 「それでは私はこれで」

ツキは恭しく頭を下げると、寝室を出ていった。
ナツメイトは一人になると、机に向き直る。

ナツメイト
 「えと、カトリーヌお姉様になんて書こうかしら?」

ナツメイトは机から紙とペンを取り出すと、何を書こうか悩んだ。
女王としての仕事のこと? それとも孤児院への訪問の事?
色々書きたいことはあるが、どう纏めるべきか、それが問題だった。

ナツメイト
 「こういう時、カリンだったらどう纏めるかしら?」

ふと、懐かしい旧友の事を思い出した。
華凛……あのさっぱりとした女は今頃茂様と一緒だろう。
羨ましい、そういう思いが過ぎった。
だが……その直後。

ナツメイト
 「ぐっ!?」

ナツメイトは頭を抱えた。
頭痛だ、しかし普通の頭痛ではない。
ナツメイトは幻視した。
その目に映ったのは真っ黒なドレスを着た自分だった。

ナツメイト?
 「シクシクシク……どうして?」

どうして? 意味が分からない。
その真っ黒な少女は泣いていた。
土砂降りの雨は少女を濡らし、それさえ涙は土砂降りよりも強く印象に残った。

ナツメイト?
 「憎いでしょ? 悔しいでしょ? どうして茂様は振り向いてくれないの? それはカリンの性、カリンがいるから茂様は手に入らない」

ナツメイト
 (く、ああああ!? い、今まで私に幻視を見せたのは貴方なの!?)

ナツメイトは声にならないうめき声を上げた。
間違いない、それは神話の囁きをナツメイトに呟いた超常存在だ。
だがなぜナツメイトと同じ姿をしている?
それに今まで純白のドレスだったのに、漆黒のドレスに変わったのは何故?

ナツメイト?
 「神話の乙女、選ばれなかった者は呪いの姫となる……さぁ、呪いの姫! 悲願を成就しましょう!?」

ナツメイト
 「あああああああああ!?」

ナツメイトの身体からドス黒い闇が放出された。
それはナツメイトの純白のドレスを黒く染めあげる。
呪いの姫、選ばれなかった神話の乙女とは?
だが、もう遅い、ナツメイトの正常な思考は既に残されていなかった。
ただ欲しい、抗えない程の純粋な情愛が茂へと向いたのだ。

ドカドカドカ!

異変を嗅ぎつけたツキは踵を返し、寝室に突入した。
しかし、ツキが突入した頃には、そこはもぬけの殻だった。

ツキ
 「陛下? 陛下ー!?」



***



ナツメイトは一瞬でテレポートすると雪原だった。
ナツメイトは既に自分が何をするべきかわかっていた。
そして眼の前に目的がある。


 「ひ……!? な、なに……?」

それは巨乳のイーブイ娘だった。
可愛らしく茂の愛を一身に受けたのがよく分かった。
そんな少女はナツメイトを見て怯えた。
茜の側に二本の巨大なランスを携えた重騎士がいた。

トウガ
 「茜! 私の後ろに!」


 「は、はい!」

シュバルゴのトウガ、あの華凛も一目置く、北部切っての戦士だ。
トウガは突如眼の前に現れた漆黒の少女に警戒した。

ナツメイト
 「何故? 何故貴方も愛を受けられるの?」


 「な、なんの事? なにを、言って……」

トウガ
 「くっ!? 耳を貸すな! この女なにか危険だ!?」

ナツメイトは手を翳した。
強力な闇の波動が放出される。
それは瞬く間にトウガと茜を飲み込んだ。
いや、それだけじゃない、北部を瞬く間に飲み込もうとしていた!



***




 「な!? なんだあれ!?」

華凛
 「これは!?」

私達は茜と合流するため、フリズ雪山を下山していた。
しかしその途中に見たのは闇の爆発だった。
一瞬だったが、凄まじい闇が広がり私達まで飲み込まれるかと思えた。

保美香
 「い、今のなにか背筋が凍る思いをしましたわ……」

ナギー
 「同感だな……なんだあのおぞましいなにかは?」

雪山で再会した家族、ウツロイドの保美香も冷や汗を垂らしていた。
かくいう私は、痛みに似た感覚を覚えた。

華凛
 「く、う?」


 「おい、カリン? 大丈夫か?」

茂さんが私の手を握ると、痛みは引いていった。
ただ、手が熱い、薬指に嵌めた指輪が熱を発している気がした。

華凛
 「あ、ああ……大丈夫だ、それより茜は恐らくアーソル雪原にいる、急ごう!」

季節はもうすぐ冬を迎える。
急がないと、アーソル平原はブリザードが吹き荒れる事になる。
そうなったら茜を探すどころじゃない。

ニア
 「にー、でもあの闇が広がったのって……」


 「ああ、嫌な予感がプンプンしやがる……!」

闇はアーソル平原から広がったように見えた。
誰もが、あの闇に戦慄した。
それがなにか、誰にも形容できない。
ただ言いしれぬ不安を抱きながら、私達はアーソル平原を目指すのだった。



***




 「う、く?」

茜は気がつくと、なにかに拘束されていた。
それは闇だった、あまりにも恐ろしい闇が茜に纏わりついていた。


 「た、助けてご主人様……!」

ナツメイト
 「ご主人様? ズルい! どうして貴方はご主人様と一緒なの? 愛して、愛し合って! でもそれは不平等じゃない!?」

茜は身を捩った。
漆黒の少女が茜に顔を近づける。
その感情は嫉妬だろうか、だが茜は意識を正常には保てなかった。
この少女から感じるものは純粋過ぎたのだ。


 「ど、どうしてそう思うの? 誰だって愛せる、愛することは自由のはずなのに……」

ナツメイト
 「そう! 自由だわ! でも不平等なの! 神話の乙女の側に愛する人はいるけど、それは一人、何故なの!? 愛されなかった乙女はなにを抱けばいいの!? 対等の立場はそうじゃない! 愛は平等じゃなかった!」


 (うぅ……負の感情? なんでこんなに純粋なのに、愛に飢えているの?)

茜はなんとか首を回すと周囲を見た。
ぐったりとしたトウガがいた。
一体どれくらい気を失っていた?
何もかも、訳が分からない。
だが最悪の事態なんだなと、茜は思った。

ナツメイト
 「くる、来るわ! あはは! お出迎えしなくちゃ♪ 待っててね華凛♪」

漆黒の少女は踊るようだった。
ただ、ドス黒い闇が広がり、それは不穏さを煽った。
そして、それは明確に華凛を捉える物だった。



***



華凛
 「ちぃ!?」

それは突然の歓迎だった。
出発して1週間、補給のために村に立ち寄ったのだが、村人が突然襲いかかってきたのだ!

美柑
 「くっ!? どうなってるんだ!?」

保美香
 「兎に角鎮圧ですわ! 皆だんな様を護って!」

ナギー
 「了解した!」

村人達は皆正気を失っている。
私達は一人ずつ気絶させていき、なんとか身を守る。
効果か不幸かあまり強くはない。
だが、不自然なのは事実だ。

華凛
 「はぁ、最悪だな」


 「原因……やっぱりあの闇か?」

伊吹
 「確証は取れないけど〜……、怪しいねぇ〜」

華凛
 「ち、やむを得ん、強奪するようで悪いが、勝手に補給させてもらい、さっさと急ぐぞ」

保美香
 「一応少ないですが、お金もおいていきましょうかしら」

私達は必要な物を補給すると、足早に村を去った。
だが、私はずっと不安感を抱いていた。
視線を感じる気がして気持ち悪いのだ。


 「カリン大丈夫か?」

華凛
 「ダーリンこそどうなんだ? なにか感じたりは?」


 「正直よくわからん、なにかピリピリしたものは感じるんだが」

華凛
 「私も同じようなものだ、なにかイラつく」

恐らく視線の性だろう。
一体何が待つのだ?
保美香との合流まではなんの問題もなかったのに、突然想定もしていなかった事態だ。
一体何が……っ!?

華凛
 「っ……!?」

私は頭を抱えた。
突然私は墓場の前に立っていた?
誰の墓だ? 気がつくと私は白いドレスに身を包んでいた。
見覚えがある……これは神話の囁きか。
もう、随分見ていなかったが、様子がおかしい。
空は黒く塗りつぶされ、神々しさより禍々しさが目立ち、周囲には誰もいない。
そして墓場、私は墓石を見た。
そこにある名は。

華凛、ここ眠る。

華凛
 「っ!? はぁ! はぁ!?」

保美香
 「ちょ、ちょっと!? 大丈夫ですの!?」

突然眼の前には保美香が居た。
保美香が心配そうに肩を揺さぶる。
戻ってきた? 私は悪い汗を噴出させると、周囲を伺った。

華凛
 「すまん、水をくれ……」

美柑
 「はい、これをどうぞ」

荷物を運ぶ美柑は水筒を取り出すと差し出してくれた。
私はありがたく受け取り、水を飲む。

華凛
 (くそったれ……なんだあの悪趣味な幻は?)

今まで体験してきたそれとは、なにか趣きが違った。
神話の乙女には謎が多いとはいえ、本当に何なのだ?
軽いホラー体験だった。
冗談じゃない、そう簡単にくたばるものか。

華凛
 「今? どれくらいだ?」


 「地図上だと、もうすぐアーソル平原だな」

華凛
 「そう、か」

もうすぐ旅が終わる。
茜を回収したら、きっとダーリン達は向こうの世界に帰るんだろう。
私はついて行ってもいいんだろうか?
なんて、きっと聞く必要はないな……ダーリンが拒否する未来が見えない。

私は胸を持ち上げると、前をまっすぐ見た。

華凛
 「ふ、平原は広い、注意深く探すぞ?」

ナギー
 「任せろ! 空から探せば早いだろう?」

ナギーはそう言うと翼を広げる。
うむ、仲間の力に頼るのはある意味当然だな。



突ポ娘if #8 完

#9に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:15 )