突ポ娘短編作品集


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短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #3

四国合同軍事演習。
豊かな中部地方を支配する4つの国、即ちホウツフェイン王国、トウジョウ王国、イッシュウ連邦国、トンカー王国の4つだ。
この国々は千年にも渡る戦争を経験し、今の国家群を形成するに至った。
しかし今でも領土問題は解決したとは言えない、決して小さくはない火種を抱えた4カ国は今一同に会する。



華凛
 「今年はホウツフェインで、か」

私は今、馬に乗りながら広がる眼下を見下ろした。
合わせて10万にも及ぶポケモン達が、平野に集まった。
色とりどりのポケモン達は、更にお国柄の出る装備を纏っており、まるでここは国際展覧会のような有様だ。
そんな場所に何故私がいるのか……それは少し遡る。



***



ナツメイト
 「私が将軍役ですか!?」

ホウエン王
 「うむ、来たる合同軍事演習、武を司る国として、決して侮られる訳にはいかん!」

玉座の間に集められたのは三王女だった。
ナツメイトは驚きのあまり、大きく口を開けた。

カトリーヌ
 「お父様……わたくしには重過ぎますわ」

カトリーヌは不安げに震えた。
本来なら、軍事演習にはホウツフェイン王国が抱える将軍達が出る筈だ。
しかし、今回はこの三人に一任しようというのだ。

フラン
 「ふん! 情けないですわね! お父様、このフランにお任せを♪」

一方、フランは自信満々だ。
元より軍事においては、三人では一番秀でている。
軍事演習にも参加経験があり、アドバンテージがあった。

ホウエン王
 「うむ、フラン以外も、これが国の威信を背負うものだと、忘れぬ事だ!」



***



ナツメイト
 「ふええええ!? ど、どうしよう〜!?」

突然ナツメイトは自室に戻ると、ベッドに顔を埋めると、そんな泣き声を言い出した。

華凛
 「はぁ、いきなり戻ってくるなり、どうしたんですか?」

私は丁度読んでいた小説を畳むと、そう言った。
ナツメイトはガバっと顔を上げると、私に泣きついてくる。

ナツメイト
 「ふえ〜ん! カリえもん〜! 助けてよぉ〜!?」

華凛
 「誰がカリえもんだ、はぁ……訳を話しなさい姫様?」

ナツメイト
 「実はカクカクシカジカ……」

成る程、四国合同軍事演習の将軍に任命された、と。
しかも国の威信を背負う戦いに、自信がなくて泣き喚いたと。

ナツメイト
 「あうう〜、自信ないよぉ」

華凛
 「姫様はやれば出来る子ですよ? 安心しなさい……というか覚悟を決めなさい」

ナツメイト
 「うぐぅ、……うん? そう言えば何読んでいたの?」

ナツメイトは視線を私が持っていた小説に目を向けると、ケロっと表情を変えた。

華凛
 「恋愛小説です」

私はそう言うと表紙を見せる。
すると、ナツメイトはパアと顔を明るくした。

ナツメイト
 「まぁ! カリンが恋愛小説!? それも、これは神話の乙女のお話ね!?」

そう、私が読んでいたのは神話の乙女の過酷な運命と、愛する男性との巡り合いを描く恋愛小説だった。
私も今代の神話の乙女、過去の神話の乙女がどんな恋愛をしたのか知りたかったのだ。

ナツメイト
 「うふふ〜良いわよね〜♪ 神話の乙女、世界乱れる時現れる、空より伝説のポケモントレーナーは降り立ち、神話の手を紡ぐ、神話の乙女、世界を救済せん」

ナツメイトが呟いたのは神話の序説だった。
今思えば、確かに真実なのだろう。
だが、疑問がある。

カリン
 「もしもの過程ですが……もし神話の乙女が二人いたら、それはどうなるのでしょう?」

ナツメイト
 「二人の神話の乙女? そんな文献や絵物語は覚えがないわね?」

ナツメイトはかなり神話の乙女に憧れがある。
最もナツメイトの場合、惹かれるのは伴侶となる伝説のポケモントレーナーの方だろうが。

華凛
 (ふふ、ダーリンはこんな私さえ救ってくれたんだがな♪)

ナツメイト
 「……一人は少なくとも伝説のポケモントレーナーと出会う、そしてきっと恋をしていく……でも二人目はどうなる?」

ナツメイトは随分真剣に考察していた。
私としてはただの思い付きだったのだが。

ナツメイト
 「もし私がその二人目なら、きっと嫉妬するわね……何故私の前に現れなかったの! って」

華凛
 「……」

それは正しく私なんだな。
私はどれだけダーリンが恋しかった。
どれだけダーリンと手を紡ぐ神話の乙女が憎かった。
憎悪と怨念を滾らせ、私は魔王となった。
神話の乙女の抹殺だけを願望とし、私は闇に染まっていった。

華凛
 (今に思えば馬鹿げていたな……カゲツの件は確かに悲しかったけど、それを逆恨みにする理由にはならなかった)

ダーリンは、常葉茂は、私を奪ってくれたのだ。
今の私がどれだけ救われたか、そう考えれば自ずと答えは出た気がする。

華凛
 「さて、それでいつ出発なんだ?」

ナツメイト
 「え? ああ……来週には、出るんだ」

華凛
 「ふむ、直接指揮する部下とは現地で顔を合わせるのか」

ナツメイト
 「そう、なる……かな? フラン姉様とかは私兵集団を連れて行くと思うけど」

フランの私兵集団、フランが次期女王と信じて疑わない、生粋のフラン信者達。
いずれも精兵で厄介な奴らだと聞くが。

ナツメイト
 「カリン、私に力を貸してくれる?」

華凛
 「今更ですね、姫様、私を頼りなさい」

私はそう言うと立ち上がる。
少し散歩したい気分だ。

ナツメイト
 「どこ行くの? 街!?」

華凛
 「散歩です、直ぐに戻りますよ」

ナツメイトは街へ行くのかと期待していたようだが、生憎そう言ったら間違いなく付いて来るだろう。
ナツメイトはつくづく、王位継承者の候補者である自覚が足りない。
護衛もつけないで外遊するなど、言語道断なのだから。
ナツメイトはベッドに倒れ込む、一眠りするのだろう。
私は静かに部屋を出た。
王宮は広い、多くの使用人が働いているが、私はあまり人の少ない場所を選んで歩いていく。

華凛
 (む? フラン王女?)

私は暗い場所を優先で歩いていると、同じく暗闇にフラン様を見つけた。
なにやら若い親衛隊の兵士と話しているようだが?
私は気配を消して、近づくと、静かに聞き耳を立てた。

親衛隊
 「いよいよですね」

フラン
 「ふん! 私の勝ちは間違いないけど……ナツメイトは万が一があるかもしれないわね?」

親衛隊
 「まさか、所詮盗賊を討伐しただけの実績、万軍を扱えるとは……」

フラン
 「だけど、お父様はあの子に期待している……私があの子に結果が劣ったら、私が女王になるチャンスは無くなるわ」

華凛
 (ふむ、やはりフラン様は姫様に敵愾心をむき出し、か)

それにしても噂では聞いていたが、親衛隊にまでフラン信者がいたのか。
親衛隊の若者はまさかと軽い言葉が目立つが、一方でフラン様はプライドが高く高慢だが、とても頭が回る。

フラン
 「一計、必要かしらね……」

華凛
 (一計、か)

私は苦笑する。
ナツメイトを見下す反面、ナツメイトを認めている。
だが、策士策に溺れると言う言葉もある。

華凛
 (見せてやろう……本物の実戦を味わった者の力を……!)



***



ナギー
 「姫様! 姫様の指揮下に入り光栄に思います!」

合同軍事演習のその日、親衛隊長のナギーは真っ先にベースキャンプで休むナツメイトに挨拶に来た。

ナツメイト
 「まぁ! ナギー、貴方も演習に参加するの?」

ナギー
 「はっ! 姫様のお力になりたく志願しましたっ!」

華凛
 「それはありがたい、兵は多いほどいいからな」

ナツメイト
 「そうは言うけど、多いほど指揮系統は混乱するわ」

ナツメイトはそう言うと憂鬱気味だった。
今回は私も少し本気を出そうと思うが、ナツメイトはやはり心配症である。

ナギー
 「差し出がましいかと思いますが、姫様は大丈夫です! 実力も私が太鼓判を押します!」

ナツメイト
 「ありがとう……ナギー」

華凛
 「さて、そろそろ演習開始じゃないか?」

ナツメイト
 「そ、そうね……行きましょう」

私達は立ち上がると、テントを出た。
ここはホウツフェイン軍の使用するベースキャンプ、それもナツメイト軍のキャンプだ。
フラン軍やカトリーヌ軍は別の場所にキャンプしている。


 「やあ! もしかして君がナツメイトかい?」

華凛
 「む?」

テントを出ると、異なる国の装備をしたポケモンがやってきた。
ナツメイトはポカンとするが、その男はすかさず笑顔で手を差し出した。


 「僕はトウジョウ王国のスレン王子さ♪ 美しき姫様♪」

ナツメイト
 「あ、ほ、ホウツフェイン王国の第三王女ナツメイトです」

成る程トウジョウの王子か。
王子はジャローダで、一般的にはイケメンと呼ばれるだろう。
全体的に細く、少し頼りない感じだった。
随伴した没個性な騎士達は、顔の見えない重装備で王子を護衛している。
それにしても、早速挨拶回りとはな。

スレン
 「そっちの女性は……はは♪ とても魅力的なレディだ、ぜひお名前を♪」

スレン王子はナツメイトに挨拶を終えると、今度は私に寄ってきた。
その視線は胸に向いており、また私が着物に身を通すから、余計に扇情的に映っているのかもしれない。
私は、ややイライラしながら、スレン王子の手を握った。

華凛
 「華凛です」

スレン
 「痛た……カリンか、いい名前だ♪ 是非お友達になりたいな♪」

私は結構強めに握手するが、スレン王子は中々しぶとかった。
大人しく離してやると、王子は手をプラプラと振り、手の感覚を確かめる。

スレン
 「はは、初日は味方同士、宜しくね! それじゃ♪」

王子はそう言うと、格好良く出て行った。
ナツメイトは私の横に立つと。

ナツメイト
 「あの人……絶対胸で判断した、ああいう人はちょっと信じられないわよね〜」

華凛
 「同感だな、思わず股間を蹴ろうかと迷った」

ナツメイト
 「あはは、蹴っちゃえば良かったのに」

ナギー
 「わ、笑い事じゃありませんよ……、蹴ったら国際問題になりますよ!?」

分かっている、だから蹴らなかっただろうが。
ナギーは心配そうに頭を抱えるが、しかしお陰でナツメイトの緊張が解れた。

華凛
 「ナツメイト、全軍に通達」

ナツメイト
 「あ、うん……指揮官クラス集合! 全軍を進軍させます!」

ナギー
 「聞こえたか!? 全軍行軍準備!」

いよいよ、四国合同軍事演習は開始される。
ドタバタとする全部隊。
演習は10日かけて行われる。
仮想敵を毎日入れ替え、様々シチュエーションで演習するのだ。



***



ホウツフェイン軍約3万、各王女は1万の兵を従え演習場に集まる。
演習場は見渡す限り遮蔽物も殆どない、なだらかな丘陵地帯。
各軍は数キロは離れ、それぞれフラン軍、カトリーヌ軍とも連絡は取れていない。
まぁ、だから好都合なのだが。

ナツメイト
 「はぁ、緊張する……!」

ナツメイトは一番後ろから、隊列するナツメイト軍を眺める。
ナツメイトの為に集まった兵士達は、理路整然としており壮観だ。
軍事においては、ホウツフェイン王国は他国より優れていると言われる。
その評価の通り活躍しなければ、ナツメイトが女王になる事は出来ない。

華凛
 「ナツメイト様、今回はあくまで司令官です……ここで司令官として学ぶのですよ?」

ナツメイト
 「兵法とか戦術書とか、そういうの、あんまり好きじゃないんだよね……」

そういう点では確かにフラン様はおろか、カトリーヌ様にも負けるだろう。
カトリーヌ様は切った張ったが無理なだけで、戦略戦術の知識は一番ある筈だし、フラン様は実戦経験もある武闘派王女。
一方でウチの姫様は絵物語大好きな、ワンマンアーミーだからな。

華凛
 「矢面で敵を蹴散らす方が、気楽……そうお考えになった?」

ナツメイト
 「ギクリ!? そ、そんなことないよ?」

私はため息を吐く。
私を一番苦戦させる女は、腕っぷしは凄まじい。
確かに一兵士としての方がナツメイトは優秀だ。
実戦さえも殊の外ケロっとした顔で熟したし、あまり戦いそのものに忌諱感はないらしい。
まぁ自分が傷つくのは気にしないが、部下が傷つくのは気にするからね。

華凛
 「……はっきり言う、だから私がいる」

ナツメイト
 「え? カリン?」

華凛
 「全てにおいて天才的な指揮官などいない、だからこそそれを補佐するのが軍師だ、安心しろ……お前を勝たせるために私はいるんだからな」

そうだ、アーソル帝国を統一し、中部を制圧したのは私だ。
少しズルいようだが、もう20年近く戦争を経験していない中部の兵士達には地獄を味わって貰おう。

ナツメイト
 「時間は……午前10時!」

フォーン!!

演習開始の角笛が鳴らされた。
私はすかさずナツメイトに指示する。

華凛
 「ナツメイト様、軍は動かすな」

ナツメイト
 「え? でもそれじゃ……」

角笛と同時に、各軍は前進を始めた。
私達は丁度全容を見渡せる丘の上で、状況把握に努めた。

華凛
 「戦いは非情ですよ、それと旗をおろして貰いましょう」

ナツメイト
 「ええ!? そんなことしたら!?」

華凛
 「いいのです、それが戦術です」

ナツメイト
 「……各部隊に通達、その場で待機のまま旗を降ろせ!」

部隊識別用の旗、通常は旗一つに大体40人前後を表す。
つまり旗が多ければ多いほど、数が多いと相手に知らせるのだ。

華凛
 「古来より旗は時に鼓舞として、時に欺瞞に用いてきた」

これで相手はこちらを見失った。
既に前線は動いており、トウジョウ軍とホウツフェイン軍の連合軍は馬鹿正直にイッシュウ軍とトンカー軍の連合軍と正面衝突する。
やや、数で勝る敵軍が優勢だった。

ナツメイト
 「前線が押されてる……助けに行かないと!?」

華凛
 「いや、側面から奇襲をかける! 全軍を迂回させつつ全速力で向かせろ!」

ナツメイト
 「……わかったわ、貴方の軍師としての才能を信じる!」

ナツメイトは号令を上げると、ナツメイト軍は一気に動き出す。
早速混戦状態に陥る、各軍は纏まった指揮も取れておらず、それは格好の的だった。

華凛
 「密集陣形のまま、突撃ー!」



***


「「「ワアアアアアアア!!」」」

スレン
 「何事だ!?」

混戦の中、トウジョウ軍司令官スレン王子は自ら剣持って戦っていた。
剣は模造刀だが、重さは本物と同じ、不用意に受ければ骨が折れることさえある。
それなりに実力に覚えがあるからこそ、王子でありながら前線に立っていたのだ。
しかし、突然戦場の空気が変わった。
大きな地響きがし、そしてそれは迫ってきたのだ。

兵士
 「伏兵! 伏兵です! ホウツフェイン軍が突然敵軍の側面に現れました!」

スレン
 「どこの指揮下だ!?」

兵士
 「ナツメイト軍です!」



***



フラン
 「なんですって?」

それはフランの元にも飛び込んできた。
突然ナツメイト軍が、敵の側面を攻撃したと。
ナツメイト軍は意図的に旗を降ろし、丘陵地帯の僅かな谷を進みぶつかる直前に旗を立て、恐慌状態の敵軍の土手っ腹を貫いたと。
3万の敵軍を僅か1万で蹴散らし、戦線は崩壊。
ナツメイト軍が散り散りになった敵軍を各個撃破しているという。

フラン
 「なにをしているの!? 押し切るのよ! ホウツフェイン軍の意地を見せなさい!!」

フランは必死に部隊を鼓舞した。
正面から負けるほど、フランの兵は弱くない。
だが、正面から押し切るには数が足りない。
正面からぶつかるなら、3倍の兵がいると教えられてきた。
だが、正面から打ち破れば、それはフランの高い資質を証明出来る。
しかし、それが……ナツメイトに崩された。

フラン
 「くっ……!」



***



ナギー
 「はぁ!」

ナギー以下、航空部隊は、上から散り散りになった敵軍に容赦のない追撃を行っていた。
ヒットアンドアウェイ戦術を取るナギー隊は特に高い戦果を上げた。
鏃となったナツメイト軍は、トンカー軍に奇襲し、密集陣形はそのままイッシュウ軍まで巻き込み、敵の隊列を崩す。

華凛
 「ふ、所詮は平和ボケした連中か……アーソル帝国が勝てたのも納得だな」

演習は夕方まで続いた。
夜戦はなく、夕日を迎える頃、停戦合図が出る。

ナツメイト
 「はぁ、はぁ……お疲れ様」

華凛
 「ああ、お疲れ様」

ナツメイトは演習とはいえ、初めての司令官に少し興奮気味だった。
やはり武王の血筋か、血の気は多いのかもしれない。

ナツメイト
 「これで良かったの?」

華凛
 「ええ、後で今日のレポートを取りましょう」

結果論で言えば、初日は最高だった。
想定を越え、これだけの大戦果は私も想定していなかった。
つくづく平和慣れした連中なのだと、改めて明らかとなった。

華凛
 「ただ全軍を馬鹿正直に正面からぶつける……子供じみた戦術だ」

ナツメイト
 「なんだか、まるで本当の戦争を知っているみたい」

華凛
 「……」

いかんな、実際体験してきた等言えるわけもない。
一人タイムリープしてますなんてナツメイトに教えたら、どうなるか分からない。
もしかしたら重大なタイムパラドックスを起こす可能性もあるのだから。

ナツメイト
 「はぁ、お腹ペコペコ……」

華凛
 「ベースキャンプに戻りましょう」



***



親衛隊
 「ナギー隊長ばんざーい!」

ナギー
 「わ、わたしらって〜! やればできるんらぞ〜!!」

ベースキャンプではお祭り騒ぎだった。
お酒も供され、皆今日の快勝を喜んでいる。

兵士
 「ナツメイト様バンザーイ!」

ナギ
 「ばんひゃーい!」

華凛
 (やれやれ、相変わらず酒に弱い奴だ)

私はそう言いつつ、ワインを嗜む。
本当は日本酒が好みだが、こっちの世界じゃ手に入らないからな。
いっそ、酒蔵でも築いてみるか? 等と考えてしまうが、そんな暇は無いかと諦める。

ナツメイト
 「ここにいたんだ、カリン」

華凛
 「ん、姫様……」

私は一人寂しくワインを煽っていると、食事を持ってきたナツメイトが横に座る。

華凛
 「おいおい、いくらなんでも、こっちじゃなくて宿舎で食べればいいだろう?」

ここは末端の兵士達のキャンプだ。
一定以上の階級の者たちはもっと上等な場所が供されている筈だが?

ナツメイト
 「ふふ♪ 別にいいわよ、少し憧れもあったし♪」

華凛
 「良いものでもないぞ? 酔っぱらいに絡まれる」

ナツメイト
 「その時は守ってね? カリン♪」

私は肩を竦めた。
姫様は酒は好みではないのか、飲み物は水だった。

ナツメイト
 「ふふ、けれど本当に賑やかね」

華凛
 「私はこちらの方が性に合う」

普段王宮住まいだと、どうも堅苦しい。
カゲツと一緒に居た頃のように、こんな雑踏に紛れる方が私にとっては自然なのだ。

ナツメイト
 「そうなんだ……そういえば、カリンって北部の出身なのよね?」

華凛
 「ああ、本当に貧しい寒村でな、強くなければ生き残れないような所だった」

私はしんみりと身の上を話し出すと、同時にその来歴を思い出す。
たった、一つ……カゲツにお酒を買ってこい、そう言われた時、私が我侭にも拒否すると、歴史は大きく変わってしまった。
結果的にカゲツの早死は変えられなかったが、私の人生はこんなにも変わるのね。

華凛
 「ま、しかし今は幸せだよ」

私はそう言うとワインを一気に煽った。

ナツメイト
 「〜〜〜!」

しかし、ナツメイトは顔を真っ赤にするとプルプルと震えていた。

ナツメイト
 「いいえ! 貴方はもっと幸せになるべきよ! そう、女の幸せを掴むべきなんだから!」

ダァン! とその場を強く叩く、大声で言った。
私は呆然とする、周囲の目も私達に向いた。

ナツメイト
 「カリン! 貴方は幸せになってもいいの!」

そう言うとナツメイトは私に抱きついてきた。
感情が豊かというか、制御が苦手なのは変わらない。

華凛
 「だから、私は幸せだ」

私は優しくナツメイトを抱き留めそう言うが、ナツメイトは首を振った。

ナツメイト
 「ううん! カリンは分かってないわ! 女の子の本当の幸せを! そう! 恋を知らない!」

兵士
 「なんだなんだ? カリン様とナツメイト様?」

ナギー
 「うんあ〜? ハハハ! 美しい友情じゃにゃいか〜!?」

やれやれ、兵士達も見ているではないか。
友情だとかほざいている酔っぱらいもいるが、私はナツメイトを引き剥がすと、立ち上がる。

華凛
 「演習は明日もある! 羽目を外しすぎるなよ!?」

私は兵士達にそう言うとキャンプへと帰った。



***



演習2日目、ナツメイト軍のキャンプ地には珍しい客がやってきていた。

トンカー軍将軍
 「おっ、アンタが昨日の猛将か!」

イッシュウ軍将軍
 「ふむ……昨日の策は見事でした」

ナツメイト
 「え、ええとその〜」

トンカーの将軍はまだ若いギャロップの男だった。
恐らく合同軍事演習で経験を積ませる為に送られたエリートと言った所だろう。
一方イッシュウの将軍はスワンナの男性だった。
こちらも年若く、眼鏡を掛けた優男だった。
どちらもが、興味はナツメイトにある様子だった。

トンカー軍将軍
 「俺はガルカだ! 今日は友軍! 宜しくな!?」

イッシュウ軍将軍
 「私はイッシュウ軍のマリアル、どうぞお見知りおきを」

ナツメイト
 「ホウツフェイン軍第三王女ナツメイト、ですわ……はは?」

昨日とは一転、今回は相手も真面目にやってきた。
端的に見て、二人は対極の様子で、ガルカは熱血漢、マリアルはクールといった感じか。
昨日の浮ついた王子様とは打って変わって、真面目な感じね。

ガルガ
 「それじゃ! 今日はよろしくなー!?」

マリアル
 「……本日も参考にさせていただきます」

そう言って二人は自分たちの陣地へと帰っていった。
ナツメイトは突然の訪問に緊張したのか、はぁ〜と息を吐く。

華凛
 「ふ、良い男達だったじゃないか」

ナツメイト
 「なに言ってるのよ〜、物凄くマークされちゃったじゃん……」

華凛
 「姫様は次期女王候補、今は良いですが、もう少し毅然としてください」

ナツメイト
 「女王だなんて……第三王女の私じゃ……」

なんて自分に自信の無いナツメイトは暗い顔をする。
やれやれ、いい加減この過小評価を止めてくれれば、間違いなく名君になれるだろうにな。

ナツメイト
 「それよりも、ねぇ? カリンはさっき来た人ならどっちが好み?」

いきなり顔を上げると、ナツメイトは手を叩いて目をキラキラさせた。
私はいきなり表情を変えるナツメイトにあ然とする。
つくづく恋バナの好きな姫様だな……。

華凛
 「どちらも好みではありません」

ナツメイト
 「そっか〜、ガルカさんはなんだかワイルドそうで、力強く引っ張ってくれそう、一方でマリアンさんは気立てが良さそうな感じだったわね〜♪」

ナツメイトの女の子の部分を否定する気はないが、相手からは女と言うより軍神として見られていたろうな。
腰をくねらせて、大好きな恋に妄想するナツメイトは幸せそうだった。
しかしこんな事をやっている間にもやがて演習開始の時刻は迫る。

華凛
 「さっさと準備を進めますよ!?」



***



ブォォン!

午前10時、角笛が鳴った。
私達は前日同様、小高い丘から出足を見た。

ナツメイト
 「昨日に比べて静かね……」

華凛
 「ふむ……学習した、か」

昨日はガキの喧嘩のようだった。
だが、今日は全員猪突猛進に攻めるのを止めたようだ。

華凛
 「ふむ、フラン王女の軍も丘で様子見か」

私は目を細めて、遠くに布陣するフラン軍を見た。
その更に先にカトリーヌ軍もいるはずだが、カトリーヌ様の性格からして、自分からは動かないか。

ナツメイト
 「どうする?」

華凛
 「戦争は情報戦です、いち早く相手の情報を得た者が有利になる」

ナツメイト
 「情報戦……偵察を出す?」

華凛
 「ええ、偵察隊を放ちましょう」

私はコクリと頷くと、ナツメイトは直ぐに兵士を呼ぶ。

ナツメイト
 「飛べる者優先で、偵察を!」

兵士
 「は! 畏まりました!」

華凛
 「さて……お見合いをしていても始まらんが」

親衛隊を中心に偵察隊が飛び立つと、私は胸を持ち上げて思案した。

ナツメイト
 「カリン?」

華凛
 「微速前進、とりあえず谷まで進めましょう」

ナツメイト
 「見晴らしのいい丘を捨てるの?」

華凛
 「見晴らしがいいのは我々だけではありません……相手も同様」

ナツメイト
 「あ……」

ナツメイトはようやく意図に気付いた。
そう、丘の上は周囲を見渡すのには良いが、逆に敵からは目立つのだ。
谷間に隠れれば、少ないが隠蔽力は増す。
兵は詭道なり、こんな言葉もあるからな。

ナツメイト
 「全軍、微速前進! 谷間まで進め!」

ナツメイトの号令に軍は規則正しく動き出した。
私は動きながら、フラン軍をずっと観察した。

ナツメイト
 「さっきから友軍を気にしているけど、どうしたの?」

華凛
 「姫様、フラン様もカトリーヌ様も味方ですが、ある意味敵です」

ナツメイト
 「えっ!?」

華凛
 「ホウエン王はこの演習の結果を恐らく女王選びに利用します、競争相手な事を忘れずに」

ナツメイトは驚いていた。
こんな性格なのだから、それはフラン王女に舐められても文句は言えないだろう。
だが、フラン王女は野心の塊だ。
必ず仕掛けてくる……!



***



30分後、粗方の情報は集まった。
予想通りだが、やはり様子見だな。
敵と味方の布陣が分かった以上、黙っている理由はないが。

華凛
 「陣を広げます、それと少数の部隊をトウジョウ軍にぶつけて」

ナツメイト
 「少数じゃ、捻り潰すされちゃうわ!?」

華凛
 「敵を誘導出来ればいい、作戦は速い方が良い、私を信じろ!」

ナツメイト
 「……分かった、そうね……貴方は軍師だもの、信じるわ!」

ナツメイトは声を張り上げると、指示が全軍に通達されていく。
少数の部隊はトウジョウ軍に攻撃を仕掛け、撤退する。
直ぐに後退させ、敵に追撃させた所に、こちらは奇襲をかける。
確か釣り野伏せとかいう戦術だったか?
本隊は平原にくの字に展開している。
戦闘が始まれば、漁夫の利を狙う他の軍も動き出すだろう。
戦場はチェスとは違う、一人1ターンではないのだ、どれだけ機先を制するかが、勝敗を決める。

兵士
 「トウジョウ軍が来ました!」

ナツメイト
 「最奥から、取り囲め!」

ナツメイトも戦場に立つと、軽口は減った。
いざという時の平静さは、ナツメイトの最大の魅力だな。

華凛
 「トウジョウ軍と比べれば、ナツメイト軍の戦力は3分の1、さて……どれだけ覆せるか」

親衛隊
 「トンカー軍、東進! こちらに接近します!」

兵士
 「イッシュウ軍こちらに向けて進軍!」

華凛
 「ふむ」

私はすぐに地図を広げ、各軍の動きを測る。

ナツメイト
 「どうするの? このままじゃ乱戦になるわ」

華凛
 「隊列を維持したまま、全速前進!」

私は大声を上げる。
トンカー軍は漁夫の利を、イッシュウ軍は挟撃を狙ってきた。
ならば、早期にトウジョウ軍に仕掛けるべきだ。
どの道、フラン様も黙ってはいない。
カトリーヌ様とイッシュウ軍の位置は近く、カトリーヌ様も黙ってはいないだろう。

華凛
 「急げ野郎ども! この勝負速さで決まるぞ!!?」

平原に迫りくるのはトウジョウ軍、あのいけ好かない王子様の軍だ。
王子様は昨日と変わらず、伝統的な密集陣形。
強固でそう簡単には崩せない、そう言われる歴史のある陣形だが、弱点もある。

華凛
 「白兵戦になりますよ?」

ナツメイト
 「そ、そっちに方が気が楽だわ……!」

私達は馬の手綱を引くと、一気に動き出した。
私達本隊はトウジョウ軍ぶつかる。

華凛
 「正面! 持ちこたえろ!」

ナツメイト
 「両翼急いでください!」



***



トウジョウ軍兵士
 「王子! 取り囲まれていますぞ!?」

スレン
 「ち! さっさと正面を開けろ! 本隊を潰せば勝ちなんだよ!?」



***



フラン
 「ち……いつまでも活躍させんじゃない、イッシュウ軍に仕掛けるべわよ!」



***



ガルカ
 「うっひゃあ……取り囲んでやがる!? やっぱりエゲツねぇ!」



***



勝負は正午を過ぎる頃には決着した。
ナツメイト軍はイッシュウ軍を包囲、そこにトンカー軍まで仕掛け、イッシュウ軍はあっという間に壊滅した。
その後トウジョウ軍を正面に迎えたが、後ろからカトリーヌ軍とフラン軍がおそいかかり、図らずして挟撃になり、ホウツフェイン軍は大勝利になった。

華凛
 「今日はこんなものでしょう」

ナツメイト
 「ふぅ、やっぱり難しいね」

昨日のような大勝は難しい。
ナツメイトもヘトヘトだった。

華凛
 「なに、じっくり学べばいい」

ナツメイト
 「うん、一杯学ぶ、だから一杯教えてね?」

私は「フフ」と笑った。
ナツメイト様は争いを好まないが、だからといって戦う術を知らない訳じゃない。
私の持つ知識の全てをナツメイトに託し、ナツメイトはこの演習でメキメキと将軍としての才覚を開花させていった。

そしてある意味で王位継承戦でもある演習はあっという間に終わってしまうのだった。



突ポ娘if #3 完

#4に続く。



KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:14 )