突ポ娘短編作品集


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短編集
3周年記念作品 Part3

Part3



天文学者
 「ん? これは?」

その日……それは宇宙で観測された。
それは太陽系の外、準惑星エリスの側で起きた光爆だった。
それは多くの天体望遠鏡や電波望遠鏡などで観測された。
端的に言えばそれは人工の光。
しかしそんな外縁で何れかの国が実験をした等という事実はない。
つまり、天文学者はその日、確信したのだ。

『宇宙人が現れた』



***




 「宇宙人ねぇ?」

今、世界中を騒がせているのは宇宙人騒ぎだ。
なんでも太陽から97天文単位にあるエリスという準惑星の側で未知の爆発が観測されたというのだ。
その爆発の映像は今やインターネットを通じて、どこでも見ることが出来た。
その爆発は短く、しかし非常に大きな光で、けっして自然に起きる物ではない。
宇宙人の仕業でなければ、説明がつかないというのだ。

大城
 「宇宙人って……今更だよなぁ」

等と、すぐ近くに座って仕事をする大城は言う。

夏川
 「時は大異種族共存世界! もはや宇宙人なんて言っても天文マニア位しか喜ばないよねぇ」

大城
 「そうそう! まぁ可愛い子ちゃんがくるなら話は別だけどなぁ!」


 「そんなこと言ってていいのか? 奏さんにチクるぞ?」

大城
 「常葉おま!? 血も涙もないのか!?」


 「ふざけてないで仕事しろ!」

俺はそう言って仕事に集中する。
大城と夏川はいつもどおりだが、相変わらず危機感もねぇな。


 (けど、ジラーチの様子がおかしかったな……その宇宙人、フーパと関係があるのか?)

俺はあの日、ジラーチがフーパを感じたあの日を思い出す。
宇宙人騒ぎの日とジラーチがフーパを感じ取った日は同じ日だった。
あの日以来ジラーチはずっと空を見上げているという。



***



ジラーチ
 「……」

私はマンションの屋上でずっと、空を見上げていた。
何度も、何度も私は宇宙に念を放射する。
私はここだ、無事なら早く顔を見せろ、と。

永遠
 「アンタさぁ……」

私の後ろから音もなくあの駄女神が現れた。
監視されているなら気に食わないけど、どうせこの単純駄女神の事、そんな気もないだろう。
むしろ余計な同情心を持っていてもおかしくない。

ジラーチ
 「何の用?」

私は永遠には顔を向けず、ただ虚空を見つめる。
永遠は溜息を吐いて、私に近づいた。

永遠
 「ジラーチ、アンタやっぱり変よ?」

ジラーチ
 「……」

永遠
 「私もフーパの事は知らない訳じゃないけどさ? そんなに気にする必要ある?」

フーパ、アイツの交流は私でも全ては把握していない。
永遠だけじゃない、フーパの謎のコネはどこまで広いか分かった物じゃない。
それでも……それでも私は別に良かった……!
私は手を強く握ると、唇を噛む。

フーパは……私が一人になっても平気なのか?

ジラーチ
 「アイツは……あの馬鹿は私が手綱を握ってないと……!」

私は段々涙が溢れてきた。

永遠
 「ちょ、ちょっと泣いてんの!? ほ、ほら! フーパなら大丈夫よ! アイツは殺しても死なない奴なんだから!」

ジラーチ
 「グス! わ、分かってるわよ! そんな事を!」

だけど、納得がいかない。
今すぐでもあの馬鹿の顔をぶん殴りたい。
そして抱きしめたい……!

永遠
 「あーもう……、アンタがそんな弱気だと私もなんか空回りするのよねぇ?」

ジラーチ
 「なによ……それ?」

私は涙を拭うと永遠を見た。
永遠は面倒そうに後頭を掻いていた。
こんなぶっきらぼうな奴だけど、永遠は私を心配してるのよね。

永遠
 「ほらさ? 美味しい物とか食べたら元気になれると思わない?」

ジラーチ
 「……何処かに連れて行こうっての?」

永遠
 「ハッハッハ! 乗り気のようね! 今日はお小遣いから奮発してあげようじゃないの!」

ジラーチ
 (お小遣い貰っているんだ……)

予想外の言葉に呆れてしまう。
やっぱり、こいつ駄女神ね。



***



ジラーチ
 「……で、回転寿司な訳?」

私と永遠は親睦を深めるという名目で郊外の庶民派回転寿司店に二人で訪れた。
保美香は寿司がお望みなら何でも握ると言ったが、私も永遠が奢るというので遠慮した。
茜は少し羨ましそうにしていたけど、あくまでこれは永遠との親睦だからね?

永遠
 「あ、あんまり一杯頼まないでね!?」

ジラーチ
 「クス」

私は笑ってしまう。
この駄女神は、その気になればなんだって出来るだろうに、人間の振りを精一杯している。
駄女神っていう所以は正にこういう小市民的な所だろう。

ジラーチ
 「それじゃ、まずはタマゴ」

永遠
 「私サーモン♪」

私達は目の前に置かれたタブレットPCから注文を取る。
永遠ってサーモン好きなのかしら?

永遠
 「まずはタマゴって、ジラーチはやっぱり子供ね〜♪」

ジラーチ
 「分かってないわね、寿司の良し悪しはタマゴで決まるのよ? それに鮮魚は脂が乗っていると、胃が疲れてあまり食べられないわよ?」

私は嫌らしく笑うと、永遠は「う……」と呻いた。
そんなにお小遣いピンチなのかしら?

ジラーチ
 「永遠、お小遣いは幾ら貰ってるわけ?」

永遠
 「月5千円!」

私は絶句した……。
今時5千円とはそりゃやり繰り苦労するでしょうよ。
恐らくお小遣いを決めているのは保美香ね、意外と厳しいのね。

永遠
 「あ、これ取ろう♪」

しかしまぁ永遠には不幸な顔は見えない。
万年不幸顔の私とは対極的だ。
永遠はイカの載った皿を取ると、醤油を垂らして口に運ぶ。

永遠
 「ん〜♪ 美味しい♪」

本当に幸せそうだった。
なんだか見ているだけで、気持ちよくなれそうね。

永遠
 「あ、ほら! タマゴ来たわよ!」

ジラーチ
 「分かっているって」

私はオーダーのタマゴとサーモンが来ると、2つとも取りサーモンは永遠の前に置く。
私はタマゴを一つ割り箸で掴み、口に運んだ。
うん、甘くて美味しい……日本の寿司はやっぱり水準高くて美味しいわね。
これなら脂物とも相性が良さそう、やっぱり食なら日本が一番馴染むわね。

永遠
 「……」

ジラーチ
 「? ボーッとしてどうしたの?」

気がついたら永遠が私をじっと見ていた。
私は箸を置くと、その意味を問う。

永遠
 「アンタって黄色好きね!?」

いきなり永遠は何を確信したのか、自信満々に私を指差してきた。
つくづく馬鹿だとは思うが、脈絡もなく言ってのけるわね。

ジラーチ
 「は?」

永遠
 「アンタ好きな色は間違いなく黄色! だからコーンポタージュとかタマゴとか子供っぽい物が好きなんだー♪」

私は呆れて物も言えなかった。
そんなものたまたまだろう。
私は別に黄色いから選んでいるんではなく、ちゃんと独自のロジックがある。
断じて黄色いから選んでいる訳ではない……筈。

ジラーチ
 「次、マグロいくかしら」

永遠
 「マグロだといつでも廻ってこない? 私次はお肉系行こうかな〜?」

結局、私達はそれぞれのロジックで回転寿司を頼むのだった。
それにしても永遠って対面だと、この娘結構鬱陶しいわね。
発想がガキというか、……誰かに似て喧しいのよね。

ジラーチ
 「……クス」

永遠
 「んー?」

私は微笑んだ。
永遠は不思議がっているが、こういう奴を世話するのが、私は好きなのかもしれない。



***



ジラーチ
 「はぁ♪ ご馳走さま」

店を出ると、私は後ろの永遠にそう言った。
永遠は自分の財布を見ると涙目になっている。
奢ると言った以上、私はなんの呵責もないが、永遠の普段には心配もあるわね。

永遠
 「……うぅ、今月は節約しないとなぁ」

ジラーチ
 「まぁ、少し気は晴れたわ♪」

私は多少空腹で苛立った部分もあったのだろう。
美味しいだけなら保美香のご飯の方が美味しいけど、外食は特別感を味わう物ね。

永遠
 「うぅ、てかジラーチ、後半うどんとか茶碗蒸しとかばっかりだったじゃない!」

ジラーチ
 「あら? あっちの方がコスパは良いわよ? 貴方こそデザート頼み過ぎじゃない?」

永遠は永遠でケーキ2つ、プリン1つ頼んでいるからね。
コスパは断然永遠の方が悪い。
手早く安くお腹いっぱいになりたいならうどんが一番ね。

永遠
 「はぁ、茂君におねだりしないとなぁ」

永遠はそう言うと溜息を吐いた。
茂君絶対財布握ってないと思うわ。
茜もありえないし、絶対あの家の財布握っているのは保美香でしょう。
まぁ保美香に頭下げられないから駄女神なんだろうけど。
あるいは茂を味方に付けてお小遣いアップを要求する気?

ジラーチ
 「アンタ一応時の神様なんでしょ?」

永遠
「? 元だけどね」

私はあくまで客観的に永遠にやるべき事を述べる事にする。

ジラーチ
 「アンタ競馬とかで資産増やそうと思わないの?」

ディアルガの能力ならば、万馬券を当てる事も容易い筈だ。
少なくとも能力的にはお金に困るとは思えないけれど。
しかし、永遠はそれを聞くとブンブンと首を振った。

永遠
 「駄目! な、なんていうか……絶対罰が当たると思うの……」

永遠はそう言うと顔を青くして震えていた。
罰が当たるって……まぁ茜が能力の悪用を容認するかは微妙な所ね。
永遠は容易にこの世界を壊せるだけに、その能力の悪用は本人の良心に委ねられてしまう。
最終ストッパーにアルセウスと茜がいる以上永遠の暴走は心配いらないでしょうけど。

ジラーチ
 「アンタって馬鹿だけどすっごく良い子ね」

永遠
 「はぁ!? 馬鹿って言った方が馬鹿なんですー!」

ジラーチ
 (……そこにキレるのか)

永遠は本当に馬鹿だと思う。
しかも馬鹿にされるのが、絶対に許せない位プライドが高い。
でも、その高い能力をまるで活かせていない原因が、この娘の人畜無害な善性なのよね。

ジラーチ
 「アンタもう少し悪い子だったら、人生上手く行くのにね」

永遠
 「えー! 育美みたいでやーだー!」

ジラーチ
 (ということはアルセウスは悪い子扱いなのか)

まぁ私もアルセウスを善人とは思っていないが、永遠は本当にアルセウスが嫌いなのね。
ようは要領よく生きろって言っているのだが、永遠は不器用に生きるのが格好良いとでも思っているみたい。
そういう所フーパに似ているというか、まぁフーパは悪ぶる方が格好良いと思ってるタイプだけど。
永遠は正義のヒーローに純粋に憧れるタイプなのかも。

ジラーチ
 「アンタって結局何がしたいの?」

永遠
 「何って……私は茂君と一緒に平穏に過ごしたいだけだよ?」

ジラーチ
 「その為なら怠惰でも良いって訳か」

神は少なからず怠惰だ。
永遠も例外ではなく怠惰であり、目標に向かって爆進するタイプではない。
永遠はフーパとは真逆だ、フーパは何でも率先して目標を立て行動する。
永遠は逆に行動しない、ただ安寧があればそれ以上を何も求めない。
それはやはり人間というより神なのだなと実感する。
人間は幸福を求めてやまない、だが飽くなき欲望が満たされる事はない。
それが人間の原動力であり、幸福感は減るからこそ、次の欲望へと向かう。
永遠は本質的にそれが無いのだ。
だから神だ、それ以上を求めない、一度満足すれば二度目はない。

ジラーチ
 「ま、触らぬ神に祟りなし、か」

逆に永遠の逆鱗に触れるって事はどれだけ恐ろしい事か。
神は怠惰だから世界は平和なのね。

永遠
 「もう……私はそんな強欲では……?」

永遠の口が止まった。
私はどうしたのか永遠の目を見た。
永遠の視線は空に向いた。
昼過ぎの青空、永遠は何かに気がついた。

永遠
 「時空が歪んだ!?」

ジラーチ
 「え?」



***



それは時遅く地球に来襲していた。
月の3分の1程の大きさの超弩級宇宙船は火星軌道にまで迫っていた。
それだけでも脅威だが、その周囲には夥しい護衛艦が周囲を取り囲む。
しかし、その巨大船団はそれ以上進みはしなかった。
だが……地球の直ぐ側、成層圏の中に突然小型の円盤が出現した。

時空を歪め、空間転移により、小型の円盤が現れ、そして円盤の下から何かが射出された。


 「……っ」

円盤からある目標地点に射出されたのは小さな少女だった。
全身を黒基調のパワードスーツに身を包み、頭部を完全に覆うヘルメットのバイザーから、少女は地表にいるジラーチを見つめた。



***



永遠
 「なんか来る!?」

ジラーチ
 「っ!?」

私は空を見上げた。
何かが降下してくる!
それが何なのか掴もうとしたが、それは私の念を弾いてしまう。

ジラーチ
 (ち、輪郭程度には分かったけど、超能力を弾く素材?)

それは少女のようだった。
私より少し大きいか、ざっと念波動からの推測だと130センチ前後?
何れにせよかなり小さい、宇宙人だとしたらそういう種族なのか?
何れにせよ、それはもう間もなく目の前に落ちてくる!

ズガァァン!

アスファルトを砕き、片手を地面に付けて、サイボーグにも見える小さな少女が目の前に現れる。
周囲にはクレーターが生じて、近くからは悲鳴も上がっていた。

ジラーチ
 「アンタ何者!?」

少女
 「……」

少女はゆっくりと立ち上がった。
真っ黒いバイザーヘルメットの奥の顔は何も見えない。
私は警戒感を顕にした。
私はこの少女から宇宙で襲ってきた連中を想起させた。
フーパと逸れて、音沙汰もなかったけど、あの襲撃がどちら狙っていたのかは定かではない。

ジラーチ
 「アンタ狙いは私……?」

少女
 「……っ」

少女の手が動いた。
私はキッときつく睨みつけ、念動力を練る!
後ろにいる永遠も無言だが、私の意を汲んで待ち構えた。
私は歯軋りをし、吼える!

ジラーチ
 「フーパはどこにやったぁぁ!!!?」

私は問答無用で念動力を放出した。
右手に念動力を集中させると、エメラルドの輝きが渦巻く。
私の得意技念動拳、サイコキネシスを超圧縮した一撃だ。
少女の全身を覆う素材は念動力を弾く性質があるらしいが、これならば当たれば物理的に砕く!
私はその少女に殴りかかる!

少女
 「……!」

少女は手を翳した。
その手から赤紫の念動力が放出される!

ジラーチ
 (こいつ!? フーパと同じ色の念動力を!?)

それは紛れもなくサイコキネシスだ!
私のサイコキネシスが物理なら、少女のサイコキネシスは特殊、それがぶつかり合う!

ジラーチ
 「くうう!?」

少女が放出される赤紫のサイコバリアは強烈で、私は動けず貫けなかった。

永遠
 「こいつ!? ポケモンなの!?」

少女
 『ディアルガ、君に興味はない……!』

ジラーチ
 (機械音声!?)

今度は少女が動いた!
少女はサイコキネシスを放出しながら、念動力を纏う私の右手を掴む!
私は咄嗟に身を引こうとしたが、少女はスルリと私に取り付くと、腕を背中に引っ張られ、地面に叩きつけられた!

ジラーチ
 「がっ!?」

少女は無造作に私に跨がる。

少女
 「……っ」

ジラーチ
 「はぁ、はぁ! あ、アンタ一体何なわけ? 私をどうしようって……」

私は少女に完全に崩され、地べたに這いつくばされた状態のまま、マウントを取られた。
にも関わらず少女はその後何もしてこなかった。
逡巡している? まるで躊躇っているかのようで。

少女
 『……投降しろ、お前の力が必要だ』

少女の声は抑揚がない、機械化された音声はその少女のシルエットをぼやかして、人物像がイマイチ掴めない。
しかし、私は唇を噛んだ。
憎悪を滾らせ、少女を睨みつける!

ジラーチ
 「巫山戯るなっ!! 私はフーパと誓ったのよ!! 私達を利用しようとする奴らには絶対に従わない!!」

永遠
 「よく言ったわ!!」

永遠はそう言うと、周囲三方から少女を狙うラスターカノンを放射する!
時間を鈍化させ、お得意のセルフ交差射撃だ。

永遠
 「避けなきゃ貫く!」

少女
 『ち!?』

少女が飛び退いた。
ラスターカノンは私の頭上を交差するように飛び交いその隙に永遠は私を回収して、距離を一瞬で離した。

ジラーチ
 「はぁ、はぁ……助かったわ」

永遠
 「別にいいわ、茂君いたら絶対助けていたし」

私は苦笑する。
この駄女神は自分の為には力を使わないのに、茂君の為なら遠慮も呵責もないのだから。
だけど、これほど頼もしい味方はいない。
永遠は馬鹿だけど、力は正真正銘神の力であり、理不尽だ。

ジラーチ
 「それにしても……多少舐めていたかもしれないけど、アイツ強いわよ」

永遠
 「でしょうね、だけど私の敵じゃない!」

少女
 『傲慢だね……』

ジラーチ
 「だってさ?」

永遠
 「神が傲慢で何が悪いっ!」

そう言って、胸を張る永遠。
思いっきり隙だらけな姿だが、伊達にコイツ元神様じゃないからね。

永遠
 「とりあえず、とっ捕まえて尋問よ!」

永遠はそう言うと一瞬でその場から消えた。
時の力はエスパータイプでも感知出来ない。
永遠は一瞬で少女の後ろを取っていた。

永遠
 「どららら!」

永遠は飛びかかった。
落下スピードを利用した飛び蹴りだ。
背中ががら空きですよと指摘されそうだが、永遠もそこまで抜かってはいないだろう。

少女
 『……っ』

少女はサイコキネシスを放つ。
と、同時に動いた。

永遠
 「ちっ! はぁ!」

永遠は竜の波動を放つ。
少女は、転がりながらそれを回避する。

永遠は着地寸前で消えた。
少女が即座に後ろを振り返った時、永遠は既にそこに立っている。
相変わらず理不尽、私が手助けしようにも、戦闘スピードが違い過ぎてついていけない。

永遠
 「取ったぁ!」

永遠は少女の脇腹の後ろに秘孔を……ではなく羽交い締めにする!

少女
 『……く!?』

少女は暴れるが、永遠はガッチリとホールドした。
私は指を鳴らすと、少女に近づいた。

ジラーチ
 「とりあえず、顔を見せてもらいましょうかね?」



その時、少女は永遠との格闘とは別に、ある声を聞いていた。
ヘルメットの内側は想定以上にハイテクの塊で、様々な情報が表示されている。
永遠に対しパワードスーツは警告を放っている。
そしてナビゲーションシステムが少女に抑揚のない声を発した。

ナビ
 『どうしましたアルマ様? 速やかにジラーチの転送を』

少女
 「私をアルマと呼ぶな……! 分かっている!」

ナビ
 『ディアルガの危険度レベル4、速やかに時空振動弾を使用してください』

少女
 「っ……!」

少女は躊躇った。
少女の目的はあくまでジラーチの回収。
しかしそれが容易では無い事も分かっている。
まして永遠はそれ以上の難敵。
しかし本音で言えば気乗りしない、ジラーチが啖呵を切ったように、ジラーチを強制転送することは本人の逆鱗に触れるだろう。
しかし、少女……アルマは決断しなければならなかった。



少女
 『っ! 死ぬなよ!?』

少女は掌の空間を歪めた。

ジラーチ
 「え!?」

私は驚いた。
それは空間操作系の能力か?
だが、直ぐにそんな事より能力の解読より、少女が掌に発生させた掌サイズの『銀河』に驚愕し、飛び退いた。
直後、それは少女を巻き込んで永遠ごと、強烈な時空振動が発生し閉じ込めた!

永遠
 「ふえ!? なにこれ!?」

少女
 『時の神様が分からないって事はないだろう?』

永遠
 「こいつ……時空を歪ませた!?」

それは例えるなら時空の歪だ。
永遠は近づけもしない異様な空間に押し込まれ、脱出できない。

永遠
 「こんなの私ならともかく、普通のポケモンじゃ身体が持たないわよ!? 自爆するつもり!?」

少女
 『……』

ジラーチ
 「永遠ー!?」

私は永遠に叫んだ。
永遠と少女はそのまま、まるでブラックホールに吸い込まれるように、その像を歪ませ、そして一瞬でその場の空間を巻き込んで消滅した。

ズコォォォォン!!

空間が修復される反動で、周囲に衝撃波と強風が吹き荒れた。
私は吹き飛ばされないように、地面を踏みしめ、その痕を見る。

ジラーチ
 「あ……、あ」

私は膝を落とした。
眼の前で永遠が消滅した。
強烈な時空振動は、まるで何事も無かったように鎮まった。
あるのは抉れた地面だけ。

ジラーチ
 「永遠……は!?」

永遠を失った事に茫然自失している暇は無かった。
突然その場に金のリングが出現すると、一緒に消えた少女が戻ってきた。

ジラーチ
 「なっ!?」

私は即座に身構える。
何故時空振動に巻き込まれて戻ってこれた?
いや、それよりも出てきた時、金のリングが一瞬現れた。
それは……つまり。

私は拳を握り込む。

ジラーチ
 「貴様ァァ! フーパをどうしたァァァ!!!」

私は右拳に鋼の力を凝縮させると、拳は金属の光沢を帯びる。
私は迷わず全力のコメットパンチを少女の顔面に放った!

少女
 『無駄だ……』

少女は再び赤紫のサイコキネシスを放出する。
サイコキネシスは私を縛り、強烈な力場で私を拘束する。

ジラーチ
 「くっ……ううう!?」

少女の放つサイコキネシスは圧倒的だ。
私のサイコキネシスより遥かに強力で、エスパーとしてのレベル差を痛感する。
それがレベル差なのか、それともパワードスーツの恩恵なのかは分からない。

だけど……それがどうした!?

ジラーチ
 「アンタの顔面殴らなきゃ……私の気が済まないのよぉ!!」

私は渾身の力でサイコキネシスの呪縛から脱して、無防備な少女の顔面にコメットパンチを振り抜く!

ドッカァァァ!

ジラーチ
 「はぁ、はぁ!」

決まった!
少女は後ろに吹っ飛び倒れた。
私は渾身の一撃を打ち込む事に成功する。
実力負けを根性と執念で覆してやった!

ジラーチ
 「このクソ野郎……! なんでアンタがフーパのリングから出てきたのかとっちめてやるんだから……え?」

私は激しい憎悪で少女を睨みつけるが、少女からある懐かしい念が感じ取れた。

ナビ
 『大丈夫ですかアルマ様!?』

少女
 「痛た……大丈夫、それよりその名で呼ぶなと言ったは筈だ……え?」

少女が上体を持ち上げると、私がぶん殴った部分が破砕され、その少女の顔左半分が露出していた。
私をその顔を見て……小さく震えてしまう。
褐色の肌、僅かに覗く美しいブロンドヘアー、大きく幼くも見えるが、どこか憂いを感じる瞳は新緑のように明るい緑。
私はその少女の名を知っていた。

ジラーチ
 「そんな……なんで?」

少女
 「……誤算、だね」

少女はもはや、顔を隠すことも無くただ気まずそう目線を外した。
私は泣いた、両目から一筋の涙が頬から零れ落ちた。
私はその感情をどう表現すればいいのか分からない。
怒りなのか? 哀しみなのか?

ジラーチ
 「なんでアンタなのよぉぉ!? フーパァァァ!!!」



突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品

Part3 完。

Part4に続く。



KaZuKiNa ( 2021/06/04(金) 19:20 )