#2 山越えと盗賊
#2
茂
「山越えか……」
シェイミのコミュニティを救う為、旅立つことになった3人。
つまり俺常葉茂と仲間を救う為危険を顧みず旅立つ決意をしたシェイミ、そしてドラゴンの血清を手に入れるために同行することを決意したパンプジンの3人だ。
カボ
「オイニーチャン、ダレカワスレテネーカ?」
茂
「しれっと、人の心を読むんじゃない!」
後は、そう……パンプジンの腰回りを覆う大きなおばけカボチャのカボだ。
一人にカウントしていいのか分からないが、一応旅の同行者と言っていいだろう。
シェイミ
「アタシなら空から山越え出来るけど……」
茂
「俺が無理だ、パンプジンは?」
パンプジン
「私も、低空浮遊なら出来ますけど、その、山越えまでは……」
一番後ろを歩くパンプジンは申し訳無さそうに頭を下げた。
て言うか、パンプジンも低空とはいえ飛べるのな。
まぁ原作だとバケッチャは飛んでる訳だし、当然と言えば当然なのか。
茂
「時間もある方じゃない、急いでドラゴンを追うぞ」
パンプジン
「うう、その、あう……」
カボ
「キモチハワカルケドヨニーチャン、アンタモケガニンッテコトワスレンジャネーゼ?」
茂
「その時はパンプジン先生に謝るしかねぇわな!」
無論、俺自身万全じゃない。
実のところ、痛み止めを使っているにも関わらず、少し痛かったりする。
シェイミ
「やっぱりお兄とパンプジンは」
シェイミは不安そうに俺たちを見ていた。
出来る事なら一人で追いたいといった所だろう。
だが、今回に限ればそれも良策とは言い辛い。
まずドラゴンが善か悪かすら分からんのだ。
いや、寧ろ善悪を抜きにしても、瑠音のいた世界を滅ぼしかけた災厄が、危険性がない筈がない。
茂
(それにドラゴンが俺の助けた少女なら、これは俺の責任だ)
俺はシリンダーの中で苦しむ少女を見て、黙っていられなかった。
肉の殆どない姿、俺たちの何倍もある巨大な姿、そんな異形でも、俺はその苦しむ顔が忘れられなかった。
茂
(もし、俺があの時お前を救いきれなかったんなら、今度こそお前を救いきる!)
パンプジン
「シェ、シェイミちゃんだと、や、山越えは出来ないと、そう思いますし……」
シェイミ
「そんな事!?」
その時だ、山間に冷たい風が吹き込んだ。
シェイミ
「あっ!?」
途端にシェイミの身体が小さくなり、自信たっぷりの顔は、不安げな大人しい顔に変わった。
茂
「スカイフォルムの維持には光量と温度が不可欠だ、雪山超えはスカイシェイミの限界高度を越えている」
エベレストの山頂を越えられる鳥は存在しないように、レシプロ機がジェット機の高さに飛べないように、それぞれには限界がある。
特に寒さで簡単にランドフォルムに戻ってしまうシェイミに山越えは無謀だ。
よしんば上昇出来たとしても、山の上は風が強い。
ランドフォルムに戻って墜落は火を見るより明らかだろう。
シェイミ
「で、でしゅ〜!?」
シェイミは寒さに身体を縮ませた。
俺は山越えは出来そうかパンプジンに聞く。
茂
「で、パンプジン先生はどうするべきだと思う?」
パンプジン
「ちょ、ちょっとまってください……えと、あった!」
パンプジンはカボチャの中に手を突っ込むと、古びた地図を取り出した。
この周辺の地図か、パンプジンは何度も地図と風景を照らし合わせている。
パンプジン
「せ、整備された山越えルートがあります、最速のルートではありませんが、山道を利用しましょう!」
茂
「よし、なら道案内頼む!」
パンプジン
「は、はいっ! が、頑張り、ましゅ! か、噛んだ……」
イマイチ格好良くならないパンプジンに俺は苦笑する。
まぁ、可愛いとは思うんだけどね?
シェイミ
「ど、どっちでしゅか?」
暫く歩くと、道が二つに別れた。
片方は登るルート、もう片方は逆に降るルートか。
パンプジンは地図と照らし合わせると。
パンプジン
「降る方で大丈夫そうです」
そう言われれば、俺達は迷わず下降ルートを進む。
しかし、俺は思わずパンプジンが持っている地図を見る。
なんかすげー歴史感じる古臭さなんだよな。
茂
「因みにその地図、どこで手に入れたんだ?」
パンプジン
「あ、これ、お祖母ちゃんが昔使っていたっていう!」
パンプジンのお祖母ちゃんって1000歳超えとかいう人だろう?
それって大丈夫なのか?
しかし、その真偽はすぐにでも出るのだった。
***
茂
「水脈……か」
それは山道を進んだ先だった。
山にポッカリと穴が空いており、地底湖が形成されていたのだ。
俺達は不審に思いながらも、他にルートもないため地底湖を進む。
シェイミ
「す、凄く寒いでしゅ〜!」
元々この辺りは標高が高い。
更に普段から太陽熱の恩恵を受けられない地底湖は、冬場のような寒さだった。
特にシェイミは敏感に震えている。
茂
「このルートで本当に正しいのか?」
パンプジン
「そ、その……それが……」
急に口ごもるパンプジン。
なんだか急に雲行きが怪しくなってきたぞ?
パンプジン
「ご、ごめんなさい! ち、地図が古くて、その、道が……!」
その時だ、パンプジンが頭を下げた瞬間、地底湖から何かが現れた!
バシャアアアン!
茂
「!?」
地底湖から姿を表したのは、ポケモンだった。
ただその姿は可愛らしさ等欠片もない。
寧ろ山賊か海賊と言った風貌のポケモンたちが、俺たちを取り囲んだ。
パンプジン
「と、盗賊!?」
盗賊ポケモン
「ククク、まさかノコノコ獲物が我らアクアファミリーのアジトに現れるとはなぁ!」
盗賊ポケモンB
「シェイミは高く売れるぞ! 狙っていたが向こうから来るとはなぁ!?」
シェイミ
「で、でしゅ!?」
茂
「ち!? 人攫いか!?」
俺は怯えるシェイミを庇うように盾になる。
だが盗賊達は。
盗賊
「他は殺しても構わねぇ! 金目の物は全部頂きだぁ!」
茂
「シェイミ、パンプジン! 来るぞ!?」
盗賊たちは水ポケモンたちだった。
種別は様々なようだが、アクアファミリーと言うように、水タイプの盗賊団なら、弱点は大体似通っているだろう!
盗賊
「ヒャッハー!」
水ポケモンたちは一斉に水鉄砲を放った!
パンプジンは正面から受けるが、草タイプ故に然程ダメージはない。
それには盗賊団も読みを誤った。
パンプジン
「くう!?」
盗賊
「ち!? こいつも草タイプか!?」
シェイミ
「パンプジンちゃん!? ううう! やってやるでしゅ!?」
シェイミはパンプジンが攻撃されるのを見ると、盗賊に向かってエナジボールを投げつけた。
エナジーボールは盗賊の一人に直撃、盗賊は一撃で後ろに倒れた。
盗賊
「ど、ドジョッチがやられた!?」
ドジョッチだったのか。
まぁ4倍ご愁傷さま。
パンプジン
「あ、あまり手荒な真似は苦手だけど……!」
パンプジンは無数の燐光する葉っぱを生み出すと、それを放った!
はっぱカッターは無差別に盗賊団を襲う!
盗賊
「「「グワー!?」」」
茂
「なんだ? 思ったより弱い?」
冷静に考えれば、シェイミは一応600族、小さい見た目に惑わされがちだが、シェイミはマギアナやマナフィに匹敵する実力だったな。
今回は各部のラスボス級が味方ってのも、逆に敵が可哀想にも思えるな。
パンプジンも進化しているだけあって、地力はあるようだ。
盗賊
「くそ!? 想定通りだが、ここまでやるとは! だからこそ用心棒を雇った甲斐もあるってんだ! 先生出番です!」
先生だと?
俺は用心棒の姿を探す、だがそれらしき姿は見えない。
茂
「ハッタリか……?」
パンプジン
「ああっ!? 茂さん上! 危ない!」
茂
「なに!?」
俺は上を見上げた!
何かが降ってきた!
俺は咄嗟に、その場から転がりながら退避した。
ズドォン!
茂
「くう!?」
地面が破砕した。
一体何が起きたのだ?
降ってきたのは異様な棘付き鉄球だった。
鉄球?
それは土煙の中から姿をゆっくりと表した。
用心棒
「……初撃を外したか」
パンプジン
「ナットレイ!?」
それはナットレイの少女だった。
その姿は決して大人の女性には見えず、強いて言えば蜜柑に似ていた。
最大の特徴は両手と背中から伸びた棘付きの鉄球だ。
明らかに人体からは大きすぎるものが3つ、地面を銜えている。
体表の幾らかはシルバーメタリックの装甲で覆われ、髪は緑色で草と鋼が奇妙に同化していた。
ナットレイ
「恨みはない、だが雇われたからな」
ナットレイは右手を持ち上げた。
小さく細い腕に反して、顔より大きな鉄球は持ち上がった。
ナットレイはそれを鎖付き鉄球か何かのように頭上で振り回した。
明らかに食らったら死ねる、いきなりヴァイオレンスなやつ来たな!?
ナットレイ
「まずは正体不明のそこの男!」
ナットレイは俺をターゲットにしたようだ!
ナットレイは棘付き鉄球を振り回した!
本人からすれば、なんてことのないぶん回すかも知れないが(或いはジャイロボール?)、俺は当たれば死ぬレベルのスペランカー仕様だ、必死で避ける!
シェイミ
「お、お兄ちゃん! この!」
シェイミはエナジーボールをナットレイに投げつける。
エナジーボールはナットレイの背中で爆発するが、それは一瞬動きを止めただけだった。
ナットレイ
「生憎だが、その程度の攻撃は蚊ほども通用しない」
そう言ってナットレイはギョロリとシェイミを睨んだ。
その様子にご満悦なのは盗賊達だ。
盗賊
「そいつに草技は殆ど通用しねぇ! 動きは遅いがなぁ!」
ナットレイ
「一言多い……!」
ナットレイは右手の鉄球を振り回す!
鉄球は地面滑るようの抉り、土砂が襲ってきた!?
茂
「ぐおお!?」
俺は鉄球は回避するが、土砂は回避できない!
そのダメージに吹き飛ばされ、俺は地面に転がった。
パンプジン
「だ、駄目!?」
ナットレイ
「止め!」
ナットレイは右手を振り上げる。
やばい、鉄球は大きく持ち上げられ、それが振り下ろされた!
茂
(どうする俺!?)
俺は為す術がなかった。
だが、影は俺を護るように立ちふさがった。
ドスゥ!!
パンプジン
「くう!?」
パンプジンは俺の壁になるように立ちふさがった。
鉄球はパンプジンが受け止める!
ナットレイ
「ち!?」
シェイミ
「パンプジンちゃん!?」
シェイミは咄嗟にエアスラッシュをナットレイに放った。
ナットレイは咄嗟に防御姿勢を取り、エアスラッシュを鋼部分で受け止めた。
俺はその隙に立ち上がると、パンプジンの状態を見た。
茂
「大丈夫か!? パンプジン!?」
パンプジン
「は、はい……!」
パンプジンは腕で受け止めたのか、怪我をしていた。
だがパンプジンは泣き言は言わなかった。
茂
「たく! なんであんな危険な真似を!?」
パンプジン
「だ、だって! き、危険だったから!」
パンプジンは誰かの危険と自分の危険を天秤に掛けられない奴だった。
俺を助ける事に、その意味は大きかった。
茂
「……兎に角ありがとう、問題はこの状況をどうやって突破するかだ!」
パンプジン
「でも、どうすれば!?」
茂
「ナットレイは草鋼タイプのポケモン、草タイプの攻撃はまるで通用しない、だが逆に炎には普通の草タイプ以上に抵抗がないのも特徴だ」
ナットレイはゆっくり立ち上がった。
牽制するシェイミを気にしながら、どちらから処理するべきか吟味する。
ナットレイ
「……やはりこちらから!」
ナットレイは、俺とパンプジンを見た。
パンプジンは俺を見る。
パンプジン
「ほ、炎が効くんですね?」
茂
「ああ、間違いない!」
パンプジンはグッと、掌に力を込めた。
それは決意を固めた者の姿だった。
ナットレイ
「はぁ!」
ナットレイは巻き込むように右手の鉄球を横に薙ぎ払う!
俺は一瞬早く後ろに退き、パンプジンは逆に前に出た!
ナットレイ
「なに!?」
パンプジン
「マジカルフレイム!」
パンプジンはナットレイの触手を霊体化してすり抜けた。
そして隙だらけのナットレイにパンプジンは、魔法の炎を放った!
マジカルフレイムはナットレイを焼き、ナットレイは炎上した。
ナットレイ
「くううう!?」
ナットレイはすかさず地底湖に飛び込んだ!
盗賊
「よ、用心棒がやられただと!? アイツ炎まで扱えるのか!?」
盗賊はここまでまるで攻撃を寄せ付けなかった用心棒が撃退されたことにどよめいた。
本来シェイミのベースキャンプ襲撃でも想定して、雇ったんだろうが、運が悪い事にパンプジンは草タイプでは稀な程炎技を多く覚える。
茂
「さて、どうする!? 盗賊団!? 俺達は山越えをしたいだけだ!」
盗賊
「くそ!?」
茂
「どうする!? 力づくで叩きのめされたいのか!?」
俺はこの交渉タイミングで、脅迫を使った。
用心棒を失い、更に元々盗賊団は草タイプに弱い。
盗賊はこの交渉に舌打ちをした。
誰もが分かっている、勝ち目はない。
盗賊
「くそ……撤収だ、撤収!」
盗賊達は、次々と地底湖へと潜って行った。
俺達はやっと一息をついた。
茂
「はぁ……、なんとかなったか」
ナットレイ
「……職を失ったか」
盗賊が姿を消すと、鎮火したナットレイが水面から顔を出した。
盗賊がやる気を無くし、ナットレイが結果を出せなかったためか、もう既に敵意はなかった。
ナットレイ
「済まないが、引き揚げてくれないか……重くて浮上できないんだ」
茂
「あ、ああ」
俺はナットレイの腕を引っ張った。
が、棘付き鉄球3個付きの少女の水中重量は半端ではなかった。
体重は軽くなるが、抵抗は空中より大きいからとても一人では持ち上がらない!
茂
「まじで重!? ちょっと手伝って!?」
パンプジン
「わ、分かりました!」
シェイミ
「で、でしゅ!」
結局ナットレイは三人がかりでなんとか引き上がった。
ナットレイ
「助かったよ、ボク体重120キロあるからね」
シェイミ
「あたしの4倍……」
ナットレイは鉄球の棘を食い込ませると、それを支えに立ち上がった。
棘付き鉄球はそれ自体は触腕の類いのようで、器用に使っていた。
ナットレイ
「さて、引き上げて貰った礼だけど、山越えをしたいんだって?」
茂
「ああ、ドラゴンを追っている」
ナットレイ
「ドラゴン?」
俺はシェイミのベースキャンプで起きた事件をナットレイに説明した。
ナットレイはそれを聞くと、顎に手を当て「ふむ」と考え込む。
ナットレイ
「と、するとあの話と関係があるのかな?」
茂
「あの話とは?」
ナットレイ
「君たちの追っているドラゴンと同じかは分からない、だけど骸骨のような衣装のドラゴンが今山の向こうで噂されている」
シェイミ
「あのドラゴンは一人じゃないんでしゅか!?」
パンプジン
「で、でも! 同じ種ならその人に血液採取させて貰えれば!」
ナットレイ
「ふむ、ボクは毒や病とは無縁だからね、だが未知の病とは興味深い、ボクを雇ってみないかい? こう見えてもパワーもあるつもりだ」
ナットレイはそう言うと、細腕に力を込めた。
ギルガルドの蜜柑からして、細身で馬鹿力だからまぁ見た目はアテにならんが、ナットレイの実力は本物だろう。
シェイミ
「ど、どうするでしゅか?」
パンプジン
「わ、私はお兄さんに任せます」
茂
「給料は払えんが、それでもよければ仲間に加えよう」
ナットレイ
「ふふ、ボクはこう見えても数奇な運命という物に惹かれる性質なんだ、面白そうじゃないか♪」
ナットレイはそう言うとニヤっと笑った。
こうして俺達は新たな仲間を迎える。
土地勘のあるナットレイ案内の下、俺達は山越えを果たすのだった。
突然始まるポケモン娘シリーズ外伝
突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語
#2 山越えと盗賊 完
#3に続く。