突ポ娘外伝






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第五章 おばけカボチャと無垢なる竜
#6 魔女の森

#6



魔女の森。
それはかつてその森に住んでいたパンプジン達に由来する名前だそうだ。
パンプジンは本来陽光を好む。
まぁこの辺はゲームでも大体明るい場所にバケッチャは出没するからな。
だが、その生態に反して、そのパンプジン達は何故光も差さない深い森に住んだのか?
どうして魔女と呼ばれ、恐れられる存在に変貌したのか?

パンプジン
 「み、皆さん……止まって、ください」

パンプジンが一行を静止させる。
今回は彼女の帰郷である。
俺たちの目の前には森の入り口が開いていた。

パンプジン
 「……」

パンプジンは立ち止まると胸に手を当て、深呼吸をした。

ナットレイ
 「あまり嬉しそうじゃないね……」

ナットレイがそう言うと、パンプジンはピクリと動いた。
パンプジンは顔を俯かせると。

パンプジン
 「実は……外に出てきたのは逃げなんです」


 「逃げ? 誰から? 何に?」

パンプジン
 「……」

パンプジンは何も答えなかった。
ただ、首を横に振り、森に向かい合う。

パンプジン
 「ドラゴンの情報が必要です、そのためには一族の助けが必要です」

ドラゴンは西の町上空に現れた後、魔女の森方面へと消えたという。
その足取りを追って俺達はやってきたのだ。
パンプジンはいよいよ、森へと歩む。

シェイミ
 「な、なんだか空気が……」

シェイミが俺に抱きついてきた。
陽気でハイなスカイフォルムのシェイミが怯えている?

ナットレイ
 「……魔界の入り口にでも立った気分だね」

ナットレイも同じか?
何も感じないのは俺だけなのか?
俺は森に入ると上を見上げた。


 「……っ」

入り口にも関わらずかなり暗い。
そして、何かがいる……!
そう感じさせる暗い森だ。

パンプジン
 「気をつけてください、この森は余所者を嫌いますので」

シェイミ
 「うぅ……あ!?」

俺のズボンの裾を握るシェイミの力が弱くなった。
シェイミの方を見ると、シェイミが小さくなっている。


 「ランドフォルムになった!?」

シェイミ
 「しゅ、しゅ〜……」

時刻はまだ夜ではない。
暗いとはいえ、シェイミのフォルムチェンジの条件を森が満たしたのか?

ナットレイ
 「なにか気配がする!」

ナットレイがよく見えない森の奥に構えた!
それと同時に、周囲を霧が包む。

シェイミ
 「な、なんでしゅ!? お、お兄たま!?」


 「ちっ!」

俺は怯えるシェイミを庇うように覆った。
霧は薄暗い森を更に深く暗くしていた。
俺は思わず後ろを見る……が、既に出口は見えない。


 『ーーサレ』

ナットレイ
 「? 女の声?」

それはどこからか木霊する女の声だった。
前後感覚が分からなくなる中、暗く冷たい声が響いた。


 『タチサレ……タチサレ……』

シェイミが俺に強く抱きついた。
ナットレイも静かにいつでも戦闘態勢に入れるように構えた。
ただ、一人だけ動じない者もいた、パンプジンだ。

パンプジン
 「ど、同郷の者、私達は敵ではないわ、ここを通して!」


 『パンプジン……?』

何かがそう呟くと、霧は晴れた。
再び暗い森が広がった。

ナットレイ
 「な、何だったんだ? 今のは?」

パンプジン
 「ただのゴース達です、その……森を守っているんです」

その正体はゴースだという。
という事はあの霧自体が実はポケモンだったのか。
赤緑のシオンタウンを思い出すな。

シェイミ
 「び、ビックリしたでしゅ〜」

パンプジン
 「ご、ごめんなさい……この森のポケモンは外のポケモンがあまり好きじゃないの」


 「それで、立ち去れって脅してきたのか」

ナットレイ
 「その警告を無視したら……どうなるのかな?」

パンプジン
 「彼らはその身体を毒ガスで構成しています、その内意識を失って……その」


 「ポックリあの世行き……か」

パンプジンが、言い淀んだのはそう言う事だろう。
パンプジンは小さく頷くと、森の奥を示し。

パンプジン
 「その、彼女たちが、村に私達を伝えたと思いますから、多分もう妨害はないと思います」


 「随分な隠れ里だな」

俺はこの厳重っぷりにため息が溢れた。
パンプジンの奴、随分俗世に離れた場所に住んでたんだな。
魔女の森……その言葉以上にデンジャーな場所のようだ。
俺はまだ魔女の意味、その本質をまるで知らないが、少なくともこの森は外を嫌い……いや恐れているのか?

ナットレイ
 「これまで魔女の森の詳細を知る者はいない、貴重な体験になりそうだ」

パンプジン
 「……行きましょう」

俺達はパンプジンの案内を元に、森の奥へと進む。
正直森は複雑で、本当に進んでいるのか疑問さえ浮かぶ。
これが夜になれば、動くこと自体が危険になるだろう。
そういう意味では急がないといけない。



***



歩く事1時間、いや2時間か?
つまりそれ位途方もなく森を彷徨う俺達は、ようやく目の前に人工物らしき物を迎えていた。

パンプジン
 「ふぅ……着きました」

俺たちの前に現れたのは、ひっそりと森の中に隠れた静かな村だ。
かつてここで魔女は育ったのか。


 「……よくおめおめと帰ってこれたわね」

パンプジン
 「……あ」

俺たちの前に現れたのはパンプジンだった。
この村に住むパンプジンだろう。
だが、こっちのパンプジンとは随分雰囲気が違う。
なんていうか、剣呑としていて、あまり歓迎されていないようだな。

ナットレイ
 「見られてるね」

シェイミ
 「えっ?」

ナットレイが周囲に目を配らせると、隠れるようにこちらを見ているポケモンたちの姿があった。
パンプジンの他にバケッチャ、入り口で出会ったゴースやゴーストらしき姿もある。


 (ここが魔女の村……パンプジンの故郷、か)

俺は改めて、目の前のパンプジンを見た。
こっちのパンプジンを睨むその子は、同じ位の齢だろうか?
遠くから見れば、流石に同じポケモンだけあってそっくりだが、相手のパンプジンは髪がショートで、やや吊り目の少女である。

吊り目のパンプジン
 「……ふん! それに余所者まで連れてきて」


 「っ!」

吊り目のパンプジンと目が合った。
吊り目のパンプジンは思いっきり此方を睨み、ここまで露骨な反応をされると、俺も思わず頭を掻いた。

吊り目のパンプジン
 「なに? 何か文句でもある?」


 「これは人生の先輩としてのアドバイスなんだが、敵ばかり作っても、何も救われないし、変わらないと思うぞ?」

吊り目のパンプジン
 「な、何よそれ!?」

少女が戸惑った。
予想していた反応と違い、咄嗟に次の言葉が出てこなかったようだ。


 「俺は、君を知らない。でも君も俺を知らない、とりあえずまずは自己紹介から始めよう。俺は常葉茂」

シェイミ
 「シェイミでしゅ」

ナットレイ
 「ナットレイだ」

吊り目のパンプジン
 「パンプジン……村ではザラのパンプジンって言われているわ」


 「ザラ?」

パンプジン
 「昔の言葉で、大地を意味する言葉です」

パンプジンが補足してくれた。
この世界、人間が使う名前という物は殆ど用いられないようだが、それでは困ることもあるのか、一応区別に使う名前はあるんだな。

ザラ
 「……大御婆様が来るようにって、早く行きなさいよ! もう!」

ザラはプイっと顔を背けると、パンプジンは奥を見上げた。
この村の一番奥、そこにとてつもなく巨大な木がある。
森に擬態した村、そこに住む者は外を知らないのか?
俺たちに向けられるのは敵意か、それとも奇異か?
何れにせよ、俺達は目的を済まさないといけない。

パンプジン
 「案内します……行きましょう」


 「ああ」

パンプジンは顔を俯かせると、トボトボと歩み始めた。

ナットレイ
 「……いや、藪蛇はやめておこう」


 「ナットレイ?」

ナットレイ
 「茂君、パンプジンから絶対離れちゃだめだ」


 「……」

ナットレイ
 「多分同じ事を思っていると思うから、言わないけどね」

ナットレイが言いたいのは、パンプジンの様子を見て、だろう。
パンプジンは元々内気で、他人と打ち解けるのが得意じゃない。
だが、それでも彼女は彼女なりに頑張ってきた。
恐らくパンプジンはパンプジンなりの処世術という物があるのだろう。
しかし……それでも村に着いたパンプジンは、今にも消えそうな蝋燭の火のようだった。
ナットレイは何故パンプジンがこれ程歓迎されていないのか、疑問に思ったのだろう。
だが如何に好奇心の塊のような彼女でも、踏み込む勇気はなかったようだ。
無論俺も無い。


 (他人の事情に踏み込んでいいのは、そいつの全部を受け入れられる奴、だけだからな……)

俺は改めてため息を吐いた。
今自分のお人好しっぷりがここまで何をしてきたか改めて思い出した。
いや、て言うか眼の前で死にそうな女を放っておける方が人間として駄目だろう?


 (もう4人だ、俺も諦めてる……追加でプラス1人、だからなんだってんだ)

そうやって、俺はパンプジンの事を考えていると、やがて巨大な扉が建てられた巨木の前に辿り着いた。

ナットレイ
 「改めて大きいね」

ナットレイは頭上を見上げるが、木の上はとても見えないだろう。
軽く東京タワー並の巨木って感じだ。

パンプジン
 「ここに、お祖母ちゃんが住んでます、ここでは一番偉いので、きっと力になってくれると思います……」

シェイミ
 「お祖母ちゃんでしゅか」

パンプジン
 「お祖母ちゃん、入りますよ?」

パンプジンはそう言うと、明らかに俺たちの背丈の3倍はある扉を叩いた。
この大きな扉、どうやって開けるんだ?
俺は首を傾げていると、大きな扉は突然勝手に外に開く。

ギギィ……。

シェイミ
 「なんだか、とっても古臭い感じでしゅね」

ナットレイ
 「同感だね、それにまるで城塞の門だ」


 「……」

城塞の門、俺はこの世界にあった過去の戦争の事を思い出す。
ここはもしかして外敵者から村の者を護るシェルターなのか?

パンプジン
 「み、皆さん……どうぞ」

とりあえず入り口で固まっていても、相手に迷惑だろう。
俺達は中に入ると、そこは広大な空間が広がっていた。
木の幹をくり抜いた大部屋は異常な天井の高さを誇る。
だが、軽く100人は入れそうなその部屋には誰もいなかった。

パンプジン
 「お、お祖母ちゃん……た、只今帰りました」

シェイミ
 「しゅ? お祖母ちゃんどこでしゅ?」


 「あらあら〜? 随分可愛らしいお友達ですねぇ〜」

突然空気を震わす声!
俺達は咄嗟に身構えた。


 「な、なんだ今のは!?」


 「あらぁ? ごめんなさい、声がどうしても大きくて」

再び大振動、シェイミは思わず俺の足にしがみついた。

ナットレイ
 「あ、あの! どこにいるんでしょうか!?」

流石のナットレイも戸惑っている。
信じられないほどの大音量は、この巨木自体を揺らしているような錯覚を覚える。


 「あなた達の目の前よ?」


 「め、眼の前?」

俺たちの目の前には壁しかない。
だが、俺はその時なにか違和感に気がついた。
壁は僅かに他の壁より赤みがあり、更に内側に丸みがあった。


 「ま、まさか!?」

俺は目線を徐々に上げる。
その奇妙な壁は、壁ではなかった。
カボチャだ、それもお化けカボチャのような中身をくり抜いた。


 「ウフフ♪ 初めまして、この村で村長をしてます、パンプジンです♪」


 「で、でかい……」

それは巨人だった。
下半身は見えず、腰から上しかないにも関わらずゆうに20メートルはある。
俺達はその超巨大なパンプジンに上から見下されていた。

ナットレイ
 「ぱ、パンプジンはかなり個体差が激しい事で知られているけど、これはパンプジンの神秘、だな」

パンプジンは小さいのから特大まで、概ね4サイズで分類されるが、これは特大の分類か?
もう特大とか、そういうレベルじゃない気が……。


 「は、初めまして、常葉茂と言います」

お祖母ちゃんパンプジン
 「あら、ご丁寧にこれはどうも」

お祖母ちゃんパンプジンは釣られるようにお辞儀すると、部屋に影が差した。
あまりの規格外に俺達は苦笑いするしかなかった。



***



茂さんたちが驚く中、お祖母ちゃんはずっとニコニコだった。

パンプジン
 「お、お祖母ちゃん……その」

お祖母ちゃん
 「ウフフ♪ 疲れたでしょう? 今日はもう休んだら?」

お祖母ちゃんは私に振り向くとそう言った。
その顔は相変わらず優しい。
私は俯くと、素直に頷いた。

パンプジン
 「うん……、私……部屋に行くね」


 「パンプジン?」

パンプジン
 「ごめんなさい、茂さん……私、疲れてるから」

私は茂さんの顔が見れなかった。
きっと見たら泣いてしまう気がしたのだ。



***




 「アイツ……」

俺は部屋に行くというパンプジンの背中を見て、言いようのない不安を覚えた。
果たして、この帰郷はあいつにとって正解なのか、良かった事なのか?

お祖母ちゃんパンプジン
 「あなた達も、今日はゆっくりしてくださいな♪ お部屋はそっち♪」

この超巨大な祖母は動くこともままならないのか。
ゆっくりと腕を動かし、俺たちが泊まる部屋を指差す。

ナットレイ
 「確かに正直道中も疲れたな」

シェイミ
 「お腹も減ったでしゅ……」


 「ふたりとも、先に部屋に行っててくれ」

シェイミ
 「お兄たま?」


 「少し、野暮用だ」

俺はそう言うと、パンプジンが向かった部屋を見る。
二人は顔を合わすと、納得したように頷き、部屋に向かった。

お祖母ちゃんパンプジン
 「貴方……あの娘とは、どういう関係なのかしら?」

二人っきりになると、このお祖母ちゃんパンプジンはそう言って首を傾げた。
好々爺として、常に優しげな笑みを浮かべているが、やっぱり圧が凄いよな。
俺は後頭部を掻くと、素直に答えた。


 「旅の仲間、あるいは先生と患者」

お祖母ちゃんパンプジン
 「随分ドライなのねぇ」


 「でも、放っておけない仲間です」

お祖母ちゃんパンプジンはニッコリと笑った。
恐らくパンプジンの事を一番心配しているのは、このお祖母ちゃんなのだろう。
齢1000歳を超えるという長命なパンプジン。
そんな年季の違いすぎる相手のことは俺も正直良く分からないが、この人にも親としての情愛はあるのだろう。

お祖母ちゃんパンプジン
 「あの娘はね、優しい子です……きっと誰よりも」


 「……わかりますよ」

そうでなければ、ここまで旅は続かないだろう。
パンプジンにとって、この旅は本来不要な物だ。
それでもシェイミの一団を救うため、彼女はこの旅路を歩んできた。


 「娘さんに会わせて貰ってもよろしいでしょうか?」

お祖母ちゃんパンプジン
 「良しなに♪」

俺はその許可を貰うと、パンプジンの部屋に向かった。
パンプジンの部屋は壁際に掛けられた螺旋階段を登った先にある。
さて、問題はパンプジンの方なんだよな。


 「パンプジン、入るぞ?」

パンプジン
 「え? お、お兄さん!?」

中からパンプジンの声が聞こえると、俺は迷わず扉を開けた。
中ではベッドに蹲るパンプジンがいた。

カボ
 「ギャー!? ナニカッテニヘヤニハイッテクルンダヨー!?」


 「許可ならお祖母ちゃんから貰った」

パンプジン
 「お、お祖母ちゃんに?」

俺は部屋を見渡すと、パンプジンの隣に腰掛けた。
部屋の中は女の子らしく、少し質素だが、所々に小物がある。
パンプジンは俺の顔をそっと覗き込むと。

パンプジン
 「な、なんなんですか……わ、わた、わたし」


 「よしよし、怯えることはない、俺はパンプジンの味方だ」

俺はそう言うと、問答無用でパンプジンの頭を撫でる。

パンプジン
 「は、はう……」

パンプジンは頬を紅くして、目をトロンとさせると俺は撫でながら優しい口調でパンプジンに事情を聞く事にする。


 「何がそんなに怖いんだ? 今日のお前はずっとそんな調子じゃないか」

パンプジン
 「わ、私は……元々明るくもないし……」

パンプジンは気恥ずかしそうに顔を背ける。
言いたくない領分なのかも知れないが、それで何かが解決しないのは明白だ。
パンプジンはこの村で嫌な思い出がある、それは確信だ。


 「本当は帰ってきたくなかった?」

パンプジン
 「お、お祖母ちゃんには会いたかったです!」

パンプジンは本当にお祖母ちゃんには懐いているんだな。
パンプジンは俯くと、やがて観念したかのように喋りだす。

パンプジン
 「私は、この村では悪魔の子と呼ばれました……」


 「悪魔の子!?」

俺はあくまでパンプジンを落ち着かせるように、その頭を優しく撫で続ける。
パンプジンはゆっくりと顔を上げると。

パンプジン
 「わ、私はお母さんもお父さんも顔を知りません、身内はお母さんの姉だと言うお祖母ちゃんしかいなかったのです……」


 「……」

あのお祖母ちゃんは、てことは義理なのか?
て言うか妹って、パンプジンの家系はどうなってるんだ?
だが、それもパンプジンは覚悟したのか、ゴクリと喉を鳴らすと話し出す。

パンプジン
 「お母さんは始祖の魔女って呼ばれてたそうです……」


 (なっ!? それって!?)

歴史の中で恐れられた伝説の魔女じゃないか!?
いや、パンプジンは魔女という言葉に異常に敏感だった。
嫌悪していたと言っても過言じゃない。

パンプジン
 「み、皆は私のお母さんが、せ、戦争を起こした性で、こんな場所に隠れ潜まないといけないって、わ、わたしを、責めました……っ」


 「だが、お前は……」

パンプジン
 「わ、私は魔女なんかじゃない! お母さんなんて顔も見たことないのに! うぅ……!」

パンプジンはそう言うと、泣きながら俺の胸に飛び込んだ。
俺はそんなパンプジンを優しく抱きかかえると。


 「なるほど、それがパンプジンのトラウマ、か」

パンプジン
 「うぅ……っ! 私、私って何なんでしょう? 私は生きてちゃ駄目ですか?」


 「……パンプジン、いいか? お前はこれまでいくつもの感謝を集めた筈だ! それは俺であり、シェイミも、あの西の町の人たちもお前に感謝した筈だ! そんな俺たちがお前をそんなつまらない理由で遠ざけるか?」

パンプジン
 「ッ! いいえ、いいえ!」

パンプジンは涙しながら首を振った。
俺はそんなパンプジンに優しく微笑みかける。


 「そうだ、俺はお前のこと最高の先生だと思ってるし、最高の仲間だと信じてる」

パンプジン
 「ありがとう、ございます! こんな、こんな私を……!」


 「胸を張れ、パンプジンを虐めるやつがいるなら、俺が黙っちゃいない!」

そうだ、何でもパンプジンが背負う必要は無い。
俺達は充分信頼を得ている筈だ、少なくとも俺はパンプジンを信頼している!

パンプジン
 「お兄さん……!」


 「よしよし、もう大丈夫だから、泣かなくていい」

パンプジン
 「……はい♪」

パンプジンは俺から離れると、今までで一番の笑顔を見せてくれた。
これでもう、大丈夫だろうか。
俺はその場から立ち上がると、パンプジンは少し名残惜しそうに俺を見る。


 「それじゃ、ゆっくり休めよ?」

パンプジン
 「……はい」

俺はそう言うと、そのまま部屋から出て行った。

お祖母ちゃんパンプジン
 「ウフフ♪」


 「うお!?」

部屋を出ると、お祖母ちゃんパンプジンの超巨大な顔が目の前にあった。
俺は思わず呻いてしまうが、当人は非情にニコニコしていた。

お祖母ちゃんパンプジン
 「あの子を宜しくお願いしますね?」


 「え? ああ……はい」

一瞬どっちの意味か判断に迷ったが、まぁ仲間としてだよな?


 「……あの、妹さんが魔女だったというのは、本当なんですか?」

お祖母ちゃんパンプジン
 「ええ、そうです。妹は魔女と呼ばれていました」

俺はお祖母ちゃんの顔をじっと見る。
その表情から、何かを判断して見つけるため。
だが、お祖母ちゃんは何か遠くを見つめるようにして、感情を表しはしなかった。


 (アイツの母親でこの人の妹……直接旅には関係しないかもしれないが、どうしても気になるんだよな)

お祖母ちゃんパンプジン
 「あの子には、私はきっと謝りきれません……」


 「え?」

お祖母ちゃんパンプジン
 「……」

お祖母ちゃんはそれっきり何も言わなかった。
謝りきれません?
それは間違いなくパンプジンに対してだろう。
あるいはその母親、妹さんに対してか?


 (……魔女、それだけ根が深いか)



***



パンプジン
 「……ねぇカボ? 私ってどうなってるのかな?」

誰もが寝静まる夜、村のポケモンにとってはあまり気にもしない時間帯だが、私はあまり好きじゃない。
暗い場所は落ち着くけど、この村に私の居場所はないからだ。
だから私はずっと家に引きこもっていた。
大好きなお祖母ちゃんの昔話を聞いたり、お祖母ちゃんから教えて貰った薬の知識は私の宝物だ。

そんな臆病で内向的な私が今、何かが違うと感じたのだ。
それは嬉しさだった。

パンプジン
 「私、やっぱり好きなのかな? どう思う?」

カボ
 「……」

カボは相変わらず応えない。
でも構わない、私に必要なのは独り言だから。

パンプジン
 「私達ずっと要らない子扱いだったよね……それに耐えきれず村を飛び出して、そして初めて友達ができて」

それはシェイミちゃんとの出会いだった。
彼女もまた、二重人格が原因でシェイミ達の中ではハミダシ者扱いをされていた。
それでも彼女はめげず、私と違って強かったけど、シンパシーを感じるには十分だった。

パンプジン
 「そして、お兄さんが降ってきた」

私は思わず目を細め、微笑んでしまう。
お兄さんが空から降ってきた時は思わず気が動転してしまった。
凄く狭いコミュニティで、しかもそこですら引きこもりだった私にとって茂お兄さんは衝撃だった。
でも、そんなお兄さんに惹かれていく私がいた。
お兄さんと一緒にいるのは、何処か心地良く、私の弱い心を優しくて支えてくれる。

パンプジン
 「まだ、怖いんだ……正直怖い事一杯ある」

私は初めての人とまともに話すことが出来ない。
対人恐怖症は中々治らないし、それに私を嫌う人だって一杯いる。
でも、それでも……私は頑張ろうと思う。
茂お兄さんと一緒なら、きっとどこまでも頑張れる自分を信じられる気がするから。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#6 魔女の森 完

#7に続く。


KaZuKiNa ( 2020/10/02(金) 17:48 )