突ポ娘外伝






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第五章 おばけカボチャと無垢なる竜
#1 パンプジンとシェイミ

#1



少女
 「……」

ここは鬱蒼とした森。
私はここで空を見上げながら森林浴をしていた。
空はこの森ではほとんど見えない。
つまりそれ位薄暗いけど、私はここが好きだった。
パンプジンである私は、種族的にはおかしいかもしれないけれど、こういう暗くて湿度のある場所が好みだ。
自分で言うのもなんだけど、私は暗いと思う。
それでも、私は空を見上げた。
それは憧れだった。


 「パンプジンちゃ〜ん!」

パンプジン
 「!」

後ろから小さな少女が駆けてきた。
この森から少し離れた場所にある高原にキャンプするシェイミの一匹だ。
私は後ろを振り返る。
少女は嬉しそうに手を振っていた。


 「ぁぁぁぁああああ!?」

その時だ。
空から何かが降ってきた。

ズササササァァァァ!

それは枝を薙ぎ払い、落ち葉がたっぷり積もった堆肥の上に落ちてきた!



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

第五章 おばけカボチャと無垢なる竜



***




 「瑠音、ありがと……う?」

おっす、俺は常葉茂!
ぶっちゃけもう説明はいらないよな!?
俺は光に包まれ、目の前に既に瑠音はいない。
そして俺が最初に感じたのは、浮遊感だった。


 「て、またかああああああああああああ!?」

これなんてデジャビュ?
俺はまたもや空にスポーンしており、眼下に広がったのは森だった!?
うげぇ!? これは死ねるだろ!?
兎に角頭は護れぇ!!

バキバキバキ!

俺に降りかかるのは枝に葉っぱ達だ。
凄まじい激痛に襲われながら俺は、地面に激突した。

バサァァァァ!

それは落ち葉が堆積して出来た天然の堆肥だ。


 「生きてる?」

俺は自分が意識を保っている事を確認した。
幸いにも堆肥がクッション代わりになってくれたらしい。
それ以外も死ぬほど痛いが、枝にぶつかりまくって減速した事も原因だろうか。


 「だぁぁぁ! 出現する度にいきなり殴られたり、海に突き落とされたり! 運営悪意ありすぎだろ!? ごらーー!?」

俺は怒り心頭で顔を上げた。
とりあえず状況確認すると、そこは薄暗い森だった。
丁度真上から光が溢れているが、ぶっちゃけ俺が落ちた穴だな。

パンプジン
 「ひ!? な、なに……!?」


 「うん?」

俺は声の方を向くと、そこには腰が大きなおばけカボチャになった、ハロウィンの仮装のような、ともすれば中世の黒魔女と現代的な魔法少女が融合したような少女がいた。
ピンク色の髪はおばけカボチャにまで伸び、顔の半分は髪に隠れている。
美少女だが、俺を見て怯えているな。


 「お兄たま?」


 「!? 誰だ!? 俺をお兄たまなんて言うのは!?」

俺は反対を振り返る。
すると、既にあるチミっ娘が俺に向かって飛び込んできた。

チミっ娘
 「やっぱりお兄たまでしゅ〜♪」


 「なっ!? シェイミ!?」

俺はシェイミのタックルに態勢を崩しかける。
だが流石にこれで倒されたら情けない、なんとか持ち堪えた。
その少女は俺の知っているシェイミだった。
ランドフォルムの姿なのか、100センチ程度の小さな身体、真っ白なアオザイと、シトラス系の香りの葉っぱの髪だった。

シェイミ
 「お兄たま〜♪ なんでここにいるのか分からないけど嬉しいでしゅ♪」


 「お前こそなんでここに? ていうかここは何処だ?」

シェイミ
 「ここはあたしの住んでいる世界でシュ、フーパちゃんの力を借りて帰郷したんでしゅ」


 「シェイミの故郷?」

それよりもフーパ?
アイツ無事だったのか?
ジラーチはフーパを助けるために戦っていたが、もしかしてあれからかなり時間が経ったのか、それとも世界ごとに時間が違うのか?

パンプジン
 「シェ、シェイミちゃん、そ、その人し、知り合いなの?」

シェイミ
 「うん♪ とっても大好きなお兄ちゃんでしゅ♪」

嬉しいことを屈託もなく言ってくれるが、この少女ドン引きしてないか?


 「お、俺はロリコンじゃないからな!? 断じてロリコンではない!」

そりゃ茜と結婚してるが、それはロリコンだからじゃない!
純粋に彼女を愛したからだ!
シェイミには手を出した事はないし、好意を無下に出来る訳ないじゃないか!?


 「ソンナコトキイテルンジャネーンダゼ、ブッソウナメノニーチャン?」


 「な、なんだ? 今の声?」

なんだか少し甲高く柄の悪い声がどこからか聞こえた。
俺は周囲を伺うが、この少女たち以外に姿はない


 「ドコミテンダヨ! ニーチャンノメハフシアナカ!?」


 「ま、まさか!?」

俺はカボチャの少女の方を見た。
カボチャの少女は「あわあわ!?」と慌てふためいていた。
間違いない! 今の柄の悪い声はこの少女が出したぞ!?


 「君一体……?」

パンプジン
 「ち、ちが……!?」


 「オイ! パンヲイジメルンジャネー!!」


 「なぁ!? ま、まさか喋ってるのは……!?」

パンプジン
 「ち、違うよカボ!?」

カボ
 「アメーゼ、スイートシュノヨウニアメー! ダカラパンハナメラレンダヨ!」

それは腰の大きなカボチャだった。
少女がカボと呼ぶ存在は明らかに少女とは別の意思を感じる。
この子一体どうなってるんだ!?

パンプジン
 「あ、あの! わ、私パンプジンって言います! それでこの子はカボ」

カボ
 「サンヲツケロヨ! コノデコスケヤロウ!」

パンプジン
 「も、もう! 駄目だから!」


 「お、俺は常葉茂……は、はは」

俺は思わず苦笑いしてしまう。
パンプジン、その少女は同時にカボと言う謎のカボチャと同居しているのか?
ただ、おどおどして臆病なパンプジンと口が悪いカボは、妙な親和性もある。
漫才のようというか、歪なんだが、それで上手く収まっているというか。

シェイミ
 「パンプジンちゃんはここをベースキャンプにしているんでしゅ」


 「ベースキャンプ?」

パンプジン
 「わ、私旅人なんです……」


 「一人旅、か?」

パンプジン
 「は、はう…‥っ!」

パンプジンは小さくコクリと頷く。
うーむ、ポケモン世界は詳しくないが、こんな娘でも旅って出来る物なのか。
いや、草タイプなら案外水と光があればなんとかなるのか?

シェイミ
 「あたし達、シェイミのベースキャンプも近くにあるでしゅ、お兄たまも良かったら一緒に来るでしゅ?」


 「シェイミのベースキャンプか...…そうだな、とりあえず行動してみるか」

例によって最初は何をすればいいのか分からんからな。
俺を監視しながら、こうも弄ぶ存在は一体何が目的だ?

シェイミ
 「じゃあ、手を繋いで行くでしゅ♪」

そう言うとシェイミは嬉しそうに俺の右手を引っ張る……が。


 「痛っ!?」

シェイミ
 「えっ!?」

パンプジン
 「はっ!? み、診せてください!」

突然全身に激痛が走って、俺はその場に蹲ってしまう。
パンプジンは俺に近寄ると、直ぐに顔を青くした。

パンプジン
 「酷い打撲に裂傷……立ってたのが不思議」

シェイミ
 「や、やだ〜!? お兄たま死んじゃやだ〜!」

パンプジン
 「だ、大丈夫……これなら薬で……」

パンプジンはそう言うと腰のカボチャに手を突っ込んだ。
カボチャの内部はくり抜かれているのか、結構なスペースがあるようだ。
パンプジンはそこからいくつかの薬を取り出す。


 「そ、その薬は?」

パンプジン
 「裂傷に効果的な軟膏です、こっちは打撲用、でこれが痛み止め」

シェイミ
 「あ、あたしどうすれば!?」

パンプジン
 「感染症防止のため、周囲の空気の浄化をお願い!」

シェイミ
 「う、うん!」

シェイミはそう言うと全身を震わせる。
シェイミはその身体で空気を吸い込み、フィルターのように吸着させて、空気を正常化させる能力がある。
言ってみれば生体エアコンなのだろう。
パンプジンはその間に、俺の服を脱がすと薬を塗っていった。


 「く!?」

パンプジン
 「ご、ごめんなさい……アロマセラピーが使えれば、痛みを和らげられるんですけど」


 「な、なに……気にするな、かの名将関羽は外科手術を受けながら、碁を興じていた位だ、それに比べたら」

カボ
 「クラベルアイテマチガエテネーカニーチャン?」

カボチャに突っ込まれた。
うん、流石に関羽と華佗の話は現代医学からしたら無茶振りだからね!
でもナイチンゲール位の時代までは衛生管理なにそれ美味しいの? だった事を考えれば、この娘はかなり医学知識があるようだ。

パンプジン
 「こ、これで良し……暫く安静にしててください」

ふぅ、とパンプジンちゃんは疲れた様子で息を吐くと、その場に座り込んだ。


 「パンプジンは医者なのか?」

パンプジン
 「わ、私は医者なんて、こ、高尚なものじゃなくて、た、ただの薬師だよ!?」

パンプジンは医者かと問われると、顔を真っ赤にして違うと言った。
薬はちゃんと効いたのか、気持ち痛みは和らいでいた。

シェイミ
 「はふぅ……! パンプジンちゃんは凄い薬師なんでしゅ!」

シェイミは空気清浄を終えると、疲れた様子でそう言った。
しかし褒められる事になれていないのか、パンプジンは耳まで真っ赤にした。

パンプジン
 「は、はうぅぅ〜! わ、私の知識なんて、お祖母ちゃんの受け売りで……」


 「お祖母ちゃん?」

カボ
 「イダイナパンプジンナンダゼ、1000ネンモイキタナ!」


 「1000年……縄文杉並かよ」

植物系ポケモンだと長寿は珍しくないのか?
パンプジンは更にゴーストタイプ、アニメだと長生きオーロットなんてのも出てきたし、別に不思議でもないのか。
つまりはそんな偉大な先代の知識を受け継いだ訳か。

パンプジン
 「わ、私……なにか、使えるものはないか、探してきます!」

パンプジンはそう言うと、森の奥へと消えてしまった。
シェイミは俺の顔を覗くと、申し訳なさそうにシュンとした。

シェイミ
 「ごめんなさいでしゅ、お兄たまの怪我に気付かないではしゃいじゃって……」


 「しょげるなよ、お前は元気なのが取り柄だろう?」

俺はそう言うとシェイミの頭を撫でる。
シェイミは目を細めるとそれを受け入れた。


 「安静にと言われた以上、お前のベースキャンプはちょっと無理そうだな」

シェイミ
 「……うん、で、でも! 暫くは近くの高原にキャンプするから、大丈夫でしゅ!」

シェイミはそう力説すると、立ち上がった。

シェイミ
  「一旦戻るでしゅ、また明日くるでしゅ」

シェイミはそう言うと、パンプジンとは逆の方へと走る。
俺は一人になると、静かな森で目を閉じた。
そしてこれまでと、これからを考える。


 (ルージュ、燐、恋、瑠音……必ず俺を助けてくれたポケモン娘達はいた)

だが、その出会いは様々だ。
ルージュは暗殺者として現れ、燐は敵組織の末端として、恋は記憶喪失で、瑠音は海にも陸にも忌み嫌われた間者であった。
もしもこれさえも監視者が用意した盤面なら?
一体今度は俺に何をさせる気だ?


 (目的、メリット……いや、メリットがあるとは思えない。ならば確認か? 俺の何かを確認している?)

勿論推測から、確証は得られない。
だが、一見バラバラに見えて、必ず線は繋がっているはずだ。


 「神様……か」

最初にそれを口にしたのは中老師だ。
だがルージュが出会った願いを叶える者、マギアナは実際に歪んだ願いを叶えられた。
ソイツは確実に俺を監視している。
その意味は?


 「特異点?」

何度もこのワードは出てきたが、俺にはさっぱり分からない。
だが俺は特異点だという。
事象を捻じ曲げるだとか、歴史改変とか、俺自身さっぱり認識出来ない事を言われても、分からん物は分からん。


 「仮に運命を変えたとして、それを制御も出来ないんじゃな」

俺自身転ぶ先が分かっていないのだ。
だがマギアナは言った、本来燐は吐いて捨てる有象無象でしかなかった。
ヒロインであったマギアナを転落させ、燐が世界のヒロインになったことを、マギアナは誤算と言った。
マナフィは俺の特異点としての力を認識していた節がある。
だが、俺が敵になったことで、アイツの行動にケチが付いた。
これらは偶然か? 分からない。


 「それが分かれば、攻略の糸口になるのか……?」

俺は諦めるように空を見上げた。
とりあえず…‥腹減ったなぁ。



***



パンプジン
 「これ、食べられる」

私は森の奥で必要な物を集めていた。
それは薬の材料だったり、今日食べられる物だったり。
それにしても、今日はビックリだ。
いきなり空から男の人が降ってくるんだもん。
しかもそれが物凄く怖い目をしていて、私殺されるって思った。
だけど、シェイミちゃんはそんな彼に嬉しそうに抱きついていた。
シェイミちゃんがあれだけ懐くなら悪い人じゃないんだろう。
怪我が発見された時は必死だった。
なんとか助けないとと思って、無我夢中だった。
後から考えたら、男性の服を脱がせるとか、すごく恥ずかしい!

パンプジン
 「うう〜、もうあの人の前に顔を出せる気がしない…‥でも、患者は見捨てられないし」

そこで、私はため息を吐いた。
他のパンプジンが見れば、私を嘲笑うだろう。
餌がやってきた、そう考えるのが本来のパンプジンだ。
パンプジンはゴーストタイプのポケモンだ。
生命を吸い尽くすその性質はエゴ的で、私はそれを否定してしまった。

パンプジン
 「おかしいよね、だから一人でいるんだもん、ねぇ、カボ」

カボ
 「……」

だが、カボは何も答えない。
当然だ、その理由は自分で理解している。

パンプジン
 「あ、これは使える」

私は物拾いの特性があるから、探索が得意だ。
そうやって気がつくと、自分が持てる量も限界にきていた。

パンプジン
 「そろそろキャンプに戻らないと……?」

ふと、その時だ。
元々薄暗い森が更に闇夜に染まった。
私は上を見上げる、夜はまだ早い筈だ。
だが、闇は一瞬で飛び去った。

パンプジン
 「なにか、大きな鳥ポケモンが通過した?」

大きい、と言うがあんな大きな鳥は初めて見た。
一瞬で分からなかったが、自分の何倍も大きかったと思う。
だけど、それだけなら何も気にしない筈なのだ。
何故かもの凄い胸騒ぎがしてしまう。

パンプジン
 「あの、方角……シェイミちゃんのベースキャンプ地!?」

私は慌てて、走った。
今更気にしても何も間に合わない、それが分かっていても。



***




 「ん? パンプジンどうした? 何か急いでいるようだが?」

パンプジン
 「はぁはぁ! シェイミちゃんは!?」


 「シェイミならもう帰ったが?」

パンプジンはシェイミを探しているらしい。
だが一足早くシェイミは既にベースキャンプに帰っていた。

パンプジン
 「嫌な予感がする……さっきの大きなポケモン……!」


 「大きなポケモン?」

何か、気になるワードだな。


 「どこに向かったんだ?」

パンプジン
 「シェイミ達がキャンプするグラデシア高原の方に!」


 「ッ!?」

俺はその言葉に立ち上がった。
慌てて、パンプジンは止めにかかる。

パンプジン
 「ま、まだ駄目です!」


 「シェイミがピンチってなら、黙ってられるか!」

俺はそう強い声でいうと、パンプジンは小さく悲鳴を上げた。


 「すまん、君を責める気はないが……もう間に合わないなんて嫌なんだ……!」

これまで、死ななくてもいい人が何人も死んだ。
無粋かもしれないが、俺が間に合えば、何か変わったんじゃないか、そう思える。
だから、俺はまだ怪我が治った訳でもないのに、走り出した!

パンプジン
 「ま、待ってください! 傷が開きますよ!?」


 「その時はその時で迷惑かけるぜ先生!?」

パンプジン
 「ピィ!? せ、先生!?」

俺はそう言うと、シェイミの進んだ道を思い出しながら森を抜けた。
森を抜けると、一気に視界は広がる。
ここから更に1キロ程離れた場所にだだっ広い高原が見えた。
だが、その高原の真上には赤紫色の雲が渦巻いていた。


 「あれは!?」

俺はその色に見覚えがあった。
宰相ルビィに利用され、災厄と呼ばれたポケモン娘。
あのホネホネ少女が放っていた色と同じ色だ!
パンプジンは巨大なポケモンと言った。


 「まさか俺と一緒に転移したってのか!?」

パンプジン
 「何か知っているんですか!?」


 「詳しい事はまるで、だがヤバい力があるのは理解している!」

あの巨人化現象、あれはあの少女を利用した力だ。
だがそれは機械に繋がれ、強制的に動かされていた。
もし彼女がその気のまま力を振るえば、一体何が起きるんだ!?


 「兎に角急ごう! シェイミが心配だ!」

俺たちは高原に向かう緩やな坂道を登って行った。
やがて、空気が冷たく変わっていくと、惨状が目に入った。

シェイミ
 「皆! しっかりして! ううううう!」

高原に広がるグラデシアの花の群生地。
そこには何十匹ものシェイミが暮らしていた。
だが、今そんなシェイミ達は、花畑で顔色を悪くして倒れていた。
俺たちの知っているシェイミは、必死に空気を吸っていたが、その場の空気は汚れすぎていた。

パンプジン
 「こ、これは!?」

シェイミ
 「あ!? パンプジンちゃん!? 皆を診て!」

パンプジン
 「わ、分かりました!」

シェイミはパンプジンを見つけると、泣き叫びながら懇願した。
パンプジンは直ぐに倒れてぐったりしているシェイミに近寄る。

パンプジン
 「これは毒!? で、でも毒が特定出来ないと、薬を間違えたら逆効果に……!」


 「花……枯れていない? 不気味に変色しているが」

パンプジン
 「え?」

パンプジンも気づいた。
毒物が撒かれたなら、より生命力の低い物から死滅するだろう。
だが草原も花畑もまだ無事だった。


 「シェイミ、ここで何があった!?」

シェイミ
 「と、突然とても大きな骨のドラゴンがやってきたでしゅ! それが暴れて……! アタシは運良く少し離れていたから無事だったけど」


 (としたら毒ドラゴンのポケモンか? ドラミドロ系列以外存在したのか?)

俺は状況から類推する。
これはポケモンによって作られた人工の毒ということか。


 「で、そのドラゴンは?」

シェイミ
 「北の空に、消えていったでしゅ」

北の空……。
シェイミが差す方角には山脈があった。
高原より更に高い尾根には雪が積もっている。


 「毒の原因はこの妙な雲か?」

それは高原の上に滞空する赤紫色の雲だ。
それは不自然な位その場に留まっている。


 「シェイミ! あの雲にシードフレア、行けるか!?」

シェイミ
 「や、やってみるでしゅ!」

シェイミは空気を集める。
そして力を溜め込むと、それを雲に放った!

バァァァン!

雲の中で爆破地が起きた。
緑色の爆風は雲を四方へと吹き飛ばす。

シェイミ
 「や、やった!」


 「パンプジン!? 治せそうか!?」

俺はパンプジンを見た。
しかし彼女は暗い顔で首を振った。

パンプジン
 「私の知識じゃ、この毒はわかりません」

それは治せないのか?
薬は用法を間違えれば毒だと聞く。
毒の正体が分からなければ薬も使えないのか。

パンプジン
 「せめてそのドラゴンがいれば、血清を作ることで対処できると思うけど」

シェイミ
 「!?」

シェイミは咄嗟にグラデシアの花を手に取ると、それを嗅いだ。
するとシェイミの身体は20センチ程大きくなり、赤いスカーフを首に巻き、頭に白い翼を生やすスカイフォルムに変化した。

シェイミ
 「アタシが皆を助ける! そのドラゴンとっ捕まえればいんでしょ!?」


 「お前一人で行く気か!?」

パンプジン
 「む、無謀です! 相手は未知のポケモンですよ!?」

シェイミ
 「でも! アタシがなんとかしないと! アタシは一生臆病者だっ!」


 「パンプジン、シェイミたちの容態は? 持ちそうか?」

パンプジン
 「何分未知の毒です……自己免疫機能だけで快復するかもしれませんし、重症化する危険もあります……ただ草原を見ると、30日は持つんじゃないでしょうか?」


 「30日か、オシ! シェイミ! 俺も手伝うぞ!」

シェイミ
 「お兄が!? 無茶だよ!?」


 「シェイミ、無理だとか無茶だとか、そんなのはもうこれまでも何度も経験してきたし、そんなのは知ったこっちゃねぇ! 救いたいんだろ!?」

パンプジン
 「…‥!?」



***



救いたい。
シェイミは感謝ポケモンだ。
それは生き様にも現れている。
打算ではなく、仲間思いだからこそ、向こう見ずになれる。
パンプジンとは正反対の種族だ。

パンプジン
 (シェイミちゃん、仲間からイジメられているのに、それでも……そしてお兄さん)

お兄さんはシェイミではない。
だけど、自分を顧みず、何故そこまで頑張れる?
私が持っていない物をこの二人はこんなに持っている。

パンプジン
 「あ、あの!」

私は勇気を振り絞った。
二人が私を見る。
私はテンパりながら、言葉を振り絞った。

パンプジン
 「わ、私も行きますっ! 私もお兄さんと同じ意見なんですっ!」

そう、そして始まる。
これは陰キャな私と、陽キャなシェイミ、そして不思議だけど、とっても暖かいお兄さんの冒険物語。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#1 パンプジンとシェイミ 完

#2に続く。


KaZuKiNa ( 2020/07/19(日) 19:59 )