突ポ娘外伝






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第四章 無限の水平線の世界編
#9 するべき事は

#9



ジュゴンさんこと瑠音がウォーターアイランドに旅立った。
これで俺の周りには味方はいなくなったな。
あとは、どっちに傾くか分からないのはオウガだ。


 (向こうから接触はなし……まぁ無理もないが)

俺は周囲を見渡す。
今日も相変わらず監視は二人以上だ。
俺一人にご苦労な事だが、その性でこうも動きづらいんだからやってられないわな。


 (やはり戦争に動いているのか?)

以前の不自然な地震……あれから船全体の空気が変わりつつある。
もし、攻撃を仕掛ける気なら俺は……。

ドドドド!


 「く……また地震?」

それは突発的な揺れだった。
大した震度ではないが、地震に慣れていない陸の民の一般人達はその場で怯えていた。


 (一体何なんだ……秘密兵器と関係あるのか?)

皇家座乗艦エンデュオン、そこに何か秘密があるのだと言う。
だが、そこは俺ごときが簡単に潜入できる場所じゃない。


 (エンデュオンに向かうには最低でも軍艦のブロックを突破しなければならない……その為には)

軍部を掌握するオウガの協力が必須だ。
だがオウガは恐らく協力してくれないだろう。
オウガもやはり決戦を望んでいるはず。
これは生き残るための生存競争だ。


 「マナフィ……本当に戦うしかねぇのか?」



***



マナフィ
 「ジュゴン! 戻ってきたんか!」

ウォーターアイランド、私は再びこの場所に帰ってきた。
目的は当然、マナフィ様の監視だ。
来たるべき決戦まで、マナフィ様をこのウォーターアイランドに係留するのが、私に下された命令。

瑠音
 「遅くなって申し訳御座いません……」

マナフィ
 「かまへんかまへん!」

マナフィ様は相変わらず笑顔で、そう言ってくれた。
マナフィ様の優しさが染み入ると同時に、どうしてこうなったんだろうと、私の心は暗かった。

マナフィ
 「街もこんなんやけど、まぁゆっくり休んでてや!」

瑠音
 「い、いえ! 私も手伝います!」

街は魚栄軍に荒らされてそのままだ。
夜間であったとはいえ、ヨワシの群れに荒らされるだけ荒らされたウォーターアイランドは酷い様だ。
今もフィオネ達は懸命に修復を行っているが。

マナフィ
 「当面の危機はもう無いさかい、そない猫の手も借りたいって訳やあらへんし」

当面の危機……魚栄軍は中核を失って崩壊した。
壊滅させたのはマナフィ様だ。
母なる海でならば、マナフィ様に敵う者はいないだろう。
魚栄軍も、この後の動きは後継者争いと、組織の分裂が起きるだろう。
もはやかつての大海賊の姿はない。
だが驚異はむしろ……。

瑠音
 「マナフィ様……」

マナフィ
 「うん?」

私は意を決した。
これはスパイとしては最低だろう。

瑠音
 「陸の民はまだ、その手を下ろしてはいません……」

マナフィ
 「陸の民、か」

マナフィ様の顔色が変わった。
魚栄軍は所詮海賊、だが陸の民は高度に組織された軍だ。
確かに陸の民は海は苦手だが、それでも軍は諦めてはいない。
マナフィを倒さなければ未来はないのだ。

マナフィ
 「分かっとる、分かっとるよ……もうそんな時間はあらへん……この海の雌雄は決する」

瑠音
 「本当に全て滅ぼすんですか?」

マナフィ
 「うん、滅ぼす。せやないとガイアは目覚めてくれへんもん」

母なる海ガイア、その正体は星程の大きさのある超概念生命体。
かつて星の海で傷つき、この星に堕ちてきて、この星の歴史は始まった。
有機物のなかった世界に、潤いを齎し、豊かさを与えたのはガイアだ。
しかしそれはガイアの血肉を使ってのこと。
マナフィ様はそんなガイアの血肉……つまりガイアの素を回収しているのだ。
それは生命だけではない、いずれは全有機物からだ。

瑠音
 「茂さんもですか!? あの方無関係ではないですか!?」

私は、激憤していた。
大抵のことは感情を殺す事が出来るけど、これだけは無理だった。
それ位、もう私の中であの方は大きくなり過ぎたのだ。

マナフィ
 「ジュゴンも毒されたんやなぁ〜」

しかし、マナフィ様の反応は寂しいものだった。
まるで全てを諦めたかのように、晴れた空に顔を向けると。

マナフィ
 「茂君は特異点や、それもちと厄介なな……」

瑠音
 「特異点、とは?」

マナフィ
 「存在するだけで、歴史が変わる……それもそれまでの積み重ねを無視してな」

瑠音
 「歴史が変わる? そんな事どうやって証明を!」

マナフィ
 「分かるんよ、今も楔が効いとるわ」

マナフィ様は笑顔は崩さなかった。
けれど、それは寂しい笑顔で、私の顔を見た。

瑠音
 「私? 私が楔……?」

マナフィ様は幼い見た目とは裏腹に、どれだけの時を生きたか分からないお人だ。
そんな方が私を見て、小さく頷いた。

マナフィ
 「茂君はね、無力に見えるけど、ホンマはすごいんやで、最後には皆茂君に負ける……」

瑠音
 「マナフィ様も、ですか?」

マナフィ
 「せやね……だからこそ、茂君はなんとしてもここに留めたかった」

マナフィ様はそう言うと、悔しそうに手ををギュッと強く握りしめた。
茂さんが勝利の女神足り得るから、マナフィ様は茂さんに優しくしたのか?

瑠音
 「マナフィ様、茂さんは打算では止められません……あの人はいつだって……」

そう、それは短い、あまりにも短い付き合いだった。
恐らくもう茂さんと再会は望めないだろう。
だけどその短い付き合いで、茂さんの人となりを私は知った。
彼は自分の中に絶対と言える芯を持っている。
茂さんは戦争を望んでいない、マナフィ様の無事すら真剣に祈っているのだ。
それを私は尊いと思った。
あの方を絶対に守り抜かないといけないと!

瑠音
 「マナフィ様、マナフィ様が茂さんを利用しようとした、だから茂さんはいなくなったのではないでしょうか?」

マナフィ
 「……せや、な」

マナフィ様は顔を落とした。
多分全て理解しているからこそ。

マナフィ
 (神々の王の祝福を受けて、王さえ救ってみせた……ホンマ敵わんで)

瑠音
 「今からでも遅くありません! 戦争は……!」

マナフィ
 「ジュゴン、ウチはもう世界にとって悪役なんや……そしてそれは陸の民もや」

マナフィ様が、突然険しい顔をした。
突然マナフィ様が水辺線を見ると、海の向こうから何かが近づいて来ていた。

ズシン、ズシン!

瑠音
 「な、なにあれ……?」

それは巨人だった。
下半身を海に沈めているが、軽く20メートルはある巨人だ。

マナフィ
 「ハ! お魚の次は巨人か! 飽きんなぁ!?」

マナフィ様はすぐ様海へと飛び込んだ。
フィオネ達は武器をとって警戒する。

マナフィ
 「お前ら! 巨人を街に入れるな!」

フィオネ
 「「「イエッサー!」」」

私はどうするべきか戸惑った。
マナフィ様は戦う気のようだが、私は巨人を見て戸惑いを覚える。
巨人はどう見てもガバイトであり、陸の民なのだ。

瑠音
 (戦争が始まった!?)

分からない、そう言う報告も来ていないし、事前にこの情報も渡されていない。

瑠音
 「マナフィ様!」

私はマナフィ様を叫んだ。
マナフィ様は巨人へと飛びかかる。

マナフィ
 「ボディが甘いで!」

マナフィ様のアクアブレイクがガバイトの巨人の腹に突き刺さる。
が、その鮫肌は容易に弾き、逆にマナフィ様は!

ガバイト
 「グゴオオオオ!」

その小さな爪がマナフィ様を鷲掴みにする!

マナフィ
 「くそ!? 離せや!?」

マナフィ様は暴れるが、大きさが違いすぎる!
そのまま巨人はマナフィ様を水面に投げつけた!

マナフィ
 「くっ!?」

瑠音
 「マナフィ様!?」

マナフィ様は水面を3度も跳ねる強烈な叩きつけを食らってしまうが、なんとか無事だった。
だが、これはどういう事だ?
あの巨人は一体?
マナフィ様を圧倒するなど、あのオウガ様でもそれは不可能な筈だ。

マナフィ
 「心配すんなジュゴン! ウォームアップは終わりや!」

マナフィは後ろを振り返るとそう言った。
既に巨人はウォーターアイランドに残り10メートルまで近づいている。
あんな巨人が上陸すれば、こんな浮島一溜りもない!

マナフィ
 「凄いパワーやで、せやけど知性がない」

マナフィ様はゆっくりと目を閉じると、直立のまま海へと沈んでいく。

ガバイト
 「??」

巨人はマナフィを様を見失い、足を止めた。
その瞬間、巨人が膝を折る!

ガバイト
 「グゴォ!?」

瑠音
 「あれは!? マナフィ様の渦潮!?」

マナフィ様の作り出す超巨大な渦潮は、魚栄軍数百を全て飲み込む程強力だ。
それは巨人すら飲み込んでみせるのか!?

マナフィ
 「ほな行くでぇ!?」

渦潮に飲み込まれ、未動きの出来ない巨人にマナフィ様は急接近すると。

マナフィ
 「アクアブレイク!!」

巨人の顎が大きく浮かび上がった!
渦潮から強引に引きずりあげるアッパーカット。
その一撃はガバイトを背中から海へ倒れさせた!

フィオネ
 「「「うおおおお!」」」

フィオネ達が雄叫びを上げた。
やはり海のマナフィ様は強い!
だが、巨人は……!

ガバイト
 「グ、グ」

マナフィ
 「なんてタフな奴や! もっと技に磨きをかけんと!」

巨人はなんとか、立ち上がるが、マナフィ様は冗談めかして構える。
しかし直後。

ズガァァァァン!!

爆風がウオーターアイランドを揺らした。
突然巨人が光爆に包まれると、大爆発を起こしたのだ。

瑠音
 「マナフィ様ーっ!?」

私は顔を青くした。
マナフィ様は巨人の側にいたのだ。
爆発に巻き込まれた?
しかし、マナフィ様は。

マナフィ
 「忍法微塵隠れの術……なんちゃって」

ポチャン、と水面に音を立ててマナフィ様は顔を出した。
どうやら超スピードで海の底に避難していたようだ。

マナフィ
 「それにしてもけったいなやっちゃな〜、自爆しよって」

マナフィ様は特にダメージはないのか、そう言うとウォーターアイランドに上半身だけを上陸させる。

瑠音
 「マナフィ様……よくご無事で」

マナフィ
 「流石に疲れたけどな……今日の相手は並じゃないぜ〜、てか」

瑠音
 「あの巨人……やはり陸の民でしょうか?」

マナフィ
 「ちょっと異常って言葉じゃ済まへん巨大っぷりやったで」

私はなんだか無性に不安に襲われた。
ルビィ様は、なにか触れてはいけない禁断の力を使っているのではないか。
戦争は避けられない……でもそこで人間の理性を失ったら、後には何が残るのだろうか?
私はそれが恐ろしくて堪らなかった。

マナフィ
 (あの巨人……ガイアの気配をまるで感じんかった……この星の者ではないんか?)



***



パチパチパチパチ。

超巨大都市型潜水艦エデン、多数に連結された潜水艦の中でも総司令部を持つEDF艦作戦司令部でルビィは拍手を送っていた。

ルビィ
 「流石マナフィ、海上で巨人一体ではこんな物でしょうかね」

バーグ
 「巨人を一人で狩るなんざ、やっぱりバケモンですな……」

本来そこは軍、即ちオウガ達が使用するブロックだったが、そこには軍人の姿はなかった。
既にルビィはオウガとの取引によって、この場所を宰相ルビィの元に引き渡していたのだ。
そんな場所で彼らはマナフィの戦いを潜望鏡で高みの見物をしていたのだ。

ルビィ
 「この程度は予想の範囲です、むしろ次は更に出力を高めてみましょう」

バーグ
 「いっ!? あ、あの化け物を更に弄るので?」

ルビィは既に狂人なのか?
バーグはルビィのさらなる要望に顔色を悪くし、戦慄する。
巨人はこの船に積まれた化け物の副産物だ。
だが、その化け物の事はバーグはよく知らない。
あの化け物を弄って大丈夫なのか分からないのだ。

ルビィ
 「フフフ、何を躊躇う必要がありますか? マナフィこそが真の化け物! 怪物を討つ英雄が必要なのです!」

ルビィはそう言うと狂笑した。
バーグでも気味悪がる狂気、そしてそれこそがマナフィを討つ原動力だと思う。
そして、この部屋の情報はある男に傍受されていたのだ。



***



オウガ
 「ルビィめ、早速やりたい放題か」

兵士
 「どうします閣下?」

そこは将軍がいるには小さな空間だった。
オウガが持つ、ルビィとは別の諜報機関。
EDFではなく、アースピアに設けられたマンションの一室でルビィの動きを傍受していたのだ。

オウガ
 「巨人の正体がまだ分からん」

ルビィは、気兼ねなく巨人を使っているようだ。
巨人は確かに強力な戦力だ、だがまだあれの安全性は分からないことが多い。
確かにオウガはルビィと協力する協定を結んだが、お互い全てを開示した訳ではないのだ。
決戦において、兵士が血を流すのは義務のようなものだ。
だが、博打に兵を犠牲にはできない。
そのためにオウガは、秘密裏にこういった極秘組織を所持しているのだ。

兵士
 「我々にはエンデュオンに入管する資格がありませんしね」

皇族無き今、エンデュオンを管理するのは宰相派の極一部だけだ。
だが、その極一部によって、情報は独占されている。
なんとか情報を掴めないか、頭を捻るオウガだが。

オウガ
 「決戦前に士気を下げたくはないが……」

強行突入に踏み切るという手段もある。
だがそれを行えば宰相派との亀裂は明白になるだろう。
内紛は絶対に避けないといけない。

兵士
 「あの、提案ですが」

オウガ
 「なんだ、言え」

兵士の一人が提案する。
とにかく今は猫の手も借りたい状態だ。
オウガは兎に角案を求めていた。

兵士
 「星の民を利用するというのは、どうでしょうか?」

星の民、即ち常葉茂を?
オウガは唸った。

オウガ
 「むうう、常葉茂をか」

オウガにはもう一つ図り難い者がいた。
それが常葉茂だ。
あの男、一見利用しやすそうで、実際面と向かえば、しっかり自己を持っていて扱いにくい。
決して悪人ではないが、だが陸の民の利になるかは不明の男だ。

(茂
 「だけど、俺個人はアンタやジュゴンさん、この世界を愛せるし、護りたい!」)

それはオウガが最後に見た茂との会話の一幕だった。
既にオウガも泥酔しており、正直何を話したかはよく覚えていない。
だが、茂の言葉はオウガに強く刺さったのを覚えていた。

オウガ
 「常葉茂の周辺は常に宰相派が監視している……連れ出せるか?」

兵士
 「ご命令があれば、宰相閣下さえも連れてきてみせましょう!」

それはオウガにとっても心強い言葉だった。
そして確信する。

オウガ
 「常葉茂を宰相派から奪還せよ!」

兵士
 「「「イエッサー!」」」



***




 「さてさてどうしたものか」

俺は相変わらずアースピアの展望台にいた。
この船のすごい所って昼夜を再現しているんだよな。
今は夕方、街を夕日が照らしている。
完全に人工の光景なんだが、望郷の想いがして、沁みるよなぁ。


 「地球か……皆何もかも懐かしい」

ヨウ
 「地球、それが星の民の故郷なのですか?」

突然そう聞いてきたのは、未だにどうやってメガネを掛けているのか分からないクスネのヨウさんだった。
出来るレディだが、地震で簡単にテンパるちょっとポンコツな人だよなぁ。


 「そうだねぇ、ここよりもずっと猥雑で騒がしい街があるんだ」

ヨウ
 「少し想像できません」


 「まぁ少なくとも、そんなに奇想天外な世界じゃないよ」

とは言うが、大抵のPKMは人口にビビるからなぁ。
東京の人口密度なんて、外の世界のやつからしたら、それこそ異次元なのだろう。


 (それにしてもこの人、大概いたりいなかったりするよなぁ)

それ位忙しいのかも知れないが、なんか糸口にはならないものか。


 (無理だよなぁ、流石に時間が足りなさすぎる)

瑠音ならともかく、ヨウさんはまだ出会って時間が足りなさすぎる。
ヨウさんの協力を得られれば、戦争の鍵があると思われるエンデュオンに入れそうなんだが。


 (俺に何が出来るか……どう行動すれば良い?)

ドタドタドタ!


 「ん? なんだか騒がしいな」

突然周囲が慌ただしくなった。
どうやらずっと監視していた奴らも今動いているらしい。

ヨウ
 「なにかあったようです、少し失礼します」

ヨウさんはそう言うと、丁寧に頭を下げて、EDFの方へと向かっていった。
この展望台はアースピアとEDFの境目だから、軍関係者の出入りが多い。
俺もそれを見越してここにずっと張っているんだが。


 「これはどういうことかね?」

俺は展望台から見えた光景に頭を思わず掻いた。
なにせ、ビルの一室から堂々と俺を呼ぶプラカードが提示されていたのだ。


 (……俺に出来る事、その選択を見誤らなければ)

俺はプラカードを確認すると走り出した。
一体なぜ慌ただしくなったのかは分からないが、これはチャンスだ。
今は見張りの姿がない、俺はこの好機を活かせるのか?
兎に角、やるしかないだろう!



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#9 するべき事は

#10に続く。


KaZuKiNa ( 2020/07/19(日) 20:23 )