突ポ娘短編作品集


小説トップ
短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #4

ホウエン王
 「ふむ、ナツメイトが、か」

ツキ
 「は! 痛快でしたぞ! 3倍の戦力を覆す所など特に!」

グラート
 「兵士の受けも良いですな、ナツメイト様の指揮下になれば、安心だとも」

四国合同軍事演習はホウツフェイン城にも、その情報は逐一報告されていた。
ナツメイトの活躍を子供の時代から、お世話してきたツキは特に喜び笑っていた。
全軍を指揮する総司令のグラートも喜ばしいという感じだった。

ホウエン王
 「やはりナツメイトが相応しいのか?」

グラート
 「それで良いかと、国防において、ナツメイト様なら決して不利にはなりますまい」

ツキ
 「フラン姫様も、これで納得してくれれば良いのですが」

唯一の懸念、それはフラン王女だった。
プライドが高く、そしてずっと健気に結果を出してきた王女は誰よりも向上心があった。

グラート
 「フラン王女も軍事の才能は素晴らしい、やはり将軍になっていただくのが的確でしょう、ゆくゆくは我が後継にも」

ホウエン王
 「うむ、軍の最高司令ならば、フランも納得するか」

ツキ
 「あとはカトリーヌ様ですな、やはりカトリーヌ様にはお見合いをしていただく時期かと」

ホウエン王
 「政略結婚は出来ればさせたくないのだがな……」

老人達がある程度心を決める時、一方で王女達は……?



***



フラン
 (このままじゃまずい……私は女王になれない!)

フランは唇を噛んだ。
演習最終日、部隊を撤収させる時、フランの心境はどん底であった。
悔しいが、ホウエン王が何よりも求める武において、ナツメイトがフランを上回った。
それこそ決定的、と言える程の結果なのだ。


 「……このままじゃ、済まないんじゃない?」

フランはこの時期にある人物と会っていた。
いや、初めから繋がっていた。
演習が始まるよりも前に、フランはこの男と知り合っていた。

フラン
 「何の用よ、スレン?」

黒いローブに身を包んでいたのは、トウジョウ王国の王子スレンだった。
スレン王子は妖しく笑うと、フランは腕を組んで苛立つ。
この密会はもう何度目だろうか?
フランも数は覚えていない、だが二人には野望があった。

スレン
 「君が女王になれば、僕は君を支援する、僕はトウジョウの国王になるからね? そして僕達は中央の悲願を果たす」

フラン
 「中部統一……千年の悲願、ね」

スレン
 「君が女王になる為なら、僕は協力を惜しまないよ?」

フラン
 「ち……」

フランは舌打ちした。
出来るなら、実力で勝ち取れれば良かったのに……その策を弄する事に舌打ちしたのだ。



***



ガタンガタン!

日が沈み、暗くなる中、馬車は進む。
馬車にはナツメイトと華凛、私が乗っていた。

ナツメイト
 「運が無いわねぇ」

運が無い……とは、馬車の車輪に不備があったのだ。
お陰で帰還する本隊から遅れてしまった。
もう日も沈み、本来なら野宿するべきなのだが、なるべく急いで合流しようとしたのだ。

華凛
 「仕方ないさ、そういう事もある」

私は胸を持ち上げると、そう言った。
私は夜は嫌いではない、夜酒は私にとっては定番だったしな。

ナツメイト
 「……あら? なにか変じゃ……え?」

突然、馬車が止まった。

華凛
 「どうした、運転手?」

運転手
 「ナ、ナツメイト様……っ!?」

馬の手綱を握る運転手の男は振り返った。
しかし胸に短刀が刺さっていた。

ナツメイト
 「ひ!?」

華凛
 「ナツメイト! 剣を抜いておけ!」

私はそう言うと、馬車から飛び出した。
林道で止まった馬車、運転手は既に死に、ぐったりしている。
私は夜の闇の中から気配を探った。

華凛
 「辻斬り、二の式! 船斬り!」

私は飛ぶ闇の斬撃を放った。
私の斬撃は誰かを切り裂く、闇からは呻き声が上がった。

暗殺者
 「……!」

華凛
 「ち、ぞろぞろと……!」

それは暗殺者だった。
闇の中からぞろぞろと顔の見えない暗殺者達が馬車を取り囲んだ。

華凛
 「目的はナツメイトか? 安く見られたものだな!」

月が地上を照らした。
相手の姿がはっきりとする。
全身を布で多い、種族を悟らせない暗殺者達は剣を抜き、一斉に襲いかかる!

華凛
 「は!」

私は射程距離ギリギリの暗殺者を一人斬る。
そして舞うように、暗殺者に襲いかかった。

ナツメイト
 「く、くう……! わ、私だって……!」

ナツメイトは馬車の中から出てくると、エストックを構えた。
アイツは私の一番弟子、この程度には遅れはとらんだろう。

華凛
 「一人残せ、吐かせる!」

私はナツメイトにそう言うと、暗殺者に斬りかかった。
暗殺者は咄嗟に剣で防ごうとするが、私は剣ごと斬り伏せた。

暗殺者
 「つ、強過ぎる……!?」

華凛
 「違うな、お前達が弱いのだ」

ナツメイトも暗殺者と打ち合いながら、きっちり討ち取っている。
そろそろ、生け捕りする必要があるか。

華凛
 「貴様ら誰の差し金だ?」

暗殺者
 「任務失敗か……」

暗殺者達が止まった。
半数は仕留めたが、彼我戦力差を理解したようだな。

華凛
 「素直にゲロすれば命まではとらん、どうする?」

暗殺者
 「言う訳にはいかぬ、ならばこうするまで!」

暗殺者達は剣を自分に向けると、突き刺した。
私は目を見開く、ナツメイトも悲鳴を上げた。

華凛
 「見事……だな」

ナツメイト
 「そ、そんな……自殺するなんて」

華凛
 「ち……急ぎましょう姫様!」

私は直ぐに馬の上に乗ると、死んだ運転手に代わって馬車を走らせる。
ナツメイトはドサリと荷台に倒れると、未だショックを受けていた。

ナツメイト
 「どうしてなの……どうして?」

華凛
 「姫様を殺したい、それもわざわざホウツフェイン領で、となると選択肢は多くないですよ」

ナツメイト
 「華凛は分かるの?」

華凛
 「確証は取れませんがね!」

私は薄々理解はしていた。
ナツメイトに不慮の事故にあって欲しい人物なんてそう多くはない。
ナツメイトは恨みを買うような性格はしていないし優しく、誰からも慕われるのだ。
それさえも快くないのならば、自ずと選択肢はそう多くないのだ。

華凛
 (フラン王女……あなた、いや……貴様なのか!?)



***



時を同じくして、それは始まっていた。

ホウエン王
 「うぐ!?」

ホウエン王は深夜ベッドで、苦しみ出した。
フラン派がホウエン王の食事に遅効性の毒を盛ったのだ。
そして、フランの工作は続いた。

そう、華凛の思いも、全ては遅すぎた……。



***



ナツメイト
 「はぁ、はぁ! 只今帰還しました!」

暗殺者に襲撃され、急いで戻ったナツメイトは走って王宮へと向かった。
王宮には国の重要人物が集まっていた。
そう、その情報はナツメイトにも届いていたのだから。

ナツメイト
 「お、お父様は?」

カトリーヌ
 「もういないわ……食中毒で……」

フラン
 (工作は成功したみたいね……カルテの偽造まで……もう後には退けない……!)

フランはスレンの手引きで、ホウエン王を毒殺した。
そして医者を買収し、死亡原因さえ偽装したのだ。
今、そこに三人の王女、そしてツキとグラートがいた。

ツキ
 「偉大なるホウエン王は亡くなりました……しかし、我々は泣いている暇はありません、今よりホウエン王が姫様達に残した遺書を読みます」

ナツメイト
 「遺書? そんな事より、お父様に会わせて!」

グラート
 「お気持ちは分かりますが、葬儀は後日……今はお聞きください」

ツキ
 「ホウエン王は時期女王を決める……時期女王は、フラン」

フラン
 「……ふ!」

フランはその時ほど、心胆を冷やした事はなかったろう。
遺書の捏造さえ行い、フランは女王の座を勝ち取ったのだ。

フラン
 「お聞きになりまして!? 本日よりホウツフェイン王国の新たなる統治者はこの私ですわ!」

グラート
 「は! 女王陛下……!」

ツキ
 「ッ……忠誠をここに示しましょう」

グラート、ツキ両名はフランの前で片膝を折り、頭を垂れた。
この一件には不可解な点が多い、しかし矛盾に対する解答はないのだ。
何よりも、統治者を失ったホウツフェインは早急に新女王を決めなければならなかった。
ホウエン王が死んだとなれば、周辺勢力が勢いづく恐れもあったのだ。

フラン
 「どうしたのナツメイト、カトリーヌお姉様? 私に忠誠を誓えないの?」

カトリーヌ
 「っ、……いえ、忠誠を誓います」

ナツメイト
 「わた、しは……」

ナツメイトは逡巡した。
華凛にフランはナツメイトに対して暗殺者を仕向けた可能性を聞いていたのだ。
フランはそればかりか、ホウエン王さえ謀殺した可能性があるのだ。
しかし、その迷った様子を見たフランは首を振った。

フラン
 「どうやら、不服のようね?」

ナツメイト
 「だ、だって! 怪しすぎます!」

フラン
 「やれやれ……大人しく頭を垂れれば、軍の最高司令官に推してあげようと思っていたのに……親衛隊、今すぐここへ!」

フランは高圧的にナツメイトを睨んだ。
親衛隊は直ぐにその場に駆けつける。

ナギー
 「は! 如何しました姫様!?」

フラン
 「生憎もう女王よ、それよりその反逆者を捕らえなさい!」

ナギー
 「は?」

カトリーヌ
 「!?」

ツキ
 「な!?」

周囲が騒然とした。
ナツメイトだって信じられなかった。
フランは強く、ナツメイトを睨みつけた。
ナツメイトはよろよろと、後ろにふらついた。

フラン
 「ナツメイトは女王である私に忠誠を誓わない、ならば立派な反逆罪よ?」

ナギー
 「しかし……ナツメイト様はフラン様の妹君では?」

フラン
 「はぁ? アンタ馬鹿? 親衛隊が忠誠を誓うはだぁれ?」

ナギー
 「そ、それは勿論陛下です!」

フランはその言葉にニコリと笑った。
そう、親衛隊は王を護るもの。
つまり、現時点で親衛隊は新たな女王に忠誠を誓わなければならないのだ。

フラン
 「なら言うこと聞きなさい! 王族の反乱分子なんて、さっさと処分するのよ!」

ナギー
 「く!? ご容赦を……!」

ナツメイト
 「そ、そんな……!?」

しかし、それを良しとしない者はいた。
一瞬王宮に風が吹くと、ナツメイト前には華凛がいた。

華凛
 「悪いが……私が忠誠を誓うのはナツメイト様だけだ」

ナツメイト
 「か、華凛!? どうして!?」

華凛は刀の柄に手を掛けるとフランを見た。
ナギーは足を止め、警戒する。

フラン
 「出たわね疫病神……! アンタさえいなきゃその子も長生きできたでしょうに!」

華凛
 「そうだな……私の功罪だ、しかし一つ間違いを訂正する、ナツメイトはまだ死なぬよ!」

華凛はナツメイトの手を取ると、走り出した。
今は王宮を抜けるべきだ。

フラン
 「追え! 絶対に逃がすな!?」

ナギー
 「くう!? カリン殿!」

華凛
 「ナギー! 貴様は敵か!?」

ナギー
 「っ!?」

華凛
 「本当の敵は誰だ? 迷いながら戦う気なら、私は斬る!」

ナツメイト
 「な、ナギー……」

ナギー
 「わ、私は……!」

ナギーは剣を落とした。
果たしてフランに従う事が正しいのか?
ナツメイトこそが、女王だと信じたナギーにとって、これは悪夢だった。

華凛
 「ふん、物の道理は分かるようだな?」

ナギー
 「くそ!? 姫様! こっちです!」

ナギーは頭を振り、自分の頬を叩くと、誘導を始めた。

ナギー
 「姫様を捕縛しろなどやはり聞けません!」

ナツメイト
 「ナギー、ありがとう……ありがとう!」

華凛
 (ふ、ナツメイトのカリスマはまだ死んではいない)

三人はそのまま王宮を抜ける。
多数の追撃を躱し、反逆者の汚名を着てでも生き残る道を選んだ。



ツキ
 (姫様、どうかご無事で……!)

フラン
 「ふん! グラート、手配書を用意しなさい!」

グラート
 「……畏まりました」

フラン
 「カトリーヌ姉様、貴方にも身の上を決めて頂きます、トウジョウ王国に嫁いで貰いますわよ?」

カトリーヌ
 「初めからその覚悟は出来ていた……従うわ」

ホウエン王は崩御した。
混乱の中、新体制になったホウツフェイン王国は、一人の女王と反逆者を生み出した。
カトリーヌをスレン王子に嫁がせ、ホウツフェイン王国とトウジョウ王国は兄弟国となる。
やがて、新たにトウジョウ王国の新たなる王となるスレン王は、フラン女王と共に、中部統一を宣言。

それはホウエン王の崩御から怒涛の勢いで始まったかのようだった。
抵抗するイッシュウ連邦国、トンカー王国だったがホウツフェイントウジョウ連合軍の前に平伏し、中部統一は果たされる。
その一方で、反逆者にされたナツメイトはひたすら南下し、逃亡する。
ナツメイトは幸運にも、フランの新体制を受け入れず、ナツメイト派に回った者達もおり、南部に身を隠す事になった。
しかし、フランとスレンの野望はナツメイトに安寧を授けてくれはしなかった。
それはナツメイトの存在を危惧したのか、それとも中部統一の野望では飽きたらなかったのか……。

あの悪夢の事件……あれから2年が経過しようとしていた。



***



ガサガサ!

華凛
 「ち……!」

南部の森林地帯、私は少数の護衛と共にナツメイトの護衛をしていた。
後ろを見れば、けたたましい声が聞こえる。
ナツメイトに差し向けられた討伐隊が迫っているのだ。

ナツメイト
 「はぁ、はぁ! 護衛は!?」

華凛
 「振り返るな! 奴らの犠牲を無駄にするのか!?」

兵士
 「見つけたぞー!? 回り込め!」

華凛
 「……ちぃ!」

私は足を止めた。
追撃を振り切ろうとしたが、多数に無勢、周囲を取り囲まれた。

ナツメイト
 「戦うの?」

華凛
 「でなければ生き残れん」

ナツメイト
 「私は……もう放っておいてくれたら、それでいいのに」

ナツメイトは力なくそう言った。
しかし敵はそれで納得しないのだ。
ナツメイトという存在そのものが、討伐隊を呼び寄せる。
とある同盟組織との会合の後、この追撃隊と遭遇したのは最悪だった。
私は覚悟を決め、柄に手を翳す。
だが……その時、光の差さない深い森に異変は起きた。

華凛
 「光……?」

それは茜色の光だった。
私達の頭上に光が差したのだ。
そして声が聞こえた。

ナツメイト
 「なにかが……くる!?」


 「うおおーっ!?」

ドサァ!

突然、男が一人落ちてきた。
そしてその人は、私の知っている人だった。

華凛
 「う、そ……?」

私は涙した。
藪に顔から突っ込み、直様を顔を上げたのは、死んだ魚の目をした男性だった。
男性は必死な声で叫ぶ。

男性
 「茜! 保美香! 美柑! 伊吹!? 何処だー!?」

ナツメイト
 「と、突然空から……え!?」

私は迷わずその男性の胸に飛び込んだ。

男性
 「ほわー!? ちょ、アンタだぁれ!?」

男性はびっくりして奇声を上げるが、私はその懐かしい温もりに涙した。
やがて、お互いの心拍音を交換して、私はゆっくりと身体を離す。

華凛
 「私は華凛、ダーリンの嫁♪」

男性
 「は?」

ナツメイト
 「え? えええええ!?」

ガサガサ! ガサガサ!

二人が奇声を発すると、追撃隊が追いついた。
男性はそれを見ると、冷静さを取り戻した。

男性
 「な、なんだこれ? 何が起きてんだ?」

華凛
 「少しゴタゴタしててな? なに、本の少しさ」

兵士
 「見つけたぞ! ナツメイトだ! 生かして帰すな!?」

ナツメイト
 「く!?」

ナツメイトはエストックを抜くと、後ろに下がった。
私は太刀を握ると、前に出る。

男性
 「カリンに、ナツメイト?」

華凛
 「ナツメイト、ダーリンを守れ、私がやる」

ナツメイト
 「ちょ、ちょっと待って!? この人と知り合いなの?」

華凛
 「ああ、なんだって知ってるさ……なぜならその人は伝説のポケモントレーナーであり、私は神話の乙女なのだからな!」

遂に揃った、私は自らの力を開放する。
その力の本流を目の前の敵にぶつけた。

華凛
 「これが! 神話の乙女の力だ!」

ズドォン!!

私がその場で刃を振るうと、衝撃波が発生した。

兵士
 「うわあああああ!?」

兵士6人が衝撃波に巻き込まれ、木々は薙ぎ倒され、兵士達は吹き飛んだ。

ナツメイト
 「な……!?」

男性
 「なっ!? 化け物か!?」

華凛
 「化け物? 違うな……私は悪魔さ♪」

なんて、ウィンクしてダーリンにアピールする。
ダーリンは私を見ると照れくさそうに顔を赤くした。

ナツメイト
 「えと、あの立てますか?」

男性
 「あ、ああ……ありがとう、俺は常葉茂」

ナツメイト
 「トキワシゲル? 変わった名前ですね?」

華凛
 (そりゃそうだ、あんな違う世界からやってきたのだから)

思い出すな、茜や凪と一緒に過ごした向こうの世界。
繋がらないかと思っていたが、繋がった。
私は神話の乙女の本分を満たす時が来たようだ。


 「っ! 危ない!」

ナツメイト
 「え?」

その時だ、森の奥から矢が飛び出した。
それはナツメイトを狙っていた。
しかし茂さんは、初対面にも関わらずナツメイトを押し倒した。

ナツメイト
 「きゃあ!?」

ナツメイトは顔を真っ赤にして、黄色い悲鳴を上げた。
矢は二人の頭上を通過する。
私は舌打ちした、弓兵もいたのか。


 「ち、未だ事情が掴めないが……狙われているんだな?」

華凛
 「その方はナツメイト様、ホウツフェイン王国の王女」


 「ホウツフェイン王国? 王女!?」

ナツメイト
 「い、今は反逆者の烙印を押されてますが〜」

ナツメイトは顔を真っ赤にするとモジモジした。
男性免疫の無い奴だから、茂さんに押し倒されてデレデレだな。


 「ち……狙撃されちゃかなわんな……姫さん、サーナイトだろ、超能力でなんとか出来ないのか?」

ナツメイト
 「ちょ、超能力、と言われても……」


 「? サイコキネシスとか、無理か?」

ナツメイト
 「サイコキネシス……っ!? はああ!」

華凛
 (ほう! これが伝説のポケモントレーナーと言われる所以か!?)

ナツメイトは今まで技を使う事が事ができなかった。
人化して長い時が経ち、必要がなくなりポケモンは技を忘れていった。
だが、伝説のポケモントレーナーに触れ合った者は技を思い出すのだ。
ナツメイトはサイコキネシスを思い出した。
ナツメイトから放たれたエメラルドグリーンの念動波が放たれる。
サイコキネシスは遠隔地の弓兵を捉えた。

弓兵
 「ぐわー!?」

弓兵は弓を潰され、そのまま身体をも圧縮されて悲鳴を上げた。


 「おお、凄いじゃないか!」

ナツメイト
 「え、えへへへ♪」

ナツメイトは褒められたのが嬉しいのか、頬を染めるとニヤついた。
ていうか、さっきからナツメイトの奴、ダーリンにデレデレ過ぎないか?
こっちだって10年来ダーリンに甘えてないんだぞ!?

華凛
 「ねぇ、ダーリン♪ 私と良いことしましょ♪」

私はそう言うとダーリンに胸を押し付ける。
ダーリンは顔を真っ赤にすると、ドギマギした。
ふふ、相変わらず初だな。
まぁそういう所もダーリンの可愛いところだが。

ナツメイト
 「むう! ……周囲、恐れを成して逃げたみたいね」

ナツメイトは頬を膨らませると、ダーリンの腕に抱きつき、周囲を索敵する。
ダーリンに出会って直ぐに、ここまで才能を開花させるとは、本当にダーリンは凄いな。


 「あの〜、両手に華なのですが、とりあえず離して貰えないでしょうか?」

華凛
 「むう、ダーリンを困らせるのは、妻にあるまじき姿だな」

私は仕方なく、ダーリンを離した。
ナツメイトも渋々、離す。


 「はぁ、改めて俺は常葉茂、しがないサラリーマンだ」

ナツメイト
 「はぁ? サラリーマン? よく分かりませんが私はサーナイトのナツメイトと申します」

華凛
 「アブソルの華凛だ」


 「ナツメイトにカリンか……たく、俺はどうなったんだ?」

事情は知っている、だが説明するべきか?
いかなる意図か、茂さん達はゲートに飲み込まれ、この世界に召喚された。
伊吹はすぐ近く、美柑は中部、保美香はフリズ雪山、そして茜はアーソル帝国首都カノーア……つまり、カノーアの大雪原、か。

華凛
 (ダーリンが来た以上、彼女達もこの世界にいるのだろ……それを言えば直様ダーリンは動く、でもそれは危険だ)

ダーリンは時に無鉄砲な所がある。
そんな無茶を放任など出来るはずが無い。

ナツメイト
 「ねぇ、それより華凛貴方、本当に神話の乙女なの?」

華凛
 「疑う間でもなく見たろう?」

私は薙ぎ払われた木々を指差した。
こんな馬鹿げた事の出来るポケモンがそうそういるものか。

ナツメイト
 「神話の乙女、世界乱れる時現れる、空より伝説のポケモントレーナーは降り立ち、神話の手を紡ぐ、神話の乙女、世界を救済せん……か」


 「えと? なにそれ?」

ダーリンにとっては少し難しいようだ。
まだ自分が伝説のポケモントレーナーと言われても自覚してないだろう。
まして神話の乙女がなんなのかも分かってない。
なにせ初めて出会った時でさえ、私に気が付かなかったんだもんなぁ。
あの時私を神話の乙女って気づいてくれていたら、もしかしたら運命はずっと変わっていたのかも。

華凛
 「さて、敵も撒いたとはいえ、急がないと日が暮れる、拠点に戻るぞ!」

ナツメイト
 「あ、良かったらついてきて下さい……貴方には助けて貰った恩もありますし」


 「……やむを得ん、か」

茂さんも先ずは状況把握の段階だろう。
私達は歩きながら、茂さんに説明をしていく。

ナツメイト
 「そういえば、茂様はなんというポケモンなのでしょうか?」


 「あ〜、そこの所は俺も知らないんだわ」

華凛
 (知らないというより、ポケモンじゃないが正解だからな)

この世界にはホモサピエンスと言われる種族はいない。
茂さんのいた世界には逆にポケモン、PKMの方が珍しく人間が支配する世界だった。

華凛
 (そういえば、茂さんとカゲツって、似ているわよね)

カゲツは種族不明だった。
だが、デタラメに強く、どんなポケモン相手にも負けなかった。
今に思えば、人間が一番近い気がするけど……。

華凛
 (それはないな、人間にしては強すぎる)

きっと未知のポケモンなのだろうな。
とりあえず今は茂さんも未知のポケモン扱いだ。

ナツメイト
 「うーん、茜色の空から降ってきた、やっぱり本物?」


 「あー? 伝説のポケモントレーナーだっけ? 俺はしがないシステムエンジニアだぜ?」

華凛
 「謙遜しなくてもいい、ダーリンは充分凄いんだから♪」

私はダーリンの偉大さを知っている。
皆を愛せる度胸も、護ろうと必死になれるところも。
だから皆ダーリンが好きなんだ。


 「さっきからすげー気になってたんだが、なんで俺の事ダーリンって呼ぶの?」

華凛
 「それは私が世界一愛する人だからさ♪」


 「初対面の人に言われるとか、マジ無理なんだけど?」

ガガーン! そんな効果音が私に響いた。

華凛
 「そ、そんな〜……」

私は涙目になると愕然とする。
しかしそれを見て、ナツメイトはダーリンの腕に抱きついてほくそ笑む。

ナツメイト
 「ププー、カリンは謙虚さが足りないのよ♪ ねぇ、茂様♪」


 「君もアウトだから、初対面でボディタッチとか、退くわー」

ナツメイト
 「ガガーン!? あんまりですわー!?」

ナツメイトも同様の衝撃を受けた。
な、何故だ? 私の知るダーリンはボディタッチも許してくれたぞ?
ダーリンのファーストキスだって実は私なんだぞ!?(原作24話参照)
あれか? 茜がベタベタしても許されるのは愛嬌か?
それともロリか!? ダーリンはロリコンなのか!?


 「はぁ……勘弁してくれ、俺はポケモン娘なら無条件で受けれられるって訳じゃねぇんだ……」

そういえば、昔保美香から聞いた事があったな。
昔のダーリンは誰も寄せ付けない性格だったと。
恋は面倒だと憚らず、結婚を嫌がる程だった。
私と出会った頃には丸くなったと言うか、愛なら受け入れてくれるようになっていたが、これが昔のダーリンか。

華凛
 「うう、それじゃ勇者様は、どんな娘が好みなんだ?」


 「勇者様って……そうだな、静かで大人しい子かな?」

華凛
 (畜生!? やっぱり茜一筋ゃないか!?)

真っ先に該当したのは茜だった。
あの子本当に恐ろしい……無意識下にも関わらず、それだけ茜を想っているのだな。
全く、ダーリンは本当に嫉妬させてくれる。

華凛
 (ふ、嫉妬か……私にはお似合いの感情か)

嫉妬のあまり、私は皇帝になった。
嫉妬があるから、茜を独り占めして、八つ当たりした。
嫉妬するから、それだけダーリンを愛してしまう。

ナツメイト
 「静かで大人しい子……よし!」

一方でナツメイトは超ポジティブだった。
恋に恋する子だけに、ダーリンに一目惚れしたのだろう。
ダーリンはそういう所は罪深いな。
ポケモン娘を誰から構わず惹きつけるのは才能なのか、呪いなのか?


突ポ娘if #4 完

#5に続く。



KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:15 )