3周年記念作品 Part2
Part2
ジラーチが来てから一週間が経った。
一先ずジラーチの周りは平穏で、そして茂達もジラーチを優しく迎え入れた。
保美香
「ジラーチ、皿の方片付けて貰えます?」
ジラーチ
「ん、分かったわ」
私は茂の家に宿泊させて貰っている以上、家事の手伝いをしていた。
最初は彼女達も遠慮していたけど、次第に私は受け入れられてきた。
私は改めてこの温かな空気感が好ましくなっていた。
里奈
「手伝います」
ジラーチ
「いいわよ、私が受けた以上私の仕事よ」
アグノムの里奈は「でも」と食い下がるが、私は首を振る。
かつては私よりも小さかった少女はあっという間に私の身長を抜き去り、そしてその優しさはこの家庭で開花したのだろう。
もはや種族特性として理不尽ながら納得はしているが、里奈を見ていると嫉妬心も抱いてしまうわね。
ジラーチ
「それより命の方を注意して」
里奈
「あ」
里奈はリビングを振り返った。
ベランダでは保美香が忙しそうに洗濯物を干していて、リビングに一人ポツンといる命には警戒が薄れていた。
里奈はそれに気がつくと、直ぐに命の元に向かった。
一応私が見てはいたけど、私って子供は苦手なのよね……。
よく子供扱いされるけど、そこらの神様より年上だからね?
まぁ等の神様はリビングで新聞でも見ながら一応命を警戒しているみたいだけど。
永遠
「あ〜、退屈」
そんな件の神様はそう言うと伸びをした。
命と里奈を見る目はそこはかとなく姉の雰囲気があるが、実際は伯母さんなのよね。
まぁこれ本人に言うと怒るけど、この家の駄女神は、本当に自堕落で駄目なのだ。
永遠
「茂君は?」
保美香
「お布団干しに屋上にいますわ」
ジラーチ
「屋上……ね」
***
茂
「これで、よし!」
俺は妻の茜と一緒に屋上で布団を物干し竿に掛けていった。
マンションの屋上は割と入居者なら自由に出入り出来て、洗濯出来るから、定期的に我が家ではやっていた。
俺は正直そこまで気にする方じゃ無いが、潔癖症の保美香が気にするからな。
茜
「ん……風が気持ちいい♪」
屋上は遮蔽物が少ないから風通しが良い。
茜は髪を抑えると、全身で風を浴びた。
俺の妻のなんだか色っぽい姿に少し顔を赤くした。
茂
「……いかんな」
俺は顔面を手で覆うと、茜は不思議そうに首を傾げる。
欲情する訳じゃないが、妻が綺麗すぎるというのも難儀なものだ。
まして茜は天然系だからな、これが保美香や華凛ならあざとく狙ってやるんだが、茜は普段から化粧するタイプでもなく、ただあどけなくそういう仕草をするだけだからな。
茜
「ご主人様? どこか悪いの?」
おっと、茜は俺の体が悪いのかと勘ぐってしまったみたいだ。
茜は結婚して、子供も出来たってのに、未だにご主人様呼び、それなのになんだか近頃大人っぽさも身についてきたような気がする。
……写真で見比べたらやっぱり気の所為な気もするが。
茂
「なんでもない……それよりさ、茜はいい加減ご主人様呼びやめないか?」
茜
「えっ? どうして?」
茜は信じられないという風に目を見開くと、わなわなと震えた。
茜
「も、もしかして私を嫌いに、なりましたか……?」
茂
「い、いやいやいや! 断じて! 断じてそんな事はなく!?」
茜
「だったら飽きたんですね……私は魅力が無いから……」
茂
「それ世の一般女性に言ったらぶん殴られる奴だからな!? あと、俺は別に飽きた訳じゃ!?」
ジラーチ
「なにしてんの……アンタら?」
とんでもない誤解から、俺達は慌てふためいていると、後ろからジラーチが呆れた顔でやってきた。
ジラーチ
「嫌いとか、飽きたとか……アンタ達馬鹿ぁ?」
茜
「うぅ……だっていきなりご主人様呼びは駄目って……」
茜はつぶらな瞳で俺を見ると(攻撃が下がるじゃないか)、その目に涙を貯えた。
畜生……そんなに嫌なのか、しかしジラーチは「はぁ……!」と大きなため息を吐いた。
ジラーチ
「茜、アンタ命(みこと)の事も考えた?」
茜
「命の事?」
ジラーチ
「ママがパパの事、ご主人様呼びって、相当不思議でしょ? そんな夫婦あるわけ?」
茂
「そ、そう! 俺が言いたかったのそれ!」
俺はジラーチに同意した。
出来ればあんまり娘の前でご主人様とは呼んで欲しくないのだ。
なんだかそのうち命が性癖を拗らせるんじゃないかって不安になるんだよなぁ。
茜の性でただでさえ、俺はロリコン扱いだ。
勿論茜を嫁にした事を俺は後悔した事はない。
ただ、社会の目はそこそこ厳しいのだ。
ご近所さんは大体理解してもらえているが、命が小学校とかに通いだしたら不安で仕方がない。
茜
「うぅ……ご主人様はご主人様なのに」
茂
「あ、あのな? 別にすぐ変えろとは言わないが、いずれ変えないと、命に突っ込まれたらもうアウトだぞ?」
茜はほんわかしていると言うか、おっとり系お嬢様な気質がある。
命も日毎に成長しているし、そろそろ情操教育には気をつけるべきだと思うんだよ。
茜
「うぅ、じゃあどうすれば良いんですか?」
ジラーチ
「そりゃ貴方とか、茂さんとか、色々あるんじゃない?」
旦那の呼び方ってのも色々あるとは思うが、だいたいそんなところだろうな。
茂
「よし試しに俺を呼び捨てしてみろ!」
茜
「う、し、茂……さま」
惜しい! 非常に惜しい!
茜は俺の事ご主人様と呼んでもう3年、身体に染みすぎているようだ。
敬称を付けてしまう所は本当に骨身に染みているんだな。
ジラーチ
「これで神々の王ってんだから、笑ってしまうわね」
茜
「うぅ、イーブイだもん、神々の王じゃなくてイーブイだもん」
茜にとって神々の王というのは少々厄介らしい。
その気になれば、今すぐこの世界も壊せるし、逆に創造する事も出来る。
だが神々の王は戯れでイーブイという有限の命に転生した。
今の茜にとってその脆弱な身体はむしろ誇らしいのだ。
ジラーチ
「神って皆ポンコツよねぇ、全く呆れちまうわ」
永遠
「ほぉー? 神を侮辱するとは愚かな………!」
茂
「永遠まで来たか」
リビングで暇していた筈だが、気がついたら永遠までやってきた。
永遠はジラーチを睨むと、ジラーチもまた睨み返す。
両者の間にはバチバチと電撃が走るようだ。
ジラーチ
「実際アンタ駄女神じゃない? 茂に甘えてばっかりでいつまで経っても自立しない」
永遠
「駄女神って言うなー! それに私は里奈や命、茂君を守るのに忙しいのだー!」
茂
(それはほぼ自宅警備員と変わらんと思うのだが……)
まぁ俺は別に困らないし、特に永遠に要求する事なんないんだけどな。
なんだかんだ我が家の駄女神様はマスコットだからな。
ジラーチ
「はぁ、馬鹿ばっか……これだから駄女神は」
茜
「そこまでよ、二人共」
永遠
「むぅ〜……はぁい」
流石に永遠もその上位存在には逆らえないらしい。
というか、無駄に永遠は茜に対しては忠実だからな。
一方ジラーチは茜も気に入らないのかフン! と鼻を鳴らした。
茜
「どうしても争いたいなら……」
ジラーチ
「なに? ポケモンバトルでもしろっての?」
茜
「いいえ……、その勝負は……」
***
勝負……それは、リビングに家族が集まって行われた。
永遠対ジラーチ、その世紀の一戦は茜の提案で格闘ゲームで行われる事になった。
ジラーチ
「はぁ、なんでこんな事に」
思いっきり喧嘩売っていた割には、ジラーチは勝負が始まる前からうんざり気味だった。
一方で永遠は慣れた物で、すでに勝ち誇っていた。
永遠
「ふふ、知るがいい! 私の力は世界を支配する力だと言うことを!」
茜
「因みに時空操作全面禁止ね」
永遠
「なんですとー!? 私時の神様なのに!?」
茂
「お前は人力TASをする気か!?」
永遠はディアルガだけあり、その能力はやりたい放題だ。
その気になれば、時間を鈍化させたり、少し過去に戻ってステート操作したり、ゲームにおいてはやりたい放題だ。
最も茜は流石神々の王か、永遠の時空操作も通じないらしいが。
茜
「双方、悔いのないようにフェアにね?」
永遠
「ち……まぁいいわ! 少なくとも明らかに慣れてなさそうなジラーチには負けないでしょうよ!」
永遠はそう言うとワッハッハと笑う。
なんだか永遠の方が悪党に見えてきたな。
ジラーチ
「……ふん!」
さて、二人がプレイするテレビゲームはもはや国民的金字塔ゲーム。
○トリート○ァイターUだ。
ジラーチは鼻を鳴らすと、選んだのはロシアのレスラーだった。
茂
「おいおい大丈夫かジラーチ?」
永遠
「負けて泣いても知らないんだからねー!?」
一方永遠はアメリカ軍人を選ぶ。
こいつ、分かってて選びやがったな?
とはいえ先にジラーチが選んだ以上、永遠は対策を取り放題だ。
少しでも分かっているなら、選択は相手の後の方がいい、特にこのゲームは操作が簡単で、慣れるのも速いからな。
里奈
「この勝負、どっちが有利なんですか?」
茜
「7対3って言われてるけど……実際立ち回りを知らないならほぼ無理ね」
里奈
「どっちが7?」
茜
「永遠よ」
格闘ゲームなんて全くやらない里奈は生粋の格闘ゲーマーの茜に聞いた。
実際やり込んだプレイヤー同士なら7対3だが、素人同士なら9対1とも言われるからなぁ。
永遠は既に勝ち誇っているが、一方でジラーチも負けるものかと目つきを悪くしてテレビ画面を睨みつける。
まず始まるラウンド1。
開幕永遠は後ろに退こうとする…が!
里奈
「アメリカ軍人が、吸い込まれた!」
ジラーチのコマンド投げが成立した。
ゲーム開始から最速で入力が成立すれば、問答無用で成立するが、これは慣れていても簡単じゃない。
だが、ジラーチは笑っていた。
それこそ少し邪悪な笑みで。
永遠
「ば、馬鹿な!?」
永遠は驚愕した。
ジラーチは冷静に屈み小Pを連打しながら、起き上がり直前にコマ投げを成立させる。
永遠
「はぁ!? ちょ、どうなって!?」
茜
「すごい……何フレームで起き上がるか、調整してる」
ジラーチ
「だからアンタ馬鹿なのよ! 私はこれでもデバッカーよ!」
デバッカーとは、ゲームの開発段階で動作をチェックする人の事だ。
如何にもゲームに慣れてなさそうなジラーチだが、実際は永遠よりも遥かに上手だった。
そのままコマ投げを3回成立させて、ジラーチは勝利した。
永遠
「ジラーチ! 貴様やり込んでいるな!?」
ジラーチ
「答える必要はないわね!」
そのまま第2ラウンドもジラーチがパーフェクトを成立。
永遠は何もできず負けると、口から魂を出すように生気ない顔でガックリとした。
永遠
「と、トリックよ……私が負けるなんて」
保美香
「負けは負けでしょ? ほら、お茶にしましょ」
さて、一人だけリビングいなかった保美香はお茶の用意を終えていた。
今日の茶菓子はクッキーらしい。
ジラーチ
「はぁ〜♪ 気分が良いわ♪ 茂、特別にお茶汲みしてあげよっか?」
ジラーチは完膚なきまでに永遠を下すと、俺に詰め寄った。
茂
「お茶汲みってあのな」
ジラーチ
「フフ、冗談よ♪」
ジラーチはそう言うとウインクして、席に向かった。
俺はそんなジラーチを見て肩を竦める。
茂
「ジラーチ、明るくなったな」
茜
「うん、良い傾向」
永遠
「はん! けど生意気過ぎない?」
茂
「別にいいだろ、ジラーチは充分良い子だよ」
茜
「うん、でもそれよりもジラーチと勝負したい」
俺は絶句した。
あの茜を勝負に引き込むジラーチの腕前。
一体どうなるんだ……と、俺は戦慄した。
***
その後もちょっとしたゲーム大会みたいになった。
お昼ごはんの後は、今度は伊吹がジラーチを相手にしていた。
ジラーチ
「伊吹、その手は待って……!」
伊吹
「あはは〜、持ち時間なくなっちゃうよ〜?」
二人は将棋を指していたが、流石にジラーチも伊吹を相手にするのは分が悪いらしい。
伊吹もかなぁり優しく指しているようだが、それでもジラーチは徐々に追い詰められる。
美柑
「ジラーチさんでも駄目か〜」
茜
「見事に全滅ね」
伊吹は忙しい操作を要求するアクションゲームは苦手だが、将棋のようなじっくり腰を据えて遊べるゲームなら恐ろしい程強い。
見た目だけなら馬鹿っぽいとはよく言われるが、頭の回転はピカイチなのだ。
美柑
「将棋で一番伊吹さんに良い勝負したの里奈ちゃんですもんね」
里奈
「で、でも結局負けちゃいましたし……」
得意不得意で言えば、里奈もアクションよりSLG向きだ。
まぁそもそも里奈の場合はあまり遊ばない文芸タイプだからな。
茂
「里奈は友達とはどんな遊びをしているんだ?」
俺は一応養子の事情を把握しておく。
里奈はそれを聞くと照れくさそうにしながら説明した。
里奈
「時々新央君に付き合ってサッカーしたり、後は石田ちゃんや清水ちゃんとウインドウショッピングしたりとか」
茂
「うんうん♪ 友達一杯で安心だけど、男の子に混じってサッカーしてんの!?」
里奈
「と、時々! 時々だよ!?」
里奈ちゃんPKMだから虐められてないかだけでも不安なのだけど、取り敢えず友達は多いみたいだから安心していいのだろうか。
運動神経が良いのは知っているが、それにしてもサッカーねぇ?
里奈
「お、お義父さんは昔バスケ部だったんだよね?」
茂
「おう、身長だけはあったからな!」
俺は高校時代身長は結構ある方だったからずっとバスケ部だった。
てかこの話美柑位にしかした覚えがないが、里奈は良く知っていたな。
最も、入れば強制スタメンの弱小校なのは誰にも言った覚えはないけどな!
茂
「因みにボーイフレンドは既にいるのかな?」
里奈
「い、いないよっ! わ、私まだそういうの興味ないし……」
里奈は顔を真っ赤にすると指を絡めてモジモジした。
うむ、これ位初心なら問題はないだろう!
永遠
「里奈〜、アンタ結構美人なんだからそこは自覚しなさいよ?」
里奈
「永遠伯母さん……あ!」
永遠
「伯母さんは禁句だっつーの」
里奈
「ご、ごめんなさい……」
里奈も悪気はないが、里奈の母ちゃんのお姉ちゃんの永遠は伯母さんに当たる。
永遠は伯母さん呼ばわりが大っ嫌いで、間違えて言ってしまうと本気で嫌な顔をするので注意だ。
とはいえ、里奈からしても永遠は複雑な相手だからなぁ。
まぁそれでも二人の仲は良好だと思うが。
永遠
「はぁ……良い? 茂君もよ!? 子供の成長は早いんだから、あっという間に里奈だって男作っちゃうわよ!?」
茂
「むむぅ!?」
男と言うと俺は唸ってしまう。
里奈は顔を真っ赤にして首をブンブン振るが、ニコニコ笑顔の茜は。
茜
「ふふ♪ 好きな子が出来たら紹介してね?」
里奈
「お、お義母さん……!」
茜は俺一筋のままゴールインしてしまったから、所謂普通の恋愛を知らないからな。
かくいう俺も陰キャだったから、まともな恋愛なんて知らないんだが。
そういう意味では里奈には、俺達のような駆け落ち地味た結婚はしないでほしいものだ。
命もそうだが、子供の将来を気にするのは親の務めだからな。
ジラーチ
「だーもう! 降参!」
気がつくと、ジラーチは伊吹に負けていた。
むしろ良く保ったもんだ。
伊吹
「あはは〜、結構強かったよぉ〜♪」
ジラーチ
「伊吹……全然定石無視して打ってくるから、対処し辛いったらありゃしない!」
いや、そもそも伊吹は多分定石なんか知らないと思う。
コンピュータに近い打ち方というか、なまじ定石を知らないから、想定外の手を打ってくるんだろう。
ジラーチ
「はぁ……悔しいわね、やっぱり純粋な知力だと伊吹には敵わないか」
多分ジラーチも頭はかなり良い方だろう。
それだけに本来得意分野で負けた事は想像以上にショックだったのだろうな。
伊吹
「因みに〜、得意なゲームは〜なぁに〜?」
ジラーチ
「そうね、RPGは……嫌いね、思い出したくない」
茂
「一体どんなトラウマが?」
ジラーチ
「……あんな調整しんどいゲーム作ってたら逆にプレイしたくなくなるわよ……得意ねぇ……大体なんでも卒なくこなせると思うけど?」
ジラーチらしいな。
ジラーチの種族値はALL100、究極の丸っこいステータスと言える。
それ故に得意不得意は少ないのだろう。
あえて言えば何でも得意か。
ジラーチ
「はぁ、コーンポタージュ飲みたい」
茂
「コーンポタージュ?」
ジラーチ
「あ、その……」
ジラーチはしまったと言う風に顔を赤くした。
もしかして好物なのか?
ジラーチ
「こ、子供っぽいって思った?」
茂
「いや、意外だとは思ったけど……いいじゃないか、人それぞれだし」
例えば何でも食べる茜でも実は苦手な物がある。
それがブラックコーヒーだ。
俺はブラックから微糖派だから、茜が真似してブラック飲んだ時には、茜は涙目で飲みきったからな。
伊吹なんてベジタリアンな上に食も細い。
美柑は意外と子供っぽい舌だしな。
茂
「えっと、あったかな?」
俺はキッチンに行くと、コーンポタージュの素がないか探してみる。
丁度保美香が買い物に行ってしまったから、キッチンの事は俺も疎かった。
茂
「里奈、コーンポタージュってあったっけ?」
里奈
「えと、確かに左の棚に」
左の棚、俺は里奈の指差す棚を開けると、色々な袋が入っていた。
おっ、コーンポタージュの素発見。
俺はそれを取り出すと賞味期限を見た。
茂
「よし、大丈夫みたいだな」
俺は早速お湯の用意をする。
ジラーチ
「……」
伊吹
「ウフフ〜♪ ジラーチ、そんなに〜、嬉しい〜?」
ジラーチ
「えっ!? い、伊吹!? な、何言って……!?」
伊吹
「うふふ〜、すっごくドキドキしてる〜、思い出の味〜?」
ジラーチ
「思い出……そう、ね」
俺はお湯を炊くと、カップに素を入れてお湯で溶かした。
俺はカップを持つとジラーチの元に向かう。
茂
「ほれ」
ジラーチ
「あ、ありがと……」
ジラーチはなにやら顔を赤くするとゆっくりとカップに口をつけた。
伊吹
「うふふ〜♪ ねぇ茂君〜♪ お姉さんにも頂戴〜」
茂
「はいはい、伊吹もね〜」
俺は伊吹のリクエストを聞くと、直ぐに2杯目の用意に向かう。
命
「あ〜う〜!」
茂
「お? 命も欲しいのか?」
茜の手の中で落ち着いていた命は突然声を上げて、手を伸ばした。
まるでコーンポタージュの匂いに誘われたみたいだな。
茜
「命、食べたいの?」
命
「う〜!」
茂
「命もそろそろ幼児食チャレンジか?」
命は今1歳、ホモサピエンスならそろそろ離乳食を卒業なのだが、いかんせん命はイーブイのPKMだからなぁ。
時々病院で検査してもらっているが、命は普通の赤ちゃんとはどうしても食い違いが出る。
尻尾とか耳があるのも勿論だが、細かい所で心臓含む内蔵器官も少し強靭だと言う。
ただ、子供のPKMの発現例があまりに少なく、どのように成長するか謎なんだよな。
大抵異種間ハーフは虚弱短命だったり、次代に子供を残せない身体だったりするが、そういう問題も抱えているんだよな。
茂
「んー、コーンポタージュなら命も大丈夫か?」
箱の裏の注意書きには少なくとも大丈夫そうだ。
とはいえ火傷させないように注意しないとな。
茂
「よし、一応チャレンジしてみるか!」
俺はそう言うと伊吹と命の分も淹れる。
***
ジラーチ
「……」
私はコーンポタージュを飲みながら、横目で茂を見た。
茂は命に精一杯お父さんしていて、私は茂が変わったんだなと改めて実感する。
けれども、コーンポタージュの味はやっぱり茂だった。
ううん、味じゃない……愛情だ、カップに籠る茂の念が私の思い出の味と何も変わっていないのだ。
伊吹
「ん〜、美味しい〜♪」
隣で熱々のコーンポタージュを飲む伊吹もご機嫌だ。
いや、そもそも伊吹が意気消沈する姿は見たこともないんだけど。
伊吹はいつもニコニコ笑顔だけど、あの笑顔の奥でどれだけ色んな事を考えているんでしょうね。
ジラーチ
「ふう」
やや熱いコーンポタージュを飲み終えると、私は息を吐いた。
そして私はカップの底を見る。
ジラーチ
(やっぱりないか)
私はコーンポタージュ残り滓が作る天使の輪っかに期待したが、やはりこればっかりは中々現れない。
私は願いを司るポケモンだけど、私自身にその能力を使う事は出来ない。
どちらかと言えば不幸な方の私だが、この幸運のお願いは未だやめていなかった。
茂
「フーフー! はい、気をつけてなー?」
命
「あーい♪」
茂はスプーンでコーンポタージュを掬うと、命の口に運ぶ。
茜と茂、それは微笑ましく、そして羨ましい。
ジラーチ
「ご馳走さま」
私は立ち上がるとカップを洗い台に持っていく。
茂
「お、どうだった? 口にあったか?」
ジラーチ
「ええ、とっても美味しかったわ」
私はそう言うと微笑する。
思い出の味、というのは大袈裟かもしれないけどやっぱり私はこの念が好きなのだ。
保美香
「皆さんただいま帰りましたわ〜」
ジラーチ
「あ、お帰り保美香」
茂
「お帰りー」
私は直ぐに玄関に向かうと保美香は両腕一杯に荷物を持っていた。
相変わらず本人でも重たそうで、よく運ぶものだ。
ジラーチ
「荷物持つわ」
保美香
「あら、よろしいんですの?」
ジラーチ
「見た目よりパワーもある、それに」
私は荷物を受け取る時、念動力を操り荷物を宙に浮かす。
保美香は「まぁ」と感嘆の声を上げた。
保美香
「やっぱりエスパータイプは便利ですわね」
ジラーチ
「念動力を扱うのは意外とセンスが要求されるんだけどね」
エスパータイプの事情はそれぞれだ。
私は念動力なら誰よりも得意だと自負するけど、多分読心術だと里奈には勝てない。
予知夢や、テレポート、一言エスパーと言っても得意分野は異なる。
だから一重にエスパータイプと一括にされて困る所だ。
私は荷物を半分手に持つとキッチンへと運んだ。
保美香
「ふぅ、ジラーチ、冷蔵庫には私が仕舞いますので」
ジラーチ
「それじゃ何を手伝えばいい?」
私はキッチンに荷物を置くと、保美香は手早く冷蔵庫に保存のいる食品を詰め込んでいく。
保美香
「特にありませんわね……それにしてもジラーチ、そんなに献身的にならなくとも、邪険にはしませんことよ?」
ジラーチ
「分かってる……でも、落ち着かないの」
私はずっと献身的に生きていた。
私は誰かの下にいないと落ち着かないのかもしれない。
なにか作業をしていないと落ち着かないのかもしれない。
自分のこの性だけは変えられない。
保美香
「優しいのですね、ですが同時に甘えているようにも思えますわ」
ジラーチ
「甘えている? 私が……?」
保美香は一旦手を止めると、保美香の思う客観的な意見を述べた。
保美香
「ジラーチ、貴方は誰かに依存しないと落ち着かない性分なのでしょう、それは本能的に献身的になり、そして誰か甘えていないと生きていけない」
ジラーチ
「……随分知った風ね」
保美香は苦笑した。
冷蔵庫に粗方食品を押し込むと、バタンと閉じて自分を指差し。
保美香
「わたくしも同じですから♪」
私は呆然とした。
保美香が私と一緒?
私は少し釈然としなかったが、それでも保美香が私を言い表したそれは納得がいった。
確かに私は誰かに依存しないと生きていけない。
フーパにも指摘された部分であり、それを承知で私はフーパと一蓮托生を築いのだ。
ジラーチ
「っ!? フーパ?」
保美香
「え?」
茂
「フーパだと?」
私はふと、覚えのある思念をどこからか感じた。
私はその思念を少しでも感じ易くするため、ベランダに移動すると天を仰いだ。
茂
「おい、フーパだと? 近くにいるのか!?」
私の後ろから茂が追いかけてきた。
私は茂にも目も暮れずフーパの小さな思念を必死に探した。
やがて、空の一点に私は注目した。
ジラーチ
「そこにいるの……? フーパ?」
突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品
Part2 完。
Part3に続く。