突ポ娘短編作品集


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短編集
3周年記念作品 Part5

Part5



アルマ
 「ジラーチ、ごめん!」

フーパはそう言うと封を開いた!
すると壺から出る瘴気がフーパを包み込み、その姿を変化させる!

ジラーチ
 「茂! お願い……あの技を使うわ」


 「あの技!? まさか!?」

ジラーチ
 「解き放たれしフーパに正攻法じゃまず無理、ならば!」


 「……分かった、ジラーチ! 破滅の願い!」

ジラーチはその命令を受けると宙へと浮かんだ。
ジラーチの破滅の願いが放たれた。
腹部に存在する第三の目が開かれ、赤い奔流がジラーチの腹部から天へと放たれる。
破滅の願いはやがて、フーパを必滅するために降り注ぐだろう。

だが、煙からフーパも現れた。
もうそこには小さな少女はいない。
180センチはある長身のフーパは身体を仰け反らせて咆哮した!

アルマ
 「はぁ、はぁ! おおおおおおお!」

ジラーチ
 「ふぅ、ふぅ……フーパ、覚悟しなさいよ?」

破滅の願いにエネルギーを使い、気怠げなジラーチと、目を血走らせ、上からジラーチを見下ろすフーパ。

俺はこの二人の終わらない戦いにただ嫌な予感がした。
果たして俺はあの選択が正解だったのか?
ただ不安は積もり、俺は嫌な汗を流してしまう。

ラナグオル
 「さぁ! 魔神よ! 奴らを恐れ慄かせろ!」

アルマ
 「うおおおおお!?」

フーパは周囲に6つのリングを浮かび上がらせ、そのリングから綺麗な褐色の腕を覗かせていた。
しかしその美しさとは裏腹に、恐ろしさも滲ませる。

ラナグオル
 「異次元ラッシュ!」

アルマ
 「はぁあ!」

フーパのリングが不規則に飛び始める!


 「やばいぞ!? 異次元ラッシュは悪タイプの技だ! ジラーチ避けろ!」

ジラーチ
 「くっ!?」

不規則に動く金のリングは、ジラーチを狙って暗黒の弾を放って、追い詰める!
ジラーチはなんとかそれを回避するが、防戦一方だ。

保美香
 「不味いですわ!? このままじゃジリ貧ですわよ!?」


 「くそ!? どうする!? 何か打開策は!?」

ジラーチ
 「つっ! はぁ、はぁ!」

ジラーチは異次元ラッシュの猛攻を避けながら、確実にフーパを見ていた。
その目は勝ちを狙っている?
俺は空を見上げた。


 (まだ破滅の願いは来ない!?)

ラナグオル
 「アルマ! さっさと仕留めるのだ!」

アルマ
 「うぐ!?」

フーパは魔神状態だと、自制が効かないのか顔を歪めた。
それでもラナグオルの命令は絶対なのか、フーパは自らをリングの中に沈めた!

ジラーチ
 「茂!」


 「ここしかないか!? コメットパンチ!」

ジラーチはその場でくるりと天地を逆さまにした。
それは完全にフーパの思考を読んだ動きだった。
いや、腐れ縁と言える程ジラーチはフーパを知っている。
だから、コメットパンチの最適位置へとジラーチは向かったのだ!

アルマ
 「ジラーチ!?」

フーパはジラーチの真上に出現した。
しかし、ジラーチはただ冷徹にコメットパンチのチャージを終えていた。

ジラーチ
 「単純なのよ! アンタの攻撃!」

ジラーチはフーパの出現位置を完全に予測して、フーパが顔を出した瞬間コメットパンチを顔面に叩き込んだ!

アルマ
 「ぐふ!?」

しかしフーパも黙っていない!
ジラーチの周囲に集まった金のリングから、一斉に暗黒弾が放たれた!

ズドドドドォン!

ジラーチ
 「あああっ!?」


 「しまった!? ジラーチ!?」

俺は叫んだ、ジラーチはフーパの異次元ラッシュの直撃を受けて、宙を舞う。
そのまま、ジラーチは地面に倒れた!

ラナグオル
 「フハハハ! 良くやったぞアルマよ! この勝負は余の勝ちだ!」


 「そんな……嘘だ、ろ?」

俺はジラーチから目を離せなかった。
ジラーチは倒れたまま動かない。
一方魔神フーパは、ダメージに息をしながら健在だった。

ラナグオル
 「さぁ! アルマよ! ジラーチを余に!」

フーパがジラーチに手を伸ばす。
まずい! このままじゃジラーチが奪われる!

保美香
 「くっ!? このままでは!?」

ラナグオル
 「動くな凡人共! これは約束されし戦い! 反故にするなら、覚悟は出来ていような!?」

華凛
 「くっ!?」

動けなかった。
ジラーチを助ければ、ラナグオルは何をするか分からない。
もとより地球を超える超文明持ち、地球侵略に現れたのだ。
動くに動けなかった。

ジラーチ
 「ふ、ふふ……中々、いい根性ね?」

ラナグオル
 「ぬ?」

魔神フーパはジラーチの小さな頭を掴むと持ち上げた。
ジラーチはボロボロだ、だが口元は笑っていた。

ジラーチ
 「まさか? もう勝ったつもり?」

ラナグオル
 「ほざけぃ! 今の貴様に何が出来る!?」

ジラーチはラナグオルを睨みつけた。
そして呪いのような呪詛を告げる。

ジラーチ
 「天から降り注ぐ物が貴様を滅ぼす……!」

ラナグオル
 「なに……まさか!?」

あの赤鬼ゴリラが顔を青ざめさせた。
そして空を見上げる。
赤い奔流は無数の槍となってラナグオルに襲いかかる!

ラナグオル
 「ぬう!?」


 「まさか!? 始めからジラーチはこれを狙って破滅の願いを!?」

保美香
 「な、なんと恐ろしいことを!?」

ジラーチ自身破滅の願いを使う事は恐れていた。
ジラーチの体力を単純に使う事もあるが、それ以上に被害が危険すぎるからだ。
それは必ず破滅を与える願い、ラナグオルへの怨念その物だ!

アルマ
 「ま、スター!!」

フーパはジラーチを投げ捨てると、すかさず飛び込んだ!
そしてラナグオルに覆いかぶさる!


 「よせフーパ!? 死ぬ気か!?」

フーパはジラーチもそっちのけでマスターであるラナグオルを守りに行った。
そして破滅の願いはそんなフーパに降り注いだ!

ズドドドドドドド!!!!

それは一つ一つが大きな彗星の欠片だった。
強大な火球となった彗星の欠片が周辺大地さえ破壊して、フーパを襲う!


 「くそ!? この距離じゃジラーチまで!?」

里奈
 「お義父さん危ないです! ここは私が!」

里奈はサイコキネシスを放つとボロ雑巾のようにされたジラーチを俺達のもとに引っ張る。
俺はジラーチを回収した。


 「ジラーチ!? 大丈夫か!?」

ジラーチ
 「ふ、ふふ♪ な、なんて顔してんのよ……だい、じょうぶ」

ジラーチはボロボながら笑っていた。
このままじゃやばい、保美香は俺の腕を取ると。

保美香
 「退きましょう!」


 「く……!」

華凛
 「保美香の言うとおりだ、ヤツの狙いがジラーチである以上、ここにいるには危険だ」

俺はジラーチをギュッと抱きしめると、一目散にその場から逃げ出した。
破滅の願いは、文字通り戦場となったその周囲を破壊し尽くす。



***



ラナグオル
 「ぬん!」

ラナグオルは破滅の願いが終わった後、瓦礫の下から覆いかぶさる瓦礫をその腎力で払い除けた。
周囲の地形を変える程の一撃は実に恐ろしい威力を誇り、ラナグオル自身危機感を感じるほどだった。
だが、その姿は埃に塗れているが、無傷だ。
ラナグオルは埋もれたアルマを地面から引きずり出した。
アルマが代わりにダメージを受けたからだ。
お陰アルマの息は止まっていた。

ラナグオル
 「く、ハハハハハハハ! アレがジラーチか! そうでなくてはな!」

ラナグオルは大笑いするとアルマを回収した。
そして頭上にポータルを開かせる。

ラナグオル
 「アルマよ、死なせはせぬ! 汝には余の野望の成就に必要!」

そう言って、二人はポータルへと潜り、その場から消えた。



***




 「はぁ、はぁ!」

俺たちは兎に角一目散に逃げ出した。
ジラーチは眠っており、ダメージの回復を図っていた。


 「……追ってこないよな?」

美柑
 「はい……そうみたいですね」

保美香
 「それよりもジラーチは?」


 「眠ってる」

里奈
 「重症でしたから眠るを使ったのですね」

一先ず息をしている事からジラーチの件は安心してもいいだろう。
だが問題はフーパとラナグオルだ。

華凛
 「あのラナグオルとかいう豪傑、あれでくたばったと思うか?」


 「思えんな、フーパが庇った……むしろそちらのほうが心配だ」

俺たちは押し黙った。
俺は少なからずショックを受けた。


 「フーパにとってあの男はそんなに大切なのか」

里奈
 「名の呪縛です……名前を与えてくれた人にポケモンは特別な感情を抱くのです」

特別な感情、そう……俺はかつて同じ状況を思い出す。
ハニーさん、ビークインのハニーさんは心優しい女性だった。
けれどもその優しさをハニーさんのマスターは利用し踏みにじった。
俺とハニーさんは分かりあえたのに、戦うしかなかった。
名の呪縛の恐ろしさ……それをもう一度味わないといけないとはな……。

カランカラン♪


 「うん? あ」

俺たちは気が付くと見知った店の前にいた。
そしてその店から、ある知人が現れる。


 「あら? 貴方達揃ってどうしたの?」

それはPKM専門メイド喫茶のポケにゃんの前だった。
気がつけばそんな場所まで走ってきたのか。
店長の巨漢スキンヘッドのオカマ、金剛寺晃は俺達を見つけて、慌てたように出てきた。

華凛
 「店長久しぶりです」


 「あら、華凛ちゃんに凪ちゃんまで! 久しぶりね?」

華凛はポケにゃんを去年引退し、凪も今年引退している。
それだけに久しぶりの再会のようだ。


 「皆良かったら中に入って!」

俺たちは顔を見合わせると、ジラーチの事もあり、晃店長の好意を受ける事にした。

希望
 「お帰りなさいませご主人様♪ あ!」


 「はは、久しぶりだな希望!」

最初に出迎えてくれたのはジグザグマ娘の希望(のぞみ)ちゃんだった。
希望ちゃんも大きくなって、少し身長が伸びたのか、嬉しそうに凪さんに抱きついた。

希望
 「はい♪ 本当に久しぶりです!」

星火
 「お、いらっしゃい♪ あ、ダーリンさんじゃん!」

キッチンの方から出てきたのは相変わらず人のことを妙なあだ名で呼ぶデュラハン頭のズガドーン娘の星火だった。
いつの間にかキッチン担当になったのか?

華凛
 「くく、久しぶりだな♪」

星火
 「あ、華凛! 久しぶりー!」

俺たちは店内を覗くと、平日と言う事もあり店は空いていた。
ホールには他にもミミッキュ娘の照とニャスパー娘の団子の姿もあった。

華凛
 「ん? 流花がいないな?」

希望
 「ああ、華凛お姉ちゃん知らないんだっけ」


 「流花は結婚したわ、そして嫁いでいったの」

華凛
 「なんと!? あいつ結婚したのか!?」


 「う、羨ましい……!」

寿退社か、俺は男だから気にしたことないけど、やっぱり女性の場合中々仕事は続けられないよな。
俺も茜じゃなくて、七島さんとか上戸さんと結婚してたらやっぱり寿退社だったのかね。
まぁ考えても仕方がないか。


 「晃店長、ジラーチを休ませたいんです、バックヤード借りてもいいですか?」


 「あらま!? よく見たらその子ボロボロじゃない!? い、一体何があったの!?」

どうやらまだとんでもないポケモンバトルをした事は報道されていないようだな。
今頃大騒ぎと言った所だろうが、むしろよく途中で野次馬も現れなかったものだ。


 「その、色々ありまして」


 「常葉ちゃん?」

晃店長はニコニコ笑顔だが、逆にそれが怖かった。
ガチムチで身長も高くスキンヘッドな上、髭面の店長黙っているとすげー怖いけど、笑ってても怖い。


 「急いで手当する! 話は後にするから!」


 「は、はい! 失礼します!」

俺はそう言うと、バックヤードに向かった。
店の奥は古民家であり、リビングにたどり着くと、一先ずジラーチを床に寝かせる。
俺は改めてジラーチの無残な姿を見て、ため息を吐いた。


 「なんで、なんでお前達家族みてーに仲いい奴が、こんな殺し合いみたいな事しないと行けないんだろうなぁ」

星火
 「うーわー」

俺はビクっと背筋を凍らせると後ろを振り返った。
星火が後ろからジラーチを見て、驚きの声を上げた。
この子そう言えばセローラと同じタイプなんだよな。
性質はまるでゴーストタイプって感じはしないが、何気に気配消す能力高いな。

星火
 「ねぇ、この子とりあえず大丈夫そうだどけど、服装どうしたの?」


 「その、色々あってな」

星火
 「まぁいいや、団子の服なら丁度いいかな?」

星火はそう言うと衣服を探しに行った。
そしてしばらくすると着替えを持ってくる。

星火
 「おまたせー」

星火は服を広げると可愛らしいピンクのパジャマだった。
へぇ団子ちゃん結構可愛い趣味してるな。
いや普段からメイド服なんだからある意味当然なのか?
考えてみれば華凛も凪さんも割とお洒落さんだ、コスプレする人ってお洒落さんなのか?

星火
 「んー」


 「ん? どうした?」

星火
 「いやさ? いつまでこっち見てるの? それとも小さな女子の着替えにハァハァする変態さん?」

俺はそれにハッとする慌ててそっぽを向いた。
しまった! なんの違和感もなく見ていたが、冷静に考えたらやばい。
茜といい、命も産まれて子供対しての免疫上がって羞恥心無くなってた!?
こんなのジラーチに知られたら絶対後でどやされる!?

星火
 「いや〜、ダーリンさんそういうアブナイ人かと思ったよ〜」


 「ごめん、別にそんなつもりはなかったんだ」

星火
 「いや、趣味は人それぞれだしねぇ〜、ただロリコンは隠し通した方がいいだろう……」


 「ぐっ!?」

俺は断じてロリコンではない!
ついでに言えばジラーチはむしろ合法ロリの筈だし、ていうか俺より年上の筈だよな?
とりあえず繰り返す、俺はロリコンじゃない!

星火
 「よし! 振り返っていいよ〜!」

俺はその声に振り返ると、ジラーチはパジャマに着替えていた。
既に身体の修復は終わっており、後は目覚めるだけか。


 「ありがとう星火ちゃん」

星火
 「いいよいいよ! 流石に男の人には任せられないしね!」


 「う!? そ、そう言えばいつの間にかキッチン担当になったんだな」

俺はこれ以上いじられるのを嫌い話題を星火に逸らす。
星火は頭持ち上げて、指でクルクルすると。

星火
 「ていうか、正確にはゼネラルマネージャー、経営学んでいるんだー」


 「ゼネラルマネージャーって、二号店でも出すのか?」

星火
 「うん、その準備……とりあえず経営学べってママに言われてねー」

俺も結婚して、流石に滅多にポケにゃんには来てなかったがいつの間にかポケにゃんも二号店話が出てたんだな。
でもそうなると星火は幹部候補って訳か。
フランチャイズというよりは暖簾分けだろうが、星火の顔からその大変さが分かる。


 「星火、代わるわ」

星火
 「あ、はーい! キッチン入りまーす!」

星火はそう言うとすぐさま晃店長と入れ替わった。
俺は改めて挨拶をする。


 「すいません、お手を煩わせれ」


 「いいの、迷惑掛け合ってなんぼよ、そうやって人は助け合うんだから♪」

晃店長はそう言うと、リビングに腰掛けた。
そしてジラーチを優しい目で見つめると、その頭を優しく撫でる。


 「常葉ちゃん、貴方はきっとまた何か大変な事に巻き込まれたのかも知れないけど、本当に困ったら助けを求めてもいいのよ?」


 「……そう、ですね」


 「なにがったの?」

俺は覚悟を決めると晃店長に事情を説明することにした。



***



団子
 「うん、団子も二号店行くにゃ」

ホールでは久々に旧知の再会という事もあり華凛と凪は楽しそうに話していた。
一方で保美香や美柑は事の深刻さを吟味する。

保美香
 「はぁ、宇宙征服ですか」

美柑
 「でも本気ですよ? その性で永遠さんは行方不明だし」

里奈
 「今の状況永遠さんがいないのは痛いですね……」

伊吹
 「うん〜……、それに〜、あのラナグオルって人の動きが気になるね〜」

ラナグオル、フーパことアルマのマスターであり、太陽系に現れた宇宙人の正体。
それは大艦隊を連れて地球を征服しに来た侵略者だ。
伊吹はその動きの不気味さに恐ろしさを感じていた。

保美香
 「少なくとも外宇宙で活動出来るほどの文明なのでしょう? ならば小細工などいらず地球など容易に征服出来るのでは?」

美柑
 「でも、その割には動きが小規模ですよね?」

里奈
 「何かを恐れている?」

そう、ラナグオルは恐れている物がある。
それは神々の王だ。
この星には神々の王がいる。
かつてラナグオルが浄化の光を浴びせたのも神々の王だった。
その力の恐ろしさ、それを知っているからこそ、火星軌道まで艦隊を接近させながら容易に手を出さない理由だった。

しかし……ラナグオルの野望は頓挫した訳ではない。
そして、今この瞬間ヤツは初めて地球侵略の切っ掛けを作るのだった。


 「なんだ? 電波ジャック?」

突然全ての電波帯がジャックされた。
それはポケにゃんだけじゃない、日本中……いや、世界中で発生していた。

美柑
 「て、テレビを見てください!」

美柑は店内に備え付けの小型テレビを指差した。
そこにはラナグオルが映っているではないか!

ラナグオル
 『地球人に告ぐ! 余はラナグオル・クリーディッチ! 全宇宙の支配者だ! 余は無益な争いは好まぬ! 地球人よ、余に平伏すのだ!』

保美香
 「な……!?」

保美香は絶句した。
なんたる物言い、あまりにも上から目線であった。
これでは逆に地球人を激昂させるだろう。
しかし、すでに異変は起きていた。
突然外が真っ暗になる。
外を歩く住民は空を見上げる、ただ愕然とした。
ある者は荷物を落とし、またある者を膝から崩れ落ちた。

伊吹
 「こ、これって〜!?」

それは誰もが驚愕した。
全天を覆い尽くす未知の巨大戦艦が空に浮かんでいた。



***



ラナグオル
 「ふん……一先ず宣戦布告は完了したか」

ラグナヤルは艦橋から地球の主要な情報機関を利用して最も効果的な喧伝を行った。
全宇宙の支配者だと公言し、無条件降伏を迫り、そして艦隊を素早く地球圏に侵入させた。
いまや、月の3分の1の大きさの巨大戦艦は地球へと侵入を果たしていた。
国際宇宙ステーションは眼下に広がる侵略者の宇宙戦艦が突然音もなく現れた事でパニックになったであろう。
今や、地球のどこからでも宇宙人を見ることが出来る。
これで心が折れればそれでも良いが、ラグナヤルはそれを求めない。

ラナグオル
 「ククク……歯応えが欲しいのだよ、余に歯向かってみせろ」

アルマ
 「ま、マスター……、宣戦布告を?」

ラナグオルは後ろを振り返った。
医療室で蘇生したアルマは身体を引きずって現れた。

ラナグオル
 「そうだ、今しがたな……それよりも何故安静にしていない?」

アルマは一度死んでいる。
ラナグオルを庇って破滅の願いの直撃を受けたためだ。
身体は奇跡的にズタズタだったが、四肢が欠ける事もなく、綺麗な状態だったため、速やかな蘇生を行い復活した。
しかしアルマのダメージはそんな簡単に治る物ではない。
ラナグオルは首を振ると、直ぐにメディカルセンターに戻るよう命令した。

ラナグオル
 「先ずは身体を万全にしろ」

アルマ
 「で、ですが! ジラーチは!?」

ラナグオル
 「痛み分け……いや、我々の負けか」

結果論で言えば、ラナグオルはジラーチを仕留められず、逆にアルマが死亡した。
向こうは半死半生で逃走したため、この勝負は引き分けと言えるが、ラナグオルは負けと考えた。

ラナグオル
 「ククク……確かにジラーチは欲しい、奴は願いの大器、名を縛り契約を使えば、奴の願いの力が目覚めよう」

ラナグオルはそう言うと笑う。
アルマは唇を噛むと、震えた。

アルマ
 (このままじゃまじでジラーチが捕まる! それだけじゃない! 茂君が危ない!)

アルマは解き放たれし姿になり、興奮と凶暴性が増している。
それでもアルマの心を支配していたのはジラーチと常葉茂だった。

アルマ
(せめて……せめて茂君だけは助けないと! ラナグオルも一地球人なんて追わない筈だ!)

アルマはその為には無茶をする覚悟だ。
命令に反しない限りには、命だって賭けてみせる。

ラナグオル
 「さぁ! 何度も言わせるな! 先ずは傷を癒せ!」

アルマ
 「分かりました……マスター……」



***



ラナグオルの分かり易過ぎる挑発は半日で効果があった。
世界各国は事の深刻さを思い知った。
だが、それを良しとしない一派が、宇宙艦隊にミサイル攻撃を仕掛けたのだ!

テレビ
 『ご覧ください! 今攻撃隊が出撃しました! 果たして大丈夫なのでしょうか!?』

保美香
 「……愚かな」

あれから以前眠り続けるジラーチをもう一度背負って俺たちは家へと帰った。
茜は心配そうにしていたが、俺は正直何も言えなかった。
こんな弱気になったのは久々かもしれない。


 「ご主人様、大丈夫?」


 「俺は大丈夫だ」


 「パァパァ〜」

命は俺の足を掴むと、ハイハイで俺の膝をよじ登った。
まるで1歳の命にまで心配されているみたいだった。


 「茜……俺はやっぱり無力なのかな?」


 「ううん、そんな事ないわ……ご主人様は今まで一杯家族のために頑張ってくれた、そうでしょ?」


 「でも……俺は今まで何をやってきたんだ? 茜や命、家族みんなを救うのに必死だった、それなのに結局はこうなるってのか?」

俺はテレビを見る。
ミサイルは空を覆う戦艦に直撃することもなく、謎のフォースフィールドに弾かれ無力化された。
逆に戦艦側は謎の機動兵器を繰り出し、反撃する。
俺はそこにあのラナグオルの見え透いた思惑が見えて悔しさに拳を握りしめた。

保美香
 「だんな様ご自愛を」

美柑
 「そうですよ主殿! それにアイツら結局支配が目的なんですよね? なら付け入る隙はきっとありますよ!」

華凛
 「だが、どうする? 地上戦ならともかく空を陣取られてはな?」


 「……そんなに簡単じゃない」


 「茜?」


 「永遠だけじゃない……彼らを快く思わないのは」



***



そう、茜の言うとおり空を覆った宇宙艦隊に快く思わない者は大勢いた。
そしてそれはかつて神と呼ばれた者達もだ。

慎吾
 「天海さん?」

夜家で空を眺めていたのはソルガレオの夏川天海だった。
天海はこの地球規模の危機に珍しく表情を堅くしていた。

天海
 「慎吾、約束覚えているか?」

慎吾
 「約束? いつかビックにしてくれるってやつ?」

天海
 「そうだ、お前を誰もが尊敬する支配者にしてやる、だが……その為には我が力を振るわねばならないやもしれぬ」

慎吾
 「それって、宇宙人と戦うの?」

天海は慎吾に振り返ると大きな手で、慎吾の頭を撫でた。
そしてとびっきりの笑顔を見せる。

天海
 「こういうのは俺向きだからな!」

天海はそう言うと立ち上がった。
神の十柱で最も勇敢で武力長けると言われた太陽の神、この星に太陽の恵みを取り返さんとする。



***



ターニャ
 「……キュレムだけでも面倒だというのに」

その日、ロシア西部のサンクトペテルブルグは晴れ模様だった。
にもかかわらず、うようよと宇宙艦隊は空を覆っている。
それにはレシラムのターニャ・クロイツェルも苛立っていた。

ターニャ
 「ご近所迷惑だろうが……!」

ターニャは初めて覚えた怒りによりターボブレイズを発動させた。
そして隣には姉妹とも呼べるゼクロムのゼロの姿もあった。

ゼロ
 「やるってんなら派手に出迎えてやらないとねー?」

ゼロは折角のDJライブ生放送を電波ジャックで台無しにされた恨みでバチバチと電気を帯電させていた。
彼女の身体に対して大きな尻尾のコンデンサ、テラボルテージは発光しだす。



***



ガシャコン!

ニューヨークには人型にも似た機動兵器がいくつも無傷のまま機能停止して落下していた。

デス
 「ふん」


 「あらあら? 機嫌が悪そうね?」

エンパイヤステートビルの真上から、空を見上げたのはイベルタルのデスに、ゼルネアスの聖だ。
宇宙人の無人兵器でさえ、イベルタルは死を与え、ゼルネアスは生に終わり告げた。
神の十柱の中でも特に恐れられる二人は、今まさにアメリカに押し寄せる宇宙艦隊にその冷酷な目を向けた。



***



グラードン
 「鬱陶しいんじゃボケー!!」

アフリカのサバンナで原始人同然の生活をするグラードンもまた、突如飛来した機動兵器をストーンエッジで叩き落とした。
更にグラードンの起こす日照りを遮る、宇宙艦隊に怒りのボルテージを上げたグラードンは咆哮する。
無数の凶悪なソーラビームが宇宙艦隊を砲撃する!



***



太平洋は嵐だった。
カイオーガが起こした嵐は指向性を持ち、宇宙艦隊が使う機動兵器を飲み込み、天候が宇宙人の兵器に牙を向く。

カイオーガ
 「アイアンボトムサウンド……またここに鉄屑がくるのね」

カイオーガは眼下に佇む古い船たちの残骸を見下ろし、そして新たな鉄屑を海へと飲み込んでいく。
時折巨大な雷が宇宙艦隊を襲っていた。



***



悠気
 「ねぇ……お母さん?」

育美
 「こんな夜遅くにどうしたの?」

2歳になる子供の若葉悠気は母親である若葉育美に甘えて、抱きついた。

悠気
 「んー、お月さま……」

育美
 「月?」

しかし空には残念ながら月どころか空が見えない。
しかしこの子供は何を感じ取ったのだろう。
いや、もしかした感じたのは月ではないのかもしれない?

育美
 「もしかして宵ちゃん?」

悠気
 「んー、zzz」

悠気はなにかぼんやりしたかと思うと、眠ってしまった。
育美は優しく微笑むと悠気の頭を撫でてあげる。
悠気は優しく微笑んだ。

討希
 「……育美」

育美
 「あら、行くの貴方?」

夫の若葉討希は既に藍色のローブを身に纏っていた。
恐らく結界を貼る気だろう。

育美
 「クスクス♪ 悠気と貴方に手は出させませんよ」

討希
 「万が一だ」

育美は悠気を起こさないようにゆっくりと立ち上がった。

育美
 「私はアルセウスですよ?」

討希
 「ふ、知らないな……そんな神の名は」

顔の見えない討希は微笑むと、育美はニッコリと笑い、二人は外に出た。

育美
 「目障りといえば目障りね」

討希
 「直接乗り込むか?」

育美
 「いえいえ、先ずは様子見してみましょう♪」

神の十柱において座長を務めたリーダーは家族を護るために力を振るう。
だが、その高い知力で一体何を考えているのだろう。

育美
 (今はまだ、永遠とパルキアが戻りませんしね)

育美ならば、あの宇宙戦艦も落とせるかもしれない。
しかしそれは危険すぎる。
あんな物が落ちてきたら日本はペチャンコだ。
永遠とパルキアの力も必要だった。



***




 「人もPKMも皆一緒……皆一緒に頑張ってる」

神々の王、今は非力なイーブイ娘はそう言うとお茶を飲んだ。


 「だから心配はいらない?」


 「私は信じてる……この世界はまだ終わってはいない」

茜は世界でたった一人だけ、この世界のリセットボタンを持っている。
かつては何度もそのリセットボタンに手を掛け、世界を無かった事にしてきた。
全ては滅びの未来が茂を苦しめるため。
そう、リセットボタンはかつて茂のために茜は使い続けた。
でも茜はもうリセットボタンは使わない。
それは命を否定することになる。
愛した夫も、愛する娘も否定する行為。


 「私はイーブイ娘として、この世界と向き合う」



突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品

Part5 完。

Part6に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/04(金) 19:40 )