#7 信じ抜く事が大事
#7
燐
「このぉ!」
私は炎の鞭をしならせ、謎の人型ロボットに振るった。
謎のロボットは赤茶色の西洋甲冑のような装甲で覆われたモノアイのロボットだった。
妙に古臭さを感じるデザインだが、問題はその巨体だ。
身の丈3メートルはあり、機敏ではないが私には嫌な相手だった。
ロボット
「ソンショウ、ケイビ」
燐
「片言なんかムカつく!」
私の炎の鞭は粘質の炎で物体に絡みつく。
だが、拘束力は低くロボットのパワーを抑えられない!
ロボットは両腕を振り回すと、私は鞭ごと身体を持っていかれそうになり、鞭を解除した。
ロボットは拘束が解けると、背中から何かハッチが開く。
やばい、そう直感した私は直ぐに退いた。
ロボット
「ミサイル、ハッシャ」
6発の内蔵ミサイルが弧を描き私に襲いかかってきた。
燐
「あーもう!」
私はすかさず、炎の鞭を出鱈目に振るい、炎の結界を展開した。
ミサイルは結界に触れると爆発し、その爆発が他のミサイルにも誘爆する。
私は爆風を耐え、噴煙が視界を塞ぐ中、ロボットを見失いはしなかった。
燐
(ああいうロボットって大体ロクな奴いないのよね!? 人類軍のクソ兵器に比べたら愛嬌ある方だけど、どっちも最悪!)
全く、呪われているのか、どうしてこういう殺人兵器に縁があるのか。
私は次の行動を許さず、炎の鞭を振るった。
ロボット
「セッキンセン、ユウコウ、ハンダン」
ロボットは白煙の中、私の炎の鞭も気にせず、真正面から突っ込んできた!
燐
「きゃあ!?」
私は咄嗟に横に飛び退いた。
ロボットは私がいた場所に右手に装備された黄金のクローを放っていた。
燐
(スピードといい、あの巨体と接近戦は命が幾らあっても足りない!)
私は転がりながら、態勢を整えロボットを睨みつける。
ロボットはゆっくりとこちらを振り返ると。
ロボット
「アタック」
燐
「ッ!?」
今度はロボットの肩の装甲が上に開いた。
開いた装甲の中には黒光りする機関砲が見て取れた。
次の瞬間、ロボットの肩部バルカン砲が火を吹く!
ダダダダダ!
燐
「だーもう!? 何個武器持ってんのよ!?」
私はジグザクに走りながら、相手の射線から逃れる。
幸い、相手はスピードはあるけど、小回りは効かないみたい。
元にロボットは足を止めて、旋回しながら弾をばら撒いている。
燐
(つまり、付け入る隙があるとしたらそこ!)
私は攻撃力も防御力も、ましてスピードまで、特段優れたポケモンじゃない。
至って平均的、至って平凡、そんな言われ方もする。
実際、鍛えなかったら私なんて普通の人間とそれこそ大差ない。
下手したら茂さんにだってマウント取られるかもしれない位だ。
でも、だからこそ私は悪運と小賢しい頭で生き残ってきた!
燐
「負けてられないのよ! アンタなんかにぃぃっ!」
私は炎の鞭を振るう、今度は一直線に!
ピンと棒のように伸びた炎の鞭は相手の肩に突き刺さる。
肩、つまりそこは!
ズガァァン!!
ロボットの右肩が爆ぜた!
炎の鞭はバルカンの砲身を貫き、その内側の弾薬を誘爆させたのだろう。
ロボットは右肩を脱落させると、態勢を崩す!
一瞬かもしれないけど弾幕が止んだ!
燐
「うらぁぁぁぁぁあ!!」
私はその隙にロボットに走り込む!
ロボット
「キケン、キケン、ミサイル、ハッシャ、ヨウイ」
燐
「させるかあ!!」
私は鞭を真上に振るった。
ロボットはモノアイカメラで私を注視しつつ、背部装甲を展開する。
緊迫した今の状況で考えるのも野暮だけど、アイツ体の中にどれだけ弾薬やミサイルやら詰め込んでんのよ!?
燐
(だけど好都合! 鋼モドキに炎タイプが負けられないのよ!)
炎の鞭は私の手首の繊細な動きに敏感に反応する。
炎の鞭は一旦天井付近まで伸びると、その後方向転換するようにロボットの真裏から襲いかかる!
ズバァン!
ロボットの背中で爆発が起きた。
ミサイルに炎の鞭が触れ、誘爆したのだ。
ロボット
「ピ、ガガガ……!」
燐
「はぁはぁ、ざまぁみなさい!」
ロボットは右腕部欠損、背部装甲から内部の消失、これだけのダメージならもう戦えないでしょ。
私はここまでの緊張から、ポンコツになったロボットの前で足をついた。
とりあえず死ぬほど疲れた……こういう無感情なロボットって、普通にポケモンバトルするより何倍も疲れるわ……。
ロボット
「ファイブ……」
燐
「?」
突然体の半分を消し飛ばされたロボットが何か呟いた気がした。
燐
「なに? まだ動く訳?」
ロボット
「フォー……スリー」
燐
「っ!?」
私はまさかと思い、直様立ち上がる。
そして後ろを向くと全力で、走る!
兎に角走る! 自分の限界を超えて!
燐
「はぁ! はぁ! くっ!?」
ズガァァン!
ロボットが大爆発した。
私は爆炎を最後にとにかく走って逃げる。
燐
(あーもう! ○レデターのラストシーンじゃないんだから!? どこにそんな爆薬内蔵してんのよー!?)
***
鯉
『魚やからって舐めたらあかんでー!』
瑠音
(くっ!?)
私の対戦相手は奇妙な念を送ってくる金色の鯉だった。
だが、ただの鯉じゃない。
私(180センチ)も一口でいける程の大きさの鯉だ。
その大きさ自体が驚異的で、私は必死に鯉の突進を回避する。
万が一、あの口に吸い込まれれば、奥の歯ですり潰されて一瞬で絶命するだろう。
ジュゴンである私が魚に食べられるなんて笑えない話だ。
だが、実際ここまで体格差があれば食物連鎖は容易に逆転する。
鯉
『ちっ! すばしっこい姉ちゃんやで! なら!』
鯉は突然行動を変化させた!
水中で、上も下もない中、猪突猛進に追いかけ回してきた鯉が、戦法を変えたのだ!
鯉は私の周囲を旋回し、その尾を大きく振るった!
瑠音
(くう!?)
言ってみれば、それは尻尾を振るかもしれない。
だが、その一撃は水流を掻き乱し、圧倒的な水量が私を襲う!
ダメージはそこまでないが、あまりよろしい状況でもない。
瑠音
(一撃で仕留められないから、こちらの体力をじわじわ削る作戦に変えましたか!?)
私は、肺で呼吸する。
鰓で呼吸する鯉とは生物としての性質が違う。
水中での戦いは鯉に軍配が上がるのだ!
瑠音
(水面にさえ上がれれば、まだなんとかしようもあるのだけれど!)
しかし、浮上を開始すれば鯉は一直線に捕食に来る。
非常に賢しい事に、魚の癖に私を追い込んで来ていた。
鯉
『ほれほれ〜! いてこましたるでぇ〜!』
瑠音
「くう!?」
ゴポ……!
鯉のヒゲが鞭のようにしなり、私を捉えた。
私は口から気泡を吐き、その一撃に耐えた。
しかし、その結果を見て鯉は満足する。
鯉
『おほほ〜! 別嬪の姉ちゃんも後もうちょっとかいな〜!?』
瑠音
(今のは不味い! あと何分潜水出来る!?)
私は咄嗟に掌に渦を生み出す。
私はそれを鯉に投げつけると、鯉を水流の渦が閉じ込めた。
鯉
『おお〜!? なんなんや〜!? 流れ変わったで〜!? て、なんでやねん! 地底湖が川みたいに流れるかっ!』
なんだか、勝手にノリツッコミをしている……。
随分調子の良い魚だ。
私は兎に角その隙に水面を目指す。
地底湖ということは、それ程高さは無いはず!
鯉
『せやけど〜、甘いで〜!?』
瑠音
(なっ!?)
鯉は暴れるように、その場で体を振るうと、渦潮が打ち消された!
それどころか、その余波で大嵐の津波のような一撃が私を襲う!
鯉
『伊達に長くは生きとらんねん! この……えーと、アカン! 自分の名前なんになんも思い出されへん!? 兎に角ワイを舐めんなやー!』
鯉が直進してくる!
私は避けきれない!
瑠音
「くあ!?」
私は鯉の体当たりを浴びると、更に口から気泡を溢す。
瑠音
(ここ、まで……なの?)
段々意識が朦朧としてきた。
海中ならいざしらず、ここは淡水。
身体は浮力が足りず重く、水中の酸素濃度は海中に比べ低い。
何から何まで悪条件で絶望的……。
私は、死を覚悟した。
鯉
『おとなしゅうなったな〜、ほなそろそろ〜命頂こうかぁ〜?』
瑠音
「……」
鯉
『言っておくけどこれは名誉なことやで、ワイは神様みたいなモンや、その一部になれんやからな、ワイも鬼やあらへん、苦しまんよう、一撃で仕留めたる!』
鯉が大きく、口を広げた。
ああ、死がそこに迫っている。
もうすべてを諦めようか?
だが、私の脳裏に何かが横切った。
瑠音
(マナフィ……さま!?)
鯉
『いっただっきまーす!』
ガキィン!
鯉が眼前で止まった。
神と嘯く鯉は不思議そうに魚眼を私に向ける。
鯉
『な、なんや!? 氷の壁やと!?』
私は咄嗟に吹雪を放ち、前方を氷で固めた。
魚は自分の口に入らない氷に驚愕するが、それは私にとっても賭けだった。
息を思いっきり噴出させて放つ吹雪は、本来水中で使える技ではない。
仮に水中で使っても、水の中は冷気の進みが遅く、効果は薄い。
だが、凍った氷は体積が下がる。
私は氷にしがみつくと、勝利を確信して、にやりと笑った。
鯉
『あっ!? しま……!?』
鯉が呆気に取られている間にも状況は変化する。
氷山はあっという間に浮力によって水面に上がり、私は久方振りの酸素にありつけた。
瑠音
「スーハー!」
鯉
「くっ!? 面妖な術を使いよって!?」
鯉は水面に上がると恨めしそう私を睨んだ。
一方で地の利を得た私は笑う。
瑠音
「フフ、所詮魚……相手が陸の上では手も足も出ないでしょう?」
鯉
「むっか〜! ムカつく姉ちゃんやな! いてこましたる!」
鯉はカチンときたのか、水中に潜ると、足場の氷山に体当たりを仕掛けてくる。
私は改めて相手の言葉を心に反芻した。
瑠音
「貴方、自分を神だと言いましたね? 私も一人神を知っています、いえ神の化身とも言うべき人を……」
そう、マナフィ様だ。
異能存在ガイアの使徒であり、海の皇子マナフィはすべての水ポケモンにとって神とも言える存在。
ありとあらゆる有機生命体を滅ぼし、ガイアに捧げるため、世界の全てに戦いを挑んだあの方の覚悟と実力を比べれば、この鯉は所詮魚だ。
瑠音
「負けられません……私は神とも言うべき二人に託されたのですから!」
私は大きく息を吸い込むと、掌に吹雪を放ち、冷気を集めた。
周囲は水相、これほど恵まれた地相はない。
周囲の相の力を得た私は水の理と冷の力を融合させ、氷の槍を作り出す。
鯉
「こんのー!?」
鯉が力技で氷山を縦に砕いた!
だが、それは私のソナー能力で捉えた、未来と一致していた。
水面から顔を出す鯉、その魚眼にはキラリと輝く氷の槍が見えるだろう。
瑠音
「特注品です! 受け取りなさい!」
私は十分に巨大化させた氷の槍を振り下ろす!
鯉
「ごぱ!?」
氷の槍が鯉の口を突き刺し、そのまま内部を貫通する。
鯉
「ほ、ホンマ……ごっつい姉ちゃん、やで……」
鯉はそのまま沈んでいく。
そしてその身体が光の粒子に変わった。
私は水面に浮かびながら、相手の事を考えた。
瑠音
(どうしてあの鯉は私を狙ったんでしょう?)
戦った印象、相手は私を憎んではいなかった。
憎悪ではなく、ただ義務として戦っていたようにも思える。
瑠音
「名も忘れた鯉さん……もしかして、貴方も被害者?」
マナフィ様なら敵に情けを覚えるなと叱責するだろう。
相手の心情を考えれば、私の攻撃が弱まる。
私が成したい事を考えれば、これは必然なのだろう。
瑠音
「茂さんを、皆を助けないと!」
***
怪物
「シャギギィ」
恋
「……っ」
薄暗い洞窟の中、1つ目の卵のような形状の怪物は四方に分裂して私を取り囲んだ。
このようなポケモンは見たことがない。
正しく人外の魔物というべき存在だろう。
そんな怪物に、私が収めた拳法が果たして通じるのか?
恋
(違う……通す!)
私は震脚を踏み、清山拳の構えを示す。
怪物は十字に私を取り囲んだまま、様子を見ている。
警戒しているのか?
しかし、多数に無勢だ、今は風となるべし。
怪物A
「も、も、もう! 我慢できなィィ!」
怪物の一匹が身体をベーゴマのように回転させ突撃してくる。
怪物B
「美味そうな肉〜!」
回転する怪物から左90度の怪物は目から怪光線を放った!
怪物C
「いただきぃィィ!」
更に反対側の怪物は体中の刃のような表皮を輝かせて、飛びかかってくる!
これら同時多面的な攻撃にどう対処する!?
私は何を学んだ!?
恋
「はぁ!」
私は影になると地面に吸い込まれ、まず怪光線を回避する。
と、一瞬遅れて回転する怪物と、切り裂きに掛かる怪物が打つかった。
私はその隙を逃さず、影から姿を表すと超低姿勢から昇り蹴りを切り裂きにきた怪物に打ち込む!
怪物C
「シャ、シャギギィ!?」
恋
「浅いか!?」
しかし、追撃はしない。
いや、行えないが正しい。
4体目の怪物が、虎視眈々と私の隙を伺っていたからだ。
怪物D
「ギギぃ、肉、肉、美味そうな肉ィィ」
恋
「……」
煩悩に塗れた、正しく獣のような怪物。
それ故に行動は単純だ。
だが、虎とは訳が違う。
この怪物にどこまで常識が通じる?
怪物は再び距離をとって、膠着状態が続いた。
私から手を出せば、きっとその隙をやられる。
ここは我慢するしかない。
恋
(でも……本当にそれで正解なの?)
拳に迷いを与えることは死活問題だ。
それは清山拳を収めた者にはあるまじき心の弱さだろう。
だが、私ははっきり言って弱い。
ルージュさんに一本取られたように、これからも最強や無敵からは縁遠いだろう。
だからこそ、弱い自分を認めるからこそ、私は疑う。
常識を疑い、自らの拳を疑う。
その最後には、納得の行く答えを得るために!
恋
「常識を疑う……か」
私は構えを変えた。
清山拳の構えとは鏡写しのように聳える黄龍拳。
右手は天を、左手は地を掴む龍の顎の構え。
恋
「はぁ……!」
私は震脚を踏んで闘気を蓄える。
怪物は我慢できなさそうに、飛びかかってきた!
怪物A
「く、食わせろシャギィ!!」
恋
「打ち抜く!」
ズドォン!
その一撃のために放った震脚は洞窟を揺らし、砂埃が舞った。
怪物にカウンターを合わせ放たれた拳は、怪物の芯を捉えた!
衝撃が突き抜ける、私はその一撃に答えを得た!
怪物A
「ぎ、ギィ……!?」
打ち抜いた怪物が、光の粒子に変わる。
我が黄龍拳、その一撃無双、決して驕るべからず!
恋
「隙を見せればやられる? なんと惰弱でしょうね、中師父ならば、隙にさえなるまい」
私はそう微笑を浮かべ、残り三匹を見た。
黄龍拳は無慈悲に払えば暴力、されど清山拳とて心を失えば、ただの残虐非道。
私はそれら、時に相手を殺めうる危険な技を律し、昇華させねばならない。
真の格闘家……その答えは未だに見えない。
それでも、私は止まる訳には行かないのだ!
恋
「ふっ!」
私は師父のように一瞬で、怪物の一匹の間合いに踏み込むと、蹴りを放つ!
怪物B
「ギギぃ!?」
恋
「ほぅお!」
怪鳥音を響かせ、鋭い蹴りは怪物を捉えると、怪物の身体は砕けた。
怪物が光の粒子に変わるのを背景に、私は残り2匹を捉える。
怪物C
「ぎ、ギギィ!」
怪物D
「肉ーィィ!」
一匹は目から怪光線、もう一匹は高速回転からの突撃。
私は冷静に俯瞰し、そして自己を客観的に捉え、その回答を見出す。
恋
「ほあ!」
私は素早く駆けた。
そして脳内に自らの次の姿を捉える。
清山拳は戦場の拳、闘う場所、使う者によって千変万化すると言う。
そして、私が得た戦場の拳は!
怪物C
「ぎ、ギギィ!?」
恋
「影よ舞え!」
私は影に指令を送ると、私の影は私と重なった。
そして影と私は怪物たちの周囲を舞う。
無数の拳打を浴びせ、螺旋を描く。
恋
「捉えた! この技!」
その最後、私と影はシンクロするように、二匹の怪物に掌底を放った。
怪物たちは痛みも知らず、そのまま光の粒子に変わっていく。
恋
「清牙、龍山拳!」
私は残心を決め、自らの編み出したオリジナルの技を再度考察する。
恋
(幻惑するように周り、速度を上げる……しかし、まだ煮詰めが甘いでしょうか? て、そんな事より皆を助けないと!)
私は、改めて自分のいる場所を確認した。
薄暗い洞窟の中、しかし既に気配は何もない。
兎に角、まずは脱出からか!
***
茂
(……はぁぁ)
俺は心の中で深いため息を放った。
なんとか皆無事だ。
人外魔境の怪物たち、だが彼女たちは打ち勝った。
俺は混沌を見ると、相変わらず混沌は見えない表情で拍手を贈っている。
混沌
「いや〜、本当に勝ったね? 2、3人は死ぬと思ってたんだけど」
茂
「全滅を狙っていたんじゃないのか?」
混沌
「おいおい、君がそういう事言うの?」
混沌は相変わらず感情が読めない。
表情が能面で、仕草と口調でしか判断出来ないのもあるが、こいつ自身芝居がかっているのも問題だ。
言ってみれば劇場型で、なんでも面白おかしくしようとする風体がある。
混沌
「正直言えば、あの魔物達は、少しだけ彼女たちより強く設定していた、誤差のようなものだから、全滅するかは微妙だったけど、逆に全員生き残るとはね」
茂
「……」
混沌
「ま? 喜ばしいじゃない? おもちゃが無事でさ?」
俺は腕を組んで、目を瞑った。
眠たい訳じゃない、雑念を捨てるためだ。
こいつは無駄に言葉が多く、しかも何が意味がある言葉なのか理解するのがややこしい。
だから、整理する必要がある。
混沌
「それじゃ、次のカードは……」
茂
「無駄だ」
混沌
「はい? 無駄とは?」
茂
「何度やってもお前はあの娘達には勝てない……俺が言ってる意味、分かるよな?」
俺は目を開けると、相手を少しだけ睨みつける。
混沌は、少し言葉を反芻すると、戯けた調子で言った。
混沌
「それって、君が理を侵して、運命操作したって認識でいいの?」
茂
「……だろうな」
理(ことわり)を侵す。
それがどこまでの意味を持つのか俺には分からない。
だが俺が想えば想う程、この力は理不尽に作用するらしい。
現実に俺は心臓をバクバクさせながら、全員の無事に安堵した。
混沌は俺が暗に認めると、大喜びする。
混沌
「ハッハッハ! 素晴らしい! 正しく混沌の力! 君は最高の逸材だよ!」
茂
「お前の目的……それが俺って訳か」
混沌
「ふふ、確信が欲しかったのさ、君がどこまで運命を捻じ曲げられるか、いやあの神々の王の悲劇さえ覆したのだから、普通じゃないのは理解していたんだけどね!」
茂
(茜……か)
神々の王、俺の妻。
その気になれば簡単に世界をリセットしてやり直せる、正真正銘の理不尽存在。
その妻が、どうやっても俺の不幸を取り除けず、絶望を繰り返していた。
俺の不幸が世界を滅ぼす、笑えないがそれは星の数ほども繰り返された歴史だという。
それを変えたのは、ディアルガの永遠と結託し、二人で暗躍した結果だった。
すべて神々の黄昏、ある神様が神堕ちを合法化するために行った暗躍だった。
茂
(もうこれ以上……お前に泣いてほしくない!)
俺は覚悟を決めた。
愛する妻のために、そして生まれてくる子供のために。
茂
「そろそろ白黒つけようぜ?」
混沌
「なに?」
茂
「俺は神でも魔王でもない……ただのしがないサラリーマンだ、自分の身を守るのもままならず、家庭を守るのも必死だ……だけど、俺は歯を食いしばってでも護らないといけないもんがあるんだよ!」
俺は椅子から立ち上がると。
茂
「繰り返す、何度やってもあの娘達は絶対に勝つ、だから小細工はもうやめろ」
混沌
「小細工……だって?」
茂
「お前、本当は怯えているだろう? だから永遠と実験と称して様子を見ている……俺が、怖いんだろう?」
俺は冷酷に混沌を見下した。
混沌はテーブルに手を付けて震えていた。
それは俺が確信を得るには十分過ぎる材料だった。
混沌
「馬鹿なことを、君は言ったじゃないか、しがないサラリーマンだろ? 俺の力見たろ? 何を恐れる必要がある?」
茂
「ならば、あの娘達をここに呼べ、そして直接戦ってみろ」
混沌
「っ!」
混沌の口が塞がった。
それは安易には取れない解答なのだ。
だが、それでも混沌は戯ける。
混沌
「馬鹿だなぁ、たかがポケモン娘が神にも等しき俺に勝てる訳ないだろう? ゲームにもならない!」
茂
「御託はいい、勝負から逃げるって事は、テメェは敗北を認めるって事だ、それも普通の敗北じゃねぇ、一生勝ち目のない敗北だ」
俺はイニシアチブを取っているよな?
俺にあるまじき剛毅、そして極めて分の悪い賭けだ。
混沌は少なくとも、俺を完全に無害とは思っていない筈だ。
混沌が5人のポケモン娘を巻き込んでまで、行った壮大な実験は全て俺の検証に過ぎない。
俺が持っているという理を侵す力、全てはそれを望んでいたからだ。
茂
(正直、本当にそんな力が存在するのか、しがないくたびれたサラリーマンには分からねぇ、それでもコイツは怯えている)
だったら、ハッタリを通すしかねぇだろう!
茂
「どうするんだ? いつまでも無駄な検証を繰り返しても、満足な結果は得られんだろう? お前の勝利条件は俺を屈服させる事だろう? 本当に出来るのか? 白黒はっきりさせたくないか?」
混沌
「……いいだろう、後悔するなよ?」
混沌が了承した!
混沌もやはり白黒はさっさとつけたいんだ。
混沌は恐らく途方も無い時間を掛けてでも、俺を自らの勢力下に置きたがっている。
オレの心が折れれば、こいつの勝ちだ。
後は煮るなり焼くなり。
だが、俺は子持ちの父ちゃんになる男だぞ?
俺は絶対に折れん、そしてその強固さも混沌は理解しているはずだ。
茂
(俺はお前たちを信じる……お前たちを信じる俺を信じる!)
突然始まるポケモン娘シリーズ外伝
突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語
#7 信じ抜く事が大事 完
#8に続く。