突ポ娘外伝






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最終章 理を侵す者編
#2 炎の蟻食とおばけカボチャ

#2




 「……うん?」

私の名前は燐、クイタランのPKMね。
なに? 久しぶり過ぎてPKMって何って?
まー掻い摘んで言えば、人間のような姿をしたポケモンって事よ。
ぶっちゃけ、大人の都合だしポケモンって言っても通用はするし、そもそも私位しかPKMって名乗る奴いないでしょ!?

ん? いい加減本編進めろ?
それもそうね、ていうかこういうキャラは私じゃないし、もう封印するね。


 「消滅したはずが……生きてる?」

私の記憶は最後の最後、倒れたマギアナ、そして光の粒子に変わっていく自分自身の姿だった。
本来ならば、さっさと死ぬべき存在だったクイタランの私が、茂さんに名前を貰えるまでになった。
それだけでもこの上ない幸運であったのに、これは一体?


 「茂さん! ウツロイド様! マギアナ! 誰かいないの!?」

私は何処かの森の中にいた。
森の中は生気がなく、色褪せていた。
だが、風があるのか色褪せた木々の葉は不気味に揺らめいた。


 「日本……じゃ、なさそうね」

ていうか、そもそも此処はどこだ?
私が最後にいた場所は市街地なのに。


 (いや、考えるだけ無駄だよね)

冷静に考えれば、あの世界も自分自身も創作物で、オリジナルじゃない。
言ってみればアバターで、本来ならその物語が終われば、そのアバターも意味がなくなる。
だけど、そんな私がこうやって存続している。


 「……なら、これは終了後の安っぽい命って所なのかしら?」

そう思うと、思わず笑みが溢れた。
私お馴染みの悪運による物じゃない。
私が精一杯足掻いて得た追加の命だ。


 「私は燐……よし!」

私は自分をもう一度鼓舞すると、森の中を歩き出した。
森は足場も不安定で、都会育ちの私にはちょっと苦労するが、それでも歩みは止めない。

森は暗い、だけどそれ以上に不気味だった。
森も、空も、地面さえも色褪せており、まるで生気を感じない。


 (この感じ真逆ね……マギアナの造った世界は逆に虚構を疑う程に精巧に出来ていた)

そう、あの世界から来たからこそ、この世界にはミニチュアの箱庭のような雰囲気を感じるのだ。
私は馬鹿だけど、勘は良いつもり。
この世界は何処か危険な気配がする。


 「すぅ……はぁ……!」

私は足を止めると、口と尻尾で深呼吸をした。
そうすることで私達炎ポケモンは体内の炉心に空気を送る。

チロ、チロチロ。

身体の熱量が上がると、私の炎の舌は蛇のように外に頻繁に出し入れする。
そうしなければ、口内を火傷してしまうせいだ。
原種のクイタランならいざ知らず、PKMの私は半端に人間なのだ。


 「炎の鞭!」

私は右掌から炎を生成すると、粘性の強い炎が鞭のように延びた。
そして私はその鞭をしならせながら、周囲を警戒した。


 「誰かいるの!?」

私は先の見えない森で叫んだ。
すると、森の至るところでざわつきが始まった。
ガサガサと、何かが騒ぎ立てる。


 「……ち!」

私は業を煮やして、鞭を振るった。
炎の鞭は一気に10メートル以上延びると、雑木林を打ち払う。


 「いない? 動いた気配はしないのに……」

得体の知れない感覚だ。
私は鞭を手元に引き寄せると、再び気配を探した。

ガサガサ。


 「後ろ!」

私は気配を後ろに感じると、鞭を素早く振り払った!
そこにいたのは!


 「わお!? どうして中々良い鞭捌き……ドラキュラ伯爵でも狩る気かな?」

私の鞭が捉えたのは、顔の見えない男だった。
顔が能面で真っ黒で、体格は男のよう。
身長は茂さんより下だろうか。
奇妙な青い服を着ていた。

その奇妙な男は腕に炎の鞭を巻きつけると、軽快に笑っていた。


 「なんでドラキュラを狩るのに鞭なの? ていうか貴方誰!?」


 「ん? 世代じゃない? あ、H○LLSING派?」


 「……」


 「冗談が通じないなぁ〜……やれやれ」

男はそう言うと首を窄める。
私は右掌に力を込める。
熱量を高め、いつでも攻撃出来るようにした。
しかし表情の無い男は、まるでヘラヘラ笑うような仕草で戯ける。
馬鹿にされているの? 私はただムッとした。


 「フーム、まぁ埒が明かないし、それじゃ自己紹介といこうか」

男はそう言うと、鞭がスルリと男から落ちた。
男の手は火傷すらしていない。
私は驚愕すると、男は事も無げにまとわりついた埃でも払うように、手を払った。


 「!? 一体何が……!?」


 「ふふ、まぁちょっとしたトリックだよ。ていうか、そんなのどうでもいい。私は混沌、まぁ君に分かりやすく言えば、マギアナの望みを叶えた者と言えば分かるかな?」


 「な!? おま、えが!?」

私は息が上手くできなかった。
口からブスブスと黒煙が立ち上がり、内燃機関が淀む。
それ位衝撃的だった。


 「そ、それじゃあ、お前が……お前がマギアナをあんな不幸にしたのか!?」

混沌
 「おいおい! それはあんまりだろう? あれはマギアナが望んだ世界! ほら、君だってマギアナが望まなければ生まれなかったんだからさ!」

私は憎悪でその男を睨んだ。
なら、こいつは私の生みの親だと言うのか?
確かに私のような本来モブとでも言うべきポケモンが、こうしているのは、こいつのお陰かもしれない。
だが! 誰が生めと頼んだ!?
私はあの糞みたいな世界の性で保護責任者も失った!
仲の良いウォーグルやスリープも失った!
何度も死ぬ思いをして、何度も地獄を味わった!
生きることが不幸で、この世は地獄にしか思えなかった!
でも、私が怒っているのはそれだけじゃない……。


 「じゃあ、お前はウツロイド様や茂さんをあれだけ不幸にしたって事か! それを私の前で言えるのか!?」

混沌
 「ああ、それは勿論悪いとは思っている、だが実験でね……まぁ誰でも良かったんだが、君を求めていたんだ!」


 「なんですって?」

実験? 求めていた?
私は頭が混乱していた、何れにせよ私の怒りはどうしようもない。こいつの言葉次第では、多分……プッツンするわね。

混沌
 「常葉茂、彼は特異点だ、彼は存在するだけで世界に影響を与える……その結果、分かるかな?」


 「ヒロインが変わった?」

マギアナが言っていた。
私は取るに足らない有象無象だと。
そんな有象無象、マギアナがただ世界を作る上で配置しただけの、物語には何も関わらないモブが何故かマギアナに成り代わった。
……それが実験?

混沌
 「ブハハハ! 意外に察しが良いな! そう、君は常葉茂に選ばれたヒロインなのさ! だからもっと喜んだらどうだ? マギアナが嫉妬に狂って、常葉茂から家族を引き離し生まれた世界で、マギアナが得たくても得れなかった地位を得たんだぞ!?」


 「……そう」

私は顔を俯かせた。
最早炉の火は消えかけている。
私は馬鹿だ、もっと利口だったら、ウツロイド様みたいになれるだろうか、なんていつも考えた。
だけど私がそんな直ぐに変われる訳もなく、結局は世界を呪うばかりで自分を変えようなんて全然考えなかった……。

でも……! それでも私は茂さんに出会ってしまった。
私は茂さんの顔を浮かべると、再びを吸気を行った。


 「そうか……なら、お前は茂さんの敵だな!?」

私は顔を激情で染めると、再び右手に炎の鞭を生成させた。
私は右手に最大の出力を込めると、炎の鞭は強く輝き、私はそれを全力で混沌に振るう!

混沌
 「なんでそうなる!?」

混沌は咄嗟に避けるが、私は手首を操作して炎の鞭を生き物のように操った。


 「貴様がした事はただいたずらに皆を傷付けた!」

混沌
 「ええい! お前は馬鹿なのか!? だから、お前をこうやって崩壊する世界から助けたのは私なんだよ! 勿論常葉茂もだぞ!? お前が望むなら常葉茂にだって会わせてやる!」


 「そうか! ならお前をしばき倒して、ちょっとキツめのぐるぐる巻きにしてから、ゆっくり案内してもらう!」

私はこの男を信用しない。
結局は、こいつがやったことは無関係の多くの人やPKMを不幸にしただけだ!
マギアナが泣いていたのも! ウツロイド様がご主人を愛せないのも! 茂さんがあれだけ心を苦しめたのも!


 「全部! 全部貴様の性だろうが!」

私は炎の鞭を蛇のように操り、何処までも混沌を追う。
混沌は必死に逃げ惑っているように見えた。
だが、私は激情をコントロールしながら、ただ男に殺意を向けた。
こいつはここで仕留めなければならない、こいつは正真正銘混沌だ、大勢を不幸にする!

混沌
 「ふん! やはり馬鹿のようだ、ならば相応の報いを受けるのだな!」


 「なにを!?」

混沌はそう言うと、突然闇の中へと消えた。
炎の鞭は混沌を追尾するが、最後までその姿を捉える事は出来なかった。
気がつけば、私は一人森の中にいるのだった。


 「……報いですって? それは貴様が受けるべきだ。私は戦う、それがマギアナに対する追悼になるはずだから」

ガサガサ。

突然森の中がざわめいた。
私は炎の鞭を収束させると、それを円陣を描くように配置する。
四方を囲った炎の結界、私はそのなにかを待ち構える。
そして森の茂みから姿を現したのは、黒い怪物だった。


 「これは!?」

それは混沌と同じ色をしている。
光すら通さない闇の体、それは不気味な人型の怪物で、それは無数に私を囲んでいた。
その怪物は私に敵意を持っているのか、ノシノシと私に迫る。


 「はぁ!」

私は鞭を振るう、そうする事で鞭は私の周りを旋回するように、円の外側に振るわれる。
炎の鞭は怪物に触れると、ジュウと焼ける音と共にその身体を貫通し、霧散するように消滅した。
怪物の第一陣は一払いで一掃されたのだ。


 「……倒せた?」

私は自分の手の感触を疑った。
混沌は何故か炎の鞭がすり抜けた。
あの時の感触は今でも謎だ。
そしてアレに似たような怪物には通用した。
これはどういうこと?


 「……考えても仕方がないか、私頭悪いんだし」

考えるのはだいたいウツロイド様や茂さんの仕事だった。
あ〜、本当に真面目に勉強していたらもう少しましだったのかな?
オリジナルも同じなんだろうか? 本来なら茂さんとも出会わない、私には分からないけど戦争も起こらない平和な世界の私はどうなのか。
もしオリジナルに私が何か言えるなら、学校に通えと言いたい。
少なくとも私のように後悔したくないなら。

ガサガサ。


 「気配!?」

私は何かの気配を感じると、その方向に炎の鞭を振るった!


 「きゃあ!?」


 「え?」

森の奥から出てきたのはPKMで怪物ではなかった。
ただそのその少女はピンクの髪が顔の半分を隠し、真っ直ぐと腰の辺りまで伸びており、その姿は真っ黒な魔女のようなゴシック調の洋服に身を包んでいた。
しかし、それだけでは種族は特定できない、彼女最大の特徴は。


 「コラー! アブネージャネーカ、ホノオノネーチャン!?」


 「 キエエエエアアアアア!? カボチャが喋ったー!?」

その少女の腰にはてとても重そうなおばけカボチャがあった。
それはパンプジンのPKMだ!
だけど、なにかおかしい! 片言でカボチャが喋ったように見えたんだけど!?

パンプジン娘
 「ご、ごめんなさいっ! か、カボが暴言を!」


 「え、えーと……貴方は?」

その少女はとてもオドオドしており、とても暗い印象を受ける。
文字通り魔女的というか、私はこのタイプの知り合いはいない。
だから対応に困ってしまった。

カボ
 「トリアエズサー、ソノブッソウナムチハシマッテクレネェカ、ホノオノネーチャン?」


 「あ、ご、御免!」

私は慌てて、炎を消した。
もう敵はいなさそうだ、私は炉の火を徐々に弱める。


 「私は燐、クイタランよ」

パンプジン娘
 「あ、わ、私は陽光って言います、あの、その、パンプジンです」

カボ
 「カボダゼ、ホノオノネーチャンモマキコマレタノカ?」


 「炎の姉ちゃん……突っ込むべきか迷うけど、まぁいいや。それより巻き込まれたって?」

陽光
 「わ、私、実は薬師なん、ですけど、と、突然この世界に召喚されたんです」

召喚された!?
それは確かに私に近いかもしれないわね。
最も私は本来なら消滅していた筈だし、彼女とは何か雰囲気が違うんだけど。


 「混沌には出会った?」

私は敢えてその名前を出すと、陽光は驚いたように口に手を当てた。
むぅ、行動の一々になんだか育ちの良さを感じるわね。

陽光
 「あ、貴方もあの男に会ったのですか!?」


 「ということは、貴方もなのね」

混沌は何者だ?
この子も私と同じような理由があって、この世界に呼ばれたのか?
ならば、私達が出会ったのは意味があると思いたい。


 「ところで、貴方……陽光だっけ、貴方戦える?」

陽光
 「え?」

私は息を吸い込み、炉に火を入れる。
炉の炎は内圧を上げて、全身の温度を上げていく。
それは口から溢れる白い煙に表れ、私は熱量をコントロールした。
ある足音は徐々にそれが近づいているのを私達に知らせた。

ズシィン! ズシィン!


 「来るわよ!?」

私は右手に熱量を集めると炎の鞭を生成した。

怪物
 「オオオオオオ!」

私達の前に現れたのは怪物だ。
ただし、それは先程見たのとは随分と規格外な存在だ。

陽光
 「お、大きい!?」

そう、4メートルはある!
そんな巨人とでも言うべき闇のような怪物は地鳴りを上げて、私達に迫ってきた!


 「はぁ!」

私は炎の鞭を全力で振るった!

バシュウ!

怪物
 「オオオオ!」

炎の鞭は相手の肩辺りに被弾するが、しかしその場所を焦がした程度で、怪物は止まらない!
ちぃ!? 大きいだけあって耐久力も高いか!?

陽光
 「は、はっぱカッター!」

陽光は驚いた様子だが、鋭いはっぱカッターを放つ。
はっぱカッターは怪物の全身に突き刺さるが、しかし怪物は止まらなかった!

怪物
 「オオオオ!」


 「走るわよ!」

陽光
 「ど、何処に!?」


 「兎に角逃げるの!」

私はそう言うと、怪物から逃げた。
陽光は戸惑いながらも従い走る。
怪物は木々を蹴散らしながら、狭い森の中で私達を追ってきた。

陽光
 「ど、どうするんです!? 追ってきますよ!?」


 「うー! 私達じゃ攻撃力が足りない!」

私は走りながら考えた。
考える事は苦手だけど、ここに頼れる茂さんやウツロイド様はいない。
だからこそ、あの二人ならどう考えるか必死に考えた。


 「うー!? 茂お兄さんならどうする!?」

しかし、その時だ。
隣を走る陽光はキョトンとした。

陽光
 「茂さん? 燐さん、茂お兄さんを知っているんですか!?」


 「え!? 茂お兄さん!?」

今度は私が驚く番だった。
この子、茂さんを知ってるの!?
いや、茂さんなら何が起きていても不思議じゃない!
だってあの人は私みたいな屑でも拾い上げてくれたヒーローだもん!


 「陽光! まだ事情は分からないけど、力を貸して!」

陽光
 「燐さん!?」


 「悔しいけど私は馬鹿だ! でも陽光は私よりよっぽど利口そう! 貴方なら! 茂さんならどうする!?」

陽光
 「茂お兄さんなら……!」

陽光は走りながら俯いた。
その半分覗いた顔からは、その目に輝きを秘めていた。

陽光
 「私を信じるんだ、茂お兄さんの信じる私を……!」


 「!? それって!?」

クイタラン……お前を信じろ、お前の信じるお前を信じろ!
それは茂さんの言葉だった。
彼女もまた、茂さんに大きく影響された娘のようね。

陽光
 「燐さん! 挟み撃ちをしましょう!」


 「挟み撃ち!?」

陽光
 「敵はどの道一体です! それにパワーはあるけど小回りは効いていない! 私は左に行きます!」


 「敵が追ってきたら、逆が追撃するのね!?」

私達は頷いた。
そうだ、私はドジで駄目なクイタランだった。
でも茂さんは最後まで私の可能性を信じてくれたから私はここまで強くなれた。
こんな情けない私だけど、茂さんは私を奇跡を呼ぶ女だと言ってくれた。
こんな私が、こんなマギアナにも劣るような雑魚に苦戦してどうする!?


陽光
 「散開!」

陽光の合図で私はそれぞれ、逆方向に走った。
怪物は能面な表情をキョロキョロさせると、陽光に向かって走り出す。
そう、アンタはああ言う娘が好みって訳ね!?


 「上等よ! 私が世界で一番強くて可愛い、奇跡の逆転ファイターだって教えてやるわ!!」

私は強気に自分を鼓舞すると、Uターンして怪物を追撃する!
怪物は陽光に夢中だ。
私はそんな怪物に向かって炎の鞭を振るう!
ただし、今度は足元にだ!


 「倒れろー!!」

怪物
 「オオオオ!?」

私は炎の鞭を怪物の右足に引っ掛けると、それを全力で引っ張った!
すると怪物は体勢を崩し、前のめりに倒れた。

陽光
 「ムゲンダイナや、ティナさんに比べればパワーもスピードも!」

陽光は怪物が倒れたのを見ると、両手を上げる。
すると、彼女の掌にはクルクルと無数の葉っぱが舞った。

陽光
 「いっけぇぇぇ!」

陽光はそんな無数の葉っぱを一纏めにすると、分厚く、そして鋭いはっぱカッターを作り出した!
そして号令と共に放たれる一撃は怪物をズタズタにする!

怪物
 「オオオオ!?」

しかしまだだ!
怪物は右手を陽光に伸ばした!
まさか道連れにする気!?


 「させるかぁぁぁ!!」

私は体内の炉心を爆発的に燃え上がらせると、それを口へと運んだ。
私はその凄まじく熱い炎を口から吐き出すと、怪物に着弾すると大の字に広がり怪物を炎上させた。


 「はぁ、はぁ! 大文字、土壇場で出来ちゃった」

私は熱量を一気に放出してしまい、慣れない倦怠感を覚えてしまう。
だが、お陰で怪物は燃え尽きるように消滅した。
その場には足元を焦がす炎だけが残っていた。

陽光
 「や、やりましたね……!」


 「え、ええ……けど疲れたぁ」

私は思わず、その場でへたり込んでしまった。
初めて使った技はまだコントロールが上手くいかず、過剰のエネルギーを使ってしまう。
炎タイプだからって言って、炉の熱は無限じゃないからね。
私は元々そこまで高温を放つのが他の炎ポケモンより苦手だから、その分長時間炎の鞭を持続させる力を身に着けた。
大文字は言ってみれば切り札ね、連発は私には出来そうにないわ。

陽光
 「はぁ、ぞれにしてもさっきの技凄かったです」

陽光は私の目の前に恭しく柔らかに腰掛けると、そう言った。
むう、そういう座り方、やっぱりこの娘育ちの良さが滲み出てるわねぇ。


 「そういう陽光だって、あのはっぱカッター凄かったわよ」

ポケモンも技を磨けば、強力になる。
私が努力の末、あの炎の鞭を習得したように、はっぱカッターも極めればああなるのか。

陽光
 「ふふ♪ やれば出来るものですね」


 「うう、笑顔が美しい! これが正真正銘の美少女か!?」

陽光の笑顔はそれは素敵だった。
悔しいけど、化粧もまるで出来ない私とは違う。
ていうか、ウツロイド様はナイスビューティだし、マギアナは客観的に見れば超絶美少女。
私はどこにでもいる、むしろ野暮ったいクイタランよ?
陽光とは格の違いを感じてしまう。

陽光
 「……そ、そういえば聞けませんでしたけど、燐さん、茂お兄さんとはどういう関係でしょうか?」


 「え? えーと……パパ、かな?」

私は顔を真っ赤にすると、頬を掻きながらそう言った。
うわぁ!? 私何言ってんの!?
確かに家族のように短い間だけど過ごしたよ!?
でも、こんなの恥ずかしいすぎー!?

陽光
 「ぱ、パパ!? お、お父さんですか!?」

しかし陽光は、想定外に顔を真っ赤にして目をパチクリさせた。


 「あ! 言っておくけど、援助交際じゃないから! 断じてパパ活とかじゃないから!?」

私は咄嗟にそんな事を口走ってしまった。
て、だーかーらー! そんないらん事を言うと更に誤解を与えるでしょーが!?


陽光
 「はい? えんじょこーさい? ぱぱかつ?」


 (あるぇー? 意味分かってらっしゃらない? そこまでピュアなんですか?)

どうやら私だけが恥を掻いたらしい。
うー、だから私馬鹿にされるんだよねー。
口は災いの元って言うのに、よく考えもせず喋ってさ?
もう、この雰囲気どうしてくれるわけ?
そっとしておいてくれるの?
明日に繋がる今日位?


 「はぁ……そのね? 訳あって同居してたの、茂さんは私に色んな事を教えてくれたわ」

私は真面目な顔をすると、その思い出の一部を彼女に語った。
彼女は存外真面目に聞いてくれて、彼女の瞳は私と同じように思えた。

陽光
 「私も……自分を見失いそうになったけど、何度も茂お兄さんに救われました、きっと私達似た者同士ですね?」


 「ふふ、そうかもね」

おそらく今の彼女を支えているのも茂さんの想いなのだろう。
私がこうなったのも同じだ。
私は今の自分を信じられる、昔の私はそれが出来なかった。
彼女の過去を詮索するのは野暮でしょうね。
私はそう思うと立ち上がる。


 「とりあえず森を出ましょう」

陽光
 「わ、わかりました。で、でも……何処へ行くんですか?」


 「とりあえずどこでもいい、森の中は視界が悪くて危険だわ」

私はそう言うと歩き出した。
陽光は森に慣れているのか、軽快に進むが、私は時々木の根っこに足を取られたり、悪戦苦闘だ。


 (混沌、私が望めば茂さんに会えるって言ってたっけ)

私はもう一度あの巫山戯た男、混沌について考えた。
混沌は少なくとも、私を実験の結果だと言った。
だがそれはぶっちゃけ誰でもいいとも言っていた。
つまり私でも、ウォーグルでも、スリープでも、なんならロコンちゃんでも良かった訳だ。
混沌の実験は茂さんが世界に与える影響の確認のようだった。
つまりあの世界はマギアナの夢、それ故にマギアナの思うがままに世界は動かされ、英雄クローズが、魔王マギアナを討つという脚本を描いた。
それが彼女の好む英雄叙事詩なのだろう。
だが、そこにイレギュラーが入り込めば、脚本はどうなる?
茂さんはマギアナの脚本を勝手に変えた。
主人公はマギアナから茂さんに変わり、ヒロインはクローズから私になった。
私は意図せずして、気がつけば物語のヒロインになっていたのだ。

これが混沌の実験。
おそらく陽光も似たような実験の利用されたのだろう。


 (でも、私でもこれだけは分かった、混沌の目的は茂さんだ、なら私は茂さんを助けるために力を使う! それが拾った命の最後の使い道だ!)



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#2 炎の蟻食とおばけカボチャ 完

#3に続く。


KaZuKiNa ( 2020/11/14(土) 23:02 )