突ポ娘短編作品集


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3周年記念作品 エピローグ

エピローグ



デロデロデロデロ!

フーパ
 「ここからは おまえひとりで いくのじゃ! ぬかるな!」

『れいりょくとこうかん』
『そうび』
『くうかんいどう』

いよいよラスボス魔王パンデュラとの最終決戦だ。
それにしてもラスボスだけに奇っ怪な姿しているわね。
魔王パンデュラは唇と2つ目がものすごいスピードで襲ってくる。
私はなんとか回避しながら、集中攻撃で部位を破壊していく。
そして全ての部位を破壊すると、一番頭上の本体と思われる物が攻撃を仕掛けてくる。
私は最後まで冷静に回避しながらも、攻撃を重ね遂に……!

フーパ
 「まて、サトシ! ジラーチを ゆるして やってくれ!」
 「こいつは わたしたちが いちばん さいしょに しんゆうになった こども だった」
 「しかし、わけが あって まおうに なってしまったのじゃ!」
 「・・・・ジラーチも わしらを ゆるしてやってくれぬか?」

ジラーチ
 「・・・・ふん! はなし もりあげるんじゃ ねえよ!」

ラスボスはそう言うと去っていった。
これでエンディングだった。



ステラ
 「……クローンサーガよりヒデェ」

私はフーパこと牡丹に渡されたゲームをプレイさせられると、クリアして出てきた言葉はそれだった。
てか元ネタRPGなのに、なんでシューティングゲームになってるの?
私は思いっきり目付きを悪くすると、隣で爆笑しながら手を叩く牡丹を睨みつけた。

牡丹
 「ギャハハハ! 本当に神様って勝手だよなー!」


 「だって神様だもん」

後ろでゆっくりとお茶を飲む本物の神様はそんな事を言った。
呑気にしてるけど、強かになったわよねこの子。

ステラ
 「てか黒歴史いきなりエピローグで出してくるとか、アンタ悪魔かなんかか?」

牡丹
 「だってアレ無許可だし、こっちの神様監修してないからやりたい放題されたからなぁ〜、アタシなんて何故か紫髪のポニテ扱いだし」

ああ、そういえば容姿違ってたわね。
実際は金髪ショート、褐色の部分は合ってたけどね。

ステラ
 「私だって、あんなナヨナヨしてないわよ」

牡丹
 「ギャハハハ! そりゃそーだ! あんな可愛らしい八つ当たりする位なら、ステラはまず鉄拳制裁するからな!」


 「お前らなんの話してんだ?」

テレビゲームを終えて一息つくと、茂がリビングにやってきた。
今日は休日だから部屋でゆっくりしていたと思ったけど、煩くしたかしら?

牡丹
 「あー? なんていうの?」


 「そう、それは限りなく近く、そして遠い世界だから」

茜がなんだか良く分からない表現で説明するが、茂は首を傾げるだけだった。
ていうか、茜は事情知らないでしょ、知っててもあの頃の茜が手出しする訳がないけど。


 「うむ? まぁいいさ……ステラ達にも事情があるんだろうしな」

ステラ
 「ええ、でも安心して……貴方の前では絶対に無理しないから」

私はそう言うとにこやかに笑う。
しかしそれを見た牡丹はいやらしく茂に腕を絡めた。

牡丹
 「んふふ〜♪ そんなことより、アタシと良いことしよう?」

ステラ
 「む!」

牡丹
 「ふふん♪」

牡丹は私に振り返ると、勝ち誇った。
あからさまに見せつけてくれてまぁ。
ていうか茂もデレデレしないの!


 「あー、すまんがこれから出掛ける必要があってな?」

牡丹
 「えー?」


 「牡丹、ご主人様を困らせちゃ、メ……よ?」


 「キャキャ♪ あーいあーい♪」

茜は命に構いながら優しく諭すと、牡丹は渋々茂から離れた。
なんだかんだ、牡丹も茂に甘えるようなったわね。


 「それじゃ、晩までには戻るから!」


 「行ってらっしゃいませ、ご主人様」

茜はそう言うとペコリと頭を下げる。
茂はいつものように茜の頭を撫でると、足早に家を出て行った。


 「むふ、元気百倍♪」

牡丹
 「相変わらずナデナデが好きだねぇ」

ステラ
 「しょうが無いでしょ、茂お兄ちゃん魔法の手の持ち主だもの」

何故か茂お兄ちゃんのナデナデって気持ちよくなっちゃうから癖になるのよねぇ。
流石に私は恥ずかしいし、子供じゃないから茜みたいにあからさまに要求はしないけど、一度嵌まれば抜け出せなくなっちゃう。

ステラ
 「はぁ……あら?」

私はゲーム機の電源を落として、背筋を伸ばすと、キッチンを見た。
キッチンには永遠と保美香がいた。

永遠
 「お願いします! お小遣いアップしてくださいっ!」

牡丹
 「おいおい、アッチの神様は何やってんだ?」

そう言えば牡丹は事情知らなかったわね。
永遠は月5000円のお小遣いを貰っている。
だが今日び中学生でももう少し貰っているだろう。
永遠は意外と悪い事をしたがらないし、散財しちゃう所があるから、金欠なのだ。
特に今月は一回お寿司奢らせて貰ったしね。

そうやって永遠は両手を合わせると、頭を90度下げてお願いする。
保美香は困った風に頬に手を当てていた。

保美香
 「あらあらもう……我が家は大食らいもいますし、命の事を考えると節約しないといけませんのに」

永遠
 「そこをどーか!」

永遠はその場で土下座した。
それには牡丹も「うわ」と信じられない顔をして口を手で塞いだ。

牡丹
 「あの神様、どんだけお金に困ってんのさ?」

ステラ
 「聞かないほうが幸せよ?」

私達は生暖かい目でそれを眺めていると、保美香はついに折れたようにため息を履いた。

保美香
 「はぁ、今月だけですわよ?」

保美香はそう言うと財布から千円札を2枚取り出した。
永遠は顔を上げると歓喜してそれを受け取ると、その場で小躍りするように喜びを全身で表した。

保美香
 「いいかしら? 大切に使うのですよ?」

永遠
 「ヒャッホー! 愛してるわ保美香ー♪」

ステラ
 「永遠、それ何に使うの?」

永遠
 「あ、ステラ。うふふー、私は神様よ♪ 皆の為にね?」

ステラ
 「皆の為?」

私はなんの事か分からない。
永遠はウィンクをするとそれを大切に財布に仕舞った。

永遠
 「そんじゃ私も出掛けてくるー♪」

永遠はそう言うとステップして、玄関から出て行った。
一体何考えているんだか。

牡丹
 「ふーん、なるほどね」

しかし、牡丹はなにかわかったのか、ニヤリと笑っていた。

ステラ
 「なに? 永遠が何買うか分かったの?」

牡丹
 「分からなくても予想ならつくね、逆にステラは分からない?」

ステラ
 「?」

やっぱり分からない。
私は首を傾げると、牡丹は笑っていた。

ステラ
 「そういえば、牡丹はこれからどうするの?」

私はもうすっかり常葉家に居候して長かった。
この家の人たちは本当にお人好しばかりで、私をなんの躊躇いもなく家族だって受け入れてくれた。
そしてそれは牡丹も一緒だった。

保美香
 「ステラも牡丹も、遠慮はいらないかしら?」


 「ん、家族だもんね」

牡丹
 「はは♪ 本当に嬉しいな、でも……アタシ達は旅するポケモンだからねぇ」

ステラ
 「行くの? なら私も……!」

私はやっぱり牡丹についていきたい。
でも牡丹はそれを手で静止した。

牡丹
 「ひとまず、それは置いておこうぜ?」

ステラ
 「え?」

牡丹にしては珍しい回答だった。
私達はいつだって一緒に行動し、旅をしてきた。
牡丹が旅に出るなら、当然私もついていくつもりだった。
でも、牡丹は違うのかしら?

牡丹
 「正直もう定住してもいいかとも考えたけど、やっぱり私は旅が好きだ」

ステラ
 「なら私もついていくわよ?」

牡丹
 「ステラは茂君と一緒にいたくのないのか?」

私はそれを言われると迷ってしまう。
そうだ、確かに私にとってマスターである茂は大切な存在だ。
でも、茂が私を束縛しない限り、牡丹についていくのは問題ない。
要するにどちらが大切かの問題だ。


 「あんまり難しく考えちゃだめよ?」

ステラ
 「茜?」


 「どこかの独りぼっちの宇宙の支配者さんみたいになっちゃうからね……」

それを聞くと今度は牡丹が顔を暗くした。
そうだ、これははっきりしとかないと。

ステラ
 「牡丹、ラナグオルのことだけど」

牡丹
 「あの大馬鹿は……アタシの寂しさを初めて埋めてくれたんだ……確かに救いようのない大馬鹿者だったけど、アタシにとっては特別だったんだ」

そう言うと牡丹は穏やかに微笑んで、ソファーに顔を埋めた。
ラナグオルは私からすれば、最低最悪の暴君だったけど、牡丹にとってはそれも含めて特別だったんだろう。
これに関しては私も強く言えないわね……。

牡丹
 「ま、でも罰が当たったんだ! アタシもラナグオルがいなくなって清々してるさ!」

牡丹はそう言うと笑った。
私は無理して笑っているんじゃないか心配するけど、下手に突っ込めない。
こればっかりは、牡丹が全て精算するしかないんだ。


 「もし、もう一度やり直そうって言ってきたら?」

牡丹
 「顔面ぶん殴る! それで縁切って終わりさ!」

ステラ
 「そう……それでいいのね?」

私は牡丹の答えに納得する。
牡丹は既に名の呪縛はない、でもアルマだった頃の記憶は嘘になんかならない。
牡丹が茂の事が好きなのは知っている。
でもそれと同時にラナグオルをどう思っていようと、私には関係ない。
結局、そんなドロドロの感情は私には何もしてあげられないんだから。

牡丹
 「さてと、少し散歩しようかな〜?」

牡丹はそう言うと勢いよく身体を起こし、立ち上がった。

ステラ
 「私も一緒していい?」

保美香
 「お昼ごはんまでには帰ってくるのですよ?」

牡丹
 「はいはーい♪ お昼ごはん楽しみにしてるよ♪」

私は牡丹ともう少し話がしたくて、一緒に家を出るのだった。



***



夕方、茂お兄ちゃんと永遠は一緒に帰ってきた。
その手には妙な物と一緒に。

ステラ
 「それは……竹?」


 「おう、後のこれな!」

永遠
 「えへへ〜♪ 私花火買ってきたよ!」

茂は枝葉の付いた竹と短冊、そして永遠は花火だった。
それを見た牡丹はやっぱりと納得した顔で言う。

牡丹
 「今日は七夕だからね?」

ステラ
 「たなばた?」


 「ステラ知らないのか?」

私は知らなかった。
私はポケモンだった頃は、いつも夏の1週間しか意識はなく、何かを学ぶ機会はなかった。
人化して、色んな事を牡丹から教えてもらって初めて世界のことを知った。
でも私はまだまだ知らない事があるのね。


 「そうか、今日はある意味でジラーチの日なんだけどな?」

ステラ
 「え?」

永遠
 「ねーねー! 短冊は何書いても良いんだよね!?」

美柑
 「一応そうなりますよね?」

短冊は色んな色の紙があった。
それは少し前まで私の体の一部でもあったそれにそっくりだった。

牡丹
 「元々七夕ってな、織姫と彦星が1年に1回、今日の夜しか会えない事に由来しているんだぜ?」

ステラ
 「織姫と彦星?」

興味深い話だった。
永遠達は早速短冊に願い事を書いていく。
茂は私にペンを差し出すと、短冊を目の前に置く。


 「ステラもどうだ?」

ステラ
 「願い事ポケモンが願い事するの?」


 「しちゃ駄目って理由はないだろ?」

私はペンを受け取ると少し考える。
私は普段願いを叶える方だけど、逆に願う側になった事は殆どない。
まぁ私の能力だと自分の願いは叶えられないんだけど、その彦星様だか織姫様だかに願えばいいのかしら?
それにしても私と同じなんて、こっちの世界の神様も気の毒ね。

ステラ
 「因みにどっちが願いを叶えてくれるの?」

牡丹
 「棚機津女(たなばたつめ)じゃないかな?」

七夕で短冊に願い事を書くのは定かじゃない江戸時代には既にあったようだ。
大阪で盛んだったらしいが、日本最古も確認は奈良時代だそうだ。
まぁ平成生まれのポケモンさんには酷だわな。

ステラ
 「ん〜」

私はペンを顎に当てると思案する。
直ぐにお願いが完成したのは茜だった。

美柑
 「茜さん、なんて書いたんですか?」


 「ん、ご主人様と命の健康と平和」


 「うー?」

命にはまだ分からないか、母の思いは中々通じないわね。

牡丹
 「ステラ、なんて書いたんだ?」

ステラ
 「ま〜だ、できても秘密だけどね♪」

牡丹は覗こうとするが、私は背を向けて隠す。
そうだ、私はこれにしよう♪



***



夜の閨も落ちると、私達は屋上に行った。
屋上には他にも短冊の掛けられた七夕飾りと言われる物が飾られており、私達も皆の願いが書かれた七夕飾りが設置される。


 「えーと方角は」

ステラ
 「何を探しているの?」

風流か、何名かが浴衣に着替えると、夜風を楽しんだ。
中央では茜や永遠が線香花火を楽しんでいる。
私は茂の隣で、何をしているのか観察した。


 「花火大会があるのさ、七夕祭りは日本中にあるからな」

そう言うと茂は空を見上げる。


 「お、ステラ見て見みろよ、天の川だ」

ステラ
 「え……あ」

私は空を見上げると、星の海が見えた。
この日本じゃ殆ど期待できないけど、今日は少しだけ星々が輝いて見えた。

ステラ
 「私の名前の由来……か」

星の空、決して綺麗とも言えないけどそれは私を照らしてくれる。

牡丹
 「おーい、花火大会までまだ掛かるじゃない? こっちで楽しもうぜー!」

牡丹はそう言うと、ねずみ花火に火をつけた。
点火したねずみ花火はアトランダムな動きで時に皆の足元に迫り、てんやわんやだ。
私は肩で息をすると、ゆっくり近づいていった。

ステラ
 「はいはい、私は線香花火で充分」


 「ん」

茜も線香花火がお気に入りか、それを一束渡してきた。
流石にそんなに一杯はいらないんだけど。


 「やれやれ、もう少し時間かかるか?」

牡丹
 「ほら、茂君が欲しいのはこっちじゃない?」

牡丹はそう言うとリングからビール缶を取り出した。
茂は「おっ」と嬉しそうな声を上げるとそれを受け取る。

保美香
 「あらあらまぁ? だんな様、程々にしてくださいませ?」


 「はは、分ってるって」

分かっていると言うが、茂は大のお酒好き。
フーパはワイン派だけど、良く晩酌で茂君と嬉しそうに飲んでるし、少しだけ羨ましいかも。
私はそんな茂の横顔を見ながら線香花火に着火して、その瞬くような輝きに魅入った。

ステラ
 「綺麗……一瞬で、儚くて……そして美しい」


 「ふふ、ステラは線香花火の方が好みか?」

ステラ
 「……どうかな? 皆と一緒だから楽しいのかもしれないし、もしかしたら茂とだからかもね?」

私はこの生活が居心地が良くて、気持ちよかった。
案外ずっとこうしていたいって自分もそこにある。
茂は私にとってやっぱり大切な人で、その家族もまた愛すべき人たちだ。
私を受け入れてくれたこの人達には感謝しかない。

ヒュー……ドォン。


 「おっ! 始まった!」

牡丹
 「わぁ、打ち上げ花火じゃん!」

私は振り返った。
何人かが花火のよく見える金網フェンスの方に向かう。
私はゆっくりと皆の背中を追いながら、夜空に打ち上がる花火を楽しんだ。

ステラ
 「ふふ、楽しいわね」

私は微笑んだ。
このかけがえない時間を大切に思いながら。

牡丹
 「なぁステラ、アタシたち約束しないか?」

ステラ
 「約束?」

牡丹
 「この七夕の日だけは帰ってくる」

ドォンと、花火が私達の横顔を照らした。
私は牡丹の手を握ると「うん」と頷いた。



私達は時空の旅人だ。
きっとまた旅に出る。
でも必ずここには帰ってこよう。
そう、この記念日に。



飾られた七夕飾り、夜風に揺られながらピンクの紙と青い紙がゆっくりと揺れた。
それはステラと牡丹の願いが書かれた短冊だ。

『どうか、牡丹の旅の安全を』
『どうか、ステラの願いを叶えてください』



突然始まるポケモン娘シリーズ 3周年記念作品 エピローグ 完


KaZuKiNa ( 2021/06/04(金) 20:10 )