突ポ娘外伝






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第四章 無限の水平線の世界編
#5 ガイアの意思

#5



しくじった。
まぁ運がないと人間ってのはこう言うもんかな。
凍ったヨワシの塊が、その重さに耐えられず海へと落ちた。
その近くにいた俺はそれに巻き込まれて、水流に飲まれて流されてしまう。
時間帯は夜だ、上も下も、前も後ろも分からない中俺は死を覚悟した。
正直、こんな所で終われる訳が無いが、その事実をねじ曲げられる程俺は強くない。

ああ、なんだか気持ちよくなってきた――。



***




 「……は!?」

俺は目を覚ますと、LEDシーリングライトの光を浴びさせられた。
久し振りに感じる文明の光、俺は驚いて上半身を持ち上げると、そこが如何に異質か分かった。


 「なんだここ……箱?」

一言で言えば、四角い箱だ。
ただし内装は整っており、紅い絨毯、様々な調度品。
俺は綺麗で清潔な白いベッドに寝かされていた。


 「窓のない部屋? ドアはあるが……」

俺は最初また異世界に跳ばされたのかと思った。
それ位そこは異質だったのだ。


 「壁は……ボードの内側は鋼鉄製か?」

真っ白なボードで囲まれた内側だが、軽く叩いてみると独特の硬さと反響音が伝わった。


 「後は空調……だな」

ブゥゥゥ、と鈍い音が環境音として伝わった。
俺はそれが空調だと気付き、探すが見当たらない。
もしかしたらエアコンは内蔵式か?
日本だと外付けが基本だが、内蔵もあるって話だしな。


 「よっと……」

俺は身体を持ち上げ、ベッドから降りる。
その際自分に違和感があった。


 「スーツじゃない?」

俺が着ていたのはパジャマだった。
青緑色の手術衣みたいなデザインの物だが、当然俺の所持品じゃない。


 「……とりあえず行動してみるか?」

ぶっちゃけて分からない事が多すぎる。
俺はなろう系主人公でもないっつーのに、ちょっとこの人生ハードモード過ぎません?
まぁ死んだら終わりは皆同じなんだけどな。


 「とりあえず扉があるなら扉を開けて……」

俺は扉に向かった。
さぁ、扉を越えたら何が待っているのか。
オラ、ワクワクしてきたぞ。

ウィーン。

扉の前に立つと、予想外に電動扉だった。
横にスライドすると、目の前に身体の大きなポケモン(?)と鉢合わせする。


 「おっ、目を覚ましたか!」

そいつは俺を見ると豪快に笑った。
猫科特有の目にピンと立った黒い耳。
身長は俺より少し上と言うことは190台?
かなり横幅があり、筋肉の塊のようだが、白い将軍が着るようなスーツに身を通していた。


 「え、えーと?」

とりあえず威圧感が半端じゃない。
多分ガオガエンじゃないかと思うが。

ガオガエン
 「ああん? 縮こまってんのか? お前運が良いんだぜ! こうやって助かったんだからな!」

「ガッハッハ!」、そう笑うとその男は俺の肩を強く叩いた。
かなり痛いが、本人なりの気遣いだろうか?


 「あのここは……」


 「閣下、宰相がお呼びですが?」

閣下? ガオガエンの後ろを覗くと通路になっていたようで、兵士と思われる線の細い男がガオガエンの前に現れた。
ガオガエンは「ああん?」と首を回すと、兵士は萎縮してしまう。

ガオガエン
 「宰相め……兵士まで使わせて俺を呼びやがったか」

兵士
 「あ、あああの!」

ガオガエン
 「ああ、気にすんな! 直ぐ行く! お前は持ち場に帰れ!」

兵士
 「は、はっ!」


 (状況を察するに、このガオガエンはお偉いさんらしいな)

閣下という事は、ここは軍か?
ガオガエンは兵士を帰らせると、俺に振り返った。

ガオガエン
 「空から降ってきた星の民よ、我々陸の民はお前を歓迎する! 時期迎えが来るから、今は大人しくしていて貰おう!」

ガオガエンはそう言うと、軍帽を被ると通路を過ぎていった。
俺は扉の前で考察する。


 (俺のことを星の民と言った? そして陸の民は俺を歓迎する?)

初めて聞いたワードだ。
同時に彼らは陸の民?


 「ッ……! そう言えばマナフィは? ジュゴンさんは!?」

俺は海の民であるあの二人やウォーターアイランドを思い出す。
辛くも魚栄軍は撃退出来たが、マナフィの無事も分からないとは。


 (マナフィの奴、完全に魚栄軍と敵対していた……)

マナフィの強さは分かるが、それは個の強さでしかない。
魚栄軍には群の強さがある。
たまたま俺がヨワシの弱点を知っていたから、撃退出来たが、もし俺がいなかったら今も……?

俺は首を振った。
過去の可能性を論じても仕方がない事だ。
だが、マナフィの戦略はハッキリ言って素人の俺でも、おかしいと思えた。
ウォーターアイランドは決して、強力な力はない。
フィオネ達も武装していたが、それで強大な魚栄軍と正面から戦争なんて無理だろう。


 「常葉、茂様ですね?」


 「え……あ」

気がつけば、通路から別の女性が現れた。


 「どうして俺の名を?」

女性
 「諜報員6号の情報です、申し遅れました。わたくしクスネのヨウと申します、情報長官がお待ちです」

その女性はクスネというポケモンの女性だった。
毛の色は赤焦げた色合いで、白いフレームの眼鏡を掛けているが目の周りに黒い隈がある。
やや、その性かキツめ顔には見えたが美人であった。
女性の最大の特徴は尻尾だろうか。
まるでモップである。

ヨウ
 「何か?」


 「いや、耳は頭の上にあるのにどうやって眼鏡を掛けてるのかなぁって……」

なんて、冗談を言ってみるが、女性は。

ヨウ
 「決まってるじゃないですか、表情筋で固定しているんですよ」


 「真面目に返された!?」

ヨウ
 「……勿論冗談です、ご案内致しますので、こちらへ」

女性は振り返ると歩き出した。
尻尾をフリフリしながら歩くのは種族特徴だろうか?
綺麗にカーペットの毛並みが平らになるのだか、生きたお掃除ロボットみたいだった。


 「先に聞きたいんだが、ここは何所なんだ?」

ヨウ
 「ここは軍艦EDFの居住ブロックになります」


 「軍艦!? ここ船なのか?」

ヨウ
 「船と言っても潜水艦ですが」


 (潜水艦……中に入ったのは初めてだが、こんなに広いのか?)

俺は潜水艦という言葉もイマイチピンときていなかった。
揺れは一切無く、水上にないのは分かるが、潜水艦と言われもそれも分からないのだ。
ただ窓のない内装は確かにそれを思わせる。

ヨウ
 「詳しい事は更に後に」


 「はぁ……」

俺は曖昧な返事を返しながら、見れるところを徹底的に観察していた。
やがて、階を上がり一際上等な扉の前に案内されると、ヨウは立ち止まった。

ヨウ
 「ハーグ長官、常葉茂をお連れ致しました」


 「入りたまえ」

扉は勝手に開かれた。
扉の手前に何らかの読み取り装置があるようで、他の部屋よりセキュリティが高いようだ。

ヨウ
 「どうぞ、中へ」


 「あ、ああ……」

ヨウは扉の脇に逸れ、道を開けると扉の奥には一人の男が机の前に座っていた。

バーグ
 「遠慮せず入りたまえ」


 「……」

俺は黙って中に入る。
バーグはミルホッグのようだった。
目の周りの模様は特徴的で、群青色のフォーマルに近いスーツを着ていたが、それなりに身なりも良く、表情も貧相さからはほど遠い。

中へと進むと、ヨウは外で待つらしく扉は閉まった。
中は広々としており、俺の眠っていた部屋とは訳が違うようだった。
バーグは俺を見ると、しげしげと観察した。

バーグ
 「星の民とは不思議だな……耳もなければ尻尾も無い」


 「あの、なぜ俺のことを星の民って?」

バーグ
 「我々は観測を怠らない……君が空より降ってきた事は知っているよ、鳥でもない、虫でもないのに空を往く者は伝承に残る星の民以外有り得まい」


 (つまり星の民ってのは航空技術があった種族ってことか?)

バーグ
 「改めて、私は情報長官のバーグ、ミルホッグというポケモンだ、先ずは6号が世話になった事を感謝しよう」


 「あの、その6号って……」

その時だった。
この部屋に更に来客がやってきた。


 「諜報員6号です」

バーグ
 「噂をすれば影だな、入りたまえ」

バーグは手元のコントロールパネルを操作すると、扉は自動的に開かれた。
扉の先からはある女性が入ってきた。

ジュゴン
 「バーグ長官、御用とは……あ」


 「ジュゴンさん!?」

諜報員6号とはジュゴンさんだった。
ジュゴンさんは俺を発見すると複雑そうに顔を逸らした。

バーグ
 「先ずは長期に渡る潜入調査の労を労おう」

ジュゴン
 「あ、ありがとう御座います……」


 「潜入調査って」

バーグ
 「君は知るまいが、彼女は陸の民のスパイさ、海の民の内情を直接調べてもらうな」


 「それって……マナフィを?」

俺がマナフィの名前を出すと、バーグは意外そうな顔をした。
俺が指摘した事が余程意外だったのか、バーグは顎に手を当てると。

バーグ
 「星の民は馬鹿ではないようだな……マナフィを監視させていた事に気付いていたのか」


 「……なぜマナフィの監視を?」

バーグ
 「その前に君は海の皇子についてどの程度知っている?」

――それは、俺が知るにはあまりに残酷な物であった。



***



マナフィ
 (そうか……茂兄ちゃんは……)

ウチは海から茂兄ちゃんが既にウォーターアイランドを離れた事を知った。
それは幸運なんやろうか、それとも不幸なんやろうか。
ウチは上を見上げた。
ウチの周りはガイアが漂っていた。
ついさっきまでここは戦場やった。
魚栄軍牙のジョーは確かに強敵やったが、結局この海にとっては、分子より小さな素粒子のような奴やった。

マナフィ
 「ウチはやっぱりダメやなぁ……時間掛けすぎたわ」

気がつけば、陽が昇っていた。
夜通し戦ったが、まだウチの戦いは終わっておらん。
故にウチは泳ぐ、ウチは海の皇子やから海のことならなんでも分かる。
目的地は今回の一件の主犯の元だ。
主犯は海の底にある洞窟におる。
海はウチにそれを教えてくれた。



***




 「ば、馬鹿な……如何なガイアの端末とはいえ、あの数をだぞ? そ、それを全滅など……」

そいつは海底洞窟の奥で怯えきっていた。
オクタンのイアーブは魚栄軍を仕切っとる頭脳と言える奴や。
せやけど賢しいとはいえ、所詮無法者の策に過ぎん。

ウチはそのイアーブの前に『顕現』した。

マナフィ
 「久しいな、イアーブ」

イアーブ
 「ひっ!? ま、マナフィ!? いつからそこに!?」

マナフィ
 「ここが何処か忘れた訳やないやろ? ウチは既にここまで覚醒してるんやで?」

イアーブ
 「海の皇子……!?」

海の皇子、その意味は言葉以上に複雑や。
出来れば茂君おらん時に終われば良かったんやけどなぁ。

マナフィ
 「この世界はガイアの恵みによって成り立っとる、この星の始祖は岩石の惑星やった、そこには有機物なんて概念はなかった」

イアーブ
 「し、しかしある時……星の彼方よりガイアは降ってきた!」

マナフィ
 「ガイアは傷付いていた、星の引力に引かれて、痛みは増し、涙した」

イアーブ
 「涙は百年にも及んだ、規格外たる大きさを誇るガイアは涙で大地を潤し、その身体で海を造った……!」

マナフィ
 「今ある『有機物』たちは全てガイアの血肉を使って生まれた物や、それはガイアからすれば自分の細胞を利用して増えるウイルスのような物やった」

ウチは拳を握りしめる。
この海は元々ガイアの肉や。
超異能存在ガイアは、星ほどの大きさを誇る液体やった。
生命が生まれうる様々な要素を持ち、宇宙を浮遊していた。
ガイアを傷付けたのは星の民と言われている。
鳥ポケモンより更に高い所、即ち星の海を行き交う者たち。
星の民は流石に比喩やけど、ガイアはある目的のために、重要なマスタープログラムを用意しておった。

それがウチ、海の皇子や。

マナフィ
 「ガイアを目覚めさせるには、全てのガイアの素を回収せんとあかん」

イアーブ
 「そのために有機物を滅ぼすと!?」

マナフィ
 「泥棒風情がいいよるな、ガイアは今だ傷付いとる、そもそもこの星におるのも事故のような物や」

ウチは手を翳す。
もはや問答は必要なかった。
イアーブは怯えるが、それももう無意味やった。

マナフィ
 「有機物よ、ガイアに還れ」

イアーブ
 「あ……あ!」

イアーブの身体が液体へと変わっていく。
それはガイアの素、ウチはガイアの海と呼んでいる。
生命力に溢れ、ガイアの肉そのもの。

マナフィ
 「ガイアは再び星の海を行くために、飛び立つエネルギーがいる……それを回収すると同時に、ガイアを眠りから目覚めさせるにマスタープログラムが必要やった、そのためにウチは産まれた……初めから兵隊アリとして」



***




 「マナフィが有機物を滅ぼす?」

バーグ
 「確実だろう、マナフィが出現してから100年、海の水位は上がり続けた、マナフィは有機物をガイアの海と呼ばれる物質に変換する能力がある」

バーグがなぜジュゴンさんを潜入させていたのか。
なぜマナフィを監視するのか、俺に説明をした。
それは余りにも衝撃的で、そしてあり得ないと思える物だった。
だが……。


 「そ、それならマナフィはなぜ直ぐに実行しない?」

ジュゴン
 「恐らくですが、覚醒には段階があるのだと思われます」


 「まだ完全覚醒はしていないって事か?」

ジュゴン
 「マナフィ様は本当に楽しいお方でした。それこそ世界を滅ぼすなど俄には信じられない程」

ジュゴンさんはそう言うと俯く。
そういう人となりを見てきたから、余計にその事実が苦しいのだろう。

バーグ
 「この星には先住民、土の民がいた……彼らがいなければ今日にガイアの存在を信じる者はいなかっただろう」

土の民、ガイア到来前に、この星に生息していた民族らしい。
曰く完全に無機物の種族らしい、ガイアの肉や涙に由来しない種族だそうだ。
聞いた感じではゴビットやヤジロンのような種族達だったらしい。
そんな彼らは少数民族として生きたが、優れた記録技術を持っており、ガイアが到来したときの事を記るしていたのだ。
それでも100年前の陸の民はおとぎ話と信じなかったらしい。
それが100年で殆どの陸地が海に没した事で、真実と受け入れられたようだ。


 「……マナフィの奴、そんな重たい事をしてたのか?」

それじゃ俺の前に現れたアイツは?
フーパやジラーチと一緒に馬鹿してたアイツはなんだったんだ?
気まぐれな奴とは思ったが、アイツの真意が知りたい……。

バーグ
 「故に、マナフィは必ず打倒しなければならない、既に有機物で構成された我々が繁栄して1万年を越えているのだ、今さらガイアに還れと言われ、納得は出来まい」

バーグの意見は最もだ。
神様が人間を創ったのは失敗だから、土に還れと言われても、人類は納得しないだろう。
それくらいマナフィがやろうとしている事は無茶苦茶だった。


 「マナフィは自分の意思を持ってそれを行ってるのか?」

ジュゴン
 「え?」


 「例えば、そのガイアっていう存在に操られているとか……」

バーグ
 「仮に操られていたとして、我々に出来ることはないだろう」

ジュゴン
 「それに恐らくですが……マナフィ様はガイアの影響は受けているでしょうが、ガイアに操作する程の力は無いと思われます」


 「……俺は納得できないぞ、滅ぼされる前に滅ぼせなんて……!」

俺はマナフィとの付き合いはあまりに短い。
それでもジラーチとフーパが一緒にいたマナフィを俺は信じてやりたい。
滅ぼすことでしか、解決できないなんて、それはあまりに悲壮だ。

バーグ
 「まぁ、一先ず星の民よ、しばしこの超巨大都市型潜水艦エデンを散策してみるといい」



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#5 ガイアの意思

#6に続く。


KaZuKiNa ( 2020/05/31(日) 18:24 )