突ポ娘短編作品集


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短編集
Soul of 『N』 #3

戦場は今どこまで広がっているのだろう?
地平線を埋め尽くす異形の怪物達。
今全てのポケモンがただ理不尽に晒されようと言うのか?

ナツメイト
 「剣を取れ! 怪物共を街に入れてはならん!」

兵士達
 「「「おおお!!!」」」

しかし、死から抗うのはあらゆる生命体の権利だ。

ニア
 「……」

私は瞑想するように佇み、ただネオを感じようとする。
ナツメは女王として、剣を取り兵士を鼓舞し、兵士は国を守らんと剣を掲げ、雄叫びを上げる。

ニア
 「……私は神話の乙女にはなれなかった、カリンやナギー程の強さはない……それでも!」

私は短刀を握りしめる。
目を見開くと、目の前には無尽蔵の怪物達だ。

ナツメイト
 「総員! 攻撃開始!」

私はその号令に駆けた。
誰よりも速く、姿勢を地面スレスレに。
怪物は私を捕捉すると、異様に長い爪を振り上げた。

ニア
 「邪魔!」

私は怪物より速く、その首を切り落とすと怪物は黒い霧に変わっていく。
幻影はあくまでも、そこに存在する物ではない。
私が強くあれば、怪物は相対的に弱くなる。
だけど、後ろでは兵士達が苦戦していた。
未知の怪物に怖れ、何もかも分からないため、畏怖している。
一度相手よりも弱いと思えば、化け物はその通り無尽蔵の強さを発揮するだろう。

ナツメイト
 「気を強く持て! 諸君らは強い!」

ナツメもまた、剣を持って前線で戦う。
ナツメは私を見ると頷いた。
ここはナツメに任せて大丈夫、そういう事だろう。

ニア
 「ネオ……何処だ?」

私は兎に角戦線の奥へと侵攻していく。
怪物は邪魔をする者だけを排除し、ネオの気配を探す。

ニア
 「黒い太陽! なら……この先に?」

次第に空に変化が起きていた。
私はどっと汗を噴き出すと、真っ正面を捉えた。
怪物は周辺にはおらず、ただ一人が剥き出しの岩の上に座っていた。

ネオ
 「ニア……やはり相容れないのか」

ニア
 「なぜそこまで災厄を怖れる? ポケモンが死滅すれば災厄以前の問題じゃない……」

私はネオ程思想が分からない相手はいなかった。
色んなポケモン達に出会い、それは敵の時もあった。
ボーマンは残虐だったがプロの暗殺者だった。
ディクタスはほんの僅かな自我に縋る憐れな奴だった。
カリンは神話の乙女に振り回される普通の女だった。
誰もがその行いにそれぞれ意味を持っている。

だが、ネオは何を考えている?
奴の根底に見える物は一体?

ネオ
 「災厄は人智を越えた存在だ……だがまだ未完成故に付け入る隙がある……だからその成長を少しでも遅らせるために、間引く必要があるんだ」

ニア
 「なんで抗わない? 私にはどうしてもその非道を許せるか分からない……」

ネオ
 「……もういい、君を拘束してしまえば、後は時間の問題だ!」

ネオは立ち上がると、目を明るく輝かせた。

ネオ
 「今回は手加減しないぞ……!」

ニア
 「止める……止めてみせる!」

私は短刀を水平に構えると、イリュージョンを展開する。
ゾロアの私にはゾロアークのような大規模な幻影を展開する事は出来ない。
あくまでも精々リーチを悟らせない程度だ。
一方でネオは空間を歪ませ、幻影の中から禍禍しい剣をとりだした。
剣さえ幻影なのか本物なのか、この戦いは化かし合いだ。
私は冷や汗を零し、真っ直ぐに駆けだした!

ニア
 「はぁ!」

私は短くコンパクトに斬撃を放つ。
ネオはそれを冷静に見極め、回避しつつ剣を上に構える。

ネオ
 「くらえ!」

ネオの力強い振り下ろし、私はそれを後ろに下がって回避する。

ニア
 (やっぱり自力は相手が上みたい……)

私は相手とレベル差を認識し、過酷な物になるだろうと判断する。
私が上回れる部分があるとしたら、俊敏さと経験だろうか。
おそらくネオも過酷な経験があっただろう。
だがあの戦争の最前線で私は戦い抜いた。
ネオもあれ程の好敵手たちと戦った経験はないだろう。
そこが事実上唯一突ける部分ではないか。

ネオ
 「はぁ!」

ネオは剣を振り払うと、ネオの足下から漆黒の蛇が迫り出してくる。
幻影とはいえ、私自身何処まで払えるか?
おそらく完全に無視できるほど、私の精神力は強靭ではないだろう。

ネオ
 「いくぞ!」

ニア
 「っ!」

ネオと大蛇は同時に多角的に襲ってくる。
私は態勢を低くして、ネオの攻撃に注視した。
ネオは縦一文字に私を切り裂くが、そこにいたのは私の幻影だ。

ネオ
 「!?」

私は大蛇を踏み潰し、ネオの真後ろから首を狙う。

ニア
 「とった!」

決まった……かに見えた。
私はネオの首を切り落とすが、ネオの首は空に浮かび、不気味に笑う。

ネオ
 「ははは! 一本とられたな! だが私には無意味だよ!」

ニア
 (私が存在を偽装できるように、相手も出来るか……)

イリュージョンには射程距離がある。
私は数メートルも無理な小さな範囲だけど相手は数キロメートルは射程距離と考えられる。
もしかしたら、目の前にはさえいないのではないか?

ニア
 (もしそうだとしたら、最悪の時間稼ぎという事になるな……)

ポケモンは無尽蔵に戦える訳ではない。
今もネオの無差別殺戮は続いているのだ。
一刻も速くコイツを仕留めなければならないのに。

ネオ
 「ふふ、疑心になっているね? 私がここにいないんじゃないかって!」

ニア
 「っ!」

痛いところを突いてくる。
生首は不快に笑い、私は神経を逆撫でにされた。
だが、そんな生首に突然巨大な槍が貫いた!

トウガ
 「……ゾロアーク、原罪の血と今でこそ言われているが、かつて英雄として存在していた時には、その力を讃えて幻影の覇者と謳われたと言う……」

ニア
 「お前たちは……!?」

突然反対側から、かつて戦った男達が現れた。
槍を投げたのは帝国七神将のトウガだった。
更にその後ろにはワンクとハリーの姿もある。

ハリー
 「小娘久しいな! 貴様の活躍、音として聞いているぞ!」

豪放磊落なじいさん達は笑い、生首を沈黙させたトウガはゆっくりと近づいてくる。

ニア
 「お前たちの狙いはコイツ?」

ワンク
 「おうよ! 原罪の血と怖れられるゾロアークと戦える機会など二度とないだろうからな!」

ハリー
 「まぁ、落とし前もあるがな!」

私達はネオを取り囲むと、ネオの首から下は立ち上がり、生首と合体する。

ネオ
 「ふふ、久し振りですねトウガさん」

トウガ
 「それが貴様の本当の姿か、エーリアス……いや、ネオか?」

ネオ
 「出来れば貴方は味方に引き入れたかった」

トウガ
 「俺と貴様では思想が異なる、不可能だ」

トウガはそう言うと両手に持った槍を構えた。

ワンク
 「かか! 化け物退治と行くか!」

ネオ
 「!」

ネオは両腕を左右に広げると、闇のオーラが周囲にドーム状に広がった。

ニア
 (悪の波動? いや違う……!)

トウガ
 「ナイトバーストか! しかし!」

トウガはナイトバーストに怯むこともなく馬上槍染みたそれを素早くネオに突き刺す!
だがネオは死なない!
尚も笑っている。

ネオ
 「ふはは、私は不死身だよ!」

トウガ
 「イリュージョンは射程概念がある……遠隔地であればある程幻影の精度は落ちるようだな?」

ネオ
 「? それが何か?」

ワンク
 「お主ら! 覚悟は良いな!?」

ワンクはそう言うと地面に向けて拳を構えた。
大きくバンプアップされる右腕の筋肉、渾身の力で地面を叩く!

ニア
 「なっ!?」

その瞬間、周囲一帯が大地震が起きたかのように揺れる。

ネオ
 「ぐぅ!? 無差別攻撃だと!?」

ワンク
 「見えなくとも関係がないであろう? 貴様は飛べるか? 不可能であろう!?」

ネオが初めて悲鳴を上げた。
初めて有効打が決まった?

トウガ
 「ふふ、より精微な幻影がある場所に本物がいる……考察は正解だな」

ネオ
 「貴様らぁー!」

ネオが激昂を見せる。
おそらく今までダメージを負ったこともないのだろう。
それだけにダメージを受け、動揺しているに違いない。

ネオ
 「燃えろ!」

ネオは周囲に2メートルはある炎を噴き上がらせた。
炎はまるで生きているかのようにトウガ達を襲う。

ハリー
 「あれも幻影か? それとも本物か!?」

トウガ
 「文献では原罪の血は火炎放射が使えたようです!」

トウガとハリーは弱点であることもあり、直ぐさま退避するが、ワンクだけは違った。
ワンクは炎に飲み込まれるも、筋肉の壁でまるでそれを防いでいるかのようだ。

ネオ
 「馬鹿め! そのまま燃え尽きるがいい!」

ワンク
 「かかか若造! ワシは根性という特性を持っておってな?」

ワンクの筋肉は次第に焼けただれ始める。
だがワンクは微動だにしない。

ワンク
 「そしてワシは一時的だが、潜在能力を解放できるっ!」

ネオ
 「!?」

ワンクが突然炎を吹き飛ばした!
更にどういうことか、ワンクの身体が真っ赤に赤熱している!

ワンク
 「喰らうがいい! 我が一撃ぃ!」

赤熱したワンクはそのまま拳をストレートで振り抜くと、熱波を伴った拳圧がネオを襲う。

ネオ
 「化け物か!?」

ワンク
 「かかかっ! これこそがワシが鬼と呼ばれる所以よ!」

ハリー
 「ワンク! ヒートモードの持続は精々30秒じゃろう!? 速攻でケリをつけるぞ!」

ワンク
 「おう!」

ハリーとワンクは共に駆け出す!
ワンクは四本の腕でネオに乱打を叩き込み、ハリーもまた逃げ道を塞ぐようにネオを後ろから拳のラッシュで封殺する。

ネオ
 「くっ、ふふふ!」

ドス!

ワンク
 「? な、に?」

突然ワンクが口から血を吐いた。
ワンクの腹には白銀の剣が燃えたぎる血を滴らせていた。

ハリー
 「なっ!? ワンク!」

ワンク
 「ごふ! この剣本物だな!」

なんと、ネオはこの千載一遇のチャンスを狙っていたのだ!
ネオはここまで極端に近距離戦を嫌がっていた、それは不意の一撃に当たらない為だろう。
だが、無差別攻撃できるワンクが相手ではそうは言っていられなかった。
戦術級の技を持つポケモンは優先で排除したいのだ!

ネオ
 「貴様の切り札は恐れ入ったぞ……瞬間的だがあの皇帝カリンに匹敵していた」

ワンク
 「かっかか……! な、に勝った気でいる……?」

ネオ
 「っ!? 抜けない!? こいつ筋肉で剣を押さえ込んで!? 死ぬ気か!?」

腹に力を込める、ということはワンクの血は切り裂かれた腹部に集まる。
それは出血を速めた。
だが戦鬼はそんなことお構いなしだ。
すでにヒートモードは制限時間を切っており、そこにはただでさえ焼けただれた姿なのに、なお戦意が剥き出しであった。

ワンク
 「命など安いわぁー!」

ワンクは後ろに振り向き、本物のネオを殴り抜ける!

ネオ
 「ぐわー!?」

ネオは死活の一撃を受けて、吹き飛ばされた!
だが、同時にワンクも喀血し前のめりに倒れた。

ハリー
 「ワンク、満足そうじゃのう?」

ワンク
 「……くかか、最期にはちと物足りんがのう」

ニア
 「急いで手当を!」

トウガ
 「まだ! イリュージョンが解除されていない!」

ハリー
 「!? がぁ!?」

私が重傷のワンクに近づこうとすると、突然ハリーが地面に崩れ落ちる。

トウガ
 「く! ネオ!」

ネオ
 「遅いよ」

今度はトウガが燃える。
トウガは苦しみながらも槍を周囲に振るうが、槍は虚しく風を切り、やがてトウガも力尽きる。

トウガ
 「く……ここまで、か……!」

ニア
 「そんな……」

気が付けば、一瞬の油断で場が覆った。
気が付けば私一人、ネオは私の目の前に現れると、血を拭った。

ネオ
 「……この怪物どもめ、死ぬかと思ったぞ」

ネオはワンクの一撃を受けた、ダメージは確実に引きずっている。
だが、私は震えてしまう。
ネオの本気は私がどう足掻いても届かない位置に居る。
ただ私には手心を加えていただけだ。

ネオ
 「さて、ニア……君が最後だぞ?」

ニア
 「く……!」

ネオ
 「どうやら大分戦意が削がれたようだね……なら、拘束は簡単そうだ」

ネオはそう言って手を翳すと、突然私の身体は石のように動かなくなった。
ネオはあくまでも私を殺す気はない。
だけどそれ以外には全く容赦するつもりがないんだ。
動けない私を余所にネオは身体についた砂を払い、ワンクの元に近づいていく。

ニア
 (まさか? 止めろ……!)

声が出ない。
たかが幻影なのに、私は口すら動かせない。
そのまま無感情にネオはワンクの元に辿り着くと、剣を引き抜いた。
地面にワンクの血が広がる。

ニア
 (ああ……!)

そのままネオは剣を構えると、倒れたハリーに剣を突き刺した。

ニア
 (もう戦闘不能状態だった! それなのに!)

私の心は慟哭していた。
しかし私はそれを止めることさえ出来なかった。
必死に動けと抵抗しても、もはや無駄なのか。
私の精神力なんて所詮この程度なんだろうか?
ただ、私は無言で泣き叫んだ。
不意にその時、頬を一筋の涙が零れ落ちる。

ニア
 (え……?)

その時だった。
私は暗闇にいた。
暗闇は何処までも広がり、全てが闇に染まっているのだ。
ここはまるで私の心象風景のようだった。

ニア
 「私は弱い……なんでこんなに弱いの?」

ナギーならきっと、ネオにだって負けないだろう。
ナツメならきっと動けないなんてことはなかった。
それなのに、私は動くことも出来ずただ非道を見せられた。
こんなに悔しい事はない。
だけど、闇は次第に一筋の光を私に示した。

ニア
 「そこに誰かいるの?」

光の向こう、私はそこに気配を感じた。
光の奥には女性のシルエットらしき姿が見えた。

ニア
 (え? 強い者なんていない?)

それは音ではなかった。
ただ不意に頭に文字が浮かび上がる。
それはシルエットの女性の声なんだろうか?

ニア
 (皆が弱者であり、そこに差はありはしない?)

それは……いや、世界は今私に微笑んだ。

ニア
 「そうか、貴方が『真理』なのね? 応えて! ネオはなんであんなに絶望しているの!?」

シルエットの女性は微動だにしない。
ただ、佇むだけ、しかし微笑んでいる気がした。

ニア
 「私が希望だから? 貴方は希望になれと言うの?」

不意に私の足下に光の道が示された。

ニア
 「行けと?」

女性は頷いた訳ではないが、そう言っている気がする。
真理が私に何を求めているのかは分からない。
だが、私は真理を見てしまった。
私は光の道を駆け出す。

ニア
 (真理、私に力を貸して!)

その瞬間、意識は現実に戻り、目の前にはネオがいた。
私は強く短剣を握る!

ニア
 「ネオー!!」

私は吼えた。
短剣を振ると一陣の風と共に、悪の波動がネオを襲う。
そして駆けた、風よりも速く!

ネオ
 「なに!?」

ネオは咄嗟にナイトバーストを放つ。
だが、私は飛び上がりネオの頭上から襲いかかる!

ニア
 「お前を止める! 真理はそれを望んだ!」

ネオ
 「真理が応えたと言うのか!?」

ニア
 「違う! ただ感じたんだ! そこには絶望だけじゃなかった! 希望だってあったんだよ!」

私の中に力が駆け巡る。
真理が私に力を貸してくれているのか、私はその凄まじい熱を放出する!
私の身体は光り輝き、変化を起こした。

ネオ
 「まさか!? 進化!?」

私は力を解放すると、ネオに斬りかかる。
私の身体は身長が一気に上がり、髪は黒く染まり、先端にゾロアの頃の名残を残した。

ネオ
 「くぅっ!?」

ネオはなんとか剣戟を凌ぐが、その顔は歪んでいる。
私の力が通用している!
私は身長と共に体重が上がったことで、力技が通用するようになった。

ニア
 「ナイト、バースト!」

私は切りつけると共に、悪の波動を発展させてナイトバーストを編み出し、ネオに叩きつける。
ネオは剣を折られ、地面に崩れた。

ネオ
 「く、う……!」

ニア
 「お前の負けだ、もう諦めろ」

ネオ
 「くく……ニア、真理はなんと答えた?」

ニア
 「お前が絶望なら、私は希望になれ、それだけ」

ネオ
 「……なるほど、それが君の真理か」

ニア
 「真理とはなんだ? あれは一帯?」

その時だった……。
空に浮かぶ黒い太陽が弾け消えたのだ。

ニア
 「ネオ!? この後に及んで何を!?」

ネオ
 「違う……私じゃない、まさか!?」

ネオは驚愕した表情で空を見上げた。
そこには満天の青空にぽつんと真っ黒な女性が浮いていたのだ。
ただ女性は翼を持っていなかった。
そしてまるで怪物のように真っ黒な姿。
私はその女性と目が合うと、ぞくりと背筋が凍った気がした。


 『対象、ゾロアークと認定、スキャン開始』

ニア
 「え?」

それはテレパシーだろうか?
少なくとも音ではなく、敢えて言うなら真理に近い。


 「識別名ニア、そしてネオ」

その瞬間、女性は私たちの目の前にはいた。

ニア
 「なっ!?」

ネオ
 「まずい! 災厄に……ネクロズマに知識を与えるな!」

ネクロズマ
 「とても面白い、サンプルとしては上出来」

女性はそう言うとネオを片手で持ち上げた。
もうボロボロのネオでは抵抗がやっとだが、女性は微動だにしない。

ネオ
 「ネクロズマー!」

ネオは折れた剣を向けるが、剣はサイコフィールドの膜に捕まり、微動だにしない。

ネクロズマ
 「世界の解析80%まで終了、他にも何人か面白いサンプルがある」

女性は初めからネオなど見ていないのだろうか?
ただ抑揚のない声で、淡々と言葉を紡ぐ。

ニア
 「く……あああ!」

私は勇気を絞って、その災厄に挑む。
しかし災厄は振り向くことさえなく、光り輝く膜が私の攻撃を弾いた。

ネクロズマ
 「プリズムアーマー、正常に機能、雫との親和性良好」

ニア
 「く……!?」

ネクロズマ
 「解析終了……ここは違うか」

ネオ
 「ネクロ……ズ……!」

次第にネオは力を失ってきた。
災厄はネオになど全く歯牙にもかけなかった。

ネクロズマ
 「一つ尋ねよう、なぜ私は存在する?」

ニア
 「何を言って……?」

ネクロズマ
 「私は知りたい、私が存在する理由を―――」

その瞬間、災厄はネオを地面に落とし、空に飛び上がった。
そして光が……災厄に吸い込まれていく!

ニア
 「世界が闇に……!」



……災厄がその世界に滞在していたのは10分に満たなかったのではないか?
彼女がこの世界に来た理由は不明で、ただこの世界は……無情にも光を奪われた。



***



ナツメイト
 「……これが災厄なのですね」

光が世界から奪われると、戦いは終了した。
私はなんとか王城まで辿り着くと、松明の焚かれた一室は重苦しかった。

ツキ
 「燃料には限りがあります……持って1週間でしょうな」

ニア
 「これが終わりなの?」

空には星すら輝かず、ただ真っ暗闇だけが広がる。
なんとか炎を焚いて、その僅かな光を享受するがそれも直ぐに限界を迎えるだろう。

ナツメイト
 「光無くしては、生きてはいけません。このままあらゆる生命体が死滅するのを待つのみですか……」

幸か不幸か、この状況で暴動が起きなかった事は救いだろう。
だが、このまま私達は滅びを待つのだろうか?

ナツメイト
 「……ニア、貴方にあの予言の後半の部分を教えましょう」

ニア
 「後半の部分?」

ナツメイト
 「世界が闇に包まれる時、雫を求めし者現る。その者希望となり光の道が示されん」

ニア
 「雫!?」

それは確か災厄も『雫』という単語を用いていた。
雫を求めろ? その先に光の道が示される?
それは真理が見せた光景のことだろうか?

ツキ
 「我々はニアこそがそうだと考える! どうか無理難題なのは承知している! この世界を救ってくれ!」

ナツメイト
 「正直このような希望をたった一人の少女に縋るのは情けないことですが……」

二人は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
正直本当に私が希望になれるか、そんな事は分からない。
だけど私は不安を払拭するように笑った。

ニア
 「任せて」

お兄ちゃんは勝手に伝説のポケモントレーナーなんて言われてどう思っただろう。
きっと今の私と同じだったんじゃないかな?
だから私は笑って二人を安心させる。
お兄ちゃんは一度だって私達を不安にはさせなかったもの。

ナツメイト
 「ニア……強くなりましたね」

ニア
 「進化も果たしたしね」

私は進化したことでナツメより身長が高くなった。
元からほっそりしていたナツメと比べても、私の方が筋肉があるだろう。
おっぱいも私の完勝ね、カリンには負けるけど……。

ニア
 「探すべきは雫……でも雫って」


 「それを求めるのか?」

ニア
 「っ!?」

突然私は真っ暗闇の世界に放り込まれていた。
ここは真理の狭間?


 「答えろ、なぜ雫を求める?」

闇の中にははっきり声が聞こえる。
謎の存在は口調が荒っぽいが、声が高く女性なんだろう。
何故か、災厄とは対極だと思った。

ニア
 「求める意味なんてない、ただ皆を助けたいだけ」


 「それが神になれる力だとしてもか?」

ニア
 「神話はもう要らない、必要なのは人の話」

これはカリンの受け売りになるが、私も必要なのは人の歩みだと思う。
神に縋る時代はもう終わったんだ……。


 「ふっ、はは……成る程。どうやらあたしと共犯者になる資格はありってことか」

ニア
 「共犯者?」


 「アンタはこれから特異点となる。それは二度と元の世界には戻れない、だがあの世界を救うにはお前という犠牲が必要だ」

ニア
 「命なんて安いもの……なんて言い方は失礼か。それでも構わない……もうこれ以上悲劇を起こしたくないから」


 「なら、この魔神がお前の力になろう、お前はある世界に降りて貰う」

魔神と名乗った少女は闇から薄らと浮かび上がると、光の道が一筋延びていた。

魔神
 「『若葉悠気』、奴が雫の鍵となるだろう」

ニア
 「ワカバユーキ?」

魔神
 「あたしも、ネクロズマと戦う理由がある……お前の力も借りる……」

もしかして、この少女も災厄に何かを奪われたのだろうか?
災厄はどうして光を奪うのか。
あれが無限の絶望を与えるなら……私は希望になってみせる。

ニア
 「……お兄ちゃん、私は例え神に愛されなくてもいい……ただ、護りたい」

この大好きな世界を……。





 一つの世界が存亡の危機を迎えた。
 神話の時代は終わりを告げ、誰もが明日を知ることが許されない。
 それでも、希望が必要だ。
 漆黒の少女は伝説になるのか……。
 それは原罪と語り継がれるゾロアークの神話の第二節となりえるのか?
 幻影の覇者、たった一人のゾロアークが今、世界線を越える。



soul of 『N』 完


KaZuKiNa ( 2021/05/27(木) 18:58 )