突ポ娘短編作品集


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短編集
聖さんのショートストーリー

ダグ
 「へへ〜ん、ホリィさん♪」

ここはニューヨーク州、タイムズスクエアも見える街の裏側。
この街は一見表は綺麗に見えるが、一度裏道に入れば、そのアメリカ人の現実が見えてくる。
アメリカはとても貧富の格差が激しい国だ。
それでも世界中からこの国を目指して移民が押し寄せてくる。
そんな中私は、ただこのスラム街の人達を助けたくて医者を目指した。


 「ダグ? どうしたの?」

この少年はダグ。
このスラム街に住む典型的なヒスパニックだ。
本来ならジュニアスクールに通っている年齢だけど、身寄りの無いダグは学校にもいけない。
それでも屈託のない笑顔を見せてくれるのは、私の心にも救いを与えてくれた。

ダグ
 「えい!」

ただ、そんなダグにも困った事がある。
それはイタズラが過ぎると言うこと。
ダグは突然私のおっぱいを揉みだすというイタズラを仕掛けてくると、流石に私も怒る。


 「こらダグ! 駄目でしょう? そういうイタズラはいけません!」

私はなるべく優しくダグを引き剥がすと、ダグは全然懲りてないのか両手を後ろに回して笑っていた。
うーん、威厳が足りないのかしら?
そんな風に困っていると、突然ダグの頭を小突いたのはスラム街の神父様だった。

神父
 「ダグ、ミセスホリィを困らせてはいけませんよ?」

神父はアフリカ系黒人の子孫だ。
何時でも黒い神父服を着ており、普段は礼拝堂で祈りを捧げる典型的なプロテスタントである。
ダグも神父に怒られると、流石に反省の色を見せた。
私はそれに安堵すると、流石に神父様もそんな私を叱責する。

神父
 「ミセスホリィ、貴方は優しすぎます。それではダグはおろか他の子供たちも言うことを聞きませんよ?」


 「で、ですが神父様……私はどうも子供の扱いが苦手でして」

私はこれでも伝説のポケモンだ。
その気になれば、子供の身体などグチャっと簡単に潰せる力もある。
それを加減するのも、そこそこ気を遣うのだ。
だからイマイチ子供扱いは慣れない。
これが大人の暴漢が相手なら容赦なくやれるのだけど(流石に大抵脅しで終えるが)、子供は愛おしいけど苦手だ。

白人女性
 「ホリィさん、良かったらクッキーを食べて貰えませんか?」


 「あら、アーネット、そうね……頂こうかしら?」

白人は裕福なイメージがあるかも知れないけど、現実は非情だ。
この国は正に自由の国、それは等しく成功者には富を与えるが、失敗者は容赦なくここまで落ちてくる。
私はなるべくそんな人達の支えになりたかった。
そんな私をスラム街の住民達は受け入れてくれて、今では多くの人に囲まれている。
今はまだPKMの風当たりは厳しく、福利厚生の充実もままならない。
だが、私は神としてではなく、人としてこのスラム街の住民達を救いたい。

老人
 「ほっほ、頑張っておりますな聖殿」

こんなスラム街だが、中には日本人までいた。
と言っても60年も前の移民だから、本人の日本語もイマイチ聞き取りづらいが。
この老人は私に様々な知識や参考書を供与してくれた恩人だ。
元々は学者の先生らしく、気が付いたらスラム街にまで落ちてきたそう。
スラム街ではプロフェッサーと呼ばれており、私も親しみを込めて教授と呼んでいた。


 「教授もよかったらクッキー如何です? アーネットの美味しいですよ?」

教授
 「ほっほ、一枚頂こうかの」

まともな民家に住める者も少ないスラム街の住民達だが、この教授も下水道暮らしだ。
私も慣れたけど、全体的のこの街は悪臭がキツい。
特に教授はそれが酷いのだ。

ダグ
 「プロフェッサー、そろそろ身体洗った方がいいぜ?」

教授
 「そうは言うがな……」


 「確か支援物資に洗剤もありましたよね?」

アメリカには多くのNGOが存在しており、貧困者支援のために毎週炊き出しや生活物資が届けられている。
どん底だが、なんとかここの住民が生きていけるのもそのお陰だ。

だが不意にそんな和気あいあいとしたスラム街に不穏な風はやってくる。


 「ケケー! 見つけたぜホリィ!」

ダグ
 「アレは!? ヴィランのレイブンだ!」

アメリカにはヴィランと呼ばれるPKMがいる。
元々はトゥーンの悪役を指す言葉だったけど今では犯罪者となったPKMの呼称だ。
レイブンはバルジーナのPKM。
はっきり言って超小物で、連邦警察にもC級ヴィランとして、特に注意もされていない。
本人がやってることもコソ泥がメインで、以前スラム街の子供を苛めていたため、私がコテンパンにしたのだ。
それ以来逆恨みをしては、私に勝負を挑んでくる。


 「はぁ、レイブン? あまり私を怒らせないでよ?」

レイブン
 「ケケ! 余裕ぶっこいてられるのもそこまでだ! 先生出番です!」

神父
 「先生?」

そう言って小賢しく空を舞うレイブンの真下から、ある一人のPKMが現れる。

キリキザン
 「我はキリキザンのPKM、名をシガーカッターという。訳あって貴公に勝負を挑む!」

ダグ
 「シガーカッターって?」

教授
 「昔のタバコ、葉巻用のカッターの事じゃ。それにしても聞かんヴィランネームじゃな?」

シガーカッターと言われる男は、全身に刃が仕込まれた筋肉隆々の長身だった。
しかしその筋肉はしなやかで、風貌はサムライのようである。
私は通常状態でそれと向き合うと、シガーカッターは居合いのように構えた。


 (訳あって? そう言ったわね……ならばただの雇われヴィランじゃない?)

シガーカッター
 「はぁ!」

シガーカッターは地面を駆けると、地面のゴミが吹き飛んだ!
それ程の強い踏み込み! 私を間合いに捉えると刃となった右腕を振り払う!
だが、私は後ろに下がりその斬撃を回避、した筈だった!

ガシャコン!

シガーカッターの右腕はスライドギミックで右腕に内蔵刃がせり出し、その居合いの射程を伸ばしてきた!

ザクリ。

血が舞った。
脇腹をざっくりと斬られたのだ。

レイブン
 「やったぜ! 流石先生!」


 「すぅ……はぁ」

渡しはじめ大きく息を吸って、そして吐いた。
アクティブモード起動、私の大きな角は表現できない極彩色に輝き出す。
自らの生命力を加算して、私は腹部の傷を塞いだ。

シガーカッター
 「! なるほど確かに規格外だ!」

流石に通常なら致命傷でも、私相手にはそうはいかない事に、本人も驚いていた。
だが、動じてはいないむしろ想定通りという感じだ。
この男、身なりから仕草まで、相当の手練れだ。
はっきり言ってヴィランだと言うことに違和感しかない。
まるで試されている?
だとしてもレイブンは恐らくこのシガーカッターの本命を知らないだろう。
私はそれを見極めないといけない。

シガーカッター
 「第二撃、参る!」

再び居合いの構え!
だが今度は私もただで受けるつもりはない!
足から地面に生命エネルギーを流すと、シガーカッターの前に急成長した雑草が聳え立つ。
シガーカッターはその絡みつく雑草に足止めされるが、直ぐにそれを切り裂いた。
しかしその一瞬の隙で充分だ。
私は既に相手の懐に飛び込んでいた。
シガーカッターの目が見開く!


 「手加減は失礼と判断します!」

インファイト、私は捨て身の猛攻撃をシガーカッターに叩き込む。
その際展開された刃のボディに腕が切り裂かれるが、私はお構いなしの殴り飛ばす。

シガーカッター
 「グフッ! み、見事……!」

シガーカッターが膝をついた。
かなり本気の攻撃をしたつもりだが、予想外のタフさだ。
とはいえ、もう立ち上がれないだろう。
PKMとはいえ、効果抜群の技を食らえば一溜まりもない。


 「教えてください、誰の依頼ですか?」

シガーカッター
 「……」

シガーカッターは口を紡ぎ、ボロボロの身体で不敵に笑っていた。
一体どういう事だろうか?


 「貴方は恐らくどこかの組織に所属しているのではないですか? そこらのチンピラヴィランではありません」

シガーカッター
 「……ふ、中々読みも良い。その通りだ、しかし理由あって所属は言えん」

レイブン
 「えっ? 先生一体どういう事で?」

私はシガーカッターに近寄ると、生命力を分け与える。
すると、シガーカッターは生命力を回復させて立ち上がった。

シガーカッター
 「レイブンよ、我はここで退く。貴様も精々尻尾を巻いて逃げるのだな」

シガーカッターはそう言うと身なりを整え、背中を向けた。
私はシガーカッターのそんな背中を追うと、シガーカッターは一度振り返った。

シガーカッター
 「一つ言っておこう、アメリカは何れ激動の時代を迎える、備えておけ」


 「えっ?」

私はその言葉に一瞬戸惑った。
激動の時代ですって?

シガーカッター
 「……ふ」

そして、シガーカッターはスラム街を去って行った。

レイブン
 「え? ちょ? お、覚えてろー!?」

レイブンはそれを呆然と見届けると、やがていつものように負け犬の遠吠えを言って逃げた。

アーネット
 「終わった……? あ〜、良かったぁ……!」

スラム街の皆は戦闘が終わると、皆安堵したように脱力した。
流石に本物のPKMの戦闘は皆にも怖かったんだろう。

教授
 「ふーむ、備えよか?」


 「……少し気になりますが、とりあえず元通りの生活に戻りましょう」

私がそう言うと、皆はそれぞれの生活に戻っていく。
さて、私も医者になるため勉強しないと!


突ポ娘 聖さんのショートストーリー 完

■筆者メッセージ
本当に思いつきで産まれた場末の作品です。
2019年2月3日執筆。
突ポ娘SS死に神の章 死の神をベースにした。
ゼルネアスの聖を主人公にした日常の一コマ。
因みに続きなんてないよ。
KaZuKiNa ( 2020/12/30(水) 16:38 )