#10 終末戦争
#10
ルビィ
「何? 星の民が消えた?」
常葉茂が消えた。
その情報はすぐ様執務室にいた宰相ルビィの元に届いた。
ルビィにその情報をもたらした男は顔を青くしながら、更に続けた。
諜報官
「お、恐らくオウガ派の犯行ではないかと……!」
常葉茂が姿を消す前後、軍部で小さな騒動があった。
その内容は労働環境に対するデモであり、幸いすぐに抑えられたが、その僅かな時間、宰相派も動きにブレが生まれたのだ。
ルビィは「ハァ……」とため息を溢すと、失望したように首を横に振った。
ルビィ
「今更星の民一匹、どうでも良い! それよりもオウガをここに呼びなさい!」
諜報官
「は……ハッ!」
男はキッチリとしたやや過剰な敬礼を行うと、その場を退室する。
ルビィはそれを見送り、机のモニターを見た。
モニターに映っていたのは、無数のチューブに繋がれた球体ケースの中で、液体の中を浮かぶ、一匹のポケモンだった。
肉らしき肉もなく、並の者ならば悍ましさすら感じる、骨の塊のようなポケモン。
その姿はあまりにも巨大で、そしてこれが生きている等誰が思おうか?
だがそのポケモンの『コア』は妖しく輝き鳴動しているのだ。
ルビィ
「ククク……星降る災厄、マナフィを超えし魔神……これがある限り私の勝ちは確定なんですよ」
その笑みには狂気があった。
ガイアが育んだこの世界で、その恵みを受けぬ者が2匹いる。
一匹は星の民、もう一匹はこの怪物だ。
***
茂
「随分大胆な勧誘だな」
ひと騒動の後、街は少し騒然としていた。
突如アースピアで住民がデモを行ったのだ。
それは政治批判を含む、環境の改善を求めるものだった。
だが、それは盛大なブラフだ。
俺の目の前には今、豪快に笑うオウガが立っていた。
オウガ
「ハッハッハ! これも政治という奴でな!」
この陸の民の世界において、軍に政治的発言権はない。
だからといって、軍になにも出来ない訳じゃない。
それが、街の光景の現実だ。
軍は住民を扇動し、このデモを行わせた。
元々住民はこの管理社会に不満があり、更にオウガになら力を貸しても良いという者もいた。
このデモ事態が作為的であり、全ては俺を隠すためだったのだ。
そうして、俺はこうやって軍部が隠れ潜むマンションの一室にやってきたのだ。
茂
「それで、要件は?」
オウガ
「簡単な事だ、俺はルビィが気に入らん! だからお前を奴らから連れ出した!」
軍部と政治部、その犬猿の中は部外者の俺でも分かる物だった。
だが、俺はそれに頭を掻いた。
茂
「俺に大した力は無いぞ? 軍にデメリットはあってもメリットは無くないか?」
オウガ
「ガッハッハ! そうでもないさ! 少なくともお前は俺たちを利用してでもやるべき事があるんだろう!?」
オウガの指摘、それは正しい。
この男は、見た目とは違い頭は良いのだろう。
少なくとも察しは良い。
茂
「戦争を止める……は、正直無理なんだろうな」
オウガ
「マナフィを説得できるなら考えんでもない!」
俺はげんなりとした。
そうだよ、肝心のマナフィはどうなんだ?
少なくとも、アイツは100年以上前から警告していたのだ。
そして今もガイアを目覚めさせる為に活動している。
ある意味終末戦争を求めているのはマナフィの方だ。
茂
「マナフィは止める! そして殺させない!」
オウガ
「ククク……それをよくこの場で言う! 大した度胸だ!」
全くだな。
周りは屈強な陸の民の兵士だらけ。
その気になれば俺なんて一溜りもない。
だが、俺はそれを恐れはしない。
そもそも部外者の俺がこの当事者達に介入するには、これしかないのだ。
オウガ
「ルビィは最終戦争のスケジュールを加速させている……奴の自信はエンデュオンにある謎の力のためだ」
茂
「……で、アンタはそんな得体のしれない物に部下を振り回されたくないって訳か」
俺はそれを言い当てると、オウガは驚いたようにキョトンとした。
悪いが俺は賢しいからな、居酒屋の一件で俺はオウガの考えは大体理解したつもりだ。
この人は、見た目こそ恐ろしいが、内実は自信の無い英雄だ。
周囲の信望に比例して、本人はそのプレッシャーと戦っている。
そんな彼の不安は、俺にも見て取れた。
茂
「逆にアンタは俺に何を求める?」
オウガ
「未来だ!」
未来ときたか。
それに俺はニヤッと笑った。
恐らく俺とオウガの利害は一致する。
茂
「俺に出来る事なら!」
俺はオウガに手を差し出す。
オウガはそれを見て、ニヤッと笑うとその熱い手で俺の手を握り返してきた。
かなりの握力だ、だが俺は笑顔を崩さず握手に応じる。
オウガ
「お前に賭ける……星の民だからではない、お前がお前であるために!」
それこそが、オウガの本音だ。
オウガは握手を終えると、机にある大きな紙面を広げた。
オウガ
「我々の目的は皇家座乗艦エンデュオンにある倉庫アルヴィスブロックへの潜入だ!」
それは船の見取り図だ。
エンデュオンは軍艦EDFの真上になる。
今は既に放棄された艦だが、船自体は今も動いているのだという。
兵士
「エデン全体の電力収支に不審な点もあります、どうやらエンデュオンにかなりの電力が使われているようなのです」
茂
「既に誰も住んでいないのに、か」
オウガ
「ルビィは秘密主義だ、恐らく詳細を知っている者も片手で数える程度だろう」
そんな重要な場所、一体なにがあるってんだ?
少なくとも、マナフィに戦争を仕掛ける動機になる何か。
それが分かれば、マナフィを止められるのか?
オウガ
「作戦は簡単だ、俺はルビィを陽動する、その隙に強行突破を行う」
茂
「ちょっと待て!? 強行突破って……!?」
オウガ
「ククク……利用するぞ、常葉茂!」
オウガはそう言うと怪しく肩を揺らした。
俺はなんとなく、オウガの狙いを察してしまった。
星の民っていう称号を利用しようってか?
***
作戦決行、俺はある大きめの箱に入れられて、EDFを通過していた。
俺の入った箱を運ぶ屈強な軍人兄ちゃんたちは、今エンデュオン隔壁を目指していた。
俺はその間に、するべき事を再確認しておく。
茂
(狂言か……正直得意じゃないんだがな)
そう、これから行おうとしているのは狂言なのだ。
俺は小さくため息を吐くと、真剣な顔をする。
やがて俺を運ぶ揺れが収まった。
そしてズシンと箱が落とされる。
警備兵
「待て、これ以上先はルビィ宰相閣下の許可が無き者は通すことが出来ない」
茂
「ほお〜? それは星の民にも言える事か?」
ガタン、俺は箱の蓋を外すと、外に出た。
無骨な隔壁前、二人の警備兵は驚愕の顔で俺を見た。
警備兵
「お、お前は!?」
茂
「おっと、余計な動きは死を招くぞ? なにせ俺は凄い超兵器があるんだからな!」
警備兵
「ちょ、超兵器……!?」
陸の民にとって、星の民は畏怖の象徴らしい。
かつて星の民は超概念生命体ガイアと壮絶な星間戦争を行ったという。
ガイアでさえも、どうにも出来なかったと伝えられる星の民の力は、陸の民にとって得体が知れず、そのまま畏敬の念だけが残ったのだ。
警備兵たちは、その審議の分からない言葉に怯えていた。
得体が知れないというのは、そういう怯えなのだ。
茂
「ククク……貴様は俺を怒らせたいか?」
警備兵
「ヒッ!?」
一人の警備兵がその場で崩れ落ちた。
俺はなるべく凄むと、警備兵は大人しく道を開いた。
茂
「ありがとう、そんな貴方に」
俺はゆっくりと警備兵の前に歩くと、掌を警備兵の顔面に近づけた。
茂
「ドーン!」
俺は大声でそう叫び、掌を押し付けた。
すると警備兵は。
ドサリ。
茂
「ショック死しやがった、気の小せえ奴」
なんて世紀末石油王みたいな事を言うが、勿論冗談である。
実際には失神しただけだ。
俺は高笑いをすると、そのまま隔壁を通過するのだった。
茂
「フハハハ! 行くぞ!」
俺は屈強な兵士4人と共にエンデュオンへと乗艦するのだった。
兵士
「アンタ……さっきの超兵器ってのは?」
兵士の一人、ブーバーの兵士は誰もいなくなると、それを聞いてきた。
俺は鼻で笑うと。
茂
「ある訳ない! だが恐怖心は正常な思考を奪うぞ?」
結果はあの警備員を見れば分かるとおり。
俺ってもしかして詐欺師の才能でもあったりするのかね?
でもまぁハッタリは決まれば絶大な効果があるのは某ギャンブラーの兄の敗因でも証明されているからな!
茂
「バレなきゃあイカサマじゃねぇんだぜ?」
それを聞くと、屈強な兵士たちは呆然とした。
そう、それだけなのだ。
力なんていらない、言葉だけでも人は戦えるのだ!
茂
「それじゃ、ブツを急いで抑えますかっ!」
***
ルビィ
「なに? 星の民がエンデュオンに?」
常葉茂の突入後、警備兵は急いでルビィに事の詳細を連絡された。
ルビィはあまりにも不甲斐ない警備員にただ、落胆の声を出す。
ルビィ
「所詮平和ボケした者では、真贋も見分けられませんか」
星の民は理解不能の怪物等では無い。
超兵器等、あの男が持っている訳がないのだ。
全く無知とは恐ろしい物だ。
だが、こんな事あの男に出来る訳がない。
星の民は兵士と一緒に行動していたという……つまり。
オウガ
「ルビィ! 来てやったぞ!」
その時、野蛮さが服を着たような男はルビィの執務室に入ってきた。
ルビィはオウガを確認すると、その鋭い目で睨みつけた。
ルビィ
「やってくれましたねオウガ……!」
オウガ
「ん〜? なんの事だ?」
オウガは恍ける気だ。
あくまで責任を星の民に押し付ける気だろう。
だが、ルビィはすぐに冷静になる。
気の迷いは必要ない。
ルビィ
「ククク……良い機会です、貴方にもお見せしましょう、あなたの知りたかった物!」
ルビィはそう言うと、デスクを弄った。
すると壁にプロジェクタースクリーンが映し出される。
そこに映っていたのは、胎動する怪物だ。
オウガ
「骨の死体……いや!? まさかこの怪物がアルヴィスブロックの!?」
ルビィ
「そう……今より千年以上も昔……この星に降ってきた災厄です!」
オウガ
「なんだそれは!?」
ルビィ
「ククク……! それは皇家が隠してきた秘密、そして滅んだ理由であり、マナフィを抹殺出来る力なのですよ!!」
オウガはその言葉の意味を理解しきれなかった。
皇家の秘密?
滅んだ理由?
ルビィ
「かつて陸の民をその毒で汚染し、滅ぼしかけた。しかしそれはガイアに依存しない力であった。かつての皇家はそれをなんとか眠らせ、封印することにしたのです。そしてそれはこのエデンに持ち込まれた!」
宇宙より飛来したそれは遥か昔、この星に災厄を齎した。
未知なる毒に侵された陸の民たちは次々と命を落としたという。
そんな災厄を鎮めたのが皇家だという。
だが、災厄は今も毒を放っているという。
それが原因で、隔離された皇家はこのエデンの中で滅んだのだ。
それを理解したオウガは吠えた。
オウガ
「貴様!? なぜそんな危険な物を俺にも教えなかった!? この艦の民を全滅させる気か!?」
ルビィ
「ハハハ! それこそが皇家が隠し通した秘密、あれは危険なだけではなく、魅惑の蜜も持っているのですよ!」
オウガ
「蜜だと!?」
ルビィは狂笑しながら、デスクのあるボタンを押した。
ルビィ
「さぁショーの開始と行きましょう! エデン! 浮上しなさい!」
***
ゴゴゴゴゴ!
茂
「な、なんだ!? 地震!?」
兵士
「い、いや……これまでの振動とは桁違いだ!? エデン全体が揺れている!?」
それは立っていることも出来ない衝撃だった。
そして振動が終わると、まるで地面に引っ張られるような感覚を味わう。
それはエレベーターが上昇するときと同じだ!
茂
「浮上してる!?」
***
フィオネ
「マナフィ様! 海がっ!?」
マナフィ
「分かっとる……奴ら遂に来よったか!」
瑠音
「……!」
私はその海からせり上がってきた物を見て、不安で胸が押しつぶされそうだった。
都市型複合潜水艦エデンが浮上を開始したのだ。
それは一見すればまるで宇宙戦艦のようにも見えるだろう。
大小様々な潜水艦を連結させて構成されるエデンは既存の船とはまるで違う。
全長200km、大陸のように大きな船が海上から姿を現した。
それは詰まるところ……。
瑠音
(茂さん……お別れですね)
私の最後の任務は刺し違えてもマナフィ様を仕留める事。
ただ私はただの捨て駒だ。
それがなんだか無性に悲しくなる。
マナフィ
「ジュゴン、アンタも気の毒やな」
瑠音
「マナフィ様?」
マナフィ
「陸の民の間者なんやろ?」
私は驚いた。
マナフィ様はずっと知っていたの?
知っていて、あんなに嬉しそうに迎えてくれたの?
瑠音
「ま、マナフィ様……どうして?」
マナフィ
「ウチも阿呆やないからな、それ位は始めっから知っとったよ」
マナフィ様はそう言うと、勇ましくフィオネ達に叫んだ。
マナフィ
「お前たち! 正念場や! その役目を果たせ!」
フィオネ
「「「おおおおっ! 新しき世界に!!!」」」
私は一切これから起きるであろうことに怯えないフィオネたちを哀れんだ。
彼女たちもまた、捨て駒なのだ。
どの道生き残っても、ガイアに還元されるだけの存在。
瑠音
「マナフィ様……私は」
マナフィ
「何も言わんでええ、アンタはアンタで世界に振り回されたんや。もう好きにしても神様は怒らんで」
マナフィ様はそう言うと、優しく微笑んだ。
ああ、どうしてこんな人が世界を滅ぼす魔王なの?
こんなに優しい人が世界を滅ぼす。
狂気が世界を渦巻く。
こんなにも狂った世界をどうして神様は生み出した?
マナフィ
「くるで!?」
***
茂
「な、なんだ!? 赤紫色の光が奥から!?」
兵士
「う、ガアアアアア!?」
振動が収まり、僅かに船が波に揺られている中、突然アルヴィスブロックを目指す俺達の前で、大きな光が放たれた。
赤紫の光が強くなると、兵士たちは突然呻きだした。
ルビィ
『星の民! 今からあなた達に空を見せて差しあげましょう!』
それは初めて聞く声だった。
妙に偉そうな口調、それに俺を知っている?
茂
「お前が宰相のルビィか!?」
それはどこかに仕掛けられた通信機だろう。
エンデュオンの寂れた庭園に女の笑い声が響く。
ルビィ
『アッハッハ! 精々踏み潰されないように注意しなさい!』
その時だ、突然天井が横開きで開いた。
それはそのまま壁まで取り払い、一気に視界が広がる。
見えたのは青空で、突然磯臭い風が吹き込んだ。
茂
「船の最上段か!?」
しかしその時だ。
紫の光の柱が迸り、兵士4人の体に異変が起きる!
兵士
「グオオオオオ!!?」
突然、兵士たちは巨大化する。
俺は大きく揺れる船の上で、なんとか踏み潰されないように逃げた。
茂
「な!? 何が起きた!?」
***
ルビィ
「アッハッハ! 見てみなさい! これこそが蜜ですよ! 全てを支配する巨人の力!」
オウガ
「ルビィ!? 貴様兵を!?」
オウガはその巨人化する光景を見せられて激昂し、ルビィに掴みかかろうとした。
だが、この最高にハイな気分であろうと、ルビィに油断はない。
神速を思わせる蹴りが、オウガの顎を捉え、オウガは宙を舞った。
オウガ
「ぐお!?」
ルビィ
「私に触れるな! 汚らわしい!」
フェローチェはその細い身には似合わぬパワーがある。
ルビィは一見細すぎる姿だが、そのスピードとパワーはオウガを凌駕する!
ルビィ
「ククク……さぁ! 我々も太陽の恵みを受けに行きましょう!」
ルビィはそう言うと、スキップでもするかのような軽やかさで、執務室を出て行った。
一方で這いつくばるオウガ、様々な疑問に自問自答した。
オウガ
(船の運行権限は我々にあった筈だ……だが現実はルビィの一声で、エデンは動いている!)
オウガは見誤っていた。
ルビィは狡猾に、そして静かに全ての計画を進めていたのだ。
恐らくエデンの操作は秘密裏にオートに切り替えられていた。
ルビィの操作で自由に出来るように、それをオウガ達軍は気付けなかった。
オウガ
「クハハ……、100年、演習しか出来なかった我々は、正に無能だったという訳か。だがルビィ……お前はなぜ常葉茂を軟禁した? それはお前も本能的に星の民を恐れたからだ!」
オウガはここでくたばるつもりはない。
首を鳴らして立ち上がると、闘志を燃やし執務室を出る。
オウガ
「常葉茂……奴はジョーカーだ! お前の計画は必ず破綻する!」
***
バーグ
「ルビィ様!」
ルビィは甲板に上がると、すぐに出迎えたのはバーグだった。
甲板には既にルビィの配下が揃っている。
ルビィ
「ふぅ……この風はあまり好きにはなれませんね」
そう言ってルビィは髪を撫で上げる。
人工の風で育ったルビィにとっては既に外界は汚らわしい世界なのだ。
ルビィ
「……ですが、今日は喜ばしい日です! マナフィを駆逐し! 私が新世界の神となる!」
バーグ
「化け物には化け物だ! 全部行けぇぇ!」
バーグの号令と共に、エデンの至る所から、巨人は海へと出て行った。
その数は100体以上。
大きすぎて、丸みのあるエデンの甲板は地平線さえも見えるほどだ。
しかしそこから出撃する巨人たちに、ルビィは美しさすら覚えている。
巨人は真っ直ぐウォーターアイランドを目指した。
***
瑠音
「ここは、地獄なの?」
その光景を見て、心が折れないなんて普通じゃない。
少なくとも、私は折れた。
だけどマナフィ様たちは違う。
マナフィ
「決戦やー!」
フィオネ達は武器を持って次々と海へと飛び込んでいく。
彼女たちに恐れはないのか?
マナフィ
「ほら! ジュゴン! アンタは避難せぇ!」
瑠音
「で、でも!?」
そんな事を言っている間にも、戦端は開かれた。
先頭をゆっくり歩く、巨人の群れにフィオネ達は果敢に挑んだ。
だが、巨人は物ともしない。
やがて巨人は一人のフィオネを捕まえると。
フィオネ
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」
ブチン!
フィオネの上半身が食いちぎられた。
巨人がフィオネを捕食しているのだ。
一瞬で残骸にされたフィオネは投げ捨てられると、海を赤く染めた。
マナフィ
「ち!? 怯むなぁ! ウチが行くからなぁ!」
マナフィ様は私に構っている暇もなく、海へと飛び込む。
苦戦するフィオネ達を助けるために。
***
ルビィ
「アッハッハ! 小さき者共が食われている! お前たちは醜いが、その血は美しいぞ!」
戦場は陸の民が優勢だった。
それを見て、ルビィは子供のようにはしゃぐ。
だが、バーグは空を見て、驚愕した。
バーグ
「そ、空の民が!?」
ルビィ
「なに?」
それは翼を持った者たちだ。
その数は千を超えている。
その中にはあのペリッパーやスワンナさえいた。
ペリッパー
「マナフィ様への恩義を返すのだー!」
バーグ
「こ、こんなの聞いてねぇぞ!?」
空の民達は一斉に巨人に攻撃を仕掛けた。
空を飛ぶ彼らに、巨人の手は届かない。
そのまま一体二体と、全身を串刺しにされた巨人たちは脱落していく。
ルビィ
「な!? なぜ海の民に肩入れを!?」
ルビィはその光景を信じられなかった。
だが、後ろから現れた男は違った。
オウガ
「ククク……貴様には分かるまい、奴らは義理と人情で戦っているのよ!」
ルビィ
「オウガ!?」
オウガは白いスーツをはためかせると、ギラついた目でルビィを見る。
オウガ
「貴様の好きにはさせん……と、言いたいところだが、まずは海賊掃除からだな!」
バシャアアン!
エデンの周りで水柱が上がる。
それは魚影軍だった。
魚影軍
「ヒャッハー! 陸の民が粋がってんじゃねぇぞー!?」
チンピラじみた言動だが、魚栄軍は全ての海で恐れられた屈強なならず者たち。
陸の民を憎み、エデンの浮上に合わせて、集まってきたのだ!
オウガ
「精兵なる者たちよ! 今こそその力を見せぇい!!」
兵士
「「「おおおっ!」」」
オウガの張り上げる声に応じて、甲板に上がったオウガ配下は一斉に鬨の声を上げる。
ルビィは愕然とした。
突然土足で海賊共が船に上がり、更に野蛮な兵士達が、乱戦を展開しているのだ。
ルビィ
「くっ!? ええい! 汚らわしいぞ!?」
オウガ
「フン!」
オウガは近くにいた海賊二人をDDラリアットで吹き飛ばすと、ニヤリと笑う。
オウガ
「何でも盤上で熟してきた貴様には、柔軟さが足りんな!」
***
乱戦だった。
今や海上で、エデンで、戦場は広がっていく。
生きるか死ぬか、絶対の理の中で命は輝き、そして散っていく。
茂
「これが……こんな物が……!」
マナフィ、お前が望んだ戦争か!?
俺は胸を押さえつけて、その戦いを直視した。
今の俺に出来る事、それはなんだ!?
茂
「紫の光……つまりあれか!?」
俺は巨大化現象とさっきの赤紫色の光が関係していると踏み、一人アルヴィスブロックへと突入する。
その中で見た物は!
ブゥゥゥン。
何かの駆動音。
倉庫の奥へ進むほど、大蛇を思わせるケーブル類が増え、一箇所に集まっていく。
やがて、俺の目の前には大きなフラスコを思わせる球体のケースを発見する。
ケースの中は薄っすらと発光する液体で満たされ、プカプカと異形のポケモンが浮かんでいた。
茂
「ポ、ポケモンなのか?」
それは俺の知らないポケモンだった。
赤紫色のスケルトンとでも言えばいいのか、胸部に胎動するコアのような物を持つ、巨人が眠っていた。
一見すればポケモンとは思えない、だが俺はこれがあの巨人と関係すると判断した。
謎のポケモン
『う……ああ……っ!?』
茂
「っ!? 苦しんでいる?」
それはあどけない少女の声だった。
見た目こそ物騒だが、ポケモン娘なのか?
だが、この娘は強く光を放つと、再び艦に異変を起こす!
***
ルビィ
「アッハッハ! 災厄よ! 本当の力で全てを駆逐しなさい! もうこんな不浄の者共など必要ありません!」
オウガ
「ルビィ!? なにをした!?」
乱戦中、兵士も海賊も次々倒れていく中オウガも傷ついていた。
それはルビィも同じだ、髪を乱れさせ、今や狂気を隠そうともしていない。
やがて、船が大きく傾き始めた。
それは内部で起きていた現象だ。
エデンを切り裂き、溢れ出す紫色の閃光。
まるでエデンを食い破るように、巨人が無数に内部から溢れ出したのだ!
巨人
「おおおお!」
そして巨人たちは無差別に襲い出す!
それは海賊も兵士も例外ではない。
ルビィの命令に忠実で、文字通り全てを喰らおうとしているのだ。
だが、直後に異変が起きた!
船体が傾き、ズドォンと大きな爆発が後方で起きた。
そこはエンデュオンだった。
オウガ
「な、なにが!?」
それは反逆の狼煙なのか?
突然始まるポケモン娘シリーズ外伝
突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語
#10 終末戦争
#11に続く。