突ポ娘×PHG前編
それは不思議な体験だった。
浮遊感というか、何かが離れていくかのような感覚。
それは私を果てしない遠く、そして近い世界へと繋いでしまった。
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
クロスオーバー
ポケモンヒロインガールズ
突然始まるポケモン娘と異邦から来たパルキア少女と一緒に過ごす物語
きらら
「……?」
気が付くと私は知らない場所にいた。
周囲を見渡すと、やがてその場所が見覚えがあることに気が付く。
異様に汚い部屋、片付けとか無頓着で今日生きられれば明日とかどうでもいい人の安アパートの一室。
青子姉さんの部屋だ。
?
「グーグー」
きらら
「お姉ちゃん?」
私は汚部屋の主の鼾を聞いて振り返った。
その瞬間、私は凍り付く。
きらら
「……じゃない!?」
?
「んが!?」
そこにいたのは女性ではなかった。
男性で、少し顔の怖い人だった。
年齢はまだ若いかな? お姉ちゃんと同じくらいに見える。
?
「ぬぅ……俺はヤクはやってねぇぞ? なんで女の声が……?」
きらら
「あ……」
男の人が目を覚ますと、瞼を擦りながら起き上がった。
追加情報を入れると、身長は高いみたい、後顔がお姉ちゃん並の怖い人だ。
多分琉生ちゃんたちだったら震えるタイプだと思う。
そんな男性は私を見ると。
?
「……幻覚か? なんか小〜中学生位の少女がいるんだが?」
きらら
「う……!」
人が気にしている事を!?
私は顔が少し怖い事と、その幼い見た目は本当に損していると思っている。
と言うのも昔事故を起こしたあの日以来私は成長していなかった……。
?
「……ここ、俺の部屋だよな? あれ!? アイエ!? 君だれ!? デリヘルなんて頼んだっけ!?」
きらら
「……落ちついて、何が何だか分からないのはお互い様だと思うけど、先ずは落ち着いて」
私はまずは冷静になることを推奨した。
男性は頷くと、ベッドから降りて、私の前で正座した。
?
「それで……お嬢さんは何方でしょうか?」
きらら
「私は……星野きらら」
そう、私はポケモン少女学園関東支部3年、執行部に所属するパルキアのソウルを宿すポケモン少女だ。
?
「ぬぅ、全く覚えがない……」
お兄さんは腕を組むと必死に頭を捻っていた。
心配しなくても、私もお兄さんの事知らないんだけど。
?
「俺は常葉茂、まぁどこにでも居る普通のサラリーマンだ」
きらら
「常葉!?」
今この人は常葉と名乗った!?
この部屋は細部は異なるが青子お姉ちゃんの部屋にそっくりだ。
そして青子お姉ちゃんの本名は常葉青子!
茂
「な、なに? ちょ、顔近い!?」
私はお兄さんに顔を近づけて、その顔、仕草を良く確認した。
やっぱり似ている……!
きらら
「常葉青子という名前に聞き覚えは?」
茂
「青子〜? い、妹だけど、妹の関係者?」
きらら
「……!」
妹?
おかしい、常葉家に男の子はいなかった筈だ。
しかもこの男性は青子お姉ちゃんとあまり年齢も変わらないように思える。
だが、このお兄さんの顔は嘘を言っている顔ではなかった。
茂
「はぁ……ちょっと待ってろ、確認とる」
お兄さんはそう言うと、ベッドの上に乱雑に置かれたスマートフォンを手に取ると、電話をかけた。
電話は数分掛かったが、返答が来たらしい。
茂
「おう、青子か? ああ、朝早くからすまん。それよりお前星野きららって子を知ってるか? あ、まぁとりあえず電話替わるから」
そう言うとお兄さんはスマートフォンを手渡してくる。
きらら
(旧式かな? 青子お姉ちゃんのより古いモデルかも)
私はそう分析しながら、お兄さんのスマートフォンを受け取る。
きらら
「もしもし」
青子
『青子だけど……アンタ誰?』
きらら
「え?」
その声は確かに青子お姉ちゃんだった。
でも……青子お姉ちゃんの雰囲気は違っていた。
私を疑っている?
その言葉は少し攻撃的でさえあった。
青子
『星野きららだって? 生憎そんな子知らないわよ! それより兄さんに変わって! まだ文句言い足りないんだから!』
きらら
「その……私、あ!」
青子のペースに私は言いたい事も言えず、戸惑っていると突然スマホが奪われた。
奪ったのはお兄さんだ、私の様子を見て状況を察したのだろう。
茂
「朝飯前だろ? 悪いとは思ってる……俺か? まぁまぁ頑張ってるよ、それじゃ母さん達によろしくな!」
スマホから僅かに青子お姉ちゃんの不満声が漏れ出すが、お兄さんはさっさと電話を切った。
茂
「青子に何を言われた? アイツ結構生意気だからな」
きらら
「……私なんて知らないって」
私は泣きたくなってしまった。
ここはどこだ?
何故私はここにいる?
常葉の名前を聞き、僅かに抱いた希望は簡単に潰えた。
私は一体何をしているのだろう……。
ポン。
その時、突然お兄さんが私の頭に掌を置いた。
私は顔を上げると。
茂
「落ち着け、泣きたくなったら泣いてもいいが、心が潰れそうなら、俺が少し力を貸してやる」
そう言うとお兄さんは少し照れくさそうに顔を背けた。
お兄さんの手は大きく、なんだか心が和らいでいく。
不思議な掌だった。
茂
「……落ち着いたか?」
きらら
「……うん」
私は小さく頷くと、掌は私から離れた。
茂
「とりあえず、俺は仕事に行かねばならん……君は、どうする?」
それは、行き先はあるのか……そういう事だろう。
私はコクンと小さく頷いた。
するとお兄さんは「そうか」と納得する。
本当は心配をかけたくないだけなんだけど、なんだかこのお兄さんに甘えるのはいけない気がしたからだ。
きらら
(私はポケモン少女だから……)
***
茂
「一体君が何者で、どうして俺の部屋にいたのか……色々気にはなるけど、とりあえずお別れだな」
きらら
「……うん、迷惑かけてごめんなさい」
茂
「君は良い子だな、ウチの妹も君くらい品行方正ならなぁ」
あの後、お兄さんはスーツに着替えて、アパートを出た。
ガチャリと、鍵が閉まるのを確認すると、会話も少なく私たちは別れた。
きらら
(この人、やっぱり青子お姉ちゃんに似ている……)
きっと困っている人を見過ごせないタイプだろう。
しかも表面的には他人を拒絶している。
多分お姉ちゃん同様人付き合いも苦手なんだろう。
私もよく誤解されがちだけど、人付き合いはちょっと苦手。
初めから素直に話せたのって琉生ちゃん位かも。
彼女は私以上に人見知りで、何故か放っておけなかったからよね。
きらら
「場所は……間違いなく、青子のお姉ちゃんの住んでたアパートだ」
そう、そしてここはあのサザンドラ少女、八神悠那と戦った場所でもある。
あの戦いは私も必死であった、巨大化した彼女に私は手も足も出なかった。
きらら
(パルキア、これからどうしよう……パルキア?)
私は私の内側に住むパルキアに呼びかけたが、パルキアは何も応えなかった。
応えない、それ自体は普通だけど、何も感じないのは異常だった。
私は直ぐにスマートフォンを取り出す。
スマートフォンと言っても普通のスマートフォンじゃない、ソウルリンクスマートフォン、ポケモン少女の変身を制御するツールだ。
私はソウルリンクスマホの変身補助の表示を見て、絶句した。
『ソウルを検知できませんでした』
きらら
「そんな……パルキアが、いない?」
私の中にはパルキアが住んでいる。
けれど、何故かソウルリンクスマホはパルキアを検知出来なかった。
それは確信である、今の私にパルキアはいない。
きらら
「それじゃ……今の私はただの少女?」
兎に角一度学園に戻ろう。
この場所が存在するならば、学園もきっと存在するだろう。
ここは何かがおかしい。
とても似ているけれど、でも何かが違う世界。
……だけど、そこは考えていたよりもずっと残酷な場所だった。
***
きらら
「そんな……」
なんとか電車を乗り継ぎ、私は学園のあるはずの場所に辿り着いた私は現実に絶望した。
学園は存在しなかった、そこにあったのはただのビジネスビルだった。
それだけじゃない、学園を中心とした都市そのものが全く別のビジネス街に姿を変えていたのだ。
きらら
「そんな、そんな事って……」
私はどれ程絶望を顔に映していたのだろう。
道を行き交うビジネスマン達は、私を振り返るも誰も声をかけようとはしない。
きらら
「一体どうなってるの……?」
この世界はなんだ?
似ている場所がある一方で、全く違う部分もある。
確かにここは地球で日本だろう。
でも私たちポケモン少女が存在しない世界?
きらら
(ポケモン少女で調べても、出てくるのはコスプレ位……中には本物かもしれない話もあるけれど、どれも眉唾か……)
しかしそれより気になったのは、スマートフォンの電波だ。
何故か4G回線しか使えず、5Gが使えないのだ。
幸いその程度でスマートフォンそのものは使えるけど……何故使えるんだろう?
ポケモン少女管理局の特注品が、それが存在しない世界で使えるのは何故なのか。
全て謎だ……私はこれからどうすれば良いのだろうか。
きらら
「お腹空いた……な」
ふと、空を見上げるが空は気持ちの良い青空だった。
***
大城
「常葉ー飯行こうぜー」
茂
「5分待て」
大城
「2分で支度しな!」
俺はいつものようにパソコンと向き合い、プログラミングを熟している。
隣で仕事をする同僚の大城は既にダレており、もうモチベは保ってないようだ。
大城
「ああ〜、空から美少女降ってこないかなぁ〜」
茂
「お前……まだ夢見てるのか?」
大城
「常葉こそ、彼女欲しくねぇのか〜?」
大城は結婚願望はないが、彼女は欲しいという今時の奴だ。
一方で俺はそういうのいらない。
妻帯者になるとか、考えられないし、イチイチ他人の事を面倒見るなんて信じられない。
茂
「邪魔なだけだろ、俺は一人が良い、一人は気楽だ」
大城
「……ドライだよなぁ常葉は……もしかして草食系?」
茂
「言ってろ! ハイ! 仕事終わり! 飯行くぞ!」
俺はキリの良いところまで仕事を終わらせると、立ち上がる。
既にオフィス内は半数が食いに出掛けたようだ。
俺達は自分で弁当を用意する訳でもない。
用意してくれる奴がいるなら甘えるかも知れないが、まぁそんな自分は少し信じられないな。
大城
「常葉〜、どこ行く?」
茂
「選択肢はそんなに多くないな」
俺達はランチタイムから少し遅れている。
こうなると、ランチタイム営業の店は大体絶望的だろう。
ここはビジネス街だから、大体の飲食店は非常に混む。
一応オフィスには結構広々とした休憩所もあるが、大体は弁当派が利用する程度だ。
俺達は店食いしたい所だが、さて空いてる店はあるかな。
とりあえずビルを出ると、歩き出す俺達。
最寄りにコンビニはあるが、俺達はその中を覗き、混み具合を見る。
一応指差すが、大城は手を振って拒否を示した。
大城
「時間ギリギリだけど、遠出するか?」
茂
「それも仕方がないか」
周辺はビジネス街だから、食うところはどこも混んでいるが、少し離れたショッピング街まで行けば、ここよりはマシだろう。
時々弁当を買うと、その近くの公園で食ったもんだ。
茂
「とりあえず行ってみるか」
大城
「やっぱり速攻掛けるべきだったんじゃねぇか? 夏川なんて速攻で出て行ってたぜ? アイツぜってぇ仕事さぼってるぜ!」
茂
「大城も途中でモチベ下がってたろ」
平気で同僚をディスる大城だが、大城も大概である。
とはいえ、夏川は割とたまに仕事中に私用でパソコン使うことがある奴だからなぁ。
それでも仕事量的には大城と同レベル、大城の仕事率が悪いのも原因とはいえ、夏川はやる時はやる奴だ。
茂
「この辺りから人ごみは……」
ビジネス街を離れると、やがて人並みがビジネスマンから、一般人に比率が変わってくる。
たったそれだけだが、空気が変わったと感じるには充分だった。
大城
「ん? 学生? 見たことない制服だな」
ふと、大城が何かに注目した。
それにしても学生って、やっぱりコイツ、ロリコンじゃ……。
茂
「この辺り学校なんて……ッ!?」
周囲にあるのは大学程度で、学生服を用いる高校や中学は遠い。
そんな中で制服というものは必然的に浮く。
大城の目線の先を追った俺はそんな制服姿のある少女を見て、足を止めてしまった。
大城
「常葉? どうした?」
常葉
「……すまん、用事が出来た! 昼飯は一人で食ってくれ!」
大城
「え!? 用事って……おい!?」
俺はそう言って大城を振り切ると、途方に暮れた表情で空を見上げる少女に声を掛けた。
茂
「お嬢ちゃん、こんな所でどうした?」
きらら
「……! お兄さん、どうして?」
茂
「たまたま近くが職場なんだよ、そして偶然発見した」
俺はそう言うと、微笑を浮かべる。
少女はそんな俺を見ると涙腺を弛めていた。
俺にはさっぱり分からんが、何かが彼女を追い詰めているのだろう。
そんな少女に俺は二つの選択肢があった。
ひとつは我関せずと無視することだ。
実際気安い、その選択の方が正しかった筈だ。
この少女に関わって、俺に何のメリットがある?
それこそこの少女は身元も不明、何故青子のことを知っていたのかも不明なのだ。
そんな怪しい少女に俺は、その選択肢を捨ててしまった。
茂
「俺1回言ったよな? 心が潰れそうなら、俺が少し力を貸してやるって」
きらら
「ひくっ! お兄さん……私分かんないよ……! ここは何所なの!? どうして私はここに存在しているの!?」
それは初めて見せた少女の弱い一面だった。
彼女には何か尋常ならざる事情があるらしい。
そして俺はそんな如何にも面倒な事に首を突っ込んでしまった。
他人と関わるのが苦手で、女子なんて殊更に分からん俺が……だ。
茂
「安心しろ、俺がいる」
俺はそう言うと、少女の頭に掌を置いた。
少女はポカンと口を開けて俺の顔を見上げた。
人は誰もが一人で生きていける訳ではない。
俺だってそうだ。
一人で生きている振りをしているが、多くの人間との付き合いの上で成り立っている。
俺はお人好しだろうか?
この少女に手を差し伸べるのは良心からか?
分からない……だけど、俺は選んだんだ。
きらら
「お兄さん……私、私ぃ……!」
俺は彼女の頭を優しく撫でる。
少しでもこの少女の不安げな顔を和らげるために。
***
茂
「それじゃ……その、異世界っていうか、パラレルワールドから?」
あれから俺はコンビニで二人分の弁当を購入すると、自然公園の片隅で、きららちゃんの話を聞いた。
恐るべき事に、彼女はこの世界とは違う日本から紛れ込んだのだという。
きらら
「うん……そこで私は家族を交通事故で亡くして、常葉家の養子となったの……」
茂
「それで青子の事を知っていたのか……」
だが、そのきららちゃんのいた世界では俺はいないのか?
どうも、その世界では青子一人しかいないようだが……。
きらら
「そして私はパルキアというポケモン少女になったの……」
一番の驚きはここだ。
パルキアっていうのは昔出たポケモンというゲームの伝説のポケモンだ。
異世界と言うが、聞く分にはあまりこっちと違いはないようだが、ポケモン少女という物はこっちじゃ聞いたことがない。
と言うか擬人化? と言っていいのか分からないが、なんで人間に宿るんだ?
茂
「君の世界ではポケモン少女ってのは当たり前の存在なのか?」
きらら
「数は決して多くないわ……でも誰もがポケモン少女のことは知っていると思う」
茂
「まるで変身ヒロインだな……」
俺には俄には信じがたい情報だったが、彼女の真剣な顔は決して嘘をついているとは思えなかった。
でも、だ……なぜきららちゃんはポケモン少女に選ばれたのだ?
茂
「帰る方法は……無いんだよな」
きらら
「……うん」
きららちゃんは小さく頷いた。
パルキアは空間を司るポケモンだ。
その力があっても、並行世界を越えるのは決して容易じゃないのだろうか?
茂
「……よし! ならきららちゃんは俺が面倒見てやる! とりあえず当面は心配するな!」
俺は覚悟を決めた。
ずっと一人で生きる、それが当たり前だと思った。
でも、俺は一人で生きるのが好きな訳じゃない。
ただ一人の方が気楽なんだ。
それでも、俺はこの子を見捨てられるほど淡白にはなれそうにない。
多分、馬鹿なんだろう……それでも俺は嫌な思いをするくらいなら、これ位やってやる。
きらら
「本当に良いの?」
茂
「嬢ちゃんが遠慮するな、俺は大人だ、きららちゃん一人養うなんて訳ない」
俺はそう言うと笑ってみせる。
実際俺は特に散財するタイプでもないから、結構貯金は貯まっている。
きららちゃん一人くらいなら、問題ない……筈だ。
茂
(だよな? 今更無理っては言えないんだからな?)
等と俺は少女一人の養育費ってのが全く分からず、戦々恐々してしまうが、それを顔に出すわけはない。
きらら
「お兄さん……ありがとう」
きららちゃんは大人しい子だ。
ありがとう一つとっても、決して大きくリアクションを取るわけでも、全く感謝していない顔でもない。
茂
(なんでかな……こういう子を他に知っている?)
俺は何故か彼女が放っておけない。
そしてそれは何かが、ダブって見えた。
勿論馬鹿な事だとは思う。
俺がきららちゃんのような物静かな少女を他に知っている?
あり得ないさ……俺みたいな他人を寄せ付けない人間が。
突ポ娘×PHG
突然始まるポケモン娘と異邦から来たパルキア少女と一緒に過ごす物語 前編 完
後編に続く。