突ポ娘短編作品集


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短編集
3周年記念作品 Part1

宇宙は広がる、幾重にも。
それは時に異なる宇宙さえ産み出す。
無限の可能性を持つ宇宙……そこに、ゆったりとまるで浮遊するように宇宙空間を泳ぐ、2人がいた。

片方は白い肌、目元にティアドロップの模様を持ち特徴的な黄色い帽子を被った少女。
しかしその目は嫌にやさぐれており、美少女と言うには背が低く、子供過ぎる。

ジラーチ
 「ねぇ、いつまでこうしてるの?」

少女の名はジラーチ、条件付きではあるが因果律さえ、変える事の出来る異能を持つポケモン娘だ。
ポケモン娘とは、元来ポケモンだったそれが、ある時一斉に人化した存在。
人化した理由は不明だが、この無限の可能性を持つ宇宙では、そのような不思議な現象が発生してもおかしくもないのかもしれない。

フーパ
 「そうだねぇ、まっ、まったり星間飛行と洒落込みましょうや」

一方で頭の後ろで手を組んで、鼻歌交えて気持ちよくリラックスしていたのはフーパというポケモン娘だ。
褐色の肌、紫色の特徴的な帽子と、アラビア風を思わせる衣装、周囲には金色のリングが二人の周囲を周っている。
こちらも少女といえば少女だが、その見た目は幼すぎる。

ジラーチ
 「星間飛行って……」

ジラーチは呆れた。
周囲を瞬く恒星の光り、悠久の時を刻み、そしてその光は遠いものは何億年も前の光なのだ。
永遠に近い寿命を持ち、そして怠惰に生きる二人だが、二人は既にこの状態で何年も過ごしている状態だった。
ジラーチ達にとって時間の流れは速い。
あまりにも幾星霜を見てきた彼女達には、人間の主観時間は遅いのだろう。

ジラーチ
 「私、飽きたんだけど?」

ジラーチは不満げに顎に手を乗せた。
二人は時空の旅人だ、気まぐれにフーパが開いたリングに飛び込み、幾星霜の世界を渡る。
ジラーチはこれまで数多の世界を見てきた。

ポケモンが魔女や悪魔と言われ迫害される世界。
荒野で己の信念に生きるガンマン達の世界。
いきなりプロレス団体と遭遇した事もあったっけ。
二人の旅は何でもありだ、窮地に陥った事も一度や二度じゃない。
ジラーチとフーパの力は比類なき物だが、それを狙う存在は多く、それ故に二人は定住も出来ず、ただ時空を旅する存在となったのだ。

ジラーチ
 「はぁ、コーンポタージュが恋しい……」

ジラーチは溜息を零した。
フーパは片目を開くと、リングを手元に呼び寄せる。
フーパとジラーチが二人の力で作り出した宇宙にポツンと存在する小さなスフィア、その中は紫外線も放射線も灼熱の光でさえ通さず快適だ。
フーパはリングに手を突っ込むと、湯気の溢れるコーヒーカップを取り出した。

フーパ
 「ほい、お望みの品」

フーパはジラーチに投げると、ジラーチは気怠げにキャッチした。
出された以上飲むしかないが、ジラーチはまた溜息を零す。

ジラーチ
 「やっぱり違う……はぁ」

フーパ
 「ジラーチ、もしかしてホームシック?」

フーパはジラーチに顔を向けるとそう言った。
しかしジラーチは噛み付くような視線フーパに向ける。

ジラーチ
 「アンタ馬鹿ぁ? 私のホームってどこよ?」

ジラーチは己の出生を知らない。
むしろ知りたいとも思わない。
ジラーチは願いを叶えるポケモンとして生まれ、それにより欲望のまま利用され続けた。
1000年のうちたった七日間だけが、活動できる機会。
ジラーチのやさぐれた目は、その憎悪の証でもある。

フーパ
 「ホーム、か……アタシの場合、自分で破壊したからなぁ」

ジラーチ
 「アンタって、そういや世界一つを滅ぼしたんだっけ」

そう、フーパにはかつて一人のマスターがいた。
フーパはマスターの為に働ける事が嬉しくて、マスターの役に立ちたくって、甲斐甲斐しく働いた。
しかしフーパはやがて自分が便利な人形に過ぎないのではないか疑問を抱いた。
その結果、フーパはマスターと口論の結果、やがて喧嘩となり、そして神にも等しき力を振るいはじめ、世界を一つ破壊してしまった。
魔神のあるがままに力を振るった結果であり、気がつけばマスターさえおらず独りぼっちのところにアルセウスが現れた。
神々の王の怒りは、フーパを封印するに至った。

フーパ
 「ま、昔の話だよなぁ」

そう言うフーパは全く気にしていなかった。
そう、全てを失ったフーパにとっていつの間にか釈放されていた事も、人化していた事も些細な問題なのだ。

ジラーチ
 「ん?」

フーパ
 「どうしたジラーチ?」

ジラーチ
 「あれ」

ジラーチがある彼方を指差した。
フーパはくるりと宙返りするように回転すると、ジラーチの指差した方角を見た。
光だ、宇宙では対して珍しい物ではないが、何かがおかしい。
光が大きくなる、まるで爆発だ。
超新星爆発? いや、それにしては近過ぎる。

フーパ
 「なんだ? なんの爆発だ?」

宇宙空間ではどんな光でも距離がある。
だが、遠い光ほど確認はし辛い。
フーパはそれが比較的近い場所での爆発だと感じた。

ジラーチ
 「何かが近づいてきている!?」

フーパ
 「なに!?」

フーパはリングから双眼鏡を取り出した。
双眼鏡で見えたものは、高速で近づくなにかだった。
いや、なにか等ではない、それは宇宙船か?
いや、まるで宇宙戦艦だ! 超巨大な宇宙戦艦と、その随伴のように無数の小型艦が、二人に近づいてきている!

フーパ
 「なんかやばい感じか!?」

ジラーチ
 「距離を取るわよ!?」

ジラーチは念動力を操ると、スフィアは高速で動き出す。
宇宙戦艦の航路から逸れるように移動する、こうすれば重ならない筈だ。

ジラーチ
 「とりあえず、これで……」

フーパ
 「っ!? 進路を変えやがった!?」

宇宙艦隊は明らかにフーパ達を狙っている!?
やばい、フーパはそう思い、右腕のリングを大きく拡げた。

フーパ
 「逃げるぞ! 飛び込め!」

ジラーチ
 「ああもう! どうしていつもいつもいつも!!!」

ジラーチは怒り心頭であった。
こうやって二人を狙う輩はいくらでもいる。
今回もそうだろう、そういう輩が二人は大嫌いなのだ!
しかし、今は逃げるしかない。
リングを通過する二人は、別の宇宙へと出た。

フーパ
 「ふう、いくらなんでもこれで追いかけては来れないだろ」

フーパは一安心すると、リングを閉じ、手元に手繰り寄せた。

ジラーチ
 「一体アイツら何者だったのかしら?」

フーパ
 「さぁな、まぁどうでもいいことだ」

それにしてもここは何処だ?
フーパは宛もなく転移した。
お陰で今の座標は分からなかった。

ジラーチ
 「っ!? 何かがてん……!?」

その瞬間だった。
突然二人の周囲の質量が増大した。
空間転移、そう叫ぼうとした瞬間、フーパはジラーチをリングに押し込んだ!

ジラーチ
 「なっ!?」

ジラーチは驚愕した、必死にフーパに手を伸ばす。
だが、間に合わない……!
リングが小さくなり、ジラーチとフーパがいた場所が遮られた。

フーパは頭上を見上げた。
何処とも分からぬ銀河の果て、何故こんな場所でまで、欲深き者たちはやってくるのか。

空間に質量は増すと、熱量が上がり始めた。

フーパ
 (ジラーチ、ごめん……!)

直後、光が溢れた!

ズドォォン!!

あのジラーチが確認した不自然な光、それは空間転移に伴う質量増大からは発生した圧縮されたエネルギーの光爆であった。
今度は逃すまいと、フーパを取り込むように大艦隊が出現する。



突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品

史上最大の危機、願い星の想い



西暦20XX年、地球。
人間とPKMが共存する特別な世界。


 「俺の名は常葉茂……地球は狙われている!」

さて、サクッと自己紹介したが、俺は死んだ魚の目を持つ男、常葉茂だ。
人生まだまだこれからなナイス26歳、俺の目の前には俺の子供がいた。
その名前は命、常葉命と言い、イーブイのPKMだ。
PKMっていうのはポケモンが人間になってしまった存在。
世に言う擬人化だが、命のように、多くのPKMがこの世界にはいる。


 「キャキャキャ♪」

命はまだ1歳で、ようやく耳や尻尾もイーブイらしくしっかりしてきた。
こんな可愛い愛娘を産んでくれたのは、俺の妻の茜だ。
茜は少し離れた場所で優しく微笑んでいる。
その茜の隣に立つモデル風の美人は呆れたように言った。

保美香
 「だんな様、赤ちゃんにネタを振ってもきっと理解されないのでは?」


 「それ以前に、私達じゃそのネタに突っ込めない……」

俺をだんな様呼ばわりしたのは保美香、ウツロイドのPKMでこの家の家政婦だ。
普段は落ち着いていて優秀な家政婦だが、その内には危険な性癖を潜ませる問題児でもある。

永遠
 「そーらーにー、青い流星ー」


 「相変わらず突っ込んでくれるの永遠だけだよなぁ」

改めて我が家にネタの神はいないらしい。
走れメロスのようにを口ずさむのは永遠(とわ)、ディアルガのPKMだ。
永遠は元神の十柱と呼ばれる、この世界で時を司る神様だった。
しかしある事件を解決するために、俺は永遠と契約し家族となった。
今ではすっかり現代社会にも馴染んでおり、日々を怠惰に生きている。


 「さーて、日曜日だし、どうするかね?」

俺も流石に休日まで仕事はいれてないからな。
そうなると俺は結構、日曜日の過ごし方って下手なんだよなぁ。
基本家でダラダラしているし、寝て過ごす事も多い。
仕事のことも考えると、あんまり明日に疲れを残したくないから、それを理解している家族もあんまり、そういうおねだりしてこないんだよな。
とはいえ、俺としては家族サービスしたいのは本当だ。


 「ご主人様、久し振りにゲームセンター行きたい」


 「ゲーセンか、確かに最近は殆ど茜も行ってないもんなぁ」


 「げ〜う〜?」

保美香
 「命をあの騒乱空間に連れて行くのは気が引けますわね」

茜は大のゲーム好きだ。
家でゲームをするのも好きだが、外で遊ぶのも楽しいのだろう。
そんなまだまだ若い我が妻だが、実は正体は神々の王と呼ばれる超次の存在、本当の意味で神様だ。
まぁ神といっても、この地上で生きる限り、人の一生で終える。
あくまでも神である以前に、俺の妻で命の母親なのだ。


 「うー……」

茜は命の事を想うと、残念そうにがっくりと肩を落とした。
そりゃママさんだって遊びたいってのは分かるけど、まだ命も小さいからなぁ。
しかし、そんな風に喋っていると、一人が手を上げた。

伊吹
 「はいは〜い〜、だったら〜、私に〜任せて〜!」

伊吹だ、ほんわか爆乳お姉さんの伊吹はヌメルゴン娘。
丁度伊吹は保育士の仕事をしており、子供のことは任せておけという態度だった。

永遠
 「いいんじゃない? 何かあれば私も光の速さで駆けつけるし、遊びに行きましょ」

保美香
 「一応わたくしは、残っておきますわ」

保美香と伊吹が居残りなら、問題無いと言えば無いか。
俺は茜を見ると、茜はゆっくりと立ち上がった。


 「皆、ありがとう」


 「それじゃ、久々にゲーセン行くか!」



***



ジラーチ
 「……っ、ここは?」

私はクラクラする頭を抑えながら、ゆっくりと目を開けた。

ジラーチ
 「え?」

私は驚いた。
目に映ったのはコンクリートのビルが立ち並ぶ、コンクリートジャングルだった。
更に無数の電柱と架線、見慣れた光景に私はただ、震えた。

ジラーチ
 「ここは……日本?」

私はゆっくりと立ち上がる。
久し振りの重力、ややフラフラになりながら、改めて周囲を見渡す。
間違いなく日本だ、ならば地球?

ジラーチ
 「そうだ!? フーパは!?」

私はフーパを思い出して、その姿を探した。
けれどいない、いや感じない。
ジラーチはフーパを感じることが出来なかった。

ジラーチ
 「そ、そんな……それじゃあフーパは?」

私は愕然とした。
ジラーチが最後に見たのはフーパが必死の形相で私をリングへと押し込む姿だった。
私は必死にフーパに手を伸ばすが、リングは無情にも閉じてしまった。
閉じる中、フーパは私の無事を見届けるように笑っていた気がした。
私は……私だけが生き残ってしまったのか?

ジラーチ
 「ふざけんじゃないわよっ!!」

私はそう叫んだ。
フーパはいつもそうだ!
私が良ければ、いつでも自分が傷つく事を躊躇わない!
私に、理不尽なイタズラを繰り返す癖に、他が私に手を出すのを許さない。
あの馬鹿は……馬鹿は!

ジラーチ
 「私がアンタがいなくても平気だと思ってんの……!」

私は涙した。
怒りの次は悲しみだった。
フーパを理不尽に失った悲しみを私は処理出来る程単純じゃない。
けど、それで理不尽に八つ当たり出来る程子供でもなかった。

ジラーチ
 「馬鹿……なんで私なのよ」

私はトボトボと歩き出した。
あの謎の宇宙艦隊の狙いはフーパだったのか?
私は空を見上げると、ムカつく程青い空が広がっていた。
今はフーパもあの宇宙艦隊の気配も感じない。
ならば撒いたのか。

ジラーチ
 「まずここがどこなのか把握しないと」

私は涙を拭くと、顔を上げた。
フーパの事を無かった事になんかしないけど、それとは別に生存戦略は必要になる。
結局一人放り出されたまま、野垂れ死には一番笑えないパターンなのだ。

ジラーチ
 「まずは水の確保か、まぁここが日本なら……」

私は適当に公園を探す。
公園なら大抵水道と繋がっている。
日本の水道なら大抵安全な事もあり、更に防災設備も揃っている事が多い。
まぁ私は鋼タイプだから、多少のばい菌ならへっちゃらなんだけど。
と、キョロキョロしていると私はある集団を見た。

ジラーチ
 「え……うそ?」

それはイーブイのポケモン娘とディアルガのポケモン娘を連れる背の高い男性だった。
男性は目がやさぐれており、表情が怖い。
だが、彼にとってそれは自然体だ、私は急に涙が溢れた。

ジラーチ
 「茂……!」

男性が振り返る。
私は口元を両手で隠した。



***



ジラーチ
 「茂……!」


 「え?」

ゲームセンターで遊んだ後、俺達は帰り道についていた。
しかし突然女の子が聞こえた。
随分懐かしい声で、俺はその方向を見た。
そしてそこにいたのは。


 「ジラーチ?」

それは随分懐かしい少女だった。
ジラーチは俺を見つけると、直ぐに駆け出した。
その顔には涙があり、ジラーチは迷わず俺に抱きついた。

ジラーチ
 「茂……本当に茂だ……本当に!」


 「ジラーチ? お前どうしたんだ?」

ジラーチと再会したのはいつ以来だろう。
少なくともここ数年は会っていない。
気がつけば妻と結婚し、娘も生まれた。
自分が急速に老いたように感じながら、一方でジラーチは何も変わっていない。
俺は記憶の中にあるジラーチを今のジラーチと照らし合わせた。
このジラーチは間違いなく、俺の知るジラーチだ。

永遠
 「ちょっと、いつまで茂君に抱きついてんのさ?」

永遠は、ジラーチが気に食わないのか、顔を膨らませるとそう言った。
だが茜はそれを直ぐに制す。


 「そっとしておいてあげましょう」

永遠
 「……ふん」

ジラーチ
 「アンタ達も、久し振りね……」

ジラーチは涙を拭くと、茜と永遠を見た。
永遠はフンと鼻を鳴らし、茜は軽く会釈する。


 「そうね、久し振り」


 「兎に角何があった? フーパはどうした?」

俺はジラーチの様子がおかしい事と、そしてジラーチと一緒にいつも行動していたフーパがいない事に気が付く。
フーパの名を聞くとジラーチは顔を曇らせた。

ジラーチ
 「あの馬鹿は……」

ジラーチは言い淀んでいた。


 「……何かあったのね?」

ジラーチ
 「あ、アンタ達には関係ないっ!」

ジラーチはそう言うと俺から飛び退いた。
その態度は明らかにフーパに何かあった証だろう。
だがジラーチは俺達を巻き込みたくない、そういう空気が感じ取れた。

ジラーチ
 「ごめんなさい……心配かけちゃって、でも……私は」


 「ジラーチ……」

俺はジラーチの身長に合わせて、屈み込むと、ジラーチの頭を撫でた。
俺はなるべく穏やかな気持ちで言った。


 「辛いことがあったのかも知れない……でも、今は俺がいる、それじゃ駄目か?」

ジラーチは俺の目を見ると、その大きな瞳に涙を溢れさせた。
顔を上気させ、涙を堪えるが、直ぐにそれは決壊する。

ジラーチ
 「ッ! ヒグ! あ、アンタ馬鹿!? 私に、優しくしたって! したって!? な、なんもしてやらないんだから!」

永遠
 「相変わらず可愛くない奴〜、素直に甘えりゃいいのに!」


 「シッ! ジラーチにはジラーチなりの照れがあるのよ」

外野が煩いが、今度は俺からジラーチを抱き締めた。
ジラーチは肩を震わせていたが、俺から離れようとはしなかった。


 「フーパの事は一先ずいい、ジラーチが話したいと思ったら話してくれ」

ジラーチ
 「う、うん……」

ジラーチは複雑なメンタリティの持ち主だ。
大人であり、子供である、まるでそんな少女の過渡期のような気持ちは、確かに永遠からすれば回りくどいかもしれない。
しかし、それもジラーチの歩みであり、俺はそれを尊重する。


 「おっし! そんじゃジラーチ! 俺んち寄ってくか!?」

俺は立ち上がると、快活な笑顔でそう言った。



***




 「ただいまー」

伊吹
 「おかえり〜……て、あれ〜」

俺達は帰ってくると、リビングでは伊吹が命をあやしてくれていた。
命は玄関に振り返ると、満面の笑みを返してくれる。


 「パパ〜♪ ママ〜♪」

ジラーチ
 「あの子って……?」

ジラーチは知らないだろうが、アレは命、俺の子だ。


 「俺と茜の子だよ、命って言うんだ。さ、遠慮せず上がってくれ」

ジラーチ
 「お、お邪魔します」

ジラーチはやや驚きながら、余所余所しく家に上がった。
ジラーチがこの家に来たのはもう2年以上前か、なんだかんだ変わったんだ、ジラーチには懐かしさより変化の方が大きく感じるかもな。

保美香
 「あら? 貴方確かジラーチさん?」

ジラーチ
 「ウツロイド……保美香、ね」

伊吹
 「うふふ〜♪ 久し振りだね〜♪」

ジラーチ
 「そうね、伊吹」

ジラーチのやつ、皆のことちゃんと覚えていたんだな。
とはいえジラーチは周囲を伺うとあることに気が付く。

ジラーチ
 「これだけ?」


 「美柑と里奈は朝早くに出かけた、凪と華凛は家を出た」

美柑はギルガルド娘で、ボーイッシュな女の子だ。
里奈はアグノム娘で、俺と茜の養子、現役中学生だ。
凪は今予備校に通いながら、寮生活している。
華凛もまた同様だ、やりたい事を見つけて出て行った。
二人共、迷惑をかけまいと出て行ったのだ。

ジラーチ
 「そう……」

ジラーチはそれ以上何も言わなかった。
まぁ、お互いそれ位の経過を得たって事だよな。

保美香
 「ま、それでも凪さん達とは、今でも連絡は取り合ってますけどね?」

保美香は一応そう補足する。
そう、別に離れたと言っても絆が切れた訳じゃない。
もし華凛達になにかあったら、俺はいつでも力になるつもりだ。

伊吹
 「それにしても〜、本当に久し振り〜、今回は一人なんだね〜?」

伊吹はニコニコ笑顔でそう言った。
ジラーチはその何気ない一言に顔を暗くする。
それ目敏く気付いたのは保美香だ。

保美香
 「なにか、ございましたの?」


 「ジラーチ、苦しいなら何も言わなくても……」

ジラーチ
 「ううん、やっぱり説明するわ、このままじゃ私、不義理だもの」

ジラーチはそう言うと首を振った。
保美香は無言で茶器を用意すると、お茶の用意をした。

保美香
 「皆さん席へいらっしゃいませ、ジラーチも」

ジラーチ
 「……ごちそうになるわ」

俺達はテーブルに着くと、ジラーチに視線を注いだ。
保美香はティーカップに紅茶を注いでいくと、ジラーチは一口カップに唇をつけると、重々しく口を開いた。

ジラーチ
 「私が貴方達と別れてから、ずっとフーパと旅をしていたわ」


 「確か、一箇所に留まると危険なんだっけ?」

ジラーチはコクリと頷く。
幻のポケモンにはそのレアリティという付加価値もあるが、それ以上に異能ともいうべき、超然とした力があるという。
それは善悪問わず引き寄せる欲望に繋がり、それらを避けるようにジラーチとフーパ、そしてマナフィは旅立って行った。
その旅はきっと今も変わらないのだろう。

ジラーチ
 「私達の能力を誰にも悪用させないために、それこそ果てしない旅だったわ……」

保美香
 「異能ですか……」

永遠
 「不便ね、悪党なんてぶっ飛ばせばいいのよ!」


 「……」

茜は何も言わず、永遠は随分乱暴な事を言う。
保美香もまた、かつてはウルトラビーストというだけで迫害されたという、少なからず同じ想いの者もいた。
ジラーチは苦笑した。

ジラーチ
 「そんな簡単じゃないのよ……特に今回は」


 「何が、あったんだ?」

俺は覚悟を決めて、核心を求めた。
ジラーチはティーカップをテーブルに置くと。

ジラーチ
 「ある違う宇宙……私とフーパは謎の宇宙艦隊に襲われた」

伊吹
 「宇宙〜、艦隊〜?」

ジラーチ
 「私達は訳も分からず逃げたけど、奴らは執拗で、もう駄目かって所でフーパが私を地球に送ったの」

……衝撃的だった。
宇宙艦隊、それはつまり異星人なのか?
ジラーチは首を振って、その無念を表情に浮かべる。


 「それじゃ、フーパは捕まったの?」

ジラーチ
 「分からない……けどフーパは感じられない」

それはフーパが死んだのか、それとも感じられない程遠いのか。

ジラーチ
 「ね? 馬鹿げているでしょ? こんなのどうしろっての」

永遠
 「……」

永遠は両腕を組むと何も言わなかった。
ただ、なにか危惧でもあるのだろうか、その顔はいつも以上に仏頂面だった。


 「う〜、ママ〜」


 「ああ、ごめんね命」

命は暗い雰囲気を嫌がったが、不満顔で茜の腕の中で暴れた。
ジラーチはそれを見ると苦笑する。

ジラーチ
 「アンタ、やっぱりロリコンだったんだ」


 「……茜は特別だ」

俺はそう言うとなるべく表情に出さず、紅茶を頂く。
ジラーチはそれでもニヤニヤと俺を見てきた。

保美香
 「全く! だんな様が求めればわたくしだって、喜んで何人でも孕みますわ!」


 「おいこら!? このHENTAI何に対抗した訳!?」

伊吹
 「それなら私も〜♪」

永遠
 「わ、私だってママになれるんだから!?」

調子に乗って、嬉々として伊吹は手を上げた。
永遠は顔を真っ赤にすると恥ずかしそうに手を上げた。
おいおいおい!? なんかこれやばくなってないか!?
俺は恐る恐る茜を見た。
しかし、茜は頬を紅く染めると。


 「そろそろ、二人目つくる?」


 「お前らー! いい加減にしろー!?」

俺は立ち上がると、テーブルを叩いて怒声を上げるのだった。



***



ジラーチ
 「……その、ごめん」


 「……何がだ?」

あの後、家にいられなくなった俺はもう一度外に出た。
ジラーチはやや俺の後ろを申し訳無さそうに追いかけてきた。
俺はやや不満顔をすると、ジラーチは更に困ったように小さくなった。

ジラーチ
 「私が、均衡を崩した」


 「ああ、別にジラーチの責任じゃないだろ」

ジラーチ
 「でも……」

俺は振り返ると、ジラーチの頭に手を置いた。
ジラーチは恐る恐る顔を上げる。


 「お前のそういう優しい部分は美徳だと思うぞ、でも悪い点は何でもかんでも背負い過ぎじゃないか?」

俺はよく、茜や保美香に注意される。
俺もジラーチに似た部分があるのだ。
しかし、ジラーチはそれを悲観していた。
普段口が悪く、やさぐれたイメージを持つが、本質は臆病で優しい性格なのだ。


 「あのな? あれ位の下ネタ別に一度や二度じゃない訳、ジラーチがやったってのも、別に今更だし、気にしちゃいないよ」

俺はそう言うとジラーチの頭を撫でた。
ジラーチは「ん」と小さく声を上げると、それを受け入れた。

ジラーチ
 「茂……私」


 「あんまり気に病むな、ジラーチの責任じゃない」

ジラーチ
 「……うん」

ジラーチは初めて微笑んだ。
その顔は非常に愛らしい。
本来ジラーチというポケモンは愛らしい物だ。
しかしこの少女は、心を荒ませ、人間不信の気さえある。


 「ジラーチ、お前は笑っている方が、可愛いぞ?」

ジラーチ
 「なに変態? それじゃ普段の私は可愛くないと?」

ジラーチはそう言うとニヤリと悪どく笑った。
俺はそれを突っ込まれると、頬を掻いて困ってしまった。


 「いや、そういう訳じゃないんだが」

ジラーチ
 「ふふ、冗談よ……少しだけ、甘えさせて」

ジラーチはそう言うと俺の腰に抱きついた。
ジラーチにしては珍しいスキンシップだった。
これを断れる俺じゃないわな……。


 「ちょっと、散歩しようか?」

ジラーチ
 「……うん、どこでも付き合うわ」

俺達は静かに歩き出す。
昼下りの住宅街は静かで、近くからは子供の喧騒が聞こえた。
俺は空を見上げる。


 (……フーパ、お前は無事、なんだよな?)

俺はジラーチの相棒である、あの褐色の快活な少女を思い出す。
俺とフーパの付き合いははっきり言って短い。
だが、彼女は何故か俺を助けてくれた。
それはジラーチも一緒だ。
俺の今があるのは間違いなく、多くの人やポケモンに支えられてきた。
そしてその中に間違いなくフーパもいたのだ。

ジラーチ
 (茂……フーパを想ってくれるのね、ありがとう)


 「ん? ジラーチ?」

ジラーチ
 「茂……私決めたわ」


 「なにを?」

ジラーチはギュッと、俺を掴む力を強めた。
そして力強い表情で俺の目を見ると。

ジラーチ
 「貴方になにかあれば、私が護る……!」



***



遠い宇宙の彼方、太陽系よりも遠く、銀河団さえ越えて先。
赤い異様なシルエットを誇る超巨大な宇宙戦艦があった。
戦艦の大きさは軽く月の3分の1もある。
それ自体が国であり、その中には都市さえあった。

フーパ
 「……おいおい、何だこりゃ?」

その中にはフーパの姿があった。
フーパは両手に掛けられた手錠を忌々しく見た。
この手錠にはフーパの能力を封じる力があるらしく、今のフーパは見た目通りの幼女に過ぎない。
そしてフーパはその手錠を掛けた異星人に連行されていた。
異星人達は一様に顔の見えないスタイリッシュなコンバットスーツに身を包んでいる。

フーパ
 (あまり異星人の装備という感じではないな)

フーパは力は封じられていたが、常に脱出の機会を伺い、今は素直に従っていた。
異星人の装備は地球の技術と同じ系統に思えた。
つまり似たような文明が土台にあるという事か。
更にフーパはある宮殿に連れ込まれたが、その意匠もどこか既視感を覚える。

やがて、フーパは宮殿の奥へと誘われた。

フーパ
 「ここは……?」

フーパは周囲を伺った。
フーパを連行する異星人は一言も喋らないし、フーパに答える事もない。


 「来たか、フーパよ」

フーパ
 「……え?」

天幕があった。
異星人のボスか? 天幕の向こうに何やら様子の異なる男がいる。
フーパはそちらを振り向くと動けなくなった。

フーパ
 「そ、んな……」

天幕の向こうにいるのは誰か?
フーパは知っている気がした。
だが、それがありえないという事も知っている。


 「いや、久しいな」

天幕の向こうにいた男が立ち上がった。
フーパはガタガタと震え、それが嘘だと信じようとした。
やがて、天幕に男の手が掛けられた。



突然始まるポケモン娘シリーズ3周年記念作品

Part1 完。

Part2に続く。



KaZuKiNa ( 2021/06/04(金) 19:04 )