突ポ娘外伝






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第四章 無限の水平線の世界編
#3 騒乱

#3



ウォータアイランドに辿り着いて数日が経過していた。
今の所ウォータアイランドは魚栄軍の再襲撃は起きていない。
そんな中ウォータアイランドには珍しい客が訪れていた。

ペリッパー
 「マナフィ様、いつもご利用ありがとうございます」

ウオーターアイランドにやってきたのはペリッパーを中心とした商人の一団だった。
彼らは編隊を組んでウォーターアイランドに降り立つと、早速マナフィに頭を下げる。


 「商業圏ってのは死滅はしてなかったんだな」

ジュゴン
 「といっても、海鳥ポケモンたちでもなければ、安全な航海は出来ませんが」

海鳥たちは水の上でも休むことが出来る。
本格的な休息はやはり陸上が必要だろうが、空は最も安全なエリアだろう。

マナフィ
 「いつもおおきにな」

ペリッパー
 「いえいえ、持ちつ持たれつですから」

傍目から見て両者の関係は良好のようだ。
彼らはウォーターアイランド周辺では手に入らない貴重品を数多く揃えている。
その大半が海底の遺産らしいが、その中でもぶっ飛んで高価とされるのが。


 「砂?」

マナフィ
 「はは、この世の中で最も高価な物やで」

ペリッパーは後生大事に小さな透明な瓶に砂を詰めていた。
その一瓶で一ヶ月分の食料と同等らしい。
かつて貴重資源とされた金やレアメタルは今じゃ文字通りケツ拭く紙にもならない状態、食料と水とガソリンがやはり世界の中心なのか。

マナフィ
 「濾過材と食料……ああ、後建築材も頂ける?」

ペリッパー
 「勿論ご用意致しますとも」

ペリッパーは満面の笑みを浮かべると、必要な物をコンテナから取り出し始めた。
最初に取り出したのはフィルターだった。
さっき言っていた濾過材のようだが。


 「マナフィ、これって?」

マナフィ
 「水の濾過材や、茂兄ちゃん海水で生活できんやろ?」


 「……そういうことか」

雨水を溜め込むタンクは町の至る所にある。
そこから不純物を取るのにも使うのだろう。

ジュゴン
 「私達海のポケモンは真水がなくても生きていけますが、身体を洗ったりするのにも使いますからね」


 「そっか、真水が無いと臭くなるもんなぁ」

ジュゴン
 「臭い!? そんな……私ぃ」

ジュゴンさんは自分が臭いと思われたらしく、あからさまに凹んだ。
俺は慌ててフォローする。


 「いや別にジュゴンさんが臭いとか思ってないから! 臭いだけならマナフィの方が臭いから!」

マナフィ
 「失礼やな〜、これは海の匂いやで〜! ウチら海のポケモンやったら普通や!」

とはいうが、元の世界に住んでいた時はマナフィは変な臭いはしていなかった。
少なくともジラーチたちと一緒に普通に毛布に包まって寝ていたし、今のようにガイアの海とかいう妙な海水に浸かる事は無かった。

ペリッパー
 「建築資材はいくらほど?」

マナフィ
 「ああ、ちょっと余分な位欲しいんやけど」

マナフィはそう言うと魚栄軍に襲撃されて破壊された町を指差す。

ペリッパー
 「ふむ、査定を致しましょうか」

マナフィ
 「うん、頼める?」

マナフィはそう言うとペリッパーと一緒に被害エリアに向かった。
俺達は商品の物色を続けると。


 「缶詰だ……」

凄く久し振りに見た気がする現代の香り。
魚の絵が描かれている意外は相変わらず読めない文字が書かれていた。

スワンナ
 「それも遺産だよ、かつて都市があった海底からサルベージされるんだ」


 「こういうのってやっぱり高いわけ?」

ジュゴン
 「野菜系に比べるとマシですけど、魚なら海に一杯いますからね」

その通り、ここに来て出される食べ物と言えば魚介しかなかった……。

スワンナ
 「コンビーフとかになると、もっと高いけどね」


 「ぐはぁ……もうビーフとか数ヶ月食ってねぇ……」

つか、次元旅行が始まってもう何カ月経ってる?
俺は茜の顔も見れず何カ月過ごしている?
このまま後何日俺は世界を放浪する?

ジュゴン
 「茂様? お顔が……」


 「ああ、うん……。頭切り替えないと駄目だよな」

考えるとそれだけ欝になる。
歳を取るとそれだけ責任が増えた。
学生の頃はこんなに苦労なんてなかった。
俺は一旦それら責任は頭の隅に追いやる。
そうしなければ、今を乗り切れはしないから。


 「支払いって現物なの?」

スワンナ
 「まさか、それじゃ嵩張って仕方ないでしょう」

そう言ってスワンナが取り出したのは、コインだった。

スワンナ
 「文明は崩壊したけど、便利な物は残り続けるさ」

ジュゴン
 「まぁコインは再生産が難しいですし、貨幣価値は護れていますからね」


 「一方現代は電子マネーへの道を進んでいるが、アレこそ文明崩壊したら一番の役立たずよな」

電子のお金って、水とガソリンの世界じゃケツ拭く紙の代用にすらなれないからな。
結局最後に笑うのは金資産って言われてるんだから、現物は不滅であろう。

マナフィ
 「茂兄ちゃん、欲しいもんでもあったー? 奢ったるでぇ!」

査定が終わったのか、マナフィは上機嫌で戻ってきた。
ペリッパーは早速何人かに指示して、材木を運び出している。
材木と言っても廃材のようだが、これも海底の遺産か?


 「いらん。お前に奢られると後が恐い」

マナフィ
 「なんや〜警戒しとんのか? 別に精子とか求めてへんやん〜?」


 「お前の欲望相変わらず真っ直ぐだな!?」

マナフィ
 「アッハッハ! さぁ会計会計♪」



***



ペリッパーの商隊がウォーターアイランドを飛び立つと、フィオネ達は一斉に作業を開始した。
もうすぐ夕暮れを迎える時間であり、作業は急がれている。


 「なにか手伝える事あるか?」

マナフィ
 「茂兄ちゃん? 別にあらへんで、ジュゴンと一緒に洞窟にお帰り」

マナフィは現場監督をしていたが、勝手の分からない俺一人が加わるのは良しとしていないようだ。
あくまでも客人扱い。
俺自身一体何をすればいいのか、この世界に来たのも何か意味があるはずだ。


マナフィ
 「茂兄ちゃん、何でもかんでも茂兄ちゃんが背負わんでもええんやで?」


 「背負うか……俺は背負ってるのか?」

マナフィ
 「茂兄ちゃんは一見、なんも興味ないみたいに影も薄いけど、本質をいつも見とる……それって楽な生き方やないやろ?」


 「……」

俺は何も答えなかった。
自分自身その本質を本当に理解できているだろうか。
確かに俺自身誰かと関わるのがずっと面倒だった。
茜と出会わなければ、もっと陰鬱であっただろう。

マナフィ
 「ま! アレや! たまになんもせぇへんのが正解って時もあるやろ! ほら!」

マナフィは俺の背中を叩くと、フィオネ達に号令を出す。

マナフィ
 「お前ら! 暮れるまでに終わらせるでぇー!」

俺はマナフィを背に大人しく洞窟に戻る。
洞窟ではジュゴンさんが夕食の用意をしているだろう。



***



平和な日々、それは仮初めの物なのか?
魚栄軍きっての猛将ジョーが諦めたのか?
否、平和の裏では水面下で次の騒乱の準備が進んでいたのだ。

ペリッパー率いる商隊は夜通し、飛んで荷物を次の海上都市に届ける。
交易を繰り返しながら、飛び交う海鳥たちとて絶対に安全とは言えない。

不気味な夜だった。
月が雲に隠れたその時!

バシュウ!!

ペリッパー
 「な!?」

突然水柱が海上で上がった。
突然の敵襲に騒然とする商隊を嘲笑うように、強烈な水弾が商隊の翼を貫く。
墜落した商隊を襲うのはキバニア達だ。

キャモメ
 「た、助け!?」

ペリッパー
 「ぎょ、魚栄軍か!?」

魚栄軍の中でも一番のキワモノシャーク組の魚人たちは、あっという間にキャモメを食らいつくした。
奴ら文明の香りの全くしない野蛮人達にとってポケモンは食料なのだ。

スワンナ
 「あ、あり得ない! シャーク組が空中の我々を狙うだなんて!?」

ペリッパー
 「そんな事を言っている場合ではない! スワンナ! 来た道を戻ってマナフィ様に救援を!」

今も逃げ惑う商隊を嘲笑うように、次々と放たれる水の弾丸。
シャーク組の支援をするのはウデッポウの一団だ。
スワンナは苦渋を噛み締めた。
急がねば隊は全滅する。
魚栄軍にとって、商隊の品は殆どがゴミ同然であろう。
だが陸地なき海の世界であっても、海上に生きる物にとっては、それは貴重な品だ。
絶対に守らなければならないと、使命感がスワンナを突き動かした。

一方で獲物には目もくれず海底で鎮座するの一際大きな巨体。
サメの頭が生え、全身を鮫肌で覆うシャーク組の組長牙のジョーだ。

ジョー
 (マナフィよ、早く来い! この俺こそが最強なのだ!)



***



日が暮れて、警戒に当たるフィオネ以外は宿舎に戻る中、マナフィは異変に気が付いた。

マナフィ
 「ペリッパーたち?」

ウォータアイランドに向かって飛んでくる白い物、それはスワンナだった。
マナフィは素早く海に飛び込むと、スワンナの元に向かう。

マナフィ
 「スワンナ! 一人でどうしたんや!?」

スワンナ
 「マナフィ様! ぎょ、魚栄軍が!」

マナフィ
 「ッ!!」

バシャァン!!

マナフィは即座に潜水すると、月が照らす海の潜航する。

マナフィ
 (ホンマいらんことしかせんなぁ!? 魚栄軍!)

マナフィは海の中を全力で泳ぎ抜く。
一方で海底でそれを見た者は満悦顔であった。

イアーブ
 (そう、それでいいのです)

オクタンのイアーブはその計画が順調に進んでいる事を満足げに眺め、そして次にステージを上げる準備を行う。



***



ジョー
 「……来たか!」

ウォーターアイランドから離れた場所、スワンナでも1時間以上飛ばなければならない距離。
だが、問題ない。
海の皇子ならば、その距離も時間も関係ない。

マナフィ
 「ジョー!!!」

ウチはジョーを捉える。
ジョーも吼えた。

ジョー
 「勝負じゃあ! マナフィ!!」

水中における奴の動きは速い。
右手には大きな何かの骨を持ち、それが水の中を叩くと、衝撃波が散る!

マナフィ
 「このアホンダラ!!」

ウチは拳を握ると、ジョーのサメ頭を殴りに行く!
しかしジョーは頭の悪い脳筋ではなかった!

ジョー
 「ふん!」

ジョーは素早く、拳を躱すと骨を振り回す!
ウチは骨をガードして距離を離した。

ジョー
 「ぐわっはっはっは! その程度かマナフィ!」

マナフィ
 「ホンマに鬱陶しいやっちゃなぁ!」

ジョーは強い。
恐らく海中ならば敵う者は誰もいないだろう。
文字通り海の暴君そのもの。
せやけど、ウチ以下や。

ジョー
 「ぬ? 何を笑っておる?」

マナフィ
 「いんや、哀れやな……そう思ってな」

ジョー
 「哀れだと!? この俺がかぁ!?」

ジョーはその大顎を開くと噛みに来る。
いや、大きさからすれば丸呑みや。
フィオネやったら無残に食い散らかされるだけやったろう。
せやけど、ウチはマナフィや。

マナフィ
 「格の違いを教えたるわ!」

ウチは周りの海水を操作すると、ジョーは突然発生した渦潮に飲み込まれた。

ジョー
 「うおおお!?」

マナフィ
 「力押ししかしらへんなホンマに、ウチは海を統べる者、海に生きとし生けるものは全てウチの掌の上や」

ジョー
 「ぬ、抜け出せん!?」

マナフィ
 「抜け出せるかい、落とし前はキッチリ付けるさかいな!」

ウチは掌に水の塊を集める。
ジョーにトドメを刺すために。
しかし、ウチは周囲にその気配を感じていた。

ウデッポウ
 「!」

キバニア
 「しゃぁぁ!」

ウチを取り囲む魚栄軍の兵隊たちは殺気立っていた。
だが、その殺気もウチには涼風でしかなかった。

マナフィ
 「ええで、全員かかってきぃ、それで勝てるならな!」

キバニア
 「うおおお!」

海の中で咆哮が響いた。
無数に放たれるウデッポウの水の波動の弾幕、そして群れをなすキバニア達の突撃。
どれもこれも海の恵みや。
ウチは微笑を浮かべる。

マナフィ
 「ホンマなんも分かってへんな、ウチが海のなんなのか!」



***



大ピンチだった。


 「くそ!? 夜襲かよ!?」

それはスワンナがウォーターアイランドに辿り着いて直ぐだった。
ウオーターアイランドは今危機に瀕している。
無数の小さな少女達が空中に巨大な魚影を生み出す。

ヨワシ
 「弱し弱し弱し弱し弱し弱し弱し弱し弱し! アッハッハ! アンタ達馬鹿ぁ!? 私に敵うわけないじゃん!?」

巨大なヨワシは周囲にハイドロポンプを放つと、町並みはいとも簡単に破壊されてしまう。
フィオネ達は果敢に応戦するが、圧倒的なヨワシの前には敵わない。

ヨワシ
 「さぁ平伏せ! この世界で最強なのは私なのよ!」



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#3 騒乱

#4に続く。


KaZuKiNa ( 2020/05/17(日) 18:27 )