突ポ娘短編作品集


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短編集
突ポ娘if 神話の乙女と呪いの姫 #1

それはもしも《IF》の物語。
もしかしたらあり得たかもしれない。
しかし、決してその歴史には辿り着かなかった。

もし……もしもだ、貴方に過去を一度だけ変えられるなら、どうする?



突然始まるポケモン娘 ifシリーズ

神話の乙女 と 呪いの姫



カランカラン♪

来客を知らせるベルが鳴る。
私はいつものように入り口に向かう。

華凛
 「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

私の名は華凛、アブソルの女だ。
私は豊満な胸を持ち上げると、来客を笑顔で出迎える。

ご主人様
 「か、華凛ちゃん、また来たよ♪」

今日来たのは太ったメガネのご主人だ。
典型的なオタクという奴だろう。
私も知らない相手ではない、私は直ぐに席へと案内する。

華凛
 「ふふ、久し振りじゃないか」

オタク
 「う、うん! ちょっと仕事が忙しくてね?」

華凛
 「仕事か、注文が決まったら呼んでくれ」

私はそう言うと周囲を見渡す。
丁度今は閑散としており、何人か休憩に入っているな。
周りを見渡しても、客は3人程。

華凛
 「ふふ、今年の夏コミはどうするのだ?」

私は今なら大丈夫かと、客に少し近づく。
すると、このご主人はあからさまに顔を赤くして、キョドった。

オタク
 「あ、う、うん……今年も行く予定」

華凛
 「そうか♪ なら私も張り切らないとな♪」

私は俗にレイヤーと言われる。
何にでも挑戦する気質の私は人生を謳歌していた。
まぁ本当のご主人様であるダーリンには、まだキスで止まっているのだが。

オタク
 「ね、ねぇ? 華凛ちゃんはさ? もし一つだけ願いが叶うとしたら、どんな願いをする?」

華凛
 「願望、か」

ふとした質問だった。
いつもなら私は適当に流していたかもしれない。
いや、そもそも願望なぞ一つの筈ではないか。

華凛
 「決まっている、ダーリンの子供を……いや」

私は首を振った。
勿論それは願いだ、でも決して不可能な願いじゃない。
ダーリンを誘惑して、肉体関係を結べば子供を拵えるのも難しくはない。
私は自分にだって勿論自信がある。
だから……私は脳裏によ過ぎってしまった。

華凛
 「過去を変えたい……あの時、あの時さえ変えられれば……!」

私は胸を強く抑えた。
忘れたくても忘れられない記憶。
それは私がまだ弱くて情けないガキの時だ。


『やり直せるわ』


華凛
 「え?」

私は顔を上げた。
だが、次の瞬間私は、ある懐かしい顔を見た。


 「おい、カリン? どうした?」

華凛
 「か、カゲツ?」

そこにいたのは着流しの上から洒落た西洋マントを纏った偉丈夫だった。
30前後の厳つい大男は屈強な腕を組んで私を見下ろしていた。
私は戸惑った、何故カゲツが生きている?
だが、異変はそれだけじゃなかった。

華凛
 「あれ? 私……?」

私は自分の手を見た。
小さな手、そして私のあの大きな胸は欠片もない。
若返っていた、それも十にも満たないガキに?

カゲツ
 「はぁ? たくまぁた神話の乙女って奴の神憑りか?」

華凛
 「……」

私は唖然とした。
間違いない、これは過去だ。
まだカゲツが生きている頃の過去。
私は涙腺を崩壊させると、涙した。

華凛
 「ヒック! よ、良かった……また会えた……!」

カゲツ
 「は、はぁ!? なに泣いてんだ!? ずっと一緒に暮らしてるだろうが! この泣き虫小僧が!」

そうだろう、私はこの頃泣いてばっかりだった。
カゲツは私を鍛えてくれたけど、凄いスパルタで、私は毎日痛みで泣いた。
だけどカゲツはSだろうが、優しい男だった。
奴隷商人に売られた私は、その日の内に野党に殺されかけ、それもカゲツが殺し、引き取られた。
私ようなガキの面倒を見る義理はカゲツにはなかった筈だ。

カゲツ
 「ちい! あーもう! 酒だ! おいカリン! 酒買ってこい!」

華凛
 「……やだ!」

私は涙を拭うと、きっぱり断った。
しかし納得がいかないのはカゲツだ。

カゲツ
 「はぁ!? 生言ってんじゃねぇぞ!?」

華凛
 「カゲツと一緒」

そう言うと私はカゲツの手を取った。
無骨で逞しい腕、カゲツは私を見た。

カゲツ
 「……チ! 確かにガキに酒運ばせんのは危険、か」

カゲツはそう言うと立ち上がった。
180センチ超えの巨漢。
まるで傾奇者のような姿はとても奇抜だった。

私達は普段、街のほとりの洞窟に住んでいた。
この頃の北部はまだ貧しくて、とても治安が悪かった。
丁度カゲツが死んだあの日、その原因は私が酒を買いに行った時だった。
私は野党に攫われてしまったのだ。



***



華凛
 「……」

私は懐かしい街に入ると、周囲を警戒した。
その街は北部では栄えている方だが、ゴロツキはいたる所にいる。
だからこそ、カゲツのような賞金稼ぎが成り立つのだろうが。

カゲツ
 「チ……! いやがるな」

カゲツは舌打ちをすると、眉間に皺を寄せた。
その直後、野党が私達を包囲した。

野党A
 「久し振りだな? ええ、カゲツ!」

華凛
 (こいつら!?)

それは私の覚えのあるポケモン達だった。
柄の悪いリングマをボスに、北部らしく種族もバラバラの一団だった。
私は拳を強く握った。
コイツらに私は捕まってしまった性で、人質にされ、カゲツはリンチされ、殺された。

カゲツ
 「たく! 俺は会いたくなかったぜ……テメェらみてぇな屑にはな!」

リングマ
 「へ! 野郎ども! やっちまえ!」

カゲツ
 「カリン、離れてろ!」

カゲツが太刀を抜いた。
カゲツにこそ相応しく、私の戦いにも耐えた大業物。
野党の数は多い、だがカゲツは笑っている。
この程度で怯む程もないからだ。

野党B
 「おら!」

カゲツ
 「ふん!」

後ろからニューラの男が小刀で襲いかかる。
だが、カゲツは振り返ることもなく、大業物を振るって、ニューラを輪切りした。

野党C
 「く、くそ!? 死にやがれぇ!」

粗末な刀を大きく振り上げたのは、カブルモだった。
だが、あまりにも隙だらけの構えは、私でさえ呆れるものだ。
当然カゲツは一刀のもと斬り伏せた。

カゲツ
 「やっぱり、クズはクズだな……!」

リングマ
 「ば、化け物め!」

カゲツ
 「テメェらを生かした事、今は後悔してるよ!」

そのまま、数の暴力さえも物ともせず、カゲツは野党を一掃した。
カゲツの技は凄まじく、そしてカゲツは血に塗れる事もなく、それは終わった。

カゲツ
 「さーて、さっさと酒買ってくぞ!」

華凛
 「呆れた、まだ酒に拘るなんて」

カゲツ
 「へ! ポケモンを殺した後は酒が飲みたくなる!」

華凛
 「格好良くないから」

そんな風に私自身さえも、動じてはいなかった。
私達は怯える人々を無視して、酒屋に向かうのだった。



***



カァン! コォン! カァン!

訓練は続いた。
だが、私は直ぐにカゲツの木刀を振り払った。

カゲツ
 「ッ!?」

カゲツは信じられないという顔をしていた。
それもそうだろう、この頃の私は救いもない程情けなくて弱かった筈だ。
だが、今の私は違う、体捌きも、剣の振るい方も地獄の中で学んでいったのだ。

華凛
 「辻斬り、一の式、瞬剣!」

カァン!!

ついに、私の一撃はカゲツの木刀を弾き飛ばす。
カゲツの木刀はカランカランと音を立て、遠くに転がった。

カゲツ
 「信じられねぇ……お前、何があった?」

華凛
 「ふ、いつまでも子供じゃないってことさ」

なんていうが、子供の身体じゃ説得力が無いわね。
まぁ神話の乙女のブーストがあれば、こんな物なのだろう。
今の私は8歳、だった筈……とにかくこんなガキに負ければカゲツも流石にショックだったろうか。

カゲツ
 「いつの間にか、辻斬りの奥義さえ習得しやがって」

カゲツはそう言うと、その場にしゃがみ込む。
その目からは内心は分からない。
だが、強い目が私を捉えていた。

カゲツ
 「だが、その極意はそこで終わりじゃねぇ」

華凛
 「ああ、二の式船斬り、終の式百花繚乱、だね?」

カゲツ
 「ああ……ち! 神話の乙女ってのはつくづくバケモンなのかね?」

カゲツはそう言うと、腰に刺した大業物を手に取った。
そして、私に投げる。
私は慌てて、受け取ると。

カゲツ
 「とりあえず、免許皆伝だ、お前ならもうゴロツキにゃ負けねぇだろう」

華凛
 「カゲツ……」

私は驚いた。
こんな良い物を私が手にしてもいいのか?
カゲツは私がこの刀に触れる事を強く嫌がっていた。
それ程に、カゲツには大切な物の筈。

カゲツ
 「ああいいよ! そいつは代々伝承者が持つべきものだ!」

そう言うとカゲツはその場で横になった。
大きく欠伸をすると、更に言う。

カゲツ
 「これで、俺も引退だな……もうオメーのほうが強ぇもん」

私はなんだか、おかしくなった。
カゲツはいつまでも強くて我儘だった。
傲慢さは強者の権利と言って憚らず、それがこんな不貞腐れたようになってしまった。

華凛
 「ふふ、そうか」

カゲツ
 「ち……何がおかしい?」

華凛
 「いや、なんでもない」

私は笑った。
私はもう大丈夫だ。
カゲツを守れる、願いが叶ったんだ。

華凛
 「ねぇカゲツ、これからどうする?」

カゲツ
 「そうだな……いい加減賞金稼ぎも飽きたしなぁ?」

私は刀を腰に差した。
凄まじく不格好だが、これで良い。
私は顔を上げると、笑顔で提案した。

華凛
 「なら、中部に行ってみないか?」

それは、正に私の知らない歴史だった。
本来の私はカゲツを殺した運命を呪い、伝説のポケモントレーナーを恨んだ。
何故、私を助けてくれないのか、憎悪は力になり、私は北部の野党を統一し、武力によってアーソル帝国を建国した。
でも、今の私にはもう、皇帝になりたいなんて想いはなかった。



第一章 始動編



カゲツ
 「はぁ〜! すげぇなぁ!」

私達は中部の内、武王ホウエン17世の治めるホウツフェイン王国にやってきた。
丁度その日はお祭りがあり、城下町は非常に活気づいていた。

カゲツ
 「治安も良いし、物も溢れてる……呆れる程豊かだな……」

華凛
 「北部とは桁違いでしょ?」

カゲツ
 「ち、知った口を!」

出店の店主
 「やぁ! 親子連れかい!?」

おっと、小物を売る出店の店主が笑顔で声を掛けてきた。
私はその店に寄ると、色々なアクセサリが売っていた。
北部では見られないような綺麗な装飾、こういった小さな店舗でも、やはり違う。

カゲツ
 「生憎だが、親子じゃねぇ、後あんまり持ち合わせちゃいねぇぞ?」

華凛
 「ふふ、甲斐性なしめ」

とは言っても、ここまで来るのも旅賃は嵩む。
ここいらで、金を稼ぎたい所だが。

出店の店主
 「ならさ! 兄ちゃん! この国の催し知ってるかい!?」

カゲツ
 「あん? なんだいそりゃ?」



***



騎士
 「さぁ! 年に一度の武を見せる時! 優勝者はホウエン王より、恩賞を授ける!」

カゲツ
 「……流石、武の国だ」

華凛
 「エントリーだ」

騎士
 「む? いい身体だな、ここでは武器の使用も許される! 命を惜しむなら止めたほうがよいぞ!?」

エントリーを受け付ける騎士はカゲツを見るとそう言った。
カゲツは面倒くさそうに頭を掻き、私はクスクスと笑う。

華凛
 「勘違いするな、エントリーするのは私だ♪」

騎士
 「は? 聞き間違えかな?」

カゲツ
 「本当だ」

騎士
 「あ……ルール説明は?」

華凛
 「既に把握している、華凛だ、アブソルの華凛」



***


武の国ホウツフェイン王国が建国して以来、この建国記念日には、その年最強のポケモンを決める武闘大会が開催される。
優勝者はホウエン王から、恩賞を受けられると言われていた。
当然それは一般人からすればきっと、喉から手が出る程の富なのだろう。
とりあえず当面の資金を工面したいし、私にとっては力試しだった。
ホウツフェイン城の前に特別設置された会場には、観客席も設置され、城のテラスにはこの国の王女達が見守っていた。
そして、展覧するのはホウエン王。

ザワザワ、ザワザワ!

観客A
 「おいおい、子供だぞ?」

観客B
 「戦えるのか?」

そのトーナメントに、私が会場に赴くと、会場は騒然とした。
年端もいかない子供が出てきたのだから驚くのも無理ないが。

華凛
 「フ」

私は微笑を浮かべる。
目の前にいたのは、ダイケンキの大男だった。

ダイケンキ
 「ガキ? ここは遊び場じゃないぞ?」

華凛
 「承知している、貴様こそ見た目に惑わされるな?」

騎士
 「両者前へ! いざ尋常に! 勝負!」

私は前屈みに構えた。
ダイケンキは両脇に差したホタチという特殊な刀に手を添える。
だが、やはり見誤ったな。

華凛
 「参る!」

キィン!

私は一瞬で踏み込むと、居合を放つ。
それはダイケンキにホタチを抜かせる間もなく、胸当てを砕かれ、後ろに倒れた。
因みに私は、一応手加減したつもりだが。

騎士
 「あ……」

華凛
 「まだやれと?」

私は太刀を鞘に戻すと、審判をする騎士に聞いた。
騎士は現実を理解すると、慌てて手を上げた。

騎士
 「そこまで! この勝負アブソルのカリンの勝ち!」

会場は沈黙した。
だが……すぐに騒然となった。
目にも見えぬ早技は、一気に会場を盛り上げた。

カゲツ
 「へ! あの程度の雑魚じゃな」

私は観客席のカゲツを見た。
カゲツは腕を組んで笑っている。
まぁ、この程度ならカゲツでも楽な相手だろうな。



***



その後も私は苦戦することさえなかった。
国中から集まったであろう腕自慢達も私を満足させるレベルではない。
まぁ、トウガやワンククラスがいるなら、今の私では苦戦するかもしれんがな。

騎士
 「そこまで! 今年の一番の武の者は、アブソルのカリン!!」

観客
 「「「ワアアアアアアア!!!」」」

その日の夕方、舞踏会は終わりを迎えた。
大興奮の中、私は会場の中心で手を振って観客達に答えた。

ホウエン王
 「見事であった!」

観覧席から降りてきたのは、ホウエン17世だった。
私の記憶にある無骨な王は、まだ少し若い頃の姿だった。
恐らく40代、エルレイドらしく肘から伸びた刃は厳つい。
武王と言われる男の厳つさは見事だった。

華凛
 「は! 恐悦です!」

私は頭を垂れると、ひっそりと笑ってしまう。
まさか、一度殺した相手に頭を垂れる事になるとはな。
だが、この世界では私は皇帝カリンではない、ただの神話の乙女カリンなのだ。

ホウエン王
 「して、汝望みは?」

華凛
 「よろしければ、着物と、少々旅の駄賃を」

私は顔を上げるとそう言った。
ホウエン王はどんな言葉を期待していたのだろう。
ただ、髭もじゃのホウエン王は驚いた顔をして。

ホウエン
 「ハッハッハ! 良かろう! まさかそんな程度が望みとはな!」

ホウエン王はそう言って大笑いした。
中部にはあらゆる富が集まる。
それだけ豊かで、富を独占する。
だからこそ、私の望みは本当に些細だったのかもしれない。



***


華凛
 「ふふ♪」

夕過ぎ、私はご機嫌で、踊るようにその場で回った。
ホウエン王より頂いたのは、真紅の着物だった。
少し身の丈より大きい物だったが、花柄が刺繍された上等な物だった。
旅賃も、少し勿体ない位貰ってしまったし、大変気分がいい。

カゲツ
 「馬子にも衣装、か」

華凛
 「なにか言ったか?」

カゲツ
 「いーや、なーんも」

カゲツは私の後ろをついてきていた。
なんか嫌味を言われた気がしたが、それさえも気にならなかった。
正に絶頂なのだろう、カゲツを失わなかった私は、正に順風満帆だった。
たった一つの選択肢、それが変わっただけで、こんなにも変わったんだ。

出店の店主
 「おお! 嬢ちゃん! 嬢ちゃんスゲェな!」

華凛
 「やあ! 見てくれたのか?」

私達に武闘会の事を教えてくれた出店の店主が手を振っていた。
私はスキップをするように、その店に近づく。

出店の店主
 「はは! 俺はてっきり後ろの兄ちゃんが出ると思ったんだがな?」

華凛
 「悪いが私の方が強いのさ♪」

出店の店主
 「そのようだ! 嬢ちゃん、これプレゼント!」

そう言って差し出してきたのはかんざしだった。
木のかんざしだが、石が埋め込まれおり、それは光を受けて翆に輝いた。

華凛
 「いいのかい?」

出店の店主
 「はは! そんな上等なもんじゃねぇけどな!」

私はありがたく受け取ると、それを髪に差した。

華凛
 「ふふ、どう? 似合う?」

私はカゲツに振り返った。
だけど、なにか様子がおかしかった。

カゲツ
 「あ、ああ……」

華凛
 「カゲツ?」

カゲツの顔色は悪かった。
いつからだ? 気が付かなかった。
カゲツはフラフラと身体を揺らすと、その大きな身体を静かに倒した。

ドサ!

華凛
 「カゲツ? カゲツー!?」

出店の店主
 「だ、誰か!? 医者だ! 医者はいねぇか!?」

カゲツが倒れた。
私は慌てて、カゲツを抱き起こすが、カゲツはピクリとも動かなかった。



***



華凛
 「はぁはぁ! カゲツを助けてくれ!」

私はカゲツを背負うと、病院へと急いだ。
既に夜を迎え、診療も終わっているというのに、私は無理を言ってカゲツを診察してもらった。
だが、その答えは無情な物だった。

華凛
 「え? 今……なんて?」

医者
 「この男、現代の医療では治せぬ病を持っておる……それも既に発症して3年は経過しておる」

華凛
 「うそ、でしょ?」

医者は首を振った。
カゲツの病は極めて珍しく、そして致死性の高い物だと言う。
そしてカゲツはそれを少なくとも数年前から持っていたという。
私は涙が止まらなかった。
カゲツに、限界が来たのだ。

華凛
 「なんで、なんで黙ってたのよカゲツー!?」

私は泣き崩れた。
カゲツは結局目を覚ますこともなく、私は地獄へと落とされた。
カゲツの葬儀は、お医者さんの計らいで、ひっそりと行われた。
私は現実感を失いながら、ただ呆然と生きる気力を失ってしまった。



***



華凛
 (どうして……どうしてカゲツは?)

思えば、カゲツは生き急いでいたように思えた。
私はカゲツの遺品である太刀を見る。
これをカゲツは自分が生きている内に渡しておきたかったのかも。
賞金稼ぎを辞めたのも、本当は肉体が悲鳴を上げていたのを隠した結果なのかも。
カゲツは結局なにも教えてくれず、私は街の外れで、死人のように佇んでいた。

少女
 「ねぇ? どうしたの?」

華凛
 「……?」

私はゆっくりと顔を上げた。
綺麗な白い洋服を着たラルトスの少女が太陽のような明るい微笑みを返してきた。

ラルトス
 「ねぇ! 私と遊びましょ♪」

華凛
 「え? ちょ、ええ!?」

そのラルトスの少女は、私の手を強引に引くと、走り出した。
私は慌てて立ち上がり、少女に引っ張られるままだった。

ラルトス
 「ウフフ、アハハ♪」

少女は踊るように笑った。
まるで太陽だ、私とは対極にいた。

ラルトス
 「ねぇ? 何して遊ぶ? かけっこ? かくれんぼ!?」

華凛
 「わ、私はその……!?」

その時だった。


 「姫様ー! ナツメイト様ー!?」

ラルトス
 「あ!」

空から真っ黒な翼の初老の男が誰かを探していた。
いや、誰かじゃない眼の前の相手をだ。
ヤミカラスの男は、私達を見ると、「あ!」と大きな声を上げた。

ヤミカラス
 「見つけましたぞ姫様ー!」

ナツメイト
 「ぶう!」

ナツメイトは私を盾にすると、顔を真っ赤にして頬を膨らませた。
私は呆然とする、この子……この子が私と殺し合ったナツメイト?

ヤミカラス
 「姫様! 何故お稽古をサボったのですか!?」

ナツメイト
 「やーだー! つまんないー!」

ナツメイトはそう言うと、私の手を握ったまま、ブンブンと手を縦に振った。
私は呆気にとられて、二人を交互に見る。

ヤミカラス
 「やだじゃありません! このツキ! 姫様の事をホウエン王よりお任せされているのですぞ!」

華凛
 (ツキ、そうか……後のホウツフェイン王国宰相)

確か覚えがあった。
ヤミカラス族は知能が高く、政治職に就く者は多い。
まぁこの頃のツキはまだ、そんな高官ではないのだろうが。

ナツメイト
 「ヤーダー! このお姉ちゃんと遊ぶのー!」

それにしてもこの癇癪、年齢通りといえばそれ迄だが、本当にあの王女様か?
私も本来ならこれ位の我儘言うガキだったんだろうか。

ツキ
 「む? よく見ればお主どこかで?」

ツキは私を見て、首を捻った。
私はこの出会いを、運命なのかと実感する。

華凛
 「一つ聞きたい、お稽古とはどのような物で?」

ナツメイト
 「剣のお稽古なの……でも、全然面白くないの!」

ツキ
 「面白くないではありませんぞ……例え王女といえど、武王の血筋、剣を取らねばならぬのですから!」

なるほど、流石に武の国だ、女でさえ王族なら、強くなければならぬのか。

華凛
 「ならば、この私を雇って見ませんか?」

ツキ
 「なに?」

華凛
 「ナツメイト様、私なら楽しく遊びながら、お稽古できますよ?」

ナツメイト
 「本当!?」

ナツメイトは目をキラキラさせた。
遊ぶという部分に惹かれたのだろうが、別に構わない。

ツキ
 「あ! 思い出した! 武闘会で優勝したアブソル!?」

それは運命だった。
本来ならば殺し合った私達が出会ってしまった。
ならば私は受け入れよう。
カゲツは逃れられぬ死を迎えた、それは私にはどうしようもなかった。
だからといって、今更アーソル帝国を建国しようとは思わない。
病で失って八つ当たりするのはあまりにも格好悪いからな。

こうして私は、幼いながらナツメイトの剣術指南役になるのだった。



突ポ娘if #1 完

#2に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/24(木) 18:14 )