突ポ娘外伝






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最終章 理を侵す者編
#4 瑠音の決意

#4



瑠音
 「茂さん……」

茂さんが目の前から消えた。
私の名前は瑠音、ジュゴンという人魚のようなポケモンだ。
今、私は無人島の浜辺に一人佇んでいる。
それは世界が滅びの寸前にあるからだ。

超異能存在ガイアはかつてこの星に落ち、多くの涙を流した。
その涙は海を創り、その肉は無機の星に有機をもたらした。
だがガイアは自身の眷属たる端末マナフィを創り出し、ガイアの素を回収したのだ。
結果的には私はマナフィ様を破り、ガイアは目覚めることなく、この星の一部となっている。
もはや、この海に知的生命体は私以外いないのか。
分かっていた事だが、長生きしてもこれは堪える。
私はマナフィ様のタマゴを抱えながら、これからどうするべきか考えた。

世界が滅びた先……果たして希望はあるのか。


 「ちょっとそこのお嬢さん?」

瑠音
 「え?」

私は振り返った。
すると、そこには今までこの島にはいなかった筈のポケモンがいた。
それは浅黒い肌をした少女で、赤紫色の民族衣装を着た少女だった。

少女
 「君に頼みたい事がある」

瑠音
 「貴方は……!」

少女
 「茂君を救って欲しい!」



***



瑠音
 「ここは?」

私はある少女の頼み聞き、その少女が用意した光の道を進むと、私は異様な世界に降り立った。

瑠音
 「山?」

私は水没して久しいその地形にある種畏敬の念を抱いた。
しかしその世界は酷く色褪せており、空気もどこか淀んでいる気がした。
山の頂上、見渡す限り空が広がるが、空もくすんでいる。

瑠音
 「茂さん……!」

私はある少女との約束を果たすため、動き出す。
私の体は海にこそ適応しているが、魚のような下半身は陸上では劣悪だ。
だが、ある少女はその為に『これ』を渡してくれた。

瑠音
 「手元で操作……!」

私はある車椅子に乗っていた。
これならば、人魚のような体型の私でも、陸上である程度自由が効く。
この車椅子は少し操作が特殊で、肘掛けに私の手の動きを認識するデバイスが内蔵されている。
最初は慣れが必要だけど、直感的な操作で、車椅子は動いてくれた。
私はそうやって動作確認を行い、車椅子を左旋回、右旋回と動かす。

瑠音
 「凄いですね……陸の民でもここまで車椅子に機能を付けるでしょうか?」

私は、これが一種の自動車だと認識した。
動力は不明だが、少なくとも動かすには必要最低限でいい。
私は最後にブレーキを確認すると、山を降る準備をする。

瑠音
 (茂さん、必ず助けます!)

私はそうもう一度、覚悟を決めると、山道を走る。
車椅子は悪路ではあるが、バランサーでも内蔵しているのか、安定性は良かった。
それにしても海の世界の次は、海の無い世界とは、些か極端過ぎますね。
水陸適応している私だからこそ、乾燥もなんとかなるが、流石に風は気になる。
乾燥に強いとは言っても、それはあくまでジュゴンとしてのレベルで、ですからね。
本音を言えば、水浴びの出来る場所は見つけたい所だけど。

瑠音
 「……? 前方から何か!?」

それは突然だった。
剥き出しの岩山に真っ黒な姿の怪物が次々と現れる。
それは人型だったり、四足だったり、芋虫のような怪物も。
ただ、それら全てが闇で出来たかのように不気味だった。

瑠音
 「なるほど、邪魔をするのですね?」

私はそれが『混沌』と呼ばれる存在が放った怪物だと認識すると、氷の力を集める。

瑠音
 「吹雪!」

私は口から吹雪を巻き起こすと、目の前の怪物たちを薙ぎ払う。
怪物たちは軽い者は吹き飛び、重たい物は凍りついた。
私はその隙を縫うように、怪物たちの脇を走り抜ける!

瑠音
 「また!?」

今度は空だ!
大型の鳥のような怪物が空から強襲してくる!

瑠音
 「く!? はぁ!」

私は咄嗟に凍える風を放った。
だが怪物は止まらない、怪物はそのまま車椅子に体当たりをしてきた!

瑠音
 「くう!?」

私は降り落ちないように堪え、車椅子の操作に専念する。
私は車椅子の速度を上げ、斜面を一気に降った!
怪物は再度私を降り下ろそうと、再び急降下!

瑠音
 「この!?」

私は車椅子のブレーキを掛けると、車体は急激な負荷に晒され、宙を舞った!
それで不意を突かれたのは怪物の方だ。
私は鳥の怪物から制空権を奪い取ると、水を全身に纏った。

瑠音
 「アクアブレイク!」

私は車椅子ごと水を纏うと、鳥を押しつぶすように体当りした!
鳥はその衝撃を受け、地面に叩きつけられると消滅する。

バシャァン!

水は弾けると、簡易的にその場に雨を降らせた。
私は車椅子を減速させると、一息をついた。

瑠音
 「ふう、やはり一人では危険ですね」

私は改めて、孤軍奮闘する事の無謀さを思い知る。
もし再びあの怪物が群れを成してきたらどうする?
私は一刻も早く仲間となるポケモン達を見つけないといけない。

瑠音
 「追撃される前に、移動しましょう」

私は車椅子を操作すると再び車椅子は走り出す。
眼下には樹海が広がっている。
山も森も、私からは最も縁遠い世界だ。
だけど泣き言は言ってられない。
どの道、私一人ではこの世界は危険だし、何より茂さんを助けるには、多くの力がいる。

瑠音
 (茂さん……今何処にいるんですか?)

私は自分にとって最も愛おしい人を思い浮かべる。
まだ、触れ合った温もりが残っている気がして、それは切なさを募らせた。
だけど、私には出来る事がある。

茂さんが消えた直後、私の目の前に現れた褐色の少女。
彼女もまた、茂さんに恩義があり、そして助けたいと思っていた。
だからこそ、私はあの少女の言い分を聞き、この世界にやってきた。
茂さんは混沌と呼ばれる、諸悪の根源に狙われているという。
褐色の少女は自分一人では助けられないと言った。

瑠音
 (分かりません、あの少女の秘める力は、私なんて目ではないと思った)

そう、それこそマナフィ様と同レベルの存在。
その秘めた想いは私も共感出来るが、なぜ彼女自身ではなく私なのか。
……いずれにしても、先ずは茂さんとの再会ですね。

山をゆっくり降る事数時間。
この世界はずっと晴れやかだ。
否、太陽が動かない。
まるでずっと白夜のように、空は明るかった。
この異質な世界、そして不気味な色褪せた風景。
異常事態が常のような恐怖がここにはある。

瑠音
 「ッ!?」

山の麓が見えてきた時、私は車椅子を停止させた。
私の目の前に怪物が現れたのだ。
怪物はまるで道を塞ぐように、佇んだ。
だがその怪物は巨人である。
身の丈は4メートル、人型と言うには腕がやや長く、猿のようにも見える。
他の怪物と同様、体は闇で出来ているかのように漆黒で、見る者を恐怖させる。

怪物
 「……」

怪物には目がない、鼻も、耳も、そして口もない。
だが、私の存在に気がついて振り返った気がした。

瑠音
 「襲ってこない?」

怪物は道を塞ぐだけで動こうとしない。
これはどういう事でしょう?
山を降る際に遭遇した怪物達は問答無用で襲ってきた。
てっきり、無条件でポケモンを襲うものかと思っていましたが、違うようですね。

瑠音
 「ならば、下手に手を出さず……」

私はそっと静かに怪物の脇を通り過ぎようとする。
しかし、それがいけなかったのか、怪物は動き出した!

怪物
 「オオオオ!」

怪物は奇声を上げると、その長い腕を振り上げた!

瑠音
 「危な!?」

私は、咄嗟に車椅子を旋回させた。

ズドォン!

地響きを上げ、砂煙を撒き散らす強烈な一撃は私の目の前に振り下ろされた。
私はその衝撃で車椅子ごと吹き飛ばされた!

瑠音
 「きゃ!?」

く……あくまでも、通さないという事ですか。
私は車椅子から崩れ落ち、地べたを這いながら怪物を見た。
怪物は再び、静かにその場に佇むのだ。

瑠音
 「く、こちらも急いでいるというのに!」

私は、ならばと吹雪を放った。
吹雪は怪物を襲うが、怪物は微動だにしない。
だけど、様子がおかしい。
怪物は吹雪を受けても平然としているのだ。

瑠音
 「全く効いていない?」

私は、怪物を見上げるが、やはり怪物は微動だにしないのだ。

瑠音
 「……駄目ね、全く読み取れない」

私はこの怪物の状況を分析しようと試みるが、そもそも動かなかったら石像にしか思えない怪物を分析する事が間違っている。
こうなれば、もう一度近づくしか……。

怪物
 「!!」

瑠音
 (2メートル!?)

怪物が反応した距離、私は咄嗟に後ろに退くと、怪物は大人しくなった。
私は遠間からその結果を分析する。
怪物は取り立ててダメージを受けている様子はない。
それが純粋な耐久力か、それとも何か別の力が働いているのかは不明だ。
だけど、他に山を脱出するルートは見当たらない。
何より、道に配置された怪物……私はその意味を考える。

瑠音
 「挑発ですか」

通れるものなら通ってみろ。
これは混沌からの挑戦状。
つまり混沌は私の存在にも気づいている?

瑠音
 (ふ、構いません……私は私の出来る事をやるまでなのです!)

私は不敵に笑うと、怪物に向き合った。
相変わらず怪物はピクリとも動かない。
だが、絶対に私を通そうとはしないだろう。
構いません! ならば押し通ります!

瑠音
 「はぁぁ! 渦潮!」

私は大量の水をかき集めると、それは大きな渦潮を生み出した。
私はそれを怪物に向かって投げつける!
渦潮は怪物を飲み込み、その場で反時計回りに回転する。
この怪物はこの状況でもなお、微動だにしない。
ある意味で見事ですね!

瑠音
 「ですが!」

私は怪物に駆けた!
怪物は2メートルの間合いに私が入ると、拳を振り上げた!
しかし、その瞬間!

怪物
 「オオオオ!?」

怪物がバランスを崩し、身体を傾かせた!
その瞬間、怪物は渦の勢いに飲み込まれる!
やはり、いくら不動とはいえ渦潮に飲まれた状態で同時に攻撃など出来ないようですね!!

瑠音
 「吹雪!」

私はもう一度吹雪を吹かせた!
吹雪は急激に怪物を冷凍していく。
やがて、それは渦潮を芯から凍らせ、奇妙な渦を巻く氷像をその場に立たせた。

瑠音
 「動けますか?」

怪物
 「オオオオ!」

口もないのに、それは怨嗟の声を上げた。
これでまだ無事なのも驚きですが、動けなければ無害です。

瑠音
 「ですが、念には念を!」

私は水を纏う。
全身をバネのように使い、跳躍すると怪物の頭上を捉えた!

瑠音
 「アクアブレイク!」

そして私は下半身を思いっきり弓のように引き、怪物に叩きつけた!

バッシャァァアン!

下半身に纏った水で打つ一撃は、その衝撃で怪物を粉々に打ち砕いた。
周囲には氷が塊で撒き散らされ、怪物は霧のように霧散した。

瑠音
 「ふぅ、陸上で戦うのは本当に骨が折れます」

私は陸の民であり、海の民である。
かつてはこの身体を呪いもしたが、今では誇らしい身体だ。
茂さんは私を陸と海の両方に祝福されたポケモンと言ってくれた。
それは私とは全く違う解釈で、だけどもそれは私にとって救いとなった。

瑠音
 「さて! では通らせていただきましょう!」

私は再び車椅子に乗ると、怪物のいた場所を通り過ぎた。
目の前に広がるのは鬱蒼と生い茂る樹海だ。
山の麓まで生い茂った木々は、その賑やかとは裏腹にまるで生気を感じない。
まるで呪いの森ね……。

瑠音
 「車椅子で抜けられるかしら?」

私は慎重に道を選び、森の中へと入った。
森の中は驚くほど真っ暗で、私はなんだか深海を思い出してしまう。
深海は太陽の恵みを一切受けない世界だ。
しかも水温は凍てつくほど冷たく、そして物凄い水圧が身体を締め付ける、地獄のような環境だ。
私はこの森がそんな深海に似ていると感じた。
深海は驚くべき程静かで、生物も殆どいない。
並大抵の水ポケモンではここまでは辿り着けない程過酷な世界だ。

瑠音
 (肌を差すような圧迫感……!)

それはプレッシャーのような感覚だ。
それが深海の圧迫感に似て、私を全身から締め付ける。
怪物は倒した、だけどあんなものはお遊びに過ぎない。
そう公言しているようで、私は冷や汗を垂らす。

怪物
 「オオオオ」

複雑な森の中は、車椅子が通るには適さない。
そんな不利な状況の中で、私の周りには再び怪物の群れが現れる。
それは中型の獣、大きな花の怪物、鉱物で出来たような化け物もいる。
その統一感の無い怪物達は、私を取り囲んでいた。
私は車椅子を止め、周囲を警戒した。

瑠音
 「く、まるで試練ですね……!」


私は唇を噛んだ。
怪物の登場頻度がこのまま進んだら、どうなる?
今はまだなんとかなるかもしれない。
だが、このままではジリ貧だ!

獣型の怪物
 「オオオオ!」

怪物は一斉に襲い掛かってきた!
だが、不揃いなのが災いしてか、それはまるで連携もとられていない。

瑠音
 「凍える風!」

私は冷たい息吹を吹くと、怪物達は怯む。
それでも負けずに攻めてきた獣の怪物には私は尾ビレを叩きつけた!

グシャァ!

こう見えても尾ビレの一撃には自信がある。
タフなポケモンでも一発失神させる威力はあり、獣型の怪物は霧散した。

瑠音
 「次は!?」

私は車椅子をその場で旋回させ、後ろから迫っていた人型の怪物を見た。

怪物
 「オオオオ!」

怪物は両手を振り上げた。

瑠音
 「アクアブレイク!」

私は右腕に水を纏わせると、怪物を殴り抜けた!
人形の怪物はカウンターでその一撃を食らうと、吹き飛ばされて霧散する。

瑠音
 「後は!?」

消耗戦だ、私は内心焦っていた。
技にはPPがある。
私はあと何回アクアブレイクを使える?
吹雪は何回使った?
このままでは文字通りいつか悪あがきになってしまうだろう。
私はそれを恐れた。

怪物
 「オオ!」

花の怪物が迫る!
私は身構えた、だがその直後!

ビスビスビス!

瑠音
 「な!?」

突然、花の怪物に無数の鋭利な葉っぱが突き刺さった。
花の怪物は、それを受けて消滅する。
私はその葉っぱカッターの飛んできた先を見た。


 「炎の鞭!」

そこには二人の少女がいた。
掌から炎の鞭を出した少女は私に比べると少し幼く、比較的カジュアルな格好をしたクイタランの少女だった。
そしてその隣には同じく位の年齢に見えるパンプジンの少女。
もしかしてこの子達は!?

パンプジン
 「大丈夫ですか!?」

クイタランの少女は鞭を自在に操ると、その射程を活かして怪物を倒していく。
その隙を縫うようにパンプジンの少女は私の下まで駆け寄った。

クイタラン
 「車椅子のお姉さん、もう大丈夫だからね!」

やがて、周囲から敵はいなくなっていく。
私は改めて二人を見た。



***



瑠音
 「そう、貴方達も」

私を助けてくれた二人は、予想通り茂さんの関係者だった。
クイタランの方は燐という少女。
私の住んでいた世界とは違うけど、中々過酷な世界を生きたようね。
そしてもう一人のパンプジン少女の方は陽光、こちらは医者のようだ。
二人共茂さんとは縁が浅くない関係のようね。


 「まぁ、予想通りって感じだけど、一体茂さん、何人助けてるの?」

瑠音
 「それは分かりませんが、少なくとも、茂さんの行いが私達をここに集めたのでしょう」

私達は全員茂さんを信じてる。
茂さんがこれだけのポケモンを助けたから、私達は力を合わせられるのだ。

瑠音
 「お願いします燐さん、陽光さん。茂さんを助けるため、力を貸してください!」

私はそう言うと、可能な限り頭を下げた。
あと何人いるか分からない。
その全てと力を合わせなければ、茂さんは救うことは出来ない。


 「何言ってるんですか、こっちこそお姉さんの力を貸してください」

陽光
 「私達も同じです、力を合わせましょう!」

二人はそう言うと、私の手を取ってくれた。
良かった、やっぱり同じだ。
だからこそ、力を合わせられる。

瑠音
 (茂さん、必ず助けます!)



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#4 瑠音の決意 完

#5に続く。


KaZuKiNa ( 2020/12/04(金) 21:11 )