突ポ娘短編作品集


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短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #7

解放軍の侵攻は激化している。
ホウツフェインートウジョウ連王国は、防衛線を築いていたが、祖国奪還、そして報復を目的とする解放軍を抑えるには至らなかった。
それは何故か? 連王国の占領下にあるトンカー王国、イッシュウ連邦の相次ぐ反乱もあるだろう。
しかし、本当に連王国を恐れさせたのは神話の乙女の存在だ。

神話の乙女を公言する華凛、そしてその秘めたる力を振るう軍神ナツメイト。
二人の神話の乙女、そしてその伝承が、連王国を恐怖させた。
今……2年に渡る騒乱は佳境を迎えつつあった。



***



パカラ、パカラ。

軍馬が歩む音、それが嫌に響いていた。

華凛
 「……」

私はやや苛立っていた。
その理由はナツメイトだ。

華凛
 (一体何があったのだ?)

ナツメイトはここ最近、誰も近寄せないようになっていた。
茂さんは懸命にナツメイトと対話しようとしているのだが、ナツメイトはそれを完全に拒否するように遠ざけたのだ。
それだけじゃない、私さえもナツメイトは遠ざけた。
それが私は苛立たせたのだ。
何故ナツメイトはあんなにも変わってしまった?

華凛
 (まるで昔の私だ……)

いたずらに他者を傷付けてしまうその姿は、昔の私を想起させる。
しかし、何故私や茂さんを信頼出来ない?
少なくとも、かつて私を追い詰めた頃のナツメイトは仲間を信じて私に立ち向かっていた。

華凛
 (ナギーも、少し性格に影響は与えていたか? しかし……)

ナツメイトはやはり極端だ。
あそこまで性格が変わるなど聞いたことがない。

華凛
 (或いは私なんだが……)

私は首を振った。
私とナツメイトでは事情が違いすぎるだろう。
結局私が考えてもこの問題は解決できん。
やはり茂さんしかないと思うのだが……如何せん対話拒否。

華凛
 「どうすれば良いのだ……」

ニア
 「カリン、どうしたの?」

そう言ったのは軍馬を横に付けたニアだった。
ニア自身は馬を扱えないから、あくまで伊吹の背中に捕まるように乗っていた。
いかんな、独り言が漏れていたか。

伊吹
 「カリンちゃん〜、何か問題あるなら〜、お姉さんに相談しない〜?」

華凛
 「ふむ……いや、やはり駄目だ」

私はこの問題を他の家族にまで巻き込むべきか、考えた……やはり無理だった。
そもそもナツメイトのあの問題を伊吹やニア、ナギーに解決出来るか?
私や茂さんでさえ、お手上げなのにどうすればいいのだ?

華凛
 「すまん、万策尽きたら、その時頼む」

ニア
 「よく分からない……でも、分かった」

伊吹
 「うんうん〜♪ 家族みたいなものだからね〜♪」

二人はそう言ってくれた。
私は少しだけ気が楽になった気がした。
やはり、こういう存在がいるのは大きいな。

兵士
 「華凛殿! 先遣隊が敵影確認!」

華凛
 「数は?」

兵士
 「数60!」

華凛
 「? どういう事だ?」

解放軍の迎撃部隊なら、数が少な過ぎないか?
今の所こちらの数は3万5千程、やや戦線が広がっていて、此方もそれほど多すぎはしないが、それにしても少ない。
伏兵を忍ばせているのか?

兵士
 「実は……もう一つお伝えしないといけない事があるんです」

華凛
 「どういう事だ?」

兵士
 「旗印がカトリーヌ様なのです」

華凛
 「っ!? それは本当か!?」

伊吹
 「カトリーヌって……確かナツメイトちゃんのお姉さん〜?」

そう、ホウツフェイン三王女の長女カトリーヌ。
ナツメイトやフランにとっては母親代わりであった方だ。
今はスレン王と婚約し、トウジョウ王国の女王になっているお方だ。

華凛
 「……先方の様子は?」

兵士
 「今の所、交戦の意志は感じ取れません」

カトリーヌ様、何故戦場に出てきた?
あのお優しきお方が、戦争を良しとするとは思えない。

華凛
 「私が行こう」

兵士
 「あの、ナツメイト様には?」

華凛
 「……今は知らせるな」

私は馬を走らせる。
部隊の脇を抜け、一気に前方へと駆けた。
すると、やがて敵の旗印を確認し、間違いなくカトリーヌ様の旗印だと確認した。

華凛
 「トウジョウ軍……一体何を考えている?」

私は迷わず馬を走らせた。
ナツメイト軍は足を止めている。
私一人なら、向こうもそれほど警戒はせんだろう。

華凛
 「カトリーヌ様とお見受けする! 私はナツメイト軍の華凛!」

敵影から20メートルほどの距離、私は馬を止め、そう大声で名乗った。
すると、見慣れた青と黒のドレスを纏ったサーナイトが前に出てきた。

カトリーヌ
 「カリン? 本当に貴方なのね?」

華凛
 「やはりカトリーヌ様」

私は馬から降りると、カトリーヌ様に近づいた。
カトリーヌ様は以前より変わらずお美しい姿だ。
優しい面影も、あの頃より変わらない。
周りのトウジョウ兵は、やや私を警戒していたが、カトリーヌ様は笑顔で安堵していた。

華凛
 「何故、戦場に出てきたのです? その理由をお教え頂きたい」

カトリーヌ
 「戦争を……止めたいのです」

カトリーヌ様は真剣な表情だった。
戦争を止めたい……それは確固たる意志だろう。
私は胸を持ち上げると、ため息を吐いた。

華凛
 「はぁ……今更、ですか?」

カトリーヌ
 「っ! 分かってる! 遅すぎるって! でも今止めないと、苦しむのは民衆なの!」

華凛
 「カトリーヌ様! 貴方はナツメイトを斬れますか?」

カトリーヌ
 「っ!? そんな事……私は……」


 「カトリーヌ様、貴方が手を汚す事はありません、解放軍がたた野蛮に蛮行を繰り返すなら、僕が剣となります!」

突然、トウジョウ軍とは身なりの異なる、ギルガルドのボーイッシュな少女が歩み出た。
私はその姿に驚愕する。

カトリーヌ
 「美柑……ありがとう、こんな駄目な私の為に」

そう、美柑だった。
茂さんの家族の美柑。
まさかカトリーヌ様と行動をともにしていたとは。

美柑
 「ナツメイト様を呼んで下さい! カトリーヌ様は戦争をする気はありません!」

ナツメイト
 「そう……カトリーヌお姉様」

突然、私の真後ろにナツメイトがテレポートとしてきた。
ナツメイトは虚無的な表情で、カトリーヌを見捉える。
カトリーヌは怯えた様子だった。

ナツメイト
 「懐かしい気配を感じたと思った……でも今更売国奴が、何を言っているの?」

カトリーヌ
 「っ!?」

華凛
 「ナツメイト!? お前何を!?」

今、ナツメイトはカトリーヌを売国奴と言ったのか!?
私はそれが許せずナツメイトに掴みかかるが、ナツメイトは興味なさそうに振り払った。
ただ、冷酷な目でカトリーヌを見捉えながら、ナツメイトは冷たく言う。

ナツメイト
 「私はフラン姉様を殺すわ……神話の乙女としての責務を果たす」

カトリーヌ
 「な、ナツメイト!? どうして!? あんなに優しかった貴方はどこに行ったの!?」

ナツメイト
 「それなら……どうしてカトリーヌ姉様はフラン姉様を止めなかったの!? 私は別にフラン姉様が王位継承者でも構わなかった! でも、この世界を滅茶苦茶にしたのは姉様達でしょ!?」

ナツメイトは感情を爆発させると、そう捲し立てる。
それは怒りだ、そして哀しみでもある。
ナツメイトは一筋の涙を零しながら、カトリーヌ様をただ批難した。
カトリーヌ様は、愕然として、膝を折った。
慌てて周囲のトウジョウ兵達が支えるが、カトリーヌ様は大粒の涙を浮かべ、年甲斐もなく泣きじゃくった。

カトリーヌ
 「ごめんなさい……! ごめんなさい! 私が臆病だったから、貴方を……!?」

ナツメイト
 「……もういい、カトリーヌお姉様、あのお優しかったお姉様は死んだの、私が、殺してあげる……!」

ナツメイトが殺気を放った。
やばい、そう思った瞬間私は太刀に手を掛ける。

華凛
 (くそ!? 間に合え!)

ナツメイトがエストックを抜いた。
そしてカトリーヌ様の細やかな命を刈り取ろうとする。
私はすぐさまその突きを払おうとした。

華凛
 「ぐっ!?」

しかし、パワー負けする。
馬鹿な!? 私が細身のナツメイトにパワー負けだと!?

美柑
 「させるかぁ!?」

しかし美柑は素早くカトリーヌ様の盾になると、キングシールドでナツメイトの突きを防いだ。

ナツメイト
 「何故……?」

華凛
 「お前こそ自分が何をしているのか理解しているのか!?」

私はナツメイトを殴り飛ばす。
ナツメイトは尻餅をつくと、カトリーヌ様を見た。
カトリーヌ様はその美しい顔も犠牲にして、絶望の顔でナツメイトを見た。

ナツメイト
 「私が、しようとした……こと?」

ナツメイトは自分の手を見るとワナワナと震える。
まさか? 自覚していなかったのか?


 「ナツメー! ここにいたのか!?」

ナツメイト
 「茂……様? 私、私何を?」

華凛
 「ダーリン」

遅れて、ダーリンは馬を走らせ近づいてきた。
その姿を見て、美柑は驚く。

美柑
 「主殿!? ま、まさかこんな所で!?」


 「美柑! こんな所にいたのか!?」

ナツメイト
 「え……茂様? 美柑……家族?」

ナツメイトは美柑とダーリンを交互に見た。
そして何かを知り、そして絶望した。

ナツメイト
 「私……家族を殺そう、と?」

華凛
 「カトリーヌ様を見ろ、お前にとって、カトリーヌ様は殺すべき方なのか!?」

ナツメイト
 「でもカトリーヌお姉様は……私を……?」

カトリーヌ
 「ごめん、なさい……貴方に殺されても、私は、文句を言えないわ……」

カトリーヌ様は自分の死も覚悟していただろう。
それでも、カトリーヌ様は一刻も早く戦争を終わらせたいのだ。
カトリーヌ様はその責任を全て取るつもりだった。

トウジョウ兵
 「カトリーヌ様、どうかお手を」

カトリーヌ
 「ごめんなさい、皆さん……」

トウジョウ兵は随分カトリーヌ様に忠誠を誓っている様子だった。
カトリーヌ様が立ち上がると、兵士達は敬服する。
ホウツフェインの者だが、トウジョウ国に嫁ぎ、愛されたのだな……。

トウジョウ兵
 「我々はカトリーヌ様の愛に打たれ、カトリーヌ様に忠誠を誓った者達だ……もし、戦争の責任を取れというなら、この命惜しくもない……だが、カトリーヌ様はトウジョウ王国に必要なお方なのだ!」

カトリーヌ
 「皆さん……本当にごめんなさい」

華凛
 「カトリーヌ様の目的と、意志の強さは分かりました……しかしスレン王はどうなのですか?」

カトリーヌ
 「スレン王は分からない……」

トウジョウ兵
 「陛下は、カトリーヌ様と顔も会わせません……カトリーヌ様を愛してもいないのです!」

華凛
 「そうか……」

スレン王は特に野心家だろう。
フランも野心家ではあったが、悪党度では恐らくスレン王の方が悪党だ。

華凛
 「スレン王は講話の意志は?」

トウジョウ兵
 「恐らくないでしょう……」

私はことの事態を吟味した。
今、ナツメイト軍はホウツフェイン城へと進路を定めていた。
だが、状況が変わった。
先にトウジョウ王国の件を片付けるべきかもしれない。

華凛
 「ナツメイト、進路変更を提言する、スレン王の元に向かおう」

ナツメイト
 「貴方がそう言うなら従うわ……」

カトリーヌ
 「それじゃあ?」

華凛
 「ああ、駄目元スレン王に交渉する……賠償金と、占領地からの即時撤退を受け入れれば恐らく解決する」

国を攻め滅ぼされたトンカーとイッシュウの恨みは深いだろう。
だが、ナツメイトが勝利を確定させれば、あの二国も応じるしかあるまい。
それだけこの世界で神話の乙女の伝説は重い。

カトリーヌ
 「トウジョウ国の問題が解決すれば、私はどうなっても構わない、火刑でも斬首でも受け入れるわ……」

ナツメイト
 「……その言葉信じる、だからもう裏切らないで……」

ナツメイトはそう言うとゆっくりと立ち上がった。
私はやっぱり我慢出来ず、ナツメイトに食って掛かる。

華凛
 「それだけか? カトリーヌ様だって、どんな思いで生きてると思ってる!?」

ナツメイト
 「そんなの……私だって同じよ!? 誰が好きで戦争するの!? 誰が好きで姉を殺すの!?」

華凛
 「だったらその不満! なんで私達に相談しない!?」

ナツメイト
 「っ!?」

ナツメイトが怯んだ。
私は思いの丈全てを込めて、ナツメイトに叫んだ。

華凛
 「私達を信用してくれ! 私はナツメイトの力になりたいんだ!!」


 「ナツメ、俺もだ……俺はそんなに邪魔か? 俺はナツメを救いたい……笑顔にしたい」

ナツメイト
 「わた、し……皆?」

美柑
 「……どういう事情があるか、知りませんけど主殿にそう言わせるなんて、滅多な事じゃないですよ?」

美柑はそう言うと、やや不満そうだった。
と言うか、ナツメイトを信用しきれないのだろう。
無理もないが、単純馬鹿なりに美柑は己の正義に生きるからな。

ナツメイト
 「私、怖いんです……茂様を愛すればする程、何もかもがどうでもよくなるの……カトリーヌお姉様さえも……!」

そう言うとナツメイトは顔を覆って泣きじゃくった。
その様子はただ事ではない。
だが、やっとナツメイトが事情を説明してくれたのだ。

華凛
 「どういう事だ? ダーリンを愛するのは自然な事だろう?」


 「ああ、昔のお前はもっと甘えてきたじゃないか」

ナツメイト
 「違うの! 私は茂様が愛おしい、でも同じ位カリンも好き! カトリーヌお姉様も好き! なのに、憎くて仕方がないって感じちゃうの!?」

華凛
 「憎い……だと?」

ナツメイト
 「だから二人を遠ざけた……この想いを抑える為……!」


 「俺が足枷のようになったってのか……?」

ナツメイト
 「違う! そうじゃない! 悪いのは私! 全部私が悪い!」

ナツメイトに巣食う純然たる悪意。
それはこの生来の優しき女に、姉でさえ殺そうとする意志を植え付けた。
そしてそんな恐ろしい程無垢で純粋な感情は、ナツメイトに制御できない程暴走させた原因だ。

カトリーヌ
 「っ! ナツメイト!」

カトリーヌ様は何かを決意すると、走ってナツメイトに抱きついた。
ギュッと強く、ナツメイトの細い身体を抱きしめると、かつてのようにナツメイトの頭を優しく撫でた。

カトリーヌ
 「大丈夫よ、なにも怖くない……お姉ちゃんが付いているもの」

ナツメイト
 「か、カトリーヌお姉様……私、わたしぃ」

カトリーヌ
 「ナツメイト、私も貴方を愛しているわ……」

ナツメイト
 「う、ああ……あああっ!?」

ナツメイトはカトリーヌ様を抱き返した。
そしてカトリーヌ様の胸で泣く、まるで子供の頃に戻ったように。
だが、それはナツメイトに安心を呼び戻したようだ。
ナツメイトに突然訪れた異変。
それは原因が何なのかは判然としない。
だが、ナツメイトにはとても似合わない負の感情だった。



***



ナツメイト軍は進路をトウジョウ王国へと転換。
ナツメイトはカトリーヌ派を保護すると、スレン王へと和平交渉へと向かうのだ。
だが……それはスレン王には受け入れられる物ではなかった。

スレン
 「和平交渉だ? 巫山戯るな!」

トウジョウ王国の王宮にはその国の重鎮達が揃っていた。
スレン王は激昂し、カトリーヌが宛てた手紙を読んで、それを地面に叩きつける。

将軍A
 「しかし陛下、これはまたとないチャンス、確かに賠償金は痛いですが、陛下の身の安全は保証されます!」

将軍B
 「それに、母国への帰還を求める兵士達も多く、指揮はガタガタです!」

スレン
 「現地の兵士が何を甘ったれている!? 中部統一は千年の夢! 真の王は誰か知らしめ! 二度とかよう無駄な争いを起こさない事が目的だったろう!?」

その言葉に将軍達は黙った。
中部の歴史は戦争の歴史だ。
中部統一は各国の悲願、その目的のために何度も争いは起こったが、結局民族の統一は誰も成し遂げられなかった。
しかし、スレン王の失敗はいくつかある。
一つは占領地政策だ、スレン王は占領地下をトウジョウの文化で塗りつぶそうとした。
それは占領地の住民の反発を産み、更にスレン王は中部統一の悲願とは別に南部へと覇権の手を伸ばした。
それは余計な敵を産み、この戦争を拡大してしまったのだ。

スレン
 「敵の数はたかが3万! 踏み潰せ!」

将軍C
 「し、しかし敵は神話の乙女を有します! 神話の乙女の伝承はご存知かと!?」

スレン
 「神話? 神話が何になる!? 神話の乙女だって殺せば死ぬだろう!?」

ナツメイト
 「殺せるなら、ですがね?」

突然、王宮にある集団がテレポートした。
ナツメイトだ、スレンはその見知った顔に驚愕する。
更にその周囲にトウジョウ兵とホウツフェイン兵の混合部隊が随伴していた。
そして、ナツメイトの後ろにはカトリーヌの姿が。

カトリーヌ
 「陛下、もうこれ以上民を苦しめないでくださいませ」

スレン
 「カトリーヌ!? 何故お前がそっちにいる!?」

カトリーヌ
 「私はもうトウジョウ国の者、なればトウジョウの全ての民の命を護る義務があります!」

カトリーヌは胸に手を当てるとそう言った。
トウジョウ兵士達は、スレン王達を取り囲む。

将軍
 「ま、まさかクーデターとでも言うのか!?」

トウジョウ兵A
 「カトリーヌ様は、この国事を真剣に考えて下さった! 俺の母さんも守ってくれたんだ!」

トウジョウ兵B
 「陛下に恨みはない……でも、陛下は俺たちを顧みてくれたのか!?」

それは兵士達の痛烈な言葉だった。
カトリーヌはこの2年、スレン王に嫁ぎ、スレン王とフラン女王の暴走を止められなかった。
だが、カトリーヌは必死でトウジョウの人間になろうと努力した。
文化の違う異民族に受け入れられるため、世俗を学び、そして愛していった。
スレン王はフランとの同盟のため、カトリーヌを受け入れたが、カトリーヌを離宮に幽閉し、直接会うことはなかった。
カトリーヌは何度も手紙を送ったが、スレン王はカトリーヌの言葉を受け入れてはくれなかった。
だが、それが……その無関心が、カトリーヌの真摯な想いに打たれた兵士達にクーデターを起こさせた。
カトリーヌはトウジョウ国民の保護と責任の追求全てを受け入れる事で、このクーデターを成功させた。

カトリーヌ
 「スレン陛下……野望などもう捨てて下さい、そしてやり直しましょう……私はこの国に全てを捧げます……!」

スレン
 「く!? あ、あんな意志も薄弱で、なにも出来ない女が……!?」

カトリーヌ
 「確かに、私は弱くて情けないわ……でも、私だって必死だった! お父様の期待に応えたいって思った! 貴方を愛そうと思った! 戦争を止めようと必死だった!」

スレン
 「く、ククク……」

将軍B
 「へ、陛下?」

突然、不気味な笑みをスレン王は浮かべた。
その表情は見えない、だがその邪悪な意志は明白だった。

スレン
 「なら! 僕のために死ね! カトリーヌ!」

突然表情を狂気に歪めると、剣を持ちカトリーヌに斬りかかった。
しかし、カトリーヌの後ろから白い影が走る!

華凛
 「はぁ!」

華凛だ、華凛はカトリーヌを庇うように前に出ると、見えない斬撃でスレン王を斬り裂いた。

スレン
 「が!?」

華凛
 「ふん、ゲスめ……!」

華凛は斬り伏せたスレン王を軽蔑した。
カトリーヌは悲しそうに倒れるスレン王を受け止める。

カトリーヌ
 「何故? 受け入れぬのですか?」

スレン
 「なぜ、だと? ははは……、僕は、君の事、好きじゃ、なかった……」

スレン王はそのまま息を引き取った。
カトリーヌはドレスを血で染めるも、スレン王を優しく抱きしめた。

カトリーヌ
 「わかってた……愛されていないって……それでも私は貴方を愛していたわ……」

華凛
 「ナツメイト、王宮の制圧は完了したぞ」

ナツメイト
 「そう、それじゃ重鎮の皆さんの意見を聞きましょう」

重鎮達の顔は重苦しかった。
だが、誰も抵抗する者などいなかった。
スレン王は死に、重鎮たちにもはや抵抗の意思などないのだ。

ナツメイト
 「全てを受け入れる、でよろしくて?」

その日、トウジョウ国は降伏した。
王を失ったトウジョウ国は一時の混乱の中にあったが、突如カトリーヌの宣言により、それは終息した。

カトリーヌ
 「トウジョウ国の皆さんお聞きください! トウジョウ国は破れました! けれどもう戦争はしなくてもいいのです! 貴方方のお子さん、皆さんの身! 私は全てを受け入れ、貴方達を守ってみせます! だから誇ってください! 負けたこと! もう戦争をする必要はないのです!」



それは……後にカトリーヌの宣言と呼ばれる事になる。
カトリーヌの宣言に応じて、全てのトウジョウ国民達は国へと帰還した。
戦地に赴いていた男たちは、家族や恋人達と抱き合い、ただ喜びを分かち合った。
トウジョウ王国はここに潰え、民主化の道を辿ることとなる。
後にトウジョウ共和国と名を変え、その初代首相に選ばれるのはカトリーヌとなるが、それは未来のこと。
今はただ、終戦の喜びを分かち合うだけだった。



***



フラン
 「そう、スレンは死んだのね」

ホウツフェイン王国、王宮。
フランは同盟国家であったトウジョウ国の脱落を知るが、その表情は嫌なほど落ち着いていた。
まるで分かりきっていたというように、そしてそれでいてフランは諦めた節はない。

フラン
 「トウジョウ王国の脱落……味方はいなくなったわね」

ツキ
 「女王陛下! 姫様と和解しましょう! 姫様なら応じます!」

フラン
 「ふん、老人が言うわね……貴方ナツメイトの教育係だったわね?」

ツキ
 「はい、ですから姫様の事は承知しています!」

ヤミカラスのツキ、あくまでもホウツフェインの事を考える重鎮だが、フランとは意見が合わず、ツキは政界からも干されていた。
しかしナツメイト派が活気づく中、ツキは黙っていられなかった。

フラン
 「ゲラート、貴方もそう思う?」

フランの後ろ、既に引退した身だが、フランの軍事アドバイザーとして君臨するネギガナイトのゲラートは白い髭を擦ると静かに言った。

ゲラート
 「王位は剥奪されるかと思われますが、命は保証されるかと」

フラン
 「ふん! 相変わらずつまらない男ね! 良いわ……私もいたずらに国力を削って、トンカーやイッシュウの馬鹿どもに活気づかせるつもりはない、ナツメイトに招待状を!」

ツキ
 「はは! すぐにでも手配を!」



***



フランの招待状、それは直ぐにトウジョウ国に駐留するナツメイトの元に届いた。

ナツメイト
 「招待状……ね」


 「あくまで招待する……てだけか」

華凛
 「フラン様は利口な方だ、ホウツフェイン人同士で同士討ちしても他国を喜ばせるだけだと理解している」

今でこそ利害の一致で、解放軍は纏まっているが、トンカーやイッシュウはまだその手を下ろしてはいないのだ。
特にトウジョウ国の脱落は、トンカーやイッシュウの思惑とは些か異なる物だった。
カトリーヌの宣言はあくまでトウジョウを護ると言うものだ。
それはトンカーやイッシュウは領土割譲を狙う上では、問題だった。
多額の賠償金を求める事は出来るだろうが、既に二国がトウジョウに踏み込む事は、カトリーヌと敵対する事を意味する。
それは引いては神話の乙女であるナツメイトを敵に回すという意味でもあった。
そうなれば矛先が向きかねないのはむしろホウツフェインだ。
だからなるべくフランはそれを温存したいのだろう。

カトリーヌ
 「私はここに残るわ……」

ナツメイト
 「ええ、カトリーヌお姉様は、もうトウジョウの人ですものね」


 「それにしても、こんな美人さんを愛せないなんて、あの王様も分からないな〜」

カトリーヌ
 「あら、ふふ……お世辞が上手でして♪」

カトリーヌは茂さんの世辞を聞くと、胸に手を当て微笑んだ。
茂さんはそれを見ると顔を赤くして、気まずそうにそっぽを向いた。

華凛
 「むぅ、この巨乳好きめ♪」

私はそう言うと茂さんの腕に抱きつき、胸を押し当てた。
すると茂さんは案の定慌てる。


 「ちょ!? 華凛さん!? 周り見てるから!?」

華凛
 「別にいいじゃないか♪」

ナツメイト
 「むう……! 私だっておっぱい大きくなったんですから!」

カトリーヌ
 「あらあら、はしたなくてよ?」

そう言うカトリーヌ様も24歳と年齢も茂さんより上だが、2年前から成長し、身長もバストも大きくなっていた。
確かにナツメイトも成長しているが、現実は無慈悲だな。

華凛
 「ふ、で……招待は受けるんだろう?」

ナツメイト
 「ええ、フラン姉様と決着をつけないといけないもの……」

カトリーヌ
 「フラン……どうか馬鹿な真似だけは」

カトリーヌ様は手を合わせると、ただ祈るのだった。
願わくば、血で血を洗うより、どんなに惨めでも生き残ってほしいのだ。
だが、それは叶わぬかもしれない。
フランはそれを良しとするか?
ナツメイトに強い敵愾心を見せ、プライドで生きた女。
私は不安だった。



突ポ娘if #7 完

#8に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:15 )