突ポ娘短編作品集


小説トップ
短編集
3周年記念作品 Part4

Part4



ジラーチ
 「そんな……なんで?」

ジラーチは信じられない物を見る表情だった。
ただその大きな瞳から大粒の涙が頬に筋を作り、零れ落ちる。

少女
 「誤算……だね」

アタシは自分の状態に気が付くと、気不味く視線を逸した。
ジラーチは小さく震えると、顔面を蒼白にしながらも唇を噛んで、必死にその思いを堪えていた。
でも彼女は気丈だ、誰よりもアタシが一番良く知っている。

ジラーチ
 「なんでアンタなのよぉぉ!? フーパァァァ!!!」



***



その全ての原因はジラーチを庇ったあの瞬間から始まった。
見たこともない宇宙艦隊が空間跳躍を用いて、アタシ達を追い込む。
アタシはなんとかジラーチだけは別の宇宙にある茂君の元に送った。
この敵の狙いがアタシかジラーチか不明ならば、これは賭けのような物だった。
空間跳躍技術を持つとはいえ、別の宇宙に送られたジラーチは簡単には追跡できない。
目的が単純にアタシなら、それこそこれは簡単だ。
アタシを簡単に制御できるとは思わないで貰いたい。

フーパ
 (さぁこい……正体見せやがれ!)

私は自分を取り囲む宇宙艦隊を睨みつける。
やがて、いくつか人型に近いシルエットのロボットがブースターを吹かせて接近してくる。

フーパ
 (機械文明か? 結構大きいな)

さしずめ多目的作業ロボットという風貌のロボットは全高6メートルはある。
とりあえず機動兵器という奴だな。
そんな機動兵器は3機編成でアタシを取り囲んだ。

フーパ
 (下手に暴れるだけ無駄か?)

アタシは冷や汗を流すと、機動兵器の後ろの艦隊、特に視界全てを覆うほど巨大な赤い戦艦を見る。
一体どれほどの力を持っている?
その恐るべき技術力、工業力はアタシが簡単に対処出来るとは思えない。
だが、無条件で攻撃を加えてこないのは、チャンスだった。

フーパ
 (……やれやれ)

アタシは両手を頭の後ろで組む。
地球式だが、降伏という合図だ。
それが理解されたのか、機動兵器はアタシをその無骨なマニュピレーターで優しく掴むと、最も大きな戦艦へと運んでいく。

フーパ
 (ふぅん……金属だけじゃない、ゴム樹脂も使われているな……思ったより技術ルーツは地球系に近い?)

アタシはタダで捕まった訳じゃない。
具に未知の文明の技術を観察し、解決の糸口を探した。
もしかすれば、使っている電子機器とかもアタシに理解できる技術が使われているかも。

フーパ
 「……!」

アタシは正面に顔を向けると、ガイド・ビーコンが入るべき搬入口を示していた。
アタシ達はガイド・ビーコンに案内されるまま、巨大戦艦中へと入っていく。

ガシャコン! プシュー!

隔壁は3重に用意され、様々なチェックを兼ねているようだ。
気密チェックや、異物の検査でも行ったのか3つ目の隔壁が閉じると、急に重力を感じた。

ウィィィン!

眼の前の隔壁が上に上がると、目の前に顔の見えないやや細みな異星人が4人立っていた。
異星人達は一切肌の露出しないコンバットスーツにも見える宇宙服を着込んでいる。
アタシは苦手なんだが、読心を試みた。

フーパ
 (な、なんだこいつら!? 思考が……存在しない!?)

アタシは異星人であろうと、文明人ならあるはずの感情を探ったが、恐るべき程無感情だった。
だが、ロボットじゃない、サイボーグ地味た生命体なのだ。
私はそれに得体の知れない畏怖を感じていると、異星人達は私に近づいてくる。
異星人達は一見すると武器は持っていない。
アタシは大人しくしていると、異星人はやはり何も発せず、アタシ自らが歩くよう手で促してきた。

フーパ
 「ち、やれやれ……」

アタシは大人しく従うと、機動兵器の手から降りた。
アタシは異星人達の前に進むと、突然私の手に大きな手錠が掛けられた。

フーパ
 「な!?」

それは一瞬で、転送されるように装着される。
アタシは驚いて、外そうとするが、しかしその手錠は様子がおかしかった。

フーパ
 (の、能力が使えない……それに力も!?)

それは忌々しきクソ装置だった。
アタシの能力や身体能力を封印し、アタシを無力な少女に変える。
私は流石に怒りに震えるが、しかし異星人はやはり何も発さない。
顔色すらこちらからでは分からない。
私は怒りをなるべく抑えながら、それでも諦めなかった。

フーパ
 (絶対許さない……アタシを舐めんなよ……!)

異星人は手錠を私に掛けると、アタシの横に並び、歩行を促してくる。
アタシは舌打ちをすると、歩き出すと……艦内の全容が眼下に広がった。

フーパ
 (なんだこれ……街?)

そう、街だった。
見たことのあるような建物や植物、宇宙戦艦の中に街があったのだ。
私達はビルより高い場所におり、目の前には階段もエレベーターも見当たらない。
だが、空中にガイド・ビーコンが浮かび上がると、ガイド・ビーコンの間に力場を感じた。

フーパ
 「空中通路か」

アタシは潔く足場のないそこに足を踏み込む。
すると、力場がアタシを支えてみせた。
異星人2名もアタシと同様に力場の上に立つと、突然アタシ達はガイド・ビーコンの上がエスカレーターのようにアタシたちを目的地に運ぶ。

フーパ
 (やっぱり、文明は地球に近い? アタシに理解出来る技術が目立つな)

やがて自然とアタシたちはある巨大な宮殿に誘われた。

フーパ
 「……おいおい、なんだこりゃ?」

アタシは王様でも住んでいるのか場違い感のある白亜の宮殿を見上げた。
てか、ダージマハルかよ! あれ霊廟だけどな!
アタシは呆れてながら、宮殿の入り口に立つと、入り口をガードする銃器を持った警備兵を見た。

フーパ
 (あまり異星人の装備という感じはしないな)

アタシは警備兵の装備の形状を観察しながら、構造考察する。
見た目はアサルトライフルに似ているが、あんなミリタリーデザインでレーザー銃って事はないよな?

しかしぼんやりもしていられない。
案内役の異星人は機械的にアタシを宮殿の中へと誘う。
アタシは沈黙を保ちながら、宮殿の通路を歩いていくと、やがて行き止まりだった。
謁見の間か? やや広い空間に天幕が掛けられていた。


 「来たか、フーパよ」

フーパ
 「……え?」

アタシの声は震えていた。
何故? そいつは恐らく異星人のボスだろう。
薄っすらと天幕の向こうに見えたのは大きな男の影だ。
私はその影を知らない、その声を知らない。
でも魂が知っている……!

フーパ
 「そ、んな……!」

でも……それは、ありえない。
嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!?
アタシの信じたくなかった。
しかし天幕の向こうの男はゆっくりと立ち上がると。


 「いや、久しいな」

2メートル近い巨漢はゆっくりと天幕に手を掛けた。
アタシはガタガタと震えながら、その姿を見上げた。

巨漢
 「アルマよ、余を忘れたとは言わぬよな?」

アルマ、それはアタシの名前だった。
でも……それはずっと昔の事だ。
アタシの最初の名前、それがアルマ。

フーパ
 「あ、ありえない! なんでお前が生きている!? ラナグオル!?」

ラナグオル
 「ほお? 嬉しいぞ、余を覚えていてくれたか」

ラナグオル……この名はアタシのマスターの名前だ。
まだアタシが無邪気だった頃、ラナグオルはアタシに名前をくれ、アタシはラナグオルの為に力を使った。

フーパ
 「だけどありえない……アンタは普通の人間だった筈だ! なんだその見た目は!?」

ラナグオルのその姿は私の知るそれではなかった。
赤鬼のように赤い肌、ゴリラのような強靭な体格はそれだけで威圧感があり、その強烈な瞳はアタシを突き刺すようだ。
服装は百歩譲って、王様か最高司令官のような豪奢な物でも、どう考えても人種が違う!?
しかしラナグオルはそれを聞くとクククと笑った。

ラナグオル
 「いかにも、元々の余は非力なただ科学者であった」

フーパ
 「過去形……?」

ラナグオル
 「だが、アルマよ! 余はこうしておる! それは何よりもアルマお主自身がよく分かっておろう!」

フーパ
 「っ!?」

アタシはビクっと身体を震わせた。
分からない訳がない、アタシはポケモンなんだ……神々の王が世界に施したルール、名の呪縛がある限り、ラナグオルはアタシの親ID所持者だ。
たとえ見た目も声も変わらうと、魂が嫌という程理解してしまう。

ラナグオル
 「余は確かに神々の王の逆鱗に触れた……」

フーパ
 「そ、そうだ……アタシはアンタと大喧嘩になって、世界を滅ぼしちまった……それに嘆き怒った神々の王はアンタに浄化の光を浴びせ、アタシはアルセウスに脱出不可能の牢獄に収監され、その力さえ奪われた」

ラナグオルは神々の王に浄滅された筈だ……あれからただの人間だったラナグオルが生き延びれる筈は無い。
だが、アタシは顔を見上げた。
ニヤリと口角を上げてラナグオルはアタシの何かを察する。

ラナグオル
 「ククク……アルマよ、主は本当に愚鈍よな?」

フーパ
 「まさか……アタシの与えた力で?」

アタシはかつてラナグオルの望むままに彼の欲しい物を与えていった。
そうすればラナグオルは喜んでくれるし、アタシはその笑顔が大好きだった。
でも肝心のアタシはその意味を全く理解していなかったのだ。
ラナグオルが求めた物は常軌を逸していた。
星さえも破壊できる兵器、絶対に死なない不死性、やがて留まるところのない欲望はラナグオルに宇宙の命運を握らせるだけの力を与えてしまった。
アタシがもうあの時点まで愚鈍なポケモンだった時点で神々がそれを容認する筈が無かった。
だが、その与えた力が問題だった。

ラナグオル
 「そうだ! アルマのお陰で余は生き残った! 神々により滅ぼされし世界を脱出し、この新たな肉体により余はここに宣言する! 全宇宙は余に支配されるべきなのだ!」

ラナグオルはそう言うと、マントを翻した。
こいつ……ラナグオルはまだそんな事を考えているのか!?

フーパ
 「ラナグオル! 馬鹿な事はよせ! 神々がそれを許すわけがない!」

アタシは必死に叫んだ。
そんな馬鹿な事をせずに、静かに現状のまま満足すれば神々と敵対することなんてない!
だが、ラナグオルはアタシの横に立つと、冷徹な声で聞いてきた。

ラナグオル
 「汝は何者だ?」

フーパ
 「っ!?」

それは、アタシが絶対に逆らえない問いだった。
アタシは土下座するように、両手を地面に付けると。

フーパ
 「アルマです……マスターの忠実なポケモンフーパのアルマ……」

その瞬間、アタシの能力を封じていた手錠が外された。
と、同時に力が溢れてくる。

ラナグオル
 「ククク! ならばアルマよ! 我と伴に覇道を進むぞ!」

アルマ
 「……はい、マスター……」

……結局、アタシはアルマの名の呪縛からは離れられないのか。
どうしてポケモンは親IDの呪縛からは逃れられない?
なぜ神はこのようなルールを作った?
私を神々の王を……茜を恨んだ。
いや、きっと茜に過失はないんだろう。
茜だってきっとそのルールの理由を知らない、だからこれはただの逆恨みだ。

アルマ
 (アタシはやっぱりアルマなんだ……ラナグオルがきっと好きなんだ、でも……ラナグオルは間違っている!)

ラナグオル
 「来るがいいアルマ!」

アルマ
 「はい、マスター」

アタシは大人しくラナグオル後ろをついて行った。
ラナグオルは宮殿の脇へと向かうと、エレベーターがあった。
アタシはラナグオルと二人でエレベータに乗るとラナグオルに聞いた。

アルマ
 「なぜ、今更なんです……?」

ラナグオル
 「今更とは?」

アルマ
 「遅すぎます……もっと早く現れていたら」

ラナグオルはそれを聞くと「ふむ」と腕を組んで目を閉じた。
ラナグオルが神々の王の浄化の光を受けて無事だったなら、直ぐに迎えに来てくれたなら、今のアタシはきっと葛藤していなかった。
ラナグオルの暴挙を止める事だって出来た筈だ。

ラナグオル
 「それに対しては余が謝ろう! 余とて万全の力を持ちながら神々の王の力の前では逃げ延びるのでやっとであった」

それも完全にではないだろう。
恐らく浄化の光は浴びた筈だ。
でなければこんなにもラナグオルは変質しないだろう。
いや、ラナグオルならむしろ都合が良いと、かつての肉体を捨てる位躊躇いなくやったかも。
だが、そもそも何故そんな大それた覇道を求めるのか?

ラナグオル
 「余がお主を見つけるのに遅れたのは……全宇宙を手中に収めるのに必要な力を集めるのに時間が掛かった事もある。だが! アルマ、お主を忘れた事はない!」

アルマ
 「マスター……」

やがて、エレベーターは下へと下っていくと、艦橋とも言える場所に辿り着いた。

ラナグオル
 「余はアルマを取り戻した! しかしあと一つ……足りない物がある!」

アルマ
 「足りないものとは?」

ラナグオル
 「ジラーチだ!」

アルマ
 「っ!?」



***



ジラーチ
 「答えないさいよフーパっ!?」

私の目の前でジラーチは泣き叫んでいた。
私は諦めてヘルメットに手を掛けると一気に引き抜いた。

アルマ
 「そう、……アタシはフーパ、さ」

ラナグオルはこの宇宙を支配するために必要なピースをアタシとジラーチと定めた。
アタシは自分だけならラナグオルの野望に利用されても構わないと思った。
でも、親友のジラーチまでは我慢できなかった。
勿論ラナグオルに猛抗議したが、結局アタシはアルマであるが為にラナグオルの決定を覆す事は出来なかった。
せめてもとジラーチ捕獲任務はアタシがやると、ラナグオルに直訴し、そして承認された。
アタシは正体を悟られない為に、反サイキックフレームを内蔵した特殊なプロテクターに覆われることでジラーチに私を悟らせないよう工夫した。
後は心を殺してジラーチを拉致すれば、全て終わりだった筈だ。

だけど……一度目のチャンス、アタシは逡巡してしまった。
そしてジラーチの絶対に誰にも利用させないという誓いは、アタシの戦意を露骨に削いだ。
そうだよ、アタシとジラーチは誓ったんだ。
身勝手な命令をするクソみたい人間を許さない。
その為に万事を尽くしてきた。
ジラーチだって、本当は茂君とずっと一緒に居たかったはず。
それもかなぐり捨て、私達は逃亡劇を繰り返した。

ジラーチ
 「一体何があったのよ……? なんで永遠を消したの?」

アルマ
 「……っ!」

ジラーチ
 「答えなさいよクソ野郎! 私を裏切ったのか!?」

アルマ
 「ああもう! そうだよ! 裏切ったんだよ! でも仕方ないだろ!? 誰だってポケモンはマスターには逆らえない!!」

アタシは感情を爆発させた。
アタシはジラーチ程激情家ではない。
むしろ怒りっぽいジラーチを宥めるのがアタシの仕事だ。

アルマ
 「アタシはアルマ! もうお前の知っているフーパじゃないんだよ!?」

ジラーチ
 「あ、ルマ……?」

ジラーチは唖然とした。
そうだろう、ジラーチもアタシの真名なんて知ってるわけがないアタシ自身がこの真名を忌み嫌い一度も使用しなかったんだから。
でも……アタシはもう戻れない所に来ちゃったんだ……アルマである自分の呪縛からは逃れられない。

アルマ
 「ジラーチ! お前はアタシの敵だ! 大人しく捕まれ!」

ジラーチ
 「……く! ふ、巫山戯るなぁ!!」

ジラーチは拳を握った。
アタシは覚悟して歯を食いしばる!
フーパとして食らってやる!

ドカァ!

アルマ
 「がは!」

しかし、予想外にジラーチのそれは得意の念動拳でもコメットパンチでもなく、ただ全力で殴っただけだった。
ジラーチは殴り抜けた姿勢のまま、肩を震わせて泣いていた。
アタシは胸が苦しくなった。
痛みなら幾らでも耐えられたのに、ジラーチはアタシの弱い部分に踏み込んできた。

ジラーチ
 「馬鹿! 帰ってきなさいよ……この馬鹿ぁ……私がどれだけ貴方の事を……!」

アルマ
 「……! ごめん! ジラーチごめん!」

アタシはサイコキネシスをジラーチに放つ。
ジラーチは悲鳴を上げた。
アタシは今まで感じた事もないような苦しみを味わいながら、ジラーチを苦しめなければならない事をより苦しんでしまう。

ジラーチ
 「こ、このぉ!?」

アルマ
 「無駄だ、『野生のジラーチ』が『トレーナーのフーパ』に敵いはしない!」

ジラーチも分かっている筈だ。
本来アタシとジラーチは互角の実力だった。
でもアタシはマスターと名の呪縛の契約を交わしている、この力は名の力によってブーストされている。
ジラーチは名の呪縛を持たないから自由だが、その為にアタシには勝てない。

ジラーチ
 (くう!? マジみたいね! フーパのサイコキネシスを返せない!?)

ジラーチの意識さえ奪えば、後は自分の心を殺してラナグオルの元に運ぶ。
ラナグオルがジラーチの名を奪えば、ジラーチも呪縛に従いラナグオルの野望を成就させる忠実なる下僕になる筈だ。
だが、本当にそれでいいのか?
ラナグオルの呪縛をジラーチにまで与えていいのか!?
アタシは残念ながらラナグオルには逆らえない……だからこそ、譲れない物がせめぎ合って苦しい!

アルマ
 「もう終わりだ……ジラーチ!」


 「そうかな!?」

アルマ
 「な!?」

突然だった。
銀髪の巨乳PKMが割って入ってきた。
その姿はアタシたちは見覚えがあった。

アルマ
 「華凛!?」

華凛
 「辻切り一の式! 瞬剣!」

華凛は手刀に悪の力を乗せると、ジラーチを縛るサイコキネシスの波動を切り裂いた!
アタシは飛び退くと、ジラーチは自由を取り戻し地面に手を付ける。

ジラーチ
 「はぁ、はぁ! 助かった……けどなんで華凛が?」

最もだ、アタシでさえ華凛の登場は予想外だった。
華凛は既に茂君の元を出ていった筈、勿論それで茂君との絆が断たれた訳ではないだろうが、それにしてもタイミングが良すぎる。
しかし肝心の華凛はその爆乳を両腕で持ち上げてアジャストすると、フフンと鼻で笑った。

華凛
 「地に落ちたなフーパ、お前は神を侮っている」

華凛はそう言うとスマホを胸元から取り出し、アタシに見せてきた。
それはメールの着信画面、永遠から詳細に事情が説明されていた。

華凛
 「過去からメールが来るのだから驚いたぞ、急いで急行してみればこの様だ」

アルマ
 「……ち」

永遠は時空振動弾の影響でこの時空から消滅する前に、過去のスケールに未来の情報を発信し、その結果過去の永遠が現在にメールで救援を送った訳か。
つくづく神々ってのは化け物みたいな連中だね、その神々をおもちゃに出来る神々の王はどんだけ恐ろしいのさ。

ジラーチ
 「そ、それじゃ永遠は無事なの?」

華凛
 「戻るのに時間が掛かりそうだそうだ、今パルキアが捜索に行っている」

アルマ
 「パルキアまで?」

華凛
 「そんなことより! 答えてもらうぞ! 貴様宇宙人の手先か?」

宇宙人……それは間違いなくラナグオルの用意した艦隊の事だろう。
しかし宇宙人というのはある意味で間違っている。

アルマ
 「ラナグオル艦隊はワンマンアーミーさ、バイオロイドとマシンインターフェイスで宇宙艦隊を構成している……アタシ達の目的は宇宙征服さ」


 「それは……まじで言ってんのか?」

アタシはその声に後ろを振り返った。
その人の登場は勿論予期しなかった訳ではない。
だけど、一番顔を合わせたくは無かった!

アルマ
 「茂……君!」



***



永遠
 『ちょっとしくじったからお願い! ジラーチが狙われているの! 申し訳ないけど、13時54分39秒! ジラーチを助けて!』

このメールは家族一帯に一斉送信されていた。
送ってきたのは驚くべきことに一日前からだ。
俺は仕事を中退すると、永遠が指定した場所に指定した時間に向かった。
その場所には苦しそうなジラーチに、華凛、そして奇妙なスーツに身を包んだフーパがいた。


 「……フーパ、お前も宇宙征服に加担しているのか?」

俺はフーパを見た。
そしてフーパの怪しい瞳は、信じられない位苦しそうに揺れていた。

アルマ
 「茂君……それ、は」


 「違うよな!? お前は確かにやり過ぎる所がある! でも、そんな何万人も悲しむ事をする奴じゃないだろう!?」

アルマ
 「うう!?」

フーパは身を縮こませた。
俺は安心する、このフーパはやっぱりフーパだ。
俺に力を貸してくれたあのフーパなんだ!

アルマ
 「茂君……アタシはもう、君の笑顔には応えられないんだよ……」


 「なんでだ!? フーパはフーパじゃないか!?」

アルマ
 「違う!! アタシはアルマだ! 地球人の敵なんだ!!」

フーパはそう言うと、赤紫色のサイコキネシスを周囲にはばら撒いた。

それは地面をえぐり、衝撃波が球体状に広がる!

保美香
 「いけませんわだんな様!」

突然保美香が後ろから現れ、俺の腕を引っ張った。


 「保美香!?」

保美香
 「ごめんあそばせ! 遅くなりました!」

永遠のメールを受けたであろう保美香が現れたとなると、恐らく家族はもうすぐ集結するだろう。

伊吹
 「はぁ、はぁ! 皆速すぎー!」

美柑
 「もう! 伊吹さんの足が遅いんですよー!」

里奈
 「遅くなりましたっ!」


 「ああ、茜は?」

俺は一斉に集まってきた家族の中で茜と命がいない事に気がついた。
だが、その答えは明白だった。

里奈
 「お義母さんは命が心配だって」

保美香
 「あの子はもうママかしら、ママを煩わせる訳には行きませんわね?」


 「それもそうだな……」

アルマ
 「……ち、ぞろぞろと!」

フーパはそう言うと周囲を取り囲む家族たちを睨みつけた。
そして最後に、フーパの後ろから最後の家族も空から降りてきた。


 「……メールは本当だったか、講義を中退する羽目になったぞ」


 「凪さん久しぶり!」

俺は久しぶりに見た凪さんに手を振ると、凪さんは照れくさそうに笑いながら手を振ってくれた。
それにムッとした華凛は大声で俺に話しかけてくる。

華凛
 「ダーリーン! 私にはないのかー!?」


 「あ、ああ! 華凛も久しぶりだな!」

華凛
 「ふふ♪ 愛しているぞダーリン♪」

華凛の奴、暫く見ていなかったが、あんまり変わってないな。
少し落ち着いたかと思えば、全然落ち着いてない。

ジラーチ
 「ふ、ふふ……! フーパ! 降参しなさい! 幾ら貴方でもこれだけの相手を出来る!?」

アルマ
 「ち……!」

フーパの力は強大だ。
だけど決して家族はフーパに劣ってはいない。
フーパを抑えることは現実的に可能なはずだ。


 『苦戦しておるなアルマよ』


 「っ!? な、なんだ!?」

美柑
 「の、脳に声が!?」

アルマ
 「ラナグオル!?」

ラナグオル?
フーパが叫んだ瞬間、フーパの側に2メートル近いゴリマッチョ男がテレポートするように現れた。
それはまるで赤鬼のような男だった。


 「ま、マジモンの宇宙人!?」

ラナグオル
 「汝、この星の者か? 余はラナグオル、アルマのマスターにして、全宇宙の支配者だ!」

ジラーチ
 「アンタがフーパの!?」

アルマのマスター?
つまりフーパと名の契約者!?


 「本気か? フーパ! 本当にそいつがお前のマスターなのか!?」

ラナグオル
 「アルマよ、応えてみせよ」

アルマ
 「っ! そう、です……! アタシはマスターの忠実なポケモンのフーパ、アルマです!」

俺は驚愕した。
フーパは名を貰うことを嫌がっていた誰よりも自由を愛し、自分の正義に生きる少女だった。
だが、今はまるで違う……まるでラナグオルのペットのように、柔順で弱々しい姿だった。
俺はその理不尽に、何よりも先に怒りが先走った。


 「ラナグオル! 宇宙の支配者だか知らないが、フーパに何を仕込んだー!?」

ラナグオル
 「なにを? 異な事を、余はアルマに何も仕込んでおらぬ! それよりも汝もポケモントレーナーであろう! ならば勝負だ!」


 「なに!?」

なんかいかにもステゴロしてきそうな赤鬼ゴリラがポケモンバトルを挑んできた!?
目と目が合ったらポケモン勝負っていうかアレか!?
てか、俺ってポケモントレーナーってことで良いのか!?

ラナグオル
 「さぁ! 好きなポケモンでくるがいい! なんなら全員でも良いぞ!?」

畜生、尊大な性格のようだが、強キャラ感やばいおっさんじゃねぇか。
フーパってタイプはゴースト・エスパーなんだよな。
一応有利取るなら華凛だけど、そもそも受けていいものか?

保美香
 「巫山戯た男ですね……だんな様、相手に従う必要はございません、文字通り全員で行きましょう!」


 (保美香さん血も涙もねぇ!?)

いやまぁ、保美香の言い分が正しいんだけどさ!?
それ悪党のやり方じゃない!?
なんて、俺は迷っていると。

ジラーチ
 「私がやるわ……!」

それはジラーチだった。
ジラーチは手を挙げると、俺の前まで歩いてくる。

ラナグオル
 「ほお! 貴様は景品なのだがな? まさか景品自らくるとは!」

ジラーチ
 「黙れゴミ! 私は私を利用する者を赦さない!」

ジラーチは凄まじい剣幕だった。
ただでさえやさぐれた顔は更に酷くなっており、ラナグオルも面白いと口角を歪める。

華凛
 「ちょっと待て! 有利不利で言えば私だろう!? ジラーチ、お前は特に相手に狙われて!?」

ジラーチ
 「だからこそよ! 私はフーパをぶちのめす!」

俺は喉を鳴らした。
ジラーチは本気だ。
俺は恐る恐るジラーチに話しかける。


 「ジラーチ、本当にいいんだな?」

ジラーチ
 「……お願い、茂お兄ちゃんになら、全てを委ねてもいい」

俺は頷く。
そしてラナグオルとフーパを見た。


 「いけ! ジラーチ!」

ラナグオル
 「征け! アルマ!」

ジラーチとフーパは同時に前に出た。
俺たちは息を呑んでこの戦いを見守る。

ラナグオル
 「貴様が負ければジラーチは頂く!」


 「その代わりお前が負ければジラーチは諦めろ!」

ラナグオル
 「ふん! その暁には地球侵略も中止してやるわ! だがそれは貴様が勝てばの話! アルマ、シャドーボール!」

アルマ
 「はぁ!」

フーパは掌にシャドーボールを生成すると、ジラーチに向けた。


 「回避しろジラーチ!」

ジラーチ
 「っ!」

ジラーチは素早く動いて、シャドーボールの精度を狂わせる。
フーパは狙いを定めると発射した。

ジラーチ
 「フーパ! 覚悟できているんでしょうね!?」

アルマ
 「っ!?」

ジラーチはシャドーボールを回避すると一気に接近戦を開始した。
フーパは嫌がるように怯む。
やはりフーパはこの戦いを望んでいない!


 (フーパ自身は嫌がっている! それをラナグオルは強制している! そんなもの、絶対に止めてやる!)

ラナグオル
 「アルマ! サイコキネシス!」


 「ジラーチ、コメットパンチ!」

フーパから赤紫のサイコキネシスが放出される。
ジラーチはその発生を前に既にコメットパンチの態勢に入っていた!

ジラーチ
 「どっらぁぁ!!」

アルマ
 「くっ!?」

アルマは咄嗟に後ろに飛び退いた。
ジラーチは思いっきり振りかぶり、ハンマースイングのよう振って、コメットパンチは地面を破砕した!

アルマ
 「くう!?」

ラナグオル
 「むう!? 行動が早い! あのジラーチ実力も然ることながら、トレーナーの命令を先読みしているのか!?」


 (先読み?)

確かにジラーチの行動は早かった。
俺が命令した瞬間にコメットパンチのチャージが終わっていた。
まるで、俺がどう判断するか分かっているみたいに。
いや! それは俺を信頼しているってこと、なら俺はそれに答えなければ!

ジラーチは一瞬こっちを振り返り目配せをした。
俺は頷くとジラーチのしたいことを指示する!


 「サイコキネシス!」

ジラーチはエメラルド色のサイコキネシスを放つと、遅れて放ったフーパのサイコキネシスと相殺する。
だが、ジラーチはニヤリと笑った。
ジラーチのサイコキネシスは地面へと広がっていく。
自分が破砕した、砕けたアスファルトや、その下の礫などが浮かび上がる!

ジラーチ
 「せぇの!!」

ジラーチは瓦礫を連結させて、槍のようにすると、サイコキネシスを槍へと集中し、フーパに投げつける!

アルマ
 「なっ!?」

ラナグオル
 「アルマ! 異次元ホールだ!」

フーパは咄嗟にサイコキネシスを解除すると、右手の金のリングを大きく広げ、飛び込む!
そして金のリングはジラーチの真後ろに出た!
瓦礫の槍を回避すると同時にフーパはジラーチに後ろから襲いかかる!

アルマ
 「らあああ!」

ジラーチ
 「ちぃ!?」

フーパは我武者羅だった。
きっとジラーチを傷つけたくない一心と、ラナグオルを裏切りたくないという思いがせめぎ合っている。
悔しいが、フーパにとってラナグオルはそれだけ大事な存在なんだろう。
ラナグオルは宇宙征服の為にジラーチを狙い、その覇道の為にフーパとジラーチを利用する!
そんな事は到底許せない!

ラナグオル
 「シャドーボール!」


 「ジラーチ! サイコキネシス!」

フーパは後ろからジラーチに飛びかかり、密着する。
この距離からだとシャドーボールは避けられない!
だが、同時にその距離はジラーチのコメットパンチの射程距離だ。
しかし俺はまだその切り札は切らない!
俺はジラーチを信じる! 必ずフーパをなんとかするって!

ジラーチ
 「アンタ憐れよね……」

アルマ
 「なに?」

ジラーチ
 「茂にまで心配かけさせんじゃないわよぉ!!」

ジラーチは再び瓦礫を掻き集めた。
しかし今度は腕に巻きつける!
さながらそれは巨大な鉄拳!
念動拳の派生か!?

ラナグオル
 「やれ!」


 「いけー!」

同時だった!

ドォォン!

爆発が起きる!
両者はどうなった!?
爆風から飛び出したのはフーパだった。
フーパはジラーチの鉄拳を受けて、吹き飛ばされたんだ!
一方ジラーチは爆風の中心で手を付いていた。

美柑
 「こ、これは……!」


 「互角、か?」

お互いがダメージを受けてしまう。
これはどちらがダメージが大きい?

アルマ
 「はぁ、はぁ……痛」

まずフーパは胸を抑えていた。
鉄拳が当たったのは胸部か、頭部なら一撃で意識を刈り取れたかも知れないが。
一方ジラーチはシャドーボールが直撃。
分の悪い掛けだったか?

ジラーチ
 「ふ、ふふふ……!」

ラナグオル
 「なにを笑っておる?」

ジラーチは突然笑い出した。
ボロボロだが、まだ闘志は失っていない。

ジラーチ
 「不思議よね、実力なら間違いなくフーパの方が上、なのに戦いは五分」

アルマ
 「……何が言いたい?」

ジラーチ
 「はっきり言うわ! ラナグオル! アンタ無能ね!」

ラナグオル
 「なに!?」

保美香
 「挑発?」

伊吹
 「いや、多分違う〜」

里奈
 「うん、多分ジラーチさんが言っているのは……」

ジラーチ
 「だってそうでしょ!? 私と茂は即席コンビなのに最高よっ! 負ける気がしない!」

ジラーチは狂喜していた。
サディスティックな微笑みは、相手にプレッシャーを与える。
だが少なからずラナグオルとフーパには響いたようだ。

ラナグオル
 「余がその男に劣ると? あり得ぬ……! それを証明してやろう! フーパ! 真の姿を見せよ!」

アルマ
 「っ!? それは!?」

ラナグオル
 「聞けい!」

フーパは躊躇った。
しかし、恐る恐るリングから歪な壺を取り出した。
壷の口には御札で封印されており、それがなにを意味するのか理解する。

アルマ
 「ジラーチ……ごめん!」

フーパはそう言うと封を開いた!
すると壺から出る瘴気がフーパを包み込み、その姿を変化させる!



突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品

Part4 完。

Part5に続く。



KaZuKiNa ( 2021/06/04(金) 19:30 )