突ポ娘外伝






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第五章 おばけカボチャと無垢なる竜
#9 特異点とは

#9



ナットレイ
「うぅ……まだキツイ」

夜、ギラティナと戦った俺達は、傷を癒やすためその日はドラゴンの捜索を断念し、夜を越すためキャンプの用意をしていた。


 「陽光、傷は大丈夫か?」

陽光
 「あ、は、はい。傷薬は塗りましたし、それほど大きなダメージではないですから」

とはいえ、ギラティナのドラゴンクローを受けたのだ。
その後痛み分けでダメージを分配したとはいえ、やはり傷を負った事に違いない。

ティナ
 「全く皆身体が弱いわねぇ〜」

シェイミ
 「なんで一番ダメージ貰ったギラティナさんが元気なんでしゅか……」

ティナ
 「鍛え方が違うのよ、鍛え方が!」

そう言ってあっけらかんと笑う。
なんだか昔より明るくなった気がするな。
いや、もしかしたら本来のティナはこういう女性なのかもしれない。


 「さてと、陽光、火起こし頼む!」

俺は木の枝を集め、それを組み立てると陽光を呼ぶ。

陽光
 「あ、はい! お任せください! マジカルフレイム!」

陽光はマジカルフレイムを操ると、綺麗に薪に着火した。
それを見たティナは意外そうに陽光を見た。

ティナ
 「あら、器用な事ね」


 「炎技が使える奴が一人いると助かるよなぁ」

陽光
 「そ、そんな……照れますよ〜」

陽光はそう言うと腰をくねらせた。
陰キャの性か褒められる事にとことん慣れていない陽光はそのまま、焚き火の前に屈み込むと、次々と腰回りのカボチャから色々取り出していく。
それは小型の鉄鍋、調理器具、その他諸々。

ティナ
 「て、ちょっと待って!? 貴方そのカボチャどうなってるの!? 四次元ポケット!?」


 「お前も四次元ポケットみたいな空間持ってるだろ」

陽光が取り出す、明らかに容量オーバーの数々に思わずティナも突っ込むが、もうあのカボチャに関しては何があっても不思議じゃないだけに、俺達は突っ込まない。

ナットレイ
 「まぁ、興味深いけど、カボだしねぇ」

陽光
 「これは収納術ですから!」

だそうだ。
ティナは「むう〜」と一人納得していないようで呟いた。

ティナ
 「そういう役割ってむしろ私の見せ場なのに」

陽光
 「あ、その、それならい、一緒にやりませんか……その、ティナさん?」

ティナ
 「あら? いいの?」

陽光はまだティナにそんなに慣れていない性か、少し言葉が辿々しい。
一方で人懐っこいティナは嬉しそうに陽光の横に座り込む。
うーむ、二人並ぶ同じゴーストタイプの性か、仲の良い姉妹に見えないでもないな!

ティナ
 「ふふーん! なら私も秘蔵の品をお見せしましょう!」

ティナはそうやって息巻くと、暗黒空間を生み出すと、そこに手を入れた。
そして無造作に暗黒空間から手を引っ張り出すと、その手に握られていたのは。

ティナ
 「じゃーん! 鯛ー!」


 「まさかの魚!? しかもビッチビッチしてるし!?」

予想外にもティナが取り出したのは元気な鯛だった。
それも結構大きく肥えた良い鯛である。


 「お前の破れた世界ってどうなってんだ……」

ティナ
 「いやぁ〜、あそこって無駄に広いし? 時間とか空間も捻れてるから、冷蔵庫なくてもなんとかなるのよねぇ〜」

俺はプラチナの破れた世界を思い出すと、改めてあの世界トンデモだったなと痛感する。

ティナ
 「まぁ、フーパ程トンデモじゃないし、あくまで私が持ち込んだ物だけだけどねぇ」

シェイミ
 「それでも充分すごいでしゅ〜」

思わずシェイミも呆れたような声を出す。
まぁティナも充分、伝説のポケモンに相応しい能力だわな。

陽光
 「むぅ? 見たことない魚です……」

ティナ
 「難しく考えなくてもいいんじゃない? パッと捌いて、ガッと焼けばいいんでしょ?」


 「ん? ティナ……お前?」

俺はティナの物言いに何か違和感を覚える。
こいつ……まさかとは思うが。


 「お前、もしかして料理できない?」

ティナ
 「うん! ていうか別に食べなくても特に困らないし!」

ティナはそう言うと大笑いした。
そういや永遠も特に腹が減ったとか言った記憶ないな……。
こいつら伝説のポケモンって殆ど不老不死の存在らしいが、そうなると料理という概念自体必要ないのか。


 「はぁ……陽光、その魚、俺に任せろ」

陽光
 「え? 良いんですか?」


 「鱗が厄介だからな、ただその魚自体は良い魚だ、陽光はそれ以外をやってくれ」

シェイミは勿論のこと、ナットレイも火を扱う事は殆どできない。
唯一陽光だけは家事を大体熟せる器用な娘だが、だからといって彼女に全部ぶん投げる訳にもいかないだろう。

陽光
 「そ、それじゃあ、お言葉に甘えます」


 「ん、包丁あるか?」

ティナ
 「それより便利な物あるよ〜」

俺は陽光に包丁が無いか聞くが、それより先にギラティナは鱗取り用のピーラーを差し出してきた。


 「お前、一体何を蓄えてるんだ?」

ティナ
 「うーん、面白そうと思った物全部?」

俺はなんとなくティナは片付けられない女なんだろうなと思った。
こいつ、自分に必要ないものでもとりあえず買っちゃうタイプ、んで一度も使わず埃を被せているタイプなんだろう。


 「まぁいいや、おっ、流石文明の利器」

シェイミ
 「おお〜、すごい勢いで鱗剥げていくでしゅ〜」

ナットレイ
 「ほお、面白いな」

気が付くと、二人が駆け寄ってくる。
ナットレイの興味は魚なのかピーラーなのか。


 「よし、鱗の方は完了! 陽光、今日のレシピは?」

陽光
 「うーん、それじゃ、お鍋に色々突っ込みましょうか」

そう言うと、陽光は色んな調味料、薬味に現地で取れた食材を混ぜ、最後に水を加える。

ナットレイ
 「あ、いい匂いにしてきた」

シェイミ
 「お腹空いてきたでしゅ……」

気がつけば、シェイミが腹を鳴らしている。
最後に、鯛を切り分け、ちゃんと火が通るまで煮込めば完成だった。



***



ティナ
 「あ〜、美味しかった〜♪」

食後、辺りも暗くなるとそれぞれ携帯寝袋に包まれ就寝していく。
草タイプは起きるのも早いが、眠るのも早い。
だから俺とティナは二人で少し語り合う事にした。


 「お前、普段どんな物食べているんだ?」

ティナ
 「うーん、色々ご馳走されたりしたけど、殆どジャンクフードかなぁ」


 「言葉だけ聞くとダメ人間まっしぐらじゃねぇか」

保美香と出会わなければ、まぁ高確率で俺もそうなってたんだろうなぁ。
ていうか、大して金の掛かる趣味も持っていなかった俺は、それこそコンビニ弁当で毎日過ごしていたからなぁ。
実はティナの事、そんなに馬鹿に出来る立場ではなかったり。
何れにせよティナのエンゲル係数が気になるところだな。

ティナ
 「それにしてもこんな世界で再会しちゃうなんてね……」

ティナはそう言うと、星空を見上げた。
俺も一緒に空を見上げる。
澄んだ空気は少し肌寒く、俺は身を縮ませた。

ティナ
 「ふふ、人肌で暖めてあげようか?」

ティナはそう言うと、距離を詰めてきた。
その白人よりもなお白い身体は全く暖かそうにないが、とりあえず俺は遠慮した。


 「やめい、俺には茜という妻がいるんだ」

茜、その名を聞いたティナは顔を俯かせた。
あ、そう言えばこいつにとって茜は……。

ティナ
 「神々の王……本当に限りある者の幸せを得たんだね」

常葉茜、俺の妻にしてイーブイのPKM。
だがその正体は神々を統率する神々の王という存在だ。
番外とはいえ、ティナにとって茜は王である。
だからこそ複雑なのかもしれない。

ティナ
 「……ねぇ、茂君には、そんなに茜様は大事?」


 「大事だ、子供がもうすぐ産まれるんだよ」

ティナ
 「茜様が?」

俺は頷く。
茜は小さな身体で、今は周りに助けられながら出産の日を待っているのだ。
去年の冬頃、大城の妻、奏さんが、娘の琴音ちゃんを出産した時、茜は凄く羨ましそうにしていたのを覚えている。
少女はいつか母になる……茜にとってはあの時だったのかもしれない。

ティナ
 「……もし、もしもだよ? もう一生茜様とも再会出来なかったとしたら、それって茂君はいつまで茜様を愛せるの?」


 「きっといつまでも……いや、永遠に、か」

ティナはその時悲しい顔をした。
ティナにとって俺の考えは、あまりにも愚かだったのだろうか。

ティナ
 「私はアルセウス様に破れた世界に閉じ込められて数百年、無味乾燥な時代を過ごしたわ、だから分かる、永遠なんて存在しない!」

ティナは珍しく叫んだ。
それは心の悲鳴なのかもしれない。

ティナ
 「私だってお姉ちゃん達の事好きだった! でもあの無意味な時間は私にお姉ちゃん達に酷い事した……!」

ティナは震え、やがて涙を垂らす。
俯く彼女を俺は、優しく横から抱きかかえた。

ティナ
 「お姉ちゃんだけじゃない……娘たちにまで……!」


 「でもな、永遠も里奈……あ、いやアグノムもお前の事責めてなんていなかったぞ?」

ティナ
 「え?」


 「言い忘れていたけど、アグノムな、養子に迎えた。今は常葉里奈って名乗ってる」

ティナの娘、と言ってもこっちも義理らしいがアグノムの里奈は今、小学校に通う、バリバリのJCだった。


 「スマホ……お、まだ電力残ってるな、なら……」

俺は、結構ギリギリの筈のスマホを久しぶりに起動すると、画像ファイルを探した。
やがて目的の一枚を見つけると、それをティナに見せる。

ティナ
 「これ、アグノム!?」

それは小学校に入学した時の写真だった。
写真には俺と茜に挟まれた里奈の姿がある。
それを見たティナは更に涙を溢れさせ、そして口を手で覆った。

ティナ
 「アグノム……貴方、幸せになれたのね……ごめんなさい、お母さん会いに行けなくて」

ティナにとって、あの三姉妹はそれだけ大切な存在であった。
例え本来の目的が神々をも殺しうる生きた爆弾だとしても、愛情を殆ど受けられなかったティナはそれだけあの三姉妹に感情移入してしまったのだろう。
少なくとも姉妹のうち一人、アグノムの里奈の幸せそうな顔は、涙腺を崩壊させるには充分な破壊力だったようだ。


 「……里奈だけでも、一度は顔を出してやってくれ、永遠は里奈の事積極的に面倒見てくれているけど、やっぱりティナの事を一番愛している筈だ」

ティナ
 「……ずるいよね、娘を引っ張り出されたら、断れる訳ないじゃん」

俺はもう一度空を見上げる。
俺の知らない星座たちは、今も変わらず宇宙の果てで輝く。


 「確かに永遠は存在しないのかもしれない、俺の想いもいつか変質してしまうかもしれない……でもな、俺は諦めの悪さなら世界一だぞ?」

ティナ
 「クス、本当にね……だから茜様を救えたんでしょうけど」

茜は俺を救いたい一心で光明の見えない無限地獄を彷徨っていた。
そんな彼女だったからこそ、俺は永遠と共謀して、あの神々の黄昏に挑んだ。
思えば、あの絶望のタイムリープこそが、おれの不屈のルーツなのかもな。

ティナ
 「でも、問題は帰る方法ね」


 「ティナでも無理……か」

ティナは言っていた。
遭難してしまったと。
そう言えば、この話詳しく聞いてなかったな。


 「そもそも何が原因で遭難したんだ?」

ティナ
 「切っ掛けは貴方達がドラゴンと呼ぶ存在だったわ」


 「何っ!?」

俺はまさかの名前に驚愕する。
ドラゴンとギラティナ、無縁ではなかったのか!?

ティナ
 「特異点……、秩序と混沌の勢力、私は混沌の存在を感知して世界を飛び出したの」


 (特異点だと!? ここでもそのワードが出てくるとは……)

ここまで何度も聞いてきた言葉、それは特異点。
俺は特異点と呼ばれる理由を知らない。
だが、ティナなら知っているのか?


 「ティナ、特異点とはなんだ? 何故俺は特異点と呼ばれる?」

ティナは難しい顔をした。
しかし、観念したのか、彼女は語りだす。

ティナ
 「特異点とは、世界の理を乱す者達の総称よ」


 「世界の理を乱す!? それはどういう意味だ!?」

ティナ
 「茂君なら既に半分理解しているんじゃない? 世界は自分にとって都合が良いって」


 「都合が良い……?」

俺は言葉の意味を探した。
だがそれは漠然とし過ぎている。
だがティナはハッキリと言った。

ティナ
 「そもそも、茂君はここまで何度死ぬ思いをしてきた? でも誰かがきっと君を助けたよね?」


 「っ!?」

俺は不意にここまでの旅がフラッシュバックした。
突如帰り道でコマタナ、後のルージュが襲ってきた時、助けてくれたのは謎のシルエットの女性だった。
そしてそのルージュとも、死線を乗り越え、俺は次の世界にたどり着いた。
俺はクローズに助けられ、そしてクローズと共にあの理不尽な世界を生きた……だが、あの世界はマギアナの小さな嫉妬が生み出した世界だった。
そうだ、彼女は言った……。
燐を取るに足らない有象無象と。
そしていつしか本来のヒロインは魔王へと変貌してしまった。
閉鎖世界は俺だけではどうしようもなかった。
恋や轟がいたからこそ、脱出出来た。
海の世界なんて最悪だ、何度も死ぬ思いして、それでも流音がいたから助かった。


 (だけど……まさか?)

俺は、そのまさかに震えた。
何人もの人間、ポケモンが不幸になった。
死んだやつもいっぱい居る。
それらも全部……。


 「俺の……性なのか?」

ティナ
 「君は神々の王、つまり茜様が少しずつ貴方の運命を弄る事で、貴方を死から遠ざけた……でもそれは世界からすれば死ぬべき人間が死なないってこと、これは充分理を犯した行為なの」


 「俺が生き残るためにマギアナも、マナフィも死ななきゃいけないのかよ……!」

俺は誰にも死んでほしくなんてなかった。
それでも世界は理不尽で、俺個人では止めようもない感情が世界を暴虐で覆い尽くした。
でも、それさえも俺が生存するための理不尽な改変なのか?

ティナ
 「茂君、貴方にとっては不幸かもしれない、でも貴方は間違いなく特異点よ、でもそれは結果でしかない」


 「やめてくれ……結果として処理なんて、俺は出来ない……」

俺は俯いた。
揺れる視界は次第に何も捉えられなくなる。
だけどそんな俺をティナは。

ティナ
 「でも、そのお陰で私は貴方に出会えた」

そう言ってティナは俺に身体をより密着させる。
彼女は優しき女性の顔で言った。

ティナ
 「茂君は理を侵す者かも知れない、でもそうでなければ貴方は私と出会えなかった筈よ、きっとここまで色んな人に助けられたでしょ?」


 「……ティナ」

ティナ
 「安心して、私は必ず貴方の力になってみせる」

俺はティナに甘えた。
彼女はそんな情けない俺を優しく包んでくれる。


 「ティナ……俺は」

ティナ
 「茂君、茂君は茂君のしたい事をすればいいの、貴方の力は私達なんだから」

ティナはゆっくりと顔を俺に近づけた。
受け入れた俺はゆっくりと目を瞑り、ティナと口づけをする。

ティナ
 「ん、茂、君……」

ゆっくりと、味わうように俺達は身体を重ねた。
まるでお互いの寂しさを埋め合うように。


 「ん……ティナ、俺は、家族に会いたい、力を貸してくれるか?」

ティナ
 「当然でしょ? そのためにはまずはドラゴンね」

俺達はそっと顔を離すと、この先の事を考えた。


 「この世界に来る前、俺はドラゴンと出会った。彼女は異形の姿で、巨大だったが……それでも苦しんでいる一人の少女だった」

ティナ
 「私はそんなドラゴンの気配を追ってこの世界にたどり着いた」

俺達は空を見上げる。
この世界のどこかにいる筈のドラゴンを見つめるように。

ティナ
 「ドラゴンには特異点の匂い、それも混沌の匂いがする」


 「混沌とは?」

ティナ
 「神々に匹敵する力を持つ特異点の集団よ、その行動倫理は極めて単純、全世界を理不尽な自由に染め上げること」


 「全世界を?」

ティナ
 「馬鹿げているでしょ? だから王やアルセウス様はずっと干渉されないように傍観している」

神々の王と呼ばれる茜が傍観する存在?
もしかしてそれがこの一連の事件と関係するのか?


 「混沌……しかし、それが何故俺を?」

俺は、冷静になるとここまでの旅の情報を全て纏めていく。
最初俺を殺せば願いが叶うと嘯く者がいた。
ルージュはその姿を知らない。
次にマギアナはその小さな嫉妬を叶える力を与えられた。
その者は顔の見えない不気味な男だったという。
中老師は神に会ったという。
実際に神かはともかく、その力は神に相応しかったという。

これはすべて繋がる?
繋がるなら……ここまで全てに一貫した意味がある。
それこそが特異点としての俺?


 「ドラゴンを救う事、それも誰かの望み、なのか?」



***


陽光
 「……っ」

私は寝袋に包まれて、横になっていた。
まだ茂お兄さんとティナさんは起きているみたい。
あの二人はなんだかとても仲が良く、私はそこに入れそうにない。
ただ、二人の喋り声が聞こえると、少しだけ胸がもやもやする。

陽光
 (私……お兄さんの事が好き、でも……お兄さんは私のことどう思ってるかな……?)

考えれば考える程、私はネガティブになっていく。
こんな形では駄目だ、そう思っても、私の悪い予感は止まらない。
もう寝よう、早く寝よう、そう思っても私の意識は落ちなかった。

陽光
 (なんで……茂お兄さんが手の届かない場所に行ってしまう事がこんなに怖いの!?)

それは予感だった。
なんとなく、茂お兄さんと一緒に過ごせる時間はもう少ない。
それは出来れば外れてほしい予感だった。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#9 特異点とは 完

#10に続く。


KaZuKiNa ( 2020/10/16(金) 19:33 )