突ポ娘外伝






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第五章 おばけカボチャと無垢なる竜
#4 溺れるような夜

#4



ワイワイガヤガヤ!

夜も更けてきたというのに、酒場は盛況だ。


 「ん〜、そろそろお開きかな」

俺はテーブルを囲む三人を見てそう言った。
既にシェイミは酔い潰れて眠っており、パンプジンとナットレイも口数が少ない。

ナットレイ
 「むう〜、少し飲みすぎたかな?」

ナットレイは顔を赤くし、頭を抱えた。
鉄球もフラフラ揺れており、コントロールできているのか疑問だった。


 「ナットレイ、部屋戻れるか? お前が倒れるとちょっと運ぶのは難儀だぞ」

ナットレイ
 「女性の体重に言及するのはデリカシーがないよ、むう」

ナットレイは頬を膨らませると、不満げにそう言った。
やはり酔ってるな、言動が子供っぽくなっている。


 「パンプジン、お前は?」

パンプジン
 「……くう」


 「す、座ったまま寝てやがる?」

パンプジンは気がついたら姿勢を変えずに寝息を立てていた。
俺もそんなにアルコールに強い方じゃないんだが、ここにいる奴らは全員俺以下か!


 「おーい? パンプジン?」

パンプジン
 「うぅ? あおげーばーとーとしー?」


 「卒業するな! 起きろ!」

パンプジン
 「許されるはずもない〜love&peace」


 「それは紛れもなく奴さ! ていうか本当に寝てるのか!?」

俺は堪らずパンプジンの肩を揺らす。

パンプジン
 「あう〜、気持ち悪い〜」


 「起きたか、パンプジンの癖に哀愁漂う歌ばかりを歌いやがって」

パンプジン
 「うぐう? な、なんの事でしょうか?」

俺はパンプジンが起きると、次にシェイミの様子を見る。
ぐっすりと熟睡しているなら、起こさずそっとベッドに運ぶべきなのだろう。
だが、シェイミに手を伸ばした瞬間。

ガシャァァン!


 「ん、なんだ!?」

グラスがテーブルから落ちて割れる音がした。
その直後、酒場の端の方から喧騒が聞こえてくる。

男A
 「テメェ! このイカサマ野郎!?」

男B
 「イカサマ? 負けが込んで八つ当たりか!?」


 「イカサマ?」

俺は怪訝な顔をした。
だがナットレイは、腕組をして、やや苛立たしく言う。

ナットレイ
 「賭博だね、本当に何処でも飽きないものだ」

ナットレイは、そう言って頭を抱えながら、賭博を講じる二人に近づく。


 「おい、どうする気だナットレイ!?」

ナットレイ
 「お客様の迷惑だからね、ちょっと仲裁してくる」

俺はナットレイには異様な不安を感じた。
だってアイツ酔ってるんだぜ?
仲裁するって、賭博をしていた男たちは、既に胸ぐらを掴んで喧嘩の手前だった。
ナットレイなら、賭博師二人を黙らせる等訳もないのだろうが……。


 (てか、死ぬだろ!? 主に敵が!?)

男A
 「野郎! ぶっ殺してやる!」

男B
 「テメェ!」

ナットレイ
 「いい加減にーー」

ナットレイが止めに入った。
しかしその瞬間。

カカッ!

喧嘩を始める二人の眼前にアイスピックがダーツの矢のようの投げられ、壁に突き刺さった。

男A
 「うお!?」

ナットレイ
 「?」

男たちが飛び退くと、その声はカウンターから聞こえてきた。

店長
 「お店に迷惑をかけるなら、賭博は永久禁止ですよ?」

店長だ、タブンネの店長は仕事をしながら優しく微笑む。
だが、男たちは顔を青くしたのだ。

男B
 「す、すまねぇ店長……!」

男A
 「くそ!」


 (あっさり喧嘩を止めたな)

俺は店長を見ると、店長は何事もなかったという風に笑っている。
こういう場所の店長は耳が良いだけじゃなく、喧嘩も強くないといけないのかねぇ?

ナットレイ
 「……」

ナットレイは、振り上げた拳をゆっくりと下ろした。
そして踵を返すと。

ナットレイ
 「ボクもまだまだだなぁ」

と、だけ呟き彼女は階段を登って行った。

シェイミ
 「み〜?」


 「おっと、もう部屋に戻るぞ?」

シェイミが騒ぎに目を薄っすらと開いた。
俺は優しくシェイミの小さな身体を抱える。

シェイミ
 「お兄たま……温かい……くう」


 「パンプジンも行くぞ」

パンプジン
 「あ、は、はい」

俺は呆けているパンプジンに声掛けをすると、そのまま階段を昇った。



***




 「ん〜! 明日はちゃんと起きれるかな?」

俺はシェイミをベッドに寝かせると、自分のベッドに向かって歩く。
既にナットレイもパンプジンもベッドで横になっている。
急がないとドラゴンは何処まで行くか分からんからな。


 (そもそもドラゴンは何処に向かっているんだ?)

俺はベッドに横になりながら、ゆっくりと目を瞑った。
今日は久しぶりに楽しく呑めたな。
こんな楽しい晩餐は本当にいつ以来だろう。
ここまで、ただ茜たちの元に帰るのが目的で必死だった。
その目的は今も変わらないが、今だけは少しこの安寧を楽しみたい気分だ。


 (しかし、今回はまた趣が違う感じだな)

俺はこれまでの旅に、常に作為があった事を思い出す。
最初のルージュの旅はある意味例外かも知れないが、それでもある謎の存在の影は最初からそこにあった。
曰く願いを叶える者。
願いを叶えるために俺を殺そうとしたルージュ。
願いを叶えられて、嫉妬と欲望と矛盾に苦しんだマギアナ。
願いではないが、やり残しを告げられ、そして蘇った中老師。

その存在は不気味な影なのか、それとも光り輝く神なのか。
特異点……それが俺を示すキーワードであり、そして謎の存在と絡み合う。

果たしてこの世界に渡らされた意味、それも謎の存在になんらかのメリットを与えるのか?


 (或いは……ドラゴン、お前が何か関係しているのか?)

ドラゴンが今どこにいるのか。
そして何処へ向かっているのか、俺は知らない。
だが俺の目的、ドラゴンを救う事だ。
利用されて苦しむ少女は、今結果としてシェイミの一族を未知の毒で苦しめている。
俺たちの目的はそんなドラゴンから血清を得ることだ。


 (茜……すまん、帰りは遅くなりそうだ)

俺は、最後に妻にそれだけ謝って、意識を微睡みに落とすのだった。



***



チュンチュン。

朝日が昇り、小鳥の囀りが朝が来た事を告げる。

ナットレイ
 「うぅ……少し頭が痛いな」

最初に目を覚ましたのはナットレイだ。
ナットレイは、頭を抱えながら周囲を見渡す。
まだ皆眠っており、どうやら自分が一番手らしい。

ナットレイ
 「クス、こんな無様を晒すのもこのパーティが居心地が良い性かな?」

ナットレイは、普段は例え仕事を受けていなくても、酔い潰れて翌朝の気分を台無しにする質ではない。
自分の身を護れるのは自分だからこそ、節制は当然だった。
だが、このパーティは勝手が違う。
ナットレイは興味深く楽しい物だったが、同時に自堕落な自分が見えてしまう。

ナットレイ
 「そういえば、彼は?」

ナットレイは茂のベッドを見た。
茂は毛布に包まって起きる様子はない。

ナットレイ
 (結局ボクのベッドには来なかった訳か)

ナットレイはクスリと笑う。
情欲に駆られて誘った訳ではないが、自身の魅力が通じなかった訳だ。

ナットレイ
 (フフフ、少し傷つくよね、これでも女なんだしさ)

ナットレイはベッドから起き上がると、ゆっくりと茂のベッドに近づく。
身体の各所から生えた第二の手と呼べる触手を揺らし、妖艶に笑みながら。

ナットレイ
 (フフ、そっちに興味がなくてもさ? ボクに朝駆けされたらどうするつもりだい?)

ナットレイはやがて、茂の目の前で立ち止まる。
そして、ナットレイは茂の毛布を剥ぎ取った。


 「んん?」

茂が異変に気づく。
だがそれよりもナットレイは驚いた。

ナットレイ
 「な、なな……!?」


 「その声……ナットレイか?」

茂は瞼を擦りながら、徐々に意識を覚醒させていく。


 「寒いでしゅ〜……」


 「?」

その声は茂の下半身の方で聞こえた。
ナットレイが見たものそれは、衣服を乱して下腹部に抱きつくシェイミの姿だった。

ナットレイ
 「ま、まさかそんな!? パンプジンどころか、シェイミが夜の相手!? ボ、ボクはそんなに魅力がないのか〜!?」

ナットレイは思いっきり項垂れた。
やがて完全に目を覚ました茂はその状況にしばし、沈黙した。


 「……なにがどうなってんの?」



***




 「俺が夜の相手にシェイミを選んだと勘違いされたが、断じてロリコンではない! 繰り返す、断じてロリコンではない!」

俺はゆっくりと目を覚ますとその状況に戸惑った。
何故か愕然と項垂れるナットレイに、何故か衣服を乱したシェイミがベッドに紛れ込んでいたのだ。
ナットレイはそれを事後と認識したらしく、俺は必死で弁解するが、納得して貰えたかは半信半疑だ。
寧ろそれを煽るのは。

カボ
 「ニーチャン、イイシュミシテンナ〜、ミンナオナジヘヤデネテルッテノニ!」


 「いや、やってない! やってないから!?」

パンプジン
 「〜〜〜!」

パンプジンは、情事を想像したのか顔を真っ赤にした。
カボは表情は変えない(そもそも変える事が出来ないんだが)が、パンプジンとは対象的にやたら突っ込んでくる。

カボ
 「デ、シェイミノドコガヨカッタンダ?」


 「バカ野郎! だから俺は無実だ!」

カボ
 「ウソクセー、ナーンカウソクセー」


 「……くっ!? 何故分かりあえん!?」

ナットレイ
 「まぁ、どっちにしろボクの魅力が低いと言うことは認識できたよ……」

シェイミ
 「しゅ〜?」

結局、事態を一切理解できず、いつも通りのなのはシェイミだけだった。
ナットレイは何故か自分の自信を喪失し、パンプジンは顔を紅くしっぱなし。
パーティが一夜で半壊してるんすが?

店長
 「おや? おはよう御座います、昨晩はお楽しみだったようで」

荷造りを終えて、階段を下ると、店長が声を掛けてきた。
内容が悪趣味で最悪レベルだが。
俺は、思いっきり項垂れると。


 「ありもしない冗談で、このガキンチョ共を惑わさんで下さい」

店長
 「……すみません、気分を害されましたか」

俺は、ハァとため息を吐いた。
朝からこの気分は流石に滅入る。
だが、店長はそんな俺達の気分を察したようで。

店長
 「良ければコーヒーを出しましょう。お代は結構です」


 「良いのか?」

店長
 「ええ、それで元気になって下さるなら♪」

店長の優しい気遣いに俺は、甘えることにした。
そういうことならとカウンターに座ると、シェイミはうれしそうに隣に座った。

シェイミ
 「ミルクとお砂糖一杯がいいでしゅ〜♪」


 「相変わらず甘口だな、○ックスコーヒーより甘い」

ナットレイ
 「ボクはブラックで」

店長
 「お二人は?」


 「微糖で」

パンプジン
 「私もお砂糖だけで」

店長はそれを聞くと、サイフォンで抽出したコーヒーを4人分出すと、それをオーダー通りに味付けして、それぞれに出された。
コーヒーカップから出る湯気と香りは、随分懐かしく感じた。

店長
 「どうぞ」


 「普段缶コーヒーしか飲まないから、味の良し悪しは分からんが」

俺は早速コーヒーを頂くと、程よい酸味と苦味が口に広がった。
いい豆かは判別がつかないが、缶コーヒーよりは美味しく感じる。

パンプジン
 「ふぅ、落ち着きます」

ナットレイ
 「うん、いい香りだ、いい豆だね」

パンプジンもゆっくり頂くと、気を和らげ、ナットレイはまず香りを楽しんだ。
シェイミはもはやカフェオレと化した超甘いコーヒーを美味しくいただく。

店長
 「フフ、当店自慢、喜んで頂けたようで何よりです」

店長はそう言うと嬉しそうにコップを磨いた。
改めてこの人、なんでも屋の主人って感じだよな。
俺はこういう大人の姿もありなのかと、少し未来の自分として想像する。
流石に喧嘩が強いは無理があるが、もし今の仕事から独立するならこの姿は参考になるかもしれない。

パンプジン
 「あ、あの、店長、この辺りで薬草などは手に入るで、でしょうか?」

店長
 「薬草なら、この店から道沿いにまっすぐ行けば、薬屋がありますよ」

パンプジン
 「あの、で、できれば、その、原材料から欲しいですが」


 「もしかして、結構俺の性で使った?」

パンプジン
 「ち、違います! 元々持ち合わせが少なくて……一応集めてはいたんですけど、一つの森で全て揃う訳にはいかず……」

パンプジンは薬師だからこそ、自分で薬を作る。
その効果は俺で証明済みで、身体は確実に健康に向かっている。

店長
 「でしたら朝市を覗かれてはどうでしょう? なにがあるかはその時次第ですが」

パンプジン
 「あ、朝市ですか」


 「いいんじゃないか? ドラゴンを追いかける前に俺たちがぶっ倒れても不味いしな」

ナットレイ
 「同感だ、特に話に聞くドラゴン……一筋縄ではいかなさそうだしね」

シェイミ
 「うぅ〜、皆無事でしゅか……?」

店長
 「その事ですが……」

店長は不意に顔を暗くした。
何事かと伺うと、店長は少し間を置いて喋りだす。

店長
 「西の海のオアシスで今謎の病毒が流行っているそうです」


 「ッ!?」

パンプジン
 「え!? まさか……?」

店長
 「それがドラゴンの仕業かは確認は取れていませんが……」


 (ドラゴン……お前なのか?)

俺はあの巨大なドラゴンの少女のことを何も知らない。
ただ強力な力を持っているのは間違いない。
俺の前ではあの力を無理やり吸い上げられ、苦しむ少女しか知らない。
一方でシェイミは、一族を謎の毒で冒され憎しみも少なからず抱えている。
未だあのドラゴンの少女はその善悪が分からない。


 (やっぱり憎んでいるのか? お前も自分を利用した世界を)

もしも、シェイミの一族や、オアシスがいずれもドラゴンの意図した出来事なら、それはきっと憎しみだろう。
あれだけのことをされて、憎むなと言う方が酷である。
それだけのことを陸の民に、いやルビィにされたのだ。


 (お前の憎しみの対象はもうこの世にはいない! なのにお前が憎しみの対象になるのか!?)

ある世界では一方的な被害者だったとしても、ある世界では一方的な加害者になり得る。
それは憎しみの連鎖ではないか?


 (もし、それが憎しみなら俺は……!)

パンプジン
 「あ、あの……お兄さん?」


 「え!? あ、どうしたパンプジン?」

パンプジン
 「ひう!? こ、怖い顔してた、から……」

パンプジンは無口になる俺を心配していたらしい。
パンプジンは怯むように怯えてしまったが、しまったな……。

ナットレイ
 「フフ、君は顔が恐いからね」


 「悪人面なのは自覚している……」

初対面で大抵気に入られない顔なことは自覚している。
同僚曰く死んだ魚の目だの、死神のような顔だの散々な言われようだからな。

パンプジン
 「そ、その! わ、私はお兄さんのこと、素敵だと、お、思いますっ」


 「ありがとう、慰めでも嬉しいさ」

パンプジン
 「あ、あう……」

俺は一気にコーヒーを飲み干すと、テーブルから立った。


 「店長コーヒーありがとう! お陰で気分も纏まった!」

店長
 「いえいえ、それよりも貴方の冒険に幸があらんことを」

俺が飲み干すと、ナットレイが続き、パンプジンも飲み終えた。
慌ててズズっと飲み干すシェイミが最後にテーブルを立つと。


 「それじゃあ、冒険を再開しますか!」



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#4 溺れるような夜 完

#5に続く。


KaZuKiNa ( 2020/09/27(日) 18:22 )