突ポ娘外伝






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第五章 おばけカボチャと無垢なる竜
#8 死せる神の想い

#8




静かな湖畔に古城があった。
古き造りで、それは既に数百年を経過させて、朽ちた姿だった。
元は水路を巡らせた美しい白亜の城だったのだろうと想起させるが、今や草木が茂り、それを侵食する。

かつて、宮殿が建っていたであろう場所には、今でも堀がそのまま残っていた。
そこに、ある女性が立っていた。
その女性は雄々しくも見え、また儚くも見える。
まるで美しい死体のようなネクロな肌。
腰まで伸びた美しい銀髪は風に揺られ、紅い瞳は虚空を捉える。
ネクロフィリア(死体愛好家)なら、生唾ものの美女は空を見上げて言った。


 「枯れ草や、兵どもが、夢の跡」

それは有名な芭蕉の俳句だった。
芭蕉の俳句? お気づきの方もいるだろう、彼女はこの世界には存在しない奥州藤原氏を偲んで歌われた松尾芭蕉の俳句を詠んだのだ!


 「見つけたぞ! ドラゴン!」

美女の後ろに完全武装した集団がいた。
ドラゴン、という単語に美女はゆっくり後ろを振り返った。
黄金の冠を戴くその姿はまるで死の女王だ。
その威圧感は容易にその集団を竦ませる。

男B
 「お、おい……情報と大きさが違わないか?」

男C
 「いや……どの道見たこともないポケモンだ! 見ろ、あの禍々しい翼!」

男たちは多種族連合か?
最近噂のドラゴン討伐隊という奴だろう。

美女
 「確かに私はドラゴンタイプよ、でもあなた達の言うドラゴンではない」

男B
 「ああ言ってるぜ?」

男A
 「い、言い逃れかもしれないぞ! やつの仲間の可能性だって!」

美女はため息を付いた。
言葉でいくら言い繕っても説得力がないのは明白だ。

美女
 「貴方達、殺しの経験はある?」

美女の突然の質問、しかしそれよりも男たちはある異常現象に目を見開いていた。
美女の右腕が暗黒を称える異空間に吸い込まれ、同時に男の一人が首を絞められ、持ち上げられた。

男B
 「ひ!? な、なんだこれはぁ!?」

美女
 「私はあるわ……あの気分は最悪よ!! 二度と私にあの気分を思い出させるな!!」

美女はそのまま男を投げ飛ばした。
生の感情を剥き出しにして、男たちを睨みつける美女に恐れをなした男たちは武器も捨て、逃げ出した。

再び、古城は静けさを取り戻した。



***




 「さて、ここにドラゴンがいればいいんだけどな」

俺達は魔女の森を抜け、かつて王国の栄えた遺跡群平原にやってきていた。
どこまでも広がるなだらかな平原は丈の短い草花が覆い、時折遺跡がむき出しで放置されている。

ナットレイ
 「ここ、1000年前の戦争の時、最大の激戦地だったと伝えられるね、なんでも今でも当時の遺品が見つかるんだとか」


 「南無阿弥陀、だな」

俺は合掌すると、熱心な仏教徒でもないのに、頭を下げた。

シェイミ
 「人、いないね〜」

ナットレイ
 「まぁ近くに住んでいるポケモンも、この地を災いの地として、忌み嫌っているからねぇ」


 「逆にいうと、ドラゴンからすれば格好の隠れ家って訳か」

いよいよ持って、この長旅も終わりが見えた気がする。
元を辿れば、前の世界からの因縁。
ていうか、向こうは俺のこと覚えているんだろうか?
ドラゴンは色んな所に現れては、不吉の象徴として忌み嫌われている。
そして魔女の森で得た情報は、ドラゴン討伐隊が結成されたという話だ。

シェイミ
 「とりあえず、もう少し空から偵察してみる!」

シェイミは頭の翼を羽ばたかせると、蒼天の空を舞った。
今日は快晴で、頼りにはなるんだが、天候依存が激しいスカイフォルムのシェイミが久々に大活躍だ。

陽光
 「ふふ♪」


 「……」

それにしても、だ。
一番後ろを歩くパンプジンの陽光は不気味な程微笑んでおり、ただ何も言わず最後尾をついてきていた。
俺はたまらず、後ろを振り返り陽光に話しかける。


 「陽光は何か、言いたい事はないのか?」

陽光
 「そ、そんな……私はお兄さんに従うだけですから♪」

陰キャの陽光は、そう言うと頬を赤らめて顔の前で指を絡ませ、モジモジした。
ああ、これ全力で甘えたいってアピールだわ。
だが、あからさまにそれを嫌ったのはナットレイだった。

ナットレイ
 「あ〜、なんか魔女の森の一件から、茂君とパンプジン、近すぎない? もう、何かに付けてイチャイチャと!」

シェイミ
 「そーだよー! パンプジンちゃんばっかりずるーい! あたしもお兄とイチャイチャしたーい!!」

シェイミはそう言うと急降下ダイブめいて、俺の背中に抱きついてきた。


 「ぐお!?」

シェイミ
 「えへへ〜♪ お兄の背中大っきい〜」

陽光
 「う、うう〜、わ、私だって!」

今度は陽光だ、陽光は俺の右腕に抱きつくと思いっきり胸で挟み込む。


 「ぐは!? お前ら、少しは自重しろ!!」

ナットレイ
 「ここまで風紀が乱れるなんてね……」

ナットレイは頭を抱えた。
冗談でもなく、パーティ崩壊の危機だった。

シェイミ
 「大体パンプジンちゃんだけずるーい! あたしも名前欲ーしーいー!」


 「シェイミまで……」

ナットレイ
 「むぅ……!」

そして口にはしないが、頬を膨らませているナットレイもいた。
どうやらこの二人、俺が依怙贔屓したと思っているらしい。
そりゃまぁ、その場の空気とかもあって、俺も早とちりしたなとは思うが、パンプジンに名前を与えた結果、ここまでデレデレになるなんて想定外だ。
いや、名前の魔力の強大さは散々見てきたんだが、それにしても人は変わる時に変わるものだ。


 「だーもう! とりあえずテメェら、離れろー!」

シェイミ
 「わっ!?」

陽光
 「キャッ!?」

俺は無理矢理引き剥がすと、近くにあった岩の上に座り、彼女たちに言う。


 「そもそも、俺は結婚してる訳で! その一線は超えられない訳!」

陽光
 「奥さん、ですか……」

シェイミ
 「うー、甘えたいだけなのに」

それも限度があるだろう、という話なのだが。

ナットレイ
 「……まぁ、なんだ? とりあえずお昼ごはんにしないかな?」


 「……はぁ」

俺は改めて、このパーティ大丈夫かと考える。
思ったよりも絶妙なバランスの上で、パーティは成立してたんだな。
その調和を崩したのが、よりにもよって俺な訳で、強く責任は感じていた。


 (そういえば、最後の仲間が、ここにいるって言ってたな)

俺は空を見上げた。
積乱雲がゆっくりと流れていき、喧騒が嘘のようだ。
こんな地に、俺達の仲間になってくれる奴がいるらしい。
そしてその仲間なくして俺達はこの先戦っていけないという。


 (戦う……誰と?)

それはドラゴンか? それとも討伐隊?
いや、多分不条理全てと。
俺たちの目的はドラゴンを仕留めることではない。
ドラゴンから血清を貰い、それから薬を造ることだ。
だが陽光達には一言も言っていない、俺だけの目的もある。


 (絶対に、お前を救う!)



***



昼飯の後、再び俺達は歩き出した。
遺跡群はとても広く、俺達は虱潰しに探していく。


 「遠くに城っぽいのが見えるな」

ナットレイ
 「旧首都だそうだよ、白亜で出来たかなりお金を掛けたお城だったそうだよ」


 「ふーん、しかしそれも祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、か」

ナットレイ
 「なにそれ?」


 「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す、驕れる人も久しからず、ただ春の夢の如し、猛き者もついには滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ……」


 「だ、誰だ!? 平家物語朗読してるやつ!?」

陽光
 「平家物語?」

陽光やナットレイは当然ピンと来ないだろう。
だがこれは日本の詩だぞ!?
俺はなぜ異世界で、日本の詩を歌えるのか、周囲を探るが声の主はいない。


 「クスクス、あまりにもこの地の事を思えば、平家物語がピッタリでね?」

それは突然だった。
眼の前に暗黒空間が広がると、美しい女性が暗黒空間からせり出してきた。
俺はその姿に驚愕する。


 「な!? ギラ、ティナ!?」

それはギラティナだった。
神々の黄昏という計画の主犯人物で、茜を追い込み計画を見事成就させた後、彼女は俺の前から姿を消した。
ギラティナは軽く、眼の前に着地すると、口元に手を当て、微笑む。

ギラティナ
 「クスクス、久しぶりね?」

ナットレイ
 「知り合い……なのかい?」

ナットレイは態勢を低くして、いつでも攻撃出来る態勢になっていた。
いや、シェイミでさえ緊張したまま身構えている。


 「いや、大丈夫だ、ギラティナはそんなに悪いやつじゃない」

ギラティナ
 「嬉しいなぁ、涙が出ちゃいそうだよ」

ギラティナはあくまで戯けている。
それは敵意なんて欠片もない姿だ。
ただその体から放たれるプレッシャーは、ナットレイたちを身構えさせるには充分だった。

ギラティナ
 「もう、そんなに警戒されたら、お姉さん、本当に泣いちゃうよ?」

カボ
 「ブリッコカヨ……ネーワ」

ギラティナ
 「ちょ!? ぶりっ子って!? 貴方ねぇ!?」

陽光
 「ヒィ!? わ、私じゃない私じゃない!?」

いや、お前だろう。
久しぶりにカボが表出したが、ある意味でカボの腹黒さも、陽光の一側面である。
シェイミも二重人格者だが、こっちは両人格が良い子だから、特に問題もないが、陽光の場合陰キャと腹黒の二重人格だからなぁ。


 (カボはあくまで、陽光の主人格の保護のために、生み出された人格だと思われる、おかげでここ最近は減ってたが……)

だからって消える訳じゃないんだな。
カボの本来の意味を考えると、カボが出てこないのは陽光の幸せに繋がると思っている。
陽光はもう被害者である必要は無いはずだから。

ギラティナ
 「む〜、どうして私がこんなに虐められないといけないのよ〜」

そう言うとギラティナは目元を手で覆い、シクシクと嘘泣きする。
こいつはこいつで、神経図太い癖に、よくまぁ可愛い子ぶれるな。


 「嘘泣きは止めろ、それと陽光もあんまりギラティナを虐めるな」

陽光
 「は、はぅぅ……」

ギラティナ
 「ウフフ♪ バレちゃってたかー」

ギラティナはそう言うと俺の腕に抱きついてきた。

ギラティナ
 「それにしても、茂君どうして、この世界にいるの?」


 「あ〜、それなぁ……」

俺はどう説明したものか、困ってしまう。
正直に言った所で荒唐無稽な訳で、信用して貰えるか怪しい。
とりあえずギラティナは無言で引き剥がすと、説明出来るレベルで説明する。


 「なんか、変な思惑に巻き込まれたっぽい!」

ギラティナ
 「ぽいのか〜」

流石にギラティナも呆れてしまった……。
ていうか、もう説明出来ん領域まで来ちまったんだよ!

ギラティナ
 「……まぁこれだけは分かった。茂君……災いの芽だね」


 「グフッ!? そう言われると反論できない……」

そうだよな……ていうか俺、茜と出会って以来、普通じゃない生き方を余儀なくされている気がする。
俺自身どこかでそれに納得していたが、冷静に考えればそりゃおかしいよな。


 「ギラティナはどうしてここに?」

ギラティナ
 「……言ってみれば遭難者、ね」

ナットレイ
 「遭難?」

シェイミ
 「それって、どういう?」

ギラティナ
 「帰れなくなっちゃったの♪ テヘ♪」

ギラティナはそう言うと茶目っ気全開でウィンクした。
帰れなくなったったって……頻繁に空間に穴開けて出たり入ったりするやつがか?

ギラティナ
 「まぁ、神の番外って言っても、そんな便利な物じゃないってことね!」

しかし……ギラティナ本人はあっけらかんとしており、特に困った様子はない。
帰る事に未練がない……と言うことか。


 (俺は帰りたい……愛する妻も、もうすぐ産まれるはずの子供も見ずに諦められるか!)

ギラティナ
 「で、逆聞くけど茂君達どうしてここに?」


 「ドラゴンに会うためだ……」

ドラゴン、その言葉に意外な顔をしたのはギラティナだ。
そういえばギラティナもドラゴンだ、なぜこの過去の地へと赴いた?

ギラティナ
 「それは……ドラゴン討伐隊に加わるため?」

陽光
 「ち、違いますっ! 私達の目的は……」

シェイミ
 「アタシの仲間を治療するのに、ドラゴンの血清がいるの……」

シェイミは仲間の事を思うと、シュンとしてしまった。
あれから何日過ぎたのか、仲間たちは無事なのか。
今もシェイミの心は苦しいんだろう。
それを聞いたギラティナは俺を見て、ため息を吐いた。

ギラティナ
 「茂君、相変わらずお人好しね」


 「自覚しているが、後悔はしていない」

ギラティナ
 「もう! そんなこと言っていると、いつか悪い人に騙されちゃうわよ!?」

その悪い人に騙された女が言うか……。
兎も角俺たちの目的はドラゴンの討伐ではない。
俺自身はドラゴンを保護する事も重要だと思っている。
しかしその考えを読まれたのか、ギラティナは一旦息を吐くと。

ギラティナ
 「無謀ね、やめておきなさい」

ナットレイ
 「ッ!? それは、ドラゴンがそれだけ強大だから?」

ギラティナ
 「ハッキリ線引するけれど、私は茂君以外がどうなろうと、別に関係ない。でも茂君が割に合わない事に命を掛けるのなら、私は全力で、阻止する!」

ギラティナはそう吐いて捨てると、プレッシャーを放った!
俺達はギラティナのプレッシャーに気圧され、後ろに下がってしまう。

シェイミ
 「ど、どうして! ギラティナにお兄を止める理由なんて!」

ギラティナ
 「無いと言いたい訳? それこそ勝手な話じゃない、私は私個人の意思で茂君を護りたいだけ! 要は私のエゴよ!」


 「っ……! ギラティナ……」

ギラティナ
 「どの道、その戦力ではあの子には絶対に勝てない……ならば無用な命を散らす位なら、私が引導を渡してあげるわ!」

ナットレイ
 「……やるというなら、容赦はしない!」

ナットレイは鉄球を振り回した!
ギラティナは面白くなさそうにソレを眺める。

シェイミ
 「くっ!? 仲間は見捨てられないっ!」

シェイミも飛び上がると、風を集める。
後は陽光だが……。

陽光
 「……っ」


 「陽光……?」

陽光だけが踏みとどまった。
胸元に手を当て、難しそうな顔で何かを考えている。

陽光
 「ギラティナの意見……私、分かります、茂お兄さんが傷つく姿を見たら、きっといても立ってもいられない」


 「陽光……」

陽光は掌を握り込んだ。
それはとても苦しそうな顔だった。

陽光
 「茂お兄さん、私は今も先生でしょうか?」


 「俺は……そう思ってる」

陽光は技術も心も医者だと言える。
その肯定を貰った彼女は、ゆっくりと頷くと、震えた姿で前に出る。

陽光
 「先生が、迷っちゃだめですよね、私には患者がいるんです、から」

陽光を動かしたのは医者の矜持か?
きっと彼女も患者と俺を天秤に掛けたんだ。
それでも医者である事を彼女は選んだ。
だが、その背中は怖いくらい小さかった。

ギラティナ
 「先手をあげるわ」

ギラティナは敵を見定めると、無造作にそう言った。
すかさず反応したのはナットレイだった。
ナットレイは鉄球を遠心力で振り回すと、大きく振りかぶってギラティナに振り下ろす!

ナットレイ
 「はぁ!!」

ギラティナ
 「単純な物理攻撃ね」

ガキィン!

ギラティナは漆黒の翼でそれを受け止めると、ナットレイの鉄球は上に弾かれた。

ナットレイ
 「ぐう!?」


 (ち! 家族をあそこまで追い詰めた実力は今も顕在か!)

ギラティナはその圧倒的な強さでナットレイの攻撃を弾くと、続いて上を見た。
シェイミは風を集めると、一陣の刃としてソレを放つ!

シェイミ
 「エアスラッシュ!」

ギラティナ
 「ふん!」

ギラティナはシェイミのエアスラッシュを、全身で弾いた!

シェイミ
 「嘘!? 直撃なのに!?」

ギラティナ
 「私の耐久力をそんじょそこらと一緒にされたら、迷惑ね」

呆れるほどのタフさ、それがギラティナの最大の強みでもある。
二人の攻撃をあえて受けたギラティナは遂に反撃を開始する!

ギラティナ
 「さぁ! 華麗に踊れ!」

ギラティナは亜空間に穴を開けると、そこへ飛び込んだ!

シェイミ
 「き、消えた!?」


 (シャドーダイブ! 茜には効果はなかったが、このメンバーであれに耐えられるのか!?)

一体最初は誰が狙われる?
全員が緊張の面持ちでいると、最初に悲鳴を上げたのはナットレイだった。

ギラティナ
 「シャドーダイブ!」

幽体化したギラティナの腕がナットレイの腹部を貫通する!

ナットレイ
 「う、ああああ!?」

ナットレイは言葉にならない悲鳴を上げると、膝から地面に倒れた。
シャドーダイブは肉体は傷つけない。
だが、その魂を傷つけられれば、ポケモンといえどたまった物ではない。

ギラティナ
 「ふふ♪ まずは一つ」

ナットレイ
 「く……そ!?」

ギラティナ
 「そこで這いつくばって無力さを味わうのね、ナイトさん?」

加減されたのか、ナットレイは苦悶の表情でギラティナを下から睨みつけるが、ギラティナは意に返さず続いてシェイミを捉える。

ギラティナ
 「貴方には……そうね!」

ギラティナは地面に手を触れると、ギラティナの影はシェイミへと伸びていく!

シェイミ
 「う、うわ!?」

ギラティナ
 「私の影打ちから、逃れられると思っているの!?」

シェイミは必死で空を逃げ惑うが、ギラティナの影打ちはシェイミを逃さない!
まるで狩りの獲物を追うようにギラティナはシェイミを追いかけた。
だが、その性格は少しばかり悪い点かもしれない。

陽光
 「貴方も……私から、逃れられない!」

突然、陽光がギラティナの眼の前に現れた!
ギラティナは目を見開く。
一番戦意の薄い娘が、襲ってきたのだ!

陽光
 「ゴーストダイブ!」

陽光は霊体となって、ギラティナに飛びかかった!

ギラティナ
 「くう!?」

ギラティナは苦悶の表情を浮かべて、影打ちをキャンセルした。
陽光はギラティナの真後ろに着地すると、震えた声で言う。

陽光
 「わ、わた、私だって、た、戦えるんですからっ!」

ギラティナ
 「くぅ……一番効いたわよ」

ギラティナは頭を振ると、陽光に注意を向けた。
想定外の重い一撃に、ギラティナは優先度を変えたのか?

ギラティナ
 「ドラゴンクロー!」

ギラティナは陽光に飛びかかると、爪を光らせた。
陽光は震えながらも確固たる意思で、防御を構える!

ギラティナ
 「受ける気!? 舐めた物ね!」

ギラティナはその爪で陽光を無造作に切り裂いた!
だが、陽光もまた、歯を食いしばって、それに耐えたのだ!

陽光
 「わ、私は勇敢じゃありません……シェイミちゃんみたいに素早くないし、ナットレイさんみたいに強くもありません……それ、でも!」

震えている。
一番怖い思いをしているのは、陽光なんだ。
本当は誰も傷つけたくなくて、治す事に生き甲斐を感じる少女は決意をギラティナに示した!

陽光
 「わ、私は……陽光! 茂お兄さんの全てになるんだから!」

陽光はその瞬間、ギラティナと何かが繋がった。
しかし突如ギラティナは苦悶の表情を浮かべる。

ギラティナ
 「これは……痛み分け!?」

陽光の少ないライフとギラティナの豊富なライフが均一化される。


 「陽光!」

俺は思わず彼女の名前を叫んだ!
陽光は俺に振り返ると、微笑みを返す。

陽光
 「シェ、シェイミちゃん!」

体力を回復した陽光はシェイミに呼びかける。
シェイミはギラティナの後ろに回り込むと!

シェイミ
 「シードフレア!」

シェイミ最大の一撃、緑の爆風がギラティナを襲う!

ギラティナ
 「くう!? この程度で!?」

陽光
 「いえ、これで充分です!」

陽光は再びゴーストダイブの姿勢に入った。
だが、それは俺の目に見ても迂闊!

ギラティナ
 「その技、種はもう開けてるわよ!」

まずい! ギラティナがシャドーダイブの態勢に入った!
ギラティナが破れた世界に飛び込めばもう手出しは出来ない!
陽光はゴーストタイプ故に、その一撃は耐えられないぞ!?

陽光
 「くっ!?」

ギラティナ
 「アハハ! 勝負を急いだね!?」

ギラティナは勝利を確信して笑う。
しかし直後ギラティナは足元を見た。

ギラティナ
 「動け、ない!? は!?」

それはギラティナの足に絡まった草だった。
それをやったのは……!

ナットレイ
 「草結び……僕にとっては補助的な意味合いが精々だけど、その隙……いけ、パンプジン!」

ナットレイは地に這いつくばりながらも、戦う意志は曲げなかった。
これはその執念の結果だった。

陽光
 「う、うわああああ!」

陽光はがむしゃらにギラティナに飛び込んだ!
一瞬の判断ミス、3人が3人のできる事をやって、これは成し得た!

ドサァ!

二人の女性がどこまでも広がる草原に倒れた。

ギラティナ
 「やってくれる……まさか負けるとはね」

ギラティナは大の字に倒れ、大空を見上げて、皮肉気味に笑った。


 「お前の慢心するところ、姉そっくりだな」

ギラティナ
 「ディアルガお姉ちゃんと一緒にされるのは心外ね」

おいおい、永遠のやつ本当に妹に尊敬されていないな。
まぁ永遠は、「慢心せずにして何が神か!」なんて言っちゃう困った神様だからなぁ。


 「ギラティナ、力を貸してくれ、俺はドラゴンを救いたい!」

俺はこのギラティナが4人目の仲間と確信すると、手を差し出した。

ギラティナ
 「……敗者には選ぶ権利はなしか」

ギラティナはそう簡単には俺の腕は取らない。
ただ、彼女はそんな嫌そうな顔はしておらず、ただ言葉遊びを興じているようだった。


 「正直お前の言うとおり、俺達は危うい、だからこそお前の実力を信じる」

ギラティナ
 「……今度は口説き文句?」


 「どの道俺達は行く」

ギラティナ
 「茂君を一番守ってあげられるのは、私か……」

ギラティナは、ゆっくりと手を差し出す。

ギラティナ
 「一つだけ、お願いしても良い?」


 「なんだ?」

ギラティナ
 「名前、くれない? お姉ちゃんだけってズルいし」

ギラティナはそう言うと苦笑した。
俺たちの手が触れ合う。
そうか、これもある意味運命なんだろうな。


 「じゃあげろしゃぶで」

ギラティナ
 「茂君酷い!? 私泣いちゃうよ!?」

シェイミ
 「お兄……それはあんまりだよ」

ナットレイ
 「悪意すら感じるね……」

冗談なのに総スカンだよ!?
皆真面目に考えすぎだろ!?
俺の方が泣きたくなったよ!?


 「じゃあ、ティナで」

ギラティナ
 「うん♪ お姉さんが茂君の事守ってあげちゃう♪」

ギラティナはそう言うと俺に飛びついた。
ボロボロの体で、全力で俺を止めようとした女は、親身に俺の事を考えていたのだろう。

ティナ
 「茂君……覚えておいて、貴方の一挙一投足で幸せになる子も、不幸になる子もいるんだよ?」

それは耳元でそっと囁いた。
ティナの本音だったのかもしれない……。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#8 死せる神の想い 完

#9に続く。


KaZuKiNa ( 2020/10/11(日) 18:57 )