突ポ娘短編作品集


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短編集
3周年記念作品 Part7

Part7



ジラーチ
 「茂……願い事ポケモン最後のお願い! 私に……名前をください!」

それは逆襲に向かう少し前、家のマンションの屋上で私は告白するようにそう言った。


 「名前……でも、それは」

ジラーチ
 「ええ、分かってる……貴方の所有物になるって事」

それを聞くと茂お兄ちゃんは首を振った。
茂お兄ちゃんは名の契約を良く理解している。
そしてその結果アルマのあのなりふり構わぬ形を見てしまった。


 「……いいのか? お前の愛した自由って奴は!?」

ジラーチ
 「勘違いしないで! 私は茂だから欲しいの!」


 「っ!? ジラーチ……いいんだな?」

あくまでも渋る茂お兄ちゃんに私はなるべく優しい笑顔で微笑んだ。

ジラーチ
 「こう考えない? 私結構便利なポケモンよ? 幻のポケモンのマスターなんて格好良いじゃない♪」


 「ふ……下手くそな売り方」

茂お兄ちゃんに鼻で笑われる。
むぅ、折角私のセールスポイント解説してやったのに!
だけど、茂お兄ちゃんは突然私の頭に手を置くとワシワシと頭を撫でてきた。


 「ジラーチ、俺の為の願い星になってくれるか?」

ジラーチ
 「……勿論♪」

私は頭に載せられた手に擦り付けるようにしながら、満面の笑みを浮かべた。


 「なら……ステラだ、俺のステラ」

ジラーチ
 「ステラ(星の光)か……ふふ、アハハハ!」

私の中にその名が刻まれた。
この魂にステラの名が刻まれた瞬間、茂は私のマスターとなり、私と茂はもはや他人ではなくなった!
それは私にとって最高の瞬間だった、もう茂は私の特別であり、私はそのための力が溢れる。

ステラ
 「茂! この願い星に貴方の願いを!」


 「ステラ……、お願いだフーパを、お前の親友を救ってくれ! なにもかもぶっちぎれ! 勝て!」

茂の切な願い。
私は過去に数え切れない程の人間の願いを叶えてきた。
でもどれもそれは自分の為であり、欲望の塊である人間が満足する事なぞなかった。
でも、茂の願いはフーパを本当に大切に想ってくれている願いだった。

ステラ
 「ありがとう……茂お兄ちゃん」

私は身体に流れる力を感じる。
今この宇宙のどこかにある千年彗星と私がリンクする。
私の持つ頭の短冊の一つが燃え尽きるように炭化した。

ステラ
 「その願い……叶えるわ!」

私は身体に溢れる願いの力を使い、茂を浮かせ巨大戦艦へと突撃した!



***



アルマ
 「かは! す、ステラ……?」

アタシはジラーチの不可解な力に圧倒され、地に伏した。
ジラーチは既に茂君から名前を頂いていたのか。
そして私は気付く、ジラーチの被る象徴的帽子に一枚短冊が足りないこと。

ステラ
 「そうよアルマ、もうアンタのアドバンテージはない……私も名の呪縛を受けたのだから……そして分かるわよね?」

私は泣いた。
悲しいからじゃない、嬉しいからだ。

アルマ
 「ハハ……羨ましいなぁ、お似合いじゃん♪」

アタシはずっとジラーチの幸せを願ってきた。
茂君に強烈に惹かれるジラーチはきっと幸せになれると思った。
でもジラーチは臆病で茂君に告白できず、アタシとそれが原因で大喧嘩した事もあった。
そうか……やっと、やっとジラーチは幸せになったんだ♪

アルマ
 「もう悔いはないな……後はアタシがやられれば、もう全部終わりだからね!」

アタシは全身の痛みを抑えて、立ち上がった。
もう本当にアタシは悔いがない、ジラーチさえ幸せになってくれたなら、アタシはどんなに不幸でも甘受できる。

アルマ
 「さぁアタシはアルマ!マスターの唯一人の相棒! マスターの野望を阻止したければ、アタシの屍を越えてみせろ!」

アタシは両手に金のリングを持つ。
恐らく全身全霊を掛けても願いを使ったジラーチ、いやステラには敵わないだろう。
だが、アタシはラナグオルを守らなければならない。
そのために全力を尽くす!

ステラ
 「アンタ馬鹿ね、アンタは本当はどうしたいの?」

直後、アタシは後ろに倒れていた。
ステラは一瞬でアタシの目の前に瞬間移動みたいにやってきて、押し倒したのだ。

アルマ
 「……え?」

ステラ
 「私はね、アンタを救いに来たの、それが茂の願いだから!」

アルマ
 「え!? 茂君!?」

アタシは茂君を見た。
茂君はコクリと頷いた。


 「そうだ、俺はジラーチの為に、お前を助けるために願った……! お前を理不尽な呪縛が無理強いするなら、それさえ超えられるように!」

ステラは茂君の言葉を聞くと満足そうに笑っていた。
私が、まだ見たことのない顔だった。
こんな充実しているジラーチは見たことがない。
ステラになって、こんなにも彼女は変われたんだな。


 「教えてくれフーパ! フーパはどうしたいんだ!?」

茂君の言葉が私に突き刺さる。

アルマ
 「どうして……どうして茂君はアタシを見捨てないんだい!?」


 「そんなの当たり前だろう!? お前も家族だよ!」

アルマ
 「っ!?」

家族……?
私は想いが溢れると、嬉しさと哀しさが抑えられなくなった。
ずっと好きだった男の人に、家族って言われたのはすごく嬉しい。
でも同時に私にはラナグオルがいて、私はラナグオルを裏切れない。

ステラ
 「アンタ、茂の事好きなんでしょ?」

アルマ
 「うん……好き! 大好きに決まってるじゃないか!」


 「ふ……なら、ラナグオルをどうしたい?」

アタシはマスターの事を問われ、全身を震わせた。
マスターはアタシは駒としか見ていない。
それでもアタシは良かった。
でも本音を言えば、愛してほしかった。
覇道なんかじゃない……どんなに苦しくても仲睦まじく一緒にいられるだけで良かったのに!

アルマ
 「止めてくれ……ラナグオルの覇道、凶行を止めてくれ!!」

ステラ
 「その願い……叶えるわ!」

ステラの頭の短冊が一枚炭化して崩れ去った。
そしてステラは歩き出す。


 「ステラ! 全部終わらせてくれ!」

ステラ
 「ええ! 茂はそこで待ってて!」

そう言うとステラは走っていった。
茂君は残ると、私を優しく抱き上げてくれた。


 「やっと……やっとこうなったな?」

アルマ
 「茂君、恥ずかしい、よ」

アタシは赤面してしまう。
普段はアタシがエロネタで茂君をからかう側なのに、ボロボロのアタシは満足に動けず、されるがままだった。
だけど茂君は父親のような優しさでアタシを抱いてくれる。



***



ステラ
 「……!」

宮殿を突き進むと、直ぐに行き止まりだった。
天幕の向こうに気配を感じる。
玉座に座るラナグオルだ。

ラナグオル
 「フーパを破ったか、ジラーチよ!」

ステラ
 「覚悟なさい……!」

ラナグオルは玉座から立ち上がる。
2メートル近い赤鬼ゴリラは天幕から出てくると私を睨みつけた。

ラナグオル
 「ふ! 図に乗るなよ!? 貴様如きに我が覇道をとめられるものか! 全宇宙はこの余に支配されるべきなのだ!」

恐るべき選民思想、そして驚異的なエゴね。
だけど私はそれに辟易する。

ステラ
 「アンタは私が何度も見てきた人間たちと同じだわ」

ラナグオル
 「同じと?」

ステラ
 「そう、掃いて捨てるほど私は願いを叶えてきた、アンタはそんな軽蔑すべき俗物共と一緒、ただの人間だわ」

私はそう言って首を振った。
するとラナグオルは激昂する、まるで見透かされた事を否定するように。

ラナグオル
 「おのれ! 余を一緒にするでない! 余は神々の王を超えたのだ! 宇宙の理さえ超越した!」

ステラ
 「ならそんな幻想……私がぶち壊す!!」

私は駆けた。
拳を握り、サイコキネシスを拳に集める。
飛び上がるとラナグオルの顔面に念動拳を叩き込む!

ラナグオル
 「ふ! 言ったはずだ! 神々の王さえ超えたと!」

ラナグオルは対して怯む事さえなく、その丸太のような腕を振り払った!
私は咄嗟に後ろに退いて難を逃れる。
ノーダメージ?

ステラ
 (単に異常に頑丈なだけ?)

私はラナグオルを訝しんだ。
だが、私のエスパー能力では、ラナグオルの特別性は分からない。
だが、冷静に考えればこいつは一度神々の王の浄化の光を受けている。
それに耐えて、生き延びた以上、なんらかの不死性を持っている?

ラナグオル
 「フハハハハ! 我が覇道、やはり余一人でも充分のようだな! 貴様に余は倒せん!」

ラナグオルは手を翳すと、私の周辺に力場を感じた。
私は直ぐに横に飛ぶと、私のいた場所の空間が抉れて消し飛んだ!

ステラ
 (なにあれ? 奴の能力?)

ラナグオル
 「ふん! 所詮余は一人! 共感は要らぬ! 哀れみもいらぬ!」

ステラ
 「こいつ……ぐ!?」

私はラグナオルの念を感じた。
そこにあるのはただ人間が当たり前にもつ、欲望であり、嫉妬だった。
私はそれを邪魔に思いながら走り回るが、足にラナグオルの攻撃を受けてしまう。

ステラ
 「くそ……」

ラナグオル
 「フハハ! そこまでか!?」

ステラ
 「アンタ、結局はさ? ただの構ってちゃんじゃん?」

ラナグオル
 「な!? 余が構って欲しいだと!?」

ステラ
 「だからフーパを縛り付ける、独りよがりに他人に迷惑かける! お前は◯ャイアンか!?」

ラナグオルはぷるぷる震えると、頭に血を逆上せた。
図星だったようで、もうすでに私にはラナグオルは覇王のメッキは剥がれ落ちていた。

ステラ
 「……もういい加減鬱陶しいのよ、フーパがどんだけ心で泣いていたか!? 引導渡してやるわよ!!」

私は第三の目を開いた。
腹部の第三の目を開くと、赤い光が溢れ出す。

ラナグオル
 「ぬう!? 破滅の力!?」

破滅の力……その言い方は正しくない。
この破滅の願いは、万物に破滅を与える負の力だ。
だが、正確には違う……私はこの力を破滅にしか使えなかっただけだ。
より正確に言えば、万物に破滅を与える因果律改変能力だ。
私はこの力が嫌いだった。
私にさえ制御できず、この力の代償は多くのマイナスエネルギーの念を私に伝えるから。
でも……私はもう迷わない。
私は茂とフーパのため、そして私を愛してくれる人たちのため。

ステラ
 「はあああああ!」

私は赤い奔流を右手に集中させた。
因果律さえ破滅させてしまう願いの力は私の全エネルギーを持って制御する!

ラナグオル
 「ジラーチ!! もはや貴様などいらぬ! ここで死ぬがいい!」

ラナグオルは手を翳す。
すると衝撃が地面を抉りながら私に迫る。
私は迷わずラナグオルに向かって突っ込むと、衝撃波を右手で払った!
破滅の力に触れた衝撃波は、一瞬で飲み込まれ消滅する。

ラナグオル
 「なに!?」

ステラ
 「感謝しなさいよ!? 今度こそ終わらせあげるんだからぁぁ!!」

私はラナグオルに右手を思いっきり振りかざす!
私の右手に圧縮された破滅の願いは、ラナグオルを覆うように眩く赤く輝いた!

ラナグオル
 「おおお!? こ、この力は……ぐおおおおお!?」

ラナグオルは破滅の力に飲まれ、因果律の作用によって概念的にその場から消滅した。
ラナグオルはこの宇宙の住民ではない。
アカシックレコードに記述されていないから、この宇宙から追放されたのだ。



***



ラナグオル
 「こ、ここは……?」


 「久しぶりね、ラナグオル?」

そこは真っ白な空間だった。
そう、それはラナグオルの知っている風景だった。
かつて浄化された世界。
しかしその世界はすでに存在しない、これはラナグオルの心象風景だ。

ラナグオル
 「か、神々の王……」


 「今だけ、貴方の神様になってあげる」

神々の王はあどけない笑顔を浮かべる。
ラナグオルは戸惑った、今こそ王は制裁を与えに来たのか?
しかし否、それは否だ。


 「神々の王はあるべき全てを愛するわ、それが創った者の務めだから」

そう、それは幸福でも不幸でも。
茂でもラナグオルでも愛するというのだ。
その言葉にラナグオルは涙した。
あの大男が泣いたのだ。

ラナグオル
 「おお、王よ、神々の王よ……ならば何故? 余は産まれたのです?」


 「……確かに貴方はイレギュラーだったわ、まさかフーパもあそこまで貴方に尽くすなんて思ってなかった」

ラナグオル
 「は!? アルマ……アルマは!?」


 「ねぇラナグオル? 貴方フーパの気持ちに気付いてあげた事ある?」

少女のつぶらな瞳はラナグオルの目を見た。
ラナグオルはその言葉にハッとした。

ラナグオル
 「アルマの気持ち……アルマは余のためにその力を」


 「強制じゃないと?」

ラナグオル
 「違うのですか?」


 「フーパはね、貴方と一緒いると楽しかったんだって、そして嬉しかった」

神々の王は後ろを向く。
そして首だけ回してラナグオルに向き直って言った。


 「貴方に、愛してほしかった」

ラナグオル
 「っ!? 愛……それが、アルマが余に尽くしてくれた理由……!?」

ラナグオルは気づかなかった。
産まれた時は病弱で研究ばかりするもやし少年だった。
ただ科学が何よりも好きで、それにのめり込み、永遠に研究が出来ればいいと思った。
だけど人間は不死ではない、そんなラナグオルの前にフーパは現れたのだ。
ラナグオルはフーパをアルマと名付け、フーパの力を借りて研究を続けた。
フーパは願えば何でも出してくれる。
それが次第にラナグオルにとって当然になり、やがてラナグオルは神さえも超えた力を得てしまった。
だが、たった一つの過ちが全てを狂わせた。



アルマ
 「マスター!? アタシはマスターのなんなの!?」

ラナグオル
 「ふん、アルマは黙って力を貸せばいい、甘えるな」

アルマ
 「この馬鹿マスター!!」



そう、一度大喧嘩を始めたら手がつけられない。
アルマとラナグオルは持てる力の限りを使って喧嘩して、世界を尽く破壊した。
その結果、神々の王は怒り悲しみ、浄化の光を持って終わらせたのだ。



ラナグオル
 「誰も信用できなかった……余は自分だけの力で何でもできると思い上がってしまった、そうか……だからアルマはあんなに怒ったのか」


「そう、哀しいけどね、過ぎ去った過去は永久に背負わないといけない」

神々の王、茜は歩き出す。
もう問答は終わりなのだろう。

ラナグオル
 「最後に! 神々の王よ……王は余を許すのか?」


 「許さないわ……だって大切な家族を傷つけたもの」

ラナグオルは俯いた。
だが、茜は言葉を続ける。


 「でも精算は出来るわ」

ラナグオル
 「な!?」


「ふふ、さようなら孤独な宇宙の支配者さん?」

そう言うと茜はその場から消え去った。
ラナグオルはその場に立ち竦むと、ただ終わった世界で考えたのはアルマのことだった。

ラナグオル
 「済まぬアルマ……余はマスター失格だ」



***



ラナグオルを失った宇宙艦隊は急に動きを止めた。
そして月の三分の一の大きさを誇る巨大戦艦が地球へと落下を始める!


 「だぁぁぁあ!? なんとか出来んのか!?」

アルマ
 「ラナグオルがいなくなって制御が効かなくなった、こりゃどうしたものかね?」

ステラ
 「ぶっ壊す?」


 「出来もしない事を!?」

船の中で落下を続ける俺たちは絶体絶命だった。
こんな馬鹿でかい船だと日本が押しつぶされる!?
兎に角打開策はないか考えるが、流石にフーパやステラでもどうにもならないのか進退は窮まった。

パルキア
 「それなら、僕たちが力を貸します!」


 「お、お前はぁ!?」

俺は突然目の前に現れたボーイッシュなPKMに驚く。
パルキアと呼ばれる空間の神、しかし直後俺はある女に抱きつかれた!

永遠
 「うわーん! 本物の茂君だー!?」


 「ぐお!? と、永遠か!?」

それは永遠だった。
時空振動に巻き込まれて帰って来なかったが、やっと帰ってきたらしい。
永遠は嬉しさのあまりか、大粒の涙を流して抱きついていた。

永遠
 「1万年と2千年前から愛してたー!!」

フーパ
 「それネタ?」

永遠
 「本当は1億年と2千万年前からずっと愛してたー!」

パルキア
 「永遠! 感動の再会は後! なんとかするよ!?」

永遠は本当に帰ってくるまで苦労があったのだろう。
今までにないくらい甘えて来たが、パルキアは首根っこを捕まえると永遠を引き剥がす。

永遠
 「だーもう! たかが宇宙戦艦一隻! この永遠が止めてみせる!!」

アルマ
 「な!? 正気か!?」

永遠
 「ニューディアルガは伊達じゃない!」

そう言うと永遠とパルキアのはその場から消え去った。

アルマ
 「フー、あの二人が帰ってきたならなんとかなるでしょ?」


 「そうだな……」



その日、宇宙人との戦争は終結した。
地球へと、落下する超巨大戦艦はパルキアと永遠の力によって、一瞬で地球から消え去り、日本に日差しが戻った。
その他の艦隊や機動兵器も二人はあっという間に戦場から消し去り、地球には久方振りの平和が戻った。
幸か不幸か、宇宙人との戦いは非常に緩やかなもので、宇宙人の本格的侵攻がなかった事もあり、平穏は直ぐに取り戻された。
でも宇宙人との遭遇は色んな人に衝撃を与え、それは今後になんらかの影を落とすかもしれない。
でも、それはやっぱり後の話だ。
俺たちにとって見れば、この今が守れれば充分なのかもしれない。



***




 「フーパの呪縛、消せるんだな?」

ステラ
 「私の願いの力ならね」

アルマ
 「でも、いいのかい?」

全てが終わり、俺たちはステラに名前を付けた屋上にもう一度今度は3人で集まった。
フーパもラナグオルが居なくなれば彼女を縛る者はもういない。
でも、ラナグオルの契約は、正に呪いのようにフーパを苦しめるのだ。
俺はそれを終わらせてやりたかった。

アルマ
 「し、茂君? あ、アタシが言うのもなんだけどさ? ステラは恐らく次の願いがラストだ、多分眠りにつく事もないだろうけど、同時にステラもう二度と願いを叶えられない……もっと自分のために使ってもいいんじゃない?」

フーパはそう言うと、ニハハと笑った。
こいつ、本当に自己犠牲心が強いよな。
本当は我慢強くて、貧乏くじは自分で引いて周りが笑ってればそれで良い。
快楽主義者の皮を被った博愛主義者なのかもな。


 「なら俺は俺の為に願いを使う!」

アルマ
 「そ、それじゃ!?」


 「フーパの名の契約を解消してくれ」

ステラ
 「はい♪ 愛しのマスター♪」

ステラはなんの躊躇いもなく、最後の短冊を使用した。
短冊が黒く染まりボロボロに炭化して、風に飛ばされると、フーパは身を捩った。

フーパ
 「あ、あはは……本当になんだか身体が軽くなった?」

ステラ
 「はぁ〜疲れた、これで私はもう無能のジラーチね! それじゃお腹すいたから先戻ってるわよ〜」


 「え? ステラ?」

ステラ
 「空気嫁、マスター?」

ステラはそう言うと屋上を去っていった。
空気だと? 俺はフーパを見るとフーパは顔を赤くしてモジモジしていた。

フーパ
 「うぅ」


 「もしかして小便か!?」

フーパ
 「そんな訳あるか馬鹿ー!」

フーパはそう言うとリングからハリセンを取り出し俺の頭を叩いた。
スパァン! っていい音したぞ?
モジモジしていたら尿意かと思うじゃん!?

フーパ
 「ま、全くこれだから茂君は! 女の子に対して全然デリカシーがなってない!」

フーパはそう言うとプイっとそっぽを向いてしまった。
だけど、やっぱり顔を赤くして何度もこっちを見る。
まるで何か物欲しそうに。


 「? 俺はどうすればいいんだ?」

フーパ
 「だーもう! 君はいつからジャリボーイみたいになっちゃったんだい!? ていうか気付かない!? ステラはオーケーでアタシは駄目なの!?」

フーパはイライラが溜まってきたのか、突然飛びかかってくると、俺の両肩を掴んで喚き立てる。
ステラがオーケーでフーパが駄目?
なんの事か最初は分からなかったが、もしかしてと俺は気づいてしまう。


 「もしかして名前か?」

フーパ
 「あーもう! 鈍いな!? アタシ今は野良フーパだけど、まだ名前で利用される可能性残っているんだよ!?」

俺はそれにあ……と気づく。
確かに今回は名の呪縛で本当にフーパはキツイ目にあった。
俺は流石にフーパももう懲り懲りだと思っていたが、フーパは違った。
フーパは顔を真っ赤にすると目線を反らしながら言う。

フーパ
 「アタシだって、寂しくなったら悪い男に靡いたりするかもしれないんだから、その拍子に悪い男に名前付けられちゃうかもしれないんだよ」


 「確かにそうかもしれないが……でも命名は一生だ、今回は例外的にID抹消出来たが、次はないんだぜ?」

フーパ
 「あーもう! このニブチン!」

フーパはそう言うと、俺にキスしてきた。
顔を真っ赤にして、小さな身体を無理矢理引っ付けて。
すごく短いキスだったが、フーパは耳まで真っ赤にして顔を離した。
俺は少しびっくりしたが、それがフーパの想いなのだと理解してしまう。


 「お前もステラと一緒なんだな」

フーパ
 「別に茂君の一番になりたいんじゃない、でも愛してほしいんだ、アタシが茂君を愛しているから」

フーパはそう言うと、今まで見たこともないしおらしさ見せた。
俺はフーパがそういう気持ちを俺に吐露した事は意外に思えた。
ジラーチ程生の感情を見せるタイプじゃないから分からなかったが、フーパも寂しがり屋の女の子なんだな。


 「わかった! じゃあライヤーなんてどうだ!?」

フーパ
 「やだ! あの高慢ちき嫌い!」


 「なんでや!? 今は結構改善してレッドに対する想いも解決したやろ!?」

フーパ
 「ブーブー! 大体あの作品原作再現どうした!? なんでルザミーネがフェローチェなんだよー!」


 「だーもう! それじゃ牡丹(ぼたん)ってのはどうだ?」

フーパ
 「え? 牡丹?」

それは赤紫色、即ちのフーパのパーソナルカラーの和名だ。
女性にもそんなに違和感なくてステラ程捻ってないが、俺にはもうそんなにストックがないのだ!
だがフーパはそれを聞くと俯き。

牡丹
 「ピオニーにしなかった事は評価してあげる!」


 「牡丹の英名?」

牡丹
 「牡丹属芍薬、英名はピオニー、どっかの鋼使いにならなくて良かったぁ」

フーパ、もとい牡丹はそう言うと屈託の無い笑顔でいつもの子供大人に戻ったようだ。
とりあえずやっとわだかまっていた重責が取れて、牡丹も笑ってくれている。

牡丹
 「よーし! 今日はお祝いだー! 特別に寝かせておいたワイン振る舞っちゃうぞー♪」

牡丹はそう言うと俺の手を握った。
こんな少女な身なりだが、普通に俺より年上だからな。
まぁ解き放たれし姿が本来の牡丹なら、まぁ当然といえば当然なんだが。
しかしその固く握られた小さな手は、どれだけ牡丹が一人で重責を背負って来たのかが分かる。
愛を求めて、寂しさに震えて、やっと安心を得たんだ。


 「牡丹、今くらいは腕に抱きついてもいいんだぜ?」

牡丹
 「ふふーん、年上の扱い方がなってないねー? まぁどうしてもって言うなら抱きついてあげてもいいけどー?」

牡丹はそう言うとニヤニヤと笑った。
そういうフーパは分類いたずらポケモンだったな。
なるほど、ならば俺も少し強引に行こうか!
俺はフーパの腕を強引に引っ張ると抱きしめた。

牡丹
 「え!? ちょ、本気にした!?」


 「お前のような大人を馬鹿にするメスガキはこうだ!」

俺はそう言うと牡丹をお姫様抱っこしてしまう。
牡丹は顔を真っ赤にすると胸にしがみつく。

牡丹
 「もう、ザーコ、ザーコ」


 「やっぱりネタに走るのな、メスガキネタは普通に嫌悪感抱かれる事もあるから注意がいるぞ?」

牡丹
 「し、茂君がこんな事するからだよ……」

牡丹はそう言うと丸くなってしまう。
まぁ愛すべきメスガキと言えばそうなんだが、俺はこれが微笑ましい。
そのまま俺は牡丹を抱いたまま、屋上を去るのだった。




突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品 完



KaZuKiNa ( 2021/06/04(金) 20:00 )