突ポ娘短編作品集 - 短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #5

第三章 二人の神話の乙女編



ニア
 「お兄ちゃんそこどいて! そいつ殺せない!」

ナツメイト
 「貴方こそ、茂様にベタベタと!?」

ナギー
 「は、はわわ!? 私はどうすれば!?」


 「はぁ……誰か助けて」

マイダーリンこと、常葉茂を救出した私達は、突然止まった時が動き出すように忙しさを増していった。
元親衛隊隊長のピジョットのナギーは、処刑寸前で茂さんとナツメイトに救われ、ゾロアのニアはどこからか茂さんが拾ってきた。
私は苦笑するしかなかった。

華凛
 (戦っている敵も……状況もなにもかも違うのに、まるで既定路線であるかのように彼女達は揃った)

そう、かつて私と敵対したナツメイト、ナギー、ニア。
何れもこの世界屈指猛者となり、帝国を滅ぼした。
まぁこの世界線に帝国など形もないのだが。

華凛
 「そこまでだ、ダーリンを困らせるなら、私が容赦せん」

私はそう言うと対立するナツメイトとニアに割って入った。
私が睨みを聞かせ、プレッシャーを放つとニアは身震いして、尻尾を震わせた。

ニア
 「に〜……ごめん」

ナツメイト
 「わ、私も少し言い過ぎましたわ」


 「はぁ、助かったよ、カリン」

華凛
 「ふふ、これが良い女の条件だからな♪」

亜熱帯に近い気候の南部の暮らしは私には少し辛かった。
ホウツフェインートウジョウ連王国は中部だけには飽き足らず、南部までも支配下に置こうと進軍し、いまや南部の北半分は連王国の制圧下だと言える。
私達は峡谷の秘境に拠点を構え、反抗作戦の準備を進めていた。
物資も無く、決して生活は楽にはならない。
それでも私は幸せだった。
愛するダーリンがいるんだから、こんなものヘッチャラだった。

ナツメイト
 「うふふ、そうだ茂様、ここから少し行った場所に素敵な所があるんですよ? 一緒に行きません?」

ニア
 「ナツメイト、ズルい!」


 「はぁ、分かった分かった、じゃあニアもな?」

ナツメイト
 「なんですって!? ぐぬぬ……! でもここは妥協するしか!」

それにしてもナツメイトもダーリンと出会ってから本当に生き生きとしていた。
恋に恋する女の子は、好きになってしまった男性に対してどこまでも情熱的に変えた。
少々悪ノリして、ヤンデレ気味なのが問題だが。

ナツメイト
 「コホン! それでは行きましょう!」

ナツメイトはそう言うと、テレポートした。
律儀にニアまで消えており、ああいう所でズルしようとはしないのがナツメイトらしいな。

ナギー
 「はぁ、姫様はすごいな」

華凛
 「どうした? ナギーも行きたかったのか?」

私は胸を持ち上げ、余裕の笑みを浮かべると、ナギーは苦笑いしていた。

ナギー
 「はは、子供の邪魔は出来ないさ」

華凛
 「そうは言っても私はもうすぐ19、ナツメイトは18だがな?」

この世界で18歳はもう大人だ。
私とナツメイトは同年生まれだが、私の方が早生まれのため、来月には19歳になる。
まぁ、23歳のナギーに比べたら、若輩なのは事実だが。

ナギー
 「そうだな……ナツメイト様も、やはりもう結婚を控える年齢だからな」

ナギーはそう言うと剣を抜いた。
ナギーは反逆者として拷問を受けたため、救出した時には衰弱しておりボロボロだった。
だが治療の甲斐もあり、今では剣を握れる位には快復している。

華凛
 「お前は結婚願望はないのか?」

ナギーはその場で素振りを開始すると、苦笑しながら言った。

ナギー
 「親父と大喧嘩の末、家を飛び出して剣に生きた女だぞ? 今更女の願望を口にする気はないさ!」

ビュオン!

ナギーの鋭い剣閃が空気を切り裂く。
中々の腕前だ、少なくとも二流じゃない。

華凛
 「ふ、剣の仮面か」

ナギー
 「なに? それはどういう?」

私は太刀に手を掛ける、そしてそれをその場に放った。

ナギー
 「? 華凛殿、なにを?」

華凛
 「少し付き合え、なに手加減してやる」

私はそう言うと、胸元から竹串を取り出した。
私は竹串を剣に見立て、ナギーに向ける。

ナギー
 「な? 竹串でやるというのか!?」

華凛
 「くくく、不満か? なら私から一本取ってみろ」

チャンバラはある意味なんでもありだ。
ナギーは憤慨するような顔だったが、私はあくまでナギーをおちょくる。

ナギー
 「怪我しても、知らないぞ!?」

ナギーはそう言うと、素早く踏み込み剣を振るう。
私は軽やかに回避した。

ナギー
 「ち! 速い!」

華凛
 「ふふ、病み上がりがよくやる♪」

私は艶やかに笑った。
だが、ナギーは真剣な顔で、愚直に剣を振るうだけだった。

華凛
 「どうした? その程度か?」

ナギー
 「くそ!?」

ナギーの実力は間違いなくある。
だが、何故ここまで私達には隔たりがある?
純粋な修練の差? それとも私が神話の乙女だからか?

華凛
 (違うな、お前も神話の乙女だろう?)

ナギーは技術に関しては達人だ。
しかし刹那の見切りを持つ私からすれば、それは回避できて当然の技術でしかない。

ナギー
 「華凛殿こそ! 逃げてばかりで!」

華凛
 「逃げている? 甘く見積もられたな!?」

私は竹串に闇を纏わせた。
悪のエネルギーをエンハンスさせ、私は神速の踏み込みで竹串を振るう!

ブオン!

私の一撃はナギーの前髪を跳ね上げた。
僅かに当たらない間合いで放った辻斬りは、しかし慢心するナギーを止めるには充分だった。

ナギー
 「……あ」

華凛
 「忘れるな? 私はアブソルだ、竹串であろうと、貴様を輪切りに出来るのだぞ?」

私はそう言うと、竹串を手の中でもて遊ぶ。
ナギーは戦意喪失のまま、愕然とした。

ナギー
 「なぜ、カリン殿はそうまで強いのです?」

華凛
 「お前もポケモンなら、己を否定するな……そうすれば強くなれる」

ナギーは私に比べて実戦経験も少ない。
まして今はハンデキャップさえある。

ナギー
 「私を否定?」

ナギーとてピジョット、使える技はエアスラッシュに暴風とある。
ナギーは特に暴風を使えば、どんなポケモンよりも優れていた。
それら自らの力を否定するなら、一生私には届かん。

華凛
 「私はな? 自分の人生に悔いはない。剣の道を極めたのも、言ってみれば片手間だ、だから私はダーリンとイチャイチャするのさ♪」

ナギー
 「なっ!? はぁ……華凛殿はそういう方だからな」

華凛
 「お前こそ剣を言い訳にするな、騎士である前に女だろう?」

私は何故恋敵に塩を贈っているのだろうな。
自分でもよく分からない、ただ今のままでは張り合いがないと想っているのだろうか。

ナギー
 「私の力、か……」

ナギーは自分の手を見た。
恐らく剣士の矜持が邪魔しているのだろう。
だが、勝てなければ意味はない。
護りたいものも護れないなら、そんなプライド邪魔なだけだ。

華凛
 (強くなって初めて傲慢になれる……そうだろ、カゲツ?)

やがて、拠点は夕闇を迎え始めていた。
ナツメイト達、少し遅いな?

華凛
 「……まさかと思うが、今頃3Pでお楽しみでは!?」

ナギー
 「なっ!? 野外で!?」

ナツメイト
 「そ、そんな破廉恥なことするわけ無いでしょうー!?」

突然、真後ろにナツメイト様一行が瞬間移動してきた。
私は振り向く間もなく、ポカンと顔を真っ赤にしたナツメイトに頭を叩かれた。

ニア
 「にー、お兄ちゃんと子作り?」


 「ニア、子供がそういう事言っちゃいけません」

私は振り返ると、顔を真っ赤にしたナツメイトに、初心な反応するダーリンとニアだった。
エロに耐性の無いナツメイトには、やはりそんな勇気は無かったか。

華凛
 「お帰り」

ナツメイト
 「はぁ、只今帰りました」

ニア
 「おっきな滝、綺麗だったね」


 「ああ、行楽なら中々悪くない景勝地だったな」

ナツメイト
 「そ、そうでしょう!? アッハッハ!」

華凛
 (ふん、無理してからに)

私はナツメイトを見て苦笑した。
本当は二人っきりで、一杯甘えたかったに違いない。
姉妹のように育った私達は互いのことは丸わかりだった。

兵士
 「カリン殿! 使者が来ております!」

華凛
 「む? 誰だ?」

突然、拠点の入り口を護っていた筈の門番がやってきた。
私は一応この組織のナンバー2だから、雑務は私の担当だった。

兵士
 「解放軍同盟のエーリアス殿です!」

華凛
 「! 中に入れろ」

兵士
 「は! 畏まりました!」

兵士はそう言うと入り口に向かった。
私はまさかの名前に戦慄する。
あの戦争において屈指のタカ派と呼ばれた男がいる。
オオタチのエーリアス、奴がいるのか?



***



エーリアス
 「始めまして皆さん、私は解放軍を纏めるオオタチのエーリアスと申します」

エーリアスは長身痩躯の男だった。
これと言って目立つ存在ではない、あらゆるパーツがある種奇妙な程に平凡で、小さな丸メガネを付けた優男だった。

ナツメイト
 「代表のナツメイトですわ」

華凛
 「ナツメイト様の補佐、華凛だ」

エーリアスはにこやかに笑顔を浮かべると、握手を求めてきた。
私達は握手すると、エーリアスは私をじっくり観察するように見た。

エーリアス
 「貴方が噂の神話の乙女?」

華凛
 「それが?」

私はやや、高圧的にエーリアスを睨んだ。
エーリアスの魂胆は想像がつく。
どうせ、神話の乙女を盾に大義名分を得るつもりだろう。

エーリアス
 「ふむ? まぁいいでしょう……それよりも皆さんお気づきかと思いますが、日増しに連王国の侵攻は厳しさを増しています。しかしその裏で中部を追われた者や、反感を持つ南部の者など、その反抗の意思は高まってきました」

ナツメイト
 「フラン姉様……どうして?」

華凛
 「……」

フランは野心に取り憑かれている。
中部だけで満足すれば良い物を、なまじ欲があるから、未開の南部にまで手を出した。
それが余計な反感を買うだけだというのに、だ。
正直フランの考えは私には分からない。
私の知っている歴史ではフランはアーソル帝国の侵攻で死んでいる筈だからな。

華凛
 「エーリアス、トウジョウ国はどうなのだ?」

ナツメイト
 「トウジョウ王国……たしかカトリーヌお姉様が嫁いだ?」

エーリアス
 「トウジョウ国はスレン王の独裁政権と化している、カトリーヌ女王には実権はないようですよ?」

華凛
 「つまり体の良い、人質か」

ナツメイト
 「カトリーヌお姉様、無事ならいいのだけど」

ナツメイトも甘いというか、優しいやつだな。
フランには反逆者にされ、今やカトリーヌとて敵国の女王なのだ。
なのに家族の情を持ち出して、フランを恨みきれていない。

エーリアス
 「ナツメイト様! ホウツフェイン王国は度重なる軍費の創出で、民も不満を貯めています! 第三王女であるナツメイト様が帰還すれば、必ず民衆は立つでしょう!」

エーリアスはテーブルを叩くとそう言った。
それはそうだろうな、ナツメイトはホウツフェイン王国では人気がある。
どれだけ弾圧し、諌めるイメージ戦略を取ろうと、その記憶が薄れない限り、英雄たるナツメイトは不滅なのだ。
だが……。


 「ちょっと待てよアンタ」

しかし、私がエーリアスに言おうと思った直前、茂さんが厳しい顔でエーリアスを見た。
茂さん、少し怒ってる?


 「お前、ナツメの気持ち、分かるか? なんでコイツがこんな所に隠れ潜んでいるか分かるか?」

ナツメイト
 「茂様……」


 「ナツメは姉達と争ってまで、戦争起こす理由がないんだよ! 王族だから? 英雄だから? そんなつまらない理由で女の子を傷つけるな!?」

華凛
 「クス」

私は本来私が言うべき事を、全部ダーリンに言われて、笑ってしまった。
ナツメイトは権力になんて固執していない。
ただ、女の子でいたいのだ。

華凛
 (流石ダーリン♪)

エーリアス
 「……ふむ、今は私が悪党ですね」

エーリアスは丸ネガネを掛け直すとそう言った。
大して動じていないのか、図太くもエーリアスは平静だった。

エーリアス
 「2週間後、連王国が南部侵攻の拠点にしているナル・ミオンデ要塞を攻略します……今日はここまでとしましょう」

エーリアスはそう言うと席から立ち上がった。
そのままエーリアスは出口を目指す。
が、出口の前で足を止めると振り返った。

エーリアス
 「そこの死んだ魚の眼のお方、貴方が伝説のポケモントレーナー?」


 「さぁな? そんなの俺にはわからん」

エーリアスは茂さんに興味持ったのか、にこやかに笑った。
そして出ていくと、その場には静けさが戻る。

ナツメイト
 「その、ありがとうございます茂様」


 「……気にすんな、ナツメイトの顔を見てたら、俺の方がカチンときただけだ」

華凛
 「ナツメイトは本当に優しい子だ、特に戦争の理由が骨肉の争いではな」

ナツメイトは王位継承の頃から、自分は第三王女だから資格がないと憚らなかった。
民衆や兵士達の想いとは裏腹にナツメイトは英雄なんかじゃない。
ただ絵物語が好きな、普通の少女だった。

ナギー
 「とはいえ、戦端は開かれるぞ? エーリアスの言が正しければ、な」

ニア
 「にー、中部の奴ら嫌い、我が物顔で南部を踏み潰して!」

ナツメイト
 「……私、軍神なんて言われて来たけど、本当は戦争が嫌い、誰かが傷つくのが嫌い……それでも、私は誰かが悲しむのなら、私は自らの宿命をやっぱり否定できない……」

ナツメイトは震えていた。
今、宿命と言ったのだ。

華凛
 「ナツメイト、お前?」

ナツメイト
 「私、ナル・ミオンデ要塞攻略戦に参加するわ……。けど、それに皆は巻き込めない、嫌な人は降りて」

そう、か……ナツメイトは宿命に従うのだな。
ダーリンと駆け落ちするように、逃げることだって出来たはずなのに。

ナギー
 「私はホウツフェイン人です、同胞が苦しんでいるなら、黙ってはいられません」

ニア
 「私は元から南部のポケモン、追い出せるなら歓迎する」

華凛
 「私はナツメイト様に従うさ♪」

私達はナツメイトの決定に異存はなかった。
私自身、別に恨みがあるわけでもない。
だが、第2人生位、恨みや怨念じゃなく、希望で戦いたいのだ。

華凛
 「後はダーリンだけだが?」


 「……はぁ、ここで俺だけ降りれんだろ? 俺一人じゃ家族も探せんのだから」

ナツメイト
 「茂様……ごめんなさい」

もう何を言っても仕方がない。
それは茂さんにも分かっていた。
元々この組織はナツメイトこそが女王だと信じて集まった組織、ナル・ミオンデ要塞攻略には賛成のものばかりだった。
いよいよ、反撃の時は来たんだな。



***



深夜、それぞれが充てがわれたテントがある。
常葉茂のテントの前、そこにはナツメイトがいた。

ナツメイト
 「……っ」

ナツメイトは茂に用があるのか?
ただ、テントの前で足を止めると、胸に手を当て、震えていた。
そのまま覚悟を決めると、ナツメイトはテントの中に入っていく。


 「……」

ナツメイト
 (私の王子様……茂様、私は茂様を愛しています)

ナツメイトはゆっくりと屈み込むと、ぐっすりと眠る茂を見た。
茂はナツメイトの夢見た王子様とは、決して想像したものとは違った。
絵物語に出てくる王子様みたいに格好良い訳じゃない。
年齢もずっと上で、目つきも怖くて、ちょっとぶっきらぼう。
でも、全部私のイメージする王子様でなくても、絵物語に登場するヒーローとは違っても、ナツメイトが見た事もない魅力のある人物だった。

ナツメイト
 「私の大好きな人……私達が愛した人」

そう……ニアも、隠しているがナギーも、茂に好意を寄せている。
そして……ナツメイトにとって姉妹のように仲良く愛した人も。

ナツメイト
 「もし……二人存在するならば、二人目はどうなる……?」

それは怯えだった。
ナツメイトには今、華凛が只管にちらついた。
世界は神話の乙女を求めている、乱れた乱世を救済するために神話の乙女は宿命に準じなければならない。
そう、華凛は全てを救うだろう……茂様さえも。



***



翌日、朝早く私はダーリンに会っていた。
そろそろダーリンにも伝えないといけないからな。

華凛
 「ダーリン、少し話がある」


 「嫌に真面目だな?」

華凛
 「真面目にするさ、家族の事だからな」

私がそう言うと、茂さんは顔色を変えた。
運命は動き出した……驚くべきほど正確に、茂さんはその道をなぞり始めた。
ならば、私は茂さんに嘘はつけない。

華凛
 「茜も、保美香も、美柑も、伊吹も皆この世界にいる」


 「どうしてお前が皆の事を!?」

華凛
 「私は少し特別なんだ、ダーリンはもうすぐ伊吹と合流する、続きはその後にしよう」



***



それは茂さんの目線で見れば、ただ敵が変わっただけだ。
伊吹が降り立ったスロカ村は、中部からやってきた新たな支配者に重い重税を掛けられ苦しめられていた。
ただ帝国から、連王国に変わっただけ、それは同じだった。

エーリアス
 「ナツメイト様! 来てくださったんですね!?」

ナツメイト
 「はい……微力ながらお力を貸しましょう」

ナル・ミオンデ要塞攻略戦、当日。
私達は解放軍陣地を訪れていた。
今や解放軍は大きく兵力を膨れ上がらせていた。

華凛
 「エーリアス、お前は何故解放軍側を選んだ?」

エーリアス
 「何故? おかしな事を、私とて義憤を持っているのですよ?」

私はエーリアスは中部のポケモンだと踏んでいる。
エーリアスは有能だが、大きな被害を出すことでも有名な解放軍切ってのタカ派の猛将。
ただの戦闘狂か……しかしエーリアスの心の奥は私にも読み取れない。

エーリアス
 「えーと、スロカ村の隕石群を呼んだのは?」

伊吹
 「あ、それ私で〜す♪」

そうやって手を上げたのはヌメルゴンのほんわかお姉さん伊吹だった。
私は胸を持ち上げると最前線に赴く。
後は歴史が証明しているからな。



***



ズドォォォン!!

オペレーション・ミリオラ。
強大で堅牢なナル・ミオンデ要塞の攻略戦は始まった。
陽が強く大地を照らす中、凶悪な威力を誇る伊吹の流星群がナル・ミオンデ要塞の城壁の一角を突き崩した。

兵士達は雄叫びを上げて、要塞に駆け込んだ。
要塞側は大混乱に陥っている。
その間に電撃戦を仕掛けるのだ。

連王国兵士A
 「あの旗を見ろ! あれは第三王女の!?」

連王国兵士B
 「ナツメイト様!? 遂に立ち上がったというのか!?」



ナツメイトは馬の乗って駆けた、その後ろには茂を乗せて。

ナツメイト
 「茂様、お力をお貸しください……!」


 「俺になにが出来るのか、分からんけどな」

茂はナツメイトに優しく触れた。
するとナツメイトは強力な念動力を放ち、飛び交う矢を全てを止めてみせた。

ナツメイト
 「はぁ!」

ナツメイトはサイコキネシスを振るうと、弩も大砲も意味を成さない。
圧倒的力の差を見せつけた。

華凛
 (気の性か……? ナツメイトの力が強くなっている?)

私はナツメイトを護衛するように、少し後ろから追いかけたが、その心配は必要そうもなかった。
とりあえずナツメイトは問題ない。
ならば、私は先行して露払いに徹しよう。

華凛
 「ナツメイト様、先行します!」

ナツメイト
 「お願いする!」

私は馬を全力で走らせると、鞍上から一気に飛び上がった。

華凛
 「辻斬り、二の式船斬り!」

ズドォン!!


神話の乙女の力によりブーストさせた力は、要塞の表面に放たれた神の息吹だった。
敵兵は蹴散らされ、建物は崩れていく。
全力で放った自分の力は、要塞でさえ抑えられるものではない。
私は要塞上に着地すると、周囲を見た。

華凛
 「む? 様子がおかしいな?」

私は周囲を伺うと異変に気がついた。
敵の抵抗が殆どないのだ、いや内乱が起きたか?

連合軍兵士
 「カリン殿ー!」

華凛
 「む!?」

私は大刀を構える。
しかし相手は交戦の意志はなかった。

連合軍兵士
 「私はナツメイト様の指揮下でかつて戦ったものです!」

華凛
 「ほう? それで何の用だ?」

連合軍兵士
 「加勢いたします!」

それは、反乱だった。
ホウツフェイン系の兵士達が反乱を起こしていた。
第三王女の威光は反逆者となって2年経ったが、翳った様子はない。
むしろフランの政治に不満を持つ者たちだった。

連合軍兵士
 「ナツメイト様バンザーイ!」

華凛
 「……ふ、まさかな」

改めて、ナツメイトがした事は無駄ではなかったのだ。
要塞内は、トウジョウ派とホウツフェイン派、そしてナツメイト派で三分された結果、満足な指揮系統も得られず、解放軍がなだれ込む事となった。
そのままナツメイトは中枢へと侵入し、ついに南部方面軍司令官を倒したのだ。



ナツメイト
 「停戦命令を発令! ナツメイトが取った!」



***




 「……はぁ」

華凛
 「お疲れ様、ダーリン♪」

夕日に染まるナル・ミオンデ要塞。
あくまでもフラン派や、トウジョウ軍はナル・ミオンデ要塞から撤退し、要塞は解放軍が完全に占拠。
殊の外ナツメイト派は多く、いやナツメイト派だったからこそ、南部に左遷されたのだろう。
茜色に染まった要塞の上で、私は黄昏れる茂さんに声を掛けた。


 「華凛……お前すげぇよな」

華凛
 「なにがだい?」

私はにこやかに笑うが、茂さんは疲れた顔だった。
だが単純に疲労だけじゃない、やっぱり戦争に疲れていた。


 「俺には戦争とはいえ、殺し合いはやっぱ無理かもしれない」

華凛
 「それでいい、戦争屋になって、その手を血に汚して何を得られる? 茂さんは真っ直ぐ行くんだ」

私はそう言うと茂さんに肩を寄せた。
最初の頃はあんまりベタベタすると、はっきり拒絶感を見せていた茂さんだが、最近はこれ位なら許してくれるようになった。
茂さんはお父さんだから、厳格で、そして心配性だ。


 「カリン……お前は初めから、何を知っていたんだ?」

華凛
 「今は全ては話せない……ただ安心して、私はダーリンを絶対に護るから♪」

私の知っている1周目の記憶。
それは茂さんには有益すぎて、どんな歴史改変を招くか分からないのだ。
私はダーリンが好きだ、愛するって気持ちなら茜や保美香にだって負けてないと思っている。
だからこそ、嫌われれば……それだけ私にはきっと堪えられないのだ。

華凛
 「次は美柑だ、美柑は中部にいる……恐らくホウツフェイン領内でフラン派と対立している筈だ」


 「っ!? 美柑は無事なのか?」

華凛
 「ふ、私よりダーリンの方が分かるんじゃないか?」

美柑をどうにか出来るポケモンなんてそういるもんじゃない。
だからこそ信頼していい、美柑は必ず無事ダーリンと合流する。



***



フラン
 「なんですって?」

親衛隊
 「ナツメイト様が蜂起しました!」

フラン
 (そう……あの子が)

ホウツフェイン王国王宮には、フランがいた。
その身なりは女王となり、豪奢になったが、本質は2年経っても変わった様子はない。
だが、フランの内心を理解できるものはこの王宮にいるだろうか?
フランは中部を統一した偉大な女王となった。
だが、ついにあの妹が蜂起したのだ。

フラン
 「天罰……かしらね」

親衛隊
 「は?」

フランは微笑した。
虚偽により奪った女王の座、今も国内にはナツメイトを支持する者はいる。
それが英雄というものであるのだから。

フラン
 (だけど……むざむざやられる気はない! ナツメイト、私はもう……退けないのよ!)



突ポ娘if #5 完

#6に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:15 )