突ポ娘短編作品集


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短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #6

ホウツフェイン王国、首都。
王城ホウツフェイン城を中心に栄えた城下町は歴史が重なり、独特の景観をしている。
赤いレンガ造り街並みや建物間狭さ、まるで迷路のように張り巡らされた街並みも城塞都市として発展した名残だろう。
しかし、今この街は騒然としていた。

市民A
 「ナツメイト様が蜂起したというのは本当か?」

市民B
 「この街も戦場になるのかね……」

市民達の顔も様々だ。
ナツメイトを歓迎するもの、今の世に戦乱を求めない者。
だが、そういった個の思いを無視して、進むのが戦争なのだ。

王宮、国の中枢者だけが暮らすことが出来る。
そこには当然フランの姿もある。
今フランの前には、王宮にはそぐわない兵士の姿があった。
その男は兵士というよりは技師か?
全身は油に塗れており、頭には特徴的な三点ターレットのゴーグルを掛けていた。
全身の肌が赤く、寝不足なのか偏執的な目をしたオクタンだった。

フラン
 「ゲーペン、アンタの出番よ」

ゲーペン
 「ヘヘ、了解……」

フラン
 「先代、お父様はお前を許さなかった。国外追放されたお前に母国の土を踏む事を許したのは私だ……その意味は分かるな」

ゲーペン
 「よーく分かってやすよ、まぁ任せてください、フラン様に忠誠心見せますよ」

オクタンのゲーペンは偏執的な兵器オタクだった。
しかしどれも人道を無視した過剰火力の兵器ばかり開発するゲーペンは、今から20年前ホウエン王の怒りを買い、国外追放されたのだ。
ゲーペンは失意のまま、中部と北部を隔てるフリズ山を越えて、北部に身を隠した。
だが、そんなゲーペンに転機が来たのは1年前の事だ。
ホウエン王の跡を継いだフラン女王が帰還を命じたのだ。

ゲーペン
 「フラン様は防衛兵器の重要性を理解して下さる……なら俺ぁ、フラン様の為に働くだけさ」

フラン
 「……期待しているわ」

フランは腕を組み、そのキツイ目でゲーペンを見る。
ゲーペンは女王の前だというのに、身嗜みもだらしなく、顔もどこか覇気がない。
いや、狂気的か……一体20年の間、ゲーペンに何があったのかはフランにも分からない。
そう、北部の地獄を知らない者に、ゲーペンの狂気は分からないのだ。

ゲーペン
 「それじゃ、俺ぁもう行くぜ? 奴ら来るんだろ?」

ゲーペンはニヤリと笑うと、王宮を去っていった。
フランはゲーペンの望む物をいくらでも与え、ゲーペンはラボで次々と新兵器を開発していった。
だが、それでも不安はある。

フラン
 「神話の乙女、か」

フランを苛立たせたのは、子供でも知る神話だった。
解放軍は神話の乙女を擁している、そう喧伝しているのだ。
この世界の住民ならば、神話の乙女の伝承を知らない者をいないだろう。
世が乱れる時、それを正すために神話の乙女は現れる。
そんなお伽噺に恐れなければならない……それがフランを苛立たせた。

フラン
 (認めない……私は認めないわよ、ナツメイト!)



***



ナツメイト
 「ヘップシ!」

くしゃみだった。
ナル・ミオンデ要塞に充てがわれたナツメイトの個室で彼女は鼻を鳴らした。

華凛
 「風邪か?」

私は側でそう聞くと、ナツメイトは鼻を擦りながら。

ナツメイト
 「うーん、たまたま、かな?」

華凛
 「風土病は怖いからな、気をつけろ」

ナツメイト
 「う、うん」

私は胸を持ち上げ、アジャストすると、それっきり黙ってしまった。
ここ最近ナツメイトの様子がおかしい。
私は密かに不安だった。
ただ単純に王位を継ぐ覚悟が出来ただけなら良いのだが。

華凛
 「ダーリ、こほん、茂さんと会わないでいいのか?」

ナツメイト
 「茂様!?」

ナツメイトはガタンとテーブル叩いて、椅子から立ち上がった。
現金な奴め、まぁまだまだ乙女だな。

ナツメイト
 「……ねぇ、華凛は茂様が好きなのよね?」

華凛
 「当然だ、誰よりも愛しているさ♪」

それを曲げる気はない。
例え茜相手でも、私はこの気持ちは曲げないだろう。
だが、それを聞くとナツメイトは不安そうにした。

華凛
 「ナツメイト?」

ナツメイト
 「そうだよね……神話の乙女だもん、私! ちょっと出掛けてくる!」

ナツメイトはそう言うと、その場からテレポートした。
私は呆然と立ち尽くす。

華凛
 「神話の乙女、か」



***




 「は! ほ! は!」

常葉茂はナル・ミオンデ要塞の屋上で剣の素振りを行っていた。
それを監督しているのはナギーだった。
ギャラリーにはニアと伊吹もいる。

ナギー
 「よし、休憩!」


 「はぁ、はぁ! ふう……」

伊吹
 「は〜い♪ 茂君〜、お水〜♪」

そう言うと、伊吹は水筒を茂に渡す。
玉のように汗をかく茂は受け取ると、一気に水を呷った。


 「んぐ、んぐ! ぷはぁ!」

ナギー
 「ふふ、大分様になってきたな」


 「と言っても、まだペーペーですけどね!」

茂は状況に適応しようと必死だった。
美柑は中部にいるという。
この戦争において、その到達点に家族がいるのだ。
茂は少しでも強くなる必要があった。

ニア
 「に〜、お兄ちゃんは頑張らなくても、私が守るのに」

まるで猫のように、その場に寝転がるニアはそう言う。
だが、茂は首を振った。


 「駄目だ、甘えてるばっかりじゃいけない」

ナギー
 「まぁ、自衛能力はあった方が良いからな」

茂は厳格に自分を見つめていた。
恐らく彼にはトラウマもあるのだろう。
自分の無力さが、茜を危機に陥らせた事が、重くのしかかっているのだ。

ニア
 「に? ナツメイト?」

ニアが後ろを振り返った。
そこにはナツメイト立っていた。

ナツメイト
 「……」

ニア
 「?」

ナツメイトはなんだか悲しい顔をしていた。
ニアはその普段とは違うナツメイトの様子に少し不安に思った。
やがて、ニア以外もナツメイトに気がついた。

ナギー
 「これは! ナツメイト様!」

ナツメイト
 「あ、あはは……」


 「ナツメイト? お前、なんかあったか?」

茂は目敏く、ナツメイトの様子に気がついた。
ナツメイトは茂を直視すると、顔を真っ赤にした。

ナツメイト
 「は、はわわ〜!? な、なんでもありません! なんでありませんから!?」

ナツメイトは顔を真っ赤にしながら、オーバーリアクションでそう言うが、茂はそれで納得はしなかった。
茂はナツメイトに顔を近づけると、ナツメイトはパニック気味になって震える。

ナツメイト
 「はわ!? はわわ〜!? 近い、近いです!」


 「ナツメ、不安なのか?」

茂はあくまで、毅然としてナツメイトに向き合った。
ナツメイトは少し後ろに下がると胸を抑えた。

ナツメイト
 「……やっぱり、駄目だよ……」


 「ナツメ?」

ナツメイトは暗い顔をした。
まるで自分がその場にいるのは相応しくないと言うかのように。
だが、それは不自然だ。
ナツメイトは、それこそ自分の愛情を遠慮なくぶつけるタイプだ。
まるで茂の事が気になって仕方がないのに、遠目に見ているのが良いと言っているみたいだ。

ナツメイト
 「……ごめんなさい! 茂様!」

ナツメイトはそう言うと、テレポートしてしまった。



***



ナツメイト
 (なんで!? なんでなの!?)

ナツメイトは誰もいない場所にテレポートすると蹲った。
何かがナツメイトに騒ぎ立てる。
それを抑えるのでナツメイトは一杯だった。

ナツメイト
 (茂様が好き! カリンが好き! それじゃ駄目なの!? 親友のために身を退くのはおかしいの!?)

ナツメイトは神話の囁きを聞いていた。
その切っ掛けはナル・ミオンデ要塞攻略の直前だった。
ナツメイトは不思議な夢を見た。

それは、ウエディングドレスを着た自分の夢だった。
そう……それは神話の乙女が見せる幻視だった。

ナツメイトにとってそれは憧れの象徴だった。
でも今は違う、最悪だ。
いつか、カリンに聞かれた二人の神話の乙女の話を思い出す。

ナツメイト
 (なんで!? なんで私が神話の乙女なの!?)



(カリン
 「もしもの過程ですが……もし神話の乙女が二人いたら、それはどうなるのでしょう?」)

(ナツメイト
 「二人の神話の乙女? そんな文献や絵物語は覚えがないわね?」)

(ナツメイト
 「もし私がその二人目なら、きっと嫉妬するわね……何故私の前に現れなかったの! って」)



ナツメイト
 「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!?」

ナツメイトは今華凛に嫉妬している。
どれだけ頑張っても二番目のナツメイトでは華凛に勝てない。
華凛は自分に絶対の自信もある。
そして、茂様が惹きつけられているのもやっぱり華凛だ。
だから、ナツメイトは身を退こうと決意した。
茂様の事が好きすぎて、狂いそうなのに、それをよりにもよって姉妹のように育った親友とバッティングしてしまう。

ナツメイト
 (もう、終わらせよう……私がおかしくなる前に)



***



解放軍が全ての準備を終えるには2ヶ月の用意が必要だった。
だが、それは連王国の用意も充分整った事だろう。
夏の日差しが徐々に秋の涼やかな風に変わりながら、解放軍と連王国との、最大の激突はいよいよ始まる。

華凛
 「久しいな、そう思わんか?」

ナツメイト
 「ええ、そうね……」

私達ナツメイト軍は、中部地方へと進路を取り、今懐かしき中部の地を踏んでいた。
ナツメイト軍の数、約3万。
亡きホウエン王、最後の王女の軍にしては少ないと言えるが、偽りの女王フランと戦うには充分だろう。

華凛
 「緊張しているのか?」

私は隣で軍馬を歩かせるナツメイトを見て、そう言った。
ナル・ミオンデ要塞を攻略してからというもの、ナツメイトから生来の明るさが失われた気がする。
大人になったと言えば聞こえはいいが、私はただ不安だった。
だが、ナツメイトは何も説明してくれない。
どんな事情があれど、私はナツメイトの味方だというのに、だ。

ナツメイト
 「別に……いえ、少し緊張してる」

華凛
 「……」

私はナツメイトの息遣いを鋭敏な感覚で捉えながら、精査する。
嘘は言っていない、だが……私では役不足だというのか。

華凛
 「茂さんを呼ぶか?」

ナツメイト
 「っ!? やめて!」

ナツメイトが声を荒げた。
やっと、感情らしいものを現したな。
やはり、ダーリン絡みか。

華凛
 「何故躊躇う? ナツメイトも好きなのだろう?」

少なくとも、恋敵としてならナツメイトは対等なライバルだ。
だが、ナツメイトは俯くと震えながら言った。

ナツメイト
 「駄目、なの……! 私は好きになっちゃ駄目……好きになっちゃ駄目……!」

ナツメイトの精神状態はやっぱり異常だ。
声も震え、原因不明だが、ダーリンを意図的に遠ざけている。
隙きあればダーリンとイチャイチャしていた女が、一体なにがあったのだ?

ナツメイト
 「っ!? 全軍止まれ!!」

華凛
 「全軍! 進軍停止命令伝達!」

私は伝令役に直ぐ指示を送る。
発煙筒と角笛が3万の軍の動きを制御した。

華凛
 「全軍停止、一体どうしたんだ?」

ナツメイト
 「悪意を感じる……! そこ!」

ナツメイトはサイコキネシスを練った。
だがそれは信じられない程強力なサイコキネシスだった。
サイコキネシスは遥か遠隔地にまで及び、ナツメイト軍の周囲を撫でる。
すると、次々と地面が爆発していった。

華凛
 「な!? 地雷!?」

それは軍馬を狙った地雷だった。
夥しい数がばら撒かれた長閑な平原が急に殺気立つ。
私は警戒した。
この戦術には覚えがあったからだ。

華凛
 (帝国七神将、砲のゲーペンか!?)

この世界には帝国はない、ならば考えられるのはホウツフェイン王国に出戻りしたという事か。
味方なら心強い奴だが、敵に回すと恐ろしいな。
しかし、一番恐ろしいのはそれを先に見抜いたナツメイトか!

華凛
 「どうする? 迂闊には動けんぞ?」

ナツメイト
 「私が行く!」

華凛
 「なに? まっ!?」

待て、そう言い切る前にナツメイトはその場からテレポートで消えた。
私はまさかと、正面を見る。

華凛
 「ち! 全軍前進! 敵をあぶり出せ!」

私は軍にそう命令するしかない。
馬鹿げた話だ、ナツメイトは一人で解決しようとしているのだ。



***



ナツメイトは敵意を見つけると、一瞬でテレポートした。
見慣れたホウツフェイン軍の装備、フラン派だ。
ナツメイトはフラン軍の上空に出現すると、悪意を見定めだ。

ナツメイト
 「スピードスター!」

ズドドドドドド!!

ナツメイトの放ったスピードスターは、広範囲に広がり、地上を舐め尽くした。
それはまるで爆撃だ。

頭上に映る白きドレスのサーナイトに、兵士達は恐れ慄いた。

兵士
 「ば、化け物だ……ナツメイト様はやっぱ化け物だー!?」

恐慌状態に陥った軍は脆い。
ナツメイトは冷静にそんな敵軍の思考を全て読み取りながら、悪意の源を見定めた。

ゲーペン
 「ち!? くそ! なんなんだあれは!?」

ゲーペンはライフルを放った。
発砲された弾丸は、ナツメイトを狙うが、ナツメイトの放つ強力な念動力の前に、弾丸は推力を失う。
お返しとばかりに、ナツメイトは弾丸をゲーペンに跳ね返した。

ナツメイト
 「はぁ!」

ゲーペン
 「がっ!?」

弾丸はゲーペンのふくらはぎを貫いた。
ナツメイトはゲーペンの前に着地する。

ゲーペン
 「はぁ、はぁ! 糞が!?」

ナツメイト
 「そんなもの? フラン姉様は?」

ゲーペン
 「死ね! 死ねぇ!」

ゲーペンは大きなハンドガンを取り出すと、ナツメイトに発砲した。
しかし、ナツメイトはいとも容易く弾丸を止めてみせた。
既に兵士達は蜘蛛の子を散らうように去っていっていた。
ナツメイトは後方に華凛達軍の気配を感じ取ると、早めにケリをつける事を選ぶ。

ナツメイト
 「投降しなさい」

ゲーペン
 「投降だと!? 悪いが俺は義理がたいのが身上でね!?」

ゲーペンは手榴弾を取り出すと、ナツメイトに投げつける。
手榴弾は閃光を放ち、大きな音がナツメイトを襲う。

ゲーペン
 「へへ!? いくら稀代のサーナイトっつっても三半規管をやられたら……が!?」

ゲーペンは視線を腹部に下げた。
そこには剣が深々と突き刺さっていた。
刺したのはナツメイトだ。
ゲーペンは口から血を吐くと、ゾクっとした。

ナツメイト
 「……私言ったよね? 投降してって」

ナツメイトは恐ろしく暗く、そして憎悪に似た眼差しをゲーペンに向けていた。
フランの容赦のない目と、まるで違う本物の魔王の風格に恐れ慄いた。

ゲーペン
 「が、は……!」

ドサリ、ゲーペンは前のめりに倒れた。
ゲーペンはそんな冷酷な瞳をしたナツメイトを睨む。

ゲーペン
 「貴様、なに、もの? ただの、サーナイトの、訳、が」

ナツメイト
 「神話の乙女……憎くて憎くて仕方がない、ね」

ゲーペン
 「神話の乙女……?」

ゲーペンはそれっきり動かなくなった。
ナツメイトはエストックの血脂を取り除くと鞘に収め、ナツメイト軍の到着を待った。



***



華凛
 「これを……姫様が?」


 「ありえねぇ、サーナイトってのは、こんな神様みたいな事が出来るのか?」

戦場跡は悲惨だった。
たった数分で、ナツメイトはフラン軍を壊滅させたのだ。
地上はフラン軍の死体があちこちに散らばり、地面は抉られ無残な姿だった。
逃げた兵士も多いようだが、これを全てやってのけたのがナツメイトだというのだ。

華凛
 (やはり……ナツメイトが神話の乙女か)

ナツメイトの力は神話の乙女のブーストが掛かっているとしか思えない。
だが、これが救世主の姿か?

ナツメイト
 「あ! 皆!」


 「ナツメ!? お前大丈夫なのか!?」

ナツメイト
 「え? それどういう意味で!?」

ワンマンアーミーで敵軍を壊滅させたナツメイトはケロっとした顔で合流した。
私は複雑な思いを抱きながら、ナツメイトを見る。

華凛
 (多少の歴史変動は承知していたが……まさかナツメイトが、とはな?)

それに、ナツメイトの神話の乙女の力は桁違いだった。
私を打倒したナギーのそれ比べても、どうしてあそこまでの力が出せる?
私が心のどこかで、ナツメイトの力に恐れを抱いた。

ナツメイト
 「このまま一気にホウツフェイン城へと攻め込みましょう!」

華凛
 「馬鹿者! 兵士の疲労を考えろ! ベースキャンプを築く!」

ナツメイトはこのまま進軍を求めるが、私は反対した。
どのみちホウツフェイン城はまだ遠い、今のうちキャンプの設営を終えて疲労を取り除くべきだ。

華凛
 「特にナツメイト……お前は頑張り過ぎた」

ナツメイト
 「だって……私にはこれ位しか……」


 「ちょい待ち! とりあえず話は後!」

ダーリンはそう言うと、ナツメイトも素直に頷いた。
相変わらずダーリンには素直なんだな。
いや、本質は多分変わってない。
誰かが傷つくのが嫌で、優しさが極端に走って、一人で壊滅させたのだろう。

華凛
 「ダーリン言う通りだな、キャンプの設営急げ!」

私はそう号令すると、直ぐに後方で待機する補給部隊と合流し、キャンプ地を築くのだった。



***



懐かしき故郷の地とはいえ、ここは敵地、キャンプ地は静かな夜を迎えていた。


 「はぁ」

華凛
 「少しいいか?」

火の番でもしているのか、焚き火の前で座るダーリンの横に私は座った。
ダーリンは一人で何をしていたのだろう?
私は胸を持ち上げると、ダーリンの横顔を見た。


 「なぁ華凛……美柑はここにいるんだよな?」

華凛
 「ああ、その内合流するさ」


 「美柑が合流したら、後は保美香と茜、か」

やっぱり胸中は家族の事で一杯か。
無理もないが、今はどうしようもない。

華凛
 「もう少し待ってほしい、ナツメイトが国を取り戻したら私は全て教える」


 「お前にとっては、ナツメやこの国も大切だもんな」

ダーリンはそう言うと、微笑んで理解を示してくれた。
本当に申し訳ないと思うが、それも事実なんだ。
ダーリンとナツメイト、どちらか選べと言われればダーリンを選ぶと思うが、その二者択一そのものがナンセンスだ。

華凛
 (保美香は恐らく大丈夫だろう……問題は茜だ)

恐らく無事なんだろうが、アーソル帝国が無いということは、あの辺りは未開発の平原地帯だ。
湿地帯のような永久凍土まであり、茜が個人で生き抜くには難しいだろう。
恐らく誰かに助けられたと考えるのが妥当、か。


 「なぁ、ナツメは……あれが神話の乙女なのか?」

華凛
 「だろうな……神話の乙女としても、あれ程は見たことがないが」


 「神様ってのは分からねぇな……あんな女の子に、過ぎたる力を授けて、何を考えてんだ?」

ダーリンはまだ神話の乙女に対して怪訝な表情だった。
いや、恐らく概念的には理解しているだろう。
私自身神話の乙女の正体は知らん。

華凛
 「私は希望なんだと、そう思う」

少なくとも神話の乙女の力は世界を救済する力だと伝えられている。
そして恐らくは正しい、だが……力には善悪等という無粋なベクトルは存在しない。
私が実際悪意のまま、神話の乙女の力を振るったように。
ナギーが、ただ恩返しのために神話の乙女の力を振るったように、力には善悪なんて存在しないんだ。


 「俺には絶望に思える」

華凛
 「え?」


 「俺はナツメを救ってやりたい……アイツ、最近全然笑ってないぞ?」

私は押し黙った。
確かにナツメイトが神話の乙女だとすれば、今のナツメイトが希望を抱いているようには思えない。


 「分不相応の力さえなけりゃ……普通の少女であれたかもしれねぇのに……」

華凛
 「宿命、か」

私は宿命何じゃないかと思えた。
或いは呪いだ……まるで今のナツメイトは呪われている。


 「ち……これじゃ駄目だな、何が伝説のポケモントレーナーなんだか」

伝説のポケモントレーナーと神話の乙女は表裏一体だ。
孤独な神話の乙女は、それだけでは成り立たない。
伴侶とも言える伝説のポケモントレーナーがあって初めて成り立つ。

華凛
 「神話の乙女はきっと片翼の鳥なのだな……一匹では飛ぶ事が出来ず、地上に墜落してしまう……だから伴侶が必要になる」


 「だから同じく片翼の伝説のポケモントレーナーが必要なのか」

ダーリンは空を見上げた。
専門の学者でさえ、神話の乙女や伝説のポケモントレーナーの証明は出来ていない。
一般人にとってはとても有名なお伽噺に過ぎないのだ。


 「ち……なら、無理だろうが無茶だろうがやるしかねぇのか」

ダーリンは立ち上がると、何か決意を決めた。


 「ナツメとちょっと話し合う」

華凛
 「ふむ、まぁここは正妻たる余裕を見せなければな」

ダーリンそう言うと、ナツメイトの休むテントに向かった。
私は火の番をしながら、微笑むのだった。
私はダーリンを信じているから、ナツメイトにもダーリンにも嫉妬しないのだ。
それは私が幸せだという、答えだ。



***




 「ナツメ、ちょっといいか?」

ナツメイト
 「し、茂様!? い、いかがしました!? なにか問題でも!?」

茂はナツメイトの休むテントに入ると、やや気まずそうに頭を掻いた。
だが、決心すると、茂はナツメイトに抱きついた。

ナツメイト
 「〜〜〜!?」

ナツメイトは顔を真っ赤にすると、硬直してしまう。
茂の前では、好きな気持ちが溢れすぎて、ずっと華凛の為に隠していたが、いきなりの事態に爆発しかけていた。


 「ごめんな、ナツメ。 もっと早くこうしていれば」

ナツメイト
 「な、何故謝るのですか? わ、私は別に怒ってなど」


 「違う……神話の乙女ってのは、そこまでナツメを追い込むのか?」

ナツメイト
 「っ!?」

ナツメイトはドキリとした。
茂はナツメイトが神話の乙女なんだと気付かれた。
いや、無理もない……ナツメイトは次第に溢れ出す力コントロールに四苦八苦し、感情のまま振るってしまった。
敵兵の恐怖の感情を直接浴びて、それが神話の乙女なんだなと自分自身で理解した。

ナツメイト
 「け、軽蔑しますか? 卑しい女だと」

ナツメイトは嬉しさと苦しさが綯い交ぜだった。
このまま押し倒して、茂と繋がりたいという欲望が溢れ出る。
しかしそれは華凛に申し訳ない。
ナツメイトは受け入れられる自信さえないのだ。


 「俺は、ナツメを……」

ナツメイト
 (欲しい! 愛して欲しい! 華凛なんかより……っ!?)

その時、ナツメイトは茂を突き飛ばした。


 「うっ!?」

茂は驚いて尻餅をついた。
ナツメイトはワナワナと震えていた。

ナツメイト
 (今、何を考えた? 華凛なんかより? そう思ったの!?)

それは嫉妬か? 憎悪か?
誰よりも愛している筈の女に、ナツメイトはなにかいけない感情を抱いてしまった。


 「痛た……? どうしたんだナツメ?」

ナツメイト
 「出てってください……ここから出て行って!!」

ナツメイトは念動力を放出すると、茂をテントから弾き飛ばした。
茂は驚いて、地面に仰向けに倒れるが、直ぐに起き上がる。


 「ナツメ? どういう事だ!? 事情を説明してくれナツメ!?」

しかしナツメはテントの周りに強力な念動力の結界を張り、茂を近づけなかった。
テントの中で、ナツメイトは肩を両手で抱きながら小さく泣いていた。
茂を好きになればなる程、華凛に向ける感情が黒く染まっていく気がして恐ろしかった。
何故? どれだけ考えても答えは出てこない。
ただ神話の囁きが、奪えと何度もナツメイトをけしかけるのだ。



突ポ娘if #6 完

#7に続く。



KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:15 )