PHG×突ポ娘前編
そこは少し近未来の世界。
現代とそれ程変わっている訳ではないが、明確に違う存在がいる。
それはポケモン少女だ。
未成熟な少女に宿るポケモンのソウルと融合して、日々戦うヒロイン達である。
ポケモンヒロインガールズ
クロスオーバー
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
来訪者イーブイは帰りたい
少女
「……?」
その少女は目を開けると、周囲を伺った。
えらく騒がしい。
それもそのはずである、そこは街の中なのだ。
一般人
「見ろよ! あれ、ポケモン少女だぜ!」
少女
「ポケモン、でも少女?」
少女は普通の人ではなかった。
大きく立った茶色い耳、筆の先のような大きな尻尾を持った少女だ。
少女は背丈に見合わぬ巨乳を揺らすと、人々が見上げる先を見た。
そこには街頭テレビがあった。
愛
『日本の皆さんこんにちわ〜♪ 今回ゲストとしてお呼ばれされました、ニンフィア少女です♪』
少女
「ニンフィア少女……?」
少女はテレビに映ったニンフィア少女の友井愛に疑問を覚えた。
少女は最初愛を人間だと思った。
だが直ぐにそれは違うと気付くと、PKMだと思った。
だが、少女の認識は何れも違っていた。
人間でもあり、ポケモンでもあるその少女の魂は歪に繋がっていた。
一般人
「なぁ、あの巨乳の子って……」
誰かが少女に気が付いた。
少女は少し困ったように首を傾げる。
一般人
「あの子ポケモン少女じゃね!?」
その声に、周囲に集まった一般人たちが一斉に少女の振り返った。
その好奇の視線に少女は弱ってしまう。
少女
(ここ、どこなんだろう?)
***
明日花
「なぁ、今日って愛ちゃん先輩ってテレビ出演しているんだよな?」
ポケモン少女学園関東支部、1年生の教室は自習中だった。
本来担任である愛は今、生放送に出演中だったのだ。
アリア
「こまめに一般にポケモン少女であることをアピールすることで、治安を守る手段もあるそうですよ」
夢生
「まるで芸能人だビュン」
琉生
(……なにか、ザラつく?)
自習中と言っても、明日花や夢生は殆ど進んでいない。
アリアだけは真面目にノートに文字を書いていたが、一方でペンを持ちつつも、琉生は頭を抱えた。
それはソウルの共鳴だった。
琉生に宿るオオタチのソウルが何か気付いて、琉生の精神を揺さぶっているのだ。
琉生
(オオタチさん、何を伝えようとしているの? この感じゲシュペンストじゃない?)
ポケモンはゲシュペンストを憎悪している。
だからゲシュペンストが近づくと、特にソウルはザワつくが、今回は様子が違う。
警戒とは違うが……兎に角オオタチのソウルが興奮しているのだ。
やがて異変に気が付いたアリアは、琉生に声を掛ける。
アリア
「どうしました? なんだか自習が進んでいないようですが」
琉生
「うん……なにか落ち着かないっていうか」
その時だった。
ビー! ビー!
突然警報がなると、電子黒板に緊急指令が表示される。
『C地区で未確認のポケモン少女出現! 1年生は保護に向かわれたし!』
明日花
「オーシ! アタシに任せとけ!」
明日花は立ち上がるとやる気満々だった。
既に座学に辟易していた彼女は、早速出撃したくてうずうずしていた。
夢生
「でも、未確認ってどういうことビュン?」
明日花
「どうでもいいさ! さっさと行こうぜ!?」
アリア
「はぁ……まぁ、私たちに下されるオーダーなら危険はないでしょう」
アリアは明日花の脳天気振りに呆れるが、聡明にその意図を察する。
通常ならこういう指令は3年か2年に回されるが今日はどちらも忙しいのだろう。
元より3年の激務はいつもの事とは言え、今回は愛もいない。
そこで哨戒もない、1年生に仕事が回ってきたのだろう。
彼女たちはまだ高校生だ、しかし彼女たちにはポケモン少女としての自覚がある!
琉生
(オオタチさん、今日は何があるの?)
琉生は興奮する気持ちを抑えながら、立ち上がる。
既に彼女たちのソウルリンクスマホには指令の詳細が映っている。
明日花
「よーし! 出撃だーっ!」
***
一般人
「ねぇねぇ! 君なんて名前!?」
少女
「え、えと……?」
少女は困っていた。
これまでも奇異の目で見られた事はある。
とあるトラウマで、家から一歩も出られなかった経験もあった。
でもそんな彼女も家族や、愛した主人、今は夫となった男と暮らし、こうやって普通に暮らしていられる。
だが、生来それ程活発でもない少女は、場の空気に飲まれて動けなかった。
少女
「あの、私……帰らないと……」
少女は見た目こそ、うら若い。
だがその細く綺麗な手の薬指を見れば分かるだろう。
その薬指には指輪が嵌まっていた。
そう、少女は既婚者なのだ。
少女は家に帰らねばならない。
だが、ここはどこか?
少女は気が付けばここにいたのだ。
明日花
「はいはーい! 失礼しまーす!」
そこへある集団が、割って入ってきた。
既に周囲を囲まれて身動きの出来ない少女はその集団を見て、おっとり顔の目を僅かに細めさせた。
少女
(この感じ……ポケモンでも人間でもない?)
集団を割って、少女の前に現れたのは未確認のポケモン少女の保護のために現れた琉生達だった。
アリア
「すみません! ポケモン少女管理局関東支部です! この子の身柄は我々が預かりますので!」
夢生
「だから、道を開けてくださーい!」
アリアたちは少女を囲む一般人達を引かせると、琉生は少女の目の前に立った。
琉生は少女に不思議な物を感じ取っていた。
琉生
「貴方は……?」
少女
「私は……茜、常葉茜です」
その少女の名は茜。
正真正銘のイーブイだ。
彼女のいた世界では人化したポケモンの事をPKMと呼ぶ。
ポケモン少女とは異なる存在だった。
茜
「貴方は……オオタチ?」
琉生はその少女の言葉に身を震わせた。
それはソウルの震えかもしれない。
茜は何故変身していない琉生の正体を看破して見せたのか?
琉生はこの少女になにか確信めいた物を感じていた。
ソウルの異変はこの少女に起因している!
明日花
「君、なんで変身しっぱなしなんだ? ソウルリンクスマホは持っているのか?」
茜
「スマホ?」
アリア
「明日花さん! 一先ず学園まで保護を優先しましょう!」
琉生
「……貴方が何者か、私には分からない……でも、ついてきて」
琉生はこの少女に異なる何かを感じていた。
だが、茜に手を差し伸べると、茜は少し考える。
茜
「うん、よろしくね」
茜はこの少女を信用することにした。
彼女は少なくとも、そんな生易しい世界を生きてきた訳ではない。
あるやんごとなき存在として君臨もし、ある男を主人として慕い、そして世界が牙を向いて、その絶望に飲まれつつも、彼女は抗い、幸せを得た。
琉生は茜にとって、どこか安心の出来る相手だったのだ。
琉生
「それじゃ、行こう!」
茜は琉生の手を握ると走り出した。
琉生の中に宿る物の存在を、茜は朧気ながら見ていた。
それは茜を畏れ敬っている。
神々の王、かつてそう呼ばれた少女は今やこのあどけないおっとりとしたイーブイ娘だ。
しかしその内なる物からすれば、それは特別なのかも知れない。
***
鈴
「へぇ、この子が保護された子?」
学園まで戻ると、一行は食堂に通された。
未確認のポケモン少女が発見された、その報は当然2年生にも届いていた。
本来2年は1年とは違う食堂を使うが、どんな子がやってきたのか気になった鈴は様子を見に来たのだ。
とりあえず鈴の感想は『超可愛い』である。
鈴
「いや〜ん♪ もうあのモフモフの尻尾とか超キュート♪」
明日花
「確かに肌とか超綺麗だし、良いところのお嬢様なのか?」
茜
「?」
茜は食堂に供された昼ご飯を食べていた。
だが、その量が凄い、この少女は見た目に反してかなりの大食いなのだ。
夢生
「それにしてもすごいビュンね〜」
茜
「……」
アリア
「一体どうされました?」
茜はふと、周囲を伺った。
アリアはそんな茜の様子に、優しく問いかけた。
茜
「ん、お替わり貰える?」
ガシャン!
思わず素っ転んだのは明日花だった。
明日花はヨロヨロと立ち上がると。
明日花
「お前の腹はブラックホールか!?」
茜
「それ程でも……」
食堂の味は中々良かった。
慣れ親しんだ味に比べると劣っていたが、それぞれに善し悪しはあると思っている。
そして空の皿を見つめながら茜は何かを感じていた。
茜
(人とポケモンと……もう一ついる? この異質な気配は?)
それはポケモン少女では知覚出来ない気配、ある意味で茜だからこそその気配を感じ取ったのだろう。
その『ゲシュペンスト』の気配を。
鈴
「で、どうして変身しっぱなしなの?」
鈴は今更ながらその疑問を口にした。
茜は頭に耳が、更に大きな尻尾と、それは彼女たちがポケモン少女と呼ぶ者の姿だ。
だが、そう言われても茜は困ってしまう。
変身も何も、茜は人間では無いのだ。
明日花
「それが、この子ソウルリンクスマホも持ってないし、どうやって維持してるのかもさっぱりなんですよねぇ〜」
夢生
「夢生達じゃ30分も変身してられないビュン」
ソウルリンクの維持は、ポケモン少女によって異なる。
より強いリンクが出来れば長い時間変身できるが、それでも精々1時間程度だろう。
茜
「私はイーブイだから」
アリア
「イーブイ少女ですか、確か愛先輩に宿るニンフィアの進化前ですよね?」
茜
(あの時の?)
茜は街頭テレビに映った優しき笑みを浮かべた少女を思い出す。
茜はある意味で純潔のイーブイとは異なるが、何か彼女にシンパシーを感じたのは事実だ。
琉生
「茜ちゃん、あなたポケモン少女なの?」
琉生はその直球の質問を茜にぶつけた。
明日花達からすれば意味の無い質問だ。
だが琉生は既に茜が異なる存在だと実感している。
茜
「違う……私はイーブイのPKM、人間じゃない」
アリア
「まさか、貴方どう見ても人間にしか」
茜
「それより、そろそろ帰らないと」
茜はそう言うとテーブルから立ち上がった。
今回は琉生達の事情を顧みて着いてきたが、彼女には帰る場所がある。
愛する夫を温かく待つ必要がある。
最高の妻でありたいのだ。
鈴
「ちょ、ちょっと! 勝手に出て行っちゃ!」
鈴は慌てて茜を止めようとした。
だが、茜は意にも介せず出口を目指す。
明日花
「ち! 駄目だって! ポケモン少女を野放しには出来ないんだから!」
明日花はそう言うと、先回りして出口を塞いだ。
茜はそれを見て「はぁ」と溜息を吐く。
茜
「……私は帰るべき場所があるの、どうしても駄目?」
アリア
「皆いつかは帰るべき場所はございますわ、ですが」
茜
「……」
茜は少し黙考した。
決して彼女たちは悪い人たちではない。
だが、茜は決して温厚ではない。
目的のためならば、あらゆる物を捨てられる覚悟も持つのだ。
そうやって彼女はこれまで主人を守り続けた。
それこそ何年も、何百年も。
信じられないかも知れないが、茜は何度も輪廻転生を繰り返し、今があるのだ。
茜
「傷つけたくない……でも、障害になるなら」
茜はそう言うと、静かに力を込めた。
その気配は明日花に強烈な重圧を掛ける。
明日花
「う……!」
茜
「……っ!」
ビュオン!
茜は素早く回し蹴りを明日花に放った。
しかしそれは明日花の髪の毛を上へ撫で上げただけだった。
茜はわざと蹴りを外したのだ、ただ明日花は風圧を浴びただけ。
しかしそれで明日花の気を削ぐには充分だった。
明日花
「ああ……」
茜
「ごめんなさい、でも夫が待っているから」
茜はこの期に及んで明日花に頭を下げた。
明日花からすれば訳が分からない。
彼女は敵なのか味方なのか?
だが、それより気になる単語に気付いた者がいた。
琉生
「夫?」
鈴
「て……えええ!? 結婚してるの!?」
茜は頬を赤らめると、驚きを隠せない乙女達に左手の薬指に嵌められた指輪を見せた。
それは紛れもなく結婚指輪だった。
アリア
「あ、貴方い、一体何歳なんですか!? お相手はロリコン!?」
茜
「年齢は秘密、でもこう見えても私はもう身重よ?」
茜はそう言うとお腹を擦った。
その動作に琉生は呆然とし、意味を深く理解したアリアと鈴は悶絶した。
この少女、そこはかとなく儚い印象だが、既に母なのだ。
茜
「だからね、早く帰って晩ご飯の用意をしないといけないの」
家になんでもやってしまう家政婦染みた女もいるのだが、妻としての挟持は譲れない。
今の茜は幸せだが、その幸せは自分で勝ち取ったものだ。
夫を幸せに出来るという自負があるから、強い決意も持てるのだ。
茜
「じゃ、そういう訳で」
茜はそう言うと、あっさりとドアを潜ってしまった。
正直正体もよく分からない相手、その上情報過多にも程がある本人の事情に、少女たちがフリーズするには充分だった。
夢生
「て!? 止めなくていいビュンか!?」
鈴
「そ、そうだった! 急いで追いかけないと!」
琉生
(ッ!? この気配は!?)
慌てて茜を追いかける中、琉生は唐突に魂が憎悪に震えたのを感じ取った。
それは彼女が最もポケモンのソウルとシンクロ率が高いから起きた感応だった。
茜に感じた畏怖と敬意のそれではない。
憎悪に満ちた怨嗟の感情……その正体は!?
***
茜
「……?」
茜は学園の入口で、突然足を止めた。
それは目には見えない気配を感じたからだ。
茜
(位相が違う……これは?)
茜は王としての知識から、その不可視の気配の正体を探った。
この気配はなにか……そしてそれは何故茜の前に現れるのか。
だが、直後。
鈴
「待って待ってー!」
彼女たちが追いついてきた。
不可視の気配は彼女たちを認識すると、敵意を増す。
まるで天敵同士が出会ったように、それは茜の周りに顕現した。
ゲシュペンストα
「……」
アリア
「ゲ、ゲシュペンスト!?」
明日花
「まずい!? 囲まれてる!?」
琉生
「ッ!?」
茜
(琉生ちゃん?)
茜は琉生から異様な気配を感じた。
恐らく純粋な琉生の感情ではない。
内の潜めた異なるソウルが怒っているのだ。
鈴
「ええい! 皆変身行くわよ!?」
琉生
「はいっ、メイク・アップ!」
琉生達はソウルリンクスマホを取り出すと、その表面をなぞる。
すると彼女たちの体は細胞レベルから変化を起こした。
人であり、ポケモンでもある……ポケモン少女達だ。
茜
(混ざった!? 雑種? いや、違う……)
茜は初めて見る変身に驚いた。
それは彼女の永い歴史の中でも稀な現象だったからだ。
だが茜は一抹の不安も覚える。
人間寄りの生き物が突然ポケモン寄りになった。
彼女たちは今どっちだ?
琉生
「常葉さん! 動かないで!」
真っ先に飛び出したのは琉生だった。
琉生はその大きな尻尾を振り払うと、茜の周囲のゲシュペンストを跳ね飛ばす!
鈴
「援護行くわよ!?」
鈴は群れるαに向けて葉っぱカッターを放つ。
それらは正確にαだけを貫いた。
茜
(この子達想像よりずっと強い……でも何故彼らが……?)
アリア
(気の性……? 常葉さん、ゲシュペンストは無視している気が?)
アリアは乱戦の状況にもかかわらず、茜を見ていた。
確かに茜は微動だにしていない。
まるでゲシュペンストは敵ではないという風に。
だが、それを考察する余裕は無かった。
アリア
「増援来ます!」
アリアの未来予知は更なる増援を告知した。
その通り、彼女たちの前に、ゲシュペンストβを含む一団が現れたのだ。
明日花
「うおおお! アタシに任せろー!!」
明日花は頭部から電撃を放出しながら、ゲシュペンストの中心に突っ込む。
明日花
「放電!!」
凄まじい電圧とスパークが周囲を撫で上げた!
その威力は小型のαを全滅させ、βに大ダメージを与えた!
琉生
「これで決める!」
怯んだβの頭上には琉生がいた。
琉生は思いっきり飛び上がると、その大きな尻尾をβに叩きつけた。
ドゴォン!
地面が陥没する一撃に、βは消滅した。
夢生
「周囲被害者無しビュン!」
上空から周囲を監視していた夢生はそう言うと、地上に降りてくる。
増援も打ち止めだった。
茜
(彼の地の者に歪な混ざり物……ご主人様、少しだけ、帰りが遅くなるかもです……)
来訪者茜、彼女はこの世界に何を思う。
神々の王が、弱きポケモンに身を落とし、神無き世界で、人としての幸せを享受する。
琉生
(常葉茜……一体彼女は何者?)
一方で琉生もポケモン少女とは異なる純血のポケモンが少女化した茜から目を離せなかった。
それを遠くで見る者もいる。
その少女はビルの上で浮遊しており、空いているのか閉じているのか分からない細目で、茜を見ていた。
神成依乃里、ユクシー少女が見据えたのは。
依乃里
(神か悪魔か……どちらかしら、ね)
依乃里は一定の偵察を終えると、その場から消えた。
PHG×突ポ娘
来訪者イーブイは帰りたい 前編 完
後編に続く。