突ポ娘短編作品集


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短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #2

第二章 黄金時代編



何の因果か、この私がナツメイトの剣術指南役になって8年が経過した。
ナツメイトと私は同い年という事もあり、私達は王女と剣術指南役以上に、まるで姉妹のように育っていった。

華凛
 「姫様? こちらですか?」

私はホウツフェイン城を歩いていた。
目的はナツメイトを探してだ。
だが、ナツメイトは見当たらない。
あの王女様は、放浪癖があり、時折城下町に降りては、遊んでくる。

華凛
 「ナツメイト様ー?」

ナツメイト
 「えい♪ 隙きあり♪」

16歳になった私達は、身体も大人びて、私は胸が重たくなっていった。
それを面白がり、ナツメイト様は後ろから忍び寄ると、私の胸を思いっきり持ち上げる。

華凛
 「ひゃ!? 姫様!?」

ナツメイトはサーナイトに進化して、姫として美しく成長した。
純白のドレスも似合うようになり、見た目も大人らしくなってきたが、中身はまだ子供っぽい。
イタズラ好きな所は全く改善されず、脇の下から綺麗な手を差し込むと、胸を揉んでくる。

ナツメイト
 「華凛ったらいやらしい♪ こんなエッチなおっぱいして♪」

華凛
 「ん! す、好きでこんな大きくなった訳では……!?」

ナツメイト様の手には到底収まらない、私の大きな胸は肩こりがして仕方がない。
おまけに下卑た視線を受けるのはそんな気分は良くないものだ。
だが、ダーリンは巨乳好きだから、これはこれで武器だと思っているが。

華凛
 「もう! 怒りますよ!?」

ナツメイト
 「きゃあ!?」

私は力技でナツメイトを引き剥がす。
所詮サーナイトのナツメイトでは、アブソルの私には力技では敵わない。
まぁ、そもそも神話の乙女である私が規格外なのもあるが。

華凛
 「部屋にいないと思ったら、こんなイタズラして」

ナツメイト
 「ふふ、だって面白いんだもの♪」

そう言ってナツメイトはおどけて見せた。
私は肩を竦めると、胸を両腕で持ち上げた。

ナツメイト
 「まぁ! 見せびらかしちゃって!」

華凛
 「巨乳は肩が凝るのです、姫様には分かりませんよ!」

ナツメイト
 「ふーんだ! 私だってカトリーヌお姉様みたいなボン・キュッ・ボンになるんだから!」


 「ふふ、元気ねナツメは」

そう言って、通路から現れたのは、話していた第一王女、つまり長女のカトリーヌ様だった。
カトリーヌ様はナツメイトと同じサーナイトだが、スタイルは雲泥の差があった。
おっとりしたタレ目の22歳は身長175センチ、バスト98ウエスト65ヒップ89の正真正銘のナイスバディな王女様だ。
長女らしく藍色と黒のドレスに身を包み、非常に美しくお優しいお方だった。

ナツメイト
 「カトリーヌお姉様!」

ナツメイトは嬉しそうにカトリーヌに抱きついた。
カトリーヌは優しくナツメイトを抱きとめると、頭を撫でる。
カトリーヌ様は、ナツメイトが産まれた時にお亡くなりになった母親に代わり、ナツメイトの母親代わりになったお方だ。
それ故に、ナツメイトのカトリーヌ様への愛は並ではない。


 「あーら、こんな所で油売ってていいの!?」

そう言って更に近づいて来たのは、第二王女、つまり次女のフラン様だった。
フラン様は吊り目のキツイ、ツインテの18歳だ。
此方もサーナイトに進化しているが、身体はナツメイトより貧相で黄色いドレスを身に纏っている。
性格は見ての通り、高慢チキなプライドの高い王女様だ。
最も、プライドに相応しい実力はあるのだが。

カトリーヌ
 「あら、フラン」

フラン
 「ご機嫌麗しゅう、カトリーヌお姉様?」

カトリーヌ
 「ええ、フランこそ」

ナツメイト
 「うう」

フラン
 「ふん! ナツメイト、挨拶もできない訳!?」

ナツメイトはこの2つ上の姉が苦手だ。
カトリーヌ様は、見た目の通り穏やかでお優しいが、フラン様は父親に似てか、少々苛烈な方。
ナツメイトは、ただでさえ二人の姉に劣等感もあり、特に次女には苦手意識があった。

ナツメイト
 「ご、ご機嫌麗しゅうございます、フラン姉様」

フラン
 「ふん! そんなんじゃ、王位は継承出来ないわよ?」

フランはそう言うと、歩き去って行った。
ナツメイトは暗い顔のまま、ただ俯いていた。

カトリーヌ
 「ナツメ、気にする事はないわ、貴方は貴方のペースで頑張りなさい」

カトリーヌ様は優しくそう言うと、また去っていく。

ナツメイト
 「私なんか相応しくないよね……」

華凛
 「ホウエン王は男子に恵まれなかった……順当に考えれば、第一王女のカトリーヌ様が家督を継ぐべきではありますが……」

しかし、カトリーヌ様はあのお優しきお方。
剣より文才に秀でており、家督を継ぐには条件が弱い。
となると、最も王位に近いのは第二王女フラン様となる。
だからこそ、あの高慢さなのだが、同時にナツメイトを牽制しているのだ。

華凛
 「剣の稽古をしましょう、剣の道は……」

ナツメイト
 「……一日にしては成らず……ね?」

ナツメイトは顔を上げると、そう言った。
私は微笑むと、ナツメイトも笑う。

ナツメイト
 「そりゃもう、千日以上、カリンに扱かれたもの!」

華凛
 「ですが、その分誇っていい、強くなりましたよ」

ナツメイト
 「本当は強くなるより、絵物語を読む方が好きなんだけどね?」

ナツメイトもやはり女の子。
よく城下町に行っては絵物語を買ってくる。
特にナツメイトは神話の乙女の絵物語が大好きだ。

ナツメイト
 「はぁ〜、私も運命の王子様に会ってみたい♪」

華凛
 (私にとってはダーリン、か)

少し反則だが、私は誰が伝説のポケモントレーナーか知っている。
常葉茂、私のダーリンはまだこの世界にはいない。
いや、そもそも現れるのか?
歴史は大きく変わってしまった、本来ならば私はアーソル帝国を建国し、この頃辺りには中部に宣戦布告をしていた筈だ。
だが、現実には北部が統一される兆しはない。
トウガはどうしているだろうか、ワンク達は今も傭兵か?
ベルモットは恐らくただの町娘、キッサも静かに暮らしていのだろうか。

華凛
 (ふ、詮無きこと、私はただの世話役にすぎん)



***



ツキ
 「姫様、ホウエン王がお呼びです」

あれから数日、特に変化もなく私とナツメイトは城で過ごしていた。
だが、ツキがナツメイトを呼びに来た。

ナツメイト
 「お父様が?」

ツキ
 「ああ、それとカリンも共に」

華凛
 「なに? 私もか?」

私はナツメイトとは事実上相部屋であり、ナツメイトの身の回りの世話も任されていた。
ホウエン王は私にも随分目を掛けて貰い、感謝すべき相手だった。

ナツメイト
 「分かりました、行きましょうカリン?」

カリン
 「はい」



***



ホウエン王は玉座の間にいた。
寝室ではなく、玉座の間というのは些か違和感があったが、それだけの事を伝えるのだろう。

ナツメイト
 「お父様、用件は?」

玉座に座るホウエン王、私は片膝を突き、頭を垂れる。
既に60代が近いこの厳つき王は、ナツメイトを見下ろすと、厳かに言った。

ホウエン王
 「ナツメイトよ、そなたももう16だったな?」

ナツメイト
 「は、はい……そうですが?」

ホウエン王
 「ならば、そろそろ王女の責務を果たしてもらう必要がある! ダリム砦に潜む盗賊共を討伐せよ!」

ナツメイト
 「え!? 盗賊の討伐!?」

ついにその時が来たか!
ナツメイトは驚いた様子だったが、私はある程度予測していた。
カトリーヌ様もフラン様も、既に実戦を経験済み、ならばナツメイトも例外ではないだろう。

ホウエン王
 「無論一人で行けとは言わぬ! ナギーよ!」

ナギー
 「はっ! ここに!」

後ろから美しい翼をした騎士が入ってきた。
親衛隊長のナギーだった。

華凛
 (凪、か)

私は静かにナギーを見る。
私とっては宿敵、同じ神話の乙女。
今は風格もない、才能はあるが、実力は伴っていない。
実際ジョーには為す術もなく、負けた女だからな。

ホウエン王
 「親衛隊を3分の1を連れ、ナツメイトの指揮下に入るのだ!」

ナギー
 「は! 畏まりました!」

ナツメイト
 「え、えと……よろしくお願いします」

ナギー
 「こちらこそ! まだ若輩ですが、よろしくお願いします!」

華凛
 (ふん、変わらず体育会系だな)

ナギー
 「あ、そっちのカリン殿も、よろしくお願いします!」

華凛
 「ああ、こちらこそ」

私は苦笑した。
殺したくて仕方がなかった相手が、今度は友軍。
本当に数奇な運命の分かれ道なのだと痛感するな。



***



ダリム砦は、ホウツフェイン領イッシュウ王国との国土境界線付近にある。
大凡誰も近寄らない古戦場跡であり、その国境付近はかつて、領土戦争で何度も激戦地となった場所だ。
今でも土を掘れば遺体が見つかるなんて噂もあり、誰も近寄らなくなったのだ。
それを好都合と盗賊が住み着いた。
国境を跨いで交易をする商人を襲うと、問題になったのだ。

華凛
 「盗賊の大凡の数は50人、そして我が方200、常識の上なら勝って当然」

ナツメイト
 「で、でも私なんかで……」

私達は砦を見下ろせると小山にベースキャンプを築いていた。
砦からはこちらは見えない、かなり楽なミッションなのだが、肝心の姫様はご覧の有様だ。

華凛
 「姫様、少し身体を動かしましょう」

ナツメイト
 「え? 今から?」

私は広い場所に行くと太刀を抜いた。
ナツメイトは、ついてくるとエストックを抜く。

兵士
 「おいおい? 一体何が始まるんだ?」

親衛隊
 「姫様とカリン殿?」

ナツメイト
 「はぁ!」

作戦の準備をする兵士達の目が集まる、しかし衆人環視を気にして、やってなどいられない。
先に仕掛けたのはナツメイトだ。
素早く踏み込むと、射程距離ギリギリでエストックを突いてくる。
私は刹那の見切りで、それを回避し、カウンターを合わせる。

キィン!

しかし弾かれる。
ナツメイトは態勢を崩さず、私の攻撃を誘った。
すかさず内側に回り込み、コンパクトな剣戟を放つ。

ナツメイト
 「もらいました!」

カリン
 「ちぃ!」

私は左手で、鞘を抜く。
そして鉄鞘でエストックを弾くと、大太刀をナツメイトの首筋で止める。

ナツメイト
 「あ……はぁ、私の負け、かぁ」

カリン
 「いや、ここまで追い込まれたのは久し振りです」

パチパチパチ!

その時、拍手が起きた。
ナツメイトは不思議そうに周囲を伺う。

兵士
 「すげぇ! 全然見えなかった! どっちもスゲェ!」

親衛隊
 「ああ! あんな凄い打ち合い、多分ナギー隊長でも無理だろう!」

ナツメイト
 「え? え?」

兵士
 「流石ナツメイト様! やっぱり武王の子だ! この人なら間違いない!」

私は鞘に太刀を戻すと、胸を持ち上げて笑った。
ナツメイトは自分に自信がない。
だから、こんなつまらない戦にも自信が持てない。
本質的には優しく、臆病なのだろうが、この兵士達を見れば分かるだろう。

華凛
 「姫様は、もう十分人の上に立っているのですよ」

ナツメイト
 「私が?」

華凛
 「軍議を進めましょう!」

私はそう言うと、ナツメイトを連れて最前線に向かった。

華凛
 「ナツメイト様、チェスのような物とお考えなさい、貴方ならどう攻める?」

私達は山の頂上から砦を眺めた。
私達の前にはなだらかな坂がある。
非常に見晴らしもいい。
ナツメイトは顎に手を当てるとうーんと、悩む。

ナツメイト
 「相手の戦力がやっぱり分からない……どうにか砦から敵を出せないかしら?」

華凛
 「着眼点はいい、それらならば用兵すべきは?」

ナツメイト
 「用兵……空を飛べる親衛隊?」

華凛
 「その通り、頭上に飛び交う親衛隊を見れば、盗賊も顔を出すでしょうね」

親衛隊はピジョットのナギーを筆頭に、ピジョン隊で構成された空挺部隊だ。
ここまで組織として訓練された部隊はそうはないだろう。
ただ実戦経験が薄い、そういう意味でも使ってみるべきだ。

ナツメイト
 「でも完勝するには、まだ手が足りないわ……うーん」

華凛
 「一つ教えましょう、会戦において、もっと有効な戦術は包囲戦です」

私は悩むナツメイトに少しだけアドバイスする。
最もシンプルだが、やはり最も結果を出せるのはこれだ。

ナツメイト
 「部隊を半数、左側から回り込ませる?」

華凛
 「それでいい、それで行きましょう」

私はそう言うと、部隊長達を集めた。
集まった部隊長達は皆素直にナツメイトに耳を傾ける。
ここにはナツメイトを実戦を知らぬ王女だと馬鹿にする者はいない。

ナツメイト
 「親衛隊は数名、空から砦に威嚇を! そして部隊の半数を左側から攻め込ませ、挟撃を仕掛けます!」

ナギー
 「なるほど、悪くない作戦です、すぐに手配を!」

軍議はスムーズに進んだ。
もとより相手は知性も低い盗賊たち。
ここまで難しく考える程もない相手だが、ナツメイトが実績を得るには調度良かった。



***



ワアアアアアアア!

盗賊
 「て、敵襲ー! このままじゃまずい! 皆外に出ろー!」

全ては理想通りに回った。
山から降りてくる兵団を見て、盗賊たちは砦から出てきた。
更に半数は側面からおそいかかり、逃げ場を奪う。
そして当のナツメイトは兵士達を従え最前線にいた。

ナツメイト
 「はぁ!」

盗賊
 「ぐわー!?」

ナツメイト
 「出てきなさい! 盗賊のボス!」

ボス
 「ぬう! こんなガキにぃ!?」

たらこ唇の大男はドテッコツだった。
こいつがボスか、ドテッコツは手に持った巨大な鉄の鈍器を振り回して威嚇する。
だが、ナツメイトは緊張しながらも、どこか冷静さを保っていた。

ナツメイト
 (カリンに比べたら、全然怖くない……不思議、思ったより落ち着いている)

ボス
 「死ねぇ! ガキがぁ!」

ボスは鉄の鈍器を振りかぶった。
しかしそんな大振りがナツメイトが捉えるのは不可能だ。
ナツメイトは相手の懐を取り、エストックを心臓に突き刺した!

ボス
 「ぐふ!? こ、こんなガキに!?」

ナツメイト
 「降伏しなさい! あなた達のボスはこのナツメイトが討ち取った!!」

兵士
 「おおー! ナツメイト様がやったぞー!」

カリン
 「ふ、見掛け倒しの大男だったな」



***



快勝だった。
ホウツフェイン陣営は殆ど怪我人もなく、盗賊は一人残らず一網打尽。
そしてナツメイトの活躍はすぐさまホウエン王の元に届くのだった。

ツキ
 「陛下! 親衛隊から連絡が届きました!」

ホウエン王
 「うむ、して内容は?」

ツキ
 「ナツメイト指揮下、完全勝利、損失0、盗賊団一網打尽とあります、姫様は最前線で勇敢に戦ったとも」

ホウエン王
 「! それは誠か!?」

ツキ
 「はい! これは間違いなくナギーの書状、ナギー殿が嘘を書くことなどあり得ますまい!」

ツキとホウエン王は喜んだ。
ホウエン王はナツメイトを愛していたが、同時にその性格は危惧していた。
ナツメイトは優しすぎる、そして自分にあまりに自信がない。
だから不安だったが、それは杞憂だった。
ナツメイトはやれば出来る、見事証明したのだった。



***



フラン
 「嘘でしょ!? まだ1週間よ? 現地に移動で5日は掛かるわ、2日で終わったって事?」

カトリーヌ
 「良かった……ナツメは無事なのね?」

そしてナツメイトの快勝は二人の姉にも届いていた。
フランは信じられないという顔をしていたが、一方でカトリーヌは安堵して胸を撫で下ろした。

親衛隊
 「はい、現在帰還中とのこと」

フラン
 「誤算だわ……あの子がそんな活躍をするだなんて」

カトリーヌ
 「お父様もお喜びになるわ」

フラン
 「もう! お姉様は! これはなにかの間違い……そう、きっと盗賊が弱すぎたのよ! そうに決まってる!」



***



ナツメイト
 「はぁ……疲れた」

帰還中の馬車の中で、ナツメイトは私に倒れかかった。

華凛
 「ふふ、お疲れ様」

ナツメイト
 「ねぇ……私本当に勝ったの?」

華凛
 「勝ったよ、簡単だったろう?」

ナツメイトは小さく頷いた。
きっと夢心地なんだろう。
実戦と聞かされて、初陣からワクワクする奴は狂人だ。
ナツメイト位臆病なのが普通だし、優秀な証だ。
馬鹿な将軍は兵士を使い潰すが、ナツメイトは臆病な分、損害を嫌う。
考えて考えて考え抜いた上で、軍を動かし、そして勝ったのだ。
正直拍子抜けで、だからこそ現実感が沸かないのだろう。

華凛
 「疲れたろう? もうおやすみ」

ナツメイト
 「うん、おやすみ……なさい」

ナツメイトはそう言うとすぐに寝息を立てた。
私は優しくナツメイトを抱き寄せ、枕代わりになるのだった。



***



ナツメイトの凱旋は、行きとはまるで違う物だった。

ナツメイト
 「ふあ〜……」

私達は馬車から、城下町を覗くと街道にはポケモン達が集まっていた。
全ては、ナツメイトを見たくてだ。

ナツメイト
 「これ? なんなのかな?」

ナツメイトは初めての体験に戸惑っていた。
私は胸を持ち上げると、「フッ」と笑った。

華凛
 「ナツメイト様の初陣の勝利を祝っているのですよ」

ナツメイト
 「そう、なんだ〜、はぁ」

ナツメイトはまだ信じられないという顔だ。
つくづく、武闘派というには疑問も残るな。

女性
 「ナツメイト様ー!」

ふと、2階から笑顔で手を振る町娘がいた。
ナツメイトはそれに気づくと、笑顔で手を振った。

ナツメイト
 「あ、あはは」

女性
 「キャー! 手を振ってくれたわ!?」

華凛
 「カリスマ……いや、アイドルだな」

私は今のナツメイトをそう評する。
ナツメイトはこの国の住民にとってアイドルなんだろう。



***



王城へと帰還すると、私達は直様ホウエン王の元に向かった。
ホウエン王は玉座の間におり、私は直ぐに片膝を付いて頭を垂れた。

ナツメイト
 「お父様、ただいま帰りました!」

ホウエン王
 「うむ、大義であった。その活躍も聞き及んでおるぞ」

ナツメイト
 「そ、そんな……私はカリンがいなければ」

ナツメイトはそう言って照れる。

華凛
 「ふ、謙遜です」

私はそう言って微笑すると、ホウエン王は手を叩いて笑った。

ホウエン王
 「ハッハッハ! そうだぞ! 一人も兵を欠かす事なく、盗賊を討伐したのはお前なのだからな!」

ナツメイト
 「は、はは……」

ナツメイトは困ったように笑った。
謙虚は美徳と言うが、ここまで行くと悪いとも思えるな。

カトリーヌ
 「お帰りなさい、ナツメイト、ふふ♪」

後ろから二人の美女が現れた。
カトリーヌ様とフラン様だ。
ナツメイトは振り返ると嬉しそうに、カトリーヌに抱きつく。
一方でフランは吊り目を持ち上げ、腰に手を当てて、ナツメイトに言う。

フラン
 「フン! 少しはマシな顔になったわね!」

ナツメイト
 「あ、は、はい!」

ホウエン王
 「お前達、少しカリンと話がしたい……3人共席を外しては貰えぬか?」

華凛
 「? 私と?」

私は不思議に思った。
一体何の話だろうか?

カトリーヌ
 「畏まりました……行きましょう、貴方たち」

ナツメイト
 「はい! あの、一杯お話したい事があるんですよ!?」

フラン
 「ふん」

三人は王に優雅に会釈すると去って行った。
周囲から気配が消えると、私は顔を上げる。

華凛
 「して、話とは?」

ホウエン王
 「うむ、ワシももう歳でな……そろそろ王位を譲るべきか悩んでおる」

なるほど、つまり誰が王位を継承するに値するか、私から忌憚なき意見を聞きたい訳か。

華凛
 「単純に考えれば、カトリーヌ王女でしょう」

ホウエン王
 「ふむ? しかしアレは武においてはからっきしだぞ?」

華凛
 「ですが、カリスマがあります。知性的で更に思慮深い……」

ホウエン王
 「ふむ……、あえてナツメイトを推さないのだな」

私は少し黙ってしまう。
ホウエン王は本当に悩んでいるのだろう。
ホウエン王にとっては三姉妹いずれも、列記とした王女だ。
厳つい王だが、愛らしい娘達には少し甘い。

華凛
 「一つお聞きしたい、何故私がナツメイト派と承知で質問するのですか?」

ホウエン王
 「無論分かっておる、だがワシはそなたの事も知っているつもりだ、嘘や忖度をする女ではあるまい?」

私はホウエン王の目を見た。
8歳の頃、ナツメイトの剣術指南役となったが、実際は世話役であり、そして姉妹のような物だった。
それはホウエン王も承知で、私をホウエン王は子供のように愛し、重用してくれた。

華凛
 「はっきり言いましょう、ナツメイト様は確かにカリスマがある。なにより民衆の理解は姉妹の中でも最も優れているでしょう」

ナツメイトはまだ自分のカリスマに気付いていないが、既に兵士や親衛隊にもその名は知れ渡った。
そして元々奔放な性格だったナツメイトは、頻繁に城を脱走しては街遊びを繰り返す子だった。
第三王女という、末っ子だからこそ自由だったと言えるが、そのお陰で最も庶民がどういう物なのかも理解している。

ホウエン王
 「お前がそうまで評するなら、なぜ?」

華凛
 「フラン様です。ナツメイト様をフラン様はライバル視しています、絶対にフラン様はナツメイト様の王位継承を認めないでしょう」

ホウエン王
 「だからカトリーヌ、か」

フランでもカトリーヌが継承するなら、認めるしかないだろう。
カトリーヌ様も民衆には人気もある、政治においては間違いなくナンバー1だ。
一方、フランもまたカリスマがない訳ではない。
彼女を信望するシンパもあり、決して見劣りする存在ではない。

華凛
 「決定的……ナツメイト様が継承するにおいて、周囲を黙らせられるだけの実績があれば、フラン様といえど、認めざるを得ないでしょう……」

ホウエン王
 「……あいや、よく分かった……、もう下がって良いぞ」

華凛
 「は……!」

私は作法に則り、立ち上がると会釈して、退出した。



***



華凛が退出した後、玉座の後ろから二人の男が現れた。
片方は青いローブを着た小柄な老人、背中には黒い翼が生えていた。
もう一方は全身の毛が白く、精胆な顔つきの40代の男だった。
政治を司るヤミカラスのツキ、軍事を司るネギガナイトのグラートだ。

ツキ
 「ふむ、やはり決定的な論拠なくば、王位は揉めそうですな」

ホウエン王
 「うむ、やはり今は早計か」

一部始終を見ていた、この国のトップ陣も、これは簡単に出せる答えではなかった。
だが、分かった事もある。

グラート
 「三者甲乙付けがたいならば、それを決める場を用意するのはいかがでしょう?」

ホウエン王
 「しかしどうする?」

グラート
 「四軍合同軍事演習……これを利用しましょう」

四軍合同軍事演習、今より1月後、中部四カ国の交流を兼ねて行われる事になっていた。
非常に大規模な物であり、そしてそれはナツメイトへの新たな試練となるのだろうか……。



突ポ娘if #2 完

#3に続く。



KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:14 )