突ポ娘短編作品集


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短編集
3周年記念作品 Part6

Part6



暗い、冷たい。
ただ眠たくて、眠たくて私は身体を動かす事も無かった。
だが、ある夏の夜、私は光を浴びるとゆっくりと目を開いた。


 「おお! 繭が解けていく!」


 「……?」

それは月の光だった。
私は身体を皺枯れた手で持ち上げられていた。
私は振り返る、私を掲げていたのは白髪の目立つ老人だった。

老人
 「これが願い事ポケモンのジラーチ!」

ジラーチ?
それが私の名前?
私は自分の身体を見た。
真っ白い身体、頭は黄色く三つの短冊がぶら下がっていた。
私は頭に触れると、何かが伝わってくる。

老人
 「千年彗星の現れる時! ジラーチは目覚める……それは真実じゃった!」

ジラーチ
 「……?」

私は老人の手を離れると、拙い動きで宙に浮かんだ。
私には産まれ付き強大なサイキック能力が備わっていた。

老人
 「ハハハハハハ! ザマァミロ! これでワシは王になれる!」

私は老人の念とでもいうべき、心のパルスを感じると嫌な予感がした。
老人は狂気的に笑う。
私は頭上に私のルーツとなる巨大な力を感じた。
それは千年彗星というらしい。
外宇宙を彷徨い、1000年に一度それも7月1日から7日までの7日間、私はそのたった1週間だけ目覚める事ができた。

老人
 「さぁジラーチよ! こっちに来るのじゃ!」

ジラーチ
 「……」

私は老人を追いかけると、周囲を崖に取り囲まれた村落の上に出た。

老人
 「ジラーチよ、先ずはあの村に裁きをあたえよ! 滅びを!」

老人の念を私は嫌った。
その念はとてつもないマイナスエネルギーだった。
まるで宇宙の物の怪、だけど願い事ポケモンである私は、拒否権がなかった。
私の願いの力は全身を駆け巡る。
その瞬間、頭の短冊の一つが黒く染まり炭化した。
私は上を見上げる。
すると、老人も見上げた。

老人
 「おお、おおお!?」

それは隕石だった。
大きな隕石は村へと落ちた。
老人の憎悪の強さは凄まじく、それが願いに反映されてしまった。

ズガァァァン!

火が周囲を包んだ。

老人
 「これではワシまで……あば!?」

それは老人さえも、蒸発させた。
そしてその地殻津波は私も呑み込んだ。
結果的に老人の願いは叶えた。
その二次被害で老人も蒸発したが、私は静かになり満足した。
やがて地面の下で私は再び千年眠る。



***



ジラーチ
 「?」

青年
 「あ、目覚めた!」

再び目を開いた時には空気が変わっていた。

青年
 「君がジラーチ?」

ジラーチ
 「?」

私にとってまだそれはたった8日目の主観時間に過ぎない。
しかし世界はなにもかも変わっていた。
空気は冷たく、そして文明はまた変わっている。
だが、頭上には相変わらず千年彗星を感じることができた。

青年
 「この子、この子さえこの国は……!」

青年から感じたのは必死さだった。
私は周囲を伺うと、ここが建物の中だいう事が分かる。
眠っている間に移動したのか、それとも地殻変動で気候が変わったのか。

青年
 「来てくれジラーチ!」

ジラーチ
 「……」

私は青年に従った。
部屋を出ると、青年の前には百人近くの兵士が立っていた。

青年
 「これで我々は勝てる! このジラーチを見よ!」

兵士
 「おお! あれがジラーチ!」

私はその青年がある小さな国の王子であることを知った。
王子の願いは危機迫る国の救済だった。
この国に迫る万軍の窮地に、私はとある行商人に売られたらしい。
私は王子の願いに応じて、万の兵士を全滅させた。

王子
 「ハハハハ! すごいぞー! 格好いいぞー!」

私は敵兵の怨念に苦しんでいるのに、王子はその勝利に酔いしれた。
だけど、同時に余計な戦果に巻き込まれなかった民衆の喜びはまだ救いだった。
だけどこのたった一つの願いで王子は人が変わってしまった。

王子
 「我々は選ばれた! 我々以外に生きる価値なぞない! ジラーチよ! 敵国の民を根絶やしにするのだ!」

ジラーチ
 「っ!?」

私は2回目の願いを叶えた。
二枚目の短冊も炭化し、崩れ落ちる。
私ははるか遠い地の罪もない人達の絶命の念を正面から受け止めてしまった。

ジラーチ
 (なぜ、何故こんな事を私にさせるの!?)

王子は笑っていた。
私がいる限り無敵だと言うように、もはや小国の姿はなく。
私を盾に恫喝が出来るだけの力を得た王子は次に狙ったのは内側だった。
クーデターだ、王になるため、愚かにも自分の父親の死を願ったのだ。

だが、私は千年で3つしか願いは叶えられない。
王子はそれを知らなかった。
私は強烈な眠気を感じ、意識を落とす。
身体を丸め、鉱物に変化する。
その後の王子がどうなったかは知らない。
ただ私はもうあの恐ろしい感情を感じなくていいんだと安堵した。



***



女性
 「あ、目覚めた」

次に目を冷ましたとき目に入ったのは若い女性だった。
今度は暑い、まるで砂漠のような国だった。
だけどやっぱり千年彗星はそこにある。
私はうんざりしていた。
今度はどんな願いをされるのか。
もういやだ、もういやだ。

女性
 「お願いジラーチ! 私彼が好きなの! けれど彼はもう付き合っている人がいるの! お願い別れさせて!」

俗物なのだな、まだたった14日の主観時間しか経過していない私は感じ取った。
短冊を一つ使い、私はその願いを叶えた。
認識を改変し、男性が付き合っていた女性を嫌いになったのだ。
そしてまんまと女性は意中の相手と付き合う事が出来た。
だけど、その若い女性はまるで想像力が足りなかった。
彼の元彼女は、突然現れた若い女性に嫉妬し、凶行に走ったのだ。
結果的に彼女が得たものは、喜びより痛みからくる絶望の方だったようだ。
結果的に私はその程度の怨恨で済んでホッとしていた。
だが、私は残りの時間を彷徨う事になる。
時に野良ポケモンに襲われ、私は路地裏でその世界を見た。
人はまるで成長していない。
目先の欲望で、他人顧みない。
その正の念よりも負の念を強く浴びた私は、次第に人間が嫌いになっていった。



***



何度も何度も繰り返してきた。
人間のエゴを受け止め続け、破滅、破滅、破滅、破滅。
無限にも思える絶望、苦しみ、痛み。
負の感情を私は受け止め続け、気がつけば生来の顔もやさぐれてしまった。
そして何も感じなくなる位、悠久の時を生きた末、私にある変化が起きた。

ジラーチ
 「これって……?」

私はある時草原で目覚めた。
もうどれ位生きたかさえ分からない程誰かの願いを叶え続けた末に、最後に辿り着いたのは人化した姿だった。

ジラーチ
 「……誰もいない」

私は呆然とした。
当たり前のように喋り、そして微妙に不便な身体を動かした。
そこには人の姿はない。
だから、あの負の念がないのだ。

しかし呆然としていた私の前に彼女は現れた。

フーパ
 「えーと、ここは?」

ジラーチ
 「人間?」

突然虚空に出現する金のリング、リングを通って現れたのは褐色の小さな少女だった。
少女は私を見て、一瞬固まった。

フーパ
 「は? コスプレ? それとも君もポケモン?」

ジラーチ
 「え、えと……私ジラーチ、です……その、人間じゃありません」

私はもじもじするとそう言った。
初めて感覚だった。
私はポケモンだから人間とは意思疎通ができない。
だけど人化したことで、目の前の少女と意思疎通が出来た。

フーパ
 「あー? アタシはフーパ、アタシもポケモンさ!」

それは私と親友となるフーパとの馴れ初めだった。
私はずっと誰かに使われ過ぎて、フーパ相手にも上目遣いになってしまい、かくいうフーパは数え切れない程永い時を神様に罰を受けていたらしく、困った顔をしていた。
フーパから感じた念は新鮮で私はフーパに惹かれていった。

フーパ
 「行く宛ないなら一緒に行くか?」

ジラーチ
 「いいの? わ、私7日間しか活動できないよ?」

フーパ
 「んー、確証は取れないけどさ? 多分人化して狂ってるんじゃない?」

ジラーチ
 「狂っ、てる?」

フーパ
 「なにか、違和感はない?」

違和感なんてあり過ぎた。
人化したのだから当然だが、ポケモンのジラーチからかけ離れ過ぎた。
でも、私は空を見上げて一番の違和感に気づいた。

ジラーチ
 「千年彗星がない……」

そう、初めて私は千年彗星のない日に目覚めたのだ。

フーパの推測は正しく、私は7日目を越えても眠気は訪れなかった。
フーパも人化した事で封印が適用されなくなったのではないかと推測していた。

フーパ
 「よーし! ジラーチ! 遊ぼうぜ!」

ジラーチ
 「え、ちょ、ま、待って!」

フーパは私の手を取ると、走り出した。
まだ人化して間もない私は貧弱で、フーパについていけなかった。
フーパは私と友達になってくれた。
全然知識とか、楽しいこととか知らない私にフーパは博識に色々な事を教えてくれた。
やがて、私達は二人で似たような境遇のポケモンがいないか探しの旅をするようになった。



***



ジラーチ
 「きゃああああ!?」

マナフィ
 「うへへへ♪ 嬢ちゃんええ身体してんなー? ちょっと乳繰りあおうやーん♪」

ある海の世界ではマナフィに出会った。
マナフィはとんでもない痴女で、男を見つけては誘惑して子作りに励む問題児。

フーパ
 「まぁ、人(?)それぞれだしな」

マナフィ
 「ウチはマナフィ! ガイアの端末やけど仲良うな♪」



***



マギアナ
 「むかーしむかし、ある所にお爺さんがいました」

ある世界にはマギアナがいた。
私達はリングを出ると、彼女と出くわしてしまう。
マギアナは放置されて久しい古城で本を読んでいた。

ジラーチ
 「あの、おじゃましま〜す!」

マギアナ
 「まぁ、まぁまぁまぁ! これは何事でしょうか? 本の中から女の子が!?」

フーパ
 「なんか、メルヘンチックな子だね?」

マギアナ
 「あら、あらあらあら! どうしましょう? 折角のお客様なのに一体どうおもてなしすれば!?」

マギアナは500年前建造された人造ポケモン。
かつて人と共の暮らしたというのに、このポンコツお嬢様は邪気さえない女の子だった。

ジラーチ
 「ケホケホ! この部屋それにしても埃っぽいわね〜?」

フーパ
 「文字通り箱入りの骨董品娘か?」

マギアナ
 「あの〜? ところで貴方達は何処のどなたでしょうか?」

ズテン!

ワンテンポずれたお嬢様に私達は盛大にずっこけた。



***



シェイミ
 「ひく! ひく!」

そのシェイミは泣いていた。
原因は二重人格の異端児であるため、同族に虐められていたのだ。

ジラーチ
 「だ、大丈夫? ほら泣き止んで?」

シェイミ
 「? 貴方達誰でシュ?」

フーパ
 「ふ! 幼女の涙を止める女!」

デテテーテテン♪ デテッテー♪

フーパに事前にラジカセで音楽を流すと、決めポーズする。
シェイミはキョトンとしてしまった。

ジラーチ
 「この阿呆ー! 女の子戸惑ってるじゃない!?」

私は思いっきり、フーパの頭を叩いた。

フーパ
 「ぐふ!? 良いツッコミ出来るようになったじゃん?」

シェイミ
 「わぁー!? だ、大丈夫でシュ?」

フーパ
 「ふ! 致命傷で助かったぜ!」

ジラーチ
 「私そんな力で叩いてないでしょ……?」

フーパが巫山戯るのは日常茶飯事で、そしてフーパの人柄の良さは次々と友達を作っていった。



***



ジラーチ
 「はぁ? ゲーム大会?」

フーパ
 「そう! ここらででっかいことやろうぜー!?」

それは本当に突然だった。
私達が悪役になってリアルTRPGをすることになり、参加したいメンバーを集める事になった。



***




 「……俺を攫ってどうする気だよ?」

ゲーム大会は無茶苦茶だった。
フーパはシェイミ、マギアナ、マナフィに招待状を送ろうとしたが、私はTPOに危機感を覚えマナフィへの招待状は握り潰した。
結果私、フーパ、シェイミ、マナフィとそして目の前の死んだ魚のような目をした男、常葉茂の家族、そして若干名を加えてゲーム大会は始まった。



***



茂お兄ちゃんは今まで出会った人間とは少し違っていた。
奇妙な共同生活もあったとはいえ、私はどんどん茂お兄ちゃんに惹かれていった。
それはシェイミでも、マギアナでも、フーパでも例外ではなかった。
だけど茂お兄ちゃんは神に愛されていた。
神々の黄昏というイベント、ただの人間にはあまりにも重く、私は茂お兄ちゃんに力を貸し、無事神々の黄昏は終わった。

あれからも私は長い長い旅をした。
その隣にはやっぱりフーパがいて、私達は何をするにも一緒だった。

だからこそ……ショックだった。



ジラーチ
 (フーパの馬鹿! なんで、何も説明してくれなかったの!)

フーパはアルマという名前を隠していた。
フーパは私に一杯隠し事と嘘を持つ。
でも、それはこれまでずっと許してきた。
あ、いや……一個許してないのあったわ。

ジラーチ
 (あの馬鹿、茂お兄ちゃんに未練タラタラなんだから、さっさと告白して玉砕しろっつーの!)

うん、まぁ私もなんだけどさ?
兎に角あの馬鹿は侵略者の手先になってしまった。
それはもう良い、ムカつくのはむしろラナグオルだ。
フーパと殺し合いみたいなポケモンバトルして、フーパからひしひしとその生の感情がだだ漏れだった。
アルマとしてラナグオルを裏切れない感情と、フーパとして私や茂お兄ちゃんを護りたいって必死の思い。
あいつ、あんな不器用で、誰にも助けを求められないで何をしたいのよ!?

だんだんムカついてくる。
私は少し短気だとは思うが今回のフーパには本当に怒っている。

ジラーチ
 (そんなに私は頼りない?)

私がフーパなんて目じゃない程強ければ、ラナグオルの野望を砕いてハッピーエンドなのに、悔しいけどそれは無理。
けど……私はそろそろ決断すべきなのかも。



***



ジラーチ
 「……あ」

気が付くと私はベッドで眠っていた。
白い天井が見えて、窓を覗くと暗い。
頭上には超巨大な宇宙戦艦が鎮座しているためだ。

ガチャリ。

扉が開く音がすると、見慣れた顔がそこにいた。


 「あ、ジラーチ目覚めたか!?」

茂お兄ちゃんは私に気が付くと直ぐに駆け寄ってきた。
私は少し冷静になり、ここが茂お兄ちゃんのベッドだと理解する。

ジラーチ
 「茂、どれ位寝てたの?」


 「丸3日だな」

ジラーチ
 「3日……」


 「ラナグオルは地球侵略を開始した、ただまぁ今は小規模な小競り合いって感じだけどな?」

ジラーチ
 「ラナグオル……フーパ!」

私はフーパを思い出すと、拳を握り込む。


 「兎に角目覚めて良かった、キッチンに来いよ、お腹空いているだろ?」

ジラーチ
 「え? あ……」

ぐううう。

すかさずお腹が鳴った。
茂はそれを見て笑うが、私は恥ずかしさに赤面する。

ジラーチ
 「そうさせてもらうわ……」

私は気怠げに立ち上がると、茂お兄ちゃんと一緒に見慣れたリビングに出る。

保美香
 「あら? ジラーチ! 目を冷ましたのですね!?」

ジラーチ
 「ええ、申し訳ないけどなにか食べれる物はない?

保美香
 「ええ! ええ、そうでしょう! すぐお出ししますわ♪」



***



目覚めたのは午前10時だった。
ラナグオルの宣戦布告から3日が経ち、正規軍と宇宙艦隊の衝突は宇宙艦隊の勝利、しかしラナグオルは直接統治には乗り出さず、今はレジスタンスと小競り合いを繰り返していた。
このややすれば人類存亡を賭けた事態は、むしろインフラに悪影響が出ていた。

保美香
 「配給制に変わってしまったため、満足な物が出せず申し訳ございませんわ」

保美香はそう言うと頬に手を当て謝った。
出されたのはお茶漬けとお漬け物。
今はこれが精一杯だと言う話だ。


 「仕事も当面できやしねぇし、どうなるのやら?」

ジラーチ
 「ズズ……ラナグオルの狙いは私でしょ? 待ってるのかしら?」

私はお茶漬けを一気に口に流し込むと敵の動きを考察する。


 「そうかもしれないが……逆に不思議なのは、じゃあ何故追撃をしなかった?」

ジラーチ
 「……ゲーム、てことか」

保美香
 「ゲーム、ですの?」

私はあえて、ラナグオルの無駄な行動を考察した。
ラナグオルは態々フーパ一人で私を捕獲に来た。
しかも本人直々に地上に降りてきて、ポケモンバトルで私を商品にした。
だけどアレはゲームだったのではないか?
ラナグオルの取れる戦術は幾らでもあったはずだ。
それこそ数の暴力で私を強引に捕獲することも出来た筈だ。
奴らは空間跳躍技術を有する、大量の軍隊をピンポイントに地上に展開して、一気に地球を制圧する事だって出来る筈だ。
でも、それをしない……考えられるのは舐めプレイ。

ジラーチ
 「あの宇宙ゴリラ……舐めた真似してくれんじゃない?」

やつにとって私は実用性よりむしろトロフィーなのかもしれない。
力で私を屈服させて、名の契約を迫る。
地球侵略も本気で当たれば地球はひとたまりもない、つまり歯応えを求めても制限プレイしてやがるんだ。


 「なるほど……確かに合点はいくな」

保美香
 「ゲームですか、宇宙の支配者さんはスケールが大きいですね?」

保美香も私の意見を聞くと呆れていた。
でもそうとしか考えられない。
だが、同時にこれはラナグオルが飽きたらゲームセットだ。

ジラーチ
 「その気になればラナグオルはこの星を消す事だって出来る技術力があるでしょうね」


 「飽きたらやりかねんか」

まぁ、それ抜きにしても3日も日照阻害されたらこっちも辟易よね。
今は皆がいないのも、混乱している街の治安に貢献しているようだ。
茜と命は流石にそうもいかないから、今は1階のセローラって子が住んでいる家に行ってるみたいだけど。

ジラーチ
 「茜は……やっぱ何もしないのね?」


 「あいつはただのイーブイだ」

ただのイーブイ、それは茜の確固たる覚悟なのでしょうね。
神々の王ならば、あの程度の宇宙艦隊造作もないだろう。
ただ神というのは差別しない存在だ。
茜の恐ろしくも厄介な所は消すなら皆平等にということだ。
つまり、神様にはデータ全消しのリセットボタンしかないということ。

ジラーチ
 (ま、そんなご都合主義には期待出来ないか)

てか、そんなご都合主義が通じるなら、あの子この世界線に来るまでの地獄なんて味わう必要なかった筈だものね。

ジラーチ
 「ん、ごちそうさま」

保美香
 「お粗末様かしら」

私は椅子から立ち上がると、ゆっくりとベランダに向かった。
やはり外は暗く、目障りな物が浮かんでいる。

ジラーチ
 「アレをなんとかしないことには、美味しいご飯も食べられやしない、か」


 「ジラーチ、お前なにかする気か!?」

ジラーチ
 「そりゃま、ラナグオルをぶん殴らなきゃこっちも気が済まないわよね?」

私はそう言うとニヤリと笑った。
だけど、真っ先に反対したのは茂お兄ちゃんだった。


 「無茶言うなよ!? それはつまり乗り込むって事だろ!? フーパ一人でも厄介なのに!?」

そうだ、私は正攻法ではフーパには勝てない。
フーパの力は強大で、そしてラナグオルもだ。

ジラーチ
 「茂お兄ちゃん……ちょっといい?」


 「え?」

私はある覚悟を決めると、茂お兄ちゃんと一緒に屋上へ行く。



***



ジラーチ
 「 風……温いわね 」


 「そりゃ夏だからな」

そういえばもう七月になったのか。
私の月、と言っても空に千年彗星は無いが。


 「それで、二人っきりの話ってのは?」

ジラーチ
 「私ずっと考えた……でも臆病だった」


 「ジラーチ?」

ジラーチ
 「強くなければ守れないから、自己防衛出来る程度には強くなったけど、でも誰かを助ける為に強くはならなかった……ある意味でそれはフーパに甘えていた証拠だった」

私は手を握り込む。
そしてそれを天へと掲げる。

ジラーチ
 「私は強くならなければならない! フーパを取り戻す為に!」


 「ジラーチ……」

私は茂お兄ちゃんを見た。
悔しいけど、一人じゃ無理。
でも茂お兄ちゃんなら。

ジラーチ
 「茂お兄ちゃん……私に力を貸して」


 「ああ、貸す! だけど……それだけじゃ」

私はその言葉で十分だった。
迷わず茂お兄ちゃんに飛び込むと、ギュッと抱きしめた。


 「じ、ジラーチ!?」

茂お兄ちゃんは驚いていたけど、ちゃんと抱き返してくれる。
ん、合格点ね。

ジラーチ
 「茂、愛しているわ」


 「あ、愛してるだぁ!?」

ジラーチ
 「もう馬鹿、茂はどうなのよ!」

私はジト目でそう言うと茂お兄ちゃんは耳まで真っ赤にして顔を逸した。
私はあくまで茂お兄ちゃんの言葉を待つ。


 「俺も、その好きだよ……!」

ジラーチ
 「ふふ♪ ん!」

私はゆっくりと宙に浮かぶと茂の唇を奪う。
子供のスキンシップのキスじゃない。
大人のしっかりとしたキス。

ジラーチ
 「ありがとう……茂」


 「……今日は、大胆だな」

ジラーチ
 「だって、女の子なのよ? 私だって……」

私は、後は最後にしなければならない事がある。
でも、それは凄く緊張することだった。
同時に恐ろしい事でもある。
もしかしたら茂やフーパとも何らかの亀裂が生まれる可能性もある。
でも……それしかなかった!

ジラーチ
 「茂……願い事ポケモン最後のお願い! 私に……!」



***



アルマ
 「戦況の方はどうなんですか?」

アタシは3日経ち、再び子供の姿に戻ったが、無事完全復活した。
艦橋のラナグオルに聞きに行くと、相変わらずマスターは腕組して、戦術マップを見ていた。

ラナグオル
 「ふん、やはり弱敵だな……幾らか目障りな奴はいるが、全体的にレベルが低すぎる!」

アルマ
 「そりゃそうでしょうね……地球の文明力じゃ」

目障りというのは、恐らく神々だな。
それ以外にも神々に匹敵する力を持つPKMもいるが、まぁ散発的な戦闘が繰り返されている。

ラナグオル
 「そろそろ……飽きてきたな」

アルマ
 「っ!? 総攻撃仕掛けますか?」

ラナグオル
 「そうだな……ん?」

突然、エマージェンシーコールが鳴り響いた。

ラナグオル
 「何事だ!?」

ナビ
 『117ブロックから侵入者あり!』

艦を制御する人工AIは艦底から侵入されたと報告してきた。

アルマ
 「おいおい!? フォースフィールドを突き破ってか!?」

そんな事が出来るとしたら、ソルガレオか、いやアルセウスかもしれない!?

ラナグオル
 「何者だ!?」

ナビ
 『映像を流します!』

空間に浮かぶモニター画面、それは完璧に物理的にこじ開けられた艦底だった。
穴の先からは住宅街が覗いており、何かが駆け抜けていく。
カメラは侵入者を追うと、そこに映っていたのは!?

ラナグオル
 「ふ、ハハハハハハハ! ジラーチ! やつ自ら来たか!」

アルマ
 「ち!? あの馬鹿!?」

アタシは直ぐに動き出した。
だがラナグオルが止める!

ラナグオル
 「待てぃ! ジラーチは宮殿に誘導しろ! そこで奴と決着をつける!」

アルマ
 「……ち!」

アタシはこの事態を恐れていた。
だがもうこうなった以上、アタシはジラーチを倒すしかない。
ラナグオルを殺せれば、全ては解決するが、同時にそれは不可能だ。
私は契約に従い、ラナグオルを守らなければならない。



***



ジラーチ
 「ふふ、アハハハ!」


 「おい! 飛ばしすぎるな!?」

ジラーチは思いっきり力技で船の底の装甲をぶち破ると、高笑いしながら船の中を爆走する。
なんかコンパチみたいなモブ宇宙人も来るがジラーチの敵ではない。
ロボも宇宙人もジラーチは片っ端から蹴散らした。

ジラーチ
 「コイツラ、生物っぽいけど、生物じゃないわね」

ジラーチは、手足の曲がった宇宙人を見てそう言った。
そういや悲鳴も何も上げなかったな。
妙に機械的と思ったが、あの宇宙人どうなってんの?

ジラーチ
 「念を感じない、ようするタンパク質で出来たロボットね」


 「生体ロボット……いや、バイオロイドか」

どこぞの監査官さんが足りない兵士補うのに一杯使ってたのぉ。
結構宇宙の支配者さんも人材不足なのか。
なんだか世知辛くなってくる。

ジラーチ
 「む!? そこか!?」

ジラーチは壁に向かってコメットパンチを放つ!
すると、鉄の壁に大きな風穴を開けた!


 「広い空間に出たな?」

そこはまるで街だった。
軍艦的な無骨な通路の裏になんか、すごい牧歌的な街がある。

ジラーチ
 「……人の気配はないわね……ラナグオルの郷愁か」


 「郷愁だと?」

ジラーチ
 「ま、どうでもいい……それよりもあの馬鹿の気配が宮殿の方にあるわ」

ジラーチは左を指差す。
場違いな白亜の宮殿がある。
どことなくインドのお墓に似ているのがツッコミどころだがそもそも宇宙人の文化構造なぞわからんわな。


 「行くか?」

ジラーチ
 「当然♪」

ジラーチは念動力を操ると俺ごと浮かび、宮殿に突っ込んだ!

アルマ
 「はぁ!」


 「げぇ!? フーパ!?」

宮殿の入口にはフーパが一人で待ち構えていた。
これは所謂ここは通さんという事か?
フーパはリングを広げると、そこから岩の塊が飛び出した!
ジラーチはそれを回避すると、フーパの目の前に着地する。

ジラーチ
 「久しぶりね、フーパ、いやアルマだっけ?」

アルマ
 「何故だい? なんで自分から来た?」

ジラーチ
 「何故って? フーパこそらしくないわね! 私達の流儀を忘れたの!?」

ジラーチは腕を組むと、フーパに高圧的な態度を見せた。

アルマ
 「アタシ達を利用する者を許さない」

ジラーチ
 「そして利用する奴を徹底的に叩く!」

計り知れない価値を持つ幻のポケモン達、しかしそれ故に欲望が彼女たちを振り回したのか。
だけど、フーパはジラーチを見て、首を振った。

アルマ
 「だが! 物の道理を弁えろ! ジラーチ! お前がラナグオルに! アタシに勝てるって言うのか!?」

ジラーチ
 「……勝てるわよ」

ジラーチは拳を握る。
俺はそれを見て、後は彼女に全てを託す。

アルマ
 「ジラーチ……もう容赦は出来ないんだからな!?」

フーパはそう言うと右手のリングを広げた。
異次元ホールだ、更にフーパは左のリングをジラーチに投げる。
左のリングからは無数の武器が飛び出していく!
それはジラーチに降り注ぐ、だがジラーチはサイコキネシスでそれを止めた。
しかしそれを狙っているように、フーパは後ろからリングを飛び出し、ジラーチに接近戦を仕掛ける!

アルマ
 「痛い目見てもらうからなぁ!?」

ジラーチ
 「……ふん」

ジラーチはそれをつまらなさそうに見た。
フーパは拳を握り、ジラーチに殴りかかる。
だが、ジラーチはそれを左手で受け止めた。

ジラーチ
 「パンチってのはこうやるのよ!!」

すかさずジラーチは右手に念動力を集める!
エメラルドに輝く念動拳はフーパの顔面を狙う!
しかし、フーパもすかさず赤紫のサイコキネシスで防御膜を展開する!

フーパ
 「無駄だ! アタシのサイコキメシスの方が強い! 同質の力なら強い方が勝つ!」

そうだ、普通ならサイコキネシスの打ち合いならフーパに分がある。
だが、ジラーチはあくまでも顔を険しくしながら、その拳を全力で振り抜く!

ジラーチ
 「だから……どうしたぁ!!」

強力な赤紫色のサイコバリアをエメラルド色の念動拳が貫いた!

フーパ
 「な!? ぐは!?」

フーパの顎が吹き飛んだ!
身体ごと2メートルは飛ぶ強烈な一撃、ジラーチは迷いなく振り抜いた。

フーパ
 「ば、馬鹿な……ジラーチ、お前は一体何が?」

フーパは地面に倒れた。
強烈なダメージ、ジラーチは拳を降ろすと、フーパ見下ろして言った。

ジラーチ
 「一つ訂正するわ……わたしの名前はステラ、ジラーチのステラよ!」



突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品

Part6 完。

Part7に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/04(金) 19:50 )